隠す気あるのかアホルドくん「どうして見えるようなところに置くんだあのアホルドくんは…」
「ヌェー」
そう、恋のおまじないとやらは一つだけではなかったし、想い人の答えもバッチリ分かっちゃったのだ。いやー天才ドラドラちゃんもこれは予想出来なかったよ!
普段は使わない消しゴムが事務所の机の上に置いてあったそれに誰かの名前が書いてあったが最初の文字のド以外は掠れて見えなかったし勝手に見るなと殺された。
リビングで裸足になってる爪を見ると黒のコウモリの絵が入ったペディキュアが施されておりロナル子に目覚めたのか!?と聞いたら否定しながら殺された。
吸血鬼退治の最中、熱い視線を感じて私の魅力に畏怖した若い女の子か!と振り向くとロナルドくんがジーッと数分熱心に私を見つめていた、なんで?
願いが叶うツボ!と明らかに怪しいキャッチコピーでツボ売る吸血鬼から買おうとする姿を見た時はさすがにジョンと共に止めたが条件反射で殺された。
いや、もっとこううまく隠せるだろ。と呆れ始めた頃にオータムのおまじない本を見返すとふと、気付いてしまったのだ。
消しゴムに書かれた掠れた名前の頭文字はド、ペディキュアにコウモリ、最近やたらと熱心に見つめてくる。
気の所為にしてはおかしい、もしかして、もしかすると…ロナルドくんは自分に片思いしてる。なーんて、そんなことあるわけないよね!ドラドラちゃんったら早とちり!
いや、早とちりじゃなかったわ。
最後のヒントというか答えがこの手の中にある、真実はただひとつ。御真祖様の名にかけてもいい。
「でかでかと白紙の原稿用紙に残すか普通」
赤色ボールペンででっかいハートの真ん中にドラルクと記されていたそれに私は殺されるのであった。
砂になりながらも落とさないように手だけ復活させ原稿用紙は死守した。
「ヌヌヌヌヌヌ、ヌヌヌヌン?」
「そうだね、これは私が預かっておこう。だってドラルクって書いてるし私の名前が入ってるならこれはもう私のものさ。」
「ヌェ!?」
丁寧に四つ折りしてキスを贈ったソレをジャケットの裏地ポケットに誰にも見えないように大切に入れた。
「詩も愛の言葉もないけれど、見ただけでわかるラブレターとは面白いねジョン」
タイミングが良いのか悪いのかロナルドくんはまだ仕事から帰ってこない。
リビングルームへと戻ろうとドアへ歩いてそのままガチャリとドアノブを回し開けてキッチンへとまっすぐ進んだ。
キッチンの壁際に掛けられた黒エプロンをつかみ取り慣れた手付きでドラルクは後手で器用にリボン結びをキュッとする。
「良いもの手に入れたし、今日は唐揚げでも作ってあげよう。」
手慣れた手付きで野菜室からロナルドに頼んで買わせた新鮮なレタスをちぎり氷水に濯ぎシャキッシャキにする。
更にまな板の上にキュウリとトマトを包丁でトントンとリズミカルに刻みサラダボールを一品出来上がり。
その間にトテトテと可愛い足音でジョンが何かを運んできてくれた。
「ヌンヌヌヌヌー!」
清潔な白タオルで濡れた手を拭きとり、例のものを受け取ると砂糖を振りかけたような甘い声と穏やかで優しい笑みでお礼を言った。
「ありがとう、ジョン。それが欲しかったんだ」
冷蔵庫から昨日仕込んだ下処理済みの鶏もも肉が入った袋を取り出しそれにジョンが用意した小麦粉をまぶす。
「よく染み込んでるから柔らかくジューシーになるよこれは」
「ヌー♡」
フライ用に鉄鍋に油をたっぷり注ぎコンロの点火スイッチをカチッと中火にセット、青い炎が踊り鍋底を温めはじめる。
「油が跳ねると死んでしまうが、気をつければなんてことないがジョンは危ないから少し離れてね?」
「ヌンヌ!」
さえ箸を水で溶かした小麦粉を潜らせ熱々の油に数滴落とす。
パチ、パチパチと小さな花火の音のように弾けていく揚げ玉が生まれるそれは、からあげのタネを入れる良いタイミングだ。
ジュワワワワァ!!と黄金色の液体に突撃した鶏むね肉が泡風呂を沸騰させ生姜醤油と香辛料の香りがキッチン全体を覆い尽くす。
「美味しくなーれ♡美味しくなーれ♡」
「ヌーヌヌヌーヌ♡ヌーヌヌヌーヌ♡」
ドラルクとジョンは手にハートマークを作りながら魔法の呪文を唐揚げに囁いた。
「ロナルドくんがいないときだけするけど、これをするとなんかいつもより美味しそうに出来上がるんだよね」
出来上がったソレを盛り付けてると外がなんだか騒がしい。どうやら帰ってきたようだ。
「ドラ公、めしー」
「おかえり、ロナルドくん。今日はからあげだよ」
「ヌー」
君は隠すのが下手だよね、私みたいにもっとうまく隠しなよアホルドくん。