ジャックとラディスさん玄関の扉が開く音がしてジャックは駆け出して大切な人を出迎える。
「おかえりなさい」
間に合ったようだ。恩人であり愛しい人であるラディスと一緒に家の中へ入る。
「ただいま」
「ご飯作ったけど食べる?」
「あぁ。悪いな」
「全然。あ!じゃ、ご褒美ください」
きっと何も頼まないのは彼にとって不満なんだろうと、たまにはおねだりをしてみることにする。
「?」
何だと不思議な顔をしてるラディスに背伸びをして顔を近づける。
(かっこいいなぁ)
しみじみと思いながら唇を軽く重ね合わせ、ちゅっとリップ音を鳴らし唇をはなす。
「は?」
「ご褒美。続きは後でください」
目が点になってる顔が可愛いと思うのは末期だろうか。楽しい気分になってジャックは更にご褒美をねだる。しかし、いつもは反応があるはずなのに今日は何もない。照れて固まっているだけだろうかと、顔を覗き込む。
「なんでそんな顔をしてるんですか」
眉間にシワを寄せ困ったような複雑な顔をしてジャックを見つめているラディスがいた。
ラディスは色事に対する流れが上手すぎてドギマギしてしまう反面、ジャックの過去を思うと悲しくて寂しくなり、早く救ってあげたかったな、と思っていたのが顔に出ていたようだった。
それが、ジャックに伝わるくらいに近い存在になってしまっていた。隠せない。
「……」
「そんな顔しないで」
「どんな顔だよ」
そんな顔ですよ、と俯きながらラディスの手を自分の手を重ね合わせ、ぎゅっと握り言葉を重ねる。
「おれは、ラディスさんに拾われるまではクソみたいな人生送ってきたと思ってたし、そんな人生を受け入れるしかなかった自分が嫌いで仕方なかった。今でもおれはおれが嫌いだ。そんな顔させちゃう自分が許せない。
好きだから。ラディスさんだけは。クソじゃなかったって言ってよ。悲しむ必要ないって言ってよ」
どんどん早口になる。ジャックも何が言いたいのかわからなくなってきた。それでも、声を発することを止めることができない。
こんなに必死になって伝えようとしたことがないからどうしたらいいか、わからなくて頭がまっしろだ。
「…それだけで、おれは…自分を許せるような気がするんだよ。お願いだよ」
ジャックはこんなこと言うつもりはなかったのに、言ってしまった自分に驚く。
ラディスだけには分かって欲しかった。たったそれだけの事で頭がいっぱいになる。
顔を見られたら本気だってバレてしまう。バレたいのにバレたくない。ここで冗談だって言えばいつも通りなのに言えない。
あの瞳に見透かされそうになる。嘘はつけない。つきたくない。
いたたまれなくなって手を放し、更に下を向いて顔を隠し部屋から出ていこうとする。
一方的に気持ちを押し付けるなんて言うことをやってきたことはない。気持ちを吐露する事なんてなかった。逃げるという選択肢しか思い浮かばなかったのだ。
手を話そうとした瞬間、手を取られ温かい何かに包まれる。
ジャックはラディスに抱きこまれていた。
「わかった…わかったから行くな」
いつもよりか細い声と腕に力を込めジャックを引きとめる。
「行かないですよ。ラディスさんが許してくれるなら」
いつも通り憎たらしい言葉を吐いてても、ラディスを抱きしめようと腕を回して力を込めたら全部バレてしまうのだろうな。
(やっぱり、このひとじゃなきゃ嫌なんだ)
全部が全部伝わるとは思ってない。それでも言葉を尽くすのは悪くないことかもしれないとちょっとだけ思った。