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    人間辞めました5夢小説
    続き
    特殊設定あり
    何でも来いという人向け

    その日は獪岳が妙に苛ついていた。
    八つ当たりをされたのでこっちもつられるように強く言ってしまった。
    喧嘩なんて小さい頃からよくやっていたし、すぐ仲直り出来ると思っていた。
    ただ、私達は大人に近くもまだ子供だった。

    「家出してきた」
    「なにやってんの」

    行ける場所なんて思いつかない私はこの間鬼殺隊に入隊したばかりの善逸の元を訪れた。善逸は藤の花の家紋の家を渡り歩いているらしい。ダメじゃん…。一晩だけでも泊まっていきなよと言うけれども私はただの隠なので泊めてもらうのは心苦しい。だったらおじいちゃんの家に帰る。獪岳が寄り付かないという場所を求めて善逸の場所を頑張って探し出したというのに…。最終手段はお館様の邸なのだが、それは本当に最終手段に使いたい。仲良くして貰っているのはありがたいのだが、周りから心配されすぎて不安になる。普通に接してるよ??動物の姿だけど!!たまに人の姿の状態で頼まれた時になんでお前を知られてんの?みたいな問い詰めるのやめてほしい。説明が難しすぎるんだよぉ!!

    「善逸、その人は…?」
    「あ、育手のところで一緒に過ごしてた…あれ、鈴と俺との関係ってなんだろ?」
    「家族で良いんじゃない?」
    「ふひひ、それもそっか。俺が兄ちゃんね」
    「おじいちゃんの家族入りは私が先だから私の方がお姉ちゃんじゃないの?」

    同じ年とはいえ納得いかない。けれど善逸がそのまま話を進めるのでもうどうにでもなぁれな気持ちだ。それに家族というと善逸が嬉しそうに顔を緩ませてしまっては文句言うのも野暮ってやつだ。うんうん。それに善逸からお姉ちゃんって言われるのも違和感だ。双子ってことにしようという提案は後でしよう。
    善逸と一緒に居たのは善逸と同期の竈門炭治郎くんと嘴平伊之助くんという子らしい。ふー…。また漢字がよく分かんない子達が現れましたよ。はいはい、解散!遠い目をしてしまったので察したのか竈門炭治郎くんが名前はこう書きます!と大きな声で地面に書いて見せてくれた。元気でとても宜しいですね。とても眩しいです…。近くにいるのが獪岳なせいかな…??光属性の眩しさで目がシパシパするよ。錆兎さんと同じ分類の人だわ。
    さて、現状をある程度整理出来たところで一番気にするべきであろう伊之助くんはどういうことなのだろうかという件である。頭だけイノシシになってしまったんだろうか…。私みたいなケースもあるから深く追求してはいけないんだろう。だって善逸も炭治郎くんも普通に接している。私が変に驚いてしまっては相手を傷つけてしまう。私は大人だからね!スマートな対応を華麗に決めて見せますとも。

    「弱味噌の下っ端か!!なら俺の子分ってことだな!!」
    「なんて??」

    大人な対応って何が正しいんだっけ…??名前を言っても一向に呼ぶ気配がなくてビックリするんですけど…。驚きを隠せないままに善逸と炭治郎くんを見ると無言で首を横に振られた。聞けば善逸は『紋逸』で炭治郎くんは『権八郎』とか色々呼ばれるとのことだった。逆に難しくない…?そう思ったが呼び方は変わるらしく、放っておけばたまに正しい呼び方になるとのことだった。もう何がなんだか分からないよ…。

    「鈴は変わった匂いがするな」
    「へ?」

    炭治郎くんの突然の言葉に動揺が隠せない。炭治郎くんとの距離はほどほどにあるはずなのに私の匂いの話…?もしかして変態さんなのではという疑問が浮かんだが、そうではないらしい。善逸が耳がとても良いように炭治郎は鼻が良いらしい。不思議人間大集合じゃん…。
    善逸達はこれから任務だそうで、残ってても良いけどと言われたが、隠の私がひとりどこかの藤の花の家紋の家にいれるかという話である。けれどこのまま着いて行くとなると秘密がバレる。悩んでいると善逸が二人なら大丈夫だと思うとこっそりと教えてくれたので、信じることにした。善逸曰く、炭治郎くんは泣きたくなるくらいに優しい音がするのだと。伊之助くんは鈴とほぼ一緒な感じでしょと雑にまとめられた。嘘でしょ…。あの、汽車に向かって頭突きをしているあの子と一緒…?ドンマイというように肩を叩かれたけれど、突き落としたのはお前な~!と指を差したかった。
    伊之助くんが汽車に攻撃を仕掛けたことで駅員さんが来てしまったので逃走することになった。刀を持ってるのも余計追われることになった。鬼殺隊なのに?と疑問を思ったが、そこは善逸が答えてくれた。

    「政府公認じゃないからな。俺たち鬼殺隊」
    「そうだったの」
    「そうだったの。だから堂々と刀を持って歩けないんだよホントは。鬼がどうのこのうの言ってもなかなか信じてもらえんし、混乱するだろ」

    善逸の言葉に確かにとしか頷けなかった。私も鬼とはなんぞやとなったし、私の体質も混乱したが故に村から追い出されているので身に染みている。一生懸命頑張っているのに…という炭治郎くんの言葉にそれなー!と掌がくるっくるになっているが許されたい。刀を隠すことになり、半裸の伊之助くんに被せるものはないかとなり、私の予備の服を渡すことにした。むしろもうそろそろで動物になりそうなので善逸に押し付けるつもりだったので丁度良かった。良いのか?と炭治郎くんが気にしていたが全然問題なかった。
    話をとりあえず聞いていると『無限列車』に乗っている煉獄さんに会うとのことだった。煉獄さんは鎹鴉たちの中でたまに話題に出たことがあったので知っている。

    「じゃあ切符買ってくるけど…鈴は…要らないよね」
    「うん」

    頷くと炭治郎くんは驚いた表情をしていた。そうだよね。ここで置いていくのかってなるよね。違うんだよ。一人分の切符を買ってもそろそろ日が暮れてしまうので動物に変わってしまうから余分になってしまうんだよ。車掌さんもどうしろとってなるからね…。
    買ってきた切符をそれぞれに手渡していく。そして日が落ちる時に善逸が自分の羽織をそっと頭からかけてくれた。帯を緩めると身体がみるみると変貌していく。

    「匂いが変わった…」
    「何だこいつは」

    ピィと鳴きながら善逸の羽織から出るとその姿は赤い色の鳥になっていた。鳥の種類は分からないが体格が小さい割には尾が長く羽も大きかった。
    その瞬間に伊之助くんから首を後ろから鷲掴みされる。驚きのあまり声すら出なかった。

    「子分が飯になった!!」
    「ばっか!!お前!!その鳥は鈴だから!!鈴を離してやって!!」
    「やっぱり子分か!!」
    「そうだから!!なんでもいいからその掴み方は止めてあげてよおおお!!」
    「はっ!!そうだ!!伊之助!!鈴を離すんだ!!」

    この場はカオスである。色々言い合いをしているせいでもう理解が追いつかない。当事者私なんですけど。とは言え人の言葉を喋れない今は善逸に説明を任せることしか出来ないのだが。善逸と炭治郎くんの説得の末、首を掴むのは免れた。服は善逸が回収したが、私を隠すために使用することになった。炭治郎くんが禰豆子と一緒に入るか?と提案されたが、禰豆子って何という話である。炭治郎くんの背負っている箱の中に入っているらしいけど、ペットだろうか?けれど、日が昇ると元に戻るので首を振って遠慮しておいた。
    善逸が鳥になった私を元々着ていた服に包み持つことで列車には無事に入れた。炭治郎くんが用事があるという煉獄さんを探しながら歩いていると「うまい!」という大声が聞こえて来た。静かな車両に似合わぬ声に思わず顔を出すと善逸から駄目と再度頭を服の中に隠された。

    「あの…すみません」
    「うまい!」
    「あ、もうそれは、すごくわかりました」

    炭治郎くんは煉獄さんのご飯うまいの圧にタジタジになりながらも話しかけられたようだったが、圧が強かった。本題は煉獄さんがご飯を食べ終わってからになるようだ。伊之助くんは座席に座ると邪魔だとばかりに被っていた私が貸した予備の服を剥ぎ取っていた。もー!と怒りながら善逸が回収していたので申し訳ねぇと思いながら眺めていた。鳥なもんで何も出来ずにすまない。

    「うおおおおお!!すげぇすげぇ速えええええ!!」
    「あああああ!!お前っ!!危ないっ!!」

    善逸の膝に乗っけられていたが、伊之助くんが汽車の速さに感激したあまり窓から出ようとするという暴走により前の座席に置かれた。構わない、全力で止めてくれ。急いで止めたせいか、上からかけられていた着物が少しだけめくれてしまい頭が出てしまった。その瞬間に煉獄さんと目が合ってしまい思わずもう一度深く服に潜った。

    「危険だぞ!いつ鬼が出て来るか分からないんだ!」

    善逸が伊之助くんを叱りながら窓から飛び出るのを阻止していると、嗜めるように煉獄さんが言った。
    言ったけど待ってほしい。鬼が出ると言いませんでした?
    善逸が代わりに大叫びをしてくれた。ありがとう、私の心の言葉の代弁者です。泣きながら降りますって言ってるけど、善逸が強いというのは私知ってるからな…!でも危険は避けたいよね、分かる。獪岳はすぐに「愚図!」と善逸を罵るけど私はどちらかというと善逸派だ。おじいちゃんはどちらかというと獪岳派なので大戦争待ったなしだ。今のところ私と善逸が負け続けている。鬼殺隊だろと言われてしまえばもう何も言えない。

    「切符を拝見いたします」

    ぎゃーぎゃーと大騒ぎしているなか、割って喋りかける車掌さんのメンタル強いと思った。仕事だもんね、本当おつかれさまですと頭を下げる他なかった。身内がうるさくてすみませんと本来なら頭を下げたいところだが列車内に鳥を持ち込んだとなったら、それこそ伊之助がやろうとしたことが私に丸々と降りかかってくる。窓から追い出すのはやめてくださいってことになりかねない。沈黙が勝利である。
    パチンと切符を切っている音が終わると車掌さんは次の車両へと向かったようで独特の音が消えた。
    それと共に不自然なほどに静かな静寂が広がった。
    先ほどまでうるさいくらいに騒いでいた善逸も列車にテンションが上がりすぎて子供のようにはしゃいでいた伊之助くんの声すら聞こえて来ない。不自然な沈黙に、先ほど言った沈黙が勝利の言葉を撤回したくなった。誰か喋っておくれよ…。
    怒られるのを承知で頭を出すと全員が眠っていた。睡眠薬でも撒かれたのか?と疑ったが、私は寝てないしなぁと思い直し首を傾げた。全然どういうことかさっぱりだ。
    …はっ、これはもしかして鬼の血気術なのでは?
    そういえば煉獄さんは鬼が出ると言っていた。実際に遭遇すると理解できずに混乱することを知った。前に会った鬼は氷っぽいのを使っていたけど今回は睡眠だろうか…?人間の三大欲求を狙うとはやりよる…。眠っている間に攻撃を仕掛けて来るパターンだな!やることが卑劣すぎる。まさに鬼だなと納得したところで、鬼がここに来るのではということに気づく。

    (やばい…)

    絶体絶命かもしれないこの状況で隠れてなんかいられないと飛び出す。声を出すと鬼に気づかれて駆け付けられては本末転倒になってしまうので大声(鳴き声)は出せない。善逸の髪を引っ張ったり顔面を足蹴にしてみても起きる様子が全くない。こうなったら伊之助くん起きてくれと足蹴にしようとしたら首を掴まれてそのまま伊之助くんは引き続き寝始めた。ははん?寝たままの行動とな…!
    ここまで来たら起きてくれよぉという願いを込めてみたものの起きる様子はなく、ほどよく殺されない程度の力だったので死は免れた。寝ぼけて死んだとか嫌すぎる。
    離してくれともがいてみても外れる様子が無い。伊之助くん握力強いな!?ビクともしないんですけど!!突こうにも寝ている伊之助くんに今度こそ殺されそうだが、鬼が来てしまってはやっぱり待つのは死だ。足でなんとか手に攻撃を仕掛けるが気にしている様子が無い。嘘だと言ってくれよ。

    「この人達で良いんだよね…」

    列車内の全員が寝てしまっているので静かな空間で声が響いて聞こえた。伊之助くんの手に埋もれて暴れている間にいつの間にか誰か来ていたらしい。鬼か!?と思い冷や汗ダラダラだった。命の危機だ!起きて~というばかりに何度も蹴り上げるけれど細い鳥の足では効かないらしい。絶望だ。
    見たところ子供が大勢だ。全員鬼かもしれないと思うと死を感じて泣きそうになる。ちょちょぎれている涙は見なかったことにしてほしい。
    子供達は、動物の勘で済ませて良いのか微妙なところではあるものの、違う気配がして少しだけホッとする。人だと思うのだが明らかに鬼殺隊を探している様子だった。こういう時に善逸が起きていたらどういう感情の音なのか教えてくれるのにその善逸は幸せそうに眠っている。今、無性に八つ当たりをしたくなった。
    鬼が人を操っている可能性を考えるともう頭がいっぱいいっぱいだった。
    心臓はうるさいぐらいにずっと鳴り続けている。
    私がやらなければ共倒れというのだけは分かった。首が掴まれてようが暴れようはあるんだよ!という強い意志で翼を精一杯羽ばたかせて見せたり、噛むぞというようにくちばしを威嚇に使ってみたり、私の両脚が襲い掛かってやんよというように脚の素振りもしてみせた。
    しかし大きさのハンデは辛かった。というより、何だコイツはという反応をされたが私を掴んでいるのは猪頭の伊之助くんである。変な奴が暴れ鳥を確保してるという変人を見る目で見られただけで終わった。無念にもほどがあるし、不当な評価である。
    子供達は私のことは伊之助くんが首を鷲づかみしている限り安全だということに気づいてしまったので放置されることになってしまった。その後不可解にもそれぞれ紐を括りつけたかと思うと眠ってしまった。どういうことなのか。皆さんもしかして睡眠不足?そんなわけあるかーい!
    ひとりツッコミをしたとしても言葉は鳴き声にしかならないし、全員寝ているので聞いている人もいない。絶体絶命なはずのこの状況なのになんでこんな状況になってるんだろうか?
    伊之助くん頼むから起きてくれという願いを込めながら、鬼が来ないようにと念じるしかなかった。
    すると突然煉獄さんが動きだした。起きたのかと思って鳴いてアピールしたものの、目の前に座って寝始めた少女の首を絞めた。えええ…?落ち着いてえええと言わんばかりに鳴いてみても煉獄さんは反応が無かった。どういうことなの??煉獄さんはそのまま動きを止めたのでしっかりと見ると目が閉じたままだったので夢遊病なのかと心配になった。夢遊病で人の首絞めるって物騒なんですけど。うちの善逸はよく寝言言うし動き回るけどそんなことはないよ?今のところ!見習おう?やべーことになったぜと焦ってみてももうこの数時間もがきにもがいた結果身動きが取れない現状出来ることはなかった。まさに虚無とはこのことである。お願いだから伊之助くん目を覚ましておくれ。
    パカ、という音と共に何か落ちるような音が聞こえた。煉獄さんかな?と思っていたが、炭治郎くんが抱えていた箱の扉から女の子が転がり落ちて来た。はちゃめちゃに可愛らしい容姿すぎて開いた口が閉じなかった。まさに美女。口枷がついていたので、え、誘拐?と思ったが心配そうに炭治郎くんに寄り添っていた。頭がこんがらがって来た!
    むうむう言いながら炭治郎くんを起こそうと必死になっている姿に、私も頑張らないとという気持ちが増して私も一緒に暴れた。だが、次の瞬間に女の子が炭治郎くんを燃やした。見間違いかもしれないと思いながら一度目を瞑って開いてを繰り返してみたが、燃えていた。漢字違いではない。

    「あああああああ!!」

    突然の炭治郎くんが大声を出しながら目を覚ました。燃やされたからそうだろうなと思っていたが、燃えていた形跡は消え失せておりどういうことだとなってしまった。あの炎は幻だったのだろう。うんうん。炭治郎くんは女の子をねずこちゃんと言った。ねずこちゃん、私、覚えた。

    「煉獄さん!!善逸!!伊之助!!鈴!!」
    「ピィ!」

    炭治郎くんは皆の名前を呼んだが私以外は返事が無かった。

    「…鈴、何をしているんだ?」
    「ピイイピイイイ」

    混乱した顔でこちらを見ないで欲しい。私が一番混乱しているんだ。私だって好き好んで首を掴まれていない。炭治郎くんはなるほどな!と言って伊之助くんの手から解放してくれた。ありがてぇありがてぇ…。解放されると新鮮な空気が吸えた。空気が美味しい。

    「禰豆子頼む、縄を燃やしてくれ!!」

    炭治郎くんはねずこちゃんにそう言うとねずこちゃんは縄を燃やしてみせた。超能力じゃん…。むしろ血鬼術?でも鬼にしては雰囲気がなんか違うしなぁと首を傾げた。炭治郎くんは私の疑問を余所に皆を起こそうとしていたので、思考を放棄して私も皆を起こすのに協力した。
    一向に起きる様子がないんですけど、寝起き悪すぎなのでは?ずっと暴れていた私は大分お疲れです。鳴き叫びすぎて明日喉がガラガラになっている自信がある。
    すると子供達がむくりと起きたかと思うと錐のようなもので炭治郎くんを攻撃し始めた。とても物騒です。修羅場だよぉ…。善逸じゃないけど、善逸のように泣き喚きたい気分だった。

    「邪魔しないでよ!!あんたたちが来たせいで夢を見せてもらえないじゃない!!」

    攻撃を仕掛けた女の子は必死の形相で怒鳴り散らすように言った。他の子ども達も同じように錐のようなものを構え始め、殺意高めだった。こっわ…。女の子の話から察するに〝夢〟が関連するのだと思うのだが、事情がつかめない私は悪くないと思うの。血鬼術なんだろうなぁとぼんやりは理解しているんだけど脳の処理が追いつかない。とりあえず皆を攻撃しようとしている子供達は敵ということな。把握。むしろそれしか分かんない。
    炭治郎くんの肩に停まりながら子供達に威嚇をしておく。すると、炭治郎くんの後ろに居たねずこちゃんが頭を撫でてきた。あっ、あああー!…このタイミングでは困りますうううう!!炭治郎くんは気づいていないようで真剣な表情のままなせいで空気の差で風邪を引きそう。
    炭治郎くんは素早すぎる動きで子供達を殴って意識を奪っていた。強い。あまりにも動きが早すぎて肩から飛び降りた私はねずこちゃんの腕の中にいる。

    「幸せな夢のなかにいたいよね。分かるよ」

    気遣うように倒した子供をそっと床に寝かせた。

    「俺も夢のなかにいたかった…」

    そう言う炭治郎くんの言葉があまりに哀しみを滲ませるものだから胸が締め付けられる気持ちになった。炭治郎くんの事情は知らない。けど、子供達も炭治郎くんも夢でも良いからそこに居たいというくらいの辛い事があったかもしれないと思うと哀しくなった。
    この世界は哀しみがいつだって顔を覗かせる。

    「鈴はここで善逸達を起こしてくれないか?」
    「ピィ!」

    任せろ!そう言うと炭治郎くんとねずこちゃんは勢い良く飛び出して行った。スピードが異常すぎますね?炭治郎くんも人間辞めてた。うん、鬼殺隊の人達は基本的に人を辞めてるもんな…知ってた。遠い目をしたくなった。深刻な若者の人間離れじゃん…。
    そして誰も居なくなった今どうしようか。一人残った少年は私を気にしてはいたが、他の子達を座席に移動させていてとても優しい子だった。結核と言っていたが、結核ってあれだよね?なんか肺の病気だった気がする。新選組大好きな友人が語っていた時に沖田さんがああ!と嘆いていたのが余りにも印象的だった。結核殺すと包丁の絵文字付きで送られてきた時には医者になろうとアドバイスをしたらそんな簡単な話じゃねぇんだよと後日怒られた。あの時ほど理不尽なことはないと思った。
    病気で迫りくる死と戦うのはきっと怖い。だからこそ幸せな夢を見たい。分かってしまう。だからこそ酷い話だ。他の子供達も同じような境遇なんだろう。
    せめて、炭治郎くんを攻撃しないでくれてありがとうという気持ちを込めて頬ずりした。
    少年はキョトンとしていたが少しだけ笑ってくれた。私はポロリと涙が零れた。

    「むっ!夢だったか!」

    バチコーンと勢いよく目を覚ました煉獄さんに私と少年が驚いた。寝起きが良すぎる。そして起きてからの理解が早すぎる。
    先ほど炭治郎くんを追っていたはずのねずこちゃんも帰って来た。それを見てひとつ頷き、周囲を見渡すと刀を脇に携えた。

    「猪頭少年、黄色い少年、起きるんだ」
    「ん!なんだてめぇ!」

    伊之助くんは寝起き悪すぎかよぉ…その人、キミの上司ですううう!と思ったけどそういえば伊之助くんの口の悪さは元からだったわと考えなおした。そんな場合じゃない。

    「あっ!アイツが居ねぇ!」

    伊之助くんはそう言うとウオオオオ!と雄叫びをあげながら走って行ってしまった。私と少年はポカーンと口を開けるしかなかった。
    次の瞬間嫌な気配を感じて周囲を見渡すと、煉獄さんが頭を撫でた。予想以上に優しい手つきだったので驚いてしまった。大丈夫だと私達を落ち着かせるように微笑むと一瞬にしてその姿を消した。
    ねずこちゃんと気持ち良さそうに寝ている善逸は残されたままだった。説明をくれませんかと思ったが、今の姿が鳥だったわと思い出す。
    ゾワゾワと来る嫌な気配が増して来て落ち着かない。私は知っているんだ、この気配。鬼だって。ただ、全体から気配がするから囲まれているようで、伊之助くんがさっきやりそうになったように私も窓から飛び出したい。

    「うわっ!?何だこれ…!!」

    少年が声をあげたのでそちらを見ると車内が歪み、肉塊のように変化している。私達いつの間に食べられたんだっけ?食後です?胃の中とか洒落にならな過ぎて嫌なんですけど。気持ちが悪すぎて近寄りたくないが、襲い掛かって来る。寄るな触るな近寄るなの精神だ。ねずこちゃんは爪で応戦している。…ねずこちゃんやっぱり鬼??頭の中が大混乱してきた。善逸説明を頼むよぉ…。
    一応応戦とばかりに脚で攻撃を仕掛けるが効いた様子がない。やってられないですわ。横からねずこちゃんが倒してくれて、ねずこちゃんは鬼ではなく女神なことを把握した。ねずこちゃんは女神。異論は認めない。
    だが、敵が車両となるとねずこちゃんは分が悪いようで圧され始めた。

    「ピィ!」
    ――善逸!

    起きてくれよ、その願いがやっと通じたのか、ドンという激しい音と共にねずこちゃんを助けたのは善逸だった。おじいちゃんと善逸の鍛錬を見て来た私には見慣れた技だった。
    ――雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃。
    獪岳が望んで会得出来なかった技。そして、善逸が唯一会得出来た技。
    兄弟弟子同士でいざこざが起こるような技の会得の仕方をするとは思わなかったよ…。善逸を毛嫌いしていた獪岳がより一層嫌いになったのはこれが原因だと思うの。おじいちゃんも気苦労が絶えないだろうに…ナイスガッツだったよ。拳で言い聞かせていたとも言うけど。
    善逸は襲い掛かって来る一帯を撃退すると華麗に着地してみせた。

    「禰豆子ちゃんは俺が守る」

    ひゅー!!男見せてるじゃん!!かっこいいよ善逸!!と太鼓を叩きながら踊りまわりたい気持ちだった。うちの子がすごい!!羽しか撒き散らせないけど…とりあえず、撒き散らしておきますね!
    だが、次の瞬間にまだ寝ていることが判明し、その高く上がった評価は駄々下がりした。
    あちこちで轟音が響き渡っていた。
    揺れる車両に少年が怯えたようにしゃがみ込みながらも他の子達を庇っていた。戦闘能力が鳥の姿ではマイナスに振り切っている私なので大人しくしている。攻撃を仕掛けられたらこの小さい体では即負けてしまう。
    うるさいほどの激しい音と共に車両が揺れた。揺れたどころではなく横転した。空中に思わず飛んだので被害はなかったが、視界がおかしくなったのかと錯覚した。むしろ錯覚であって欲しかったが現実はそうはいかないようで、列車が倒れた勢いで窓ガラスは割れ、乗客や私達に降りかかる。大事故すぎてシャレにならない。少年が他の子を守ってる分私が守ってやるからな!!

    ドオンと地響きのような音が聞こえた。僅かに地面が揺れている。
    どうやら少し意識を失っていたようだ。あの大事故にも関わらず、皮肉にも列車内部が半分肉塊となってたお陰で被害は最小限に抑えられていたようだ。頭に被ったガラスを身体を振ることで落としつつ起き上がると、同じように少年も意識を失っていたので頬ずりすると起きた。良かったあああと心の底から安堵した。少年はそっと頭を撫でると他の子達を列車の外に出そうと懸命に動き始めた。めっちゃ良い子すぎる。――鬼はどうなったんだろうか?
    様子を見るためにも翼を羽ばたかせて空に飛び立つ。まだ夜明けは来なそうにない。気絶していた時間はそんなになかったようだ。
    空に昇ると辺りの様子が見やすくなる。本当に脱線事故じゃんよぉ…新聞デビューしちゃう…。やったぁ…嬉しくない。列車の鬼まだ生きてるの…?強すぎない?生命力どうなってるの?鬼特有の嫌な気配がする方へ飛ぶとそこは激戦だった。煉獄さん鬼は立派な身体から顔まで刺青をバッチリ決め込んだ輩みたいな風貌な青年だった。あー、なるほど、確実に絡まれたらかもられるわ。今、鳥だけに。ははは!
    そんなこと考えている場合ではない。あんなにも強い煉獄さんが怪我でボロボロの状態だ。
    けれど、煉獄さんは鬼に屈することなく鬼を見据えていた。

    「俺は俺の責務を全うする!!ここにいる者は誰も死なせない!!」

    煉獄さんの声が響く。
    真っ直ぐすぎて、これが柱なんだと圧倒される。
    鬼との衝突で衝撃音が辺りに響く。土煙で煉獄さんと鬼の姿が見えなくなる。見える場所はないかと思い立ち空を迂回してみる。
    ――あ、見えた。そう思ったが、次の瞬間にその目に見える光景を疑った。だって、煉獄さんの身体を貫く腕があった。鬼は尚も煉獄さんに鬼になれと喚く。死にたくなければ鬼になれと。その言葉があまりにも不愉快だったので、腹が立った。
    煉獄さんはお腹を貫かれても、日輪刀を手放すことをしなかった。その頸に刃を当て、鬼を倒すことを諦めなかった。
    煉獄さんが死んでしまうかもしれないというのはその光景を見て、誰もが察していた。
    ――自分の命を懸けて鬼を倒す。鬼殺隊では普通のことであったはずなのに、それをいざ目の当たりにすると心がしんどかった。辛い苦しい痛い。見ている私ですらそうなのだ。

    「伊之助動けーっ!!煉獄さんの為に動けーっ!!」

    炭治郎くんの声がその場に響く。その瞬間に炭治郎くんの考えていることを理解する。夜明けが近い。伊之助くんは技を仕掛けようとするが一足遅く、鬼は自分の手を犠牲にして呆気なく煉獄さんの決死の拘束を解いて行ってしまった。
    煉獄さんに近づく。
    呼吸を使って止血はしているだろうが、流れ出る血は多く、お腹にはさっきの鬼の腕がそこには残されている。
    煉獄さんは死んでしまうのだろうか?鎹鴉と仲が良い私は煉獄さんのカラスとも喋ったことがあった。だからこそ煉獄さんのことは知っていたし、面識もあった。強く、良い人だった。鬼を倒すためにずっと戦い続けた真っ直ぐな人だ。
    だからこそ哀しい…。
    夜明けが近いということは私もそろそろ人の姿に戻ってしまう。
    バレないようにとかそんなこと今はどうでも良いくらいに悲しくて苦しかった。
    涙がずっと零れて仕方がない。

    「君は黄色の少年の鳥だったな」

    煉獄さんは私の頭をそっと撫でる。豪快な人だが、私を撫でるその手があまりにも優しいからもっと涙が溢れた。煉獄さんは仕方ないなというように私を抱きしめてくれた。そのせいで煉獄さんの心音がトクリトクリと聞こえる。そして、近い距離になったからこそ煉獄さんの身体がどれだけボロボロの状態なのかが分かってしまい、余計に煉獄さんの死を実感してしまった。ポタリポタリと涙があふれる。
    ――時間切れのようで動物の姿に戻るのを感じてしまう。
    ああ、もう、本当にままならない。せめて服を着ないと真っ裸はマズい。急ぐためにも煉獄さんの腕から抜け出す。潰れてしまったという目が痛々しい。またポタリと涙が落ちるのを感じながら、空へと飛んでいった。

    すぐに人の姿に戻ってしまって真っ裸のまま木の陰に隠れた。
    人に戻ったら堪えようと思っていたはずだった。動物の姿だったらどれだけ泣いても誰も気にも止めないから。その分人の姿になったら泣くのは止めようと決めていたのにずっと涙は止まってはくれなかった。
    私は隠で色々な鬼殺隊の人が死んで行くのを見て来たはずだった。お館様と一緒にお墓参りだってしたことがあった。
    柱の人達は私の中で特別だった。おじいちゃんが元柱というのもあるが、一番多く会う確率が高いからだ。何度服を直してもその身体に傷をつけて、丈夫に作ったはずの隊服は破れることが良くあることだった。それに、鎹鴉の皆と話すたびに柱の人達の話題が上がることが多い。だから心を傾けていた部分が他の鬼殺隊よりも大きかった。

    「鈴…?」
    「善逸…」
    「あああああ!!もう良く分かんないけど!!とりあえず!!服を着て!!」

    声がした方を向くと善逸がいた。怪我をしたのか顔に血が滲んでいる。善逸は持っていてくれた服を私に渡すと後ろを振り向いてくれた。その後ろには炭治郎くんが持っていた箱があった。カリと中から引っ掻く音が聞こえたので、多分ねずこちゃんが入っているのだと思う。ぽたぽたと落ちる涙を放置しながら服を着ていくが、視界が歪んでなかなかに着ることが出来なかった。善逸はそんな私を急かすことはせず、ただ傍にいてくれた。
    服を着て、煉獄さん達が居た場所に善逸と一緒に戻った。
    そこにはただ何も言わずに立っている伊之助くんと、そして座る炭治郎くんと煉獄さんの姿があった。
    炭治郎くんは顔を伏せながら泣いていた。
    それが、煉獄さんの死を意味していることが分かってしまい、納まったはずの涙がまた溢れて来た。

    「え…なにやってるの…?」
    「善逸…」
    「煉獄さんの手当しないと!!本当死んじゃうじゃん!!馬鹿なの!?」
    「え…?」
    「だってまだ心臓動いてるじゃん!!」

    善逸のあり得ないというように言った言葉に、全員が善逸に注目し、煉獄さんへと視線が移った。
    ――嘘だろ。
    お腹貫かれてたよ?血の量どう考えても致死量だよ?しかし、勢いよく煉獄さんに近づきその手に触れるとまだ温かく、鼓動が確かにあった。人間辞めるとここまでなるのか…?皆の頭の中に煉獄さんは人外を超えた人外説が濃厚になったが、今は生きていることの方が重要で、安堵からか胸が高鳴った。
    服を脱がしてお腹の治療をしようとすると何故か貫かれていたはずの肉体が元に戻りかけているし、人体の不思議を感じた。炭治郎くんや善逸や私が持っている薬を全部使ってなんとか応急処置をした。その間に隠の人達もやってきて運ばれていった。一応何があったかを報告したが、柱マジかよ…と顔をしていたので、これが普通ではないのだとやっと納得した。煉獄さんだけが人間辞めていたのね…。柱怖い。
    煉獄さんが一番の瀕死状態だったので逸早く運ばれて行ったが、善逸も炭治郎くんも伊之助くんも同様に怪我人だったのであとで一緒に隠に背負われながら運ばれて行った。顔見知りもいて、私も一緒に居たことを知ると、何でお前は傷ひとつねぇんだよと言われてしまった。鳥だったものでとも言えないので庇ってもらいました!と言っておいた。真相を知っている炭治郎くんと伊之助くんが何か言いそうになっていたので私と善逸で急いでその口を塞いだ。善逸は流石である。話が分かっている。

    蝶屋敷に私も運ばれそうになったので全力で拒否した私は仕事をしつつ、善逸、炭治郎くん、伊之助くんのお見舞いに来ている。嘘だ。暇ならこいつらの服を修繕しておけと先輩に言われたので、今日やっと修繕した隊服を持って来ただけだ。実際にはあの日以来初めてのお見舞いである。

    菓月 Link Message Mute
    2020/10/23 23:04:03

    人間辞めました5

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