変わるものと変わらぬものと「えっと……あとは、と」
はふっと吐き出した息を取り出したメモ帳の上に広げる。
一緒に外気に触れた指先がふるりと寒さに震えて、しまった。手袋でもしてくるんだったと遅い後悔が頭をよぎった。
感覚すらぼんやりとした指先を、もう片方の掌で包み込んで軽くさすり合わせる。
はぁともう一度吐き出した息はほんの少しだけ温かさを運んで、すぐに冷気に溶けた。
年末は幼馴染4人で。
いつからそう決めたのか。そもそもそんなことを決めた記憶もないから、ただ当たり前みたいに4人で過ごすのが、毎年の恒例行事になっていた。
「ルー。荷物かわろうか?」
「いい。大丈夫」
隣に並ぶ幼馴染の中で唯一の男手を見上げて問いかける。
ぼんやりと前を向いたまま返された言葉は素気ないけれど、残念ながらそれを冷たいやつと捉えるほど短い付き合いではない。ありがとうと素直に礼の言葉を返して、引っ張り出したメモ帳の切れ端をポケットの中に押し込んだ。
「アロマ」
「うん?」
女にしては高身長の部類に入る自分よりもまだ高いところから降ってきた声に小首を傾ける。
ずいっと視界に差し出されたのは、ついさっきまで手に持っていたメモに羅列していた買い物リストの一部で。
はたはた瞼を瞬かせながらおとなしくその紙袋を受け取った。
どうした。やっぱり重たかったか。
そんな風に問いかけようとした言葉は残念ながらどこかに向かって歩む道を変えたルーに届くことはない。
「ちょ、おい。ルー!」
「すぐ戻る」
まったく、自分の幼馴染はどうしてこうも言葉足らずで、口よりも先に手足が動いてしまうのだろうか。
はぁと吐き出した息は変わらずに視界の先を白く染め上げて、頭に浮かぶ自宅で待つ二人の姿を思い出して頭を抱えた。
「……ん」
「は」
雪の降る中ベンチに座るのもなんだしと、適当に目についた路肩の壁にもたれて去っていった背中の戻りを待っていると、すぐに戻るの言葉通り、10分もせずに戻ってきた姿にいったい何をしていたんだとかけようとした言葉は、抱えていた紙袋を奪われる代わりに差し出された紙コップに瞬きに変わった。
自分が吐き出していた息みたいに、外気を白く染めたその姿と、腐れ縁に近い幼馴染の姿を交互に見つめて。情けないことに口にできた言葉は、なにこれ。と可愛げも何もない言葉一つ。
「紅茶」
いや、それはわかってるし。
あぁでも、これは。
「……あったかいな」
「本当はカフェに行くのも良いかと思ったけど」
そうしたら待ってる二人が五月蠅そうだし。
ぽつりと珍しく続けられた言葉に、確かにと肩をすくめて両手の平で包み込んだカップを唇へと傾ける。
すっと鼻腔を擽る香りは紅茶というには甘くて。
「……キャラメル?」
こくりと喉を通った甘さと香りに口から漏れた言葉。
正解とでも言いたげな瞳が、わかりづらくほんの少しだけ細められた。
「カイロ替わりくらいにはなるだろ」
家で待つ二人にするみたいに頭に乗せられた掌が、髪を梳くみたいに軽くその場所を撫で通る。
「ありがとう、ルー」
「……ん」
此処で寒いなら言えだなんだ言わないあたり、なんだからしさを感じて、緩む口元を隠すようにもうひとくち、紙コップの中身を喉へと流し込んだ。