幼馴染 青峰が幼馴染の桃井さつきとハンバーガーショップに入ると、中に誠凛高校の火神がいるのを見つけた。
もしやと思い目を凝らすと、火神の対面に青峰の元相棒である黒子テツヤがいるのを見つける。黒子はこっちに背を向けて座っていて、青峰達には気づいていない様子だった。代わりに、黒子の現相棒の火神がこっちに気づいて目を合わせてくる。
「テツくーん!」
さつきが嬉しそうな様子で黒子に駆け寄っていく。
黒子が振り向くのよりも早く、さつきは黒子に抱き着いた。
黒子は微動だにしないまま、「苦しいです、桃井さん」と無表情で訴える。
「よぉ、テツ。火神も」
青峰もさつきに遅れて黒子達のもとへ行く。
さつきは黒子に抱き着いたまま、
「あー。かがみん、久しぶりー」
と火神に言った。
「揃いも揃って、オレはついでかよ……」
火神がぼやく。
火神の声など聞かずに、さつきは一人で話を進め始めた。
「ねえ。せっかくだから、みんなで一緒に食べようよー。いいでしょ、テツ君」
「ボクは構いませんよ」
「やったぁ! じゃあ、青峰君、そっちの机くっつけて」
「はあ? なんでオレが」
「女の子に重い物運ばせるのー?」
ほら、早く運んで。とさつきに促され、青峰は渋々、隣の机を移動する。
さつきが黒子の隣に座ったので、必然的に青峰は火神の隣に座ることになった。
「おい。なんか、こっちだけ狭くなんだけど。お前、もっとそっちに椅子置けよ」
火神が文句を言ってくる。
「お前がそっちにずれればいいだろ」
と、青峰は言い返した。
「我が儘言わないの、青峰君。ちょっと椅子を離せばいいだけでしょ?」
「火神君も意地を張らないで、少しずれてあげてください」
さつきと黒子が口を挟んでくる。
青峰は火神と目を見合ってから、互いに渋々と椅子の位置を離した。
「火神。お前、テツの言いなりじゃねえか。さっきまでの威勢はどうしたよ」
「お前だって、さっきから桃井の言いなりだろが」
火神が言い返してくる。「つか、黒子は仕方ねえだろ。こいつにイグナイトされると、結構痛ぇんだからよ」
「もー。喧嘩してないで、青峰君はハンバーガー買ってきなよ。あ、私の分は季節限定のさくらんぼシェイクね」
さつきが笑顔で命令してくる。
「なんでオレが奢ることになってんだよ」
「この前、小テストの対策ノート見せてあげたでしょ!」
「……へーへー」
ここでさつきの機嫌を損ねると、後々自分が損するので、青峰は大人しくカウンターに向かうことにする。
「あ。だったら、オレも追加のバーガー買いにいくわ」
と、火神が立ち上がり、ついてきた。
「なんだよ、ついてくんなよ」
「お前らが来なけりゃ、さっきもう一回行くつもりでいたんだよ」
「あっそ」
淡白に応えて、青峰はカウンターの前に並ぶ。
火神も青峰に続いて列に並んだ。
「なあ、青峰」
火神が後ろから話しかけてくる。
「んだよ」
と、青峰は気だるく振り向いた。
「結局、お前と桃井ってどういう関係なんだ? 付き合わねえのか?」
「……オレがさつきと付き合うわけねーだろ」
なんだ、そんなことか。と思いつつ、青峰は答える。
周りが色づき始めた中学の頃から、この手の質問は何度もされてきた。昔はその度に全力で否定してきたが、今では否定するのも面倒くさくなってきていた。
「なんでだ? 桃井ってよく見りゃフツーに可愛いし、お前好みの巨乳じゃん」
「じゃあ聞くけど、お前はあの金髪のネーチャンと付き合えんのか?」
「アレックス?」
火神が目を丸くする。「アレックスはオレのバスケの師匠だぞ。そんな目で見るわけねえだろ」
呆れた表情で、そう否定してきた。
青峰は、「ほらな」と得意げに応えてみせる。
「それと大して変わんねえよ。
オレにとってのさつきは、ほとんど姉弟みてえなもんだ。
お前が師匠と恋愛できねーように、オレだって身内となんか恋愛できねーよ」
小馬鹿にするように、ひらひらと手を振ってやる。
火神は何を思ったのか、ムッとした表情のまま、何も言い返してはこなかった。
「もういいか。この話はこの辺で――」
「じゃあ、お前はあの二人のこと応援してんのか」
青峰の言葉を遮って、火神は尋ねてくる。
火神が視線を動かしたのにつられて、青峰も同じ方向に目を向けた。先ほどまでいたテーブル席で、さつきが黒子にぴったりと寄り添って会話しているのが見える。
「……別に応援する気はねえけど」
青峰は低い声で答える。
「ねえけど?」と火神が続きを促してきた。
青峰は火神に目を戻し、あえて口元を緩めて続きを答える。
「さつきがオレの知らねえ奴とくっつくよりは、ダチとくっついてくれるほうがいいかとは思ってんな」
火神がキョトンとした顔になる。
が、火神にも何か思い当たる節があるらしく、しばらくして「なるほどな」と納得したように呟いた。