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    人間辞めました4夢小説
    続き
    特殊設定あり
    なんでも来いという人向け
    お館様に私の秘密がバレました。
    仲良くしてあげてくれると嬉しいと言われたので鎹鴉達とはお友達になった。たまに遊びに来てねと言われたので動物の姿で遊びに行ったら驚かれたものの歓迎された。お館様以外にも奥様と五つ子の子供がいた。五つ子ちゃんの一人は男の子だと言われた時にはびっくりしたくらいには皆そっくりだった。遺伝子の不思議。今日は白い鳥だ。お館様の子供達が本で調べてくれた結果、シマエナガらしい。鏡で見たら、知ってる鳥だ!と納得した。現代で生きていたときにグッズがあったのを覚えている。この時代で通じるか微妙な線ではあるが、本の前でドヤ顔しておいた。
    邸は本来簡単には来れないようになっている筈らしく、簡単に来た私に対して困った表情をさせた。ひえ…ごめんなさい。カラス達に聞いたら案内してくれたんだもの…。もっと事前に説明して?詳しく話を聞いたら人の姿だったら最初に来た時と同様に隠の人に目隠しされながら背負われる手筈になっているだよと言われた。秘密の場所ってやつかぁ!…え、知っちゃったけど大丈夫?刺されない?オロオロとしたら、お館様がそんなことをするはずがないだろ!と叱られた。因みにこの話をしている間ずっとチチチやカァカァと動物の言葉で喋っていたが、お館様はニコニコと笑うだけだった。
    前に出会った爺カラスも混ざり始めてとても楽しかったことを報告しておく。こんなに動物達と遊ぶのが楽しいのを知らなかったので、もっと早めに遊べば良かったと過ったが、夜は基本おじいちゃんと獪岳と善逸と全力で遊んでたもんなぁと思い出した。あ、おじいちゃんにお館様にバレた報告し忘れた。怒られるのが目に見えているから報告が怖いんだよなぁ…。
    カナエさんは無事に回復しているようで、お見舞いに行ってあげると喜ぶよとアドバイスをもらった。場所が分からねぇ…と思ったらカラス達にここぞとばかりに案内を申し出られた。優しさの塊かな…?お言葉に甘えます!

    「さて、そろそろあの子達が来る頃だね。鈴も来るかい?」

    そんなに簡単に案内しても良いんですか?着いて行って良いなら行きまーす!とても興味あります!だって鬼殺隊の人ということは将来は獪岳と善逸の先輩になるわけだ。見てみたいというミーハー根性だ。実際には私にも関わりがあるんですけどね…?将来的には私も隊服作りに携わりたいと思っているのでむしろ関わらないといけないことになる。怖い人だったらどうしよう。思わずビビり鎹鴉達に紛れて木に停まる。今日来るのは柱らしい。その柱の人達が控えている部屋は襖が開いており外から見えるようになっていた。あれが柱…かつておじいちゃんが務めていたという。実際に見てみたものの、強いというのはなんとなく理解した。うんうん、強そう。筋肉隆々ってやつだ。名前と共に柱名を事細かに説明されたけど私の脳のキャパオーバーだよ。カラス達とワイワイお話していたせいでお館様の話を全く聞いていなかった。

    「ぎゆう~」

    あっという間に爺カラスがぎゆうさんという人の方へ飛んでいった。話をしている途中だったが良いのだろうか。
    あっ…良くないみたいですね?ぎゆうさんは無表情に困惑している様子だった。まだお話中だからあっちで待ってようと近くに寄って説得しても、今度は私にぎゆうさんの説明をしてくる。あとでちゃんと聞くから!ぎゆうさんは頑張り屋さんなのも分かったから!友達が少なくて心配って?大丈夫私も少ないから!私が友達になってくれって?いやいや、年齢差を考えよう?なんだこの不毛なやり取り…自分が傷ついてくる。

    「寛三郎…子供が出来たのか…」

    ぎゆうさんの言葉に沈黙が広がる。この人天然かな…?鳥の種類が明らかに違うと思うんですよ。色がそもそも白と黒だ。大きさも違うし形も違うんですよね…鳴き声も。周囲がめっちゃ笑っちゃってるじゃん…。堪えてるじゃん。お館様の前だから全力で笑えないのが、もはや年末の笑ってはいけない番組だよ。地獄だよ。

    「その子は今晩うちで預かることになった子なんだよ」
    「珍しい種類の鳥ですね」
    「うん、シマエナガっていって北の方で生息している鳥だよ」

    お館様ナイスだ!今のうちに爺カラスの寛じいちゃんを連れて部屋から退出する。他のカラス達も手伝ってくれたのでありがたい。でも私の首から下げた鈴を餌にして連れて行くのはやめよう?ちゃんと返すよね?ちりんと音が響く。
    寛じいちゃんの上に乗り、これ以上動かないようにさせて様子を見ていたがお話は一通り済んでいたようだった。寛じいちゃん実は有能だった…?和やかな雰囲気で出て行ったが、これから任務だとしたら駄目なのでは?寛じいちゃんは私を頭に乗せたままぎゆうさんの方に飛んでいった。周囲の鎹鴉達もそれぞれ飛び立っていった。なるほど、柱の方々の鎹鴉達だったのね…!

    「これはお前のだろう」

    いつの間にか奪われたはずの鈴の飾りをぎゆうさんが手に持っていて、そのまま首にかけてくれた。第一印象があれだったが思ったより優しい人のようだ。それに柱というからには強いのだろう。かけた鈴を首から落ちないように結んでくれた。かわいいぞ~と孫を褒めるような言葉で寛じいちゃんが言うので、そうでしょ~とグリグリと頭を押し付けるとぎゆうさんが無表情ではあったが、少しだけ空気が和んだように感じた。チラリとぎゆうさんを観察してみるが、ぎゆうさんは表情が全く変わらない。獪岳はいつだって不満顔の眉間に皺を寄せているが、この人はまさに無という感じである。顔が整っているからお人形さんみたいだ。でも寛じいちゃん曰くぎゆうさんは良い子で無理をしがちらしい。さっきも似たような話を聞いていたのでふんふんと頷きながら聞いていたが、お館様に手招きされたのでそっちに飛んでいく。

    「鈴、君にしか出来ない頼みごとをしても良いかい?」

    私に出来ないこと?アニマルセラピーなら任せろー!の気持ちだけど、ここには鎹鴉であるカラスたちがいるわけで、私の必要性とはとなってしまう。首を傾げるとお館様は次の言葉を紡ぐ。
    この度、獪岳が鬼殺隊に入隊する為の最終選別を通った。
    最終日にお館様に許可を得たので、最終日にこっそりと輝利哉様とひなき様とにちか様と一緒に待機することになった。そういえば産屋敷一家の人達は最初から私の不思議体質に怯えず、むしろ歓迎してくれている。鬼と関わった人は大抵嫌悪感を示さない。鬼という存在とその鬼の血鬼術による前提があるせいで、耐性がついてしまったのだろうと勝手に解釈している。
    鬼の存在のおかげでおじいちゃんに獪岳と共に拾われ、鬼の存在のおかげで化け物と言われずに済んでいると思うとなんとも皮肉なことがあるもんだと思うが心の底から一緒にしないでほしい。人には怖がられるが、動物達には受け入れられているのだ。もはや半分は受け入れられているようなものではないかと前向きに捉えている。私は人だけど。
    最終選別の労いの言葉を輝利哉様とひなき様が新しい隊士となった人達に伝える。にちか様は隠の人達に指示をしながら待機している。因みに私がこっそりと隠れながら誤魔化す役割もしてくださって、あれ、面倒を見られていたのは私だったのでは?という錯覚に陥る。夜明けに最終選別が終わるが、夜明けに私は人の姿に戻るせいで色々不都合が多かったのだ。先輩達も採寸の為に待機しているので毎回バレないかドキドキである。そう思うと前もってバレてて良かったように思える。
    ――バレたあの日から怒涛の日々だった。
    おじいちゃんに報告をしに行った時にはやっぱり怒られた。けれど、考えているほど怒られなかった。おじいちゃんは予想はしておったと私に言った。お館様の一族である産屋敷の方々には鋭い勘があり、先見の明があるといわれている。未来予知ってことで良いのかな?とぼんやりと解釈しながら頷いて話を聞いた。え、未来予知で私の体質分かるってどういうこと…?私の頭では処理がしきれなかったが、未来予知ってスゲー!ってことで飲み込むことにした。
    おじいちゃんにお館様から頼まれたことを伝えると、頑張るのだぞと応援してもらった。私としてはおじいちゃんの家に帰る時間が減るのは嫌だったが、産屋敷一家に絆された部分がある。五つ子可愛い。年下可愛い。可愛がってもらったせいで情が移りまくった。間違えた…可愛がったから情が移ったが正しい…はず…だ。
    採寸の為にそれぞれ体型を図ってゆく姿を見ながら、私も獪岳に近づく。ここずっとおじいちゃんの家に帰れていなかった。私も隊服を作るという夢を捨てられなかったし、獪岳は獪岳で修行の真っ只中というのもありなるべく帰らないようにした。それに、お館様のお手伝いもあったので長いこと会えていなかった。

    「獪岳」

    獪岳は最終選別に疲れたのか分からないが採寸が来るまで目を瞑ったまま待機していた。私が声を掛けるとその閉じられた目が開かれる。私だと認識すると不敵に笑った。

    「遅ぇ…」
    「ええー?それは獪岳の方だと思うんだけど…」
    「お前に合わせてやったんだろうが」

    お互いの軽口が飛び交う。
    いつものやりとりが妙に心地良くて、獪岳もそうなのか目が合うと揃って笑う。
    採寸をして、服のリクエストとかないか聞く。一瞬考えたように眉間に皺を寄せたが「任せる」の一言で終わってしまった。実を言うとこの質問は形式的にするのだが獪岳のような返事が大半なので気にしない。むしろ何か言われる方が珍しい。だからこそ前田さんが暴走しては、相手を困惑させているのだが……。伝えるって大切だというのを先輩を見て学んだ。
    獪岳の戦い方的に雷の呼吸は速さ重視なところがあるので、その辺が邪魔にならないように気を付けようと思いながら頭の中で練っていく。最終選別は参加者のわりに合格者が少ない。鬼と七日間も戦いながら逃げて過ごすとか怖すぎ…と何度も思う。むしろ今でも思ってる。合格していないということは死んでしまったということで…闇を感じる。ここに居るのは弱い鬼だけなので、ここで生き延びれないようであればやっぱり死んでいくのだと聞いた時には精神的に私が死んだ。皆、幸せに生きてくれ…。
    それでも鬼を倒したいという意思は尊いものだと思った。
    自分の為であり、誰かの為。
    ――私はどうしたって真似は出来ない。
    鍛練の時に剣を握らせてもらったけど、ズシリと重く扱いが難しい。走るのも疲れるし、持っているのも体力を使う。それを体の一部のように扱い、振るう姿はいつだって魅せられる。私が出来ることなんて応援することぐらいだろう。
    それは、一緒に働く隠の人達も同じようだった。戦えない自分が悔しくて、苦しい。でも何かの誰かの為に、鬼を倒そうとしてくれる隊士の為にありたいという願いであり望みだ。

    「刀とどっちが先に出来るか微妙なところだけど、多分私が届けに行くよ」
    「ん」

    採寸が終わり、メモも全て終わる。
    獪岳は今回晴れて鬼殺隊に入隊したが、善逸はいつ頃になるんだろうなぁ…と、あの泣き顔と特徴的な泣き声が浮かぶ。善逸の逃走とおじいちゃんの捕獲技術は確実に上がっているが、毎回あれは笑って良いのかいつも悩む。
    獪岳が帰るというので、見送りをする。

    「あの子が言ってた獪岳くん?」
    「そうなんです。待ちに待ったこの日って感じです」

    前田さんの問いにふひひと思わず自分でも気持ち悪い笑みが零れる。獪岳が聞いてたら確実に頭を引っ叩いていただろう。
    でも、どうしたって嬉しいのだ。
    難しいことを考え続けるのは私は苦手だ。かっこつけて鬼殺隊がどうの隠がどうのと深く考えてみたけど考えても分からないことは止めようが私のモットーだ。
    私が思うのは――ただ、嬉しい。
    今すぐ紙吹雪でも持ってきて散らして、獪岳がすごい!と褒めちぎりたいくらいだった。仕事中じゃなければ、床に転がりながら満面の笑みを浮かべているところだ。顔だけはどうしても緩まずにはいられない。
    隊服を持って、おめでとうと言ってハグをするのだ。
    くっ付くなとか鬱陶しいとか文句を言うが、今回は獪岳を祝うのだから許して欲しい。おじいちゃんも善逸もしょうがないなぁというように混ざってくれると信じている。
    さて、頑張らねばと先輩の後ろをついて歩いた。

    獪岳が鬼殺隊に入り、ひと悶着はあったが獪岳は私の家に住むことになった。とは言っても獪岳は鬼の生活に合わせて夜に任務が多かったりするので私とは逆転の生活だ。獪岳は帰って来ると怪我をしていることがある。なのでそれの治療を私が受け持っているが、ちゃんとしたお医者さんに診せた方が良いのでは?と疑問に思ってしまう。けれど獪岳はそんな怪我してねぇと突っぱねるので思わず手が滑って傷口に傷薬を勢いよくすり込んでしまった。うっかり!と言うと獪岳が睨んで来たが私に通じると思うなよという感じである。お互い良い年齢になっている筈なのに成長が見えないのが私達だ。こんなはずではなかった…。

    「…ただいま」
    「おかえりー?」

    獪岳の帰宅の言葉がなんとも歯切れの悪い言い方である。いつもなら偉そうなくらいに帰って来ると言うのに…。玄関に向かうと獪岳の他に別の人物が居た。……どなたでしょうか?と言いたいところだが、めっちゃ見覚えがある。数日前に出会ったばかりだ。鎹鴉の寛じいちゃんが心配すぎて何度も出会っているせいか一緒に会う人だった。冨岡さんが鳥以外の動物は苦手なようで距離を置かれた時には泣きそうになった時構ってくれるのがこの人だ。それにこの間隊服の仕立てをお願いしてきたので覚えていた。名前は確か錆兎さんだ。最初は苗字で呼んでいたが、呼びなれないから名前で良いと言われた。錆兎さんは柱に近いと言われていたが、冨岡さんに柱を譲り前線で戦っている人だ。以前に大きな怪我を負って以来柱を降りたのだと先輩から聞いた。柱を降りても鬼と戦うって私からしたら到底無理な話であるのにそれを成している錆兎さんは尊敬してしまう。

    「突然すまない、世話になる」
    「どうぞどうぞ、あ、良かったらご飯も食べます?」
    「ああ、ありがとう」

    うちに来た経緯はなんとなく察する。獪岳は無言を貫いたまま棚に一直線で探し物をしている様子だったので声を掛けると傷薬の場所を聞かれた。怪我したんだったら最初に言ってよー!と怒ると眉間に皺を寄せたまま錆兎さんの方向に顔を向けたので、無言でそっちかぁと納得した。言おう??そっちこそ一番最初に言おう?ご飯の心配よりそっちが大事に決まってるじゃん…。怪我の具合が全然分からなかったので包帯と傷薬や消毒液の場所を説明した。手当を私がやろうか?と聞いたが、お前に任せられないと真顔で言われた。傷薬を傷口に擦り込んだのを根に持たれていた。獪岳にしかしないよと首を横に振りながら言うと拳骨を頭上に落とされた。痺れるような痛みが走った。そもそも私を何だと思っているのか…ペットだったわ…。
    どのくらいご飯を盛れば良いのか一瞬だけ悩んだが獪岳と一緒で良いだろうと勝手に決めて盛った。朝ご飯ではあるが、獪岳からすれば仕事終わりでもあるので品数を多めにしてある。
    獪岳が治療をしている姿を見ていると、友達じゃなくても知り合いがちゃんと出来たんだなぁと思い思わずお母さんのような保護者の気持ちになってしまう。柱めっちゃ偉い人だからどっちかというと上司を連れて来たみたいな感じなんだろうけどそこは考えないものとする。治療の様子を見ていると結構深く傷を負っていて、思わず目を閉じた。痛そう…。とてつもなく痛そう。想像しただけで痛い。

    「鈴、顔がうるせぇ」
    「ここまで言いたいことが顔に出る奴も珍しいな」
    「嘘でしょ…」

    顔をムニムニと直そうとしても傷口を見るとどうしても顔が勝手に動いてしまう。痛そうです。と素直に言うと、問題は無いと錆兎さんが言う。似たような台詞を獪岳から聞いた覚えがあるなぁと思い苦笑いをしたくなる。怪我しておいて問題ないことがそもそもないというのを頭の中に入れて欲しい。切実に。私は自分の指に間違えて刺しただけでも痛い。

    「蝶屋敷で手当てしなくて本当に良いんですか?」
    「ああ、次の任務地がどうしてもここからの方が都合が良くてな。助かった」

    ぺこりと座ったまま頭を下げるので丁寧すぎてこちらが恐縮してしまう。気にしないで良いんですよの気持ちを伝えるとにこりと微笑まれた。改めて自己紹介をすると錆兎さんは驚いていた。まぁ、隠の人達は基本顔が見えないし私はまだ新人なので受け持ちが少ない。獪岳以外だと殆ど修繕作業が私が担当なことが多いのだ。なので、大抵はよろしくと言われて修繕や新しく作り直してから返す作業が大半だ。ビジネスな会話しか殆どしない…。まぁ、仕事でしか会ってないのだから当然だけども。
    先日の錆兎さんの隊服も修繕してますよ~と伝えると改めてお礼を言われたので、こちらこそお世話になってますと頭を下げた。隠に対して良い人すぎる…。居るんですよぉ…隠の人に嫌な対応する人。まぁね、こちらとしては命を懸けて戦ってもらってるから変に言えないから黙ってるんだけど、とても腹が立つものである。拳が飛ばないだけありがたいと思えよと何度も頭の中ではブラックリスト入りしている。ありがとうございます!ぶっ飛ばさせろ!を心の中で唱える日々だ。短期だったがコンビニでバイトしていた日々が少しだけ懐かしい。

    「ふたりは結婚していたのか?」

    ご飯の途中の何気ない会話のつもりだったのだろう。錆兎さんの思わぬ質問に私と獪岳がむせて咳き込んだ。みそ汁を飲んでいたので気管に入りかけたのか割増で咳が出た気がする。
    とんだ誤解である。

    「育手である桑島先生のところで一緒に過ごしてたんですよね。兄弟みたいな感じです」
    「そうだったのか、悪いな」

    私の言葉に納得したのか悪びれない様子で謝罪された。良い人すぎて文句が言えないという…。
    夜に出るなら早く寝ろー!とばかりに布団に押し込めた。子守歌でも歌ってあげようとしたら獪岳から枕を投げつけられたので返したら簡単にキャッチされた。布団の上でばたばたするな!と錆兎さんのお説教を貰いつつ家を出た。錆兎さんさては面倒見の良い先輩タイプだなぁ…。良いパパになるよ。

    「ただいま」

    帰って来た獪岳は今度はひとりだった。
    錆兎さんは仕事が終わったらそのまま帰っていったらしい。
    獪岳は刀の調整のために久しぶりの休みだったが、鍛練は怠れないとのことで朝早くから鍛練をしている。私も今日はお休みなので家事をしながらその様子を眺めていた。
    ふたりでのんびりするのも久しぶりかもしれない。
    朝に洗濯物をして干す。目が合ったので獪岳に出かけて新しい服でも買いにいくか繕うか聞いてみるが、隊服を基本着るからあまり必要ないと言われたので社畜も大変だなぁと思いながらも何も言わずに頷いておいた。
    良い天気なので早く乾きそうだ。むしろ良い天気すぎて畑が水分が無くなってカラカラになる勢いだ。テレビも携帯もないと本当音がないため、歌うことが多くなった。この時代にはない曲だけど、この時代の曲をあまり知らないのでまぁ良いだろうとノリノリで歌う。音楽に乗ってマイクを持ってカラオケ行きたい気持ちになる。懐かしき現代。残念ながらここにはボーカロイドすらない。
    どうせここは獪岳以外は誰も来ない。ご近所さんは遠いし、もし来たとしても見晴らしが良いので来る様子があればすぐに分かる。ここが私のカラオケだと思って歌っている。流石に大声すぎると獪岳からの苦情が来そうなので小さめの声だ。
    童謡からなにも考えずに思いついた曲を次から次へと歌う。

    「その曲…」
    「ん、獪岳知ってるの?」
    「前に寺で歌ってる奴がいた」

    歌っていたのは『埴生の宿』だ。私は日本語より英語バージョンの方がおしゃれだ!という理由でこれだけ一生懸命勉強したので英語で歌える。そもそも日本語での埴生の宿の言葉が難しすぎて、どういうこと?ってなったというのがそもそものきっかけなのだが。なんで難しい言い回しをするのだろうか。もっと簡単に言おうよ。
    英語を和訳してもらった時に分かりやすいとなったのが少し懐かしい。

    ――愛しい我が家。我が家にまさる場所は無い。

    現代社会で生きてきたが、おじいちゃんの家だって私にとって愛しい我が家。でもこの獪岳と一緒に住んでいるこの家だって大切な家だ。お館様はうちに住んでも良いんだよと戯れのように言ってくれたが、自由気ままが一番だ。というかあの豪邸のような広さの家は落ち着かない。体質がバレないというのがあったとしても何か壊してしまったら私の心が死ぬ。賠償金を払える充てもない。そもそもお館様が雇い主だ。黒ひげ危機一髪みたいな危険は負えないのである。
    皆から受け入れられなかったあの頃の自分とは違って、おじいちゃんも獪岳も善逸もいる。
    だからこそ、私はこの家が大好きだ。
    獪岳が「ただいま」と言ってくれるこの家が大好きだった。
    獪岳と一緒に帰ると「おかえり」と言ってくれるおじいちゃんと善逸が迎えてくれる家が大好きだった。

    ――幸せだった
    そう思っていた。だから、獪岳が私が唄う歌を聞きながらどういう表情をしていたのか知らなかった。
    菓月 Link Message Mute
    2020/06/21 17:56:06

    人間辞めました4

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