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GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

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    HAPPY END1 魚2 赤い鉛3 あの日あなたが決めたこと4 ひとりよがりな命5 光エピローグ
     1 魚


     窓の外で花がはらはらと風に流れていた。それをしばらくぼんやりと眺めて、手が止まっていたことに気付く。満開になったばかりのハルルの花は、その鮮やかさがこの机からもよく見える。
     物語を綴ることは、紙の上につぎつぎとこぼれる想像の欠片を一つ一つ並べていくようなものだ、と実際に形にするようになってから思った。本を読んで続きを考えてみたり、花びらを見て想像をふくらませてみたりするのと違って、実際に筆を握って形にしようとしてみると、いったい何から書いたらよいものかと悩んでしまう。
    「いけない」
     書きかけの物語が記された紙が、ふうわりと机から浮き上がるのを、とっさに押さえる。すこしだけ開いていた窓から風が吹き込んできたようだった。かすかにしめった匂いがする。一雨くるかもしれない。机の上の道具を片付け、出かける用意をすることにした。集中が途切れていたし、ちょうど良かったかもしれない。部屋を出て、すぐ隣の部屋のドアをノックした。
    「リタ、今日はもしかしたら夕方雨になるかもしれませんから、今のうちに一緒に買い物に出かけませんか?」
     返事がない。もう一度ノックをする。集中しているのか、寝ているのか、もし倒れでもしていたら大変だ。焦ってドアノブを握った。途端、本が崩れる音や紙がバサバサと落ちる音、何か硬いものがドスンと床に叩きつけられた音がした。驚いて固まっていると、音が鳴りやんだ部屋から、のっそりとリタが出てきた。少し目が赤い。
    「もうリタ、根つめすぎはいけませんって言ってるじゃないですか。出かける前にちゃんと顔を洗って、髪をとかしましょう」
     ぼうっとしたままのリタを居間のソファに連れていき、鏡台の引き出しから櫛くしをとりだす。
    「うーん……もう昼過ぎ? ごめんエステル、ずっとこもりきりで」
     隣に座り髪をとかしていると、こちらに背を向けたリタが気の抜けた声で言う。
    「いいんです。でも無理はよくないことですから、時々は休憩をいれないと」
     リタの髪はところどころ毛先が焦げていて、また無茶な実験を試したのだろうかと思ったが、口には出さないでおく。絡まった毛を傷めないよう、指とくしで丁寧にほどいていく。
     リタがいったん集中してしまうと周りが見えないのは以前からだったが、近ごろ、そんな様子を見ると妙に不安に駆られてしまう自分がいた。リタが研究用の自室のドアを閉めて、姿が見えなくなってしまえば、もうそこから帰ってこないかもしれない。わたしは、どこかでそんなことをずっと怖がっていた。
    「さあ、髪もきれいにできました。出かけましょう」
     髪を整えたリタは、落ち着かないというようにそわそわと首を振って、先の焦げた髪を一房指に巻きつけた。



     昼下がりのハルルの街は、買い出しに来た人や道端で話し込む人で賑わっていた。そして以前からの住人に加え、ローブを着た研究員があちこちを行き交っている。二年前、崩壊したアスピオから避難してきた人々がこの町にはたくさん滞在していたため、そのままここが正式に研究員の仮本拠地になったのだった。リタもハルルを仮の本拠地としている研究員の一人だ。
    「この時間、さわがしいわね」
     リタは眉をひそめて通りを見渡している。
    「ちょうど人の多い時間に来てしまいましたね」
     魔導器を失い、生活が激変した直後、各地の混乱ぶりはすさまじいものだった。小さな暴動が起きたこともあった。それからさまざまな変化を経て、人々は新たな生活の形を探そうとしている。副帝として人々の声を聞く立場から、そしてわたし個人としても、こうして皆がいきいきと生活を送っているさまを見るのは嬉しいことだった。
    「エステル、なんか嬉しそうね」
    「ふふ、活気のある様子を見るのはやっぱり嬉しくて」
    「まあ、まだまだ課題は山積みだけど、みんな辛気くさい顔してるよりはいいわよね」
     リタと一緒に暮らし始めてからは、週に何度か『レグルス』まで一緒に買い物に来るのが習慣だった。今日の献立の食材、足りない日用品、それらをあれこれ話し合いながら買うという作業が、一緒に生活をしていると感じられて好きだった。
    「リタ、今日何か食べたいものはありますか?」
    「食べたいもの……そうね……」
     きょろきょろと生鮮食品の並ぶエリアに目を向ける。今日は週に一度の青空市場の日だった。道端のシートの上に並んだたくさんの食材を眺めながらわたしたちは行ったり来たりとする。
    「べつになんでもいいわ」
     リタが立ち止まって、あきらめたように答える。もともと食事に対しては特に執着のないリタだが、なんでもいいと言うのはたいてい疲れているときだ。
    「じゃあ、リタの好きな物にしましょう。からあげとかコロッケもいいですね、デザートもつけて」
     指を立てながら献立の名前を挙げる。それならチキンかポーク、それから果物を。と売り場を見回していたら、突然シートの向こうから話しかけられた。
    「お嬢さん方、活きのいいサバが入ってるよ! 今晩のおかずにぜひ、買ってってちょうだいな!」
     押しの強い女性の売り込みに、あいまいに笑いながら隣を見る。リタは呆けたような顔で、しかしその指し示す先を見つめていた。青くつやつやとした細長い魚が白箱の中に折り重なるように積まれている。その一点から目を離さず、人波の中で縫いとめられたかのように動かないリタは、こことは違うどこかに隔絶されている。とっさにそう感じた。
    「リタ」
     肩に手を置いて、小さく、はっきりと呼びかけた。すると、びくりと肩が跳ね、こちらをおずおずと見た。
    「あ……」
    「新鮮なサバ、おいしそうですね、買って帰りましょう」
     毎度、と言って店員の人がサバを一匹包んでくれる。リタはわたしの横で、叱られた子どものような顔をして、自分の腕をぎゅっとつかんでいた。

     会計を終えると、ぷらりと垂れ下がったままのリタの手をとり、早足で帰り道を急いだ。雲は厚く垂れ込み、今にも落ちてきそうだ。同じように家路を急ぐ人がいたが、だんだんと違う道へ逸れていき、坂をのぼる頃にはわたしたち二人だけになった。後ろを振り向かなかったので、リタがどんな顔をしているのかは分からなかった。わたしが手を引いている間、リタは一言も発さなかった。
     門の前に着いたところで、わたしはようやくリタの手を離した。リタはまだ、どこかばつの悪そうな顔をしていた。そのとき、ちょうどつむじにぽつりと、冷たい感触が落ちた。曇り空にくすんだハルルの樹が、すぐ上からわたしたちを覆うように見下ろしていた。みるみるうちにポツポツと雨が降り出す。
    「早めに帰ってこられて、よかったですね」
     庇から空を見上げながら言うと、
    「……うん」
     リタは小さな声で返し、手のひらで雨を受け止めるように、腕を伸ばした。



     食卓の上には、煮汁の色に染まってつやつやとしたサバ味噌が並んでいた。ほとんどリタが作ってくれた。わたしは野菜を少し切ったくらいだ。魚料理はあまり得意ではなかった。旅の間も作る機会はあったが、なかなか上達はせず、ジュディスやパティの腕には遠く及ばなかった。リタはというと、ずっと生魚に触ることもしなかった。他の誰かが作ったものを時々口にはしていたが、自分で調理するのはとても嫌そうにしていた。食べるためにどうしてこんな非効率なことしなくちゃいけないのよ、とよくこぼしていたのを思い出す。それはこの家で一緒に暮らし始めてからも変わらなかった。魚料理が食卓に並んだときは、きまって渋い顔をしていた。
    ――この美味しさが分からんとはねえ。
    ――わからなくていいわよ、そんなの。
     かつて、そんな風だったリタの包丁さばきは、少しぎこちなかったが見事なものだった。まな板に横たわっていたサバが、みるみるうちに切り身に変わっていくのを、魔術でも見るようにぼうっと見つめてしまっていた。
    「リタ、すごいです……」
    「……ちょっと練習してたのよ」
    「一人で、魚料理作って食べてたんです?」
    「そうよ、まあ、ときどきね」
     わたしが副帝の公務で帝都に行っている間は、リタが一人でこの家にいる。その間に練習していたのだろうと思った。二人とも家に揃っているときは、わたしが食事を作ることが多かったので、リタの料理の腕の上達を知ることはなかった。まさか、よりによって魚料理の練習をしていたなんて思いもよらなかった。
    「リタは何か身につくのが早いんですね」
    「そ、そう? べつにそんなことないと思うけど」
     わたしの言葉に、少し恥ずかしそうに目を逸らした。

     箸先で身をくずし、口に運ぶと、じわりと出汁の香りが広がる。少し味が濃いめだが、どこか懐かしい味をゆっくりと噛みしめる。
    「美味しいです! よく味がしみて」
     わたしがぱっと顔を上げて言うと、リタは俯いてじっと皿の上を見つめていた。箸先が宙に浮いている。
    「……まだまだ、ね」
     リタの呟いた声が空に漂い、部屋の空気に溶け消える。きっと、思い出しているものは同じだと思った。雨粒が窓を激しく叩く。その音に圧迫されるように、何も言い出せないまま、黙々とサバを口に運んだ。この料理を最後に食べたのは、確かどれくらい前のことだっただろう。四人掛けのテーブルのもう半分のスペースには花瓶が置かれ、しおれかけた赤い花が生けられていた。



    「初めに出汁と一緒に煮とくと、味がしみて美味しくなるんよ」
     いつの光景だろう。レイヴンは、キッチンに立ちながらこちらを振り返った。そう言われて覗きこんだフライパンからは、食欲をそそる匂いが立ちのぼっている。
    「なるほど……和食は出汁の使い方が大事だと、ジュディスも言ってました」
    「さっすがジュディスちゃん! わかってるわー……ところで、リタっちはどこ行っちゃったの?」
    「あ、できたら呼んでって部屋に引っ込んじゃいました」
    「はあ……せっかくリタっちにも魚料理の良さを教えてあげようと思ったのに」
    「ふふ、なかなか根気が必要みたいですね」
     ネギをぱらぱらと加えながら、やれやれとため息をつく。
    「リタっち、生じゃなかったらそんなに魚も嫌いじゃないみたいだし、料理だって計量はきちんとしてるから下手じゃないでしょ」
    「そうですね……ただ、わたしもそうなんですけど、“さじ加減”みたいなものがなかなか難しいみたいです。和食は特にそういうのが大事でしょう?」
    「あーそういうことか……ま、嬢ちゃんがいれば、リタっちもご飯抜いて栄養とれなくなったりすることもないでしょ、安心安心」
     鼻歌をうたいながら、ひょいひょいとサバを皿に盛り付けていく。一緒に煮たネギがそえられて、落ち着いた見た目ながらとても美味しそうだ。
    「リタもレイヴンも、口を開けばいつもお互いのことばかり心配してるんですから」
     ふたりは本当に似たもの同士なのだった。最近ふたりとよく過ごすようになって、以前よりもさらにそう思うようになった。
    「リタっちは魔導器が心配なだけでしょうよ、おっさんはついでよ、ついで」
    「ふふっ……本当にそうなんです?」
    「……ちょっと、何? 人のいないところでひそひそ何話してんのよ」
     ガチャリと自室の扉を開けて、怪訝な顔をしたリタが出てくる。
    「おっ、つられて出てきたみたいね」
    「いえいえ、リタはとっても可愛いというお話をしていたんです」
    「へ、はあっ……⁉」
    「あー、顔真っ赤」
    「う、うっさい! ご飯できたんならさっさと呼びなさいよ……!」
     三人でそれぞれの皿をテーブルに運ぶ。『幸福の市場』に融通してもらった良いライスとレイヴンの作ったサバ味噌が並べられる。わたしの右側にリタ、向かい側にレイヴンが座る。わたしの斜め前には、レイヴンの持ってきた赤い花が花瓶に生けられている。
     手を合わせると、リタもレイヴンも同じようにする。いただきます、と唱える声はいつも揃わない。わたしがそれで笑ってしまうと、二人も微笑んでくれた。そんな日々が、とても、楽しくて、嬉しかった――。



     水の流れる音が聞こえる。雨がまだ降りつづいているのだ。わたしは暗闇の中で目を開けた。見慣れた天井が見える。隣のベッドには、規則正しい寝息を立てながらリタが眠っていた。
     あれはいつの夕食だっただろう。二年前、わたしとリタが一緒に暮らし始めてから、レイヴンは度々この家を訪れた。心臓魔導器の検診でリタに会うためだった。初めのうちは、リタに心臓を診てもらうとすぐに帰ってしまっていたのだが、そのうち食事をともにするようになり、時には泊まっていくようにもなった。
    ――客人用のベッドなんて、さすが嬢ちゃんの家だねえ。
     部屋に備え付けられたものを見て、レイヴンはそう言っていた。ハルルに居を構えると決めたときから、いつか誰かを招いて、もてなせるような家にしたいと思っていた。かつての仲間たちや、誰が来てもくつろいでもらえるような。そのいつかの夢のために用意したものが役に立つことが嬉しかった。
     リタが決めたレイヴンの検診のスケジュールは月に二度だったが、そうした所定の日程が守られないこともしばしばあった。そのたびにリタは憤慨していたが、代わりに、レイヴンは帝都方面に用事があるとき、きまってこの家を訪れるようになった。三週間も来なかったと思えば、三日おきに来ることもあったりと、間隔は不規則だったが、レイヴンが訪ねてきた日は、三人分の食材を買い出しに行き、三人で一緒に食卓を囲むのがすっかり習慣になっていた。

    「……エステル?」
     隣の布団がもぞもぞと動き、名前を呼ばれる。
    「ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」
    「ううん、あたしもなんか目が覚めちゃって」
     しばらく沈黙が走る。いつからか、わたしたちは言葉を交わし合うことが少し減った。それはリタの口数が少なくなったのに、わたしも合わせているからなのかもしれない。リタは、ずっとどこか上の空だった。一緒に過ごす時間はあっても、どうしてもわたしとリタの間には一枚薄い透明な板のようなものがあって、その向こう側に手が届かない。そんなもどかしさがあった。もどかしさを感じながらも、あえて深くは踏み込まずにきた。それが果たしてリタのためなのか、自分のためなのかはわからなかったが。
    「……昔の夢を見ていました」
    「昔?」
    「はい……楽しかったな、って思って」
     雨の音は、沈黙をやわらげてくれる。
    「……あたしも」
    「リタのは、どんな夢でした?」
    「うーん……もう思い出せないわ」
     暗闇の中でリタの表情は見通せなかったが、かすかに微笑んでくれたような気がした。
    「……今日のサバ味噌、美味しかったです」
    「そう、かな……まあ、だんだん結果に表れてるとしたらいいんだけどね」
     今日もリタは盛大に顔をしかめて食べていた。しかし、いつも自分で作った分は残さずきっちりと食べた。
    「……リタ?」
     返事の代わりに、静かな寝息が聞こえる。わたしもふたたび布団にもぐりこんで、目を閉じた。雨音のなかで頼りもなく泳いでいるような、そんな感覚をおぼえる。今日の雨で多少は花が散ってしまうだろう。明日の朝にはやんでいるだろうか。書きかけの話の続きはどうしようか。次々と取り留めもない考えが浮かび、わたしを眠りの世界へと押し流していく。

     レイヴンが最後にこの家を訪れてから、半年が経っていた。



     2 赤い鉛


     城の中はいつも慌ただしい。いろいろなことが変わりつつある中で、城にいる者は誰もが大忙しだ。副帝の仕事のため、帝都に来るたび、こんなに人が多かっただろうかと思う。
     副帝として割り当てられた執務室で、わたしは重要書類の整理をしていた。机の上には各地からの報告書や嘆願書が散らばっている。それぞれに目を通すと、まだ帝国の目が届かない問題が数多くあることが分かる。皇帝であるヨーデルも、世界各地を視察して回っては帝都での政務をこなす日々を送っている。わたしの仕事は、そんなヨーデルを助けることでもある。
     ふと、ハルルからの報告書に目が止まる。長の名前で、収支状況や治安、街の様子などが事細かに記されている。ハルルの街は、未だ混乱にある各地と比べるといくぶん平穏だった。研究者たちの本拠となっていることもあり、最新の技術である精霊術もいち早く適用されている。魔導器に替わる技術として開発されつつある精霊術は、人間と精霊の契約を必要とする。リタを始めとする研究者たちは、精霊と新たなエネルギー、マナについて研究を続け、本格的に精霊術の確立をめざしている。
     わたしがハルルにいないときでも、当然だがリタは研究に打ち込んでいる。また無理をして夜通し起きていないだろうか。食事を忘れたりしていないだろうか。そんなことばかり頭に浮かぶ。リタのことが心配になるのは、親友で、一緒に暮らしているのだから当たり前だ。けれど時折、このざわざわとした、胸がつかえたような気持ちになるのはなぜだろう。目を閉じてみても、浮かぶのはリタの悲しそうな顔ばかりだ。
    「エステリーゼ様、今、よろしいですか?」
     ノックの音とともに、ドアの外から、フレンの声が聞こえた。
    「いいですよ、どうぞ入ってください」
     わたしが返事をすると、フレンは失礼いたします、と静かに告げ、部屋に入ってきた。その表情はかたく、視線は左右に揺れ動き落ち着きがなかった。
    「どうしましたか? 何かわたしに用事です?」
    「はい……ご公務の途中に、申し訳ありません」
    「そんな、いいんですよ、最近フレンも何かと忙しいみたいですし、いつでも来てください。わたしでよければ話し相手になりますから。あ、お茶でも淹れましょうか」
     フレンにはよく公務のことなどについて相談に乗ってもらっている。帝国騎士団長として、彼も城の内と外を問わず慌ただしくしている人間の一人だった。
    「いえ……お気遣いありがとうございます、身に余るお言葉です」
     フレンは、一礼しつつ、考え込み、なにかためらっているようだった。何か大きな事件でも起こったのだろうか、と邪推してしまう。いつもと違うフレンの様子に、一抹の不安がよぎる。
    「……何かあったんです?」
    「申し訳ありません、少々申し上げづらいことだったもので……お部屋を訪ねておいて失礼いたしました。実は……シュヴァ……レイヴンさんのことでご報告がありまして」
    「レイヴンの……⁉ 報告って……」
    「……レイヴンさんの、羽織が見つかったんです」


     レイヴンが突如として姿を消したのは、半年前のことだった。しばらくのうちは、どこか気まぐれにふらついているのだろうと、誰もが思っていたが、数週間、ひと月、ふた月と時が過ぎても、レイヴンの行方はようとして知れなかった。騎士団、ギルドの有志がレイヴンの足取りを追ってみたが、誰一人として、何も掴むことはできなかった。
    「レイヴンの羽織って、いったいどこで?」
     わたしたちはソファに移って話を続けた。
    「ケーブ・モック大森林の深部で見つかったそうです……魔物調査の折に」
    「ということは、レイヴンは最近までそこにいたということです?」
    「おそらく……しかし私の隊で森を捜索しましたが、肝心のご本人は……」
    「そうですか……でも、やっと、レイヴンの行方の手がかりが、これでひとつ見つかったってことですよね、よかったです……」
     わたしはようやくほっと息をついた。羽織だけとはいえ、長い時間の末、ようやく見つかったのだ。リタにも早く教えてあげなくてはいけない。しかし、フレンはまだ何か言いたそうな様子だった。うつむいたまま眉を寄せ、逡巡している。
    「エステリーゼ様、実はそれだけではなく……お気を確かにしてください」
     フレンがこの部屋に来たときから、なにか良くない予感はしていた。けれど、それはわたしの気のせいであると思いたかった。体がざわざわと粟立つ。

    「……レイヴンさんの羽織は、大量の血痕がついた状態で発見されました」

     わたしは目を見開き言葉を失った。血痕、血、赤い痕。鮮烈なイメージが、頭の中をひたすら駆け巡る。
    「そんな……まさか……」
    「……それから、森には激しい戦闘の形跡がありました。その少し離れたところに、傷ついた羽織が……あの付着量では、おそらく……」
     フレンは唇を噛み、膝の上で拳を握りしめた。さあっと血の気がひいていく。頭がじんじんと痛む。目の前が次第にぼやけていき、頬に雫が次々とこぼれ落ちる。
    「申し訳ありません……我々が不甲斐ないばかりに、レイヴンさんを」
     羽織と、真っ赤な血のイメージがこびりついて離れなかった。フレンは拳を膝の上で握り、肩を震わせている。それは、なにを意味しているのだろうか。絶望、悲愴、それから、耐えがたい喪失の証。
    「……うそ……こんな……」
     夢だと思いたかった。こんなに簡単に失われてしまうものだと思わなかった。きっといつかは元に戻ると思っていた。三人で過ごした穏やかな時間も、リタの明るい顔も、雲がやがて晴れるように、いつか、いつかはと思ってきた。
    「……リタは、リタは、ずっと待っていて……あれからいつも悲しそうな顔をしていて、でも、いつかはきっと、すべて帰ってくるって、そう思っていたのに、そう思って、わたしは……いったい、どうして……っ」
    「エステリーゼ様……」
     どうして、どうして、そればかりがすべり落ちてくる。そんな言葉に意味がないのはわかっていても、そう言わざるを得なかった。悲しみはいつか晴れる、泣き顔はいつか笑顔に変わる、わたしが望んでいたことは、物語の中だけのことなのだと、誰かに言われているような気がした。現実は誰のことも考えてはくれない。
    「……レイヴンさんと争った相手は、魔物ではなく、どうやら人間の集団らしいということは分かっています。ですが一切の素性は不明……いったいレイヴンさんに何があったのか……」
     フレンは苦々しい顔で思案するように俯いた。突然このようなことが起きて、フレンもかなり動揺しているのだと分かった。とても取り乱したその様子に、間違っても冗談などではなく、これは本当に現実なのだと思い知った。
     わたしは手をぎゅっとかたく握って、フレンを見据えた。
    「フレン……お願いがあります。リタには……リタには、まだ言わないでいてもらえませんか」
    「リタに……」
    「今、リタにこのことを告げるには……あまりにも辛すぎると思うんです……お願いします、少しだけ、時間をくれませんか」
     わたしは胸の前で両手を握りしめ、フレンに向かって頭を下げた。
    「……エステリーゼ様、顔をお上げください。レイヴンさんのことは、今のところ騎士団の私の隊と、ギルドの幹部クラスの人間にしか伝わっていません。この状況下です、武装集団が暗躍しているなどと、もし民の耳に入れば、いらぬ混乱を招くでしょう。それを防ぐために、捜査が何らかの進展をみるまで、情報規制を敷いていますから……しばらくはリタの耳に入ることもないでしょう」
    「ありがとうございます……フレン」
     もう一度頭を下げると、フレンは悲しそうに微笑んだ。
     わたしがリタを守らなければいけない。そんな使命感にとりつかれていた。これ以上、リタの悲しい顔など見たくない、そんな顔をさせてはならない。わたしは自らの悲しみを振り払うように、その使命感に身をゆだねた。わたしを突き動かすものが、どこからこんなに押し寄せてくるのかもわからずに。



     ハルルに向かう馬車の中で、わたしは何度もフレンとのやり取りを思い出していた。あれから帰る日まで、まるで公務は手に付かなかった。けれど、そんな様子を悟られてはいけないと思い。浮かない心のまま視察の任も果たした。心ここに在らずのまま、街の人々に姿を見せるのは苦しいことだった。声を出すたび、喉に鉛がこみ上げてくるような感じがした。これから、リタの前でも同じように振る舞わねばならないのだ。
     フレンは、レイヴンと争った相手は人間の集団だと言っていた。レイヴンは何者かに命を狙われていたのだろうか。その何者かとの戦闘の末、致命傷を負ってしまったのだろうか。
    「……っ、う……っ」
     嗚咽を漏らすのさえ息苦しくて仕方がない。目を閉じると、赤しか見えない。色が体中を巡り、すべて染められていくような気がした。何度考えても、これが現実だと信じたくなかった。わたしは長い夢をみているのかもしれない。帝都に出発する日を忘れて、今もハルルで眠り続けているのかもしれない。そうして、目覚めたら、リタとレイヴンが心配そうに覗き込んでいて、いつものように言い合っていて。
    ――嬢ちゃんが寝坊するなんて、珍しいねえ。
    ――エステル、疲れてたの? そういうときもあるわよね。
    ――リタっちは寝坊どころか、昼夜逆転してるもんねえ。
    ――なんであたしを引き合いに出すのよ!

    「エステリーゼ様、到着いたし……エステリーゼ様⁉」
     馬車の扉を開けた騎士が、驚いた顔でわたしを見る。涙がぼろぼろと伝う頬はとても熱く、ひりひりと痛かった。
    「ごめんなさい、目に何か入ってしまったみたいで。ハンカチと鏡を貸していただけませんか?」
     慌てる騎士に向かって、にこりと笑ってみせた。涙と一緒に飲み込んだ鉛は、胸の奥深くの赤いもやにゆっくりと沈んでいって、やがて見えなくなった。



     自分の家に帰ることを、これほどまで怖く感じたのは初めてだった。坂をのぼる足は小刻みに震え。夕方の風は身を切るように冷たく感じる。大好きであたたかなこの街で、ハルルの花に見守られながら過ごした日々を思い出すほど、家路をたどる足は重くなった。
     わたしはドアの前に立ちつくして、柵の内側の庭をながめた。小さな花壇に、わたしとリタと二人で植えた赤と桃と橙の花が咲いている。別の一角には、土を耕した跡がある。この庭で、野菜を育てようとしていた。レイヴンが今度苗を持ってくるからと、三人で畑の場所を考えていた。
     ぎゅっと拳を握りしめて、天を仰ぐ。広がる枝を見上げながら、浅い呼吸を繰り返した。ちゃんと息ができるようになってから、わたしは決心して玄関のドアを開けた。
    「あ、おかえりエステル」
    「リタ……」
     お皿を持ったリタが声をかけてくれた。せわしなくキッチンとテーブルの間を行き来している。
    「騎士から、もうすぐ帰ってくるって聞いたから、急いで準備してたの。ちょうどできたところでよかったわ」
     香ばしい香りが部屋じゅうに満ちていた。テーブルの上の皿に乗っているのは、焼き魚だった。
    「……ありがとうございます、わたしも手伝いますね」
     頭が痺れるように痛かった。もうわたしは選んでしまったのだ。詰まる喉にひゅうと息を吸い込みながら、そう思った。引き返すことのできない、どこまで続くのかわからない道を。


     レイヴンが検診の日に来ないことはよくあった。リタはそのたび、せわしなく部屋の中を歩き回り、不機嫌そうに足を踏み鳴らしていた。
    「定期的なメンテナンスがどれだけ重要か、あんだけ言ったのに……あのおっさん」
    「まあまあ、きっと今急いで向かってるところですよ」
     しばらくすれば、いつものようにまたひょっこり現れるのだと思っていた。お詫びの品として甘いものを携えて。リタはしばらくのお説教のあと、仕方ないわね、とレイヴンの持ってきた箱への興味が隠しきれなくて。わたしはそんな光景を見ながらお茶の準備をする。その日が少しだけ先に延びただけだと。
     そうして次の検診の日が訪れても、レイヴンは姿を見せなかった。
    「何よあいつ……ふざけてるの」
     リタの表情は日に日に曇り始めていった。仲間たちに連絡をとってみたが、誰もレイヴンの行方を知らなかった。ギルドや騎士団の伝を辿ってもらっても、ここ最近レイヴンに会ったり、見かけたりしたという者は見つからなかった。
     それから、リタと一緒に帝都へ出向いた。フレンに、レイヴンと最後に会ったときのことをできるだけ事細かに話した。あのときのリタの、あまりにも悲痛な声を、今も鮮明に覚えている。
    「最後にメンテナンスしたとき、少し綻びがあったの! でも、様子を見ようと思って何も言わなかった……今頃どうなってるか分からない……早く探し出さないと手遅れになるかもしれないの! 探しに行かないと……!」
    「リタ、落ち着いてください……!」
     今にも部屋を飛び出していきそうなリタを、フレンとわたしで必死に止めた。リタは、ただひたすら拳を握りしめて小刻みに震えていた。姿を消す前の時点で、レイヴンの心臓魔導器には、普段と違うところがあったという。けれどすぐに手を打たなかった。もしレイヴンに何かあれば自分のせいだと、リタは繰り返した。
    「レイヴンさんは、僕たちが責任を持って探し出す。何か手がかりが見つかれば必ず連絡をするから、とにかく少し休んだほうがいい」
    「休んでなんかいられないわよ、あたしも……!」
    「リタ! 本当に顔色が悪いです、今は休んでください……もしリタが倒れてしまったら、レイヴンが帰ってきたとき、誰が心臓を診てあげるんです……?」
    「エステル……」
    「……それぞれ、できることをしよう。レイヴンさんがもし、何らかの危険に巻き込まれているとしたら、それこそ闇雲に動かず、少数で確実に手がかりを探していくべきだ。混乱の中にある皆へ動揺を与えるわけにはいかない。お二人には、できるだけ普段通りに過ごしてもらいたい」
     わたしもリタと同じように、今にも足が勝手に駆け出していきそうだった。けれど、今わたしたちにできるのは、日常を守ることだ。フレンの言葉を聞いているうちに、冷たい汗がにじむリタの手を握っているうちに、そう理解するしかなかった。
    「……わかってる……何も考えずに飛び出すのはバカのやることだって……わかってるわよ……」
     リタは悔しさに耐えられないというように、ぎり、と歯を噛みしめた。こんなときが来るなんて思っていなかった、あのときもわたしはそう思ったのだ。
     その日から、わたしたちは、それぞれのやるべきことを果たしながら、日々を暮らした。レイヴンの手がかりはほとんど見つかることがないまま、いつしか失踪から半年の月日が経っていた。わたしはどこか上の空で過ごすリタのそばで、できるだけいつも通りに振る舞った。リタがいつの日か元気になってくれると信じて。
     罰なのかもしれない。
     わたしは、レイヴンのいない日々に、慣れようとしていたのだ。



     眠れない夜に散歩に出かけることを覚えたのは、あの旅の間だった。城にいた頃は、窓を開けることすらままならないときがあった。ずいぶん昔のことのように思えた。ほんの数年前は、自分で何かを決めたことすらなかった。決めることは、自由で、楽しくて、少し怖い。
     ハルルの樹は夜でもぼんやりと明るい。花びらの舞う坂は静かで、風の音と、樹のざわめき、自分の足音しか聞こえない。丘をのぼりきると、暗闇に沈む家々の屋根が見える。今夜の街の人々は、ぐっすり眠れているのだろう。
     リタの作った焼き魚は、少し固かったが、やさしい味がして美味しかった。今回も、リタは納得がいかないというような様子だった。けれど、わたしが食べきれなくて残してしまった分まで、リタは一欠片も残さず食べた。
    「……エステル?」
     声におどろいて振り向くと、リタが坂をのぼってきていた。ベンチに腰掛けるわたしのそばまで歩いてきて、そっと腰を下ろす。
    「寝室に行ったらいなかったから、ここだと思った」
    「……ごめんなさい、何も言わずに出てきて」
    「いいわよ、あたしも、なんとなく歩きたくなっただけ」
     風がざあっと樹を揺らす。夜の闇に浮かぶ樹の影は、本当に大きくて、けれど恐ろしいとは感じない。どこか神聖な雰囲気さえ感じる。
    「ひと段落、つきました?」
    「まあね、今日はここで一区切りね」
     元アスピオの研究者たちと共に、重要なプロジェクトを進めていると聞いた。その中で、精霊術の仕組みをより明確な理論に組み上げる、リタはそう言っていた。
    ――あたしがやらないといけないの。
     開かない部屋のドアを見て怖くなるのは、研究に打ち込むリタが、魂を削っているかのように見えたからだ。寝食を忘れるのも、夢中になると時に周りが見えなくなるのも、以前からあったことだ。旅の間だって何度もあった。けれど、半年前から、何か違うものを感じていた。己を省みない危うさを持ち、何を考えているのか読めず、その瞳はどこか別の場所を見ている。その姿がだんだんと、誰かの影を帯びていくのを、不安とともに見ていた。
    「……今日で、十二回目だったわ」
    「十二……?」
    「あいつがすっぽかした、検診の回数」
     ハッと顔を上げた。リタは穏やかな表情で樹を見上げている。鉛の沈んだ胸がじんじんと疼いて、何もかも打ち明けたくなる。必死に歯を食いしばって、なんとか涙を押しとどめた。
    「数えてたの、でも、今日は何回目か、思い出せなかった」
     今日が月に二回のリタの決めた日だということも、わたしは忘れていた。それだけの時間を失ったのだと気付いた。
    「……あたしが、魚料理の練習始めたの、不思議に思ってたでしょ? あんなに嫌だって言ってたし」
    「それは……」
    「なんかね……だんだん、当たり前みたいになっていくのが怖くて……だから、せめてと思って」
     どんなに悲しくても、つらくても、人には受け入れていく力がある。そうして、同時に大切なことまでもいつの日か忘れてしまう。あんなに楽しくて、嬉しくて、花びらの舞うような日々は失われてしまった。そのことすら、わたしたちはいつか遠い過去にしてしまうのだろうか。
    「待ってるうちに、いずれこうなるだろうって分かってた……けど、帰ってきたらあいつに自慢してやろうって、そう思ったら頑張れるかなって」
     リタの差し出した手に、花びらがひらりと一枚落ちてくる。
    「ほんと……今ごろ、どこほっつき歩いてるんだか」
     胸の奥から鉛が浮かんできて、喉をふさぐ。明るい声で話そうとするリタの顔を見られなかった。本当は励ましの言葉を言ってあげたいのに。きっと大丈夫だと、そう笑いかけるところなのに。何一つできず、ただ俯いて震えているだけだった。
    ――リタっちのこと、頼むわ。
     リタのために、わたしには何ができるのだろう。



     3 あの日あなたが決めたこと


     あの日、彼は冷たい雨の中に立っていた。
    空は暗くて、すべてを飲み込みそうな大きな雲が、樹の上に横たわっていた。わたしは突然の雨に洗濯物を取り込んでいる最中だった。そのとき、見覚えのある姿を庭先に見つけて、声をかけたのだった。
    「……レイヴン? どうしてこんなところに」
    「……ああ、嬢ちゃん……」
     振り返ったレイヴンの瞳はどこかうつろで、様子が変だった。ぶらりと力なく垂れ下がった手が、何かで黒く汚れていた。
    「とにかく、こんなところにいたら体冷えちゃいます、早く家の中に入ってください」
    「いや、いいんよ、おっさんもう行かないと」
    「そんなびしょ濡れでどこに行くんです? すぐにあたたかいお茶を淹れますから」
    「嬢ちゃん」
     真っすぐに、見つめられた。その瞳は、雲の立ち込めた暗い空の下でも、はっきりと翠色であることが分かった。その色を前にもどこかで、こんな風に見つめたことがあった。命令に従いわたしを連れ去ったときの、何かを押し殺したような色。
    「ありがとう、本当に」
    「それは、お茶を飲んでから言って……」
    「……リタっちのこと、頼むわ」
     そう言うと、レイヴンはあっという間に目の前からいなくなり、雨に煙った坂の下へ去ってしまった。何か言葉を返す暇もなかった。わたしは、水を含んで重たくなった洗濯物を抱えながら、しばらくその場に立ち尽くしていた。それは検診日の、数日ほど前のことだった。
     そのことを、わたしは誰にも言わなかった。



     城の裏庭は人気が少ない。聞こえるのは木々が風に揺れる音ばかりだ。わたしはベンチに座って、ただぼんやりと空を眺めていた。
     今日は少し調子がよくないとは思っていた。会議の途中で気分が悪くなり、危うく机に伏せってしまいそうになった。それを見たヨーデルに、半ば強制的に休息を取らされることになってしまった。
    「貴女が倒れてしまったら、城の者は皆、気が気でなくなってしまうよ」
     そう言われたものの、部屋で横になっているのも気が引けて、人気のない場所を探してここに来た。途中、会議に出席していた評議会議員たちに出会い、言葉少なに立ち去ってしまった。それらのことやまだ残っている仕事が気がかりではあったが、風に当たっているとほんの少し気分がやわらいでいくような気がした。空はどこまでも青く、その青さをすべる雲がゆっくりと風に流されていく。その動きを見ているだけで無心になれた。
    ――今ごろ、どこほっつき歩いてるんだか。
     リタの声が耳によみがえる。わたしは何も言えなかった。それは胸を刃物で切られるような痛みだった。しかし、こんなものよりもずっと大きな痛みをリタが受けることになると思うと、やっぱりわたしは何も言えなかった。言えない日が続くたびに、ますます痛みは増した。
     ふいに後ろから人の気配を感じた。そして、カツカツと足音が聞こえたかと思うと、いつのまにか、その気配はすぐ隣に立っていた。
    「久しぶりね、エステル」
     すらりとした長身の影がさっと伸びる。
    「ジュディス! どうしてこんなところに?」
    「仕事でザーフィアスに寄ったものだから、空いた時間であなたに会って帰ろうと思って。そしたら、ここにいるって聞いたのよ」
     ジュディスはバウルで世界のあちこち飛び回っているため、顔を合わせるのは本当に久しぶりだった。相変わらずの綺麗な笑みをたたえて、わたしの隣に流れるような所作で腰かける。
    「気分が悪いって聞いたから、本当は遠慮しようかと思ったのだけど……もし何かあったらすぐに言ってちょうだいね」
    「あ、いえ……しばらく風に当たっていたら、だいぶ楽になってきました、ので大丈夫です。会えてうれしいです、本当に」
    「あんまり無理しちゃだめよ、自分のことを一番にね」
    「ジュディス……」
     これは無理をしているうちに入るのだろうか。わたしが一人で抱え込んで、結局こうして自分に課せられたことすらできなくなって、迷惑をかけてしまっている。出口のない森の中を延々とさまよっているような気持ちでいた。
    「リタはどうしてるかしら、今度、ハルルのあなたたちの家にも寄りたいのだけど」
    「あ、はい……元気、だと思います、このごろはちゃんと食事もとって、夜も寝ていることが多いみたいですし」
     思わず、ジュディスの顔から目を逸らした。一緒に暮らしているのに、とても違和感のある答え方だと、口に出してから思った。
    「フレンから聞いたわ、この前」
     ジュディスはわたしの答えには追及をせず、唐突に切り出した。
    「保管してあったものを見せてもらったわ……かなりひどかったようね、致命傷、といえるくらいに」
    「……あ……」
    「彼を襲った集団の素性は、まだ何も分かっていないらしいわね。いったい、何の目的で争ったのかしらね」
     ジュディスは考え込むように顎に長い指を添える。レイヴンに関することには多くの謎が残されていた。謎の集団の素性、争いの理由、本人の行方。あまりにも分からないことが多すぎた。
    「私も捜査には協力しているのだけど……気が重いものね」
     つとめて、淡々と語りながら、ジュディスの口調には確かに悲しみが込められていた。
    「……みんなは、どうしてます?」
    「ユーリは、各地を回ったり話を聞いたり、いろいろと手伝っているみたい。平気な顔でいるけれど、彼もつらいと思うわ……カロルも、ついこの間にね。やっぱりとても動揺してしばらく仕事どころじゃなかったけれど、ようやく落ち着いてきたわ。今は小さな依頼だけに集中してもらっているの」
     わたしだけでなく、みんながその事実を知っていて、悲しんだり受け止めたり、前に進もうとしている。それに引き換え、わたしはどうだろうか。
     ジュディスは立ち上がって、くるりとわたしのほうへ向き直った。
    「そろそろ行くわ。本当は私もリタに会いに行きたいけれど、私が行くと隠しきれないかもしれないから、やめておくわ」
     ざあっと風が吹きつけ、わたしはしばらく何も言葉を発することができなかった。庭に散らばった葉がくるくると巻き上がる。
    「……わたしは、嘘つき、なんでしょうか」
     風にあおられながら、流れるジュディスの前髪を見つめた。嘘をつく。そういうことなのだ。これはあくまでリタのためだと、そう言いながら。
    「あなたが隠すということを選んだのなら、それでいいと思うわ。でも、リタにもそれを知るという権利があるのは、分かっているのよね」
     そう、きわめて静かに告げた。ジュディスはきっと初めからこのことを言いに来たのだろうと思った。怒っているわけでも、責めているわけでもない。ただ、わたしに言っておかなければならないと、そう思ったから会いに来た。かつての旅でも、ジュディスはずっとそうだった。
    「あの子ならきっと、自分で結末を選び取るわ。そう思うのは、私だけなのかしら」
     ジュディスの手が肩にそっと置かれて、ひらりと離れていった。あたたかく、慈愛に満ちた声だと思った。そのあたたかさが、わたしにも向けられていることが、嬉しくて、痛かった。



     ハルルの家に帰ると、リタはいなかった。一瞬静かな部屋に背筋が寒くなったが、テーブルに小さな紙が置いてあるのに気づいた。
    『研究員との話し合いで遅くなる』
     要件だけを書いた、リタらしい簡潔なメモだった。リタが出かけることはそう珍しいことではない。近頃は特に忙しくしていた様子はあったので、きっと研究に何か進展があったのだろう。
     開けたままだった窓から風が吹きこみ、カーテンがパタパタとなびく。そのとき、バサバサッと大量の紙が重なり落ちる音が聞こえた。リタの部屋からだ。ドアは閉まっていたが、窓が開けっ放しなのだろう。ひゅうひゅうと風の音が漏れ聞こえる。
     リタの部屋にはあまり入ったことがなかった。部屋の掃除をしようとして、どこに何が置いてあるかわからなくなると困るから、とリタに申し訳なさそうに言われてしまったことがある。それから、自然と立ち入らないようにしていた。いつからか、この部屋はリタの見えない心の象徴となり、今のわたしには中身を知ることはできないと、なぜかそう思っていた。
     わたしは、どこか後ろめたい気持ちを振り払ってドアノブをぎゅっと握った。窓を閉めなくてはいけないから。自分に言い聞かせて、ドアをゆっくりと開けた。

     部屋の中には所狭しと本や資料、それから模型が置かれており、足を置く場所を選ばないと、床を歩くのは少し大変だった。ドアの正面には机の向こうに開け放しになった窓となびくカーテンがあり、そこから吹き込む風が研究資料と思われる紙を吹き飛ばしていた。わたしはあわてて窓を閉め、床に散らばった紙を集め始めた。文字がびっしりと書かれた紙は、わたしには何が書かれているのかよく分からなかった。しかし、ふと拾い上げた中の一枚にあった図がふと目に留まった。
    「これは、もしかして、レイヴンの……」
     いつか見た、彼の心臓魔導器。形をはっきり覚えているわけではなかったが、その図は記憶の中のそれとよく似ていた。
     わたしは残りの紙を急いでかき集めて、ざっと目を通してみた。詳しい専門用語などは分からなかったが、それはすべて心臓魔導器についての資料のようだった。集めてみると、その枚数は百枚近くあった。それら一枚一枚に、リタのものと思われる走り書きや下線などの書きこみがある。
     こんなにたくさんの資料をいつも手元に置いて、ずっと心臓魔導器の研究を続けていたのだ。リタはこの部屋で一人で研究を続けながら、どんな気持ちでいたのだろう。
     分厚い資料を机の上にそろえて置き、近くにあった本を重し代わりにした。すると、机の端に置いてあった本の山がバサリと崩れて、床に落ちてしまった。
    「ああ……リタに怒られちゃいます……」
     そうして慌てて本を拾おうとしたそのとき、クローゼットの扉の下の方に何か布のようなものが挟まっているのに気が付いた。わたしたちの服はまとめて寝室のクローゼットに収納している。リタが脱いだ服をここに押し込んでしまったのかもしれない、そう思い、軽い気持ちですっと開けてしまった。
    「え……」
     そこにあったものを見て、体がじわじわと冷えていくのを感じた。白い布に包まれた薄い何か。わたしは魅入られるように。気がつけばその包みを解いていた。そこから出てきたのは。鮮やかな紫色の布、いや、服だった。ところどころ破れ、血痕が至るところに付着している。見間違えるはずがない。これは、確かに。
    「レイヴンの……羽織」
     フレンから話は聞いていたが、実際に手に取ると、目を背けたくなるような残酷な有様だった。これを着た状態で、レイヴンは確かに深手を負い、おびたたしい量の出血をした。次々と、現実を思い知らせるように証拠が出てくる。逃げる余地をなくすように。
     けれど、なぜリタがこれを持っているのだろう。羽織は騎士団が回収して保管しているとフレンが言っていた。なぜ、それよりも、いつから持っていたのか。ふと、その意味に思い当たり、頭を殴られたような衝撃が走る。

    「……エステル?」
     声が聞こえてばっと振り向くと、部屋の入り口にリタが立っていた。心臓が跳ねて、ばくばくと音を立てる。リタは、動揺するわたしをきょとんと丸い瞳で見つめていた。胸の奥に沈んだ鉛がせり上がって、膨張し、耐えきれずぼろぼろとこぼれ落ちる。
    「ごめ、んなさい……リタ……ごめんなさい……!」
     わたしはそのまま顔を手で覆って泣き崩れた。リタは戸惑った様子で近づいて膝を折った。
    「エステル、いったいどうし……あ……」
     こちらに近づいてきたリタの視線が、わたしの膝の近くに広げられた羽織に向けられる。しばらく固まったあと、手を伸ばし、ゆっくりとそれに触れた。
    「……こんなひどい状態でも、手元にあるとなんとなく落ち着くなんて、ばかっぽいわね、笑っちゃうわ」
    「そんなこと……! わたしは、わたしはリタにずっと……」
    「あたし……知ってたの、エステルがあたしのためにずっと黙ってくれてたこと……あたしが勝手に騎士団に乗り込んで、フレンにばれないようにウィチルの奴と取り引きしたの。魔導器のことと照らし合わせて、なにかわからないか調べる代わりに」
    「いったい、いつから……」
    「十日くらい前、本を借りに帝都に行ったときに、何か城の様子がおかしいと思って、ウィチルに問い質したの。けっこう無理矢理ね」
     リタはとても聡い。本当は、こんな隠し事などすぐに分かってしまっただろう。それなのに、わたしはそんなリタの前でずっと何事もないように振る舞いつづけた。その様子はどんなに痛々しく見えたことだろう。
    「エステル、ごめんね……もっと早く言うつもりだったけど、ずっと言えなかった……」
     それはわたしが言うべき言葉だった。わたしの決めたこと、選んだこととはいったいなんだっただろうか。リタに悲しい顔をさせたくない、これ以上悲しませたくない。わたしはずっと自分のために嘘をつき続けた。リタが、わたしのそばで笑っていてくれるように。そうしていつしかわたしはとても身勝手なことを願っていた。
     リタがそのまま、悲しいことを忘れてくれたらどんなにいいだろうか?
    「……わたしは、自分のために言えなかったんです。レイヴンのことを聞いたとき、リタに真実を知らせたくない、知ってほしくない、そう勝手に思って、本当のことを知らせないのが自分の役目だって……本当は、言うのが怖くて、現実になってしまうのが怖くて……嫌だったんです……!」
     涙は次々にあふれてリタの服を濡らしてしまう。誰に言わなくても、わたしが何をしても、現実はただそこにあり、わたしたちのそばにレイヴンはいない。ただ泣きじゃくるばかりのわたしの肩を、リタはそっと両腕で包んだ。
    「エステルは、全然勝手なんかじゃない。だって、エステル、おっさんのことを聞いたとき、自分より先にあたしのこと考えてたってことでしょう? エステルだって、本当は悲しくないわけないのに、自分で悲しむ前にあたしが悲しむかどうかなんてこと考えちゃうなんて、ほんと、お人よしね……」
     声が少し震えた。それを支えるように、わたしはリタと同じように、その肩に両手を置いた。
    「あたし、ずっとエステルに甘えてたんだわ。ずっとふさいで、ぼうっとしてて、うだうだしてて、エステルがそんなあたしでも変わらず接してくれるから、それに甘えてたの、ずっと」
    「リタ……」
     “お人よし”だから、リタを心配し続けていたわけではない。リタのことを真っ先に考えたのは、そんなもののせいではない。それは、わたしの心の奥底にあった、深い深い見えない場所から湧き出る想いだ。唇をぎゅっと引き結んで、うつむいたままのリタを抱きしめた。
    「わたし、ずっとリタのことが見えなくて……時折、ここにいないような気がして、不安だった……」
     わたしと比べると、とても小さな体だと思った。それなのにやわらかくて頼もしくすら思える背中の温度に、また泣き出してしまいそうになる。
    「だから、もう一度、ごめんなさい……わたしはずっと、リタが悲しい顔をしたまま、遠くに行ってしまいそうでこわかった……リタのことを、信じてあげられなかった……」
    「もう謝るのはなしよ、エステル。それに、べつに強いってわけじゃないわ、たんに諦めが悪いっていうのよ、これは」
     羽織に目を落として、リタは悲しげに笑った。
    「諦めが悪いから、いろいろ考えてたの、可能性を」
     机にある手帳を手に取って、パラパラとめくりながら話し始める。
    「考えたら、おかしな点はいくらでもあることに気づいたの。おっさんを襲ったっていう奴ら、そんなのにおっさんが後れをとるなんて考えられない。前に二人で出かけたときも、五、六人の盗賊集団程度なら軽くいなしてたし、なにより、あたしは使うなって言ってたけど、おっさんには心臓魔導器の奥の手がある」
    「でも、レイヴンも、背後をつかれたり卑怯な手段を使われたりしたら……」
    「その可能性も十分あるわ。それを騎士団やギルドは想定してたと思う。そう、あたしが最後に見た術式の綻び……長い間メンテナンスもしてないし、魔導器の調子がかなり落ちてたんじゃないかと思ってる」
     リタは手帳のページをめくりながら、羽織に目を落とす。
    「けど、一番は出血のことなの。おっさんは胸部に硬い魔導器を持ってるから、胸部から出血する確率はきわめて低い。背中と、そのほかの血痕については、もしかしたらほかの可能性もあるんじゃないかって思って、いろいろと検討してみたの。そうしたら、心臓魔導器は、この程度の出血なら補填できる潜在力を持ってるかもしれないって結果が出たの。あくまで、あたしの試算によると、だけど」
    「まさか、レイヴンはまだ本当に……」
    「わからない。今言ったことは、全部あたしの仮説を元にしてるから、実際はどうだか分からない……けど……」
     いったん言葉を切って、手帳をぱたりと閉じた。少しのあいだ沈黙が流れる。リタがこれほど一息に話すのを、久しぶりに聞いたような気がした。リタの部屋に所狭しと並ぶ本の一角には、魔導器やエアル関連の書籍に混じって、医学事典が積み上げられていた。自分の研究の合間にずっとレイヴンのことを調べていたのだろう。
    「……ずっと、綻びを見つけたとき、ちゃんと処置してれば、とか、最後に会ったときもっとおっさんの様子に気をつけてれば、とか、思い返せばキリがなくて」
    「そんな、絶対に、リタのせいなんかじゃない……」
    「わかってる。もしも、なんて話に意味がないってことは……だから、あたしは今でも諦めてないわ。おっさんは、あいつは絶対にまだどこかで生きてるって」
     リタは、羽織にそっと手を置いて、わたしの瞳を強い眼差しで見つめた。
    「あたし、約束したの。おっさんの心臓はあたしが守る、絶対に生かすって。だから、あたしはそれを守らなくちゃならない。行方がわからなかったときはずっと塞いでたけど、逆に、今のほうが前向きに考えられるのよね。だって、あのおっさんよ? そんな簡単に死ぬわけない、あの子はまだ止まってないって」
    ――また無茶な使い方して! あたしの調整を無駄にするつもり?
    ――いやあ、そんなつもりないって……すまんねえ。
    ――ほんと……あたしがこうやって診てあげてるんだから、大事にしなさいよ。
     検診をする二人はいつもそんなやり取りをしていた。怒るリタを、レイヴンが謝りながらなだめて、リタがまた新たな決まりを言い聞かせる。二人の間には心臓魔導器を介して、はっきりとした繋がりが確かにあるのだと感じた。まるでいのちが惹かれ合っているかのように。
     心から信じるというのは簡単なことではない。悲しみや矛盾が邪魔をしてくる。それでも、リタは自分の約束を信じると言った。レイヴンのことを知ったとき、わたしは絶望に駆られて、現実の残酷さにただ打ちひしがれていた。けれど、リタの強さを知った今、なぜもっと信じなかったのだろうと思う。レイヴンがわたしたちの前から姿を消した理由はわからない。それでも、姿を消してからも、確かにレイヴンはこの世界のどこかにいた。そして今も、どこかで生きているかもしれない。たとえわずかな可能性であっても、わたしたちはまだレイヴンに会えていない。その姿をこの目で確かめていない。悲しみに暮れる前に、きっとまだできることがある。
    「……わたし、リタに言っていなかったことが、もう一つあるんです」

     作りかけの畑は、長い間手入れをしていないせいで、土の塊がごろごろと転がっているようなありさまだった。用具入れにしまってずっと取り出していなかったスコップを手に持ち、その前に立つ。あの日、わたしがレイヴンに会った最後の日、その手はなぜか黒く汚れていた。あれは土だったのではないか。
    「わたしが……やってみます」
     スコップの先で土をすくい取り、別の場所にバラバラと落とす。ここに苗を植えようと言っていた場所だ。すべてを静かに聞いてくれたリタは、その作業をすぐそばでじっと見守ってくれている。予感ともいえない、ただの思いつきのような行動だった。けれど、仮説を立てたなら検証しなくてはいけない。どんなに馬鹿げた可能性であったとしても。
     なにか、土とは違う感触に当たるのを感じた。スコップを置き、手で土をかき分ける。茶色の中に、白が見えた。おそるおそる、手で引き出した。箱だった。つるつるとした、水を弾く素材で作られている。
    「リタ……」
    「……うん」
     目を見合わせて、わたしはその箱をゆっくりと開けた。中には種の入った袋と、一つの封筒があった。封筒の中身を引き出すと、一枚の紙が三つ折りにされた状態で入っていた。カサ、と音を立てて、紙が開かれる。


     これをいつか読まれることがあるのかわからないが、
     せめて、と思って書き残しておく。
     死んだと思っていた命だったけれど、誰かのために使うことができた。
     誰かと過ごす温もりを知ることができた。
     何かを愛しいと思う感情を思い出した。
     俺は、怖いくらいに幸せだった。
     袋に入ってるのはハーブの種で、ダングレストで取り寄せたものです。
     約束してた苗じゃなくてごめんね。
     どうかいつまでも元気で。


     ただ、花びらが降っていた。風に乗って、はらはらと流れ落ちていた。わたしたちは、立ち尽くしたまま静かに涙をこぼした。
    「こんなの……バカ、バカよ……」
     リタは両手の拳をぎゅっと握りしめて、そう繰り返した。まるで遺書のような、後悔をすべてここに置いていくような、そんな手紙だと思った。わたしたちと過ごした日々は、彼に何を残したのだろう。旅の間も、その後も、いつも遠くをみているようなひとだった。それでも、一緒にいるときは、楽しくて幸せだと、そう思ってくれていたのだろうか。
    「……レイヴンは、最初から何か目的があって姿を消したんだとしたら、それを突き止めないと」
    「エステル……そうね、そうよね」
    「理由もわからないまま、じっとしていられないです……わたし、信じようって、リタと話して思ったんです。信じるなら、知らなきゃって」
     どうしてこんなことになったのか、ずっとそう思っていた。その答えは誰かが教えてくれるものではない。もっと早く気付くべきだった。
    「あたしも、じっとしてられるわけない。おっさんがあたしたちの前からいなくなるつもりだったってこと……いっぺんぶん殴ってやんないと、気が済まないわ」
     握りこぶしをぶんぶんと振りかざす。そうして、二人で少しだけ微笑み合った。
    「わたし、フレンに手紙を書きます。それから凜々の明星にも……手がかりを探しましょう、なんとしても」
    「うん……やってやるわよ、あたしたちで」
     リタが力強く頷いて、わたしの手にあった手紙に触れる。細く綺麗な文字は、払い落としたら消えてしまいそうに思えた。風が吹いても飛んでいかないように、そっと手で覆った。わたしたちの大切で、愛しい人の告白を。

     その日は、リタと一緒にサバの煮付けを作った。魚のおろし方も教わりながら、時間をかけて料理をした。リタの包丁さばきを見て、しっかりと味の染みた身を噛みしめて、レイヴンはきっと驚くだろう。口には出さなかったが、きっと同じことを考えていたと思う。リタもわたしも、穏やかに笑いながら、立派にできた夕食をゆっくりと味わった。



    『――わたしたちは、手がかりを探したいと思っています。わずかでも可能性があるのなら、諦めたくない。リタと話し合って、そう決めました――』
     ペンを走らせる音が静けさの中に響く。リタは。研究所で資料を集めてくると出かけていった。二通の手紙を書き終わり、長く息を吐きながらペンを置く。
     心はとても凪いでいた。深く沈む靄も散っていき、確かに呼吸ができる。わたしはリタだけでなく、自分にも嘘をついていた。信じたくないのなら、別のことを信じればよかったのだ。押し込めていたものが解き放たれたような気持ちだった。
     現実から逃げているのではない。ただ夢物語を描いているのではない。まだ開けてもいない箱の中身を決めてはいけない。信じなければその結末にたどり着くことはできないのだから。
     カチャリと客室のドアを開けて、久しぶりに入ってみる。畳まれたシーツが乗せられたベッドと、空っぽの棚、何も置かれていないテーブルに目をやる。掃除はしていたが、長い間使われていない部屋は、整然としており、他の部屋とは違う匂いがした。レイヴンがいたときは、どんな匂いがしただろう。もう思い出すことはできない。けれどそこにいたことを、わたしはちゃんと覚えている。
    ――お茶、ありがとう。嬢ちゃん。
     カタン、と音がして、わたしは顔を上げた。誰かに呼ばれたような気がした。閉まったままの窓に寄り、力を込めて開ける。夜の風がぶわっと吹き込み、ハルルの樹が大きくそびえているのが見える。わたしはそれに魅入られるように、ふらりと庭へ出る。あの光は、どこか懐かしくて心が惹かれる。ハルルの樹には精霊が宿っているという。だからこんな気持ちになるのだろうか。
    「エステリーゼ様」
     聞き慣れない声に振り向くと、庭先に鎧を着た影が立っていた。騎士団、それもフレン隊の鎧だ。
    「フレン団長からの言伝を預かっております」
     その名前を聞いて、足が一歩前に出た。あれ、でもどうしてこんな時間に、まだ手紙は出していないのに――そう思ったときにはもう遅かった。さっと影が目の前に横切ったかと思うと、首に衝撃が走る。途端、頭がくらりと揺らぎ、視界は暗く濁っていく。
     リタ、レイヴン。
     わたしが呼んだ名前は、声にならず、意識は闇のなかに溶けた。




     4 ひとりよがりな命


    「眠れないんですか、レイヴン?」
     わたしがそう声をかけると、窓辺に立つ影はゆっくりとこちらを向いた。
    「いんや、ちょっと考え事よ」
     軽く、そう答えた。髪はゆるく下のほうで結ばれていて、毛先がちらちらと月明かりに光る。淡い微笑みに、いつかのことを思い出した。彼が自分の半生を語ってくれたときのこと。あのときから、喋っていても、黙っていても、彼はとても饒舌に見える。
    「お茶、持ってきたのでどうぞ、今夜は冷えますから」
    「ああ……わざわざすまんね、じゃあいただくわ」
     レイヴンは自分のベッドに腰かけ、わたしは椅子に座り、それぞれお茶を啜る。静かな部屋にその音だけが響くのが、なぜか可笑しく思えて、二人で顔を見合わせて笑った。
    「リタっちは? また夜更かし?」
    「まだ物音はしていたので、きっと集中してるんだと思います」
    「そう……ま、仕方ないわな……」
     リタのことを話すときの、レイヴンの表情が好きだった。おどけてみせながら、深い慈しみのような想いをにじませる。
    「って、嬢ちゃんもこんな時間まで何してたの」
    「わたしは、急にお茶が飲みたくなってしまって」
    「はっは……まあそういうときもあるわな、おっさんはそのおこぼれをいただいちまったわけだ」
    「ふふ、でもおかげでこうしてお茶会ができました」
    「お茶会、かあ……ちょっとこんなおっさんには似合わないかもだけど」
    「そんなことありません、お茶会は老若男女、誰もが開いたり招かれたりするものです」
     そう言うと、レイヴンはふっと笑ってカップを口に運んだ。夜の静けさが心地よかった。手にしたカップと、体のなかにすべり落ちるお茶と、胸の奥がすべてほかほかと温かい。
    「ずっと、こんな風にしてられたらいいなって思うんです、わたし」
     窓の外の星を探しながら、本で見た星座のかたちを思い出す。
    「リタがいて、レイヴンがいて、二人が楽しそうで、わたしも楽しくて……旅が終わって、少しさみしかったですけど、わたし二人と一緒なら、これからも笑っていられる気がします」
    「……そうね、おっさんも嬢ちゃんとリタっちに会いに来るの、毎回楽しみにしてるんよ、けっこう」
    「それは嬉しいです、でもそれならちゃんと検診日通りにまめに来てあげたほうが、リタも喜びますよ」
    「ありゃ、これは一本取られたわ」
     頭に拳をごつんと当てる。おどけた態度ですぐに隠れてしまったが、そのときのレイヴンは何かもっと別のことを言いたそうにしていた。やわらかく細められた目は、おそらくここではないどこか遠くを見ていた。



     初めに動かせたのは、指先だった。重石でも乗せられたかのように体が動かない。低く抑えられた複数の声がどこかから漏れ聞こえてきた。
    「……帝都へ……日を決め……」
    「迅速に……遅れ……」
    「身柄を……成功……」
     指先に触れたのは木の葉のように思えた。次第に、背中が草の上にあることを感じ取れるようになってきた。そして、手を動かそうと思って気がついた。両手が同じ場所から動かない。
    「あ……」
     目を開けると、無機質な暗闇だった。本当に何も見えなかった。黒に塗りつぶされた世界は、わたしの心をひやりとした恐怖に突き落とした。閉ざされた視界、動かない手、聞こえる知らない人間の声。わたしは、どこか知らない場所で拘束されているのだと、ようやく気がついた。
     ぐっと体を曲げて、固定された、おそらく縛られている両手を地面につく。耳を澄ませると葉擦れの音がざわざわと鳴った。ここは森の中なのだろうか。ハルルで気を失ってから、どれくらいの時間が経ったのだろう。
    「おや、お目覚めのようだ」
     こちらに向かって、聞き慣れない声が投げかけられる。ザッと一斉に音がして、周囲にいた気配のすべてがわたしに注意を向けたのを感じた。
    「外してやりなさい」
     一人が指示を出すと、背後の気配が動く。頭の後ろがぐっと引かれ、ぱらりと目を覆っていた布が取り去られる。辺りは深い闇だった。それでもいきなり視界の開けた目には眩しく、景色はぼやけて見えた。背の高い木々が闇に溶ける遠くまで連なっている。
    「こんな場所ですが、せっかくですから直接話をしましょう、エステリーゼ様」
    「あなたは……」
     だんだんとはっきりしてきた視界の先にいたのは、ローブに身を包んだ男だった。その顔にどこかで見覚えがある。おぼろげな記憶を辿り、城の廊下で見かけたことを思い出す。
    「ラゴウの、側近だった……」
    「おお、覚えてくださっていましたか。まあ、もうあの愚かな男が死んでからずいぶん経ちますが」
     ラゴウは、かつて魔導器の力を用いてカプア・ノールに圧政を敷いた、有力な評議会議員だった。その後もさまざまな悪事を企み、フレン達に逮捕されることとなったが、評議会の力で処分は半ば取り消された。しかし、そのすぐ後、ダングレストの川に落ち、亡くなったとされている。
     男が顎をくいと動かすと、わたしの周りにいた者たちがパッと散っていった。身軽そうな服を着た者、頑丈な鎧を身につけた者、さまざまだったが、どれも腕が立ちそうに見えた。
    「彼らはギルドから外れて行き場を無くした者たちでね、私のために協力してくれているのですよ」
    「……わたしの身柄を拘束して、どうするつもりですか」
    「さすがエステリーゼ様、話が早くて助かります。なに、簡単なことです、エステリーゼ様にはこのままここに居てくださるだけで構いません。明朝には事が成るでしょう」
     先ほどの、漏れ聞こえてきた会話を思い出す。その中には確かに帝都、という単語があった。
    「まさか……わたしの身柄をもって、帝国を、ヨーデルたちを脅迫でもするつもりなのですか……⁉」
     男は両手を広げて、愉快そうに身を反らして笑った。
    「エステリーゼ様は、城の外に出られてからよほど多くのことを学ばれたと見受けます。ただの傀儡候補であった頃とはずいぶん変わられた……おお、そんな目で見ないでください、私はあなた様を怒らせるつもりは毛頭ないのです」
    「いったい、何を要求しようと言うのですか」
     世界の危機の後、評議会は再編され、それから目立った動きを見せることはなかった。それが今になって、何をしようというのだろう。嵐の前の静けさだったのか。
    「……エステリーゼ様は、魔導器の無くなったこの世界を見て、どう思われますか? 世は混乱に突き落とされ、民たちは惑い、今も困難にあえぐ人々が多くいる」
     城に集められた嘆願書の山が頭をよぎる。あのように形になっていない声だって数多くある。
    「わかっています、今この世界は危機にある……それでも、わたしたちは今できることを探して、それぞれの場所で力を尽くして前に進もうとしています」
     わたしの言葉を受けて、男は口元をゆがめる。
    「……魔導器を失い、この世は不安定で移ろいやすいものになってしまった。そして精霊などという、不確かな存在にすがり始めた。すべてを失い傷ついた人々には、安定した、揺るぎない力が必要なのです、繁栄を極めたかつてのように」
    「繁栄……まさか、魔導器を……復活させるつもりなのですか……⁉ もうこの世界に残る魔導器は……」
    「……ハッハッハ、ご名答です。……そう、このテルカ=リュミレースには、実はまだ現存する魔導器がある、と言ったら、どうされますか?」
     ぞわりと背筋が寒くなる。口の中が急速に乾いていく。星喰みに対抗するために、わたしたちは世界中の魔導器の力を結集した。そしてわたしたちは魔導器のない生活を始めることになった。
    「それを聞いたとき私に希望が生まれました。失われたものを、取り戻せるかもしれないと」
     現存する魔導器を求める、謎の武装集団。途端、体を突き抜けるような衝撃が走る。符号が一致しただけで、証拠はない。けれど、確信した。わたしがここにいるのは、偶然などではない。
    「……あなたたち、レイヴンをどうしたのですか⁉ 答えなさい……‼」
    「ああ……あの男、確かそんな名前でしたね、隊長首席としての名はもう捨てたのでしたか」
     拳を握りしめると、ロープが手首に食い込んで痛かった。けれど、そんな痛みなど気にしている場合ではなかった。
    「あの男が魔導器を所持していると、そんな噂が耳に飛び込んできたのですよ。きっとアレクセイめから譲り受けたものに違いないと、私たちは頃合いを見て彼に接触を試みました、が、交渉は決裂、強硬手段を取らざるを得なくなったのです。いや、彼は恐ろしい実力の持ち主だった。さすがあの忌々しい元団長に取り立てられただけはある」
     嫌なことを思い出したというように顔をしかめ、わたしに向き直る。
    「心配なさらずとも、私たちは彼の死体を確認していません。もっとも重傷のまま逃げおおせたので、今頃どうなっているかわかりませんが」
     レイヴンはやはりこの集団と争い、深手を負っていたのだ。あの羽織の血痕はそのときのものだったのだ。
    「……そのような顔をするものではありませんよ。私たちは安心を得たいだけなのです。乱れた世への恐怖から逃れ、安らかに暮らしたいのです。そのような暮らしに、精霊などが介入する余地はない。形あるもののなんと素晴らしいことか、形ないもののなんと不確かなことか。弱き者には、目に見える強大な力が必要なのです。あなた方のように、前を向いて歩くことのできない人々には」
     旅の間、帝国が為した数々の悪政を、わたしはこの目で見てきた。魔導器が配給されない地域で、帝国の守護を受けない人々が、懸命に立ち上がる様子を見てきた。旅の後、さまざまな街で工夫を凝らし、手を取り合って暮らそうとするたくさんの人々に出会った。新しい世界のために、それを支える技術を研究する人々もいる。わたしのひたむきな親友のように。
    「……わたしは、この世界が尊いと思っています。皆多くのものを失いました。今も痛みのなかにあるでしょう。けれど、わたしたちはもう選んだのです。今と昔を比べてどうであっても、悔やむことなど許されるはずがない。何があっても、そうした人々の苦しみも受け入れなければならない、それがわたしたちの負った責任です」
     男は、次第にわなわなと震えだし、両手の拳を上下に振って鋭く叫んだ。
    「あのとき、私たちは世界の危機だと恐怖を煽られ、為す術もなく魔導器を供出させられた、そのせいで富の半分以上を失った! これが横暴でなくて何であろう? この痛みもただ受け入れると言うおつもりか? 私はまだ世に現存する魔導器を必ずこの手に集め、世界に復讐を果たすのだ……!」
    「――結局、それが本音ってわけね」
     ぐわあ、と呻き声のあと、人の倒れる音がした。目の前の男が、わたしの後ろを震える手で指さす。――まさか。心臓が痛いくらいに鳴った。信じられず、振り向くのが怖かった。けれど、一秒でも早く振り向きたかった。声を聞いてすぐに、わたしの全身が叫んでいた。
    「……レイヴン……‼」
     森の暗闇のなかで見たその顔は、最後に会ったときと少しも変わっていないように見えた。髪を下のほうで結び、見慣れた羽織姿ではなく、黒い外套を身にまとったレイヴンは、素早くわたしの手を縛っていたロープを切る。
    「嬢ちゃん、ごめん、計算違いで遅くなったわ」
     そう言いながら弓を構えて、周囲の戦闘員を牽制する。
    「ハ、ハハハ……ようやく現れたな、貴様ならきっと来ると思ったぞ」
    「ま、こんな分かりやすい場所に拠点張ってりゃ、すぐ分かるわ……親玉があんたみたいな小物だとは思わなかったが」
    「言わせておけば……あのときは取り逃がしたが、今度こそ貴様の知っていることを洗いざらい吐いてもらうぞ……!」
     男が手を上げると、木陰からも人影が現れる。レイヴンとわたしを中心として、十人足らずにぐるりと囲まれた。レイヴンに深手を負わせただけあって、統率の取れた集団だと感じた。評議会員の男以外、皆武装を用意している。
    「嬢ちゃん……ここは俺に任せて、下がって」
    「できません、わたしも戦います」
     わたしの力は、今ではわたしと結びついた精霊たちによって調整されている。みだりに用いることはできないが、ここで使わなくていつ使うというのだろう。剣も杖も盾もない。頼れるのは己の身だけだ。
    「ひとりより、ふたり、です」
     そう言うと、レイヴンは悲しそうに笑った。地面を蹴り、斧を持った前衛が距離を詰めてくる。それをレイヴンが変型弓の一薙ぎで後退させる。そして瞬く間に弓の形に戻し、矢を放射状に放つ。
    「ぐ、ぐっ……」
     近づけない前衛は焦れたように左右に身じろぐ。後衛から飛んできたナイフを、レイヴンがすかさず小刀で打ち返す。
    「……聖なる雫よ、降り注ぎ……」
     手を組み、自分の内に意識を集中させる。そのとき、横から剣を持った影が素早く飛び込んできた。振りかぶられたそれは、わたしのすぐ近くに迫り、視界いっぱいに広がった。防ぐ手立てがない。避けるのも間に合わない。数瞬が永遠のように長く感じられ、粘ついた液体の中にいるような心地がした。
    「轟け鼓動!」
     鋭い声がその静寂を切り裂く。周囲の敵は一様に動きを止めていた。――詠唱破棄の時間停止ストップフロウだ。手を振り上げて闇に立ち尽くす姿が、次々にレイヴンを中心とした波動に呑まれていく。抵抗する手段のないまま、武装を引き剥がされ吹き飛ばされていく。
    「……っ、我に力を!」
     中断しかけていた詠唱を完成させる。光の雨が降り注ぎ、体勢を立て直そうとしていた一部が目を覆って倒れ伏す。
    「ぐっ……ぐあ……」
     やがて、辺りはしんと静まり返った。地面に伏した数々の体は動き出す気配を見せない。そのそばで、胸を押さえてうずくまるレイヴンのもとに駆け寄る。
    「レイヴン、大丈夫ですか……⁉」
    「あーだいじょぶよ……ちょっと無茶が過ぎたかもね」
    「すみません、わたしのせいで……」
    「嬢ちゃんは武装持ってなかったし仕方ないって、おっさんが間に合ってよかったわ」
     立ち上がったレイヴンは一つ一つ気絶した戦闘員を確かめ、どこからか取り出したロープで縛っていく。念には念をってね、と言いながら、その作業はあっという間に済んでしまった。太い幹を取り囲むように、動きを封じられた者たちが並べられる。
    「今頃ハルルのほうもなんとかなってるでしょ、あとで収拾に来てもらわないとだな」
    「ハルル……?」
    「ハッ……ハハハ、ハハハハハハハハ……」
     突如、途切れ途切れの笑い声が聞こえ、わたしはとっさに声のしたほうを向く。レイヴンはゆらりと弓を構えて、茂みに向かって矢を放とうとする。するとガサガサと音を立てて、男がゆっくりと両手を挙げて出てきた。
    「まさかあちらの動きまで潰されるとはな……騎士団にも魔導士たちにも根回しをしていたというのに」
    「そうそう、その根回しが厄介で、なかなか動けなかったんだわ、騎士団長の不正疑惑とかあらぬことをでっち上げる計画もあったみたいだし」
    「ハハ……この半年、お前に一度しか接触できなかったのは、そのせいか……」
     男は脱力したように両手をだらりと下ろし、わたしたちを見据えた。
    「貴様らは揺るぎない力を持つ必要などないのだろうな……何やら反則めいた技を使うようだが……その身に紛うことなき力を宿す貴様らに、我々の思うところなど理解できまい……この世はいつもそうだ、持つ者が持たない者を支配し、持つ者の論理で何もかもが決められる」
     男の顔に流れる汗が、ポタポタと草の上に落ちる。その草を踏みしめながら、レイヴンはゆっくりと男に近づく。
    「……お前さんらが好き勝手してた頃、〝持たない者〟に何をしたか、忘れたわけじゃねえわな?」
     レイヴンはぞっとするほど冷ややかな眼差しで、男を見下ろした。
    「やめろ……来るなっ……!」
    「……悪いけど、〝これ〟は誰にも渡せんのよ」
     後ろに倒れ込んだ男のそばに屈み込み、首筋に、懐から取り出した小刀を突きつける。その手が、すっと引かれる。
    「やめてください! レイヴン!」
     わたしが叫ぶと、レイヴンはぴたりと動きを止めた。
    「……あなた方の痛みを、必ずわたしたちは引き受けます。わたしたちが〝持つ者”であるというのなら」
    「ハッ……知ったような、口を……っ!」
     隙をついて転がりながら逃げようとする男の腹に、レイヴンがすかさず小刀の柄をめり込ませる。そのまま男はだらりと手足を投げ出し、かくりと気を失った。
    「……あー……ここで殺っちまえば、あとが楽だったのに――っていうのは冗談冗談、嬢ちゃんの前で、んなことできないわな」
     小刀をしまい込み、手をひらひらと振る。胸の奥から閉じ込めていた息が漏れる。抑えていた感情がせきを切ったようにあふれ出し、その姿がぼやけて揺れる。
    「……レイヴン、レイヴン、レイヴン……っ‼」
     たまらず駆け寄って、その胸に飛び込んだ。じわりと感じる温かさに、次々と涙がこぼれる。生きていた。本当に、生きて、こうして会えた。
    「わたし、リタと、ずっと待って……一度は、もう、帰ってこないかもって……いったい、今までどこで、何を……っ」
    「……すまんね、心配かけて」
     レイヴンはやさしくわたしの背中を叩くと、かいつまんで話してくれた。この半年の間に、いったい何があったのか。
    「妙な連中が嗅ぎ回ってるってのに気付いたのが、半年と少し前だったかね」
     その集団の動きに気付き、レイヴンは各地を転々としながら、動向を探っていたという。どうやら狙われているのは自分だけだと分かり、目的はもしかすると心臓魔導器なのではないかと当たりをつけたらしい。情報を集めた結果、それが的中した。
    「まあ、いつかどっからか漏れてもおかしくないとは思ってたけど……まさかそこからこんな大それたことを企ててたとは、初めのうちは思ってなかったわ」
     男が言っていたように、レイヴンの持つという魔導器が〝何〟であるかまでは把握されていなかった。けれどアレクセイがレイヴンに魔導器を預けていたと解釈した向こうは、遺された魔導器が他にも多数あると踏んで、計画を実行に移そうとした。それらを帝国が密かに隠し持っているに違いないと読んで。
    「そこまで突き止めれば、奴らが次に何をするかは明白だったってわけよ、でもちょっと手間取っちゃって、後手に回っちまった」
     わざと接触をはかり、おびき寄せて、一網打尽にしようと考えた。ケーブ・モック大森林での交戦は、熾烈を極めたという。そのときは二十人余りを相手にし、半数近くを無力化するに至ったとレイヴンは話した。
    「でも、さっきみたいに奥の手を使おうと思ったんだけど、上手く発動しなくて、そこをバッサリといかれちまってね。そのままなんとか連中を撒いて、そんときは、もう死にそうなくらい苦しかったわ」
     まるで、昨日食べたものの感想でも話すように、あっけらかんと言う。
    「……本当に……レイヴンなんですよね……あんな、手紙まで残して……」
    「……あれ、見つかっちまったか」
     ばつが悪そうに、目を逸らして頭をかく。
    「でも、これで……リタも喜ぶと思います。ちゃんと帰ったら、リタによく謝ってくださいね……?」
     どうしても涙声になってしまった。早くリタに会わせてあげたかった。どこ行ってたのよ、バカ、と怒らせてあげたかった。
     けれど、レイヴンは返事をしなかった。俯いたまま、じっと押し黙っていた。
    「レイ、ヴン……?」
    「……ごめん、嬢ちゃん、俺は……帰れない」
     呻くように、喉の奥から声を絞り出すように、そう告げた。
    「帰れないって……どういう……こうして、無事、だったのに……」
    「……俺の心臓は、もうじき止まる」
     音が止まった。葉擦れの音が、耳鳴りのように低く響いて、わたしの耳を覆った。何も聞こえなかった。
    「連中とやり合って、大怪我やらかして、もう、あのとき本当に死ぬかもって思って、けど、そのときコイツがあり得ないくらいのエネルギーを放出して」
     手のひらを胸に当てて、ぎゅうと力を込めるように指を曲げる。
    「……怖くなった、俺は、死にたくないと思ってしまった。嬢ちゃんたちの前から姿を消したときから、もう長くない予感ははっきりとしていたのに……だからさ、勝手に死ぬな、って言われたけどさ、ひとりはみんなのために、だっけ? 今度こそ、最期くらい……そういうのに殉ずるのもいいかなって」
     自分はもう長くないと、そう予感して、わたしたちの前からいなくなった。狙われているのは自分だけだと気がついて、わたしたちから離れた。誰かが危なくなると、躊躇いなくその命を投げ出す。レイヴンは、そういうひとだった。薄々どこかで気がついていた。姿を消したのは、わたしたちに知られたくない何かが起きたのではないかと。
     このひとは、自分の人生に、自分で幕を引きたがっているのかもしれない。
    「……死んだっていいって、レイヴンは、そう言うんですか……? みんなが、リタが、……わたしが……レイヴンのことを、愛していると言っても?」
     レイヴンの見開かれた瞳をまっすぐにのぞき込んだ。闇にきらめく深い海の底のような色。こんなに近くで見つめたのは初めてだった。わたしの姿が映りこんでいた。
    「……もう、諦めさせてよ」
     くしゃりとわずかに顔がゆがむ。わたしの肩に触れ、首を左右に振って唇を噛む。
    「これ以上、無様にしがみ付いてるのは苦しくて仕方ない、生きていたらお前さんらに迷惑しかかからない、奴らのことだってそうだし、元はといえば、心臓があるかぎりまた同じことが起こるかもしれない」
     涙こそこぼさなかったが、慟哭するような声だった。
    「……何より、もしこの心臓に、俺の命に危険があると分かったら、あの子は……リタっちは、何が何でも生かそうと必死になるだろう、俺は、あの子の、そんな姿を、見たくない……」
     レイヴンが失踪したあとの、取り乱したリタのことを思い出した。どこかぼんやりとした瞳で、遠くを見つめるリタ。自室のドアをゆっくりと閉めるリタ。それから、わたしを抱きしめてくれたリタのこと。
    ――だから、あたしは今でも諦めてないわ。おっさんは、あいつは絶対にまだどこかで生きてるって。
    「……生きていてほしいって、みんなが願って、生きさせようと必死になるのは、レイヴンのためじゃない」
    「え……」
     指先で涙を拭い、レイヴンのかさついた両手を、自分の両手で、つよく力を込めて、挟み込んだ。
    「自分のために、自分が、わたしが、レイヴンに死んでほしくないから、いなくなった世界なんて考えたくないから、だから何が何でも生かそうとするんです。それは、まるきり、自分のためでしかない」
     木々の間から、かすかな明かりが差し込む。青白い、清かな光だった。
    「レイヴンが諦めても、わたしはこの手を離しません。無様でも、ここにしがみ付いたままでいます。わたしは、もう、諦めません……リタが守ろうとした、レイヴンの命を」
     願うように、祈るように、わたしはレイヴンの手を握る。その手が、次第に細かく震えはじめる。
    「ははっ……本当に……俺は……」
     わたしの手の中から、レイヴンの浅黒い手が、するりとすべり落ちた。目の前の体がぐらりと傾き、重たい音を立てて地面に投げ出される。
    「……レイヴン⁉」
    「ゴホッ、ゴホッ……」
     口を手で押さえながら咳き込む。指の隙間から見えた唇から、赤いものが流れ出していた。
    「……ごめん……じょ、ちゃん……リ、タっち、に………………」
     言葉は途切れ、虚ろな目が、蝋燭ろうそくの火が消えるようにふっと閉じる。
    「レイヴン、レイヴン……⁉ しっかりしてください……っ!」
     治癒術をかけても、レイヴンの様子は変わらなかった。どれだけ唱えても、からだをすり抜けていく。とっさに屈み込み、レイヴンの胸に耳を押し当てる。噛み合わない歯車の悲鳴のような、機械音の洪水が耳に飛び込んでくる。先ほどの戦闘の影響であることは明らかだった。けれど、音を聞いただけでは、何が起きているのか分からない。今まで心臓魔導器の検診の様子をちゃんと見ていたことはほとんどない。知識もほとんどない。わたしでは、レイヴンを助けられない。
    「リタ……」
     ハルルで何か起きていたと言っていた。そちらに対処した者たちが、救援に来るのを待つべきだろうか。拘束した集団のこともある。ここを離れるのは得策ではないかもしれない。
    ――そんなこと、どうだっていい。
     リタなら、きっとそう言うだろうと思った。あきらめないと言ったのだ。涙を飲み込んで、ぐったりと倒れ込んだレイヴンの肩を持って起き上がらせる。かすかに呼吸をしているのが感じられた。腕を回し、体重を支えるように立ち上がろうとする。膝がある位置より上がらずに伸びきらない。レイヴンの体重がわたしより重いのは元より、気を失っていることでさらに支えるのは難しくなっていた。まだ立ち上がる前からハアハアと荒い息を吐いてしまう。空気をより多く吸い込むために、空を見上げた。ハルルで見上げたときと変わらない半月がぽっかりと木々の隙間に浮かんでいた。
    「……行かなきゃ」
     わたしは、レイヴンを助けなければいけない。レイヴンを、リタに会わせなければいけない。それはずっとずっと願っていたこと。
    「……ウンディーネ!」
     内に向かって呼びかける。わたしの胸の内側で、あたたかな声がする。
    「――どのような用向きじゃ」
    「急に呼んでごめんなさい、ハルルまで、ここからどのくらいありますか」
    「……ここは古の呪いの森。花の街まで、人間の足でなら、日が昇る前までにはたどり着くはずじゃ」
    「クオイの森……! ありがとうございます、それなら、きっと大丈夫です」
     クオイの森なら、ハルルからさほど離れてはいないし、道も分かる。
    「わらわは……今や世界に遍く力を分ける身、そなたのためにすべてを捧げることはできぬ」
    「分かっています、いつも居てもらうだけでも、どんなに……だから、わたしは、自分の願いをきっと果たします」
     声は少しの時間をおいて、一際強く響いた。
    「……加護を、一欠片、授けようぞ。精霊といえど、運命までは変えられぬ……けれど、そなたたちが変えたいというのなら、わらわたちはそれを受け入れよう……」
     体中に水が満ちるように、感覚が手足の先まで流れ込んでくる。もう一度、レイヴンの体を支えたまま立ち上がる。膝がぐっと伸びる。先ほどよりは、上手く支えられるようになった。
    「ありがとう……」
     胸に手を当てて、言葉を届かせるように口にする。レイヴンの背中は大きく、わたしの腕はとても届かない。ずっと気を張っていないと、体がすぐにずり落ちてしまいそうだった。レイヴンの靴が地面に擦れて、歪な音を立てる。わたしは一歩ずつ歩き始めた。倒れ込んだ集団を背に、森の出口を目指す。赤い花を踏んでしまった。ごめんなさい、でも、と心のなかで詫びた。レイヴンの額に汗が浮き始めたのを見て、より歩を力強く進める。しっかりと深く呼吸して、全身の力が失われないように気を配る。
    「……ああ……」
     ざあっと木立の間を吹き抜ける風がわたしたちを迎えた。鬱蒼とした木々のなかを抜け、開けた場所に出た。道の先に、ハルルの街がぼんやりと光って見えた。月明かりが、行く道を照らしてくれている。この道は、初めてハルルへ向かったときに通った道だ。
    「もう、少し……ですよ、レイヴン……」
     レイヴンの体はちゃんとまだ温かかった。人の温度をしていた。それだけで、わたしはいくらでも歩けると思った。汗がぽたぽたと流れ落ち、涙と混じって頬を濡らす。これがほんとうのわたしの使命なのだと思った。わたしの好きなひとを守らなければ、生かさなければ。その言葉だけが何度も頭のなかで繰り返された。やがて時間の感覚も重さの感覚もうすれ、ただ足を前に動かしていた。支えた部分からレイヴンの体と一体になったような、そんな気さえしていた。街灯りが、丘の向こうに浮かび上がる。
    「……エステル⁉ うそ……エステルっ‼」
    「……エステリーゼ様‼」
     遠く、道の先から仲間たちの声が聞こえてくる。駆け寄ってくる姿の中には、確かにリタもいた。
    「あ、あ……よか、った……」
     安心したせいか、かくりと力が抜けて、そのまま膝をつき倒れ込んでしまった。レイヴンの体が隣に折り重なる。
    「……『みんなは、ひとりのために』まで、ですよ、レイヴン……」
     その温かな手を、もう離さないよう、しっかりと握った。




     5 光


     だれか、だれかここにきて。
     目尻から流れ落ちる涙の熱さで、わたしは目覚めたのだとわかった。ぼんやりとした頭で、指の間から天井を見つめ、シーツにもう片方の指を這わせ、ここが寝室のベッドだと気付いた。親しみ慣れた匂いをそっと吸い込む。
     窓の外は夕暮れの色をしていた。最後に意識を手放したときは、確か明け方近くだったように思う。そんなに長く眠ってしまっていたのか、とぼんやりと記憶をたどる。
    「……エステル?」
     ベッドの上に座ってぼうっとしていると、ジュディスがドアから顔を覗かせていた。わたしと目が合うと、ほっとしたように部屋の中に入ってくる。
    「よかった……目が覚めたみたいね、どこか痛いところはない?」
     両手をきゅっと握りこみ、気遣うようにさすってくれる。
    「大丈夫です、ちょっとぼうっとするくらいで」
    「エステル! 目が覚めたの?」
    「おい、カロル、騒ぐなって……」
     ドタドタと足音がしたかと思うと、懐かしい顔が飛び込んできた。
    「ユーリ……カロル……」
     カロルはわたしの顔を見るなり、ぼろぼろと大粒の涙をこぼし始めた。
    「よかったあ……ボク、エステルたちが傷だらけでハルルに運び込まれてきたとき、ほんとにどうなるかと思って……」
    「……ま、無事に目覚めたんなら一安心だ、こんな形で何だけど、久しぶりだな、エステル」
    「ご心配おかけしました……お久しぶりです、ふたりとも」
     ユーリはあまり変わらないが、カロルは少し背が伸びたのが見て分かった。頬を綻ばせかけて、はっと部屋の中を見回した。わたしの隣のベッドは綺麗に整えられていて、誰かが寝ていたような形跡はなかった。
    「……リタは、レイヴンは、どこですか?」
     三人が一様に虚を突かれたように、一瞬のあいだ黙りこむ。わたしの手を包んでいたジュディスの手が、力を緩める。
    「……あっちの部屋だ、オレたちは邪魔になるかと思って、休憩がてら居間で待たせてもらってた」
    「ボクたち、ハルルが危機にあるって情報を聞きつけて、三人でここまで来たんだ」
    「そうしたら、ハルルを取り囲んでいた謎の集団を見つけて、制圧したのよ。それから騎士団も来て、事態の収拾にあたっていたら、あなたたちが運び込まれてきて」
     レイヴンの打った手とはこのことだったのだ。何らかの筋で凜々の明星に情報を届けたのだろう。
    「……レイヴンは、まだ目覚めてないんですね」
     わたしがそう言うと、カロルとジュディスはうつむいて、ユーリだけが首を縦に振った。
    「……行ってやれよ」
    「え?」
    「リタが必死に治そうとしてる。オレたちが全員どやどや居たらうるさいだろうが、エステルなら大丈夫だろ」
     ユーリは腕組みをしながら、扉の外に目を向ける。
    「……エステルが、ここまで連れてきたんだろ、あのおっさん……命の恩人が行ってやったら、感激して目が覚めるかもしれねえぞ」
    「……そうだね、レイヴンなら、きっとそうするよ……!」
    「私たちがとやかく言わなくても、もうあなた今にも行ってしまいそうだもの」
     ジュディスの言うとおり、わたしはもう言葉の途中から立ち上がっていた。
    「ありがとうございます……わたし、わたし……」
     皆が微笑みかけてくれる。またこうして、ただ笑い合いたいと思った。
    「もう少ししたら、また私たち外の手伝いに行くわ、二人のこと……よろしくね」
     ジュディスが懇願するように両手を胸の前で組む。カロルが握り拳をかざしてみせる。ユーリはわたしの目を見てゆっくりと頷いた。何も言えずに、ただこくりと頷き返した。
     扉を押し開けて、居間へと出る。テーブルの真ん中に置かれた花は、以前と変わりなくゆるく頭を垂れていた。茶器が三つ使われた跡があった。それを横目に、客室へと歩を進める。握ったドアノブが、やけに冷たく感じた。おそるおそる、でもしっかりと握って、わたしは部屋の中に入った。

     カーテンの閉められた部屋は少し薄暗く、わずかな灯りがつけられていた。ベッドには静かに目を閉じたレイヴンが横たわっており、すぐ側の椅子にリタがこちらに背を向ける形で座っていた。わたしがドアを開けると、リタはくるりと首を動かした。
    「……あ、エ、エステル……⁉ 目が覚めて……」
    「ごめんなさい、ノックもせずに、驚かせてしまいました」
    「そんなこと、いいの、いいのよ……エステル、エステル、エステル……っ!」
     リタはわたしの胸に飛び込んで、せきを切ったように泣き出した。わたしが眠っていたあいだ、ずっとレイヴンの側についていたのだろうか。涙を流す暇もなく。
    「リタこそ……ハルルが襲われたって聞いて、無事でよかったです……」
    「こっちは、大事になる前にジュディスたちが来てくれたから……フレンからだいたいのことは聞いたわ、あいつら、魔導器を復活させるために動いてた奴らだって」
     聞いたところ、ハルルを襲ったのは、研究所を押さえるためだったという。研究員の中にも手の者が潜んでおり、危うく手引きされるところだったのを、凜々の明星が駆けつけ取り押さえたのだ。
     フレンはハルルの外で警備に当たっているようだった。わたしがクオイの森方面から歩いてきたのにも気づき、そちらにも部隊を向かわせたという。
    「レイヴンは、半年前から気付いていたみたいです、自分が狙われてるってこと」
    「おっさん……ほんとに、ばか、ばかよ……」
     リタはレイヴンのほうを向き、悔しそうに唇を噛む。
    「……レイヴンに、帝国が取るべき痛みの責任を、背負わせてしまった……こんなことになったのは、わたしにも責があります」
    「バカなこと言うんじゃないわよ、たとえそいつらがどんだけ人生めちゃくちゃにされたとしても、ただの八つ当たりにしか思えないわ、あたしには」
    「けれど……必ず償わないといけない、この痛みは」
    「……仮に、おっさんを狙ってた奴らに事情があったとしても、それに気付いたときに一人でなんとかしようとしたおっさんが悪いわ、あたしたちに打ち明けてくれてたら、何か策が見つかったかもしれないじゃない」
     眠るレイヴンに近づき、被せられた白い布団にそっと触れる。リタの指がふわりとやわらかく沈んだ。
    「……あたしは、信頼されてなかったんだって、それが悔しいのよ」
     リタは布団に手を置いたまま俯いた。涙の名残が頬をつうと伝う。
    「リタ、レイヴンの具合は……どうなんです?」
    「……まだ動いてはいるわ、この子は……けど、いつ止まってもおかしくない……何度術式を調整しても、変換元のエネルギーがないとどうにもならない」
     レイヴンの心臓魔導器は、レイヴン自身の生命力で動いている。生命力というエネルギーが尽きたなら、魔導器は動くことができない。
    「今は……そうね、回す力のなくなった滑車が、慣性で動いているようなものかもしれない」
     淡々と、何も感情を乗せないように十分に気をつけた声だった。
    「それじゃ、レイヴンは……」
     もう助からないんですか、とは口にできなかった。ここまで来たのに、やっと会えたのに、言葉を交わせないなんて、再会を喜べないなんて。
    「でも、やれることは、やるわ……最後まで」
     リタが制御盤を開いて、行き交う複雑な記号に手をすべらせる。――最後まで。その言葉が耳に残り、頭をわんわんと揺らして響く。目の前にある事実を理解することが、わたしにはできなかった。レイヴンが姿を消したこと、リタがふさぎ込んでいたこと、そして今また、レイヴンの命が尽きようとしていることも、わたしはちゃんと見つめることができなかった。ぺたりと床に座り込み、見上げたリタの背中がゆらゆらと揺れた。涙を指先で必死に押しとどめる。一人でなんでも気付いてしまう、その背中を支えなければいけないのに、わたしは何をしているのだろう。もう一度ふたりに笑ってほしくて、わたしはここまで来たのに。
     ベッドの側によろよろと近づき、布団からはみ出た手を取る。皮膚の表面はつめたかったが、ぎゅっと握ると、かすかな温もりが感じられた。慣性だけではない、何かもっと内に息づくものが、まだレイヴンを生かしている。
    ――俺は、死にたくないと思ってしまった。
     森でのレイヴンの言葉が耳に蘇る。苦しく締めつけられるような声だった。その声を思い出したとき、突如、頭の天辺から打たれたような衝撃が走った。
    「リタ、わたしの話を、聞いてもらえませんか……⁉」
     目を丸くするリタに、わたしは森でレイヴンから聞いたことを思い出しながら話した。
    「……瀕死時のエネルギー放出……あたしの仮説は合ってたってことね……」
    「わたし、思ったんですけど……心臓魔導器には、ある程度の意志があるんじゃないでしょうか? 人間と思いを交わし合う……精霊のような」
     リタが目を見開く。レイヴンが死に瀕したときに溢れたという膨大なエネルギー、それはレイヴンの〝死にたくない”という思いに応えたものだったのではないか。何の理論も裏付けもないただの直感だ。けれど、強烈なイメージとともにわたしの中に閃いた。
    「それに……わたし、思い出したんです、ハルルの樹のことを……」
     ハルルの樹は、結界魔導器と大樹が結びついて一体になったものだ。そして、あの樹にも精霊が宿っている。
    「レイヴンは……もしかしたら、ハルルの樹と似ているんじゃないでしょうか?」
     がたんとリタが椅子から下りて、足下に置いてあった資料をかき分け、一冊をパラパラとめくり出す。
    「……魔導器と有機体の融合については、あたしも前に理論化できないか考えてたの。でも、なかなか上手くいかなくて、そのままにしてた……」
     文字が所狭しと書き連ねられたノートを、次から次へとめくっては閉じていく。表紙を見て、心臓魔導器についての記録だと分かった。リタが綴った、レイヴンの命の跡だ。
    「そのとき立てた仮説が、もしかしたら使えるかもしれない……何が起こるか分からないし、ちゃんと上手くできる見込みもないけど……」
    「それでも……何もしないよりずっといいと思います。それにリタが決めたことなら、絶対に失敗しないって自信あります。今までも、そうだったでしょう?」
     肩に手を置いて、力強く微笑む。とにかく何かしなければ、悲しみや絶望に追いつかれてしまいそうだった。必死に走らないと負けてしまう。目の前に見えたどんな可能性にでもしがみついて離したくない。
    「……あたしたちのマナを使って、心臓魔導器に呼びかける。あたしが流れを操作するから、エステルはマナを注ぎ込むのに集中して」
    「えっと、どうすればいいんでしょう……?」
    「前に、ゾフェル氷刃海とかでエアルの流れを導いたときがあったでしょ、そのときのことを思い出してくれればいいわ」
    「……わかりました、うまくできるかわかりませんが、やってみます」
     リタがレイヴンの服に手をかけ、心臓魔導器をさらけだす。赤く明滅を繰り返すさまは、見ているだけで息が苦しくなった。
    「始めるわ」
     リタの合図とともに、わたしは目を閉じる。聖核にエアルの流れを導き、精霊に初めて出会ったのは、もう二年以上も前のことだった。みんなで旅をしていた頃。リタもレイヴンもそこにいた。旅が終わっても、二人は一緒にいてくれた。たくさんの時間を過ごした。わたしはほんとうに幸せだった。だから、わたしはわたしのために、この幸せを諦めない。わたしの胸の奥から体中へ、何かが熱をもって満ちていく。
     目を閉じたままでも、心臓魔導器が光を放っているのが分かった。レイヴンの生を見守りつづけ、支えてきた存在。わたしたちのことも見ていたのだろうか? ずっとレイヴンとともにいたあなたのことを、わたしたちの知らないレイヴンを知っているあなたのことを、どうか教えて――。
    「わっ……!」
     リタが驚いたような声を上げて、わたしは目を開けた。魔導器から煌々と青い光が漏れ出していた。その光が束になって集まり、魔核の中心へと注がれる。そして光の注がれた中心から、ぽうと一際強い光が浮かび上がった。丸くて小さく、けれど眩しく強い。

    「――同じだ」
     体の芯をそっと打つような声が聞こえた。どこかで聞いたような懐かしさがあった。その響きを辿るように、耳を澄まし、目を凝らす。リタも同じように身を乗り出していた。
    「呼んだのは、あんたらかい」
    「そうよ……って、あんた、意外な喋り方するのね」
    「まあ、それはそうかもな」
     リタは一瞬気が抜けたように息をついて、もう一度光に話しかけた。
    「あんた……精霊、なの? 心臓魔導器の……」
    「正確にはそうでもあるし、そうでもないかもしれない、俺は俺であって、こいつでもある」
     二人でレイヴンの顔を見つめる。変わった様子もなく、静かに目を閉じている。
    「何? じゃあ、完全に同じ存在じゃないけど、依り代にして住んでる、ってこと?」
    「ひとまずそういうことでいいんじゃないか」
     光はこともなげに、軽い調子で答える。
    「あの……このままだと、あなたも生きられなくなってしまうんですよね、わたしたちはそれをなんとかしたくて、あなたに呼びかけたんです」
    「そうは言われても、俺も打つ手がなくて困ってたんだ。こいつの生命力だけでは、もうどこを探してもどうにもならない、無茶はそう何度もできるもんじゃない」
    「やっぱり、エネルギーの放出はあんたの意志だったのね」
     レイヴンであって、レイヴンではない、心臓魔導器の中に宿る存在は、不思議な雰囲気をともなってそこにいた。まるでレイヴンと話しているような、けれどやはり違うような、判別のつかない感覚に陥る。
    「というか、俺がこいつの意志に引っ張られたんだ、限界を超えて力を引き出すように。あれほど強いエネルギーに突き動かされたのは久しぶりだった。分かったよ、あんたらがいたからなんだな」
    「それ、どういう、こと……?」
    「声がしたんだ、死にたくない、死にたくない……そう叫ぶ声のなかに、違った響きが混じっていた……それは、そう、あんたらの波長と、よく似ていた」
     リタとわたしは顔を見合わせた。わたしたちの声が聞こえた? 信じられないというように、リタは口を手で覆い、目をぎゅっとつむる。
    「この子には、あんたの中には、あたしたちもいるっていうの……?」
    「生命力っていうのは、そういうことさ」
     わたしたちのもとへ再び生きて帰ることはない、そのつもりでレイヴンは姿を消したのだろう。けれど死の淵に立ったそのとき、たとえ一瞬でも、わたしたちのことを思い出してくれたのだろうか。わたしたちはどんな形で、レイヴンの中にいたのだろう。
    「わたしたちは……ずっとそばにいたんですね……」
     曇り空を窓から見上げるとき、食器を一つ多く出してしまったとき、埋めようのない空白が胸の中にあることに気付いた。書き連ねた資料に触れるとき、カレンダーがまた一枚めくられるとき、リタも同じだっただろう。その空白は、生きる力を失った証だった。そこにいた大切なひとが、今はそこにいないということ。
    「そんなものが、エネルギーになり得るっていうの……ばかよ、ばかみたい……」
     心臓魔導器を持たないだけで、わたしたちの中には同じものが流れている。いきものが持つかけがえのない力だ。その力が、わたしたちを結びつけてくれるとしたら。
    「……もし、レイヴンの生命力が足りないというのなら……わたしたちの生命力では、代わりにならないでしょうか?」
     リタが弾かれたように顔を上げる。光はわずかに左右に揺らめきながら、少しの時間を待った。
    「……あんたらの生命力を糧に、契約を結ぶってことか」
    「できるの……? 完全な精霊じゃないあんたでも……」
    「その通り、完全な精霊じゃないから、完全な契約とはいかないが……試してみれば、走るために地面を蹴り上げるくらいの力にはなるかもしれない」
    「滑車を回す、あたしたちが最初の一押しになるのね」
    「やりましょう、リタ……!」
     頷きあって、光のほうに向き直る。
    「……いいんだな?」
     自分の命を使っても、と光は言った。迷わずに、その言葉に微笑みかえした。リタもやわらかい眼差しで、光を見つめていた。愚問だったか、と表情は見えないのに、苦く笑ったような気がした。
    「じゃあ、契約の儀式といくか」
     リタが両手を前にかかげるのを見て、わたしも同じようにする。
    「我ら、今、心の精に願い奉る」
     契約の文言を、リタがゆっくりと唱える。
    「契約者の名の下に、我らの力を汝の糧とし、汝の力を我らの意に添わせんことを」
     思わず強く目をつむった。自分の中から何かが流れ出していくのをはっきりと感じた。ぶつかりあって、はじけ、力の奔流がだんだんとひとつに形作られていく。生きようと、生きてほしいと一心に願った。この力が、かけがえのないたったひとつの光となって、世界じゅうを駆け巡っているのだ。
    「……お願い……」
     隣から、絞り出すような声が聞こえた。それに呼応するように光がいっそう瞬いた。
    ――あんたらの行く先に、幸多からんことを。
     ゆっくりと告げたあと、流れはひとつに吸い込まれ、部屋はしんと静かな薄明かりに満たされた。わたしたちは揃って辺りを見回し、元の通りになっていることに気付く。
    「エステル……!」
     見ると、心臓魔導器が、やわらかな赤い光を灯していた。深呼吸するような速さで、光が強まり、弱まり、また強まる動きを繰り返している。
    「うまくいったんですね……契約……」
     制御盤を開き、リタが内部の状態を確認する。先ほどよりも、レイヴンの顔色は心なしか良くなっているように見えた。
    「ちゃんと正常に動きはじめてる……エネルギーの供給もできてる……こんな、こんなことって……」
    「……感じます、わたしたちの間に、渡された橋のようなものを……なんだか、くすぐったくて、不思議な感じです」
    「あたしも……自分の中でいろいろひっくり返ったような感じで、まだ落ち着かないけど……ここに何かあるのは、わかる」
     リタの手が、自分の胸からレイヴンの心臓までの空間をなぞる。目には見えないが、ほんとうにそこに橋が渡されているように思えた。
    「こんなことしたって言ったら、またうるさいわね、このおっさんは」
    「ふふ……しばらくは秘密、ですね」
     二人で、じっとレイヴンの顔を見つめる。リタの手が、やさしく魔核を撫でる。
    「あたしたちが……ずっと見守ってやるんだから……あんたのこと……」
     そのとき、かすかに上下する肩が、ピクリと動きをみせ、閉じたまぶたが震えだす。
    「……ん……」
     瞳がゆっくりと開かれた。ぼんやりと宙をさまよう視線が、わたしたちをとらえる。
    「……リタっち……嬢ちゃん……」
    「……こんの……バカあっ……‼」
     あまりにも勢いよく立ち上がったので、一瞬本当に殴りかかってしまうのかと思った。リタはその勢いのまま、レイヴンの胸にがばりと飛び込んだ。
    「バカ……バカ……バカっ……大バカよ……バカあ……う、ああ……」
     そのまますがりついて、大声で泣きはじめた。レイヴンは戸惑ったように、おずおずとその頭を撫でる。
    「……迷惑、かけちまったね……結局」
    「ちがいますよ、レイヴン、こういうときはなんて言うか、知ってますか?」
     指を立てて話しかけるわたしに、レイヴンが困ったように眉を下げる。
    「帰ってきてくれて、ありがとうございます……レイヴン」
     枕元に屈み込んでそう言うと、眩しそうに目を細めて、泣き出しそうに笑ってみせた。
    「……ありがとう……ふたりとも……」
     こくりと頷いて笑い返す。そうしていっそう大きく泣きじゃくるリタの背中を、ぽんぽんとやさしく叩く。わたしもリタの温かい背中に触れると、涙がぽろりとこぼれて、あとは止まらなかった。夕闇は夜の帳へと色を変えていた。夜に浮かぶ大樹が、わたしたちの再会を、そっと寿いでくれているような気がした。




     エピローグ


     ぱたぱたと窓際の埃を払うと、陽の光の中にきらきらと舞い上がる。それを受け止めるようにくるくるとハタキを回す。机の上は丹念に布で拭き上げる。拭いたところからつやつやときれいな木の色になっていく。少しだけ残された本を、きちんと揃えて壁際に置く。『魔導学の基礎』、『エアルの循環理論』など、リタにとってはもうすべて頭の中に入っているようなものばかりだ。
     用具を持って、客室に向かう。こちらの部屋も空気がこもっているので、まずは窓を開けて風を通す。ほとんど物が置いていないので、手早く埃を取ってしまう。磨かれた机と椅子のそばのベッドには、洗い立てのシーツと布団が敷かれている。そよと吹いた風に乗ってさわやかな香りが漂う。
     居間のテーブルには、空の花瓶が乗っていた。先ほど磨いた表面はつやつやと光っている。台所の器具も戸棚に片付けられ、残っている食材も街の人に引き取ってもらった。 レイヴンは、リタの作ったサバ味噌を食べて、本当に驚いていた。調理しているあいだも、ずっとぽかんと口を開けていた。
    ――こんな美味しく作るなんて、どんな術使ったの?
     食べる様子を恥ずかしそうに見ていたリタは、ばか、と言って顔を手で覆った。

     リタとレイヴンは、先日この家を発った。わたしもしばらくの間、副帝の任のため帰ってこられなくなる。
     その前の、ささやかな大掃除だった。



     魔導器復活を目論む集団の情報は、フレンとユーリたちによって騎士団ギルド双方に伝達された。構成員の多くは拘束され、順次取り調べが行われる予定だ。一人ひとり申し開きの機会が与えられることになっている。残りの者たちについても、捜査の段取りが話し合われ、今後しばらく、帝都を中心に警戒態勢が敷かれることが決まった。

    「ありがとう、本当に……世話になっちまったわ」
     花びらの舞う庭先に立ち、レイヴンは眩しそうに空を見上げた。
    「いえ、こうして無事元気になってくれただけで十分です」
    「なんとか帝都まで行けるくらいに回復しただけで、まだぜんぜん本調子じゃないんだから、絶対! ぜーったい! 無茶とかしないでよね」
     荷物を背負ったリタがレイヴンの腕をばしっと勢いよく叩く。
    「いてっ、痛いって……わかってるっての、青年たちにも散々絞られたし」
    「ふん……それならいいわ」
     目覚めたレイヴンを、駆けつけた仲間たちはあたたかく迎えた。しかしユーリとジュディスは笑顔をたたえたままレイヴンの肩に手を置いて、
    「おっさん、皆にさんざん心配かけた大層な理由……」
    「じっくり説明してもらえるかしら?」
     と詰め寄り、その迫力でレイヴンを震え上がらせていた。
    「でも、リタがそばにいるなら安心ですね」
    「まあ、なんかしようとしてたらすぐに引っ叩けるのはありがたいわね」
     わたしたちのやり取りを見ていたレイヴンが、困ったように頭をかく。
    「リタっち、そんな四六時中おっさんのこと見張ってるつもりなの……?」
    「重要保護対象なのよ、当たり前でしょ」
     レイヴンは、健康状態と事件の影響を鑑みて、しばらくの間、騎士団の管轄により帝都で療養することになっている。残党に狙われる可能性も大いに残されていることから、保護と監視の意味合いが大きい。リタも心臓魔導器にかかわる第一人者として、その付き添いのため帝都へ向かうこととなった。
    「気をつけてくださいね、また、帝都で会いましょう」
    「うん……」
     リタは少し力ない返事をして、わたしの背後に立つ家をながめるように視線をめぐらせた。顔を覗きこむようにしてレイヴンが話しかける。
    「やっぱり、さみしい?」
    「そんなんじゃないけど……なんかいろいろ思い出してただけ」
     晴れた日の暖かい風がわたしたちの間を吹き抜けていく。花壇の花がそよそよと揺れる。庭の植物たちは、街の人に世話をお願いすることにした。すぐそばの耕した土には、ハーブの芽が顔をのぞかせている。
    「……それがさみしい、ってことでしょ」
     二年半の月日は瞬く間に過ぎて、この家で三人で過ごしたこともいつか遠い思い出になるのだろう。テーブルを囲み話したことも、食べ慣れた料理の味も、穏やかな陽の匂いも。
    「……えいっ」
     腕をせいいっぱい広げて、二人に抱きついた。どちらの体もあたたかくて、心ほどける匂いがした。
    「わ、エ、エステル……?」
    「嬢ちゃん……」
     もう会えなくなるわけではない。けれど、今このときは、もう二度とやってこない。今この場所にいるわたしたちとは、ここでお別れなのだ。
    「……ありがとう、大好き、です」
     顔を上げて、にっこりと笑ってみせる。リタの目がじわりと潤み、耐えかねたように顔をそむける。レイヴンは目を伏せたあと、やわらかく微笑んで、わたしの背中にやさしく手を当てた。それだけで、十分だった。
     街の入り口に停められた馬車に二人が乗り込んでいく。窓からリタが顔を出して、大きく手を振る。後ろにレイヴンの顔も見えた。馬車がだんだんと遠ざかり、丘の向こうに消えるまで、わたしは手を振り続けていた。




     他の部屋はすべて済んでしまって、大掃除はわたしの部屋が最後だった。読みかけの本と書きかけの物語を綴った紙が机の上に散らばっている。この家でたくさんの物語を紡いだ。晴れの日も雨の日も曇りの日も、わたしは物語とともにあった。作家としてのわたしは、この家とともに、少しの間お休みだ。
     カーテンを開け、空気を入れ替えるために窓を大きく開け放つ。直後、ぶわっと勢いのよい風が吹き込んでくる。風を受けて少し後ろに下がる。小さな花びらがぱらぱらと部屋のなかに降ってくる。視界をさえぎる髪を手で押さえて、丘の上にそびえる樹を見上げる。そろそろ満開の季節も終わろうとしている。
     机の上の紙が風に巻き上げられ、ほとんどが机から落ちてしまう。陽の光のなかに紙がバサバサと舞った。どれがどの話だかわからなくなってしまうな、と思いながら、その様子をながめていた。そのうち、吹き飛ばされず机の上に乗ったままの、一枚の紙を手にとる。まだ書き上げていない物語の一つだった。花舞う街で暮らす三人が織りなす、大切な日々の物語。
    『――花舞う樹のそばに暮らす三人がおりました。
     三人はいつまでも、ともにいのちを紡いでいきながら、幸せに生きました』
     胸にあたたかさが灯るのを感じた。この世界は、物語よりも物語に似ている。
    「……めでたし、めでたし」
     季節は、そんな結末を過ぎて進んでいく。机に舞い落ちた花びらを句点の代わりに置いて、わたしはその紙を折りたたみ、引き出しの中にそっとしまい込んだ。





    ゆる Link Message Mute
    Aug 20, 2023 2:27:55 AM

    HAPPY END

    旅の終わりから2年。花の街ハルルで、エステルは住居の当てがなかったリタと共に暮らしていた。そこに、検診のため度々訪れるレイヴン。三人で過ごす時間はかけがえのないものになっていった。
    しかし、ある日レイヴンは姿を消し、消息を絶つ。その日からどこか上の空でいるリタのことを、エステルは複雑な気持ちを抱えながら見守っていた――。

    2019年1月のテイルズリンク14で発行したレイリタエス本の再録です。

    ##小説 #TOV #レイリタエス #エステル #リタ #レイヴン #テイルズ

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      心臓魔導器の検診中のふたりの話です。

      7/30開催のアップルグミ感謝祭2にてWeb展示させていただきました。素敵なイベントありがとうございました!(2022.7.31追記)

      #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #アップルグミ感謝祭2
      ##漫画
      ゆる
    • 2You’re a flame in my heart椿とリタっちの親和性について考えながら描きました

      2枚目は途中経過の画像です。
      いつもタイムラプスを撮るのを忘れる……。

      #TOV #リタ #テイルズ
      ##イラスト
      ゆる
    • カジノレイリタお試し投稿
      カジノ衣装ほんと好き

      #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ
      ##イラスト
      ゆる
    • 6Dear Cygnus【テイリン23新刊サンプル】2/12テイリン23新刊サンプルです。

      Web再録漫画+ちょっぴり小説+ほんの少しの描き下ろしがある、レイリタ漫画中心まとめ本です。
      本編沿い、カジノパロ、ぼんやりアレシュ前提、などなどまとめてます。

      なんと今回、ゲストのたかはるさん(TwitterID:@takaharu_ekaki)にとっても素敵なレイリタ漫画を描いていただきました!
      ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!

      ○頒布情報
      2/12 テイルズリンク23(東京ビッグサイト)
      東6ユ54b 猫は星を見て歩く

      『Dear Cygnus』
      A5/54p/600円(会場頒布価格)

      ○通販情報
      BOOTH→ https://cat-stargazer.booth.pm/items/4534083
      (2023.2.13追記)

      どうぞよろしくお願いいたします!

      ##サンプル ##漫画 #TOV #テイルズ #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズリンク23 #テイリン23
      ゆる
    • 20TOV絵まとめTOVのイラストをまとめました。
      後半からレイリタとレイリタシュです。

      1218エアブーSPARK+DRFに参加しております!(開催期間:12/18~12/24)
      https://air-boo.jp/310369/

      ##イラスト #TOV #テイルズ #レイリタ #レイリタシュ
      ゆる
    • 57/30-31 アップルグミ感謝祭2 お品書き7/30-31開催のpictSQUAREオンリー『アップルグミ感謝祭2』のお品書きです。
      イベントページはこちら→https://pictsquare.net/p6t6csuqdanevymzws44igdm2dsttmv9

      2,3枚目は当日Web展示について、4枚目はサークルカード、5枚目はサークルカットです。

      ①Web展示 レイリタ漫画
      心臓魔導器の検診中のレイリタの話です。全14ページ(予定)。

      ②Web展示 学パロレイリタ小説
      明け方のドライブに出かけるレイリタの話です。
      2019.8発行の学パロ短編集『Roundabout drive』からの再録です。

      ③既刊について
      イベント期間中(7/30~31)、既刊の通販価格を変更いたします(会場頒布価格と同じにします)。よろしければこの機会に覗いていただければ嬉しいです。

      どうぞよろしくお願いいたします!

      #TOV #レイリタ #テイルズ #アップルグミ感謝祭2 #お品書き
      ゆる
    • うみ海に来たレイリタの話です。
      夏だ!海だ!ってテンションで書きました。

      #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズ #毎月20日はレイリタの日
      ##小説
      ゆる
    • かつてすべてが星だったころ【前編/テイリン22新刊Web版】星喰み打倒から約千年後のテルカ・リュミレースでは、精霊への祈りによって人々は日々を暮らしていた。ある日、一人の学者が旅に出る。学者の目的は、遥か昔に失われた謎の古代文明〈星の欠片〉について知ることだった。

      魔導器を失った世界では、精霊術の実用化計画が進行しつつあった。そんな中、レイヴンは調子を崩す日がだんだんと増えていく。レイヴンの不調の原因を探っていたリタは、レイヴンと心臓魔導器の残り時間が減りつつある可能性に気がついてしまう。

      ---

      千年後のテルカ・リュミレースで、遥か古代に滅んだ文明を調べるため旅に出る一人の学者と、世界最後の魔導器の終わりに向き合うレイリタのお話です。
      こちらは前編です。

      ○内容について
      ・オリジナルキャラクターのみが登場するパートが本文の半分以上を占めます。
      ・外伝小説『虚空の仮面』『青の天空』に準拠しています。
      ・本編にない独自設定が多く含まれます。

      ○書籍版について
      テイリン22の新刊として発行予定です。
      こちらに掲載している全文と、付録2ページ、あとがきが含まれます。カバー周りに少しだけおまけ要素があります。
      紙で欲しい方向けの本です。

      『かつてすべてが星だったころ』
      B6/238p(カバー付き・表紙周り含む)/1500円(会場頒布価格)
      書影サンプル→ https://galleria.emotionflow.com/109082/641983.html

      ○頒布情報
      10/30 テイルズリンク22(インテックス大阪)
      6号館C か22b 猫は星を見て歩く

      ○通販情報(2022.11.2追記)
      BOOTHにて通販しております→https://cat-stargazer.booth.pm/items/4263938
      どうぞよろしくお願いいたします!

      ##小説 #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #テイルズリンク22 #テイリン22
      ゆる
    • Roundabout drive「海に行きたいの」
      まだ夜も明けぬうちに、突然訪ねてきた教え子のリタ。
      その頼みを聞き入れたレイヴンは、ふたりで静かな町へとドライブに繰り出す。

      明け方のドライブに出かける学パロレイリタの話です。
      2019.8発行の学パロ短編集『Roundabout drive』からの再録です。

      7/30開催のアップルグミ感謝祭2にてWeb展示させていただきました。素敵なイベントありがとうございました!(2022.7.31追記)

      #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #アップルグミ感謝祭2
      ##小説
      ゆる
    • かつてすべてが星だったころ【後編/テイリン22新刊Web版】星喰み打倒から約千年後のテルカ・リュミレースでは、精霊への祈りによって人々は日々を暮らしていた。ある日、一人の学者が旅に出る。学者の目的は、遥か昔に失われた謎の古代文明〈星の欠片〉について知ることだった。

      魔導器を失った世界では、精霊術の実用化計画が進行しつつあった。そんな中、レイヴンは調子を崩す日がだんだんと増えていく。レイヴンの不調の原因を探っていたリタは、レイヴンと心臓魔導器の残り時間が減りつつある可能性に気がついてしまう。

      ---

      千年後のテルカ・リュミレースで、遥か古代に滅んだ文明を調べるため旅に出る一人の学者と、世界最後の魔導器の終わりに向き合うレイリタのお話です。
      こちらは後編です。

      ○内容について
      ・オリジナルキャラクターのみが登場するパートが本文の半分以上を占めます。
      ・外伝小説『虚空の仮面』『青の天空』に準拠しています。
      ・本編にない独自設定が多く含まれます。

      ○書籍版について
      テイリン22の新刊として発行予定です。
      こちらに掲載している全文と、付録2ページ、あとがきが含まれます。カバー周りに少しだけおまけ要素があります。
      紙で欲しい方向けの本です。

      『かつてすべてが星だったころ』
      B6/238p(カバー付き・表紙周り含む)/1500円(会場頒布価格)
      書影サンプル→ https://galleria.emotionflow.com/109082/641983.html

      ○頒布情報
      10/30 テイルズリンク22(インテックス大阪)
      6号館C か22b 猫は星を見て歩く

      ○通販情報(2022.11.2追記)
      BOOTHにて通販しております→https://cat-stargazer.booth.pm/items/4263938
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      ##小説 #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #テイルズリンク22 #テイリン22
      ゆる
    • 11かつてすべてが星だったころ【テイリン22新刊/書影サンプル】星喰み打倒から約千年後のテルカ・リュミレースでは、精霊への祈りによって人々は日々を暮らしていた。ある日、一人の学者が旅に出る。学者の目的は、遥か昔に失われた謎の古代文明〈星の欠片〉について知ることだった。

      魔導器を失った世界では、精霊術の実用化計画が進行しつつあった。そんな中、レイヴンは調子を崩す日がだんだんと増えていく。レイヴンの不調の原因を探っていたリタは、レイヴンと心臓魔導器の残り時間が減りつつある可能性に気がついてしまう。

      ---

      千年後のテルカ・リュミレースで、遥か古代に滅んだ文明を調べるため旅に出る一人の学者と、世界最後の魔導器の終わりに向き合うレイリタのお話です。

      ○内容について
      ・オリジナルキャラクターのみが登場するパートが本文の半分以上を占めます。
      ・外伝小説『虚空の仮面』『青の天空』に準拠しています。
      ・本編にない独自設定が多く含まれます。

      ○Web版と書籍版について
      こちらで小説の全文を公開しています。→ https://galleria.emotionflow.com/109082/641793.html
      書籍版には、Webに掲載している全文と、付録2ページ、あとがきが含まれます。カバー周りに少しだけおまけ要素があります。
      紙で欲しい方向けの本です。

      『かつてすべてが星だったころ』
      B6/238p(カバー付き・表紙周り含む)/1500円(会場頒布価格)

      ○頒布情報
      10/30 テイルズリンク22(インテックス大阪)
      6号館C か22b 猫は星を見て歩く

      ○通販情報(2022.11.2追記)
      BOOTHにて通販しております→https://cat-stargazer.booth.pm/items/4263938
      どうぞよろしくお願いいたします!

      ##サンプル #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #テイルズリンク22 #テイリン22
      ゆる
    • 願いごと星座の本に対して妙な反応を示すリタと、それを一緒に読もうとするレイヴンの話です。

      #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズ #毎月20日はレイリタの日
      ##小説
      ゆる
    • いいことさがし好きなところを言い合おうとするレイリタの話です。

      ##小説 #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #毎月20日はレイリタの日 #11月20日はいいレイリタの日
      ゆる
    • 10/30 テイルズリンク22 お品書き10/30開催のテイルズリンク22(インテックス大阪)のおしながきです。
      6号館Cか22b 猫は星を見て歩く

      【新刊】
      『かつてすべてが星だったころ』
      千年後のテルカ・リュミレースで、遥か古代に滅んだ文明を調べるため旅に出る一人の学者と、世界最後の魔導器の終わりに向き合うレイリタのお話です。
      B6/238p/1500円(会場頒布価格)
      サンプル→ https://galleria.emotionflow.com/109082/641983.html

      #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #テイルズリンク22 #テイリン22 #お品書き
      ゆる
    • お月見満月の日にお月見するレイリタの話です。
      ED後だと月の光っていっそう明るく見えるんだろうなと思います。

      #TOV #レイリタ #レイヴン #リタ #テイルズ #毎月20日はレイリタの日
      ##小説
      ゆる
    • 8アップルグミ感謝祭2カット レイリタ絵7/30にpictSQUAREで開催されるアップルグミ感謝祭2に向けて描いたサークルカットのレイリタ絵です。
      「エリア5 え6」レイリタスペースで参加します。

      アップルグミ感謝祭2についてはこちら↓
      【イベント】テイルズオブシリーズオンライン同人即売会「アップルグミ感謝祭2」 https://pictsquare.net/p6t6csuqdanevymzws44igdm2dsttmv9


      いつもタイムラプスを撮ろうと思って毎度忘れるので、自分用の記録として経過を残してみたかった。

      2:へにゃへにゃのラフ 人間がいることさえ分かればいいと思った
      3:構図に悩みすぎて拡大変形しまくったのでここまですごい時間がかかってる
      4:適当に色を塗ってどんな感じか確かめてみる ここからもめっちゃ形を見直したので時間がかかった
      5:線画はあとでだいたい消えるのでざっと描こうと思ってもそんなにすばやくは描けなかった 塗りと同じ筆で描いてる
      6:色分けしてざくっと影付け
      7:線画に色をのせて上からいい感じに塗り込……めたらいいなという気持ちを込める
      8:サークルカット完成形 最終的に加工のパワーに頼る

      #TOV #レイリタ #テイルズ #アップルグミ感謝祭2
      ##イラスト
      ゆる
    • TOVSSまとめTOVのSSをまとめました。
      ヴェスペリアのいろいろな組み合わせがあります。
      詳細は目次をご覧ください。

      1218エアブーSPARK+DRFに参加しております!(開催期間:12/18~12/24)
      https://air-boo.jp/310369/

      ##小説 #TOV #テイルズ #レイリタ #ユリエス #アレシュ
      ゆる
    • 37毎月20日はレイリタの日 2022まとめ今年、Twitterなどにて『 #毎月20日はレイリタの日』のタグであげていたSS画像のまとめです。

      来年もまた毎月レイリタしていけたらなと思います!

      ##小説 #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズ #毎月20日はレイリタの日 #SS画像
      ゆる
    • コワイもの陽が暮れかけたダングレストでのレイリタの話です。
      『コワイものはなぁに?』のスキットが好きです。

      ##小説 #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズ #毎月20日はレイリタの日
      ゆる
    • 記念日お酒を飲むリタとレイヴンの話です。

      おっさんがリタっちの前でうっかり気が緩んで普通に酔っ払うところが見たい。

      ##小説 #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズ #毎月20日はレイリタの日
      ゆる
    • いつも通りの話お試し投稿2
      ふたりがベッドの上でわちゃわちゃしてるだけのレイリタです。
      #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #テイルズ
      ##小説
      ゆる
    • いつか解けるまで【テイリン27新刊/全文公開】魔導器を失った世界が変わっていく中、レイヴンとリタは心臓魔導器の検診で時折会う日が続いていた。
      そんなある日、驚くべき知らせが入る。ザウデ不落宮とともに沈んだはずのアレクセイが生きていた――。
      検診に来なくなり、アレクセイのことで一人思い悩むレイヴンを見て、リタはある行動に出ることを決意する。

      ―――

      ヴェスペリア本編沿いで、アレクセイが生還したif軸における、アレクセイとレイヴンとリタの三人のお話です。

      ○内容について
      ・アレシュ(アレクセイ×シュヴァーン)前提です。
      ・各外伝小説に準拠しています。特に『虚空の仮面』に基づいた描写を多く含みます。

      ○書籍版について
      こちらに掲載している本編全文と、三人の後日譚、あとがき、おまけ4コマ漫画が含まれます。
      (本編:約170p、後日譚:約40p くらいの分量です。ご参考までに!)

      『いつか解けるまで』
      B6/224p/1500円(会場頒布価格)

      ○頒布情報
      3/17 テイルズリンク27(東京ビッグサイト)
      東ホール3 フ19b 猫は星を見て歩く

      ○通販情報
      BOOTH→ https://cat-stargazer.booth.pm/items/5537005

      どうぞよろしくお願いいたします!

      #TOV #レイヴン #リタ #アレクセイ #アレレイリタ #テイルズ #テイルズリンク27 #テイリン27
      ゆる
    • 13毎月20日はレイリタの日 2023まとめ各所で『 #毎月20日はレイリタの日』のタグであげていた絵のまとめです。

      2023年は一コマ漫画を描こう!というのが当初の目的だったのが、途中から1コマじゃなくなる回もあるし、突然透明水彩にハマった回もあるしで、いろいろ冒険しました。楽しかったです。
      2024年もまた毎月レイリタしていきたいです!

      ※『 #毎月20日はレイリタの日』とは?
      レイヴンとリタの身長差・年齢差がともに「20」ということで、毎月「20日」にレイリタを何か上げようというふんわり企画(?)タグです。

      ##イラスト #TOV #テイルズ #レイリタ #リタ #レイヴン #毎月20日はレイリタの日
      ゆる
    • 3アレレイリタ4コマまんがアレレイリタの4コマまんが2編です。

      ※アレクセイ生存ifです
      ※こまけぇことは考えず読んでね

      ○宣伝
      ・NEOKET5(https://neoket.net/)にサークル参加しています。Z29『猫は星を見て歩く』、10/21まで。

      ・2024年春に、アレクセイ生存if設定の、アレレイリタ小説本を出す予定です。原稿頑張ります!

      ##漫画 #TOV #テイルズ #アレレイリタ #リタ #レイヴン #アレクセイ
      ゆる
    • いつか帰るところリーンとガイアがお茶を飲みながら話してるだけの話です。筆者は5.3未クリア&エデン共鳴編までしかプレイしてません……!フレンドさんからのリクエストで書かせていただきました。

      ##小説 #FF14 #リーン #ガイア #リンガイ
      ゆる
    • ふたりで夜を呑んで野営中の夜、森で話すリタとレイヴンの話です。

      この小説を元にした漫画→ https://galleria.emotionflow.com/109082/675847.html

      ##小説 #TOV #テイルズ #レイリタ #リタ #レイヴン #アップルグミ感謝祭3
      ゆる
    • 11ふたりで夜を呑んで野営中の夜、森で話すリタとレイヴンの話です。

      この漫画の元になった小説→ https://galleria.emotionflow.com/109082/675848.html

      ##漫画 #TOV #テイルズ #レイリタ #リタ #レイヴン #アップルグミ感謝祭3
      ゆる
    • 27/2 アップルグミ感謝祭3 お品書き7/2開催のアップルグミ感謝祭3-Day2(https://pictsquare.net/51de7px4o0vqsomx6nzilqyqeme0h46d)に参加します。
      エリア2 え3 猫は星を見て歩く

      【当日展示】
      ①レイリタ漫画(11p)
      野営中の夜、森で話すリタとレイヴンの話です。
      ②レイリタ小説(約1500字)
      ↑の漫画の元にした小説です。
      ③ダミュリタ小説〈R-18〉(約11000字)
      ダミュロンが酒場でリタを口説こうとする話です。

      【既刊通販】
      すべてBOOTHでの取り扱いです。イベント当日のみ会場頒布価格と同額にしますので、この機会によろしければ!

      ご興味あればのぞきにいらしてくだされば嬉しいです。
      どうぞよろしくお願いいたします!

      ##サンプル #お品書き #TOV #レイリタ #リタ #レイヴン #アップルグミ感謝祭3 #テイルズ
      ゆる
    • 25/14 KeyIsland9 お品書き5/14開催KeyIsland9のお品書きです。

      【新刊】
      ○『Tu fui, ego eris』
      Rewrite小説中心まとめ本です。Webに載せたもの中心に小説・SS11編と漫画1編を収録しています。
      書き下ろし小説として、小鳥、朱音、???の話が3編あります。
      Rewriteならなんでも読める方向けです。
      B6/64p/700円
      サンプル→https://galleria.emotionflow.com/109082/668359.html

      ○終のステラ感想ペーパー&ポストカード
      表紙カラー+本文4ページの、勢い感想文詰めたペーパーです。ポストカードと一緒に当日会場にて無配予定です。残部が出たら通販分にも同封します。

      【既刊】
      ○『あなたを愛した日のこと』
      書き下ろしこたこと小説本です。
      小鳥は幼なじみの瑚太朗と穏やかで楽しい学園生活を送っていた。そんなある夜、小鳥は森に迷い込み、自分は何か大切なことを忘れているのではないかと気がつく。
      カバーイラスト:いなほさん
      B6(カバー付き)/98p/900円

      ○『とある星の花たちへ』 ※リアルイベントのみ
      こたことSS集です。Webに掲載したものを、長いものから短いものまで25編収録しています。
      A5正方形/58p/600円

      初めての現地サークル参加です……!
      どうぞよろしくお願いいたします!

      ##サンプル #お品書き #Rewrite #こたこと #神戸小鳥 #天王寺瑚太朗 #千里朱音 #Key #KeyIsland9
      ゆる
    • 15Tu fui, ego eris【鍵島9新刊サンプル】5/14開催のKeyIsland9、新刊のお知らせです。

      Rewrite小説中心まとめ本です。Webに載せたもの中心に小説11編と漫画1編を収録しています。
      こたことが多めですが、Rewriteならなんでも読める方向けです。
      小鳥、朱音、???の書き下ろし小説があります。

      『Tu fui, ego eris』
      B6/64p/700円(会場頒布価格)

      5/14 KeyIsland9(https://www.umiket.com/
      C05 猫は星を見て歩く

      BOOTH→ https://cat-stargazer.booth.pm/items/4765158
      (2023.5.14追記)

      よろしくお願いいたします!

      ##サンプル #Rewrite #こたこと #神戸小鳥 #天王寺瑚太朗 #千里朱音 #Key #KeyIsland9 #鍵島9
      ゆる
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