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    【ニコユキ】おめでとう 司法試験の、最終合格発表。
     自信はあったものの、いざ確認するとなると、試験前とは別の緊張感で胃が苦しくなった。
     覚悟を決めて、合格発表のサイトにアクセスする。
    (……!)

    「せ、せんぱい! 先輩っ!!」
     ユキは部屋を飛び出し、煙にかすむ向かいのドアを両手の拳でどんどんと叩いた。
    「ユキ、うるせえぞ」
    「先輩! 俺、受かりました」
    「……へ?」
    「だから、受かりました! 試験、受かりましたよ!」
     ぼうっとしていたニコチャンの顔がみるみる明るくなった。
    「マジか。おまえ、やったな!」
    「痛い、痛いっす」
     ニコチャンはぐしゃぐしゃとユキの髪をかきまぜ、「おい、ハイジ!」と大声をあげた。
     ひょいと顔を出したハイジに「受かったぞ! ユ! キ! が!!」と叫ぶ。
    「おお! おめでとう、ユキ!」
    「宴だ! 今宵は宴だー!」
     ニコチャンの号令で、ハイジが思いっきり鍋を打ち鳴らした。


    「ユキ先輩、すごい!」
    「在学中に合格なんて信じられません! さすがユキさん、アオタケの誇り!」
    「いやぁ……もっと言って?」
    「ユキ先輩最高っ!」
    「いよっ、日本一!」

     めでたい酒は楽しくすすむ。岩倉コールにのせられていつもはやらない一気までやってしまい、気が付いたらまわりもすっかり沈没していた。

    「お、ユキ大丈夫かー?」
     片付けをしているハイジがユキを見た。ハイジも酔っているのだろう、空き缶を集める手がゆっくりだ。
    「つまみがきゅうりとさきいかしかなくて、すまなかったな。また改めてお祝いしよう」
    「そんなこと言って、俺を理由に飲みたいだけだろ」
    「バレたか」
     ハイジがニヤリとする。酒臭い空気の中で、二人は少し笑いあった。
    「……みんな潰れたなー」
     ユキの隣で、がくんと首を前に倒したニコチャンが寝ていた。
     横に置かれた空き缶を持ち上げて揺らせば、中身はカラなのに微妙な重みがあって、これを灰皿代わりにしていたことがすぐ分かった。
    (先輩が潰れるの、珍しいな)
    「おーい、みんな部屋に戻るぞー」
     ハイジが潰れている者の頬を順番にぺちぺちと叩いて回る。

     今夜のニコチャンは上機嫌だった。ユキにヘッドロックをかけ、「このエリートめ!」と笑っていた。
    (やめてくださいよ、って言いながら全然離れなかったの、怪しかったかな)
     思い出すと頬が熱くなる。酔いとあいまってユキの心は昂ぶり、締め上げるニコチャンの腕をひそかに引き寄せてべたべたと触った。しらふだったら完全にアウトだ。
     ニコチャンは鈍いからなにも気付かないだろうが、皆の目にどう映っていたか心配になった。
    「ユキー、先輩頼む」
    「……おう」
    (わざとかよ?)
     ハイジのほうをちらっと見たが、いつもの笑えない笑顔(というのもおかしな表現だが)からは裏になにか含むものがあるのかどうか読み取れなかった。
    「……先輩、部屋戻りましょ」
     ニコチャンをそっと揺すってみたが、起きない。
    「ちょっと、俺があんた運ぶとか、無理でしょ」
     ユキは内心ドキドキしながら、ニコチャンに肩を貸してぐっと立ち上がった。
    「重っ……!」
     ニコチャンの息は煙草と酒のまじった匂いがした。こっそりそれを吸い込んで、近い場所にある顔を見る。
    (髭伸びてる)
     触りてえなあ、と思う。ニコチャンは煙草を吸うから、肌はきっと荒れてざらついているだろう。頬のあたりを指で押して弾力を確かめたり、気になる眉毛を引っこ抜いて嫌がられたりしたかった。
    「先輩」
     体が密着しているのがうれしい。
    (ずっとこのままならいいのに。……まあずっとこんなクソ重いのは困るけど)

     死体を運ぶのはこんな感じだろうか。一〇四にやっと到着したときには、ユキの額はうっすら汗をかいていた。
    「ほれ、先輩、着いたっすよ……おやすみなさい」
    「ユキ」
    「えっ」
     あっという間に太い腕に抱きすくめられていた。
    (なにこれ、嘘)
    「ユキぃー」
    (嘘でしょ)
     ぎゅっと抱きしめられて、心臓が早鐘のように鳴る。ここまでの間に、変なことを言っていなかっただろうか。触りたいとかずっとこうしていたいとか、口走っていなかっただろうか。
    「ユキ、おめでとお」
     ニコチャンはろれつが回っていない。
    (この人、酔ってる)
     ユキは安心半分、残念半分の気持ちになり、胸の奥がきゅんとして涙が出そうになった。
    「おめでと」
    「わっ!」
     いきなり額にキスされて、ユキは声をあげてしまった。
    「あははは」
     ニコチャンはへらへら笑っている。ユキが驚いたのが面白いのか、ちゅっちゅっと音を立てて何度も同じところに唇を押し付けた。
    「キス魔かよ……」
     ニコチャンが泥酔するとこんなふうになるなんて知らなかった。たちの悪い酔っ払いだ。ユキは心の中で舌打ちをした。
    「なあ、ユキが受かったこと自慢していい? つーかもうしちゃったけど」
    「はぁ? 誰にっすか」
    「お袋に」
    「うちのお袋にもまだ言ってないのに、なんであんたのお母さんが知ってんだよ!」
     ユキはどさくさにまぎれて、こっそりニコチャンの背中をつかんだ。
     どうせこの人は明日の朝全部忘れてるんだ。構うことはない。
    「お袋喜んでたぞー」
    「だからなんでだよ!」
     ぐっと睨み付けたら、静かな瞳がこちらを見ていた。

    「おめでとう、ユキ」

    (……え)
    「せん、ぱい?」
    「おめでとう」
     ニコチャンはそう言ってもう一度ぎゅうっとユキのことを抱きしめると、ふっと腕の力を抜いてそのまま崩れ落ちた。
    (え?)
    「先輩? ……先輩?」
     ユキの足元で丸くなったニコチャンから、すうすうと寝息が聞こえてくる。ユキは茫然とした。
    (あり得ない……)
     もし明るかったら、ユキの顔が真っ赤になっているのが分かったことだろう。
    「マッジっで信じらんねえ! なにこの人! あり得ねえし!」
     ユキは、本格的にいびきをかき始めたニコチャンを足で思いっきり蹴っ飛ばした。
    (この無神経! 老けた小悪魔! 天然たらし! くっそ、ちくしょう!)
     自分の部屋に憤然と戻ろうとして、もう一度振り返った。憎たらしい男は万年床の手前でだらしなく伸びている。
    (あーっ、もう、好きだよバカ!)
     ユキは言えない一言を飲み込んでもう一度蹴飛ばし、布団の上に転がしてやった。
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    2019/11/24 15:00:00

    【ニコユキ】おめでとう

    テーマ「自慢」「額」ユキが司法試験に合格したときのお話。付き合う前のニコ←ユキ片想い #ニコユキ #風強 #風つよ #二次創作 #小説 #腐向け #BL

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