【橙】遭難(サンプル)【ラーヒュン】 どうしてこうなってしまったのだろう。
拾い集めた乾いた流木を抱えて、寄せては返す波の音を聞きながら、ヒュンケルは遥か水平線の彼方を見つめていた。
もはや見慣れた光景だ。いつここから抜け出せるのか。ヒュンケルは嘆息した。
一足遅かった。パプニカからベンガーナに向かう定期船は二時間前に出たばかりだという。
パプニカやロモスの捜索はそれぞれの出身者に任せることにして、ヒュンケルとラーハルトはベンガーナからひたすら陸路を北上しながら、オーザム方面でダイを探すつもりだった。
次の定期船は一週間後だ。一刻も早くダイを見つけたい。逸る気持ちが抑えきれないふたりは、なんとか貨物船の船長に話をつけた。正規の定期船の運賃に加えて、船員として下働きをすること。それが条件だった。
デッキ磨きに帆の上げ下げ。時には調理場で芋の皮を剥く。大戦で弱ったヒュンケルの体には、正直なところ連日の肉体労働はこたえたが、その程度で弱音を吐いてはいられない。さすがに夜の見張りの役には立たないので、最下層の大部屋で新入りの船員たちと一緒に泥のように眠った。
「怪物(モンスター)だ‼ 総員武器を……うわぁ――――っ‼」
深夜にその絶叫で叩き起こされた。ヒュンケルとラーハルトはそれぞれ武器を持って甲板に向かおうとしたが、あっという間に破壊された船体へ大量の水が入り込んできた。どこかへ掴まる暇も無く外へ流されていく。
アバンとやり合ったときに川に落ちた経験から、ヒュンケルは水が得意ではない。半ばパニックになりながら、なんとか水面だと思われる方を目指してもがくが、届く気配はない。
オレの人生もここで終わりか……と持ち前の諦念が顔を出しはじめた頃、ヒュンケルの腕を掴んで水面に引き上げる力強い手があった。
「掴まれ!」
目の前の板切れにしがみつきながら、突然の空気にゲホゲホと咳き込む。同じ板切れに掴まっているのはラーハルトだった。
「こんなところで死んでたまるか……!」
ラーハルトは歯を食いしばって虚空を睨みつけている。
船を見やる。船体には今まで見たことがないほど巨大な大王イカが絡み付いていた。