教科書は捲られない※ドミニオンの設定を捏造してたり、妄想でこじつけしてる箇所がたくさんあります!
※ニヴの公式設定ではない妄想の産物100%なので二次創作的な目で読んでくださいお願いします。
※読みにくさもヤバい。すまん(´・▽・`)
「テンション上がる話しようぜ」
錆須はシャーペンをくるくる回して、教科書の間に押し込むとそう切り出した。
数学の教科書の説明文を一生懸命なぞっていた八神は顔をあげて、えとへの中間のような器用な音を発する。
「これは勉強を続ける上でたいへん重要なことなんだ八神……勉強にもテンションが必要なんだ」
「錆須くん、勉強飽きたんだね?」
錆須はそんなことはねぇ、と認めようとはしなかったが、勉強の一時休憩を求めると八神は困ったような笑みを浮かべながらも、シャーペンをノートの上に置いた。
「じゃあちょっとだけ休憩にしよっか」
それが本日の休憩の合図になった。
ごく稀に、同学年の錆須誠心と八神織菜と波高願馬の3人は社内の一画に集まって勉強会をする。
ドミニオンは学生であれば学校に通いながらも会社に属することができる柔軟な社風であるが、その学費は保護者あるいは自費である。
エネミーと関わり、様々な境遇に身を置く異能集団である社員でも大学に通う者はいるが、未成年の、とりわけ高校生で世間的に死んだこととなった社員が学校に通う例はかなり少ない。
なぜなら、未成年の死亡は世間の印象に残りやすく、全国的なニュースになることが多い。
SNSが発達した昨今において情報を集めるのは容易になったが、情報をコントロールするのは難しいのだ。
ネットワークの専門家であるドミニオン社が総力をもって取り掛かっているからこそエネミーと異能者の存在を隠し、平和な社会を実現している。
社員としてそれを理解しているからこそ、世間的に死亡認定された未成年社員が、情報の漏洩を考えて学校に通い直すことはほとんどないのだ。
加えて、入学するための必記事項である"保護者"の存在や"身分証明"の欄が埋められなかったり、そもそも異能を隠し通せないことも一つの要因でもあった。
3人が集まって、かつ全員の時間が噛み合った時だけに開かれるこの勉強会は八神や波高にとって、かつての日常だった学生であったことを思い出させる憩いようなの時間であり、同い年同士遠慮のいらない時間になっているのかもしれない。
錆須にとっては日常の延長だが、一緒に教えられたり教えたりすることで実際にテストの結果に繋がっているようだ。
だからこそこの勉強会は続いているのかもしれない。
しかし勉強の為とはいえ集中して頭を使えば疲労するもの。
休憩となれば、迷うことなく3人はだらりと崩れた。
波高ーー俺は椅子に浅く座りなおし、背もたれに背中を押し付けて安い紙コップに入ったコーヒーを一口飲み込んだ。
錆須は机に突っ伏して「もう頭に入る気がしねぇ」とぼやく。
八神も腕をくんで上に伸びて、凝り固まった体をほぐすと、錆須に顔だけ向けて話し出す。
「それで錆須くんのテンションが上がる話ってなに?」
コーヒーが完全に冷めきっていて全く美味しくなかった俺は、残念な気持ちのまま視線だけで錆須をみる。
そんなのきまってんだろーと呻きながら錆須が重たそうな頭を持ち上げると少し赤くなったおでこが見えた。
痛々しいおでことは別に目は爛々としていたけど、
それも次第にしぼんでいった。
「……え、なんだろ」
「考えてなかったんだね……」
なんとなく錆須の返答を想像していたっぽい八神は困ったようなちょっと楽しそうな曖昧な笑顔を浮かべて自分の飲み物に口をつける。
そして静かになる。
エアコンの運転音
フロアの奥から感じる、忙しなく動く人の気配
椅子が軋む音
言葉がない時間が少しずつ過ぎていく
錆須も特にする事が無いのか、単に喉が渇いただけなのか、紙コップに入ったコーラをちびちびと飲んでいく。
それぞれが何かを考えている、あるいはなにも考えていない、そんな時間。
人によっては気まずく感じるらしいこういった時間が波高は結構好きだった。
両手で飲み物を包んで、深く座ってリラックスした様子の八神と口が半開きになってる錆須をなんとなく眺める。
面白い顔してるなぁ、とそのままでいると俺の視線に気づいた錆須がわずかに首をかしげた。
その姿に軽い既視感を覚える。
そういえば……
「かなり前に」
ぽつり、言葉を落とす。
頭を休めているせいか少しぼんやりとした二人の視線が俺に集まる。
「人が少ない時間を狙って…食堂行ったんだけど」
あの時の風景を思い出す。
ドミニオン程の大会社の広すぎる食堂のゴールデンタイムならば人で溢れかえり、出入りも騒がしさも激しすぎて一人を探すのもなかなか大変なのだが
まだ疎らにしか人がいないせいで、大食堂といえども最も忙しい時間に向けて慌ただしく準備する厨房の指示や物音が聞こえてくるぐらい静かだった。
そんな場所に、珍しい人がいたからすぐに気づいた。
いつもは夕方か、早くても午後を大きく回ってからみせる顔が、そこにいた。
「錆須がさ、一人で」
声をかけようと思った。
けど、それは声を発しようとした寸前で詰まり、足と共に踏みとどまる。
声を
かけちゃいけないと、思った。
「ものすごい笑顔でコロッケ食べてた」
「見てんじゃねぇよ!!!!!!!!!」
両手で顔を覆ってうつむいた錆須が腹から声を絞り出すようにして叫んだ。
「もう、すごく笑顔だった」
「声を!かけろよ!」
錆須の猛抗議がとんでくるが、あれは声かけるの無理だって。いろいろアウトだったよ。
見なかったことにしてお昼ご飯を買ったところを結局は見つかって、一緒に食べたけど。
八神が顔を背けてうつむいていた。
かなり肩が震えている。
そういえば、錆須が両手で顔を覆った時にかなりの量のコーラをズボンにこぼしていた気がするけど大丈夫かな、と錆須のズボンをさり気なく見ると柔らかく吹く風にもてあそばれた前髪を直すようにさり気なく、かつ素早くズボンの表面を払っただけだった。
そして、そのまま錆須は慌てたのを取り繕うように、ゆっくり冷静な様子で持っていた紙コップを机に置いた。
「なんで今その話をした??」
「あのときの錆須は……間違いなくテンション上がってた」
「はじめの話題の話だったんだね」
目元を指で拭いながら何か納得したように八神がそう言うと、錆須は「キミタチは知らないだろうが……」と切り出した。
スラッと片足を伸ばして、そして組んだ。
雰囲気だけは高級椅子に腰かける偉い人のように偉そうだ。
「コロッケは旨いだろ?特に外はサクサク中はほくほくの出来立てコロッケは最強だからテンションは上がるのダヨ」
きっと渾身の演技だったのだと思う。
俺は錆須のズボンが気になってあんまりちゃんと見ていなかった。
「そう、キミ達はコロッケの魅力にまだ気がついてないのだよ」
そう締め括り、これでこの話は終わりだとばかりにドヤ顔を見せつけられた。
その様子を八神がクスクスと笑う。
そしてポケットを探ったかと思えば、八神は薄いピンク色の女の子らしいハンカチを取り出して錆須に手渡した。
「コロッケ大好きなんだね」
「コロッケなら何でもいい訳じゃないぜ……」
ドヤ顔のままハンカチを受け取った錆須は、そのままハンカチを握りしめたままチッチッチッとキザっぽく八神の前で指を振る。
「サクッとしつつ、ジャガイモの旨みがほとばしる選ばれたコロッケだけが認められるんだ…………っていうか俺のコロッケ話はもういいんです。」
ジトッと錆須は八神を見る。
睨まれた八神は少したじろいだ。
「八神はどうなんですかー」
「えっわたし!?」
突然話題をふられた八神は、ぱちくりと大きな瞳を瞬かせて、小首を傾げながらうーんとうなり出す。
「私はコロッケ普通かな…あっでもコロッケは美味しいと思うよ!」
「コロッケの!話は!もういいんだよ!答えてくれてアリガトネ!!」
悲しんでいるのか恥ずかしがっているのか、もしくはどっちも半々なのかよく分からない錆須がうっすら八神のボケをフォローしてるのが少し面白い。
スッと真顔になった錆須が逃がさないとばかりに八神の方へ体ごと傾ける。
「俺の次は八神のテンションが上がる話を暴露する番なのです」
ゲームの中の神様みたいなキャラクターが御告げをする時のような口真似だった。
「えぇっと……あんまり思い付かない、かな」
申し訳ないと恥ずかしいを割ったような笑顔をうかべた八神がそう答えると、錆須は目を俺の方に走らせた。
「波高」
目がバッチリ合う。
その目は、先ほどの俺のように何かあるだろ八神の話をなんでもいいから言ってみなさい、と語っていた。
そんなこといわれましても……というのが本音である。
八神は一人でお皿見つめてコロッケをニヤニヤしながらウン十秒もかけて噛んだりしないし。
結果的には陥れたような形になったが、錆須の時だって陥れようとして話をした訳じゃない。
そんなことを言われてもなぁと思いながらも、一応考えてみる。
それでも特に思い付かな………………あ。
「錆須くん、ズボン早く拭いた方がいいよ」
「……ハイ」
善意なのか狙ったのか分からない絶妙なタイミングの八神の一言で錆須は諦めたのか静かにハンカチでズボンの染みを押さえた。
膝の上で何回もハンカチを弾ませていると、錆須が苦いものを噛んだような表情になった。
おおよその予想通り、ベタベタしてしまってるらしい。
ちょっと水つけてくるね……そう言って歩いていった錆須の背中は哀愁が漂っていた。
ちなみにこのあと勉強会は再開しなかった。