溶ける飴玉溶ける飴玉
「イテッ」
仕事の始末書を書く為に机に向き合って筆記していたロナルドくんから小さな悲鳴が聞こえた。
「指でも切ったのかい?」
「ヌヌヌンヌ?」
5歳児は絆創膏など持っていない。だから事前に用意するようになったそれを持ってきてやろうと近寄るとギョッとした。彼はボロボロと泣いて涙に睫毛が絡む、廂のように長いソレはしっとりと赤く濡らし今にも両目が溶けそうだ、嗚呼それは勿体ない。私が涙の1粒1粒を数えてる間に若造が愚図りながら拙く話した。
「目にゴミが入っちまって地味に痛てぇんだよ。」
そっちに目薬あったろ取ってくれねぇか?なんて言ってくるが私は次第に瞳を食い入るように見つめていた。未だ見ることは無い青き晴天に。
「ジョン、すまないが取ってきてくれるかい?」
「ヌン!」
ジョンは颯爽に地面に転がり走ってくれた。それと同時に私は机の前まで近付いていた。
「ドラ公ぉ、痛えからお前がとれよ」
上半身は机にもたれ掛かり、ゆっくりと彼の顔に手を伸ばす。幸い彼は痛みで両目から溢れた涙によってぼやけた視界のため私のことは良く見えていないだろう。
「聞いてんのか、ドラ」
「とっても美味しそう、まるで水晶飴のようだ」
レロり、と長い舌を伸ばし深く味わおうと舐る。
思ったより甘くないその塩っぱさに眉を顰めるたがロナルドくんが私の畏怖さで固まるその姿が楽しくてジュルリ、と涙と唾液を混ぜて啜った。
「これだろ、君の長い子羊のような睫毛が絡まってたよ」
舌の上で転がる数本の銀の糸を見せつけると彼は真っ赤な顔になり、ロナルドはキレ散らかしドラルクを殺した。
「え、エッチな顔でエッチなことすんなクソ砂!」
「…ナァス、って誰がエッチだ!童貞ルドくんには少し刺激が強かったかなぁ!?」
「ななな、童貞ちゃうわ!っ!」
「なんだい、また睫毛が入ったのかい…」
仕方ない、今度こそ目薬を取ってこようとした。したのだ、しかし動かない。
「…ロナルドくん、離して」
「まだまつ毛残ってるから取れよドラ公」
息を飲んだのはどちらの音だったのか、私はまた、熱く溶ける飴玉にゆっくりと舌を伸ばした。
[完]