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    はじまりの夏窓から見える景色は白樺が列を帯びていて、ここは日本なのか疑問に思う。
    千歳空港に降り立った春子は想像以上の広さに目を丸くしていた。

    「北海道はでっかいどう…ですね」
    スーツケースを引きながら東海林はポケットに入ったチケットを春子に渡す。
    「なんだそのダジャレは。まぁ北海道は道も広いし、家に煙突が付いているからな」
    2人は特急列車で札幌に向かった。


    7月の4連休に札幌へ行こうと東海林が春子を誘った。
    春子はしぶしぶ了解したが、パンフレットに載っていた海鮮丼やカニを
    見せるとまんざらでもないような顔をしていた。

    あっという間に札幌駅に着き、駅前のホテルで荷物を預けて
    「まずは大通公園にいこうぜ、それからテレビ塔に登って…」
    そう話し始めると春子が割って入ってきた。
    「時計台にはいかないのですか?」
    「え?時計台に行きたいのか?お前もおのぼりさんだなぁ…まぁ近いしいいぞ」
    東海林はタクシーを止めて時計台へと向かった。

    時計台へ着くと、春子はおもむろにデジカメを取り出しバシャバシャと写真を撮る。
    「なんだ…そんなに時計台が撮りたかったのか?」
    「ずっと来てみたかったですが何か?」
    何枚もアングルを変えて撮り続ける春子に
    「よかったら俺も撮ってくれよ、っていうかツーショットでも…」
    「邪魔です!どいてください!!」
    春子は東海林を押しのけ今度は足元から煽りで撮っていく。
    「なんだよ、建物ばっかりじゃなくて人も撮れよ!」
    「いつも目にしているくるくるパーマを今更撮ってどうなるんですか?」
    「何だと―!」

    いつものやり取りを続けながら、その後テレビ塔に登る。
    春子はここでも写真を撮りまくっていた。
    「おい、見てみろよ。あれがジャンプ台だぞ」
    東海林が窓から指さすと、春子はズームでジャンプ台を撮っていた。
    「あれがオリンピックの…」
    そう呟きながら、初めての景色に感銘を受けている。

    「お前、全国津々浦々回ってそうだけど北海道来た事ないのか?」
    「初めてですが、何か?」
    意外な返事に驚く東海林。こいつなら行ったことのない場所なんてないと思っていた。
    「じゃあ浮かれるのもわからんでもないな…」
    もう4度目のテレビ塔で、ジャンプ台の場所も把握している東海林だったが
    春子がいることで、いつもと違う新鮮な気持ちに浸ることができると思った。


    「それにしても北海道は涼しいですね…空気がカラっとしています」
    「まぁな、東京に比べたら全然。でもここ数年は札幌も猛暑日があるらしいぞ。」
    大通公園を歩きながら二人は散歩していた。
    横断歩道に差し掛かり、足を止めていたら目の前に驚く光景が目に入った。
    なんと、馬車が車道を走っていたのだ。

    「ええっ、馬車が?!」
    いつも無表情なとっくりも驚愕している、東海林も聞いたことはあったが
    目にしたのは初めてでちょっとテンションが上がる。


    「馬車!!!乗せてください!!」
    春子は手をブンブンさせながら御者に訴える。
    「すみません、予約制になるんですよ」
    そういわれ春子は肩を落としたが、信号待ちの間にまた数枚写真を
    撮っていた。


    「お前…どれだけ写真撮ってるんだよ、Web素材にして売り出すのか?」
    東海林は少し呆れ気味に質問した。
    すると一瞬、寂しそうな顔をして東海林を見つめた。
    思わずドキッとして胸に手を当てる東海林。

    「私は、家族旅行などしたことがなかったんです
    こうやって思い出を残すことすらできなかった…」

    その言葉で、ふと思い出す。
    春子の両親はもうすでに亡くなっていることを、一度聞かされた。
    それ以上の事は語らないしあえて聞くこともしなかった。

    家族で旅行に行くなんて東海林にとっては当たり前のことで
    ディズニーや遊園地、温泉に富士山や沖縄…東海林の両親は年に一度は
    どこかへ連れて行ってくれていた。
    でも、春子にはそんな思い出が一度もないのだとすれば、もしかしたら複雑な環境だったのかもしれない。


    「だからそんなに…単純だなぁ」
    東海林は春子のデジカメを取り上げた。
    「せっかくだから大通公園の花壇をバックに一枚撮ってもらおうぜ」
    東海林は近くを歩いていた男性にカメラマンを依頼して
    もじもじしている春子の手をひいた。
    「ほら、笑って。スマイルスマイル」
    「余計笑えません」
    ピースする東海林を横目で見つめる春子の口角は、ほんの少し上を向いていた。


    お礼を言ってカメラを受け取り写真をチェックする。
    「お前意外と笑ってるじゃん」
    「苦笑いです、横のマリーゴールドが揺れていたので」
    「お前はあいみょんか!」
    そう言い合いながらも、東海林はさっき春子が「家族旅行」だと言ったことを
    聞き逃さなかった。

    (家族と思われてるのか…俺)
    東海林もまた、春子と初めての夏を迎えて
    こうして旅行にこれたことがうれしくて仕方なかった。

    とっくりセーターじゃない、ノースリーブから見える白く細い腕。
    ブーツじゃない、ネイビーのサンダル。
    冬と春だけじゃなく、夏も、そして秋もずっと一緒にいられたら
    こんなに幸せなことはないだろう。

    「とっくり、お前白い恋人好きだろ?白い恋人パークにでも行くか?」
    「それは明日行きます!もちろんスイーツワークショップも体験しますよ」
    トートバッグからパンフレットを取り出し東海林の顔に押し付ける。
    「近すぎるわ!!まぁ…それなら明日にしよう」
    「とりあえず今から予約している海鮮丼の店に行きます!!」
    「根回しがすごいな!」

    こいつといたら、毎日退屈しないだろうな。
    そんな風に思いながら歩いていると、遠くから時計台の音が
    風に吹かれてやってきた。
    しゅ Link Message Mute
    2021/01/04 10:59:54

    はじまりの夏

    北海道へいけ。


    #ハケンの品格 #二次創作 #東春

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