見えない星を見に行こう「ねぇ、成人式の着物はママが着付けしてよ」
娘はこたつの上に置いたみかんを食べながら
私に言う。
「そのくらい自分でやりなさい」
「できるわけないでしょ、ママは理容師に着付けの資格もあるんだからそれくらいいいじゃない」
私はこたつから足を出して台所へ向かう。
「私の資格は仕事のためなの、あなたのわがままに付き合うためじゃないんだから」
「ケチ!いいもん、パパに頼んで美容院予約してもらうから」
娘はふてくされてテレビをつける。
ちょうどドラマを放送していて、主人公とヒーローらしき相手のラブシーンが映っていた。
夜空の下で何か言い合って泣いている。なんて陳腐なドラマだろうと見ていたら、突然ヒーローから主人公にキスをした。
その一場面で思わず洗い物をしようとした手が止まった。
あの時、あの人も私にキスをしてきたことを思い出す。
まさかあんなに敵対心を持っていた相手にあんなことをされると思わなかったから驚きを隠せずにすぐに逃げた。
でもバスの中であの人の唇の温もりが消えなくて、ずっとあの人のことを考えていた。
私はきっと、あの時からあの人のことが好きだったんだー。
「ママ、どしたの?ボーッとして」
「…何でもない」
私は再び水を出して洗い物を片付ける。
手を拭いていたら、ドアの開く音がした。
「あ、パパだ!パパーっおかえり!
あのね、ママが着付けは自分でしなさいっていうの」
あの人はリビングに入るや否やこう言った。
「おいおい、娘の着付けくらい手伝ってやれよ、とっくり!!」