あの鐘を鳴らすのは除夜の鐘がテレビから流れてその数秒後には窓の向こうからも微かに聞こえてきた。
東海林と春子はこたつでくつろぎながらゆく年くる年を見ている。
「一年あっという間だなぁー」
東海林が何気なく呟きながらみかんを手にする。
2人は早々に年越し蕎麦を食べて風呂に浸かりゆっくり紅白を見ながら新年を待ち受けていた。
そんな当たり前のような時間を共有できるようになったのは13年ぶりで、一緒に年越しをするのは初めてのことだった。
するとずっとテレビを見続けていた春子から
「あけましておめでとうございます」
と、突然新年の挨拶が飛んできた。
東海林は思わず間の抜けた顔をしてしまったが、春子からの新年の挨拶に思わず感極まってしまい涙が出てしまった。それを見て驚いた春子は
「何を泣いているんですか!?」
そう言って東海林を宥めた。
「いや、お前と新年迎えられるのが嬉しくて…」
東海林はつかんでいたみかんを一度テーブルに置いて涙を拭いた。
すると、春子がこたつから身を乗り出して、東海林に近づいていく。
「もう、面倒くさい人」
少し呆れるように言いながらも、春子は東海林にキスをした。唇にはまださっき食べたみかんの酸味が残っていて甘くてほのかに酸っぱい。
気がつくと舌を絡めてお互い体を寄せ合っていた。
こたつに浸していた足元の熱が上昇するように、顔が赤くなり頬が火照ってきた。
然して、東海林が先に唇を離した。そしてもう一度優しく、けれど強く抱きしめて春子の耳に囁いた。
「あけましておめでとう」
2人はそのまま寝室へと向かい、服を脱いで体を重ねた。窓の外からはまだ除夜の鐘が聞こえて来る。
108の煩悩はどれだけ鐘を鳴らしても、2人の中から消えることはない。