ミエスギチャッタラコマルノ誰もいない倉庫で東海林は探し物をしていた。
5年前の資料を提出しろと名古屋営業所から連絡があったが、誰も知らないという。事務所の人間の入れ替わりが激しく、管理もずさんになっていたようだった。
「ここの会社どうなってんだよ、年度ごとにちゃんとまとめておけよな…」
ぶつぶつ独り言を言いながら、ダンボールに無造作に詰められたバインダーを一つずつ開き、年月日を確認する。
「はぁ…いつになったら帰られるんだか」
腕時計に目をやるともう9時だ。
ため息をつき頭の髪をわしゃわしゃしていると
背後から気配がして、首を時計回りにまわす。
すると、そこには数時間前に退社したはずの春子がいた。
「とっくり?お前どうしたんだよ」
「ずいぶん遅いので様子を見に来たら、事務所にもいないのでここかと思いやってきました」
「ああ、連絡しないで悪かったな。探し物があるんだけどなかなか見つからないんだよ」
「どんなものですか?」
「5年前の就業規則や36協定の資料なんだけどさ…」
すると春子は東海林が持っていたバインダーを奪いパラパラと紙をめくる。
「ちょっとどいてください」
春子はダンボールの中に入っていたものを全部ひっくり返して、無造作に天地だけを見る。
そしてその中から1つを選び中をパラパラとめくると、それを東海林に差し出した。
「これです」
「ええ??嘘だろ??」
東海林は半信半疑で中を見ると、5年前の日付が書かれた就業規則や36協定など労働関係の資料が挟まれている。
「どうしてわかったんだ?超能力か!?」
「紙の劣化具合でどのくらいの年数かはわかります、ついでにそのくるくるパーマも去年より劣化してますね」
「うるせー!!まだまだ元気だよ俺の髪は」
「とにかく、ここは今度私が整理しておきます」
春子はバインダーを丁寧にダンボールへ戻し蓋を閉じた。
そして早く帰ろうと東海林に促そうとしたその一瞬に、東海林に体を抱きしめられて身動きがとれなくなってしまう。
「やっぱりすげーな、お前って」
男の力できつく春子の体を締め付ける。
春子はただの人形のように動かない、東海林は舐めるようなキスをして、春子の体を床に押し倒す。
はっと我に返り春子は起き上がろうと膝に力を入れて上半身をあげようとしが、東海林に両手首を押さえられて再び仰向けに倒れた。
「いきなり襲い掛からないで下さい」
「ごめん、無理だわ」
東海林は春子の耳たぶを噛んで首筋をすっと撫でるように舌で舐めた。
春子はまるで電流を帯びたように体を痙攣させた。
「ちょっと…やめて、くださ…いっ」
気づけばとっくりセーターに手を滑らせて
ふたつの膨らみに手を伸ばしている。
息遣いがどんどん早くなるのが耳元から聞こえてきた。
「駄目です……本当にっ…!!」
春子はこれ以上行くと本当にまずいと思いーー。
思い切り東海林の急所を蹴り上げた。
真上にいた東海林は声にならない悲鳴をあげて、どんどん力つき横に倒れ込む。
東海林の拘束から解放された春子は立ち上がり、服についたほこりを祓う。
生まれたての牛のようにプルプル震えている東海林を睨みつけて、春子は一喝した。
「こんなところで襲い掛かかってくるのはやめてください!!」
「だからって…お前…」
「大前春子です!!」
いつものように言い切ると春子は東海林を残して倉庫を出た。
「ばっちい、シャワー浴びてこよ」
そう呟いた声が東海林の耳に届いたが、大事なところの痛みで言い返すことができずしばらく悶絶していた。
春子は家に着くと脱衣所へ向かい、スカートの下に履いていたものを脱ぎ、洗濯カゴの奥に隠した。
「危なかった…私としたことが」
それは真っ赤な猫の刺繍が入った毛糸のパンツだった。