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    人間辞めました夢小説です
    特殊設定あり
    なんでも来いの人だけ読んでください

    唐突だが、転生っていうものを信じるだろうか?
    本屋に行けば転生シリーズが並べられていたり、アニメも同様に流行っていた異世界転生。学校でそんな話題があがり、友人達と自分も異世界転生とかしたら美女に生まれ変わったらとか妄想するのが楽しい程度の認識だった。
    ―――そんな楽しい妄想を繰り広げていたこともありました。
    考えてみてほしい。
    街にガスや電気、綺麗な水が確保され、ネットワークによる情報の溢れた社会で温々と育ってきた一般人が突然奪われたらどうなるかというのを。
    一言で言うのであれば「無理」である。
    それに気づいたのが幼少期であったのは幸いだろう…。
    最初は夢だと思っていたが、眠れば眠るほどに前世の記憶は蘇り、数日もすれば全部思い出し、それは私が以前生きた人生だったのだと理解した。今すぐお家に帰してと思うがそれは叶わない。私が帰れば困るだろう。
    ―――私は一度死んだのだから…。
    シリアス気味に言ってみたが、そんなに重い話ではない。ただ私の場合は運が悪かっただけだ。あの日、女子高生だった私は部活終わりに大会の好成績を神社で神様にお祈りをした帰りの出来事だ。モフモフの白猫さんに出逢い、人馴れしているのか撫でさせてくれた美人モフモフ白猫さんを心ゆくまで堪能していた。まさか抱きあげた瞬間に白猫さんが私を全力で蹴り上げて逃走を測るとは思わなかったし、まさか私もその瞬間に階段を踏み外すとは思ってもみなかった訳で。落ちる瞬間に潰さないようにと抱き抱えていた猫がにゃあんと可愛く鳴いたのが最後の記憶だ。
    可愛いは正義。
    今までの記憶と前世の記憶を擦り合わせて過去にトリップしたのだと思いたい。ネットで見たやつ!ちょっとだけソワソワしたが、実際に体験するとお腹いっぱいという気持ちになる。
    それでも少しでも馴染もうと努力はした。事態が変化したのは突然だった。
    その日から私は両親や周囲の人達には気味が悪いと罵られた。
    母はそれを見た瞬間にこんな子産んだ覚えはないこんな化物を産んでないと癇癪を起こした。戯言をと言っていた父も周囲の人達も私の姿を見て、それが真実だと理解した。母はそれから心が駄目になっていった。苛立ちを隠さなくなり、喚き散らすことが多くなった。父は母の気持ちの方を理解し、同情するようになった。怒涛の展開すぎて訳も分からなかったが、転生特典というやつなんだろうが、はた迷惑である。せめて誰か味方してくれよ…!!こんなのってないよ…!!なんでぼっち…!?まぁ、元々転生したせいがか子供らしくない子供だった自覚はある。でもそれとこれとは話が別だと思います!嘘だと言って下さい!!はー、無情、無情。
    負けじと逞しく生きていたがいつしか家に入れてもらえなくなり、倉庫で過ごすようになった。
    私の事を知る者から石を投げられ、水をかけられ、蹴られ、殴られた。痛すぎてご飯をこっそりと食べても吐いてしまうことも珍しくはなかった。虐待で訴えてやると心に決めても児童相談所やコールセンターなんてないので、我が身は我が身で守るほか無い。詰んだ今の状態のままでは死ぬと判断し、この家を出ることを決意した!まさにこの世は地獄!ぷんぷんと怒りを抑えきれずに、最後だからとたらふく食料を拝借し出ていった。

    さて、行く宛もなく流浪と旅へと勤しむ羽目になり彷徨い歩いてみたもののどうするんだ。残念ながら明治時代の生活に詳しくは無い。歴史に詳しい友人が恋しいです。新選組が大好きな彼女はさぞ私を羨んでいるだろう。よし来たチェンジでお願いします!現実逃避はこれまでとして、保護してくれそうな場所を洗い出すべきだろう。うーん、警察でしょう?警察に警察…それに警察。わー!悩んじゃうなぁ!…私って本当馬鹿!勉強をあまりしてこなかった過去の自分を引っ叩きたい。むしろ胸倉掴んでガクガク言わせるわ…。ひぇん、私の頭が悪いよぅ。

    「出て行けっ!」

    歩いている途中で怒声が聞こえてきた。めっちゃ怒ってるじゃぁん…。こわぁ。でも野次馬根性は辞められねぇぜ!という気持ちで騒動の方を見てみるとそこには殴られ、怒鳴られながらも悪態を吐きながら逃げ出す少年がそこにはいた。うーん?なにやら見覚えのある顔とは思ったがはてさてなんだったろうか…?もしかして教科書とかに残るような偉人さんだろうか?首を傾げて見ても頭の中に思い当たるものが出て来なかった。考えているうちに少年はいつの間にか遠くに行ってしまったようで思わず後を追ってしまった。追い出された者同士仲良くしたいというか、行く当てがないから頼りにしたい。あわよくば一緒に保護されたい。後をコソコソと着いて行っているが、もしかしなくてもこの状態はストーカーなのではないだろうか?少年はずんずんと前を進むものだから追いつくのに必死である。声をかけるべきなんだろうけど、少年はあからさまに怒っている。怒りのオーラが凄い。途中八つ当たりのように石を蹴っている姿を見た私としては、え…こわ…近寄らんどこ…っていう感想なのだが、なんとなく仲間意識が芽生えてしまって変に後に引けなくなったというのが本音であった。それに後を追うのに必死で道を見ていなかった私はここ何処状態です。逸れたら迷子一直線なんだよ!こちとら後には引けないんだよ!

    「お前さっきからなんなんだ」

    少年が突然振り向いて向いて言うので思わず周囲を見渡したが、私以外に人はいない。もしかしなくても気づいてました?ははは!まっさか~!と思ってみたが、少年は明らかに私を見て睨んでいる。視線が痛いです。

    「その、どこに行くのかなって…」
    「お前に関係ねぇだろ!さっきから着いてきやがって鬱陶しいんだよ!」

    その通りなんですけどおお!こっちにも泣けなしの事情があるんで!勇気振り絞った応答だったんだから、怒らないで欲しいんですけどおお!
    次の瞬間にぐぅと緊張感の無いお腹の音がそこに響いた。因みに私ではない。たらふく食い物は掻っ払って来たのでお腹はいっぱいだ。そうなると目の前にいる男の子なのだが…顔を見ると真っ赤にさせている。あらあら、可愛い。そういう年頃なのねと口に手を当ててニヤけるのを我慢していたのだが、男の子は睨みを効かせて殴り掛かってきた。

    「ぎゃあああ!私悪くないじゃあああん!」
    「うるせええええ!」

    男の子との喧嘩の末、友情が芽生えた―――訳は無いが、その喧嘩を仲裁してくれたおじいちゃんが男の子改め獪岳と私を拾ってくれることになった。
    だが、問題がある。
    夜の間、私の姿を見られる訳にはいかない。私は賢いので学びました。あの姿を普通の人に見せてはいけないと。私が逆の立場なら全力で大喜びする現象なのにあんなにも脅えなくたって…今思い出してもションボリしてしまう。

    「夜の間は別のところで過ごすと…?」
    「はい」
    「ならん。夜は鬼が出る」
    「鬼?」

    鬼ってあの鬼?と指で角を表現しながら首を傾げるとおじいちゃんが違うと否定された。じゃあ鬼ちゃうやん…。獪岳は知ってる?と獪岳の方を見ると顔を青褪めさせていた。え、知ってるの…?もしかして私情弱だった…?鬼は世界の常識…?いやいやいや、そんなメルヘン…じゃなかった摩訶不思議な存在が常識であってたまるものかと。
    分からない私の為におじいちゃんが話を続けてくれた。小難しく説明をされたが、元々は人が鬼になるとの事。鬼は人を食べるという事。鬼に能力を持つものがいるという事。しかも食べれば食べる程強くなるらしい。うんうん、なるほど。元の世界に帰らせてください。元々ハードモードで始まった人生なのに、世界すらハードモードってどういうことなのか。

    「獪岳、お前は鬼殺隊に入るつもりはあるか?」
    「鬼殺隊…?」
    「うむ、儂は育手といって鬼と闘う剣士を育てる役目を担っている」
    「鬼を倒せるんですか?」
    「それは獪岳次第だが、お前には才能があると思っている」
    「やります!」

    ひゅー!青春じゃん…!と思いながらも口を挟めずにジッと二人を眺めている私です。獪岳が良いなら良いのだけれど、人食い鬼と闘おうと決意する意気込みは見習いたいくらいです。やるとは言っていない。
    というか、今胸あたりまで何か思い出せそうで思い出せないモヤモヤと闘うので精一杯だ。何か忘れてる気がするんだけど、鬼、鬼殺隊、獪岳、おじいちゃん…。

    「おい」

    喉元まで出てきた記憶が全て消えた瞬間だった。私の事を空気のように扱っていたから存分に思い出すことに費やしていたのに、今一瞬にしてそれが霧散した。獪岳のせいだとブチブチ文句を言うと足に蹴りを喰らわせられた。完全なる八つ当たりだったので反省はしているが、攻撃を仕掛て来たのであれば致し方ない。宜しいならば戦争だ。

    「やめんか!」

    獪岳と取っ組み合いの喧嘩をしていると、おじいちゃんの拳骨が脳天を直撃する。喧嘩両成敗というやつだろうが私には威力が強すぎると思うんですが、そこのところどうなのでしょうか…?こちとら一応か弱い少女なんですけど。本当この世界の人達の容赦のなさが酷い。獪岳も痛そうにしているのでこのおじいちゃん容赦が無いのだと悟った。
    有無を言わさず、私と獪岳は引きずられるようにしておじいちゃんの家に到着する。
    そして正座させられている。なんでだ。

    「鈴、お前はどうしたい?」
    「戦うとかは無理かと…思います」

    思うと一応予防線は引いたが確実に無理だと思っている。拳の喧嘩は前世で弟とよくやったが、剣は流石に無理ぃ……。

    「お前が望むのであれば儂の知り合いにでも紹介してやろう」
    「え……」
    「勿論、ここに獪岳と共に過ごすのも止めん。鈴の選択次第だ。上手く生きなさい」
    「げっ……」

    おい、獪岳お前…嫌そうな声ばっちり口に出てるし顔にも出てるからな!?ううーん…嫌がらせ含めるならここのおじいちゃんの家一択なのだが、これから鬼殺隊という剣士になるために修行するのであれば私は邪魔なのでは?こちとら前世は親に甘えて育ったうえ、今世では引きこもり(強制)してたから家事全般の技術と知識が死んでるんだけど、本当に大丈夫だろうか。
    獪岳をチラリと見ると辞めろとばかりに首を横に振っていた。獪岳の思惑に従いたくなくて、ここで暮らしまーす!と言いたいところだった。そもそもおじいちゃん良い人だし。
    ううーん…と考えているとドクリと心臓が煩く鳴り響く。外を見ると話をしているうちに日が落ちてきてしまっている。やばいと思い早々に立ち去ろうとしたいがどう言い訳をすれば良いのか分からなかった。

    「お」

    とにかく去るためにお邪魔しましたと言いたかったが、最後まで言わずに視界が一気に変わった。小さくなる方で良かったなぁと思うものの、今はとりあえず服のせいで前が見えない。

    「はぁ!?」
    「鈴!?」

    獪岳とおじいちゃんの驚愕と困惑の声が響く。ううーん、久しぶりに聞きましたね!ちょっと新鮮。

    「ワンッ」

    今日は仔犬のようです。


    私はある日突然、日が沈むと動物になる特異体質を手に入れた。せめて統一だったらまだしもその姿は日毎に変わった。しかも日本に実在しない動物にも変わるものだから親もご近所さんも怖がる怖がる…。うん、分かるよ。大きな未知の動物がいたら嫌よね。
    私だってライオンになった時には驚いたものだよ。しかも成長したライオン。幼い子供どこいった?ってなるよ。
    私的に問題なのは服であって、大きい動物になるときにそのままだと服がまぁ破けますよね!?夜の間は毛皮あっても、人に戻ったらすっぽんぽんの出来上がりなんですよ!転生特典ってなんだっけ?と何度自問自答したことか…。
    実際に動物になる姿を見た獪岳とおじいちゃんの様子はというと驚いた以外には反応がなかった。
    それどころか夕飯にご飯まで用意してくれた。
    え、この二人聖人なのでは…?いや、用意してくれたのはおじいちゃんであって獪岳ではない。危ない危ない騙されるところだった……。
    動物の姿になってしまうと人間の言葉を発せず、ワンワンと鳴き声では事情も聞けないと判断されこの案件は後回しになった。
    おじいちゃんが犬の姿では箸を持てないし、食べにくかろうと平皿に用意して床に置いてくれた。それはとても有り難いが人間としての尊厳を失いそうです…。でもご飯が美味しい。温かいご飯が美味しい。
    だが、風呂の準備をしてあるから入りなさいという言葉には本当に困った。どうしようかと悩みながらその場をグルグルと回っていたら桶を用意され、そのままおじいちゃんに洗われた。人間としての尊厳を失った気分です。でも毛並みがツヤツヤサラサラになったので大満足だったということを報告しておきます。

    朝になって事情を説明し、追い出される心配をしたが杞憂に終わる事となった。初めこそおじいちゃんは私を鬼と疑ったものの普通にご飯を食べたり、日光を浴びても問題ないこと、牙もないことから違うということに納得してくれたようだった。獪岳は変わらずに嫌そうな視線を向けている。鬼だったら殺してやるからなと脅しをかけてきたが、違うのでどうしろと……。というか鬼の存在を全く知らない時点で違うのだと理解してほしい。
    追い出されないことと怖がらなかったことが初めてで少し怖かったがやっぱり嬉しかった。

    年月を重ねるとこの生活にも慣れてきた。おじいちゃんと獪岳は変わらず剣の修行をしている。おじいちゃんはその合間に私に家事や桃の木の世話の仕方を教えてくれた。前世と今世合わせても碌にして来なかったので新鮮な気持ちで学んだ。料理はコンロや電子レンジが無くて奥深かったし、洗濯物も洗濯機がなかった。火起こしも今では得意の分類になる程には上達した。木の枝で火起こしだと思っていたのでそれよりはイケると確信した。あれ、あれは何時代の話だ?学校の授業でやったのは覚えているけど勉強の内容はもう忘れてしまった。
    獪岳の修行を少しだけ様子を見たのだが予想以上の厳しさに唖然とするしか出来なかった。いつも怪我して帰って来るから何事かと思いながらも怪我の治療をしていたが、納得の修行内容だった。怪我にはおじいちゃんお手製の薬は良く効くのである。ただ、獪岳が帰って来るのが大抵日が暮れてからになることが多く、殆どおじいちゃんがやっていた。役に立てなくてごめんよぉ……!
    おじいちゃんと獪岳は日毎に変わる動物に興味深々のようで、二人によく観察された。記録も取ってあるぞと言われた時にはどういう顔をすれば良いのか分からずに真顔で「そうなの…」と答えることしか出来なかった。こちとらうら若き乙女なんですけど?まぁ、動物の姿なら良いかと諦めて来ている。合言葉は動物なら仕方ない!

    「鈴、もうすぐ日が暮れるぞ」
    「はーい」

    日暮れ付近になると獪岳がボロボロになって帰って来る。それまでに夕飯の準備を済ませて、空いた時間に服の補修をするのが日課である。被服の才能はあったようで呉服屋の人や近所の人に服の縫い方を聞きながらおじいちゃんの服を完成させたりもした。とても喜ばれた。獪岳には今縫っている最中だ。柄がダサいとかアイツは文句を言いそうなので無難に黒の無地にした。身長がにょきにょきと伸びているので成長期だなぁと思いながら糸を通していく。

    「可愛い刺繍でもしてやろうかな…花とか」
    「聞こえてんぞ」
    「あれ?獪岳も今日終わり?」
    「キリが良いから飯にするんだよ。オラ、ぼさっと突っ立ってんじゃねぇよ」
    「獪岳は頑張るねぇ」

    ほとほと関心してしまう。ボロボロになろうとも怪我を幾つ拵えようとも、何度手に豆が出来て潰れようとも、獪岳は一度もめげる事はしなかった。「生きていれば、いつか……」と深刻そうな顔してボソリと一人呟いていたのを聞いたことがある。その真意は分からないが獪岳が何かを後悔し、抱えているのが分かってしまい切なくなった。……だが、動物になった私を抱えながら言う言葉ではない。さては獪岳、最近、私の事をペットと思い始めたな?知ってた。
    獪岳は初めこそ警戒していたが、モフモフの魅力に気づいてしまってからは枕代わりだったり、ソファー代わりにしている。小さい動物だとひたすらに撫でたあとに満足気にしているのを私は知っている。というか撫でられている本人。疲れ果てながらも頑張っているのを知っているので抵抗はしないけれども、良いのだろうかと首を傾げずにはいられない。アニマルセラピーってやっぱり偉大なんだなぁ……私で良ければ堪能しておくれ。
    おじいちゃんと獪岳は私に合わせて夕飯を日が暮れる前にご飯を食べるようになった。地面で平皿に盛られたご飯でも美味しいけど、心が死ぬ。おじいちゃんの心遣いで人間としての尊厳は保たれている……失敗すると失っているが。それでも毎日温かいご飯と寝床があるのはありがたいことだった。食い扶持を増やすだけ増やしているのでなんとかしたいものだが、このすっからかんの頭では思いつかなかった。

    「獪岳おかわりいる?」
    「ん」
    「はい、どーぞ。おじいちゃんはどうする?」
    「儂は大丈夫だ」

    獪岳のおかわりを渡すとまたモクモクと食べ始めたので私もご飯の続きを再開する。今日はご近所さん(尚、距離は考えないものとする)から野菜を沢山頂いたのでほんのり豪華な仕様になっている。魚釣りでも今度教わろう。

    「あっ…」

    誰が言ったのかは分からないが、今回は小さくなるなる方だったので焦ることなく縮んだ。大きい動物になる時と小さい動物になる時の違いがここ数年の成果もあり、感覚的に分かってきた。気を抜くと全然駄目だが。

    「狸だな」
    「クゥン」

    鳴き声をひとつ上げると獪岳がひょいと持ち上げて膝に乗せた。

    「おら、食え」

    獪岳はそう言ってご飯を食べさせてきた。確かに残りのご飯が食べにくくなってしまったが、これはどうなのだろうか。と、数年前の私は思っていました。くあと口を開けるとおかずやご飯を入れてくれる。咀嚼している間に獪岳もご飯を食べている。最初こそ遠慮はしたが、無理やり口を開けさせられたので二度と拒否はしない。あの時はご飯を喉に詰まらせて死ぬかと思った。獪岳って加減という言葉を知らないのでは…?でも、ご飯を無駄にせずに食べれるので一石二鳥と思うことにしている。それに獪岳もなんだかんだで満足そうな顔をしているのでいいんじゃないかなと勝手に解釈する。尻尾も思わずぶんぶんと振りたくなってしまうものだった。
    布団を三組引くが獪岳がこっそりと抜け出して剣の鍛錬をしているのを私は知っている。何故なら私も布団から抜け出してその様子を見ているからだ。高確率でおじいちゃんも一緒になって見守っている。その目が優しくて獪岳とおじいちゃんの家族のような絆を感じて少しだけ羨ましくなる。そんな時におじいちゃんはよく私を撫でる。その手が優しくて暖かくて大好きだった。

    おじいちゃんが見たこともない子を連れてきた。知らない顔だったのでご近所さんでは無いと思う。その子は全身薄汚れて、ひたすら泣き叫んでいた。喉大丈夫なんだろうかという程にはオオオンと泣いている。
    その大きな声に思わず洗濯をしていた手を止めて様子を見に来た程だ。獪岳なんて集中を切らせたようでイライラしながら舌打ちをしていた。ガラが悪い。

    「借金を肩に弟子にすることにした」
    「わぁ…悪の親玉の台詞」
    「鈴、先生に失礼だ」

    素直な感想を述べたら勢い良く獪岳から拳骨を貰った。脳まで響くような痛みでした。そろそろ獪岳は力加減を覚えてもらえませんかねぇ!!おじいちゃんガチ勢も勘弁願いたいものだった。大好きなのは分かるけど拳で訴えかけるのはやめて欲しい。おじいちゃんは現役の頃、獪岳が目指している鬼殺隊のお偉いさんだったらしい。元々剣を教えてくれている時点で好感度が高い状態だったので、獪岳の憧れが増したのは言うまでもない。立派なファンが出来上がるまでを見守った私です。
    因みに獪岳が殴ってなかったらおじいちゃんは私を容赦なく殴っていたということを述べておきます。おじいちゃん拳を構えてたし。何度も軽口を叩いては拳骨が飛び交ってます……この師弟似てるんだから~!!

    「弟子ってそいつをですか…?」

    獪岳の嫌そうな声色に思わず懐かしいなぁと遠い目をしたくなった。再び泣きそうになっているお弟子くんに同意をしたくなった。分かるよその気持ち。うんうんと頷いていたところでその新しいお弟子くんと目が合った。

    「女の子だ!!え、嘘。一緒に過ごすの!?ひとつ屋根の下で??最高すぎない??」
    「ひとり賑やかだねぇ」
    「先生…本当に此奴を弟子にするんですか…?」
    「う、うむ」

    お弟子くんの泣いたり、青ざめたり、顔を赤くさせて体をくねくねとさせたり忙しい姿を見て、獪岳はもはや人を見る目ではない目でお弟子くんを見ていた。云うなれば、ごみを見るような目だった。おじいちゃんに弟子にするかという問いの「本当に」というところに力が入っているように聞こえたのは気のせいではないと思う。
    お弟子くんはハッと表情を変えたと思うと私の手を握ってキメ顔をさせた。これは笑って良いところなのだろうか?

    「幸せにします!俺と結婚してください!」
    「お前は何を言っている」

    私が呆気にとられいる間におじいちゃんが遂に止めないとと判断したのか拳骨で意識を奪っていた。
    ずるずると引きずる姿を眺めながら、自己紹介すらしてないことに気づいた。まぁ良いか。早く洗濯物を終わらせないと日が暮れるまでに夕飯の準備が済ませられない。獪岳はお弟子くんとの相性は悪かったようで不機嫌が最高潮に見えた。去った後にため息を吐いていたのでドンマイという気持ちを込めて背中を叩いておいた。夕飯は獪岳の好物にしてあげよう。
    洗濯物もご飯の準備も終えた頃には日が傾きかけていた。ちなみにお弟子くんはずっと眠ったままだった。良い夢を見ているのか笑顔を浮かべながら幸せそうにむにゃむにゃと口を緩ませていた。おじいちゃんと獪岳のふたりが帰ってきても尚眠り続けていたのでこの子は大物になれると確信した。獪岳はその様子を見て再び舌打ちしていた。
    ご飯の時間なのでお弟子くんを起こすと最初こそ混乱していたが事情をおじいちゃんが説明すると納得したようだった。が、私に対しての対応が妙にニッコニコとしているのでこっちが躊躇う。笑みが崩れていなかっただろうか心配だった。
    改めて自己紹介をすると我妻善逸くんというらしい。獪岳にしろ善逸くんにしろ名前が難しすぎやしないだろうか…?漢字で書くのが難しすぎる。現代社会でもキラキラネームとかでこんな漢字の読み方知るかよ!全員平仮名に改名しろ!と怒ったのが少し懐かしい。因みに友人が私の為に全部平仮名にしたクラスの名前一覧を作ってくれたが、平仮名は平仮名で読みにくいということが判明したので、ほどほどって大切なんだなっていうのをあの日に知った。友人は何故ベストを尽くしたのか…。ありがとう。勉強になったよ。
    自己紹介というか、おじいちゃんが主に喋って私と獪岳を善逸くんに簡単に紹介した。まぁ、あんなに毛嫌い丸分かりな獪岳が善逸くんに対してちゃんとした自己紹介をするとは思えないしね。

    「あ、善逸くんって動物とかって苦手だったりする?」
    「動物…?別に嫌いじゃないけど?」

    確認大切。日が落ち始め、今にも動物になりそうな身としてはもっと早めに切り出したかった確認である。これで善逸くんが動物アレルギーとか動物嫌いとかだと心の底から謝罪をするしかないし、強制的に直してほしい。
    ピリッとした肌の感触に時間切れだなと感じ、ごめんと言って部屋から飛び出しつつ服を脱ぐ。和服ってある程度帯を解けばスルリといくからありがたい。
    急いで脱いだものの片腕だけが引っかかった状態で動物の姿になってしまった。獪岳が服を引っ張ってくれたので片腕…もとい前脚をあげて取ってもらう。善逸くんは分かりやすいまでに目を見開いている。むしろ口まで開いている。典型的なポカーンという表情だ。
    それもそうだろう。突然家を飛び出した女の子が服を脱ぎ始めて、馬になったのだから。
    改めて言葉にすると酷いものである。私が聞いたら「なんて?」って聞き直すか、頭でも打ったかな?と心配になる。

    「はああああああ!?」

    善逸くんの声が辺り一帯に響き渡り、獪岳もおじいちゃんも耳を塞いでいた。私は塞ぐ手がなかったのでもろにその大声を聞いてしまったので耳が痛い。とりあえず不服を知らせるためにも善逸くんの頭をガジガジと甘噛みしておいた。
    説明するから入りなさいと家の中に入る。入るサイズで良かったとひと安心する。前に入らなくて外で雑魚寝する時には泣きそうになった。ただ、獪岳もおじいちゃんもたまには良かろうと掛布だけ持ってきて皆で寄りかかって外で寝たのが懐かしい。星の名前とか夜明けの名前を知ったのはその時だった。あの時はキリンだったかな…確か。
    中に入ると蹄が家の床をカツンと音を立てさせる。いつもながら壊しそうで怖い。恐る恐る脚を踏み入れて座る。
    善逸くんは口が開きっぱなしだが大丈夫なのだろうか?
    よし、話を続けるぞ。と、マイペースにおじいちゃんが話を進める。

    「善逸、儂はお前を鬼殺隊としての隊士として育てようと思っている」

    あ、私のことはスルーして話を始めるんですね…善逸くんがそれどころじゃないっていう表情しているけど良いのだろうか?善逸くんの視線は未だにこちらに向けられたままだったので近くまで寄って座る。ビクッと肩を揺らされたので、やっぱり怖いのかと思ったが恐る恐る手を差し伸べて来た。思わず嬉しさで頭を手の下に潜らせて撫でさせる。その手は最初こそぎこちなかったが、優しく撫でる様子に新しいお弟子くんも良い子だと認識する。

    「二人とも話を聞かんか!」
    「ひいいいい!」

    善逸くん向けに鬼殺隊の話を進める。未だにそれに関しては私も頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる状態だが、善逸くんも同じような表情をさせていたので仲間意識が芽生えた。鬼も未だに出会ったことがないので現実味がないのが事実だ。人を食べると聞いた時点でゾンビ映画を思い出したがそれとはまた別らしい。ゾンビみたいに脳は死んでいない。私覚えた。

    「血鬼術は…そうだな、鈴を想像してもらうと分かりやすいな」
    「え…」
    「能力は様々だが、鈴のように容姿を変えられるもの、幻を見せるもの、毒を操るもの…例をあげればきりがない。だからこそ強い」
    「無理…!無理に決まってんじゃん!化け物相手に簡単に食べられて死ぬのがオチだよおおお」

    俺は死ぬんだあああ!アアアアア!(高音)と泣き叫ぶので近くに居た私は耳が痛かった。泣き止みなさいという意味でまたもや頭をかじってみたものの混乱している善逸くんの前では意味をなさなかった。

    「ばかもの!!死なないために鍛えるのだ!!」
    「むりいいいいい!!」

    おじいちゃんはぐすぐすと泣き始めたのを無視して襟首引っ掴んで家から出た。その手には木刀を抱えていたので、あ、善逸くん死んだなと察した。死ぬほど鍛えさせられるなぁ。合掌したかったが蹄の前脚では難しいので見送るだけ見送った。
    獪岳はその後ろ姿を生ごみを見るような目で見ていた。最後まで相性は良くなかったのだな…どんまい。頑張っての気持ちで獪岳に擦り寄ると頭を撫でられた。善逸くんとは違い、撫でなれた獪岳の手はブリーダーのようである。気持ちが良すぎる。暫く撫でていたが、俺も鍛練してくると言って獪岳も外に出た。後を追うと獪岳はいつもの鍛錬をしており、善逸くんは無理と泣き喚きながら木にしがみ付いていた。あのままではもっと過酷なところに投げ込まれるけど、大丈夫だろうかと思っていた数日後、まさに過酷な鍛練を与えられていたのを目撃した。
    菓月 Link Message Mute
    2020/03/07 2:36:00

    人間辞めました

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