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牙も花もお前のものだ(りゅさい)
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東本キッカ
殴らないとは言っていない(りゅさい)
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東本キッカ
恋しや恋し(りゅさい)
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東本キッカ
イデア(だざしが)
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かすみ
4
【文アル】10/7 SPARK 13 お品書き @ 東2-ホ13b
#文アル
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新作のワイヤーブレスレットをご希望の場合は、お取り置きをおすすめします。TwitterのDMへ直接どうぞ
Twitterに同内容の投稿があります→
https://twitter.com/chidori1079/status/1042969177621815296
マシュマロ→
https://marshmallow-qa.com/chidori1079
茜千鳥
生殺与奪はあなたの手に(独武)
#文アル
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かすみ
孤独を抱きしめた(みよ朔)
#文アル
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かすみ
地上の神様(志賀と武者)
斜陽の奇襲作戦の時に書いた。
シガが本物のカミサマになってしまわないように引き止めているのがムシャだと思う。
#文豪とアルケミスト
#文アル
かすみ
もう一度、(しげたき)
#文アル
#腐向け
#しげたき
かすみ
9
【文アル】イメージアクセ 試作 6・7月分
#文豪とアルケミスト
#文アル
#イメージアクセサリー
未完成品も含む6,7月に作ったもの記録用
1:白樺派巻玉ネックレス
2:有島武郎イメージ巻玉ピアス
3-4:佐藤春夫イメージバッグチャーム
5:尾崎紅葉イメージブレスレット
6:高村光太郎、坪内逍遥イメージブレスレット
7-9:巻玉試作
茜千鳥
6
炎
身の内に抱きながら
#文アル
##文アル
2019/5/3 ハートお礼絵更新しました
2019/9/1 ハートお礼絵更新しました
2020/4/25 ハートお礼絵更新しました。当記事の更新はこれで最後になります。
以降頂いたハートは別記事でお礼させていただきます。
kamira35
5
これからの事を考えよう
#文アル
##文アル
2019/8/25 ハートお礼絵更新しました
2020/4/25 ハートお礼絵更新しました。当記事の更新はこれで最後にまります。以降頂いたハートは別の記事でお礼させて頂きます
kamira35
雨の降る世界の中で
かわいぶ再掲。
心象風景たる有魂書の中の世界が、特務司書の文豪への印象や読書歴に左右されるものだとしたらゾッとしないなあというはなし。
ぶせさんは迎えに来た彼がばたさんだとは気づいてないのでしょう。気づいた時の反応が楽しみでなりません。
#文アル
【腐】
やたろ
水面の月に焦がれてる(鱒司書)
私は自分をとても強欲な人間だとおもう。月がほしいとなくわがままは子どもだから許されるのだ。届かないものにいつまでも手を伸ばし続ける愚かな自分を、それでも捨てられないでいる。
「人間なんてのは皆そんなもんだろう」
妹を想う兄のような、或いは娘を見る父親のような、少なくとも年下とはいえ仮にも職場の上司に向けるべきではない柔らかな表情で、佐藤は司書の頭を撫でた。面倒見のよい、苦労性の兄貴分とはなるほどこういう一面だろうかとおもう。
……それを司書に向ける前に、見せるべき相手がいるだろうにと思うのは、佐藤にとっては余計なお世話だろうけれど。
「あんたがあいつのために一生懸命になってくれるのは俺としても嬉しいよ」
「一番弟子だから、ですか?」
頭に置かれたままの手の影からそっと様子をうかがうと、佐藤は薄くわらったまま、ほんの少し、眼を細めた。
「そういうあんたはどうなんだ。あいつをどうしても転生させたいというのはわかったが、なぜなんだ?言っちゃ悪いが他の連中の時にはそこまで熱心でもなかっただろ」
あ、なにかをごまかしたなとおもう。
「好きだからって言ったら笑いますか?」
「……なんだって?」
佐藤の手がようやく頭の上から退けられて、司書はその目を真っ向から見返す。怪訝にひそめられた眉の下、真意を探るように鋭くひかるその眼差しに挑むように。
「好きなんです。先生がたと今までコツコツと貯めてきた資材の全てを投げ打ってでも手に入れたくて堪らないほど。滑稽なと笑いますか?愚かだと罵りますか?でも、先生だってあのひとと会いたいでしょう。だからきっと、呆れながらも付き合ってくださるでしょう?」
「……ひとつだけ聞かせてくれ」
「はい、なんなりと」
「あんたはあいつが転生したとして、それからどうしたいんだ?恋仲にでもなるつもりか」
思わぬことを聞いたとばかり、司書は目を見開いて佐藤を凝視する。実際、恋仲になろうなどとは考えてもみなかった司書からすれば、佐藤のその疑問は予想だにしないものだった。
「……ええと、それはナイです」
「ないのか」
「ないです。ううん、なんといいますか、そこにいてくれるだけでいいんです。か、観賞用?といいますか」
「観賞用」
「という話をしていたのを思い出したんだが」
「ああ、そんなこともありましたねえ」
今宵は宴会が開かれている。井伏鱒二の転生を歓迎してのことだ。遠く聞こえてくるどんちゃん騒ぎに耳を傾けながら、佐藤と司書は報告書をまとめていく。
司書が宴会に混ざらないのはいつものことだが、下戸とは言え、井伏の師である佐藤があの場にいないのはいかがなものだろうかとおもう。書類仕事を手伝わせておいて言うことではないが、本当に付き合ってもらってよかったのだろうか。このひとが目をかけ、その面倒見の良さを発揮するべき相手はもっと他にいるだろうに。
「それで、実際どうなんだ。あいつと話しただろう」
「ええ、声を聞くだけで腰が砕けそうになりましたがなんとか持ちこたえました。あの顔面にあの声は反則でしょう。意外と語尾が柔らかいのだなと思っていたら、何ですかあの戦闘中の口の悪さ。無理ですギャップ萌えという言葉をご存知ないのでしょうか。明日から助手についていただく予定なのですが私は大丈夫なのでしょうか?たかだか二十数年ばかり生きただけの小娘ですが、これほどまでに生命の危機を感じたことはありません」
「落ち着け」
電気ケトルから直接注がれた白湯を受け取り、司書は一息に飲み干した。
「無理です」
佐藤は湯呑みにもう一杯、白湯を注いでくれた。今度はゆっくりと啜り込む。これが酒だったなら言い訳も立つのに。
「私はあなたにひとつだけ嘘をつきました」
佐藤の片眉がぴくりと跳ねる。それだけだった。続きを促すような沈黙にそっと息を吐いて、司書は指先を温めるように湯呑みに添わせた。
「井伏さんを好きというのはほんとうです。けれどあの人の転生を願った理由はそれだけではありません。
先生は、ご存知ないでしょう。あのひとが生きた時代のうちの最後のひとつは、私が生まれた時代でもありました。現在、転生可能とされている文豪のうち、あのひとだけが失われた私たちの時代に、実際に生きていたのです」
明治、大正、昭和、その後には平成と呼ばれた時代があった。人に溢れ、物に溢れ、そして、文化に溢れていた時代。日本という国はかつてなく豊かな時代を迎えていた。今はもう、ほとんどの人間の記憶にも、記録にも残っていない、失われた時代。司書にとっての「現代」。
文学への侵蝕は、何も文豪と呼ばれる彼らの著書のみを対象としたわけでもなければ、彼らの著書から始まったわけでもなかった。
誰にも気づかれることなく、静かに、少しずつ、平成という時代に生まれた文学は、その身を侵され姿を消していった。物に溢れていた時代。文学も当然の如く溢れていた。それゆえの弊害。あまりに数が膨大過ぎたために、それが減っていることに気づけなかった。気づいた時には手遅れだった。
文学への侵蝕現象がようやく認知され始めた頃のことだ。高層ビルが立ち並ぶ、ごみごみとした大都市が、ある日突然、その姿を変えた。日本全体が時代を遡るように、建築物も、乗り物も、服装も、人々の知識も記憶も、巻き戻され、すり替えられ、そうして生まれたのが、この帝都だ。
そんなことを知る者は、もうほとんど残っていないけれど。
いっそこの記憶も失われてしまえばよかったと、どこにいるとも知れぬ神を呪ったこともある。そのくせ、思い出すたびにこの記憶が擦り切れ色褪せていくことが恐ろしい。全てはおのれの妄想ではないかと疑ったこともある。そうであるならばよかった。ひとりで抱えていくには限界だった。
そんな時だった。井伏鱒二転生のためのの招魂研究の許可が再び下りたのは。そういえば、あのひとも平成を知っているのだ、覚えているかもしれないと、そう思ってしまえば、堪らなかった。佐藤に語ったことはほんとうだ。けれどそれ以上に、秘密の共有者がほしかった。どうしても、井伏だけは手に入れなければならなかった。
なんて不純な動機だろうとおもう。
恋のような繊細で美しい感情とは違う、この気持ちはもっとどろどろとした、自分本位の醜い欲だ。
「先生、ねえ、先生。見ているだけだなんて、きっとそれも嘘になってしまうに決まっています。私はそのうち、あのひとなしじゃ生きていけなくなるんです」
「……あまり、俺の弟子を困らせてくれるなよ」
他にも何かを言いたげに司書を見下ろしていたが、結局、佐藤の口からそれ以上の言葉が紡がれることはなかった。こういう時に、佐藤は必要以上に踏み込んではこない。関わりたくないというのが本音だろうとはおもう。もとより何か有効なアドバイスを期待していたわけでもない。むしろ佐藤に引かれるための言葉を意識的に選んだ司書としては、その態度には満点をつけたかった。だってどうせ、あの時代を知らない佐藤には、何を言ったところでわかってはもらえないのだから。わかってもらいたくない、というのもある。
司書がほしい言葉も理解も共感も、佐藤から得られるはずがないのだ。井伏でなくては。
そうして勝手に井伏への期待値を高めていく。そこにいるだけでいいと言いながら、否、実際に彼が転生するまではそうだったはずだ。平成という時代の存在を証し立てる井伏がいるだけで、それをよすがに生きていけると、以前には思っていたはずだ。けれどほんとうに転生に成功してしまえば、もっと、と望んでしまう。この気持ちを知ってほしい、理解してほしい、分かち合いたい、慰めてほしい。ひとりでよく頑張ったと褒めてほしい。井伏が覚えているという確証すら、まだ得られていないのに。
なんて、浅ましい。
月はただ見上げているよりも、手に届くところまで来てしまってからの方が、欲深くなるのだと知った。もしほんとうに手に入れてしまったならば、どうなるのだろう。
月がほしいと泣いた子どもが月を手に入れたことはない。けれど井伏は月ではない。人間だ。だったら、手に入れられるかもしれないではないか。手に入れてしまったって、構わないではないか。
わたしは、こんなにもあなたに焦がれている。
#文アル
私は自分をとても強欲な人間だとおもう。月がほしいとなくわがままは子どもだから許されるのだ。届かないものにいつまでも手を伸ばし続ける愚かな自分を、それでも捨てられないでいる。
「人間なんてのは皆そんなもんだろう」
妹を想う兄のような、或いは娘を見る父親のような、少なくとも年下とはいえ仮にも職場の上司に向けるべきではない柔らかな表情で、佐藤は司書の頭を撫でた。面倒見のよい、苦労性の兄貴分とはなるほどこういう一面だろうかとおもう。
……それを司書に向ける前に、見せるべき相手がいるだろうにと思うのは、佐藤にとっては余計なお世話だろうけれど。
「あんたがあいつのために一生懸命になってくれるのは俺としても嬉しいよ」
「一番弟子だから、ですか?」
頭に置かれたままの手の影からそっと様子をうかがうと、佐藤は薄くわらったまま、ほんの少し、眼を細めた。
「そういうあんたはどうなんだ。あいつをどうしても転生させたいというのはわかったが、なぜなんだ?言っちゃ悪いが他の連中の時にはそこまで熱心でもなかっただろ」
あ、なにかをごまかしたなとおもう。
「好きだからって言ったら笑いますか?」
「……なんだって?」
佐藤の手がようやく頭の上から退けられて、司書はその目を真っ向から見返す。怪訝にひそめられた眉の下、真意を探るように鋭くひかるその眼差しに挑むように。
「好きなんです。先生がたと今までコツコツと貯めてきた資材の全てを投げ打ってでも手に入れたくて堪らないほど。滑稽なと笑いますか?愚かだと罵りますか?でも、先生だってあのひとと会いたいでしょう。だからきっと、呆れながらも付き合ってくださるでしょう?」
「……ひとつだけ聞かせてくれ」
「はい、なんなりと」
「あんたはあいつが転生したとして、それからどうしたいんだ?恋仲にでもなるつもりか」
思わぬことを聞いたとばかり、司書は目を見開いて佐藤を凝視する。実際、恋仲になろうなどとは考えてもみなかった司書からすれば、佐藤のその疑問は予想だにしないものだった。
「……ええと、それはナイです」
「ないのか」
「ないです。ううん、なんといいますか、そこにいてくれるだけでいいんです。か、観賞用?といいますか」
「観賞用」
「という話をしていたのを思い出したんだが」
「ああ、そんなこともありましたねえ」
今宵は宴会が開かれている。井伏鱒二の転生を歓迎してのことだ。遠く聞こえてくるどんちゃん騒ぎに耳を傾けながら、佐藤と司書は報告書をまとめていく。
司書が宴会に混ざらないのはいつものことだが、下戸とは言え、井伏の師である佐藤があの場にいないのはいかがなものだろうかとおもう。書類仕事を手伝わせておいて言うことではないが、本当に付き合ってもらってよかったのだろうか。このひとが目をかけ、その面倒見の良さを発揮するべき相手はもっと他にいるだろうに。
「それで、実際どうなんだ。あいつと話しただろう」
「ええ、声を聞くだけで腰が砕けそうになりましたがなんとか持ちこたえました。あの顔面にあの声は反則でしょう。意外と語尾が柔らかいのだなと思っていたら、何ですかあの戦闘中の口の悪さ。無理ですギャップ萌えという言葉をご存知ないのでしょうか。明日から助手についていただく予定なのですが私は大丈夫なのでしょうか?たかだか二十数年ばかり生きただけの小娘ですが、これほどまでに生命の危機を感じたことはありません」
「落ち着け」
電気ケトルから直接注がれた白湯を受け取り、司書は一息に飲み干した。
「無理です」
佐藤は湯呑みにもう一杯、白湯を注いでくれた。今度はゆっくりと啜り込む。これが酒だったなら言い訳も立つのに。
「私はあなたにひとつだけ嘘をつきました」
佐藤の片眉がぴくりと跳ねる。それだけだった。続きを促すような沈黙にそっと息を吐いて、司書は指先を温めるように湯呑みに添わせた。
「井伏さんを好きというのはほんとうです。けれどあの人の転生を願った理由はそれだけではありません。
先生は、ご存知ないでしょう。あのひとが生きた時代のうちの最後のひとつは、私が生まれた時代でもありました。現在、転生可能とされている文豪のうち、あのひとだけが失われた私たちの時代に、実際に生きていたのです」
明治、大正、昭和、その後には平成と呼ばれた時代があった。人に溢れ、物に溢れ、そして、文化に溢れていた時代。日本という国はかつてなく豊かな時代を迎えていた。今はもう、ほとんどの人間の記憶にも、記録にも残っていない、失われた時代。司書にとっての「現代」。
文学への侵蝕は、何も文豪と呼ばれる彼らの著書のみを対象としたわけでもなければ、彼らの著書から始まったわけでもなかった。
誰にも気づかれることなく、静かに、少しずつ、平成という時代に生まれた文学は、その身を侵され姿を消していった。物に溢れていた時代。文学も当然の如く溢れていた。それゆえの弊害。あまりに数が膨大過ぎたために、それが減っていることに気づけなかった。気づいた時には手遅れだった。
文学への侵蝕現象がようやく認知され始めた頃のことだ。高層ビルが立ち並ぶ、ごみごみとした大都市が、ある日突然、その姿を変えた。日本全体が時代を遡るように、建築物も、乗り物も、服装も、人々の知識も記憶も、巻き戻され、すり替えられ、そうして生まれたのが、この帝都だ。
そんなことを知る者は、もうほとんど残っていないけれど。
いっそこの記憶も失われてしまえばよかったと、どこにいるとも知れぬ神を呪ったこともある。そのくせ、思い出すたびにこの記憶が擦り切れ色褪せていくことが恐ろしい。全てはおのれの妄想ではないかと疑ったこともある。そうであるならばよかった。ひとりで抱えていくには限界だった。
そんな時だった。井伏鱒二転生のためのの招魂研究の許可が再び下りたのは。そういえば、あのひとも平成を知っているのだ、覚えているかもしれないと、そう思ってしまえば、堪らなかった。佐藤に語ったことはほんとうだ。けれどそれ以上に、秘密の共有者がほしかった。どうしても、井伏だけは手に入れなければならなかった。
なんて不純な動機だろうとおもう。
恋のような繊細で美しい感情とは違う、この気持ちはもっとどろどろとした、自分本位の醜い欲だ。
「先生、ねえ、先生。見ているだけだなんて、きっとそれも嘘になってしまうに決まっています。私はそのうち、あのひとなしじゃ生きていけなくなるんです」
「……あまり、俺の弟子を困らせてくれるなよ」
他にも何かを言いたげに司書を見下ろしていたが、結局、佐藤の口からそれ以上の言葉が紡がれることはなかった。こういう時に、佐藤は必要以上に踏み込んではこない。関わりたくないというのが本音だろうとはおもう。もとより何か有効なアドバイスを期待していたわけでもない。むしろ佐藤に引かれるための言葉を意識的に選んだ司書としては、その態度には満点をつけたかった。だってどうせ、あの時代を知らない佐藤には、何を言ったところでわかってはもらえないのだから。わかってもらいたくない、というのもある。
司書がほしい言葉も理解も共感も、佐藤から得られるはずがないのだ。井伏でなくては。
そうして勝手に井伏への期待値を高めていく。そこにいるだけでいいと言いながら、否、実際に彼が転生するまではそうだったはずだ。平成という時代の存在を証し立てる井伏がいるだけで、それをよすがに生きていけると、以前には思っていたはずだ。けれどほんとうに転生に成功してしまえば、もっと、と望んでしまう。この気持ちを知ってほしい、理解してほしい、分かち合いたい、慰めてほしい。ひとりでよく頑張ったと褒めてほしい。井伏が覚えているという確証すら、まだ得られていないのに。
なんて、浅ましい。
月はただ見上げているよりも、手に届くところまで来てしまってからの方が、欲深くなるのだと知った。もしほんとうに手に入れてしまったならば、どうなるのだろう。
月がほしいと泣いた子どもが月を手に入れたことはない。けれど井伏は月ではない。人間だ。だったら、手に入れられるかもしれないではないか。手に入れてしまったって、構わないではないか。
わたしは、こんなにもあなたに焦がれている。
#文アル
やたろ
不帰(だざしげ)
知ったような顔をして、知ったようなことを言って、取り澄まして、眼鏡の奥の眼差しはいつも冷静に俺を観察している。明るいみどりいろの、顔のパーツのひとつひとつは柔和なくせに、あいつの一部というだけで油断ならないそのまなこが、俺を見て、無言で責める。やはり太宰は自分の藝術を尊重することが足りなかった。文学者としての自尊心が十分大きくなかった──
うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!おまえにおれのなにがわかる!何を知っているっていうんだ!棺桶に納まる俺をしづかに見下ろして、餞別がわりの罵倒を寄越す。やはり太宰は〇〇だった!ああそうとも!そうだとも!水に浸かりすぎてふやけた皮膚の一枚一枚を剥ぎ取って、血管を避け、肉を切り分け、青ざめた骨の白さに目を細め、全てをさらけ出すしかない哀れな男のここはこうだ、あいつはこうだと好き勝手に喚いている!死んだ俺をさらに殺すのだ!
何が論争者か何が文学者か!書いていたいといいながら文学から逃げたのはおまえだろう!
だけども死体は喋れないので俺は黙ってされるがままになっている。臓腑のひとつひとつを舐め回す視線に堪えている。犬畜生のように無様にはらを晒して横たわっている。
死後の陵辱、まさにそうだ。俺の尊厳は誰にも守られない、おれ自身にも。死んで今更、道化を演じさせられるのだ。死んだ身体に首輪をはめてぐずぐずに腐った手には鎌を持たせて踊れと命じられるまま、俺は恥を重ねている。ああ嫌だこんなもの、死んでしまいたい。けれども死ねばあいつは俺を謗るだろう。太宰治は〇〇とはいえぬ云々──
みどりいろの目が偽善者の顔をして俺を見上げている。硝子玉のように無機質にひかりながらいっちょまえに哀れんでいる。けだものじみて腰を振りたてる俺を眺めている。ぽかんと間抜けに開いたくちびるから漏れるのは、あ、とかう、とか条件反射の聞くに堪えない無意味な音ばかり。そのくせ目だけは憐憫と観察を同居させながら俺を映している。言葉より雄弁とは、文学者が、笑わせる。相手とたたかうならば相手を死なせねばならない。相手が首をくくるというようなところまで相手を追いこまねばならない。死ぬことから逃げたおとこが!太宰治の何たるかを知りもしないで!
フツカヨイだ、と誰かは言った。フツカヨイ、それもいい。死んでは酔いが覚めることもない。こいつは、酔っ払って、前後不覚の男に犯されているのだ。ざまをみろ。
#文アル
【腐】
知ったような顔をして、知ったようなことを言って、取り澄まして、眼鏡の奥の眼差しはいつも冷静に俺を観察している。明るいみどりいろの、顔のパーツのひとつひとつは柔和なくせに、あいつの一部というだけで油断ならないそのまなこが、俺を見て、無言で責める。やはり太宰は自分の藝術を尊重することが足りなかった。文学者としての自尊心が十分大きくなかった──
うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!おまえにおれのなにがわかる!何を知っているっていうんだ!棺桶に納まる俺をしづかに見下ろして、餞別がわりの罵倒を寄越す。やはり太宰は〇〇だった!ああそうとも!そうだとも!水に浸かりすぎてふやけた皮膚の一枚一枚を剥ぎ取って、血管を避け、肉を切り分け、青ざめた骨の白さに目を細め、全てをさらけ出すしかない哀れな男のここはこうだ、あいつはこうだと好き勝手に喚いている!死んだ俺をさらに殺すのだ!
何が論争者か何が文学者か!書いていたいといいながら文学から逃げたのはおまえだろう!
だけども死体は喋れないので俺は黙ってされるがままになっている。臓腑のひとつひとつを舐め回す視線に堪えている。犬畜生のように無様にはらを晒して横たわっている。
死後の陵辱、まさにそうだ。俺の尊厳は誰にも守られない、おれ自身にも。死んで今更、道化を演じさせられるのだ。死んだ身体に首輪をはめてぐずぐずに腐った手には鎌を持たせて踊れと命じられるまま、俺は恥を重ねている。ああ嫌だこんなもの、死んでしまいたい。けれども死ねばあいつは俺を謗るだろう。太宰治は〇〇とはいえぬ云々──
みどりいろの目が偽善者の顔をして俺を見上げている。硝子玉のように無機質にひかりながらいっちょまえに哀れんでいる。けだものじみて腰を振りたてる俺を眺めている。ぽかんと間抜けに開いたくちびるから漏れるのは、あ、とかう、とか条件反射の聞くに堪えない無意味な音ばかり。そのくせ目だけは憐憫と観察を同居させながら俺を映している。言葉より雄弁とは、文学者が、笑わせる。相手とたたかうならば相手を死なせねばならない。相手が首をくくるというようなところまで相手を追いこまねばならない。死ぬことから逃げたおとこが!太宰治の何たるかを知りもしないで!
フツカヨイだ、と誰かは言った。フツカヨイ、それもいい。死んでは酔いが覚めることもない。こいつは、酔っ払って、前後不覚の男に犯されているのだ。ざまをみろ。
#文アル
【腐】
やたろ
ねこのはなし(りゅさい)
乳飲み子を抱えた女だと思ったら、室生だった。二度見する代わりに瞬きをしきりに繰り返しながら、肺に入れたまま切っ掛けを無くしていた煙をふ、と細く吐き出した芥川は、ついで腹を押さえる室生の手に視線を投げた。人は痛みを感じる所に手を当てるという。さて腹が痛いのか、またぞろ珍しい姿に今度は煙を吐き出すだけでは到底足らず、口元に運びかけた煙草の吸いさしを灰皿へ押し付け捨てると、下駄を鳴らしながら踏み出した。からり、と高くなった音は室生にも届いたようで、振り向いたその顔、とくに目玉がよく濡れて闇夜に光る猫の目のようだった。
「君がそういう目をしている時は」
煙草の匂いが残る唇を舐めて湿らせてから、再度口を開く。
「碌でもない事をしでかす直前か、しでかした後だろうね。今日はどっちだい?」
室生の唇は引き結ばれたまま、光る飴色の目が芥川をただただじっと見つめている。それに負けじと見つめ返していると、返事はそう経たずに得られた。室生の腹から、にゃあ、と鳴き声がする。
「……」
「腹の虫が」
「いや、猫だよね」
「腹の虫だ」
なーん、とまた腹が鳴いた。ついでにうごうごと服の下で腹が波打っているのを宥めるように、押さえていた手がとんとんと撫でさすっている。身重の女のようだった。
室生の懐の中に居たのは案の定猫で、それも子猫が二匹と母猫が一匹という大所帯だった。薄っぺらい腹のどこにそれだけ隠していたのだと呆れ顔の芥川をよそに、室生は湯がいたささみを母猫に与えている。平皿の中、ささみをほぐしては猫に与える室生の手元を眺めながら、少し離れたところで煙草を吸う芥川の足元に、ころころと子猫が転がってきた。戯れているうちに畳の上をあっちへ転がり、こっちへ転がりと、忙しない様子を目で追いかけていると、まんまと胡座をかいた芥川の膝に子猫がぶつかり、驚いたようにぴょっと跳ねたと思えば母猫の元へころころと駆けて行ってしまった。
「嫌われたかな」
「煙草臭いんだろ」
「それは君もじゃないか、犀星」
腹の満ちた母猫の背中を撫でる室生の横顔はとても優しい。毛並みを整えるように指先で撫でくすぐりながら、しみじみとこの母猫がな、と語り出した声はどうにも喜びが隠しきれずに滲んでいる。
「ずっと姿を見せていなかったんだ。中庭によく来ていて、可愛がってたから寂しかったんだが」
「見かけて攫ってきたのかい」
「人を人攫いみたく言うんじゃない。そんなつもりは無かったさ、餌だけやろうと思ってたんだが」
くっ、と眉間に皺を寄せながら大真面目な顔で、
「子猫を見せに来てくれたんだ。手を出したら、その上に咥えていた子猫を下ろしてくれたんだぞ!」
「だからって懐に仕舞わないよ」
いいや仕舞うね、と即答する室生の声に、ううん、と首を捻った芥川は、短くなった煙草を灰皿の中に捨てて、にじり寄るように四つん這いでずりずりと室生の側へと寄った。芥川の姿に母猫は素早く身を起こし、少し離れたところへ行ってしまった。
「なんだよ」
「犀星、手を出して」
言われるがまま、手のひらを上にして芥川へ手を差し出した犀星の指は少しだけ荒れていた。短く整えられた爪を撫で、指腹を逆なでにするようにするりと手のひらを重ねて、ぎゅっと握る。それを数秒ばかり続けてから、芥川は微笑みながら室生に問う。
「どうだい」
「何が」
「懐に仕舞いたくなった?」
ぺいっと手を振り払われ、ついでのように額を小突かれた。
#文アル
#りゅさい
乳飲み子を抱えた女だと思ったら、室生だった。二度見する代わりに瞬きをしきりに繰り返しながら、肺に入れたまま切っ掛けを無くしていた煙をふ、と細く吐き出した芥川は、ついで腹を押さえる室生の手に視線を投げた。人は痛みを感じる所に手を当てるという。さて腹が痛いのか、またぞろ珍しい姿に今度は煙を吐き出すだけでは到底足らず、口元に運びかけた煙草の吸いさしを灰皿へ押し付け捨てると、下駄を鳴らしながら踏み出した。からり、と高くなった音は室生にも届いたようで、振り向いたその顔、とくに目玉がよく濡れて闇夜に光る猫の目のようだった。
「君がそういう目をしている時は」
煙草の匂いが残る唇を舐めて湿らせてから、再度口を開く。
「碌でもない事をしでかす直前か、しでかした後だろうね。今日はどっちだい?」
室生の唇は引き結ばれたまま、光る飴色の目が芥川をただただじっと見つめている。それに負けじと見つめ返していると、返事はそう経たずに得られた。室生の腹から、にゃあ、と鳴き声がする。
「……」
「腹の虫が」
「いや、猫だよね」
「腹の虫だ」
なーん、とまた腹が鳴いた。ついでにうごうごと服の下で腹が波打っているのを宥めるように、押さえていた手がとんとんと撫でさすっている。身重の女のようだった。
室生の懐の中に居たのは案の定猫で、それも子猫が二匹と母猫が一匹という大所帯だった。薄っぺらい腹のどこにそれだけ隠していたのだと呆れ顔の芥川をよそに、室生は湯がいたささみを母猫に与えている。平皿の中、ささみをほぐしては猫に与える室生の手元を眺めながら、少し離れたところで煙草を吸う芥川の足元に、ころころと子猫が転がってきた。戯れているうちに畳の上をあっちへ転がり、こっちへ転がりと、忙しない様子を目で追いかけていると、まんまと胡座をかいた芥川の膝に子猫がぶつかり、驚いたようにぴょっと跳ねたと思えば母猫の元へころころと駆けて行ってしまった。
「嫌われたかな」
「煙草臭いんだろ」
「それは君もじゃないか、犀星」
腹の満ちた母猫の背中を撫でる室生の横顔はとても優しい。毛並みを整えるように指先で撫でくすぐりながら、しみじみとこの母猫がな、と語り出した声はどうにも喜びが隠しきれずに滲んでいる。
「ずっと姿を見せていなかったんだ。中庭によく来ていて、可愛がってたから寂しかったんだが」
「見かけて攫ってきたのかい」
「人を人攫いみたく言うんじゃない。そんなつもりは無かったさ、餌だけやろうと思ってたんだが」
くっ、と眉間に皺を寄せながら大真面目な顔で、
「子猫を見せに来てくれたんだ。手を出したら、その上に咥えていた子猫を下ろしてくれたんだぞ!」
「だからって懐に仕舞わないよ」
いいや仕舞うね、と即答する室生の声に、ううん、と首を捻った芥川は、短くなった煙草を灰皿の中に捨てて、にじり寄るように四つん這いでずりずりと室生の側へと寄った。芥川の姿に母猫は素早く身を起こし、少し離れたところへ行ってしまった。
「なんだよ」
「犀星、手を出して」
言われるがまま、手のひらを上にして芥川へ手を差し出した犀星の指は少しだけ荒れていた。短く整えられた爪を撫で、指腹を逆なでにするようにするりと手のひらを重ねて、ぎゅっと握る。それを数秒ばかり続けてから、芥川は微笑みながら室生に問う。
「どうだい」
「何が」
「懐に仕舞いたくなった?」
ぺいっと手を振り払われ、ついでのように額を小突かれた。
#文アル
#りゅさい
東本キッカ
嗚呼、親愛なる我が師匠
実際、あんたは俺の自慢の弟子だよ、と師は言う。
弟子たちの中でもいちばん聞き分けが良くて、まあそこがもどかしいところもあったんだがな。俺はあんたを本気で叱ったためしがないだろう、と。
それで、ああそうか、と了解したのだ。この師は覚えていらっしゃらない。元々、記憶に虫食いの多い方ではあるけれど、あの時のことは、師にとっては覚えている価値もない些末な事だったのだろう。
この人にとっての自分の価値は、従順であるという一点のみなのだ。従順であるがゆえの一番弟子。従順であるがゆえの可愛さ。
ならば今生はそう振る舞おう。
◆◇◆
「たまにな、ほんとうに時々だが、おまえと一緒に死んでやろうかと思うこともあるんだよ」
「先生、それは嘘でしょう。いいえ、先生が本気でそのつもりだとしても、最期にはあなたは俺を置いていくに決まっています。皆そうだったんだ」
「俺をそこいらの女と一緒にするなと言いたいが、ま、そうだろうなあ。俺にはおまえを殺せんよ」
「そうでしょうとも。先生はひどいひとです」
──俺にも先生を殺せないのだということには気づいてはくださらない。
#文アル
【腐】
実際、あんたは俺の自慢の弟子だよ、と師は言う。
弟子たちの中でもいちばん聞き分けが良くて、まあそこがもどかしいところもあったんだがな。俺はあんたを本気で叱ったためしがないだろう、と。
それで、ああそうか、と了解したのだ。この師は覚えていらっしゃらない。元々、記憶に虫食いの多い方ではあるけれど、あの時のことは、師にとっては覚えている価値もない些末な事だったのだろう。
この人にとっての自分の価値は、従順であるという一点のみなのだ。従順であるがゆえの一番弟子。従順であるがゆえの可愛さ。
ならば今生はそう振る舞おう。
◆◇◆
「たまにな、ほんとうに時々だが、おまえと一緒に死んでやろうかと思うこともあるんだよ」
「先生、それは嘘でしょう。いいえ、先生が本気でそのつもりだとしても、最期にはあなたは俺を置いていくに決まっています。皆そうだったんだ」
「俺をそこいらの女と一緒にするなと言いたいが、ま、そうだろうなあ。俺にはおまえを殺せんよ」
「そうでしょうとも。先生はひどいひとです」
──俺にも先生を殺せないのだということには気づいてはくださらない。
#文アル
【腐】
やたろ
紅鱒
なるほど、師匠なのだろうと思う。
遠く騒がしい赤い頭に細められたまなこは師というよりも父親のそれに近い温もりを感じさせるが、厳しすぎるところのあるもう一人と足して割ればちょうどよかろう。流石に注視し過ぎたか、振り返った井伏は視線が交わったかと思うとすぐにその目を泳がせる。
目元の赤さを怪訝に思うまでもなく、答えは自ずから明かされた。
「そんな、息子を見るような目をせんでくださいよ」
拗ねたような声でそんなことをのたまうものだから、尾崎はやや高い位置にある頭へと手を伸ばし、それこそ子どもにするように掻き撫ぜた。
「愛い奴め」
#文アル
【腐】
なるほど、師匠なのだろうと思う。
遠く騒がしい赤い頭に細められたまなこは師というよりも父親のそれに近い温もりを感じさせるが、厳しすぎるところのあるもう一人と足して割ればちょうどよかろう。流石に注視し過ぎたか、振り返った井伏は視線が交わったかと思うとすぐにその目を泳がせる。
目元の赤さを怪訝に思うまでもなく、答えは自ずから明かされた。
「そんな、息子を見るような目をせんでくださいよ」
拗ねたような声でそんなことをのたまうものだから、尾崎はやや高い位置にある頭へと手を伸ばし、それこそ子どもにするように掻き撫ぜた。
「愛い奴め」
#文アル
【腐】
やたろ
今はまだ、(かわとく)
「秋声でいいよ」
くふん、と鼻を鳴らしながら、なんでもないことのように徳田は言う。しかし、と言い澱み、泳いだ視線はひやりとする手に頬を挟まれたことで動きを止めた。
「あの、」
「悪いけど僕の方では君のことを覚えていないわけだからさ、覚えていない人にそうやって畏まられても、困る」
「……はい」
それに、と言いさして、今度は徳田の目が泳ぐ。
「僕の方では、その、君のことを、友人、だと思ってるんだけど」
ごにょごにょと不明瞭にくぐもった語尾まで確と聞き届け、川端はぱあっと頬に朱を散らす。その、初々しいとさえ思える反応に、徳田は余計に照れてしまった。思わず引いた手を、川端の手が追いかけ捉える。
「わたしはあなたの友人がいい」
#文アル
【腐】
#かわとく
「秋声でいいよ」
くふん、と鼻を鳴らしながら、なんでもないことのように徳田は言う。しかし、と言い澱み、泳いだ視線はひやりとする手に頬を挟まれたことで動きを止めた。
「あの、」
「悪いけど僕の方では君のことを覚えていないわけだからさ、覚えていない人にそうやって畏まられても、困る」
「……はい」
それに、と言いさして、今度は徳田の目が泳ぐ。
「僕の方では、その、君のことを、友人、だと思ってるんだけど」
ごにょごにょと不明瞭にくぐもった語尾まで確と聞き届け、川端はぱあっと頬に朱を散らす。その、初々しいとさえ思える反応に、徳田は余計に照れてしまった。思わず引いた手を、川端の手が追いかけ捉える。
「わたしはあなたの友人がいい」
#文アル
【腐】
#かわとく
やたろ
#文アル
#過去絵を晒す
flower_pocky74
十二国記パロ(直白)
麒麟はその性、仁にして、流血を嫌い、争いを厭うという。
そう、麒麟は、白秋は、だめなのだ。たった今、眼前で起きたような流血沙汰を、こいつにだけは見せるべきではなかったのだと悔いたところで後の祭りだ。 血の気の引いた顔を見下ろしながら、己の麒麟をどう宥めたものかと頭を悩ませる。
青褪めながらも、何を無茶な王たる自覚が云々と叱る言葉は留まるところを知らぬようで、口を挟む隙もない。 抱き起こそうと震える身体に伸ばした腕は、余計に怯えさせるだけだった。
一刻も早く血の穢れから遠ざけなくてはと、わかってはいるのだが。
「王、死んだかよ!」
と、その時、何とも無礼な叫びと共にその場に乱入してきた若者を見て、志賀は不覚にも安堵した。白秋の声がぶつんと途切れる。 ずんずんと大股に、そのくせ足音一つ立てずに優雅に歩み寄る文官に、志賀はやれやれと肩を竦めてみせた。
「おあいにくさま、生きてるよ。おい、赤いの。お前、」
「あーっ!王、あんたバッカじゃないの!怪我人が宰輔に近寄るなよこの昏君!さっさと手当てを受けてこい」
歩み寄ってきた勢いをそのままに、むんずと襟を掴まれて、志賀は些かげんなりとする。
「わぁーってるから耳元で大声出すなよ。おい、俺はいいからお前は白秋を頼む」
「僕のことはいいから王を頼むよ。一人で出歩かれてはまたどこぞで頭をぶつけかねないからね」
志賀が言うと、すかさず白秋がそれに被せてくる。振り向けば、まだ青い顔に睨めつけれて言葉に詰まった。
白秋の顔色が悪いのは、血が流れたからというだけではない。他ならぬ主人が、白秋を守るために自らの命を危険に晒したためだ。ほんの擦り傷であっても、恐ろしい思いをさせてしまったことに変わりはない。
「……行くぞ、赤いの」
志賀がそう言って背を向けると、白秋はようやく肩の力を抜いて壁にもたれた。
#文アル
【腐】
#直白
##はるいぶ十二国記パロ
麒麟はその性、仁にして、流血を嫌い、争いを厭うという。
そう、麒麟は、白秋は、だめなのだ。たった今、眼前で起きたような流血沙汰を、こいつにだけは見せるべきではなかったのだと悔いたところで後の祭りだ。 血の気の引いた顔を見下ろしながら、己の麒麟をどう宥めたものかと頭を悩ませる。
青褪めながらも、何を無茶な王たる自覚が云々と叱る言葉は留まるところを知らぬようで、口を挟む隙もない。 抱き起こそうと震える身体に伸ばした腕は、余計に怯えさせるだけだった。
一刻も早く血の穢れから遠ざけなくてはと、わかってはいるのだが。
「王、死んだかよ!」
と、その時、何とも無礼な叫びと共にその場に乱入してきた若者を見て、志賀は不覚にも安堵した。白秋の声がぶつんと途切れる。 ずんずんと大股に、そのくせ足音一つ立てずに優雅に歩み寄る文官に、志賀はやれやれと肩を竦めてみせた。
「おあいにくさま、生きてるよ。おい、赤いの。お前、」
「あーっ!王、あんたバッカじゃないの!怪我人が宰輔に近寄るなよこの昏君!さっさと手当てを受けてこい」
歩み寄ってきた勢いをそのままに、むんずと襟を掴まれて、志賀は些かげんなりとする。
「わぁーってるから耳元で大声出すなよ。おい、俺はいいからお前は白秋を頼む」
「僕のことはいいから王を頼むよ。一人で出歩かれてはまたどこぞで頭をぶつけかねないからね」
志賀が言うと、すかさず白秋がそれに被せてくる。振り向けば、まだ青い顔に睨めつけれて言葉に詰まった。
白秋の顔色が悪いのは、血が流れたからというだけではない。他ならぬ主人が、白秋を守るために自らの命を危険に晒したためだ。ほんの擦り傷であっても、恐ろしい思いをさせてしまったことに変わりはない。
「……行くぞ、赤いの」
志賀がそう言って背を向けると、白秋はようやく肩の力を抜いて壁にもたれた。
#文アル
【腐】
#直白
##はるいぶ十二国記パロ
やたろ
山椒魚は怒らない(だざいぶ)
男のくせによく手入れされた指が首筋を辿る。その指先の微かな震えを感じ取り、井伏はおい、とのし掛かる男に呼びかかける。
「やめておくか」
男ははっと目を見開いた。きんいろの双眸が、月のようにぽっかりと浮かび上がって輝いている。
薄く開いた男のくちびるから、いいえ、と吐息のような声が漏れる。 そうか、と井伏は小さくわらった。 氷のように冷たい指先に喉仏を柔く抑えられ、井伏は思わず息を詰めた。 それ宥めるように、男はくちびるを重ねてくる。
「せんせい」
「大丈夫だ、大丈夫だよ、太宰」
よかった、と息をついて、今度は両手を井伏の首に巻きつけてくる。問うように首を傾けるので、井伏はいいよ、と言ってやった。
握る手にゆっくりと力が込められる。 首を絞められる井伏より、絞めている太宰の方が苦しげに顔を歪めていた。 ややほつれた三つ編みの横を、透明な汗がつたう。眦に到達したそれは、涙のように頬へと滑る。
だざい、とその名を呼んでやりたいのに声が出ない。 せめてもと笑いかけると、太宰の顔は益々歪んだ。
「せんせ、」
そんな顔をするんじゃないよ。 俺は太宰に何をされても怒らんよ。
#文アル
【腐】
#だざいぶ
男のくせによく手入れされた指が首筋を辿る。その指先の微かな震えを感じ取り、井伏はおい、とのし掛かる男に呼びかかける。
「やめておくか」
男ははっと目を見開いた。きんいろの双眸が、月のようにぽっかりと浮かび上がって輝いている。
薄く開いた男のくちびるから、いいえ、と吐息のような声が漏れる。 そうか、と井伏は小さくわらった。 氷のように冷たい指先に喉仏を柔く抑えられ、井伏は思わず息を詰めた。 それ宥めるように、男はくちびるを重ねてくる。
「せんせい」
「大丈夫だ、大丈夫だよ、太宰」
よかった、と息をついて、今度は両手を井伏の首に巻きつけてくる。問うように首を傾けるので、井伏はいいよ、と言ってやった。
握る手にゆっくりと力が込められる。 首を絞められる井伏より、絞めている太宰の方が苦しげに顔を歪めていた。 ややほつれた三つ編みの横を、透明な汗がつたう。眦に到達したそれは、涙のように頬へと滑る。
だざい、とその名を呼んでやりたいのに声が出ない。 せめてもと笑いかけると、太宰の顔は益々歪んだ。
「せんせ、」
そんな顔をするんじゃないよ。 俺は太宰に何をされても怒らんよ。
#文アル
【腐】
#だざいぶ
やたろ
嵐のよるに(はるいぶ)
「雨が降るとあんたは楽しそうだよな」
振り向こうとしたのを押しとどめるように肩を抱かれ、井伏は思わず息を詰めた。咄嗟に振り払わなかっただけ上出来だ、と思う。並んで窓の外を伺う顔の近さに、どうして違和感を覚えないでいられよう。
一度だけ、師弟の距離を踏み越えたことがある。ちょうど、今のような雷鳴轟く嵐の夜だった。 けれど過ちは一度きりであり、二人の距離は正されたはずだ。佐藤春夫は三千人の門弟を持つ師匠であり、井伏はその内の一人に過ぎない。ほかに二人を繋ぐものなど何もない。
どうして、このひとにはそれがわからない。
「井伏?」
怪訝に振り向いた師から目を逸らし、いや、と井伏は曖昧にわらう。 言ったところで無駄だろう。どうせ、佐藤に自覚はないのだ。唇を噛んだ井伏の横顔を、青白い雷光が照らす。
頬に伸ばされた手を拒む術を、師に従順な弟子は知らない。
#文アル
【腐】
#はるいぶ
「雨が降るとあんたは楽しそうだよな」
振り向こうとしたのを押しとどめるように肩を抱かれ、井伏は思わず息を詰めた。咄嗟に振り払わなかっただけ上出来だ、と思う。並んで窓の外を伺う顔の近さに、どうして違和感を覚えないでいられよう。
一度だけ、師弟の距離を踏み越えたことがある。ちょうど、今のような雷鳴轟く嵐の夜だった。 けれど過ちは一度きりであり、二人の距離は正されたはずだ。佐藤春夫は三千人の門弟を持つ師匠であり、井伏はその内の一人に過ぎない。ほかに二人を繋ぐものなど何もない。
どうして、このひとにはそれがわからない。
「井伏?」
怪訝に振り向いた師から目を逸らし、いや、と井伏は曖昧にわらう。 言ったところで無駄だろう。どうせ、佐藤に自覚はないのだ。唇を噛んだ井伏の横顔を、青白い雷光が照らす。
頬に伸ばされた手を拒む術を、師に従順な弟子は知らない。
#文アル
【腐】
#はるいぶ
やたろ
17
【web再録】文アル合同誌 文学界
#過去絵を晒す
#文豪とアルケミスト
#文アル
#漫画
※シャンハイCP21文アル合同誌参加、私のページを公開いたしました
※中国語注意
日輪
5
文豪とアルケミストgif
#過去絵を晒す
#文豪とアルケミスト
#文アル
#gif
日輪
35
文豪とアルケミスト落書きまとめ
#過去絵を晒す
#文豪とアルケミスト
#文アル
#漫画
2017~2018
日輪
街は燃えている。
瓦解した家々の下から、或いは燃え盛る炎の中から、声にはならぬ誰かの悲鳴が聞こえてくる。焼け爛れた皮膚をぶら下げて、流れる血もそのままに、動ける者は逃げ場を求めて歩いていく。 その人々を責め立てるように、黒い、黒い雨が降っていた。 黒く、太く、粘りつくような洋墨の雨は、炎を消すにはいっかな役に立たぬ。 地獄の底のような光景がそこには広がっていた。
「なんだい、これは」
喉奥から絞り出されたような声は掠れ、震えている。傍らの徳田はこの世のものとは思えぬ光景に魅入られたように立ち尽くしている。
「どうして、こんなになるまで気づかなかったっていうわけかい。どうして君は平然としてるんだよ、これは君の本だろう!」
かと思えば、一転して井伏に掴みかからんばかりの勢いで責め立てる。 ああ、そうか、と気がついた。 この青年は、今でこそ年若い容姿ながらもかつての文壇の重鎮であった男は、この光景を知らぬのだ。 徳田だけではない。北原も、尾崎も、井伏以外の者は誰も知らぬ。
「これは侵蝕じゃあないよ、徳田さん。アンタは知らないだろうがここは元々こういう場所なんでね」
この地獄の如き光景こそが、この本の本来あるべき姿だった。
#文アル
街は燃えている。
瓦解した家々の下から、或いは燃え盛る炎の中から、声にはならぬ誰かの悲鳴が聞こえてくる。焼け爛れた皮膚をぶら下げて、流れる血もそのままに、動ける者は逃げ場を求めて歩いていく。 その人々を責め立てるように、黒い、黒い雨が降っていた。 黒く、太く、粘りつくような洋墨の雨は、炎を消すにはいっかな役に立たぬ。 地獄の底のような光景がそこには広がっていた。
「なんだい、これは」
喉奥から絞り出されたような声は掠れ、震えている。傍らの徳田はこの世のものとは思えぬ光景に魅入られたように立ち尽くしている。
「どうして、こんなになるまで気づかなかったっていうわけかい。どうして君は平然としてるんだよ、これは君の本だろう!」
かと思えば、一転して井伏に掴みかからんばかりの勢いで責め立てる。 ああ、そうか、と気がついた。 この青年は、今でこそ年若い容姿ながらもかつての文壇の重鎮であった男は、この光景を知らぬのだ。 徳田だけではない。北原も、尾崎も、井伏以外の者は誰も知らぬ。
「これは侵蝕じゃあないよ、徳田さん。アンタは知らないだろうがここは元々こういう場所なんでね」
この地獄の如き光景こそが、この本の本来あるべき姿だった。
#文アル
やたろ
カミサマと人間(直白)
「神様と呼ばれるのは、いったいどんな気分なの」
問いかけとも思われぬひそやかな声に、志賀は咥えていた煙草を離して傍らの男をまじまじと見下ろした。いつから目を覚ましていたのか、うつ伏せに寝転んだ姿勢のまま視線だけを志賀に向けている。
「どうした、藪から棒に」
「……君が小説の神様であるように、横光くんが文学の神様であるように、僕はきっと詩歌においてそう呼ばれるに等しい立場にあるのだけれど」
「国民詩人様だもんな、お前は」
けれどね、と言いさして、北原はあまり似つかわしくない重たげな息をつく。
僕にもおくれよと言うので、志賀はサイドボードに置かれていた敷島を渡してやった。
「お前、寝煙草は嫌いじゃなかったか」
「よく言ったものだね、その僕の隣で堂々と寝煙草をしておいて」
「起きてるだろ」
「そうかい」
煙草を咥えた北原がもそりと身を起こすので、志賀は黙って顔を近づけた。北原の煙草の先端にぼうっと赤い火がともり、ふっと解けるように煙が立ちのぼる。
うす紫の煙のあわいから、北原の詩は生まれるのだ。
「国民詩人、詩聖、言葉の魔術師……どれも北原白秋を指す言葉だよ。それらを与えられるだけのものを遺したという自負はあるさ。あの時代において僕以上に詩歌に挑み続けた者はそういないだろうね」
けれどね、と北原はまた嘆息する。視線を動かすと、志賀が無言で灰皿を差し出してきたのでそこに吸いさしを擦りつけた。
「彼ならば、と思うひとがひとりだけいたのだよ。そうなる前に彼は僕を置いて逝ってしまったのだけれど」
決して届かないものに焦がれて血を吐くような声だった。一度死んで生まれ直しても、こいつは、北原は諦めきれないのだ。志賀ははじめて、北原のいっとう脆い部分に触れたと思った。
「他の誰になんと言われようと、どう思われようと構わないさ。けれど、彼にだけは、間違っても僕に劣るなどとは思ってほしくない。あんなところで終わるひとではなかった。僕の隣を、いいや、僕の先を行くべきひとだったのだよ」
彼、というのが誰を指すのか、志賀は薄々勘付いていた。今生においては北原がそのおとこにほとんど恋慕に近い感情を抱いているのではないかと、前々から思っていたのだ。北原自身には、その自覚がないようだが。
志賀が無言でいると、北原は話しすぎたとでも思ったか、表情を隠すように顔を背けた。矜持の高いおとこだ。恥じ入るというよりは、志賀にすがるような真似をしたおのれ自身に腹を立てたのかもしれない。
志賀はうす紫の髪に手を伸ばし、愛弟子にするようにくしゃりと無造作にかき混ぜる。
「俺を神様だと呼びたい奴はそう呼べばいい。否定したいならすればいい。けどな、」
と一旦言葉を切って、今にもぼろりと崩れて灰を落としかけていた吸いさしを灰皿に押しつける。
空いた両手で薄い肩を抱き寄せた。この少年のような未成熟な身体が二丁の銃を操るのかと、いつも驚かされる。
「俺もお前と同じただの人間だから、武者やなんかに神聖視されたらキツイだろうな」
「ばかだね、君は」
「ああ」
「人間でなければ何だというのだい」
「そうだな」
そうだな、と繰り返し、志賀は北原の肩に顔を埋める。志賀が顔を上げるまで、北原は黙ってされるがままになっていた。
#文アル
【腐】
#直白
「神様と呼ばれるのは、いったいどんな気分なの」
問いかけとも思われぬひそやかな声に、志賀は咥えていた煙草を離して傍らの男をまじまじと見下ろした。いつから目を覚ましていたのか、うつ伏せに寝転んだ姿勢のまま視線だけを志賀に向けている。
「どうした、藪から棒に」
「……君が小説の神様であるように、横光くんが文学の神様であるように、僕はきっと詩歌においてそう呼ばれるに等しい立場にあるのだけれど」
「国民詩人様だもんな、お前は」
けれどね、と言いさして、北原はあまり似つかわしくない重たげな息をつく。
僕にもおくれよと言うので、志賀はサイドボードに置かれていた敷島を渡してやった。
「お前、寝煙草は嫌いじゃなかったか」
「よく言ったものだね、その僕の隣で堂々と寝煙草をしておいて」
「起きてるだろ」
「そうかい」
煙草を咥えた北原がもそりと身を起こすので、志賀は黙って顔を近づけた。北原の煙草の先端にぼうっと赤い火がともり、ふっと解けるように煙が立ちのぼる。
うす紫の煙のあわいから、北原の詩は生まれるのだ。
「国民詩人、詩聖、言葉の魔術師……どれも北原白秋を指す言葉だよ。それらを与えられるだけのものを遺したという自負はあるさ。あの時代において僕以上に詩歌に挑み続けた者はそういないだろうね」
けれどね、と北原はまた嘆息する。視線を動かすと、志賀が無言で灰皿を差し出してきたのでそこに吸いさしを擦りつけた。
「彼ならば、と思うひとがひとりだけいたのだよ。そうなる前に彼は僕を置いて逝ってしまったのだけれど」
決して届かないものに焦がれて血を吐くような声だった。一度死んで生まれ直しても、こいつは、北原は諦めきれないのだ。志賀ははじめて、北原のいっとう脆い部分に触れたと思った。
「他の誰になんと言われようと、どう思われようと構わないさ。けれど、彼にだけは、間違っても僕に劣るなどとは思ってほしくない。あんなところで終わるひとではなかった。僕の隣を、いいや、僕の先を行くべきひとだったのだよ」
彼、というのが誰を指すのか、志賀は薄々勘付いていた。今生においては北原がそのおとこにほとんど恋慕に近い感情を抱いているのではないかと、前々から思っていたのだ。北原自身には、その自覚がないようだが。
志賀が無言でいると、北原は話しすぎたとでも思ったか、表情を隠すように顔を背けた。矜持の高いおとこだ。恥じ入るというよりは、志賀にすがるような真似をしたおのれ自身に腹を立てたのかもしれない。
志賀はうす紫の髪に手を伸ばし、愛弟子にするようにくしゃりと無造作にかき混ぜる。
「俺を神様だと呼びたい奴はそう呼べばいい。否定したいならすればいい。けどな、」
と一旦言葉を切って、今にもぼろりと崩れて灰を落としかけていた吸いさしを灰皿に押しつける。
空いた両手で薄い肩を抱き寄せた。この少年のような未成熟な身体が二丁の銃を操るのかと、いつも驚かされる。
「俺もお前と同じただの人間だから、武者やなんかに神聖視されたらキツイだろうな」
「ばかだね、君は」
「ああ」
「人間でなければ何だというのだい」
「そうだな」
そうだな、と繰り返し、志賀は北原の肩に顔を埋める。志賀が顔を上げるまで、北原は黙ってされるがままになっていた。
#文アル
【腐】
#直白
やたろ
魂の輪郭(藤村と谷崎)
「君の嗜好は君自身に拠るものなのかな、君はどう思ってる? 」
師と楽しげに話している分には別段何とも思わないが、その好奇心がおのれに向けられるとなると話は違ってくるのだと、ここへ来てようやく実感した。どうあしらおうと小首を傾げた谷崎を、瞬きの少ない昆虫めいた双眸がひたと見据える。
「さて、どういう意味でしょう」
当たり障りのない返答もできないことはなかったろう。けれども考えるより、嫌悪が口を動かす方が早かった。拒絶を匂わせる声音にしかし、男が怯んだ様子はない。
好奇心の塊というより好奇心そのもののようなこの男は、自身の欲求を満たすためには何をしても良いと思っている節があるのではと疑っていたのだけれど、真実そうだと示されたところで面白いとも思えない。鼻白む谷崎にも一向に構わず、しかし相変わらず好奇心の矛先は谷崎を向いているのだから滑稽といえばそうだった。
#文アル
【腐】
「君の嗜好は君自身に拠るものなのかな、君はどう思ってる? 」
師と楽しげに話している分には別段何とも思わないが、その好奇心がおのれに向けられるとなると話は違ってくるのだと、ここへ来てようやく実感した。どうあしらおうと小首を傾げた谷崎を、瞬きの少ない昆虫めいた双眸がひたと見据える。
「さて、どういう意味でしょう」
当たり障りのない返答もできないことはなかったろう。けれども考えるより、嫌悪が口を動かす方が早かった。拒絶を匂わせる声音にしかし、男が怯んだ様子はない。
好奇心の塊というより好奇心そのもののようなこの男は、自身の欲求を満たすためには何をしても良いと思っている節があるのではと疑っていたのだけれど、真実そうだと示されたところで面白いとも思えない。鼻白む谷崎にも一向に構わず、しかし相変わらず好奇心の矛先は谷崎を向いているのだから滑稽といえばそうだった。
#文アル
【腐】
やたろ
4
ご当地BUNGO
金沢コラボのときのです。
自分で撮った写真にかいてます。また行きたいなあ。
あんまり遠出ができないのですが、またチャンスがあったらやりたいなあと思ってます。
#文アル
#ご当地BUNGO
えなん
3
特定有碍書BUNGO
ツイッタのタグの。また追加できたらいいな
#特定有碍書BUNGO
#文アル
えなん
3
HappyBirthday
お誕生日のお祝いに書いたもの
#文アル
えなん
4
ブンゴー読破落書きチャレンジ
複数投稿テストかねて
#文アル
#ブンゴー読破落書きチャレンジ
えなん
#落書
#文アル
北窓ささめ
薄氷の月(りゅさい)
「おまえに見下ろされてばかりなのは癪だ」
室生の何気ない一言が切っ掛けになって、伸し掛かっていた男は薄ら氷の双眸を面白そうに細めた後、室生を抱えるようにごろりと寝返りを打った。四肢を縫いとめるように見下ろしていたのが一転、長い髪を巻き込むように下敷きにしながら腹の上に抱えた室生を、面白がるように見詰めている。ちょうど仰向けに寝そべる芥川の、臍の下あたりに腰を下ろしかけて、息苦しいかと膝でずり下がり、腿の上に腰を下ろす。置き場所に迷って、体を支えるように芥川の腹や胸に手を伸ばし、前傾姿勢になっても、まだ少しばかり距離が遠い。
「見下ろす気分はどうだい、犀星」
「思ったよりは面白くない」
「はは」
芥川が笑うと腹が波打って、その振動で上に跨っている室生も揺れた。海辺の、寄せた後にざあざあと引いていく細波のようで、余韻は長い。薄っぺらい寝巻きの上から触る芥川の体は、着痩せするのか、見目から想像するよりもずっと分厚く頑強だった。腹を撫でると、筋肉のおうとつが良く分かる。下腹から臍の上を辿り、鳩尾を通り過ぎて胸へ、とつとつと手のひらで擦り上げるように体を撫でると、くすぐったがって揺れる呼気がやけに甘ったるい。前のめりになるにつれ、腰が浮いて四つん這いになると、距離はどんどんと縮まった。笑いだすのを堪えるように喉奥でひしゃげた声が、また妙に婀娜っぽいのに加えて、室生の一挙手一投足、つぶさに凝視している、青々と澄んだ両のまなこの艶めかしさといったら。
「おまえは随分、楽しそうだな?」
「うん。それはもちろん、楽しいよ、だって」
犀星の顔がよく見える。見上げる格好のまま、普段とは視点の違う眺めを堪能するように視線が室生の顔を舐めるように見詰め、口元で止まった。赤みの足りない、色の薄い唇は乾いていて、表面が少しささくれている。芥川の手が伸びて、荒れてかさついた下唇をやんわりと撫でた。うにうにと感触を楽しむように唇を弄られ、喋ろうにも指を咥えこんでしまいそうで、必死に引き結ぼうとする口端が、呼吸のために緩んだ隙を突いてぬるぬ、と人差し指が滑り込んでくる。噛み締めた歯列を、人差し指の腹が順繰りに撫で、噛み合わせの合間に爪が引っ掛かる。切り揃えられた固い爪と、歯のエナメル質がぶつかる音がして、威嚇するようにあぎとを開く。それが拙かった。
「ん、」
唾液にぬるんだ人差し指が歯列の奥へ潜り込む。かしり、と歯を立てたところで、怯むどころか嬉しげに笑われてしまって、拍子抜けしていると懲りずに今度は中指が唇を割り開き、舌をつまむように表面を撫でた。煙草の味が色濃い指に、ふと、舌を這わせてみる。中指を舐るように、尖らせた舌先でくすぐってみれば、指の形を想像して疼くように背中が震えた。ペンだこのある指の、硬くなった皮膚をしゃぶる。
飲み込みきれずに溢れそうになる唾液が口の中に溜まって芥川の指をしとどに濡らすと、下唇をぐいと押し下げられて、ぱた、た、と粘度の高い唾液が糸を引きながら溢れていく。口端から顎先へ伝い、喉元へ垂れるものもあれば、下敷きにしている芥川の寝巻きを濡らすものもある。飢えた犬のように、みっともなく汚す姿にかっと羞恥を覚え、薄い皮膚を真っ赤に染めた室生が、視線のやり場に困ったように目を伏せた。ほつほつと溢れる唾液を無理やりに飲み下そうとして、指を咥えたままで嚥下するとその動きが気に入ったらしい。ぬかるみを掻き混ぜるような水音を立てながら、二本の指は室生の口の中を丁寧に探り、呼吸するリズムすら教え込む。ふ、ふ、と切れ切れに溢れる息が次第に体温が移ったように熱を孕み、飲み込みきれない唾液に乾ききっていた唇はすっかりと潤んでいる。
「ん、ぅ」
火照った皮膚を唾液が伝う緩慢さが焦れったい。舌と、それから上顎と、頬の柔い粘膜を掻く指にすっかり息が上がって、四つん這いだった腰が徐々に落ちていく。芥川の腹の上に座込みかけて、すぐに室生は腰を震わせた。逃げるようにずり上がりながら、伏せていた飴色の目を見開く。溺れたように喘ぐ口から、濡れてふやけた指がぬるる、と引き抜かれ、脈打つ首筋を掴み、引き寄せられる。どろどろに濡れた唇が噛み付くように塞がれる直前、室生が見た薄ら氷の目は、燻るように欲に濡れて、三日月のように眦をたわめていた。
#文アル
#りゅさい
「おまえに見下ろされてばかりなのは癪だ」
室生の何気ない一言が切っ掛けになって、伸し掛かっていた男は薄ら氷の双眸を面白そうに細めた後、室生を抱えるようにごろりと寝返りを打った。四肢を縫いとめるように見下ろしていたのが一転、長い髪を巻き込むように下敷きにしながら腹の上に抱えた室生を、面白がるように見詰めている。ちょうど仰向けに寝そべる芥川の、臍の下あたりに腰を下ろしかけて、息苦しいかと膝でずり下がり、腿の上に腰を下ろす。置き場所に迷って、体を支えるように芥川の腹や胸に手を伸ばし、前傾姿勢になっても、まだ少しばかり距離が遠い。
「見下ろす気分はどうだい、犀星」
「思ったよりは面白くない」
「はは」
芥川が笑うと腹が波打って、その振動で上に跨っている室生も揺れた。海辺の、寄せた後にざあざあと引いていく細波のようで、余韻は長い。薄っぺらい寝巻きの上から触る芥川の体は、着痩せするのか、見目から想像するよりもずっと分厚く頑強だった。腹を撫でると、筋肉のおうとつが良く分かる。下腹から臍の上を辿り、鳩尾を通り過ぎて胸へ、とつとつと手のひらで擦り上げるように体を撫でると、くすぐったがって揺れる呼気がやけに甘ったるい。前のめりになるにつれ、腰が浮いて四つん這いになると、距離はどんどんと縮まった。笑いだすのを堪えるように喉奥でひしゃげた声が、また妙に婀娜っぽいのに加えて、室生の一挙手一投足、つぶさに凝視している、青々と澄んだ両のまなこの艶めかしさといったら。
「おまえは随分、楽しそうだな?」
「うん。それはもちろん、楽しいよ、だって」
犀星の顔がよく見える。見上げる格好のまま、普段とは視点の違う眺めを堪能するように視線が室生の顔を舐めるように見詰め、口元で止まった。赤みの足りない、色の薄い唇は乾いていて、表面が少しささくれている。芥川の手が伸びて、荒れてかさついた下唇をやんわりと撫でた。うにうにと感触を楽しむように唇を弄られ、喋ろうにも指を咥えこんでしまいそうで、必死に引き結ぼうとする口端が、呼吸のために緩んだ隙を突いてぬるぬ、と人差し指が滑り込んでくる。噛み締めた歯列を、人差し指の腹が順繰りに撫で、噛み合わせの合間に爪が引っ掛かる。切り揃えられた固い爪と、歯のエナメル質がぶつかる音がして、威嚇するようにあぎとを開く。それが拙かった。
「ん、」
唾液にぬるんだ人差し指が歯列の奥へ潜り込む。かしり、と歯を立てたところで、怯むどころか嬉しげに笑われてしまって、拍子抜けしていると懲りずに今度は中指が唇を割り開き、舌をつまむように表面を撫でた。煙草の味が色濃い指に、ふと、舌を這わせてみる。中指を舐るように、尖らせた舌先でくすぐってみれば、指の形を想像して疼くように背中が震えた。ペンだこのある指の、硬くなった皮膚をしゃぶる。
飲み込みきれずに溢れそうになる唾液が口の中に溜まって芥川の指をしとどに濡らすと、下唇をぐいと押し下げられて、ぱた、た、と粘度の高い唾液が糸を引きながら溢れていく。口端から顎先へ伝い、喉元へ垂れるものもあれば、下敷きにしている芥川の寝巻きを濡らすものもある。飢えた犬のように、みっともなく汚す姿にかっと羞恥を覚え、薄い皮膚を真っ赤に染めた室生が、視線のやり場に困ったように目を伏せた。ほつほつと溢れる唾液を無理やりに飲み下そうとして、指を咥えたままで嚥下するとその動きが気に入ったらしい。ぬかるみを掻き混ぜるような水音を立てながら、二本の指は室生の口の中を丁寧に探り、呼吸するリズムすら教え込む。ふ、ふ、と切れ切れに溢れる息が次第に体温が移ったように熱を孕み、飲み込みきれない唾液に乾ききっていた唇はすっかりと潤んでいる。
「ん、ぅ」
火照った皮膚を唾液が伝う緩慢さが焦れったい。舌と、それから上顎と、頬の柔い粘膜を掻く指にすっかり息が上がって、四つん這いだった腰が徐々に落ちていく。芥川の腹の上に座込みかけて、すぐに室生は腰を震わせた。逃げるようにずり上がりながら、伏せていた飴色の目を見開く。溺れたように喘ぐ口から、濡れてふやけた指がぬるる、と引き抜かれ、脈打つ首筋を掴み、引き寄せられる。どろどろに濡れた唇が噛み付くように塞がれる直前、室生が見た薄ら氷の目は、燻るように欲に濡れて、三日月のように眦をたわめていた。
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