茜色昼下がりの公園には子供たちが駆け回り、親子でブランコをしたり滑り台をしたりしていた。
ベンチには蝶々が羽をバタつかせてくるくると回っている。
遠くから金木犀の癖のある匂いが飛んできて、もう秋だと言うとこを実感させる。
「お前ってさ、昼間に公園が似合わねーよな」
「あなたこそ、そこのコニファーと見間違えました」
「これは植物じゃない、髪の毛だ!!」
昼食後に散歩へ行こうと言い出したのは東海林だった。
春子は家の用事があると断ったが、気候も良くなったし運動がてら出かけようと半ば強引に誘ってみると
嫌がりつつも理由をつけては付き合ってくれる。
2人はベンチに腰掛けて休んでいたが、先に春子が立ち上がり
「いつまで休憩してるんですか、歩きますよ」
そう言って石畳の通路を進み出した。
「わかってるよ、そんなに焦るなって」
東海林も立ち上がりついていく。
少し歩いて池の前を通り過ぎようとした時、東海林は1人で佇んでいる少女に気がついた。
「あれ、あの子泣いてないか?」
春子もただ事ではない様子に気がついて、少女に近づいて目線を合わせるようにしゃがみ話しかけた。
「あなた、どうしたんですか?」
「ママが…いないの」
「迷子になったのかな?一緒にいたのはママだけ?」
春子は迷子になったと思い優しい表情で話しかけると、少女の口からは意外な言葉が告げられた。
「迷子じゃないの、ママがいなくなっちゃったの…パパが、ママはもう帰ってこないって言うの。だから探しに来たの」
少女は迷子ではなかった、母親を失ったことが信じられずに1人で探しに来たのだ。
春子は両親を失って1人孤独に苦しめられていた時のことを思い出してしまい、少女がまるで幼い頃の自分のように見えてしまった。
そして、後ろで2人のやりとりを伺っていた東海林もやるせない表情でその様子を見守っている。
どんな理由で母親を失ったのか、わからなかったがきっとどんな理由でも少女が悲しいことにはかわりない。
春子は少女に優しくこう言った。
「お母さんがいなくなって寂しいんだね、でも1人で公園まで来たら家族が心配するから、お家に帰ろう」
「いやだ、ママに…ママに会いたいよー」
それでも感情を整理できずに泣き続ける少女を2人は家族が探しにくるまで見守っていた。
日が暮れ始めた通りに街路樹の影が長く伸びる、東海林と春子は公園からの帰り道、言葉数少なめで歩いている。
「あの子、お父さんが来てよかったな」
「そうですね、お父さんがいるなら…」
「…うちはさ、両親もきょうだいもいてそれが当たり前だったんだよな。だから親がいないってことがよく分からなくてなさ」
「私になら分かる、と言いたいんですか?」
「そうじゃないけど…辛くないか?」
春子が少女の悲しみを自分のことの様に受け止めて、苦しんでいるのではないかと、東海林はそれが気がかりだった。
そんな東海林の気持ちを察しているのか、春子は東海林の腕を掴んで微笑みながら言った。
「今は辛くないです、家族がいるから」
その言葉に、東海林は胸が焼ける様な想いで無意識に涙が溢れた。
血は繋がっていないけど、戸籍上だけかもしれないけど、自分と春子は家族なんだ。
東海林は春子の手を握り、指を絡める。
「今日の夕飯何にしようか?」
気がつくと遠くから5時のチャイムが鳴り響いていた。