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    人間辞めました3夢小説
    続き
    特殊設定あり
    なんでも来いの人向け


    隠は事後処理部隊とも言われている。そうなると鬼殺隊の隊士に合わせて夜に動かないといけないが、おじいちゃんが前もって言ってくれていたのか夜に働くことは除外された。隊服担当というのも多分ある。今のところバレることなく過ごすことが出来ている。
    新しい新居地は山の麓の家だ。職場からは少し遠いけれど、おじいちゃんの家が遠すぎることがない位置なので満足である。相も変わらず隣人さんは遥か遠い場所だけれど秘密基地っぽくて気に入っている。あまりの寂しさに家庭菜園を始めてみたもののひとり暮らしでは余らせるので、職場に持って行ったり、大きめの動物になった時には手土産に持っていくようにしている。
    毎日だって帰りたいところだが、ハムスターやワニになった時には鬼よりも人に捕まると判断して泣く泣く諦めている。犬、猫、鳥が一番平和に帰れる姿である。
    その日も朝から眠気と戦いながら職場へと向かい、服を繕う。数日前に機織りの仕方も教えてもらい、テンションが上がった。て、テレビで見たやつだあああ!!触ることなんて滅多にないから新鮮な気持ちだった。因みにこれの近くで作業をすると子守歌のようになって寝落ち率が上がるということを報告しておこう。
    そういう理由で寝落ちしてしまった私はいつもより帰るのが遅くなってしまった。泊っていけばという同僚の言葉に甘えたい気持ちがあるが、断るしか選択肢がないのが辛いところだった。せめて森の中か町外れくらいまでは行きたい。うおお…唸れ私の足!雷の呼吸は使えないが、足の速さだけは上がったと信じている。日が暮れる時にピリ着く肌の感触に、今日の動物は大きいサイズだと判断して急いで帯を緩める。
    日が沈んだ時、そこに居たのは――白熊であった。
    南極うううう!!あれ、北極だっけ…?寒いところと言うのは知ってる。というか今は夜だからめっちゃ目立つんですけど!?ここから森まで歩くのきつくない?猟銃持って来いって言われるやつじゃん…!!ひええん…。人は食べないし、傷つける予定もないので勘弁してほしい。大きい図体だと二足歩行はしんどいので四足歩行で歩く。何度思うけど四足歩行に慣れてくるって大分人間辞めている気がする。いや、現に今は人じゃないんだけども。
    町外れとはいえ自分の家への道のりの遠さに眩暈がしつつもこそこそと木陰に隠れながら歩く。納屋とかで隠れちゃだめ…?と悪魔の囁きが聞こえるが、もしもそこの家の人が納屋の扉を開けたら白熊ドーン!は心臓に悪い。止めておきます。せめてもっと夜更けにならないと出歩くのは無理だと判断してその場でジッとしておくことに決めた。私はお腹が空いたよ。川で鮭をシュッと華麗に確保出来ないかと思うが、取った魚をそのまま食べる気にはならない。そもそも白熊って川で鮭だったかなという疑問がどうしても分からずにモヤモヤする。というかここの川で鮭はまず捕れない。
    仕方がないので自分の肉球をフニフニしてみたり、木で爪とぎしてみたり、草の上をゴロゴロしてみても暇なものは暇である。寝て時間を潰すのもありではあるのだが、もしも見つかった場合に猟銃で撃たれる。もしくは斧とか鎌を持ち出される。怖い。動物の姿なので歌を唄っても伝わらないのでふんふんと唄う。人には伝わらないが動物たちには伝わるらしく犬と猫と鳥が集まった。私、今肉食獣なんだけど、野生の本能忘れてない?大丈夫?と心配したが、動物達は私を〝私〟として認識しているらしい。どの動物でも分かるという。好き。というかそういう動物ネットワーク的なのあるの?
    暇つぶしが出来たぜ!と心の中でガッツポーズを決めながら、集まった動物達と会話をする。
    あの家の飯は上手いとか、あそこの子供が可愛いとか、儂の手紙はどこへやったかのうという言葉は…おい、待て待て痴呆症のおじいちゃん烏が紛れているんですけど!?思わず皆で探し回ったよ。優秀な犬のタロが発見したことでお手紙はおじいちゃん烏がそれを持っていった。良かった良かった。……え、待って、冷静に考えてどういうこと?烏が手紙運ぶの?カルチャーショックだよ。伝書鳩ならぬ伝書烏…動物界隈は奥が深いですね…。因みに私も探そうとしたけれど、動物の皆から引き留められた。解せぬ…。私が白熊なばっかりに!

    ――ゾクリ

    突如、背中から伝う嫌な気配が襲う。動物達も逃げなきゃ!と口々にして散らばっていく。混乱したまま動物たちの言葉に耳を傾けると〝鬼が来た〟と言っていた。動物の私達は襲われることはない。けれど、それぞれ大切な人を守るためにも駆けていった。
    私はどうしようと焦っていると一匹の烏が空を飛ぶ姿が目に入る。そしてそのまま私の顔面へと突撃してきた。先ほどの痴呆症の烏ではないっぽい。

    「鬼が出た!備えよ!備えよ!柱が来るまで耐えよ!」

    しゃ、シャベッタアアアア!!烏が人の言葉を喋ったああああ!!というかここで騒ぐの止めてええええ!!顔面痛いんですけどおおと!!よそへお行き…と促すが私の周囲を飛び始めるので草むらへと飛び込む。人に見つかるから!止めて!思わず木に登りたかったが、この肉球では無理だった。爪立てれば行けるか?どうする?と右往左往していたら人の言葉を喋る烏は翼を羽ばたかせて飛んで行ってしまった。人騒がせならぬ熊騒がせな鳥さんだわ…。

    (鬼かぁ…)

    おじいちゃんや獪岳や善逸が鬼と戦うための鬼殺隊へ入る修行をしているのを知っているし、なんなら私は鬼殺隊の隊服を作るお手伝いをしている。だけど、私はこういう体質というのもあり鬼と遭遇したことは今まで無い。もっと言うなら鬼殺隊の人達とも出会ったことがない。まだまだ見習いの私はデザインされた服をひたすらに縫うのが仕事なのだ。型とかデザインは作れない。
    危ないというのは百も承知だった。けれど、一度抱いてしまった好奇心は私を動かした。
    こそこそと木陰に隠れつつ、喋る烏の後をついて歩いた。
    猟師さんに会いませんようにと唱えながら歩いた先で、ずっと背筋を伝っていた嫌な気配が増す。更に鼻にムワッと来る血の匂い。そして、何度も獪岳や善逸の修行中に聞いた剣を振るう音が耳に響いてきた。
    周囲を見ると沢山の死体が転がっている。戦っていたのはたったひとりの女の人だった。
    前世と今世と合わせてもこんなに死体を見るのは初めてだった。白熊という肉食動物のせいか血の匂いにグルルと喉が鳴る。食べるつもりはないのだが、動物の姿になると本能が先立つのでよろしくない。しっかりしろと自分に言い聞かせて目の前の惨状を見る。

    「あはは!やっぱり柱っていうのは凄いんだねぇ」
    「……誉め言葉として受け取っておきます」

    鬼というのはおじいちゃんの言うように本当に角は無かった。ただ、ひたすらに〝それ〟は人間じゃない、危険だと、警鐘が頭のなかで鳴る。野生の勘だろうか分からないが〝それ〟が鬼なのだと告げている。
    鬼は扇を手にしてニコニコと笑っている。その口は八重歯というには鋭すぎる牙があった。
    見ている分には女の人の方が優勢に見えたが、呼吸音が段々とおかしくなっている。そして、遂には立てなくなり刀を地面に付き咳き込む。その口からは血が見えた。苦しそうな咳を何度も繰り返す。どうしようと思っていると会話が続けられる。

    「ああ…苦しいよね。大丈夫、僕が救ってあげるからね」
    「これは…っ貴方の血鬼術ですか…?」

    おじいちゃんが言ってた血鬼術…!全然何をしたのか分からないけど不思議な力が働き、女の人が苦しんだのかと理解する。
    女の人は苦しみながらも再び剣を握り、鬼へと向かっていく。
    ーーこのままでは死んでしまう。
    見ているだけで良いのかと良心が痛むが、私に出来ることなんてあるのか?というくらいには目の前の女の人と鬼との戦いは壮絶だ。むしろ割り行って邪魔をしてしまったら、とんでもない事をしてしまったことになる。
    心臓が煩いくらいに鳴る。
    見捨てるのか、邪魔をするのか、助けるのか。全部紙一重すぎて、悩む。知恵熱が出る。私は元々深く考えるのが得意ではない。
    よし、様子見て助けられそうなら助ける。これだ!
    もしかしたら自分が死ぬかもしれないという可能性もあるけれど、うるせぇ全部後だ。考えるのが苦手って言ったでしょ(激怒)
    意志を決して戦況を見ると今にも女の人が倒れそうな状態になっていた。
    様子見をするとか言っていたけど、全部頭から消し飛んだ。鬼が扇を振りかぶると氷柱のようなものが女の人に襲い掛かろうとしている。そこに割り込み盾になる。ふふん、残念だが私は白熊なのだ!有難いことに寒さには強い。氷柱が痛いことには変わりないが。刺さりはしなかった。打撲程度?モフモフの白い毛並みは分厚く様子が見えない。

    「は…?白い…熊?」

    私の登場に鬼は後ろに下がった。その目は見開き驚いている様子だった。だが、すぐにニッコリ笑顔に変わる。え…順応力高すぎない…?もっと驚いて逃げてくれたら嬉しいんですけど。グルルと喉を鳴らして威嚇する。因みに威嚇は慣れていないので内心ドキドキだ。

    「ふうん?寒烈の白姫」

    鬼が扇を振るうと今度は巫女さんのような姿の氷が二人ほど出て来た。息を吹きかけるとめっちゃ冷たい空気が出ていたので、倒れたままの女の人をお腹に抱える。背中が凍ってる感触があったが、まだ皮膚までには到達していない。女の人は何か言いたげに口を開いたが、片手に抱えたままダッシュで逃げた。この状況だが、自分が白熊なことに感謝した。図体がデカいおかげか片手でかかても軽いと思えるくらいだった。鬼が色々攻撃を仕掛けていたが、避けつつ走る。途中川にも潜ってしまったので、女の人には大変申し訳ないことをしてしまった。白熊が動物園で泳いでいる姿を見たことがあったのでいけると思ったんだ、と供述しており。途中で動物達が姿を見せないが、あっちへこっちへとこっそりと助言をしてくれるのでとても助かった。白熊に体力は無い。というよりは私に体力が無い。息切れをしているが、今はそんな状況ではないと主張したい。止まったら死ぬと思うと息切れも合わさって苦しくて涙が出てくる。この状況は…あれだ。ホラー映画だ。逃げてと思うところでどうして止まるのおおお!とホラー映画を見ていた私は泣き叫んでいたが、これは止まりますわ。体力続かないわ。
    というか、鬼もいい加減諦めてくれませんかね?…はっ、まさかこれがリアル鬼ごっこ。まさに鬼が追いかけてますわ…!ははは!…笑えない。

    暫く走り回っていると、くいと腕の中で体毛を引っ張る感触があったので目だけを向ける。大人しくしててえええ!とグルルと鳴ってみると困惑した表情をさせている。逃げるのに必死で頭から抜けてたけど、いきなり白熊が現れて片手に抱えられて走ったかと思ったら川に潜られるわって困惑しないほうがおかしいですね。…うん、ごめん。食べないから!その辺だけは安心して!

    「ゴホッ…もう、大丈夫みたいです…よ」

    …ん?そう言われて振り返ると鬼の姿は無くなっていた。でも、とりあえず念には念を入れて隠れそうな場所に移動する。疲れた。心の底から疲れた。心臓壊れるわ。…え、おじいちゃん鬼と戦ってたってことだよね?尊敬に尊敬を重ねるしかない。獪岳がおじいちゃんを推した理由を理解したわ。私も推す。推してたけど最推しだわ。大好きおじいちゃん。
    うつぶせの状態で息を整えていると女の人がおずおずと頭を撫でてくる。私が言うのもあれだけど、肉食獣には本来こんなに容易に近づいたらダメなんだよと思いながらもそれを言う元気も言葉も持っていない。

    「アナタがどうして助けてくれたのかは分からなかったけど…ありがとう」

    その言葉を聞いて全部報われた気がした。
    怖かった。死んでしまうんじゃないかって。
    私の命と女の人の命握ってる状況って怖すぎる…。手の震えとか全然止まらないし、今はうつぶせだから気づかれてないと思うけどガックガクだからね!二足歩行は出来る気がしない。
    女の人は私の頭を抱えるようにして抱きしめた。めっちゃいい匂いがする。いつもおじいちゃんと獪岳と善逸だったから女の人に抱きしめられるのは久々すぎて頬が赤くなる。私は動物…私は白熊…と暗示をかけながら平静を装う。頭を抱えられているせいで視界が真っ暗な状態が続く。変に動くと驚かしちゃうかな?と思ってジッとしているが動く様子が全然ない。そろそろ夜明けが近いはずなので私は逃げたいんですけど。
    ゴホッと咳き込んだ声がしたと思ったら続いてドサリと物が落ちたような音が聞こえた。その瞬間に視界が開ける。目を開くと女の人が倒れていた。医者ああああ!!というか、日暮れまでどれくらい!?おじいちゃあああん!!と、服の襟首を歯に引っ掛けておじいちゃんの家まで再び全力疾走することになった。

    自分の服と荷物?あいつは良い奴だったよ。

    家に到着したのはギリギリだった。一生分を走った気がした。
    獪岳にはバレるような真似すんなと怒られた。そもそも、お前隠見習いなら、職場の奴らのところに連れて行けよと正論を言われた。ぐっ、なにも言い返せない。私が朝方に偶然拾ったということにする形で話はまとまる。おじいちゃんは鬼殺隊に連絡をしておくと言ってくれたので、拝むことしか出来ない。いつもありがとうございます…。善逸は甲斐甲斐しく女の人の看病をしていた。私は反省の意味を兼ねて自主的に正座している。だって、おじいちゃんも獪岳もめっちゃ怒ってるオーラを放っている。鬼と戦いに参入したことも許されない案件だったらしい。そこは許して欲しい。身体が勝手に動いたわけでして…。看病を済ませた後から膝を詰めて事情を白状させられた。あの、おじいちゃん…ポコポコと頭叩くのは勘弁してください。

    「ええっとぉ…ごめんなさい」
    「何がだ?」

    ひええ…ガチで怒ってるやつだ…。そして思い当たる要素が多すぎて困った。ううーん。鬼殺隊の女の人をおじいちゃんの家に連れて来たこと?鬼と鬼ごっこしたこと?気を付けろと言われていたのに寝落ちして道の途中で動物に変わったこと?…さぁ、どれでしょう…。正解は全部でした~!ってオチもあるぞと思って考え込む。その間ずっとポコポコ頭を叩かれているので私の脳細胞は瀕死だと思うの。
    とりあえず、思いついたのを全部言ったらため息を吐かれた。うそぉ…。もう私の頭では思いつかないんだよ。あと、このタイミングで言うのもどうかと思うんだけど足が痺れてて気が散ってきているんですよね。

    「鬼は強かったか?」
    「…う、うん」
    「それなのに飛び込んだのか?」
    「うん…」
    「全くお前は…」

    怒鳴られるかと思って目を瞑るが幾ら経っても怒鳴り声が聞こえて来ない。チラリと片目だけ開いて様子を見ようとした瞬間におじいちゃんに抱きしめられる。おおう…。

    「無茶をして…心配した…。でも、良く無事に帰った。儂の自慢の孫娘だ」

    私の無茶はやはりおじいちゃんは心配したらしい。でも鬼殺隊の人を守って帰って来たことは褒めたいというジレンマに挟まれて、あの怒ったオーラになったと。紛らわしいよ!もっと素直に表現してよ!怒られると思ったじゃん!そう怒りたかったのに、おじいちゃんに抱きしめられた瞬間に駄目だった。
    涙が止まりそうにないくらいに流れ続けた。
    ――鬼を見るのも出会うのも初めてだった。人は簡単に死ぬ。実際に前世で死んだ自分が言うのだから確かだ。あの時、白熊じゃなかったら…?相手の能力が氷じゃなかったら…?もしもを言い出したらキリがない。それでも、私が助けなかったらこの女の人は死んでいたとおじいちゃんは言った。死なずに生きて帰って来た。それだけで良いと。
    ずっと張り詰めたままで鬼と鬼ごっこをして、最終的に泣きはらした私はそのまま寝てしまった。ちなみに夜の間寝ていないので徹夜である。私は今日頑張った。

    賑やかな声が聞こえたので、とりあえず顔を上げる。鈴ちゃん起きたんだね!と善逸の声がしたが目がショボショボして目が開かない。寝る前に泣いてたせいですね。乙女として寝起き姿をさらすのはいかがなものかと思うけど、もう気にする関係でもないと割り切っている。

    「貴女が鈴さんですか?」
    「すずはわたしです…」

    眠気の覚めない頭で言われた質問を呂律の回らない口調で返す。…ん?待って。私誰と喋った?嫌な予感に冷や汗ダラダラの状態で目を開けると、とても美人な女の人と目と目が合う。
    時間が止まったような感覚とはこういうことを言うのだろう。いや、むしろ誰か喋ろうよ…。この空気どうするのさ。冷静に愛想笑いを浮かべて失礼します!と言えた私は偉いと思う。
    服を整え、顔を洗い、身支度を済ませる。出来ることならば今の記憶を全て消して欲しい。

    「大変失礼しました」
    「いえ、朝早くにこちらこそすみません」

    ぺこりと頭を下げられるので、私こそ寝起き晒してすみませんと余計に頭を下げる。

    「はっ!女の人!昨日の!」

    寝る前に一応大丈夫だとおじいちゃんから言われていたが、あんなに血を吐いてたんだよ!?今思い出したのは大変申し訳ないんだけども…!!寝起きだったから許して欲しい。そして寝起きだからという理由で語彙力が死んだということも許して欲しい。実際には昨日の女の人の容体は大丈夫と聞きたかったということを主張したい。

    「姉は重症ですが対応も早かったこともあり、直きに意識を戻すと思います」
    「……お医者様ですか!?」
    「どう見ても隊服着てるだろうが、お前の目はどうなってんだよ」

    私の疑問には目の前の女の人が答えてくれた。怪我の症状を分かるなんてお医者様と思うじゃん?という判断だったが、獪岳の指摘はごもっともだった。私が作ったりしている隊服だ。善逸は俺も隊服って知らなかったから美人なお医者様だと思ったよとフォローを入れてくれた。善逸だけは私の味方だよ…。
    私が落ち着いたのを見計らって女の人が自己紹介をしてくれた。彼女は胡蝶しのぶさんというらしい。そして、私が助けた女の人は胡蝶カナエさん。二人は姉妹だと説明を受けた。そういえば「姉」としのぶさんは言っていた。カナエさんに、しのぶさん…分かりやすい名前の人が来た!と心の中ではガッツポーズをした。二人共美人姉妹でとても麗しいです。
    隠の人がもう少ししたら駆けつけるとのことだった。血鬼術の関係もあり運ぶのも困難な場合を考え、しのぶさんが先に診断しに来たという。話によるとしのぶさんは医学にも精通しているらしい。美人な上に博学とか神様に愛されすぎかな?更に鬼殺隊で鬼を倒してる訳で…もはや女神なのかもしれない。神はここに居た。拝んでおきたい気持ちはグッと堪えた。
    カナエさんはずっと眠り続けているという。血を吐いていたというのを伝えると、しのぶさんは眉間に皺を寄せて考えるような表情をさせた。その表情が辛そうでこっちが狼狽えてしまう。血の繋がった姉妹だもんなぁ…そりゃあ心配にもなるわけだ。

    「お世話になったのにも関わらず何のお返しも出来ずにすみません」

    隠が来たことでカナエさんとしのぶさんは自分の邸に帰ることになった。手を振るとペコリと丁寧にお辞儀された。

    「そういえば人の姿は久しぶりだね」
    「…そうかもしれない」
    「そうでないと意味が無いからな」

    なんだかんだで会いに来ていたので久しぶりという言葉にしっくり来なかったが、人の姿となると納得である。善逸とおじいちゃんと軽く話をしてから獪岳がいる外へと出る。獪岳はカナエさんとしのぶさんが居なくなってからすぐに鍛練をしていた。
    走って来たのか汗がすごい。それを井戸の水で一気に流し手拭いで適当に拭いたかと思うとすぐさま素振りを始めていた。邪魔するのも申し訳ないので静かに見ていると目が合う。

    「気持ちわりぃ顔してんぞ」
    「顔は元からかなぁ?喧嘩なら買うぞコラー」

    獪岳は相も変わらず失敬な奴だ!今が動物の姿じゃないからって言いたい放題か!鼻で笑うと鍛練の続きを始めたのでそれをただ眺めていた。あー、そういえば私そろそろ職場に戻らないといけない頃じゃないだろうか…。鬼と遭遇して疲れたので休みますっていう鬼休暇とか無いのかな…?無いか…。怪我してるとかならまだしも私はすこぶる元気である。
    昨日の夜があまりにも現実感がなさすぎて夢のように感じる。でもあれは実際に起こった事実だ。むしろ夢であれ!

    「…よし、美味しい物を食べよう!」

    現実逃避ともいう。
    それに私はカナエさんを助けたところに置いて来た荷物と服とおじいちゃんから餞別で貰った鈴の飾り紐を回収しないとなのだ。鈴には魔除けの効果があるというのでお守りも兼ねている。あとは、野生の動物と私と判別がしにくいから鈴を鳴らしたら私だと判断しやすいからというのもある。今回ばかりは拾っている余裕は無かったので荷物と一緒に置きっぱなしにしてある。草陰に隠したとは云え放置は良くない。

    「獪岳!最終選別頑張ってね!」

    ドタバタとおじいちゃんと善逸にそろそろ戻るねと伝えると、後ろで獪岳が「お前が走ると床が抜ける」と失礼なことを言ってきたので軽い殴り合いの喧嘩をしてから今度こそ私もおじいちゃんの家を出た。
    途中の行きつけの定食屋で食べた揚げ出し豆腐はとても美味しかった。帰りがけにこれも持って行きなさいと団子を貰ってしまったので頬張りながら自分の家へと帰った。

    数日もすれば普通に戻れると思っていた。
    そう信じて疑わなかった。
    ――それなのに何故か私は隠の人達に囲まれている。隊服担当ではない全く知らない人達だ。何をやったの?と先輩の前田さんから聞かれるが見に覚えが無さ過ぎて全力で首を横に振る。このままじゃあ埒が明かないからと外に追い出された私は泣いていいと思う。隠の人も追い出された私を憐れむ様な表情で見ていた。見世物じゃないんですよ!
    あれよあれよと訳も分からぬうちに、目隠しをされて運ばれてゆく。気分はドナドナだ。一曲歌います。え?駄目?…そうですか。
    目隠しを外されると光がもろに目に入り目が痛い。ショボショボする。

    「粗相の無いようにな」

    コソッと隠の人が耳打ちでアドバイスをくれたが、その前の状況説明をしてほしい。ここは何処。めっちゃ豪邸なのは見てすぐに分かりましたけど余計に訳が分からないよ…。とりあえず、ここに座れと言われたので座る。目の前には男の人が座っている。めっちゃ美人さんだけど、顔に火傷のような跡があり心配になった。見ているとにこやかに微笑まれたので思わず私もへらぁと笑ってしまう。なんとなくだけどこの人は良い人だなと私の勘が告げている。私の勘は…当たったり当たらなかったりだ!つまりあてにはならない!
    隠の人はそそくさと居なくなってしまったので部屋には私と男の人だけとなっている。お願い置いて行かないで。なんで全力で去っていったの。果たしてこれはどうしたらいいのか…。アドバイスによると粗相の無いようにって言われたが、もしかしなくてもこの人はお偉いさんなのではないか…?ははーん?私頭良すぎでは?今の私の推理力なら高校生探偵も真っ青になるかもしれない。

    「こんにちは、君が皆の言っていた鈴かな?」
    「こんにちは…鈴は私ですが…えっと、人違いでは…?」

    皆がどこまでなのか判断はつかないが、私は自慢ではないが友達が少ない。おじいちゃんと獪岳と善逸…それから隠の隊服担当の人達くらいだが、まだまだ見習いの私だ。この人がお偉いさんだとしてもそんな話題に出るようなことは無いはずだ。

    「ふふ、自己紹介がまだだったね。私は産屋敷耀哉。君のことはこの鎹鴉であるこの子達からよく話を聞いていたんだ」

    今この状況で言うのも空気が読めないと思われるのは嫌なのでお口をチャックにしているけれど、名前が脳内で漢字変換が出来ない。翼を羽ばたかせて飛んできた烏はやはり人の言葉を喋っていた。皆ってこの烏達のことね!!そっちだとしたら動物達は動物の姿であろうと私を私として認識しているわけでして。秘密がバレてしまってどうしようと混乱していると私の肩にも烏が一羽留まる。そしてスリスリと頬を擦り付けて来るのでとても可愛い。悩みが吹っ飛びますわ。深く考えるのは苦手です。そして、その烏からお館様はとても良い方だというのと、鬼殺隊の最高責任者という偉くも素晴らしい人物だという説明を受けた。段々烏が集まって来るものだから圧がすごい。現在頭と両肩と膝に合わせて四羽が私に乗っかっている状態だ。皆お館様が大好きなのは分かったけど一羽ずつ喋って欲しい。情報が多すぎて私の頭が処理が出来ない。秘密がバレたことに関してはもはや諦めた。諦めって肝心だよね。敵意も向けないし烏さんがこんなにも懐いてるのだから半分動物の私にも優しくしてくれると思いたい。

    「鈴を呼び出したのは、花柱である胡蝶カナエを助けてくれたことをお礼を言いたかったんだ」
    「ああー…」

    そりゃあ動物ネットワークだったら情報だだ洩れですよね。潔く諦めたとはいえ、これでもかとバレていると笑えてくる。喋る烏とか…予想外すぎるわ。恨みたい案件なのにキュルンとした瞳で首を傾げられては可愛いで全てを許しちゃう。膝に乗っている子を撫でると艶やかな羽が心地よすぎて獪岳の気持ちが分かる。無心で撫でちゃうわ。うちにも鎹鴉欲しい。あわよくば動物の時に代わりに喋って欲しい。私の邪な感情を読み取ったのか頭に乗っかっていた一匹が髪の毛を引っ張ってくる。ごめんて、私が悪かったから止めて…お偉いさんの前で髪の毛バサバサの状態を晒すのは勘弁願いたい。

    「ありがとう」

    お館様の微笑む顔が麗しすぎてそれだけで今日は一日元気に過ごせれる。しのぶさんにもお礼を言われたのにお偉いさんであるお館様にまでお礼を言われるとかめっちゃ良い上司…というか系列を辿れば私の上司でもあるのでは…?失礼しないように気を付けよう…。ようやく隠の人が「粗相の無いようにな」と念押しした理由が分かりましたよ。私の推理力消えるの早くないかな?

    「どういたしまして…?で良いんですかね?」

    どう返せば良いのか分からず当たり障りのないように返事をしたが、にっこりと笑みを向けられたので正解っぽい。
    ――さて、私は今ここで重要な出来事が起こってしまったことを報告したい。
    足が痺れて感覚を失っている。
    ここでもう退出しても良いよと言われても立てることすら不安な状態だ。絶対絶命なこの状況、どう切り抜けるべきか考えてみても足の痺れのせいで頭が回らない。
    因みに最終的には気づいていたお館様が笑いながら痺れが治まる迄はここに居て良いよと言われた。だが、面白がった烏の一匹が痺れた足を突き声無き絶叫を上げたのは言うでもなかった。
    迎えに来た隠の人からはゴロゴロと畳で烏と戯れている私を見て、お前の精神どうなってんだよ…鋼かよ…。と、人を見る目ではない目を向けられた。嘘じゃん…。
    菓月 Link Message Mute
    2020/05/19 23:56:38

    人間辞めました3

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