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    一文字御隠居の昼飯珍道中
       プロローグ


     慶応甲府の監査官こと一文字則宗が審神者からその申告を受けたのは、甲府の特命調査が終わり刀剣男士としての名乗りを上げたあとだった。
    「ほ、近侍がへし切長谷部とは聞いてはいたが。そうかそうか」
     今さら顔を赤らめるわけではないが、堂々と話せる内容でもないのだろう。慎重に言葉を選び、こちらの反応を伺っている新たなる主に、則宗は好意的な笑顔を向けた。
     刀剣男士と審神者が恋仲の本丸。それに対する意見は人それぞれだが、特段に珍しいケースでもなんでもない。いちいち偏見なんて持っていたら、監査役の務めなぞ果たせるものか。
    監査官だから言っておく、というわけでもなさそうだな。新入りには恒例の共有事項ということかい?」
    「そうそう、こういう話ってタイミング逃すと言う機会なくなっちゃうしね。みんな知ってることだから、最初に話しておくの」
     審神者について、監査官や先行調査員が事前に必要以上に情報を得ることはない。過度の情報は監査のノイズになる可能性があるため、せいぜい勤続年数と初期刀程度だ。
     しかし、出陣部隊について回れば自ずと本丸と審神者の情報は入ってくる。性別、年頃、近侍、運営方針、慕われているか否か、等々。
     初期刀は陸奥守吉行で近侍はへし切長谷部にほぼ固定。女性。年代はまだまだ妙齢と言えるころ。刀剣男士の育成は慎重派で、QOLをそこそこ重視し、刀剣男士からも慕われているらしい。まあまあ一般的な審神者といえるだろう。
    「あるじゃない、そういう事情があるんだったら最初から言っておいてくれよっていう人間関係。そのなかでも誰それと誰それが犬猿の仲ってやつの次くらいに入るでしょ、恋だのなんだのって」
     まあ、幸いその一番面倒なやつはうちの本丸にはないけどね。そう言ってほけほけと笑う主の顔からは、その台詞に一本走る緊張感も伺えない。
    「なるほど、確かにそいつは助かるな」
     新参者は、どうしてもそういった事情には疎くなりがちだ。すれ違いの芽は最初に潰せるだけ潰すという審神者の心遣いは、まったくもってありがたい。
     それに――少し居心地悪そうにしつつも、こちらを観察するようにじっと見つめる男に、則宗は安心させるように笑いかけた。心配しなさんな、お前さんと同じような気持ちは、どうやら出てきそうにないよ。
     牽制とまでいかなくても、やっかいな感情の芽は最初につみ取っておくのが肝心だ。顕現したてのうちに事情を知ってしまえば――そういった趣味の持ち合わせやよほどのきっかけでもない限り――横恋慕というやっかいな火種は起こらない。
     ただでさえ、惚れた腫れたというやつは人間関係を壊しやすい。そして、本丸という広いようで狭い空間にそんな爆弾が放り込まれたら、最悪修復不可能な事態を引き起こすだろう。
    「で、だ。毎回新入りは、数ヶ月ほど研修に入ってもらっている」
     話題が話題なだけに、少しばかり気まずくなったのか。こほん、と咳払いをした長谷部が話を変える。
    「そうそう、しばらくは出陣と併せて本丸のお仕事一通りやってもらうことになるので……ああ、スケジュール合えばいくつかは清光も一緒に回ってもらうことになるから」
    「はーいはい。俺もちょっと忘れかけてる仕事あるけどね、備品管理とか。復習にちょうどいいや」
     衣食住の仕事は、直接的なものから関連する事務まで。本丸の運営業務もあれば、刀剣男士として忘れちゃいけない戦関係のあれこれだってある。通過儀礼で、それらの仕事を全部回るのだというのだが……
    「全部……全部かぁ」
     正直言って、覚えることが多すぎないか。思わずひきつる口元に、慌てた主が補足にかかる。
    「全部完璧に覚えろってわけじゃないからね? だいたいの流れを知っていれば、普段の生活でもどう動くとお互いのためになるかもだいたい分かるでしょ」
    「あ、ああ……なるほど」
     こちらも政府で顕現され、多少は監査官として事務方も現場での実践も経験した身だ。仕事の流れの大切さは、なんだかんだで身にしみて分かっている。
    「出陣や遠征の報告書とかな、戦績管理一回経験させておくと見違えるんだ、これが」
    「あー、そーね、安定とか和泉守とか?」
    「そいつらもだが、あと御手杵と豊前も……」
     はあ、と重々しいため息をつく長谷部の背を、審神者がねぎらうように優しく叩く。なるほど、一見手間がかかるようで、確かに間違いのない運用法だ。
    「一通りやってみて、本人の希望と適正を見てからだんだん固定されていくから安心してね。先輩たちが周り固めてくれるから」
     ジャパニーズ企業特有の異動文化も、ある程度は有効なのよ。にっこり笑ってそう言った主は、説明はこのくらいで、と手をたたいた。
    「じゃ、清光本丸の案内頼める? 一時間くらいは私たちここにいるから」
    「あー、はいはい。りょーかい」
     心得た、と自分を廊下に引っ張り出した案内役が、部屋の内へひらりと手を振る。じゃあ行こうかと先行する彼に、則宗は小さく耳打ちした。
    「勤続年数と年頃からだいたい察してはいたが……やはり社会人経験者か、彼女」
    「ごめーさつ、けっこうあちこち渡り歩いてたみたいよ?」
     出身は二十一世紀初頭。景気がどん底の時代に社会に出たこともあり、転職回数も職務経歴のバリエーションもそこそこ。今受けた説明は、明らかに組織のなかで働いた経験のある者が組み立てたシステムだ。
    「立場としても、真っ先に切り捨てられる位置にいたんだって。一部の幸運な人を除いた大多数はみんなそうだったってさ、あの時代は」
    「なるほどねぇ……」
     則宗も、一応一通りの現代史は頭にたたき込んでいる身だ。そりゃあ怪しい管狐のスカウトにすら、一も二もなく飛びついただろう。
    「今俺たちがいるのが執務棟ね。大きく分けて三棟に分かれてるわけだけど、審神者と刀剣男士のそもそもの仕事の機能はここに集中させてるんだ」
     今いた場所は、審神者執務室。隣に給湯室、資料庫、資材庫。そして手入れ部屋に刀装部屋に鍛刀部屋。手短に位置関係だけを教わりながら平屋の執務棟を抜け、共同棟へ向かう。
    「共同棟は、ほとんど広間だね。後は台所……まあ、ここは後でいいか」
     すれ違う男士たちと挨拶を交わし、詳しい話は歓迎会でと清光が切り上げて。どうにも急いでいる様子に、則宗は心の内で首を傾げた。
    「部屋割りはもう出たんだっけ?」
    「ああ、正式にではないがな。おそらく、日光の坊主と同室になると」
    「あー、なるほど。そういや一文字だったか……あいつ、いつものとこいるかな」
     このくらいの寄り道はいいか。そう言った清光が、生活棟の入って最初の部屋の前で立ち止まる。
    「ここが一階の談話室ね、非番の日なんかは自室にいるのも多いけど――」
     すぱん、と障子を開けると、こたつに当たっていた数振りがこちらを見やる。やっぱりいた、という清光の声と同時に、ぬくぬくと溶けていた子猫が飛び起きて背筋を正した。
    「うぇええ、御前!?」
    「おお南泉の坊主、いやー、これでやっと隠居として坊主と遊べるなぁ!」
     やっぱりいた。なんで俺のとこ来たにゃ。一番リアクションおもしろそうだから。清光とそんなやり取りをしながら、南泉一文字が素早くこちらへとにじり寄る。
     きゅうりを背後に置かれたような反応をした一門の猫だが、言葉を交わす機会がなかっただけで甲府でも邂逅済みではある。しかしあのときも、その顔に浮かんだのは驚愕よりも〝答え合わせが腹に落ちた〟といったところだった。
    「にゃ……やっぱり今回の監査官も本丸配属に……」
    「ごめーさつ。つーか御前って何? このじじいそんな偉いの?」
    「じじ……にゃぁあ……」
     言葉に詰まり、ため息をつく南泉の頭をうりうりと撫でくり回す。隠居の身だ、一門の者には寝耳に水な呼び方であっても、坊主相手加州清光に仰々しさは必要ないだろう。逆に単なるじじいと呼ばれるほうが落ち着く。
    「はあ……これで監査官関係の守秘義務とも、とうとう無事おさらばか。どうも、慶応甲府の監査官殿」
     こたつに突っ伏したまま、見覚えのある顔がひらひらと手を振る。自分の知る個体とはまた別の者であっても、懐かしいことに変わりはない。
    「うはは、これは聚楽第の監査官殿! うちの坊主と仲良くしてくれているようで何よりだ」
     山姥切長義。監査官としての威厳を示そうと胸を張っていた記憶の姿は今はなく、ぐでぐでとこたつの天板に顎を置いている。
    「偽物くん、みかん」
    「写しは偽物ではないし、みかんでもない」
     そう言いつつ、今やまばゆい金髪を隠さなくなった打刀がみかんを銀色の頭に乗せる。軽口めいたやり取りに、思わず則宗の口から笑いがこぼれた。
     時間限られてるし、寄り道はここまで。そう言った清光が、ひらりと室内に向けて手を振った。
    「俺が案内でオッケー? あの部屋のことも、今の内に教えちゃおうと思ってたんだけど」
    「あー……うん、頼むわ……俺たちには荷が重すぎる、にゃ」
     その言葉を聞き、南泉の顔が再び固まる。しどろもどろになりながら目をそらした意味を、廊下に出た則宗は案内役に小さく聞いた。
    「あの部屋、とは?」
    「……これから行くから待ってて、ここじゃちょっと」
     よく分からんが、まあすぐに分かるだろう。首を傾げつつもそう自分を納得させていれば、清光は近場の階段へと向かっていく。
    「じゃあ、二階行くか……主もまだ執務室だろうし」
    「ん? 一階はもういいのかい?」
    「ああ、そこはまた後でね。今の内に教えなきゃいけないとこだけ先に回るよ」
    「……ああ」
     主の不在と、〝今の内〟と少し急いているような様子。もしかして、と感づきながら向かった廊下の曲がり角には、障子越しのぼんやりとした日差しが格子を描いている。
    「まずはここの窓ね。普段はそうホイホイ顔出しはしないんだけど……よっと」
     清光がからりと障子と窓を開ければ、高度の低い真冬の太陽が廊下にはっきりとした四角を作る。深く造られた庇の向こうには、ぐるりを垣根に囲まれた、瀟洒でありながら素朴な西洋風の庭があった。
    「なるほど、この下は……」
    「そ、主と長谷部の部屋と、その前庭」
     用事もないのに好奇心でのぞき見たり、うっかりのかいま見を喜んだりするような不届き者はこの本丸に存在しないし、むしろ青くなって頭を下げる刀剣男士ばかりだ。だからこそか、と則宗は窓の上に準備された簾を見やった。
    「女性のプライベートエリアだし、洗濯物とかもあるからね。用事がない限りは俺たちもまじまじとは見ないし、ホイホイ入ったりしないの――ただ」
     じゃあ窓なんて最初から設置しなければいいのではと言いたいところだが、そういうわけにもいかないのがこの場所である。紅く染まった爪がすい、と伸びた先には、周囲に植えられた常緑の垣根があった。
    「イチイの垣根、互い違いに植えてるでしょ? そこが突入経路になってるから、それだけ覚えといて」
    「……なるほどねぇ、上手く作ったもんだ」
     ついつい忘れがちになるが、本丸とは軍事施設であり、審神者は人である。敵の襲撃は年に数回ニュースとなり巷を騒がせるし、不慮の事故や急な病により倒れる人間の数は枚挙に暇がない。
    「まあ、入れない訳でもないからね。春になったら庭見せてもらってもいいんじゃない?」
     本丸では珍しい西洋風に整えている庭を、春には茶菓子片手に見学に訪れる刀が多いこと。米国の絵本作家の庭をお手本に造られたそこには、色とりどりの花が咲き乱れること。
     垣根のイチイはシーズンになるとほんのり甘い赤い実を付け、短刀たちなどはそれ目当てによく訪問していること。果肉は美味いが種には猛毒があるため、初めて食べるときは慣れている者と一緒に行って教えてもらうこと。
    「俺としては秋田がおすすめかな、指南役。ちょっとでも歯立てると舌がすっげーびりびりするから分かるんだけどね、あんま経験したくないでしょ」
     そう話しながら、清光が再び窓と障子をしっかりと閉める。じゃあ次行こうねと引っ張られ、また廊下を進みながら、則宗は小さく笑った。
    「道理で、坊主が急いでいたわけだ」
     紅一点がいたら説明しにくいことは、彼女とはち合わせようのないタイミングで。いや、おそらく主と近侍もそれを見越して執務室にいると言ったのかもしれない。
    「そーゆーこと……もう一カ所ね、ここ以上に急いで説明しないといけないとこあるんだ。行くよ」
     そうして向かったのは、同じ二階の一角。その部屋の説明を受けた則宗は、なるほどこれは確かにと頭を抱えたのだった。
     そうして近場の階段を下りれば、洗濯室が併設された大浴場。そしてその前庭の洗濯物干場。
    「なるほど、あの部屋と風呂が上下になっているのか……つまり」
    「うん。こっち側には、主はほとんど来ない。せいぜい、大掃除のときの見回りくらいかな……まあ、風呂はともかく二階のあれはね、無視して前を通り過ぎるくらいだけど」
    「徹底してるねぇ、本当に」
     さては彼女、くそ真面目だな。そんな不必要な言葉は口にはしない。
    「さーて、急いで教えないといけない場所はこれで終わりね。まずは飛ばしちゃった共同棟行こうか」
     とはいえ、先ほども説明されたとおり共同棟にある設備は取り立てて多くはない。食堂を兼ねた広間と、そして……
     廊下を挟んだ、広間の反対側。ガラスの引き戸がからりと音を立てる。
    「ここが、第一サブキッチン。俺たちは台所って呼んでる」
     壁に沿って置かれた棚には、限界まで物が詰め込まれていた。日がさんさんと降り注ぐ窓辺には豆苗が緑を添え、その向こうには別棟になっている厨までの渡り廊下が見える。
     使い込まれたグリル付きの三口コンロ、シンクには食洗機の排水ホースが垂れ下がる。部屋の中心に置かれた、古典的な柄のビニールクロスがかけられたテーブルがまるでレトロドラマに登場する一般家庭っぽさを強めているが、壁際の業務用の冷蔵庫の存在がそれを強烈に邪魔している。
    「第一……しかも〝台所〟、か?」
    「うん。〝台所〟〝キッチン〟と〝厨〟があんの、うちには」
    「お、おお……?」
     一番大きくて、何十振りと一人ぶんの食事を作ることに特化している〝厨〟が一カ所。そして少人数の食事を作るためのサブキッチンが、〝台所〟と〝キッチン〟の二カ所。
    「朝と夜は情報伝達の場でもあるから全員そろって食べるんだけどね。昼までそれはさすがに負担が大きいから、三つの台所に分かれて各自でどうにかすんの」
     以前は昼も全員で集まっていたそうだが、だいぶ刀剣男士が増えてきたタイミングで今の形に変更されたのだそうで。
     サブキッチンは、両方とも現代基準平成時代以降のファミリー(三世代同居・兄弟多め)サイズ。どちらとも一般的な調理器具は一通り揃えているが、さきほどの談話室に繋がる第二キツチンのほうには、ミキサーなど多少専門的な調理家電も取りそろえているそうだ。
     大きな棚を見れば、大量のカセットコンロがしまわれている。すぐ隣とはいえ、別棟である厨から運ぶのが面倒なものはたいていこちらに置いているらしい。
    「ここは昼だけじゃなくって、夕飯でも使ったりするんだ。揚げ物のときなんかは衣の準備まで厨でやって、揚げるのはここでやったりね」
     揚がってからのタイムラグはなるべく抑えたいでしょ。当たり前のようにそう話す清光の様子に、特命調査中に受けた印象が蘇る。
     QOLを〝そこそこ〟重視し……なんてレベルではなかった。かなり重視している、に改めるべきだろう。そりゃあ確かに揚げ物は出来たてが美味いけれども。
    「しかし、昼餉が各自でとはな……料理の経験はさすがにないぞ、僕は」
    「あ、やっぱり? まあ、自分で作るのもありだけどね。しばらくは、得意なやつが多めに作ってくれるとこに断って交ぜてもらうのもいいんじゃない?」
     なるほど、その手があったか。ふむふむと頭のメモに書き付けていると、入り口からタイミングを見計らっていたかのように、ひょっこりと審神者が顔を覗かせる。
    「そろそろ大丈夫かと思ってたんだけど、どうかな?」
    「ん。とりあえず最低限のは終わらせて、あとはゆっくり回り始めたとこ」
    「あらよかった。お昼作るけど食べるでしょ? トーストとドリアとどっちがいい?」
     昨日のホワイトソース残しておいたから。保存容器片手に、主がそう言ってにこにこと笑う。
    「ちょうど帰還マスだし、今日のぶんの賽も振ったし、いったん本丸戻るね。今日の夕飯マカロニグラタンなんだ」
     昨日、放棄された世界でこの坊主が言い放った一言を今さらながらに思い出す。考えてみれば、兆候はあのときからあったか。
    「主、燭台切のボロネーゼが残っています。使っても問題ないようですしドリアにしましょう」
    「あ、賛成さんせーい!」
     片手にホウロウの容器、もう片手にとろけるチーズの大袋。主に付いてきた近侍は、大真面目な顔をしているのが逆にコミカルである。
    「あんたもドリアでいいでしょ? チーズ載せ放題だよ」
    「そりゃあいい、ありがたくいただこう!」
    「これでサフランライスがあれば、もっといいんだけどねぇ……」
     少し口惜しそうな主の顔を見るに、有名なファミレスメニューを真似たものを作るのだろう。知識にしかないそれには、興味があるに決まっている。
     取り出された一人用のグラタン皿を四つ、指示に従いテーブルに並べながら、一文字則宗はこれからの生活に思いを馳せたのだった。
       三日月のウィンナートーストと鶴丸のミルクシチュー


    「まさか、天下五剣の手料理にありつけるとはなぁ」
    「はっはっは、まあ俺もそう得意というわけではないがな。載せて焼くだけだ、失敗のしようがないからよく作るぞ」
     軽口を叩きつつも、本心には多少の焦りがある。初っぱなから、まさかの相手とかち合うことになるとは。
     三日月宗近。天下五剣の筆頭として名の挙がる一振りにして、どうにも刀剣男士界隈の重鎮として扱われがちな太刀である。
     そしてその〝重鎮〟が則宗の目の前で作っているのは、食パンの上にとろけるチーズと乾燥した香草、ウィンナーを一本載せただけのトーストだった。
     だが、やはり彼ばかりにやらせて良いものか。せめて飲み物くらいは自分が用意するべきか、しかし則宗自身が準備できるとしたら、せいぜいインスタントコーヒー――最初に湯と粉をよく練るのがコツだと三徹目の政府職員に教わった――くらいのものだ。
     さあどうしよう、こっそりと慌てていると、[[rb:第一サブキッチン > ]]の入り口の引き戸が開く。
    「おう、昼飯かい。って……」
     顔を覗かせたのは、鶴丸国永。この本丸で初めて顕現されたという太刀は、トースター用の天板に並ぶパンを見て状況を一瞬で把握した。
    「あー、焼くのちょっと待った。一品追加してやるから俺の分も頼む」
    「あい分かった」
     うむうむ、ともう一枚のパンを取り出した三日月が、その上にチーズを載せはじめる隣で。鶴丸は冷蔵庫から、よっこいせと巨大な鍋を取り出した。
     ごとん、と音を立てて調理台に置かれた寸胴鍋には、野菜メインの汁物がなみなみとと入れられている。お玉から小鍋に具を多めによそい、鶴丸がにやりと笑った。
    「一昨日主が光坊たちと作ってたからな、たっぷり食えるぞ」
    「なんだい、これは?」
    「汁物の素。主とかが定期的に作ってくれてな、こうしてあちこちの冷蔵庫に入れてくれるのさ」
     味噌を溶かせば具だくさんの豚汁になるし、好みの味付けでうどんを煮込んでもいい。こういった昼食用のストック食材は、名前が書かれていなければ各自が好きなように使えるのだ。
    「何なら覚えておくといい。慣れてないやつもこれなら簡単だし、野菜も肉も全部入っててちょうどいいぞ」
     少な目に入れた汁が沸騰したところで、ぱきりと割られたホワイトシチューのルーが投下される。そのタイミングで三日月がトースターのつまみをひねった。
     ルーが汁に溶け、ぶくぶくと煮込まれていく。へらで大ざっぱにそれをかき回しながら、鶴丸がひょいと手をこちらへ伸ばした。
    「三日月、牛乳取ってくれ」
    「あい分かった……一本はすぐになくなるな。新しいものも出すぞ」
    「おう、賞味期限だけ見といてくれ」
     冷蔵庫の飲み物エリアから取り出されたのは、昔ながらの瓶入り牛乳だった。
    「瓶とは、また古風な」
    「ん? いやあ、利便性を考えたら結局、こいつに行き当たるんだ」
    「利便性……か?」
    「あー、そうだな。あれだ、パックの牛乳がなくなったら、どう処理する?」
     じゃぼじゃぼと、瓶の中身を鍋へと注ぎながら。まあわかりにくいよなと、彼はこちらへ質問を投げてきた。
    「パック……えーっと」
     中を洗って、ハサミで切り開いて、乾燥させて重ねたらひもで縛って……なるほどとうなずき、則宗は指を顎に当てた。
    「……手間だな、なかなか」
    「だろう?」
     だが、こいつなら。そう言いながら、空になったボトル片手に鶴丸が流しへと移動する。
     じゃばーっと音を立てて、蛇口から瓶に水が八割ほど注がれる。口を手のひらで押さえて逆さまにしたところで、鶴丸の生白い腕がそれを円錐形にぐるぐると動かしはじめた。
     白く濁った水の渦が中の牛乳の滴をあらかた洗い落としたところで口に添えていた手を離せば、滝のような勢いで液体がシンクへと落ちていく。それをもう一度繰り返したら、軽く水を切ってケースにかたんと入れるだけ。
    「な?」
    「はー……なるほどねぇ」
    「個人で買う場合は、名前が書けるからとパックを使う者が多いがなぁ」
    「あー、光坊が飲んでたやつとかな。低温殺菌だったか? 伽羅坊もコーヒー味のでかいのを買ってたが……ほらこれだ」
     飲料用の冷蔵庫を少し漁った鶴丸が、馴染みの二振りの名が記されたパックを引っ張り出す。ゲンコツが怖いから出しはしないぜ、と戻された隣から、三日月が自分の名を書いたバナナ牛乳を取った。
    「あいにく酒には早いからな、こいつで一杯どうだ?」
    「おお、ありがたくいただこう」
     風呂場の百円自販機でも、味付き牛乳は人気だそうで。まだ利用したことはないが、そういえばあれも瓶だった。
     そうこうしているうちに、トースターが音を立てる。カフェオレボウルにはシチューが盛りつけられ、パンの皿と一緒に回されてきた。
    「匙だけでいいのかい?」
    「うむ。これを、こうするとだな」
     香草の散らされたチーズの真ん中に、どでんと横たわるウィンナー。そんなトーストを、三日月が豪快に二つ折りにする。
    「ほっとどっぐ、のようになるだろう?」
    「おおー……」
     真似をすると、きつね色に焼けたパンのざくざくとした手触りの下で、チーズがとろりと形を変える。どこから食おうかという迷いもつかの間、ええいままよと大口を開けてかぶりついた。
     前歯の下で、ばつんと腸詰めがはじけた。こぼれた熱い肉汁が、指にぼたりとしたたり落ちる。
    「わっ、と、あつっ」
    「断面を上に傾けてみな、パンが勝手に吸い込んでくれるから」
     味はウィンナーとチーズの塩気だけで、ふりかけられた香草がそこに変化を付ける。匙ですくい上げたシチューにはたっぷりの野菜と肉が入り、ミルクのまろやかさに和の出汁の風味が意外にも合っていた。
    「こりゃなかなか、美味いもんだな」
    「それはよかった。れぱーとりーは少ないがな、こんなじじいでもこのくらいはお手の物だ」
     種明かしをするとな、これは主から最初に教わったのだ。懐かしそうに目を細め、三日月は思い出話を始める。
    「俺は来るのが遅くてな。まあなんだ、戦場に出ようにも周回遅れで……天下五剣と言えど、戦に出なければどうしようもない。これでも悩んでおったのよ」
     政府による刀剣男士の配布。この三日月宗近は、その最初の試みにより、やってきた個体だ。
     一部の刀は練度が上限に達し、同派や前の主を共にした者はすでにそれぞれの友を持っていた。その上〝あの〟三日月宗近というネームバリューは良くも悪くも影響力が強い。関係性の構築には、当時はほぼ初の試みだった政府からの配布刀剣ということもあって、互いに手探り状態だったという。
    「世話されるのは好きだがなぁ。戦場でもなかなか力が出せず、世話されてばかりというのはどうにも気ぶっせいで」
     審神者から一緒にご飯を食べようと誘われ、教わりながら見よう見まねで作ったのがこのトーストだった。今よりずっと不恰好だったけれど、初めての料理の楽しさはずっと覚えている。
    「自分で作った飯が美味いと、そう思えたのがうれしくてうれしくて……」
     美味いと思えるものを自分で作ることができる、それは心を上向きにする手段の一つだと。そう言って主は、頬をぱんぱんにして目を輝かせる三日月にカフェオレを差し出した。
    「大丈夫、みんな同じだよ」
     強くなるには、戦場に出て経験を積むしかない、それはすべての刀剣男士に平等に与えられた条件だ。全員避けては通れないが、逆に言えばそこに愚直に挑めばいいだけのこと、とも言える。
    「……なるほど、特命調査のときから感じてはいたが、こう――」
    「俺たちの心の機微に敏感な審神者、だろう?」
     ウィンナーを先に持って行かれたのか、チーズだけが残されたパンを鶴丸がシチューにひたす。どれ新入りにひとつ教えておいてやろうと、口のなかのものを飲み込んで、真っ白な太刀はにやりといたずらそうに笑った。
    「君。本丸の主として、彼女が己に立てている途方もない誓いが分かるか?」
    「……いや」
    「己の注ぐ愛情から、誰も取りこぼさないと決めているんだ、主は。本丸に顕現した時点で、全員等しく愛する対象だと」
    「そいつは……なかなかだな」
     なんとも、たいそうな誓いを立てたものだ。それが正直な感想だった。
     審神者としては百点満点の模範回答だ、人事部か研修の教師ならば満足そうにうなずくだろう。しかし、刀剣男士の側としてはどうしても多少の不安が生まれてしまう。
    「難しいというか、人間には無茶というもんじゃあないかね」
    「ああ。俺たちも心配しちゃいたが、そんなことは承知の上だと……長谷部のことは聞いてるだろ?」
    「……ああ、なるほど」
     鶴丸の一言に、則宗はすべてを察した。うむうむとうなずきつつ、三日月もスプーン片手に口を開く。
    「そういうことだ。そういう〝事情〟があるからこそ、あの者以外の皆も意識して愛さねばいかんとな。さもなくば、この均衡は一夜の夢とばかりに消え失せる」
     だからこそ、彼女はこんな無理難題を選んだのだ。愛情という、目方で量ることがどうやったって難しいものを、何十もの刀剣男士に平等に分け与えてみせる、と。
    「俺やそなたのようにじじいを自称しておらずともだが……ずっと、俺たちは人の世界を見てきた。しかしまあ、戦だけではなく、人と人を分け隔てるような愚かさというものは……どんなに時代が進んでも克服されることはないのだろう。しかしなぁ、だからといって、この業をそういうものと諦めるわけにもいかん」
     建前という理想を追い求めるのを止めた瞬間、社会は崩壊に向かう、それは本丸という社会も同じである。誰かが不具合を感じる状況を放置すれば、やがて取り返しのつかない分断を招くだろう。
     人間社会という大きな集団では、マジョリティ社会的強者が不公平を見ようとせずにマイノリティを葬り去ることで、崩壊をずるずると引き延ばすことができる。少なくとも自分たちが墓に入って、責任を問われない場所に行くまでは。
     しかし、そんなこと本丸では無理な注文だ、誰かの抱える問題は小さなコミュニティーでは即座に可視化される。正面から意識し解決に動かない限り、この空間は内側から壊れてしまうだろう。
     それはこの本丸の審神者が、着任して一ヶ月――新たな生活にも仕事にも慣れ始めたころだった。
     日を置かず、新たな仲間が顕現しているはずなのに。だんだんにぎやかになっていくとはいえ、本丸はまだまだ広く閑散とした場所も多い。ある日それに気づいた彼女は、新生活に昂揚していた頭の芯が一気に冷えたと言っていた。
     ちょっと待て、政府は何振りの刀剣男士の顕現を前提にこの空間を作ったのか、そして私はその何十振りもの刀剣男士の長として振る舞わなければならないのか、と。
    「私には、組織運営の経験もスキルもない。現世の人間社会で、こんな立場に就くのはとうてい無理でしょ。でも、人間じゃなくてあなたたち相手だったら、どうにかできると思ってる」
     最初期に顕現した鶴丸は、そう宣言した主の顔をよく覚えている。
     凛としようと奮い立たせた声の語尾はわずかに震え、目の奥には確かな怯えが見え隠れしていて。それでも一生懸命に、猫背気味だった背をぴんと伸ばして胸を張る。
    「どうにかできるし、どうにかやっていかないといけないの、私たちみんな。でも、みんなとだったら可能だと思ってるんだ、きっと」
     こちとら千越えの神である。まだ齢数十の人間が、長として在らねばと必死に虚勢を張って協力を願いたいと頭を下げたのだ、よっしゃいっちょ一肌脱いでやるかとならないほうがおかしいだろう。
     しかしまあ、大丈夫なのかと思ったのが正直なところではあったのだ。そんな懸念を、彼女は一笑に付した。
    「人間相手だったら、絶対に無理だよ。そもそも付いてくる人なんていないでしょ、こんな前時代出身の若輩の女に。〝刀の神様〟相手だから頼めるの」
     本丸に就任した審神者も、顕現された刀剣男士も、今や互いが互いの存在のより所となった。契約を交わした時点で、どうにかこの場を維持することが自らのためとなったのだ。
    「最初はギブアンドテイク、平等であるための平等でいい。みんながみんなに誠実でいれば、いつかそんなこと意識しなくても大丈夫になる。少なくとも私は〝刀の神様〟の経験と在り方を信じている」
     理想を夢見るお嬢さんだと思ったら、とんだ現実主義者リアリストだった。そんな声も、彼女はこう一笑に付した。
    「リアリストってのはね、誰かが思い描く理想にケチ付けて回るだけで何もしない、役立たずの冷笑屋のことじゃないの。誰かの理想を真面目に考えて、どうやったら実現できるか心を尽くす人のことを言うの」
     それを聞いた瞬間、思わずうはは、と笑いが漏れる。
    「こりゃあ、僕は、あれだな? かなりおもしろい主のところに来たな?」
    「ご明察だ。退屈はさせないぜ」
     真っ直ぐなようで歪なように見せかけて、やっぱり真っ直ぐ。そんなだまし絵のような愛情を、その性質を理解した上で真面目に自分たちに注ごうとする審神者。なるほど、おもしろい。
     ウィンナーまで食べ終えたパンを、カフェオレボウルのなかにひたす。香ばしいパンにぐずぐずにしみこんだ、ミルクと出汁風味のやわらかい塩気が美味い。
     甘いキャベツやタマネギに加え、刻んだ青菜はくたくたに煮込まれてすっかり色が変わっている。野菜も肉も渾然一体となった汁をすすっていると、隣からスープを飲み干す、ずずっという音が部屋に響いた。
    「さーて、ごっそさん。ちょっくら出陣してくるわ」
    「おお、そういえばそうだったか。どうりであわただしいと」
    「そりゃあ待ちに待った、だからな」
     大砲を見るのが楽しみだ、そうウキウキと言いつつ鶴丸はカフェオレボウルだの皿だのを食洗機に突っ込んでいく。
    「ん、出陣先はもしや」
    「おう、君が監査官やってたとこさ!」
     食い終わったら重ならないように並べて洗剤だけセットしといてくれ、スイッチは他のやつが食ったあとにやるから。そう言い残し、着替えないとと内番服姿の背が廊下へ飛び出していく。
    「あやつ、つい先日極めたばかりでな。肩慣らしが終わって、今日から本格復帰だそうだ」
     まだ新しい衣装に慣れていないため、早めに準備をするそうで。扉の先から聞こえてきた一匹竜王の危ないぞという忠告に、手伝ってくれという声がすかさずかぶせられるのが聞こえてきた。
    「抜け駆けの鶴はともかく、じじいと共に茶でもどうだ? 石切丸から来た饅頭が二つだけ残っていてなぁ」
    「お、いいねぇ。ご相伴にあずかろうか」
       遠征のオムライス弁当


     初の遠征任務は、隊長としてのものだった。比叡山の山中には、残雪がまだ白く季節を伝える。
     比叡山の焼き討ちから、ここは少し前の時代になる。一五七一年以前にどれだけの建物が存在したのか、僧兵に見つからないように少しずつ調査をしていくのだ。
    「……さて、南側はあらかた終わったか」
    「うん、きりのいいところだし、そろそろ休憩にしようか。ご主人様も昼食は遅くなりすぎるなって話していたし」
     補佐として付いてくれたのは、亀甲貞宗。他は貞宗派の残り二振りと、小豆長光に謙信景光。
    「みんな、水筒は大丈夫かな」
    「うん、まだよゆうあるぞ!」
     座布団のような――実際休憩中の座布団として使うとのことだが――綿入りの分厚い布の四隅についた紐をほどけば、容器がふたつ、薄手の布でまとめて包まれていた。
    「こりゃまた、ずいぶんとでかいものを……」
     保温式の弁当箱と、同じく保温式のスープジャー。分厚い布に外気を遮断されていたおかげか、手のひらにまで温もりが伝わる。
    「でしょう? でも、これにも理由があるんです」
    「箸と匙は土に還るやつなんだが、器はそうもいかねぇし。だから、でかいのを使うんだ」
     かさばる荷物は、行軍に不利ではある。しかし、目に付きやすいということは忘れにくいともいえるのだ。
     戦闘がメインではなく、見回りなどそこそこ平和に終わるであろう遠征では、こうして文明の利器を利用して温かい食事を取ることもあるらしい。向かう場所が冬であれば、なおさらだ。
    「やった、俺このチキン好き!」
    「おむらいすだ……!」
     おかずの入る器には、香草とパン粉をつけてこんがりと焼かれた鶏肉に、刻んだ梅肉を入れた玉子焼き、そして茹でておかか醤油をまぶしたブロッコリー。その下の段には、一面に薄焼き卵が敷かれている。
    「たまごがかぶった、とぼやいていたのはこれか。べつにいいのに……」
    「ああ、ご主人様の豚汁だね。ありがたいなぁ」
     鶏肉がまとうパン粉は、すっかり蒸気を吸い込んで焼きたてのパリパリ感は消え失せているものの。ハーブの香りが油にまでしみて、やけに美味く感じる。
     玉子焼きは、出汁の風味に加えて梅の酸味と塩気が調味料としてほどよい。使っているのは今風の甘さのあるものではなく、昔ながらの塩だけで漬けた梅干しだろうか。
     米の上を覆う丸く焼いた玉子は、本丸や店で食べるものとは違ってしっかりと火が通されている。そして、その下には……
    「あ、ちーず!」
    「わあ、マジだ!」
     こっそりと仕込まれていたとろけるチーズとケチャップに、短刀たちが歓声を上げる。楽しそうにはしゃぐ二振りの仲むつまじさに、則宗は首を傾げた。
    「仲がいいのかい? 燭台切の縁か」
    「ふふ、それもあるんですけどね」
     いつもながらにふわりと笑う物吉が見やったのは、同派の打刀だった。少しだけ寂しそうに微笑んで、亀甲が口を開く。
    「……僕と小豆くんはね、いわゆるシール男士というものなんだ。僕が最初で、彼はその次」
     定期的に開かれる引換所と、任務の達成に伴い支給されるシール。そうしてやってきた刀剣男士が、この二振りだという。
    「僕が来る直前の話なんだけど、演習場が開いていたそうでね。その戦場では、何度出陣しても亀甲貞宗は落ちてこなかったんだ。だからご主人様は、引換所で僕を選んだ」
     刀剣男士として顕現したのは、亀甲貞宗が小豆長光よりも早い。だがそのころ、この打刀は延享の江戸城下でごく稀に落ちてくるだけで、たくさんの審神者たちが入手に苦労していた。
    「ん……? いや、しかし〝亀甲貞宗〟は今じゃ」
    「そう、間の悪いことにね。その直後から、僕らはもっと手前の戦場で落ちるようになって、鍛刀でも出るようになったんだ。それもそこそこの――演習場よりもずっと高いだろう確率で」
     チキンを口に運びながら、亀甲の眉が複雑そうにひそめられる。
    「……直前の演習場で僕が落ちるかもしれなかったことなんて、ちょっと調べたら分かるからね。だいたい分かってしまったんだ、僕が選ばれた経緯」
     戦場で拾われた〝亀甲貞宗〟を前に、彼は審神者に問うたのだ。少し早計がすぎたのではないか、と。
    「怒られてしまったよ、そんなはずがあるか、とね」
     戦場で落ちる刀剣男士は、あくまでも別の個体にすぎない、引換所に行くことを決めた時点でそんな考えは消えるに決まっている。仏頂面で彼女はそう言い放った。
    「そりゃあ、お迎えできなかったときは悔しいけどね、それによってできる思い出だってこの世には存在するでしょう」
     きっといつか縁が巡れば来てくれるだろう、そうしたら今のこのやるせなさも笑って話せるようになる。道を踏み外したくないと審神者が自らを律するときは、そう思うしか術はない。
     そうやって自分の心を納得させられなかった者たちが、何人も心を壊していった。思いつく限り最悪のルートを辿ってしまった報告なんて、政府のデータベースには数え切れないほど登録されている。
    「そう言われてね、うれしかったんだよ、本当に。でも……」
     顕現できてうれしいと思えば思うほど、寂しさをごまかそうとする短刀の顔がどうしてもちらついてしまう。けれど、それを言えば主がどんなに気に病むか、分からない亀甲ではなかった。
    「やっぱりね、演習場で僕が落ちていたらっていうのも考えちゃうんだ。謙信くんが小豆くんを待っていたのも知っていたし」
     誰も悪くないことも分かっているからこそ、どうしたらいいのか彼には皆目見当も付かなかったのだ。オムライスをぱくつきながら、謙信の顔も少しだけ下を向く。
    「そのね、ぼくも……しってたんだ、きっこうがきにしてるって」
     けれど自分が下手に声をかければ、余計にこじれるだろうから。気遣い屋で我慢しいなこの短刀は、それをよく理解してしまっていた。
    「で、そこに駆り出されたのが、この俺ってわけだ」
     さすがに見ていられないと長船の保護者たちと主が仲介を託したのが、燭台切と親しく亀甲と同派である太鼓鐘だった。顕現時期も近い短刀同士ということで、夜戦に手合わせに普段の遊びにと一緒にいるうちに、貞宗の部屋にも行き来するようになったのだ。
    「そうしたらね、しぜんときっこうともおはなしできるようになったんだ」
    「まあ、みっちゃんの身内は俺の身内みたいなもんだしな」
     貞ちゃんに任せときな、と自慢げに胸を張る太鼓鐘の頭を、物吉が微笑ましそうに優しく撫でる。
    「太鼓鐘くん、短刀の後輩は初めてでしたもんね。堂々と先輩風を吹かせる相手ができてうれしかったんでしょう?」
    「あ、こら、言うなよぉ!」
     じゃれあう子犬のようなやり取りを、笑い声が包む。豚汁で腹を温めながら、謙信が小さく口を開いた。
    「あつきとあえないのは、もちろんさびしかったけど……でも、きっとあのとき、あつきがきてたら、きっこうたちとは、ここまでなかよくならなかっただろうなって」
     それにね、と上げられたにこにこ顔は、まっすぐに自分の保護者役へと向かっている。
    「いまはあつきだっているんだもの、さびしくなんかないぞ」
    「……わたしも、けんしんをきにかけてくれるあいてがいたときいて、ほっとしたんだよ」
     刀派や前の主に由来する繋がりは心強いものではあるが、そうでない相手との交流は少しハードルが高い。そこに本丸でできあがってしまった関係性が加われば、なおさらだ。
     新人と古参の間に、どうしても壁ができてしまうのは本丸運営上での課題の一つだ。審神者の間でも、昔から議論が尽きない。
    「なんかさ、俺たちって、あれじゃん。昔あった嫌なことが結果的にプラスに働いててもさ、絶対に言えないじゃん、よかったって。でも、本丸に来てからのことならよくね?」
    「そうだね、ほんまるによってちがうのだろうけども」
    「確かに、僕らの本丸では、その……悲しいことは起きていませんし」
     刀というモノの特性上、刀剣男士が抱える苦い思い出には、誰かしらの命が巻き込まれているものが少なくない。よその本丸では刀剣破壊が似たようなものとして数えられるのだろうが、うちの本丸では幸いなことにまだ誰も折れていないのだ。
    「だろー? だからさ、よかったんだよ結局、あのとき亀甲の兄貴が来なくって……まあ、俺も待ってたんだけどさ、それはそれで」
    「そう……なるねぇ、うん」
    「言っておきますけど、僕だってそこそこ待ちましたからね、太鼓鐘くんのこと」
     だいぶ痛いところを突かれたのだろう。げっ、という声とともに、伊達の短刀が取り繕うようにわしわしとオムライスをかき込み始めた。
    「……さーて、とっとと食ったらまたチョーサ再開しますかねー!」
    「もう! でも、確かにもう少し進めておきたいところですもんね」
     急ぐか、と豚汁をすする。いつだか鶴丸が作ったミルクシチューと元が同じらしいそれは、出汁で煮込まれた野菜と肉を味噌の風味がやわらかくくるみ、腹のなかへと熱を落としていった。
    「えーと、次は……西側を見ていくか。どうやらここらへんが、時間軸の違いによるズレが大きい」
    「うん、僕もそう思う」
     食事を終えたら荷物をまとめて、今一度周囲を確認する。忘れ物がないことを確認したら、痕跡をできる限り消す。
     一連の作業を終わらせるまでが、遠征時の休憩だ。踏んづけて倒してしまった枯れ草を軽く起こしてやり、まとめた荷物を鞄にしまう。
    「よし、じゃあまずは短刀と脇差で偵察を頼もうか。大丈夫だとは思うが、僧兵には見つからんようにな」
     応と答え、三振りが音もなく森のなかへ突入していく。その後ろ姿を見送って、亀甲が小さくつぶやいた。
    「最初は罪滅ぼしもあったんだけどね。でもやっぱり、いい子だろう?」
     今ではそんなの関係なく仲良くできていて、たぶんそんなことなくったって仲良くできたんだろうけども。それでも、そんなこと、がなかったらこうはならなかったんだろう。自分たちの関係性には、案外こういう形のものが多い。
    「さあ、早く終わらせてご主人様のところへ帰らないと!」
     朝に出てきて、たぶん帰るころはちょうど八つ時になる。おやつ取っておくよと言った彼女に、彼は見えない尻尾をちぎれんばかりに振っていた。
    「……そういえば、お前さん正直どうなんだい。主と近侍殿との関係については」
    「あはは、よく聞かれるよ」
     どうやらあの近侍殿、どうにもこの刀との距離感がつかめないらしい。審神者が大好きな者同士、何か思うところでもと思ったのだが――
    「僕はね、ご主人様が大好きだよ。大切に思わないはずがないじゃないか」
     まっすぐすぎるその好意に、なるほどこれはと則宗は合点が行った。これは確かに、へし切長谷部との相性はそう良くはないだろう。だからといって、不仲とかそういうわけでもないようだが。
     刀剣男士として本能的に組み込まれた忠誠心もあるし、個人としての好意もある。しかしそれは、刀剣男士それぞれで同じようで少しずつ違う。そしてそのなかには、どうにも相性の悪いものがある、そういうことだし、それだけだ。
    「だからね、もっと見たいと思うんだ。大好きな人が幸せそうにしているところを!」
     ご主人様の幸せの源は、自分たちの幸せ。そして長谷部が幸せそうにしているときのご主人様の顔からは、また違う類の幸せがあふれている。つまり、長谷部を含めた自分たちが幸せであることが、ご主人様の幸せにつながっていく。
    「そう思うとね。長谷部くんも僕たちも、幸せにならなきゃと思うんだ」
     まあ、そういうところだろう。なお、後日聞かされた宗三左文字からのタレコミによれば、「長谷部に同じこと曇りなき眼で言い切って完全にノックアウトさせてましたよ」とのことである。
    「なんつーか、すごいな、お前さんは」
    「え?」
    「きっこうどのは、そういうひとだからな。おだのかたなたちが、いまだにさけのせきでかたりぐさにしているよ。あるじとはせべどののことで」
     どうやら、長谷部相手だけでなく主にも何かあったようだが……嫌な予感がする、と内心で冷や汗を垂らした則宗の予想は見事に的中した。
    「ご主人様に言われたんだ」
     何でも命令してほしい、そう言って目を輝かせる亀甲に、審神者はこうのたもうたのだ。
    「……よーし、分かった。あなたの望むものなんて、私は絶対に与えてあげない。これでどう?」
     あなたがどんなにご主人様からの痛みを望んでも、そんなものはあげない。傷つけるような命令も、絶対に下さない。にやりと笑う主に思わずその場で崩れ落ちたのだと、白菊にたとえられる眉目秀麗な顔が徐々に赤らんでいく。
    「お、おう」
    「最高だと思ったよね……っあぁ!?」
     偵察を終えたのだろう、突然森のなかから現れた太鼓鐘が、亀甲の背を思い切りひっぱたいた。その後ろから出てきた物吉が、お騒がせしておりますと則宗たちに頭を下げた。
    「兄貴、落ち付けって」
    「そのくらいにしましょうね、お兄様」
     極めた短刀にどつかれて、カンスト脇差ににっこり微笑まれて。二振りの弟たちにたしなめられ、彼も素直にはぁいとうなずく。
    「謙信、一緒にうちの兄貴拘束しようぜ」
    「うん!」
     右手と左手をぎゅっとつながれて、かなわないなぁとうれしそうな声が聞こえてくる。
    「……いいのかい、あれ」
    「まあ、あんなにたのしそうにされるとね……」
     だれかのめいわくになるわけじゃないし、ちゃんとともだちだから。そう言って笑う小豆とともに、先行する四振りを追いかける。
     残雪はもう一月もすれば溶け、自分たちの足跡を消すだろう。踏みつけた枯れ草は新たな草花の養分となり、土へと還っていく。
     自分たちの会話も、ここにいたことも、思い出を頭に刻み込みながらも跡形なく消滅していく。けれど、それでいいと則宗は思った。
       沖田組とカフェの小鉢定食ランチ


    「じじい、洋服見に行くよ!」
    「おじーちゃん、ご飯行こー!」
     朝も早よから元気に声をかけてきたのは、自分の教育係とその相方であった。三振りそろって非番なことは昨日の段階で知ってはいたが、まさかコンビで突撃してくるとは。
    「なんだ、洋服限定かい?」
    「だってあんたの手持ち、いつもの以外は和服ばっかりっつーかさ、ぶっちゃけ支給されてるやつしかないでしょ?」
     デコりがいがありそうだと、清光が楽しそうに笑う。
    「僕は単にご飯行きたいだけー」
     安定とは、昨日一緒に出陣して言葉を交わしたばかりだが。そのあと夕飯も隣の席になり、僕もおじいちゃんって呼んでいい? と聞かれてほだされないはずがなく。
    「それに、お出かけのやり方まだ教わってないっしょ。ちょうどいいんじゃない?」
    「はいはい、分かった。準備するからちょいと待ってくれ」
     本丸からの外出には、特別な許可は必要ない。必要なのはせいぜいいつごろ帰るかと、どっち方向に向かうかどうかの申告だ。要するに、何かあったときにお互いの状況を把握できて、夕飯をどこで取るかが分かればいい。
    「もちろん、出先で予定変わったらその都度連絡は必要だけどねー」
     玄関の下駄箱の前で、壁のパネルにかけられた自分の名が書かれた札を清光が手に取る。
    「自分の札ひっくり返してー。色違うから、それで誰が外出してるか分かるってわけ。ああ、夕飯いらないときは、こっちに引っかけ直してね」
     いつも事務班が、翌日の予定と照らし合わせて札をあちこちに引っかけ直すそれは、デフォルトでは無垢の木だが裏は白く塗られている。非番の枠に引っかかった自分の札を、則宗もひっくり返した。
    「んで、出陣用じゃなくてこっちのゲート使うの」
     普通にお出かけしようとしたら戦場に、なんていう事態を避けるために設置された二つのゲート。その片方の、馴染みのないほうのパネルに安定が触れた。
    「行き先選択が出るのがここね、そうしたら……」
     行き先は大きく〝政府本局〟と〝他本丸〟、そして〝万屋街〟に分かれている。紅の色が付いた指先が、万屋カテゴリーのファッション街ボタンをタップした。
    「順番に手をかざして」
     ぺかぺかと光るパネルに手のひらを近づけると、『一九八 一文字則宗』という表示が出る。そして二つの手がかざされ、『八六 加州清光』『八八 大和守安定』と文字が続けて浮き上がった。
    「はい、三振りで登録、っと」

    一文字則宗 加州清光 大和守安定
    以上三振りを
    万屋 ファッション街 H‐3ゲート に転送します
    はい/いいえ

    「はーい」
     清光の指先が『はい』をタップすると、ゲートの向こう側の景色が変わる。政府勤務のときも万屋街には何度か出向いたこともあるが、審神者や刀剣男士たちに堂々と姿をさらすわけにもいかないからと裏通りを少し歩いた程度だ。
    「んじゃ、行こっか」
    「……おぉー」
     高揚感がないと言ったら嘘になる。坊主二振りに手を引かれて飛び込んだ先で、喧噪が一気に則宗を包み込んだ。
    「まずは基本のトップスとボトムに、あとまだ寒いからアウターと……小物もいるね、うん。予算と相談しながらっつーと……」
    「……本丸への配送は可能なんだよな?」
    「配送もできるけどさ、大荷物抱えてえっちらおっちら歩くのもショッピングの醍醐味じゃない?」
    「……若いほうが体力あるだろう、荷物持ちは任せたぞ坊主ども!」
    「清光! 巻き込まないで!」
     万屋街、と古くさく漢字で呼ばれてはいるが、とどのつまりショッピングモールである。小京都や小江戸と呼ばれるタイプの町の中心街を模した年季の入った建物が並ぶ商店街が、いくつかのフロアに分かれている。
    「なんつーか、かっこいい系もかわいい系も行けそうなんだよねー」
    「坊主たちと揃いなんかでもいいぞ、僕は」
    「やだよ恥ずかしい」
     ぎゃいぎゃいとかしましく騒ぎながら、三振りそろって店へと向かう。周囲をそぞろ歩くよその本丸の審神者たちが、ほっこりとした菩薩のような笑みをこちらへ投げてよこしてきた。

    「これはさすがに、いささか年寄りには向かないと思うんだがなぁ」
    「えー、意外と似合うと思うんだけどなぁ……んじゃこっちのピーコートは? これだとそこまでかわいすぎないし、抵抗そこまでないでしょ」
     真っ白なダッフルコートは、さすがにこの歳では気恥ずかしいと言えば。続いて差し出されたのは、明るいグレーの丈の短いコートである。
    「黒いコートは監査官のときの持ってるし、もう一着は明るいやつがいいと思うんだよね。カジュアルすぎる恰好で出かけたりはしないだろうし、外行くときはだいたいこれで大丈夫じゃない?」
     はい行っておいで、と試着室に押し込まれ羽織ってみれば、少しゆるめに見繕われた厚手のウールが具合良くなじむ。
    「どうだ、坊主」
    「お、なかなかいいじゃん。下スリムパンツにするともっと合いそう」
     この爺さんフルでコーディネートしたいんですと聞いて、楽しそうにこちらを見守っていた店員も、興奮したように清光に同調しはじめる。
    「一文字則宗様はトレンチを選ばれる方が多いんですけど、ピーコートもすっごくいいですね。今度別の本丸の方にアドバイス求められたら、参考にしてもいいですか?」
    「え、マジで? 逆にすっごく嬉しい、ありがとー!」
     なにせ、この一時間の間ずっとなんだかんだとふたりがかりで着せかえ人形にされたのだ。きゃあきゃあとはしゃぐ様子も、ここまでくると微笑ましい。
    「で、アウターってそう何着も持つもんじゃないしね、変化付けるように小物類……マフラーとか帽子とかも――」
    「きーよーみーつー、おなかへったー……」
     門外漢だからと待たせていた安定が、腹を押さえてぽてぽてと歩いてくる。いつまでやってるのさ、と恨めしそうににらまれて、さすがに清光も手を合わせた。
    「あー、分かった分かった。すみませーん、また来ます」
    「はーい、お待ちしております!」
     頬を膨らませる相方を清光がなだめつつ、購入と配送(さすがに大物ばかりを持ち運ぶのは骨が折れる)の手続きを済ませる。
    「さて、どーすっかなー。レストラン街、ここからだとちょっと遠いし……」
    「え、やだ。今食べたいすぐ食べたい」
    「そうかそうか、元気で何よりだ!」
    「んー、つってもなぁ。このフロアどっかご飯食べれるとこあったっけ?」
    「ああ、それでしたら……」
     書き上げた伝票をこちらに渡しつつ、店員が一軒心当たりがあると声をかけてくる。
     聞けば、自分たちもランチでよく利用する隠れ家カフェが、一本裏手の通りにあるとのことだった。昼の定食も値段の割に量があり、美味いうえに雰囲気も抜群と伝えられ、清光が目を輝かせる。
    「へー、カフェかぁ。カフェでも定食系ならけっこうしっかり食べられるし、安定もへーきでしょ?」
    「うん、しっかり食べれて美味しいなら何でも!」
    「よーし、けってーい」
    「ありがとうな」
    「いえ、いいんです……僕らとしても、もう少し適度にお客さん増えてほしいなーって思っていたところなので」
     今メモお渡ししますのでとカウンターへ小走りに向かう店員の、含みのある言い方が少し気になる。とはいえそこをつつくのも、とおとなしく覚え書きを受け取り、三振りは店を後にした。
    「さて店の名は……ん?」
     小さな紙切れには、簡単な地図と店名が記されていたのだが。その名前が、少し則宗の記憶に引っかかる。
    「……聞いたことが、あるような?」
    「え、でもあんたこっち堂々と来るの初めてでしょ?」
    「知ってる職員さんが行ったことあるとかじゃない?」
     大きな通りから一本入った小道に、ひっそりとその店はあった。
     京の町屋のような格子が、表からの光を細切れにしている。古びた下駄箱の前にすのこが敷かれているのをみるに、どうやら靴を脱いで上がるタイプの店らしい。
     玄関近くにはレジが設置され、土産用らしいクッキーやパウンドケーキが並べられている。ドアに釣り下げられたカウベルの音が聞こえたのか、町屋らしい長い廊下の先からぱたぱたと足音が聞こえてきた。
    「いらっしゃいませ、三名様ですね。下駄箱に――」
    「え、あれ!?」
     ぱちくりと目をしばたたかせた清光の視線の先では、エプロン姿の〝加州清光〟がぎこちない接客スマイルを顔に浮かべている。
    「あ――そうか」
     頭の片隅に浮かんだ記憶のひとかけらが、パズルのピースをぱちぱちと小気味よくはめていく。なるほどと小さく首肯して、則宗は呆気にとられている清光の肩に手を置いた。
    「こーら、仕事の邪魔をするもんじゃあないぞ、坊主」
    「あ、ごめん。ちょっとびっくりしただけだから」
    「あはは、ありがとう。慣れてるからへーきだよ。下足札をお持ちになって、こちらのテーブル席にどうぞー」
     案内されたのは、ほどよく陽光が当たる窓際だった。つやつやと光る焦げ茶色のテーブルの真ん中では、小さな花瓶にサザンカが生けられている。
    「お茶と、こちらメニューね。本日ランチの副菜は、南瓜と薩摩芋と玉ねぎのトースター焼きに白菜と蕪の浅漬けで、汁物はけんちん汁です。日替わりA定食のメインは、さといもの煮っ転がしを使ったコロッケ」
     お決まりになりましたらお声掛けください。そんな定型文を口にして、加州清光は他のテーブルの注文を受けに行った。
     出された湯飲みから立ち上る湯気には、ほうじ茶のほのかな香ばしさが混ざっている。革の表紙に挟まれたランチメニューを、清光がぺろりとこちらへ向けてきた。
    二振ふたりともどうする? 俺はランチセットの……うん、日替わりで」
    「僕チキン南蛮! おじいちゃんは?」
    「そうさなぁ、鶏つくねのはさみ焼きで」
     メニューを決めたところで手を挙げると、タブレット片手にエプロン姿が再びやってきた。注文を伝えると、目の前の彼とは微妙に違う紅い爪が軽やかに画面をタップしていく。
    「はーい、ランチセットのABC一つずつ、と。あとドリンクの種類お願いします、食前か食後かも」
     三振りともセットドリンクは甘いものにしたが、食事と一緒にはシンプルな茶のほうがいいだろう。食後ね、と指を滑らせつつ、加州清光は物珍しそうに自分を見つめてきた。
    「間違ってたらごめん。その、一文字則宗って……」
    「ああ、僕だよ」
    「……やっぱりそっか、特命調査ってやつ、もう終わったんだよね」
     よく知っているはずの顔が、そのまま少しだけ寂しそうに笑う。
    「加州、二番のドリンク頼む」
    「はーい! ああ、失礼しました。ごゆっくりどうぞ」
     ひょこりと頭を下げて、キッチンへと戻っていく背中を見送って。テーブルに肘を置いて、清光が一口茶をすすった。
    「……知らないのかな、あそこのこと」
    「さて、どうだろうなぁ……」
     彼がどれだけここで働いているか、則宗は知らない。しかし、少なくともこの店の性格上、特命調査に――おそらく、慶応甲府以外であっても――赴く機会はなかったのだろう。
     しかし、それをこの坊主たちにどう説明したものか。結局、その言葉は見つからないままだった。
    「なんなんだったんだろうね、あそこ。放棄された世界、だっけ」
    「さてねぇ、それが分かれば苦労はない、なんて言われそうだがな」
     歴史改変された聚楽第という場所が公になって以来、研究部署の瓶缶ゴミがドリンク剤であふれかえった、なんていう類の噂は枚挙に暇がない。放棄された世界というもの自体が寝耳に水だったという研究員が、隠蔽されていたならただじゃおかんと目を血走らせていたのは見たことがあるが……
    「政府にはないわけ? 閲覧可能な研究資料とかそういうあれ。つーか、やっぱり監査官とか先行調査員ってその場所の関係者がなってるわけでしょ?」
    「いやいや、僕は他の坊主たちに比べたらイレギュラーだろう。記憶を頼りにしようにも……なあ」
     その時代、その場所について多少の知見を得ていてもおかしくない、則宗でも、そんな刀があたる任務だと思いこんでいたのだ。自分の登場は、さぞかし審神者たちの度肝を抜いただろうと冗談めかして語ると、清光の視線がふい、と逸らされた。
    「……あんたの記憶も、俺らの記憶も、程度の差はあれ似たようなもんでしょ」
    「――ンぐっ!?」
     茶を吹き出さなかったことをほめてほしい。彼の一言は、いわば公然の秘密として誰もが触れなかったものだった。
    「――俺の記憶でもね、池田屋で血ィ吐いてんのあの人」
     分かってるんだけどね、確証はどこにもないって。清光の言葉は、意識の底でくすぶっていたものを三振りの奥から引っ張り出した。
     沖田の池田屋での喀血は創作上の演出ではないか、それはしばしば議論に上がる。『大奮闘のさいちゅうに持病の肺患が再発してうち倒れた』という記録が永倉新八の回想録など一部に残ってはいるが、喀血についての描写はない。しかも、そのどれもが明治に入ってから記録されたものだ、「そのとき」「その場で」「その人が」残したものという、歴史学で最も信頼される一次史料には当てはまらない。そもそもそこまで症状が進んでしまった結核患者に、果たして激しい戦闘ができるのか、と。
    「ちょっと調べたら出てくる話だけどさ……でも、誰が書いた物語でも、たいていあの人は池田屋で血を吐くんだ」
     新撰組は、歴史物フィクションの人気者だ。良くも悪くも男性のみのコミュニティー、という彼らの関係性や、急速に変わっていく時代のただ中で衝動に突き動かされた若者たちの青春の生き様は、老若男女を今でも魅了し続けている。
     国賊の長として切腹すら許されなかった近藤勇、病に冒されひとりぼっちで死んでいった沖田総司、銃弾に倒れた最後の侍土方歳三。ドラマの回が進み、彼らの最期が近づけば、視聴者たちは悲鳴を上げて叶うことのない生存を願う。
     しかし……もしも、本当にもしもの話だが。本当に、彼らがあの激動の時代を生き延びて、新しい時代を生きて年老いて、子や孫に囲まれて布団の上で大往生したとしたら。果たして、新撰組のファンがファンとなるとっかかりは生まれたのだろうか。少なくとも、ブームは自分たちの知る歴史よりだいぶ遅れただろうことは否めない。
     喀血とは、わかりやすくドラマティックな〝記号〟である。歴史物のドラマではよく見かける、後の世の悲劇を知っている者にだけが理解できる〝フラグ〟という物語の手法は、沖田総司という人物の場合は喀血だった。そういうことだ。
    「みんなが見たいのは、血を吐いて、戦線を離脱して、せめて戦場で散りたかったって苦しみ嘆いて死んでいく沖田くんなんだ。池田屋は、その伏線ってわけ」
     そして自分たちは、その〝悲劇〟を土台として存在する。史実上は不確かな部分の多いはずだった〝悲劇の少年美剣士・沖田総司〟の物語が、自分たちに血肉を与えているのだ。どんなに自分たちがその悲劇性を嘆き苦しんだとしても、自分たちの存在そのものが彼の人生の物語を強固に裏付けている。
    「主が言ってたんだ。刀剣男士の持つ喜びも怒りも悲しみも、すべてが人に起因するんだろうねって」
     あの申し訳なさそうな顔は、どうしたって忘れられない。そう言って、清光が寂しそうに笑う。
    「大和守、お前さんは……」
    「うん、僕も分かってる。正直、分かりたくはなかったけど」
     安定がそれを知ったのは、極めたあとのことだった。それまでは意識的に触れようとしなかった、前の主たちに関する創作ではない書物の数々。修行を終えた今ならばフラットな気持ちで読めるかもと紐解いたそれは、彼にとっては重すぎるものだった。
    「……忘れようと思ったんだ、忘れたら大丈夫になるんだって。そんなことなかったけど」
     忘れようとして忘れられたら、こんなに楽なことはない。静かに取り乱す安定に、近侍はそう言ったという。
    「長谷部の言うとおりだよね……自覚はあるんだ、ちょっと僕メンタル弱いなーって」
     ため息を一つついて、あのさと安定は迷うようにしつつも口を開く。
    「……他の新撰組の刀たちは持ってて、僕が持っていないもの。分かる?」
    「それは……お前さん、もしや」
    「……長曽祢さん、いろいろ言ってても蜂須賀も浦島も放っておかないし、清麿だっているでしょ。和泉守は之定之定って、すごく歌仙になついてるし。堀川も兄弟がいる。清光も前田たちに可愛がられてるし」
    「いや……うん、否定はしないよ、しないけどさ」
     普通逆じゃないの、と恥ずかしそうに清光がそっぽを向く。極の衣装の胸元に現れる華麗な友禅は、彼のルーツを語らずとも確かに示すものだった。
    「……刀工由来のつながり、か」
    「うん。長曽祢さんが作風について言ってたりするけど、それだけなんだよね」
     安定の元となる逸話は、ほぼすべてが前の主によるものだ。刀工としての〝大和守安定〟を元にしたつながりは、はっきりいって本丸では皆無である。
    「伊達の殿様に手ほどきしたとかそういう話もあるみたいだけど、逸話としては強くないしね。伊達のみんなとは普通に仲いいけど」
     伊達男って柄でもないし。冗談めかして笑い、安定は茶を口に含んだ。
    「主がね、言うんだ。それに気づいて逃げないだけ偉いよ、って」
     いくら沖田総司が大好きでも、あなたはそれを他の誰かの前の主の思い出より絶対的に価値のあるものだとは思わないでしょ、新撰組由来じゃない刀にマウント取って罵ったりはしないでしょ。そう言われて、安定は心底仰天したという。
     自己が何者であるか、それを説明できる言葉に乏しい者の精神がちょっとしたことでぐらつくのは、人間も同じだ。しかし、たいていはそれに正面から向き合わずに、数少ないアイデンティティーにすがりつき他者への攻撃に走ることが多い、と。
    「自分が何かを説明する言葉に乏しいと思ったなら、これから増やしていけばいいって。いろんな相手と交流して、いろんな本を読んで、いろんなことを考えて、いろんなことを経験すれば、自然と増えていくからって」
    「こいつけっこう人なつっこいし、吸収も早いからねー。びっくりするような相手と仲良くできちゃったりすんのよ……顕現したての数珠丸さんの髪にくるまってるの見たときはどうしようかと思ったわ」
    「うはは、目に浮かぶなぁ」
     小烏丸の髪にじゃれつき、鬼丸に角にさわらせてくれと頼み込み……そりゃあこんな悪意のないきらきらと輝く目ではしゃがれて、あまつさえすごいすごいと言ってくる年少者とか、可愛がらない理由がなかろう。
    「そういや、あんたの跡目に深夜のラーメンが一番美味いって教えてたのもこいつでーす」
    「うっははははは!」
     一体全体、あの堅物をどうやってたらしこんだのか。一門の他の連中が見たら、きっと腰を抜かすような光景だろうに。
    「え、なんかダメだった?」
    「いやいや、うちのはどいつもこいつも、なかなかに気を張りすぎるところがあるからな。外野がちょくちょく連れ出してくれるのはありがたいよ」
     きょとんとした大和守の髪を、わしわしとかき回す。甘やかしすぎないでよ、という相方の小言は、右から左に聞き流した。
     五番上がったぞ。はーい。そんなカウンター越しのやりとりののちに、加州清光が三つ並んだ盆の一つを取ってこちらへとやってくる。
    「お待たせしましたー、順番に出していくね。まず煮物コロッケ」
    「うっわ、美味そ」
    「美味いよー」
     同位体として、多少打ち解けてきたらしい。盆の上で行儀良く並ぶ皿や椀の隣には、雑穀米が盛られた茶碗が置かれている。
    「清光、チキン一切れあげるからコロッケ半分ちょうだい」
    「あー、はいはい。待ってなって今分けるから」
     一個のコロッケを、直箸でいいでしょと清光がざくざくと割って大和守とこちらの皿へと寄越し、衣を甘酢でてりってりに輝かせている鶏肉も、こんもりと載っかったタルタルソースと一緒に一切れやってきた。
    「じゃあ僕のも半分ずつ食うか? 蓮根と茄子」
     二種類の野菜に挟まれた鶏つくね、それぞれ二つ盛りつけられた片方ずつを割ろうとしていると、するりとカトラリー入りのバスケットが横から差し出された。
    「よかったら、ナイフどーぞ。ちなみにご飯はおかわり無料でーす」
    「おお、こりゃありがたい!」
     ひらりと手を振るエプロン姿に礼を言って、肉に刃を入れる。控えめにあふれ出す肉汁から立ち上る湯気には、大葉のさわやかな香りが混ざっていた。
    「あ、ホントに煮物のコロッケだ! 美味しい」
    「蓮根うっま」
    「飯もいいが、ビールにも合いそうだなこの鶏肉。いや、どっちかっつーとレモンサワーか?」
    「一文字隠居にあるまじき酒の好みじゃん」
    「なーにを言うか、うちは意外と庶民派だぞ? 日光の坊主もああ見えて放っておくと芋焼酎ばかり飲んでる」
    「あー、うん。そこはワインじゃねえのかって盛大にツッコミ食らってたよね」
     どれ副菜もとトースター焼きを口にすれば、シンプルに素焼きにした南瓜に薩摩芋に玉ねぎの甘さが、控えめな塩の援護射撃も相まって舌の上にじわじわと広がっていく。根菜のうまみやごま油のこくをまとったけんちん汁の豆腐は、水抜きされているのか素材の力か、大豆の味がしっかりと感じられる。
    「えー、コロッケうっまー。これちょっとうちでも……無理か」
    「煮物が残るってことがないよねー、誰かしら食べちゃうもん」
    「今度ちょっと取り分けてもらってやってみる? でも揚げ物面倒くさいし……」
    「コロッケってのは、まあなかなか手間らしいからな。先日歌仙の坊主が、店で買うほうが安い気がするとかぼやいていたが」
    「歌仙がそこまで言うって相当だもんね……まあ、俺うちのコロッケも好きだけど」
    「あのまん丸なやつね、僕も好き! なかなか食べられないけどさ」
    「でも、こうやって少しだけなら……里芋だけじゃなくて、ほかの芋とか南瓜も行けるかなぁ――あ」
     そうそう話変わるけど煮物といえば、そう言った清光が、苦笑いしつつチキン南蛮を茶碗の飯の上に軟着陸させた。
    「こないだ主が台所のストーブで煮物炊いてたみたいで、長谷部とふたりっきりでいい雰囲気になっててさ。何してるってわけじゃなかったけど、さすがに入りにくかったなぁ」
    「あー、あるある。まあ急ぎじゃないときは出直すよねー」
     恋仲のふたりが一緒にいると、まあどうしてもそういう雰囲気は出るわけで。そんな場面に出くわしてしまったら、急ぎのときは――多少わざとらしくなってもいいので気配を醸し出すこと。そうでない場合は、何も見なかったことにしてその場を去ることと、周囲にいる仲間にそれとなく周知させておくこと。
     そう教わってはいるが、なかなか主も慎重派らしい。幸いにも、それを実践する機会は、則宗にはまだ来ていなかった。
    「しかし、あのふたり、あまりそういう空気はないだろう? あまり想像がつかんのだが」
    「まあ、俺たちの前ではね。あからさまにイチャつかれても困るでしょって、主が」
    「……真面目だねぇ、つくづく」
    「だから、急いでないときはそっとしとくんだよ」
     彼女らしいと言えてしまうのは、それなりに本丸に来て時間が経ったという証拠か。しかし、次に出てくる質問が少々性格の悪いものなのは、まだまだ〝監査官〟としての感覚が抜けていないからなのだろう。
    「坊主は、ああいう類の愛は望まないタイプか?」
     そんな自分の意地の悪い問いに、清光は淡々とそーねとうなずいた。
    「もしも……もしもね、あくまでも。主があいつより先に俺を見ていたら……そうしたら、応えられてたんじゃないかな、きっと。たぶん俺は、あの人をそういう意味で好きになれたと思う……今ここにいる俺にはいっさいそういう気持ちはないけど、そういう世界線?もあり得たんだろうなって」
     汁物を口に含むさまは、どこまでも冷静だ。ふっと笑った緋色が、こちらの視線を射抜いた。
    「でも、今は違う。俺はあれを壊してまで、そういう気持ちを持ちたいわけじゃない。その愛には、今の俺があのふたりを見て思うこと以上の価値があるとは思えない」
     わりと、そういう奴は多いんじゃないかな、うちの本丸。彼がそう言った理由は、どこまでもシンプルなものだった。
    「だってさ、可愛いでしょ? うちの主」
     人柄も、見た目も。彼女にだったらそういう好意も――あくまでも、きっかけがあれば、だが――抱けなくはないな、と思える程度には好ましい。それが主で、もしも自分に感情が向けられたら、そりゃあ応えたくもなるだろう。そんな機会は、逆立ちしたって来やしないと分かってはいるけれど。
    「……なるほどなぁ、確かに」
    「あんまり得意じゃないみたいだけどね、可愛いって言われるの」
     自分の主を可愛いと思いますか、そう聞かれて否と答える刀剣男士はなかなかいない。それは世辞でもなんでもなく、本当に自分の審神者をそうだと思っているのだ。
     世間を知らないというわけではない、世間で美人や可愛いとされる人間の容姿についてはよく分かっていて、審神者がそういう類の見た目でないと分かっていても、それでも世界一可愛いと断言する。それを嘲笑し、主を貶めにかかる者には全力の殺意を向ける。それが刀剣男士である。
    「あ、ご飯おかわりくださーい!」
    「はいはーい。〝安定〟ならそう言うと思った、いっぱい食べなね」
     ぺろりと茶碗を空にした安定の前に、店員の加州清光が楽しそうに新たな飯を置いていく。
    「得意じゃない、か。確かになぁ」
    「理解はしてるみたいね、刀剣男士はそういうもんだって。人間でもそういうことはよくあるよって言ってたし。だから俺たちが可愛いって言っても絶対に否定はしないんだよ、あの人。それを頭ごなしに否定するのは、本当に失礼でひどいことことだって理解できてるから」
     きっと、それが理解できる程度には愛されて、さりとて自分の外見に自信を持つのが難しい程度には周囲の評価に邪魔されて育ってきたのだろう。乱に清光に他のみんなに、もちろん長谷部にだって、本丸総出で可愛がられてはいても、二律背反を抱える彼女が「ありがとう」と返す顔は、どことなくぎこちない。
    「そんな世界があったかもしれないけど、少なくとも今の俺はそういうことは望まないよ。億が一そういう好意を持ったとして、あのふたりの間に波立てるくらいなら潔く捨てるね。臣下兼友達、俺はそれが一番幸せなの」
     だいたいさ、と口に放り込んだ浅漬けを飲み下して、清光はさらに言葉を重ねた。
    「忠誠心とか友情とか、そういうものと色恋を比べてさ、どの愛が一番尊いものかなんて馬鹿馬鹿しいこと言うやつはこの本丸にいないよ。それは主も、長谷部だってそうだ」
     刀剣男士が審神者に寄せる愛情は、言ってしまえばデフォルトで搭載されたものだ。しかし、何もなしにそれが増幅されるわけがなく。
    「……愛されているなぁ、主は。近侍殿もひっくるめて」
    「へ、はへべも?」
    「安定、いいから食ってからしゃべんな」
     先日の遠征で、亀甲が言っていたのは――いささかマイルドにすれば、そういうことなのだ。審神者のことを信頼して愛情を感じているからこそ、あったかもしれない〝もしも〟には流されずに長谷部もひっくるめて信頼する。
     恋仲というものは、それはそれは甘美なものなのだろう。寵愛とは、これ以上ない垂涎の的なのだろう。それを求めてあがくことも、愛の一種なのだろう。しかし、今に比べればそんなものと一蹴できてしまうのも、これもまた愛である。
    「あー、美味しかったー!」
    「おべんとがついてるぞ、坊主。お前さんから見て右側だ」
    「あ、ほんとだ。ありがとう」
    「もー、短刀じゃないんだから」
     きれいに片づいた盆にごちそうさまと手を合わせ、食器が下げられたテーブルの上に今度はコースターが三つ並ぶ。
    「はい、抹茶ラテにほうじ茶ラテ、あとはオレンジジュースね。デザートもすぐお持ちします」
     食後に出されたゼリーは、チョコのような見た目と麦芽の香ばしい味わいがおもしろい。ほうじ茶ラテのマグカップを両手で抱え、清光がぼそりと口を開く。
    「さっきの話の続きだけどさ……聞いてて楽しい話じゃないけど」
     抹茶の苦みと芳香がミルクの甘みを引き立てているラテを口に含み、則宗は黙って先を促した。
    「俺、一度難癖つけられたことあんのよ。よその本丸の審神者から。主と誰かが恋仲で、不満に思わない加州清光なんておかしい、ってさ」
    「あー、あったあった。和泉守たちがキレてたよねー、小狐丸も同じこと言われて今剣が真顔になってたし」
    「そーそーそれ。ホント失礼しちゃうよねー、脳味噌ち、その、海綿体扱いじゃん。俺らそんなガキじゃないっつーの」
     食事の席で失礼、と断りを入れつつ少しばかり直接的な表現を使う清光の口調から、そのときの憤りが見て取れる。
    「どうしたんだ、その審神者」
    「厳重注意と強制講習受講処分だって。そういうの口出しちゃう時点で、けっこうトラブルメーカー予備軍だし……って、そうじゃなくってさ」
     不服に思わないのか、そう言い募られる自分の刀剣たちを見て、主も少しばかり悩んだ部分もあったらしい。ストレスを溜めていやしないかと聞かれて、こちらもこちらでどう説明したものかと頭を抱えたという。
    「俺たちの心って、人と似せて作られているわけだからさ。ちょっと疲れたなーってなったら、ある程度は自力で散らしはするわけ。掃除したりよく寝たり手合わせしたり、五虎退とか秋田とかの頭なでたりして……でもさ、ホント我ながら外聞悪いこと言っちゃうけど……」
     主のハグからしか得られない栄養ってもんがあるでしょ、俺たちには。情けなさそうにそう言って、清光はため息をついた。
    「まあ、ねぇ。なんていうか、別だよねあれは」
     だからこそ、主には説明しにくいのだ。説明しづらいからこそ、難癖をつけてきた審神者への八つ当たりめいたヘイトが生まれたのである。
    「そこは長谷部も分かっててさ、気ィ遣われてんなーって思うこともあるけど」
     自分がいると主に甘えにくいだろうからと、彼はそれとなく席を外すことも多い。だからこそ、さっきの話のようにふたりきりにする機会もなるべく作るようにはしているのだが……
    「なんというか、世間一般の〝へし切長谷部〟像とだいぶズレがないか? うちの近侍殿は」
     主第一で、その姿勢は執着とも言えるほど。へし切長谷部とは、その手の評価が下されることがとにかく多い刀剣男士だ。本丸ごとの個体差が激しいと審神者・刀剣男士制度の発足直後からよく言及されてはいたが、ここまでバランス感覚に優れた個体の話も、また珍しい。
     そこまで主への感情よりも仲間を優先できるとは、そう話す則宗に、安定がやれやれと遠い目をする。
    「……おじいちゃん、それ日本号とか宗三とかに言ってみなよ。めちゃくちゃ笑われるから」
    「まじか」
    「マジマジ、もうどっかんどっかんだよ絶対」
     詳しいことは言わないけどさと、清光がゼリーの最後の一口を口にする。
    「この後は、またさっきのお店で……小物だな、うん。マフラーもいいけど、大判のストールなんかもいろいろアレンジ利くし。あとは靴ね、あればっかりは午後に買ったほうがいいから」
    「店員さんにお礼言わないとね、ご飯美味しかったし」
    「……よし、出るか」
     最後の抹茶ラテを口に流し込み、長っ尻になる前にと立ち上がる。会計をと頼むと、加州清光がエプロンと伝票をひらひらとさせてレジに向かっていった。
    「そういえばさ、刀剣男士しか働いてないカフェって珍しいよね」
    「あ、こら」
     カウンター前でタブレットを叩く、見慣れた顔の店員姿に安定が無邪気な質問を投げかける。あわててたしなめる則宗だったが、加州清光はおかしそうにひらひらと手を振った。
    「あー、いいよ、大丈夫。元政府所属ってことは知ってるんでしょ? ここがどういう店か」
     審神者の引退や諸々のトラブルにより、本丸を離れた刀剣男士が何かしらの職に就くことは確かにある。しかし大多数は政府本局でのものが多く、こうやって万屋街で接客をというケースはほとんどないだろう。
     則宗の周囲にいた政府職員がこの店を知っていたのはそういった物珍しさと、それ以上にここの立ち位置の特異性からだった。
    「……カウンセリングセンターなんだよ、ここの運営元は」
     審神者との関係性や顕現された環境がきっかけとなり、精神のバランスを崩した刀剣男士は、何らかの形で支援が入るとセンターに送られる。人間のカウンセラーや、時には専門資格を持つ刀剣がカウンセリングを行い、希望する者は復調後様子を見つつ政府の仕事や本丸配属など〝刀剣男士〟の立場へ戻っていくのだ。
    「そういうこと。プログラム終盤に入ると、希望すればここで働けるの。復帰の練習とかを兼ねて」
     自分たちの本丸は、平穏と平和を絵に描いたような日常を送っている。だからこそ、こういった場所の必要性については頭で理解していても目の当たりにするまではなかなか気づく機会がない。衝撃を受け、青菜に塩、といった様子でうつむいた安定が深々と頭を下げた。
    「……ごめん」
    「だからいいって、腫れ物扱いよりはずっとマシだからさ。よその本丸の話を聞くのもプログラムの一環だしね」
     うちの〝安定〟より素直じゃん、俺ケンカばっかりだったからさ。そう言った加州清光は、同位体の見開かれた目を真っ直ぐに見つめて口を開いた。
    「ごめん、さっき話してるとこ聞こえちゃってさ……そっちの審神者、可愛い?」
    「……ああ」
     その質問の意図は、正直言って分からない。しかし、そこに悪意はまったく感じられなかった。
    「すっげー可愛い。他の連中や主自身がどう言おうと、世界一可愛いね」
    「そっか……それ、伝えられてる?」
    「三日に一回は言ってるぜ」
    「ん、じょーでき。よかったじゃん」
     寂しさと、憧憬と、ほんの少しの羨望を込めた紅が、感情を隠すように細められる。
    「やっぱりさ……いいことだよ、大切だって伝えたらポジティブな反応が返ってくるって」
     刀剣男士だからこそ、審神者相手だからこそ。そう言った同位体の笑顔に、清光の眉が痛ましそうにひそめられた。
    「……なにがあったかは聞かないどくわ」
    「サンキュ」
     チン、とレジスターが音を立てる。二千七百円です、という声に、則宗は財布を素早く取り出した。
    「よーし、いい子の坊主たちに、僕がおごってやるか」
    「え、おじいちゃんいいの?」
    「構わんさ、監査官やる前からの給金だってあるんだ。存分に年長者ぶらせてくれ」
    「やった、ごちそうさまでーす!」
     わざとらしいほどにはしゃぐ清光の声が、少ししんみりとしていた空気を塗り替えていく。カウンターの籠に入れられたクマ型クッキーの袋を、安定が二つ手に取った。
    「ねえ、このクッキーいい?」
    「あ、はいはい。ありがとうね、一つ三百円です。二つでいいの?」
    「うん、帰ったらまた僕らでお茶にして、もう一個は主にお土産」
    「……そっか。美味いよこれ、うちの大般若の自信作」
    「あ、俺も二ついい? 和泉守たちにも買っていかないと、あとで絶対拗ねるから」
    「あはは、そりゃー大事だわ。二振ふたりで合わせて千二百円です」
     ショップカードもつけとくねと、店の情報が記された名刺サイズの紙がひらりと紙袋に差し込まれる。
    「ああ、先に出といてくれ。僕も一文字の連中に土産を買ってるから」
     はーい、という声が二振りぶん、下駄箱に向かっていく。ハーフサイズのパウンドケーキとクッキーの詰め合わせを手に取り、則宗は小さく謝罪の言葉を改めてささやいた。
    「すまなかったな」
    「……別に俺さ、この状況悲観してないよ? 俺が先にぶっ壊れかけたおかげで、主もさすがに観念して、このままじゃヤバいってやっと心療内科行き始めてくれたんだし」
     タブレットが叩かれ、またレジスターが音を立てる。八百円ですと言われて紙幣を差しだせば、二枚の硬貨が戻ってくる。
    「本丸も解体はしてないし、俺もあの人から離れる気ないよ。ここで俺がマジでダメになっちゃったら、今度こそ主が壊れちゃうもん。そりゃーやる気も出るってもんでしょ?」
     自分を壊しかけたのも、つなぎ止めるのも審神者。それを奇異の目で見る者も、きっといるだろうけれど。
    「……幸運を祈るよ、〝加州清光〟」
     それでも、自分たちはきっとそうやって生きていくのだ。
    「うん……ありがとね、いろいろ気にかけてくれて。俺も〝あんた〟に会えるの楽しみにしてる」
     ふわりと笑う顔が、格子越しの光にやわらかく照らされている。ごちそうさんと手を振って、則宗は下足札片手に出口へと向かっていった。

    「こんにちはー、また来ました!」
    「はーい、お帰りなさいませ!」
     舞い戻ってきた洋品店にて、まだ休憩に入っていなかったらしい先ほどの店員がうれしそうに自分たちを迎える。
     アウターってそこまで数持つもんじゃないし、小物で変化付けたいからとりあえずストールとマフラーと、あとは足の計測を。じゃあ先に靴サイズのカード作りましょう、当店以外でも使えますし。
     清光とそんなやりとりを始めた店員に、則宗はとりあえずと先ほどの例を伝えた。
    「いい店だったぞ、ありがとうな」
    「でしょう?」
    「うん、めちゃくちゃ良かった。本丸の連中にも教えとくね」
     そう言った清光に、店員はありがとうございますと礼を返す。おそらく、あそこがどういう店なのかも知っているのだろう、口コミで広がるのは大歓迎といった表情は、本当にうれしそうだ。
    「ご飯美味いし、通いやすい値段だし、けっこう遅くまでランチやってるし、雰囲気いいし……まあ、唯一の難点といえば」
     ううん、と顎に手を当てて思い悩む様子に、何事かと三振りそろって首を傾げる。
    「――いつまでも続いてほしい、ってどうしても思えないところなんですよねぇ」
     ちゃんと利益出るくらいには客入りが増えてほしい、けれど大賑わいしてしまったら店が大変になる。そしてあの店が必要なくなる日がいつか来てほしいけれど、馴染みの店がなくなるのは寂しい。
    「うはははは! そうか……うん、本当にそうだ」
     あのカフェに対するパラドックスたちに渋い顔をする店員の、真面目な表情に思わず笑ってしまう。これだから、刀剣男士はやめられない。
    「愛だなぁ――よし、お前さん気に入った。襟巻きでも帽子でも持ってきなさい!」
    「ありがとうございまーす!」
    「言ったね、じじい! 言質取ったよ?」
    「もー、ほどほどにしなよ! おやつの時間まで待たせたら、また僕騒ぐからね!」
    「わかったわかった! んじゃまず足のサイズからお願いしまーす」
     わきゃわきゃとはしゃぎながら、バケツのような形の計測器とやらに誘導されていく。若さのパワーに圧倒されながら、こうして非番の日の昼下がりはすぎていった。
    六花@支部から移行中 Link Message Mute
    2022/08/13 17:07:26

    一文字御隠居の昼飯珍道中

    イベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
    一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。

    一文字御隠居の昼飯珍道中
    発行:2022年5月3日

    長谷部×女審神者
    ・則宗視点
    ・公式にないねつ造設定多数
    ・「そりゃこんだけ本丸があれば、CPも個体差も何でもありでしょ」という作者の認識を元にしたエピソードも出てくる。

     慶応甲府の特命調査を経て、とある本丸に監査官こと一文字則宗が顕現した。
     男所帯のトップが妙齢の女性で、秘書役と熱烈恋愛中。それだけ聞けば危うく思えるものの、なかなかどうして問題なく運営できているようだ。
     案内役兼教育係として加州清光に本丸を連れ回され、懐かしい顔とも鉢合わせ、やって来たのは台所。
     メインキッチン以外に、台所は共同棟と生活棟に計二カ所。聞けば、朝と夜は全員で食事を取るが、昼は各自で済ませるらしい。
    「自分で作るのもありだけどね。しばらくは、得意なやつが多めに作ってくれるとこに断って交ぜてもらうのもいいんじゃない?」
     こうして、一文字御隠居による昼飯行脚の旅が始まった――

    文庫・296ページ
    表紙・挿絵:須羽永渡さん
    イベント頒布価格:1000円
    サンプル掲載範囲:プロローグ+冒頭三話
    #へしさに #サンプル

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    • 食欲礼賛 総集編イベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
      一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。

      食欲礼賛 総集編
      発行:2019年10月13日
      初出:2016年3月13日(『食欲礼賛』)、2017年3月20日(『続 食欲礼賛』、『食欲礼賛 終』)

      長谷部×女審神者
      ・モブが出たりする
      ・この世の森羅万象と無関係
      ・あれって思うこともあるだろうけどきっと気のせい
      ・無関係なんです、そういうことでお願いします

      審神者には月に一度、政府本部での定期面談が課せられている。近侍を伴い、ゲートまでは現世を経由し、面談の後は寄り道をして――
      ラーメン、ナポリタン、インドカレー……おでかけの度に増えていく、二人きりの時間。そして本丸のみんなにも見守られながら、主従という関係も少しずつ変わっていく。
      これは近侍の長谷部と審神者の「私」の、ささやかな毎月のお楽しみの話。
      総集編書き下ろし、『十月――銀座の花屋のあんみつ』収録。

      文庫・376ページ
      表紙・挿絵:藤村百さん
      イベント頒布価格:1500円
      サンプル掲載範囲:およそ3分の1強(『食欲礼賛』掲載分)

       通販・イベント共に、特典として無料冊子
      『いつかの本丸の夜食ラーメン』
      をお渡しします。審神者のオリジナル裏設定をやりたい放題ブチまけてますのでご注意を。

      #へしさに #サンプル
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    • 増殖する忠犬へし公の群れに地獄の補佐官様は打って出るようですイベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
      一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。

      増殖する忠犬へし公の群れに地獄の補佐官様は打って出るようです
      発行:2018年10月7日

      長谷部×女審神者
      ・『鬼灯の冷徹』クロスオーバー
      ・クロスオーバー先原作程度の
        死ネタ
        グロ描写
        メタメタしい発言
      ・両原作に対する捏造設定有

      時間遡行軍との戦いが終わり、すべての本丸は解体。審神者は人間としての元の生活へ、刀剣男士たちはそれぞれの本霊へ戻っていった……はずだったが?
      「主がこちらに来るまでここで待つ」と言って突如地獄の門の前へ大集合した、あちこちの本丸のへし切長谷部!
      ふざけんなと動き出したご存じ閻魔の補佐官!
      最強の地獄のナンバーツーが、忠犬軍団に取った手段とは?

      文庫・120ページ
      表紙:藤村百さん
      イベント頒布価格:700円
      サンプル掲載範囲:最終章前段階まで
      #へしさに #サンプル #クロスオーバー
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    • いつか笑って話せるようにイベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
      一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。

      いつか笑って話せるように
      発行:2020年8月30日

      長谷部×女審神者
      ・転生現パロ夫婦本。記憶なし長谷部×記憶あり主
      ・モブとの会話
      ・基本的に、長谷部が主に敬語じゃない
      ・ほんのりとした、匂わせる程度の死ネタ

      「お前が見ているのは俺なのか、それとも俺の内側にいる別の誰かなのか」
      「教えてくれ、お前は何を知っているんだ、俺とお前はいったい何だったんだ」

       本丸の記憶が戻らないまま、主と出会い、恋をし、結婚した長谷部。
       妻と自分、そして周囲の友人たちとの間に横たわる、どうしても埋まらない“何か”を追い求めながらも、日常は穏やかに過ぎていく――
       手探りで歩む二人の日々を、日々の食卓とともに描く十三章。

      「信じたいんだ。記憶がなくても、また好きになってくれた彼のこと……思い出してくれなくても、ちゃんと好きになれた私のことも」

      文庫・224ページ
      表紙:藤村百さん
      イベント頒布価格:900円
      サンプル掲載範囲:冒頭三話分
      #へしさに #サンプル #現パロ
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    • 例の部屋に閉じ込められましてイベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
      一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。

      例の部屋に閉じ込められまして
      発行:2019年2月24日

      長谷部×女審神者
      とうらぶユーザー審神者(アラサー社会人)
      ・導入のみ“ちゃんねる小説”形式
      ・捏造設定多数
      ・メタ発言

      夢の中、謎の空間で、ゲームのデータでしかないはずの近侍と鉢合わせたアラサー社会人兼業審神者。
      唐突に舞い降りてきたメモには、『キスしないと出られない部屋』と書かれていて……
      「――いや、支部かよ!!!」
      脱出条件をクリアして、リアルワールドに戻りますか?
      それとも、長谷部と一緒に夢の中での邂逅を楽しみますか?
      ドリームとリアルの間で揺れる、とあるひとときの物語。

      A5コピー・24ページ
      イベント頒布価格:200円
      サンプル掲載範囲:全文
      #へしさに #サンプル
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    • 主を探して三千里~受験生 長谷部国重の憂鬱~イベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
      一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。

      主を探して三千里~受験生 長谷部国重の憂鬱~
      発行:2018年11月24日

      長谷部×女審神者
      ・転生現パロ
      ・モブの登場
      ・何でも許せる人向け
      ・この世の全てと無関係

      長谷部国重高校三年生。定期テスト前夜に思い出したのは前世の記憶と、そして……昔通っていた小学校に主がいた!?
      成績ガタ落ちで呼び出しを食らった春の終わりから、刻々と減っていくセンターまでの残り日数と、始まった昔の仲間探し。果たして彼は無事主を探し出せるのか、そして第一志望に合格できるのか?

      文庫・132ページ
      表紙・挿絵:須羽永渡さん
      イベント頒布価格:700円
      サンプル掲載範囲:最終章手前まで
      #へしさに #サンプル #現パロ
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    • A Testatrix of Wisteriaイベントで掲示するサンプルとして、既刊の冒頭or全文をWebに上げています。
      一部の固有名詞をちょっといじったり横組み用に編集はしていますが、オンライン用に改行増やしたりするのは諦めました、読みにくいでしょうがご容赦ください。ふりがなの設定は時間を見つけて加えていく予定です。
      読み返しましたが我ながら懐かしいですね、まだ極すら実装されていなかったころの発行だったということを前提にお読みいただければ幸いです。

      A Testatrix of Wisteria
      発行:2017年5月4日

      長谷部×女審神者。
      ・not審神者視点
      ・ねつ造設定
      ・性行為の示唆等、センシティブな描写あり
      ・他本丸の他刀さに描写あり
      ※見解は分かれそうですが、書いてる本人はへしさにのハッピーエンドだと思ってるので、これはへしさにのハッピーエンドです。

      「私は、父の顔を知らない」
       誰もが何かを隠している、それだけは知っている。
       戦争終結後の日本社会。母と二人きりで生きる『私』が暮らす、穏やかで幸せで、少しおかしな日常。その果てにやって来たものは……

      『A Testatrix of Wisteria』
      『The Testator from Wisteria』
       の短編2本を収録。

      A5 ・24ページ
      イベント頒布価格:300円
      サンプル掲載範囲:全文
      #へしさに #サンプル
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    • 『居酒屋 あるじ』ツイッターのタグ企画で書いたもの。
      冬の本丸で時々開催される、アラサー女子審神者の道楽のお話です。
      新人組の様子はだいたいこんな感じよ。
      #刀剣乱舞 #女審神者 #笹貫 #稲葉江
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