辺りで鳴り響いていた戦闘の音が消える。俺も目の前にいた敵をブチ倒して意識がないのを確認し拘束して一息ついた。
「ばくごぉぉぉぉ!!」
「ばーくごぉぉ!」
「名前で呼んでんじゃねぇぞクソカスがぁぁ!!」
一応プロヒーローになって何年も一緒に仕事をしているというのに何仕事中にヒーローネームじゃねぇ方を呼ぶんだと声の方に顔を向けて。
「……」
「頼むよぉぉ!」
「み、緑谷がぁぁ!」
切島の腕の中にはびくびくぶるぶる震える学ランを着た中学生のデクがいて。
「おい、デクは?」
「……!」
俺が声をかけたのは分断して逃げた敵を追いかけていったプロヒーローの方のデクだったが、目の前のデクがびくりと身を竦ませた。
「敵の個性に……」
「またかあのクソカスがぁぁ!」
何度やらかすんだクソカスナードがぁぁ! 怒りのままBOMBOMと爆破をしていると。
「か、かっちゃん?」
切島に下してもらったのかデクが恐る恐る声をかけて来た。
「かっちゃんなの??」
半信半疑のままそれでも知らない場所で知り合いだと思われる唯一の人物に若干の期待を込めて見上げている。
真っ直ぐ大きな目が俺を射抜く。
今は生意気になってしまったデクとは違う。どこか怯えてそれでいて羨望を含んだ視線。
どくりと心臓が鳴る。
「個性解除の条件は?」
「時間経過だ、三時間~半日だってよ」
「わーった。じゃーこれは俺が預かる」
言いながらひょいとデクを抱え上げる。
「かっりぃ……」
今のデクも余裕で持ち上がるがこの頃に比べれば格段に重い。
「かっちゃん?」
「テメェは戻れるまで俺んちで待機だ」
「戻れるの?」
「おう」
車に乗せて自宅へ連れ帰る。ソファに足を揃えてちょこんと座っている姿に笑いがこみ上げた。
「緊張すんなや。俺の部屋だけどテメェの部屋でもある」
「え!?」
「テメェのクソナード部屋でも見たら納得すっか?」
「わぁ! 僕歩けるけど!?」
「黙って抱かれ殺されとけ」
このすっぽり腕に納まるサイズのデクも悪くねぇ。少年期独特の柔らかい香りが鼻をくすぐる。
デクの部屋を開けると、やはりクソナードは顔を輝かせた。
「凄い」
「テメェの部屋って感じのナード部屋だろ」
抱えたままデクのベッドに座る。しばらくは物珍し気にあちこちをきょろきょろしていたが俺が腹に回した腕を解かないので動き回るのは諦めたようだ。
「ねぇ、離して?」
「嫌だ」
「即答!?」
「おう」
デクを持ち上げ抱き上げる。首筋に鼻を寄せると懐かしい香りがした。ああ、そうだ。この頃から俺はこの匂いが好きだった。
「……か、かっちゃん?」
背中と頭をしっかり抱きしめ密着し、肺がいっぱいになるほどその匂いを堪能する。相変わらず高い体温は俺の体によく馴染む。
デクは俺に行動に戸惑い居心地悪そうに身動ぎをするが離してやらん。
どうせすぐでかくて可愛くねぇ方のデクが帰ってくるんだ。
今だけ堪能させとけ。
「ねぇ……」
「……ンだよ」
「……この世界では、僕と君は仲良かったの?」
「いいや、多分テメェんとこと一緒だ」
そう言うとデクは深くため息をついた。
「そっか、きっと僕のいる未来とは違う場所なんだろうね」
静かな震えた声。多分いま体を引き離したらあの大きな目から甘そうな大きな水滴が零れ落ちそうになっているのだろう。
俺は体を離さず、さらに強くデクの体を抱きしめた。
「テメェが諦めなきゃ辿り着く」
頭をぐしゃぐしゃと撫でると啜り上げる音がした。
「俺を諦めんな」
もう一度頭を撫でると、小さく頷く仕草が手に伝わって。
俺はデクの制服の上着を緩め、もう一度匂いを堪能しようと鼻を寄せた。
「……!? ちょ、かっちゃん!?」
「……筋肉ゴリラ。重ぇ」
どすんとあの軽かった可愛いデクと入れ替わりに俺のデクが戻ってきた。
「君こそ、何この体勢。入れ替わってた過去の僕に何しようとしてたんだよ」
まるで浮気を問い詰めるような口調に俺はにやけた顔を止められない。
「自分にやきもちか? クソナード」
「………………わるい?」
「悪かねぇ。何もなかったかテメェで確かめろや」
唇を触れるぎりぎりで囁けば、生意気にも睨み返した後。
噛みつくようなキスをしてきた。