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    静寂の月赤い満月が空に浮かぶ。

    何かを察知したかのように
    がなり立てた鴉達が
    一斉に森から飛び立った。
    辺りには不気味な空気が満ちて
    それ迄の騒がしさが嘘のように
    しんと静まる。


    静寂の中
    ただただ風に揺れざわめく木の葉の音が
    闇深い森に響いた。




    それは一瞬の出来事だった。




    ひゅんっと小さな音が立った次の瞬間
    天糸の様な何かで捉えられた数匹の獲物。

    それは獣人の男達だ。

    彼らは必死にもがきながら
    何やら喚き散らしている。


    そんな彼らを見下すように
    赤い月を背にして森の一番高い木の上に姿を見せたのは包帯だらけで細身の男。
    うっすらと透けたその身体には月光が差し
    妖しく写し出される。

    悪人の様に薄ら笑ったその男は
    さも愉快そうに

    『ハジメマシテ。
    そして
    サ・ヨ・ウ・ナ・ラ。』

    と口にして己の手に絡ませた月光に煌めく糸を一思いにぐっと引いた。


    断末魔と共に肢体が切り裂かれた獲物たちの亡骸が鮮血と共に飛散する。
    大男数人分の大量の血液が否応なしに
    辺りを赤々く染めていた。


    『【血染めの丘(ブラッディ・ヒル)】
    …其の名に相応しい景色だネェ…』


    厚い雲が満月を隠し訪れた闇。
    木の上にあった男の姿は消えていた。







    ガサガサと音が立った茂みから出てきたのはまだ小柄で若い狼だ。


    「…やりすぎですよ、スマイル。」

    狼は少し呆れた声でそう告げると
    深い闇の森にお座りをする。

    「………そお?
    コレでも慈悲は与えたんダヨ。
    キミだって分かってるデショ
    アッシュ君♪」

    すぐ真横から声がする。
    狼がどこが慈悲ですか。と完全に呆れていると木の上にいた男の姿がそこに現れてアッシュと呼んだ狼の頭をぽんと撫でる。

    「どこがって…絶命まで一瞬だったデショ。
    本当は苦痛と迫り来る死の恐怖をたっぷり味あわせてからでも良かったんダヨ。

    ……例えば……

    指を1本ずつ若しくは
    手足を1本ずつ落としていく。
    目玉をくり抜く。
    ちょっと高い所から何度も落とす。
    …トカネ?
    …ヒッヒッヒッ…。」

    「……愉しんでる場合ですか。
    それに皆殺っちまったら
    情報が引き出せねぇじゃねぇっスか。」

    「ヤダ〜…ソレ、まだ期待してたの?
    とっくに諦めたと思ってたヨ。
    てか、無理だって。」

    「…今回はいけたかもしれないじゃねっスか。」

    「今までに五回、無駄だったデショ。
    ボクはとっくに諦めてるヨ。」

    「面倒だからって簡単に諦めんなっての!オマケに全部一人で片付けやがって!」

    狼は大きく溜息を零して立ち上がった。

    「城に戻りましょう。
    …姫は鋭いですから…
    もしもこの事知ったら悲しむどころか
    自身を責めます。」

    「……ウン…。」

    狼は踵を返して踏み出すが
    動きを見せない透明人間を軽く振り返る。

    「スマイル?」

    「…姫を守る為にボクが得た力が
    まさかの『糸』…だなんて…
    皮肉すぎて嘲笑っちゃうと思ってサ。」

    「…アンタが、自ら望んだ結果でしょう?」

    「……ソウダネ。
    だから皮肉には思っても
    後悔なんてしてないし
    これからもしないヨ。」

    「…でしょうね。
    まぁオレもそうですよ。
    ……けど、こんな血腥い事
    姫には絶対知られちゃなんねぇっスからね。」

    「……分かってる。」



    『姫は知らなくていい世界ダヨ。』



    そんな小さな呟きが闇に満ちた森の中に溶けて行った。











    玄関扉を静かに閉めて薄暗い玄関にそろりと踏み入った。
    しかし突如パッと明かりに照らされて二人は完全に固まる。



    「「………。」」



    「おかえりなさい、お兄ちゃん達。
    随分遅いお帰りでしたね?」


    響いてきた声に恐る恐る顔を上げて前を見れば
    にっこりと満面の笑みを浮かべてそこに立っていたのは
    愛らしい寝巻きを纏った姫君だ。


    「ひっ、姫!
    こ、ここっ、今夜はもう…
    休んだんじゃなかったんスかっ!?」

    「よっ…よ、よ、夜更かしは〜
    姫の大敵デショっ!?
    明日も早くからお仕事ナンだし…っ
    ホラ、はっ…早く寝ないとネ!!」

    「はい♡
    そのつもりですから……
    手早く済ませましょうね。
    …お兄ちゃん達…?」


    愛らしい笑顔の裏側にとてつもない怒りのオーラを感じる。

    二人は彼女の奥にある気配を察知してそちらを見やったが、その人物は大変バツが悪そうに視線を泳がせていた。


    「さぁ、こちらへ…
    ダイニングへどうぞ。」


    「「……い、いや〜〜…
    …えぇー…っとぉ………」」



    「ど・う・ぞ?」



    「「………………は………はい…。」」







    ダイニングに場所を変え
    もえが人数分お茶を入れて席に着くと沈黙が降りた。


    「……どちらへ、お出かけだったんですか?
    お酒でも飲みに行かれてたんですか?」

    姫君のそんな問いかけに
    スマイルは頬をかいて視線を逸らす。

    「…う、うん、まぁ…そんなトコ?」


    明らかに嘘であると示したようなそんな態度に彼女は黙りこくった。


    『アンタバカか!!
    もっとうまい言い訳考えられるでしょう!?』

    『んなコト言ったって…!!!』


    視線でそんなやり取りをしつつ取り繕う。


    「姫、あの…ですねっ」

    「……何をなさろうと……
    それはお二人の自由です。
    口を挟む権利なんて…
    わたしにはありません。

    …でも、嘘をついて…隠してまで
    しなければならない事なのですか?

    …何か…とても危ないことを
    なさっているのではないですか?」


    その一言には流石に肝が冷えた。
    咄嗟に取り繕えないほどに。


    「…な、なんで…ソンナコト思うの?」

    彼女は顔を上げてしどろもどろになるスマイルをきっと睨みつける。

    その視線には明らかな怒りの色。

    兄二人はわかり易く思い切りたじろいだ。
    彼女は無言で手を伸ばしスマイルの右手を掴んで強く引く。

    「…この手、どこでどうしたんですか…。」

    掴まれた手の掌や指先に小さな傷と血の滲む包帯。

    先程糸を引いた時に出来たのだろう。
    これはもう言い逃れる術はないのか…と内心酷く慌てる。
    リーダー並に得意のはずのスマイルのポーカーフェイスも引きつるばかり。

    「こっ…コレは……
    そのぅ…えぇと〜…」

    思い切り視線を外して言葉を濁した。

    彼女の怒りに満ちた強い視線に
    彼女を直視する事が出来ない。



    年明けからもえは自分の周囲で起こることに相当な神経を張っていたこともあり、日々気が気でない毎日を送っている。

    そして彼女が自身の大切な家族や仲間を守ることにかけて
    その無理や無茶は限度を知らない。



    …迂闊だった。

    こんな些細な擦り傷でさえ、今は彼女を追い詰める原因となる可能性がある事に
    気がつくことすら出来なかったなど…



    彼女が目の前でボタボタと大粒の涙を零したその姿を見て
    ようやっと気付いたのだから…
    浅はかにも程がある。


    「……それって…
    わたしのせいなんじゃないですか…?」


    このひと月ほど自分に対して明らかに何かを隠している様子の二人に違和感を覚えていた。
    二人がする事には恐らくユーリも関わって居るはずだと、もえはつい先日ユーリを問い詰めたがユーリは知らぬ存ぜぬを押し通し、話してくれる事はなかった。

    しかし何かあると確信はしている。

    頑なに話そうとしてくれないその姿勢が、何か恐ろしい事が起こるのではないかと…余計に不安を煽るのだ。
    加えてこのような怪我をして来ては
    もう…ただただ心配が募るばかりで…。


    「…全てを話してくれなんて言いません。


    …でも…怪我をするくらい危険な事なのなら
    …もう……しないでください……」


    …お願いします…。
    そう言って両手で顔を覆って泣き崩れた彼女をユーリが静かに抱き寄せた。


    実際彼女がどの程度まで察しているのかは未知数だ。

    しかし…流石に害虫達を駆除して回っていることまでは気づいていまい。
    もし気付いているとしたら
    彼女はこんなに冷静では居られないはずだ。


    それさえ悟られていないのなら…
    いくらでも誤魔化せる。
    スマイルはそう確信する。


    「ヤ、ヤーダなァ…!
    姫ってば大袈裟ダヨ!!
    それに違うんだってー!!
    …実は…ボクネ?
    今夜はオフ会に行っててサ。
    仲間たちとプラモ作りしてたんだ。
    コレはそん時にやっちゃったの!」

    「………オフ……会?
    でも…アッシュさんは…?」

    「え?アッシュはただの散歩、デショ?
    だってボクら出かけた時間違うじゃない。
    ボクの方が先だったヨネ?」

    「…満月の夜なのに…お散歩…ですか…?」
    「散歩じゃねぇっスよ!
    オレはちゃんと仕事っス!
    ……こればっかは日を選べないので。
    短時間の会議だけなのでお受けしたんですよ。
    …ホントはユーリの仕事なんスけど
    ユーリがどうしても今夜は嫌だっていうんでね。」
    「……本当に…?
    じゃあ……何故先程は嘘を…?」
    「それは…やましい事でもしてたんじゃねぇっスかねぇ?
    オフ会の流れで好みの女の子数人引っ掛けて散々愉しんだ……とかね。」
    アッシュは先程獲物を取られた仕返しか意地悪くそう口にする。
    「ちょ…っ!ひっ、姫の前でヤメテヨ!」
    それにはスマイルが狼狽えた。

    「「さては図星か。」」

    「ちっ…チガウチガウチガウ!!
    姫っ、チガウカラネ!?」
    「………そうですか…。」
    「だから、チガウヨっ!?
    そんな事してないカラ!!」
    「それは置いておいて。
    …では…わたしの早とちりだったのですね。
    なら、いいんです。
    ……疑ったりして、ごめんなさい…。」
    「否、姫君に疑われるお前たちが悪い。
    以後行動には充分注意を払う様に。」
    「「……は、ハイ……すみませんでした…。」」
    「…いや、だけどっ!
    ホントにヤマシイコトなんてナイカラネ!」
    「スマ、それ必死すぎて逆にあやしいっスよ。」
    「え!?マジ!?」
    「そうだな。」
    「えぇぇぇ!?」
    「………程々になさって下さいね…。」
    「…ひぇ…姫がちょと冷たい…ッ!
    だ、だから、チガウヨッッ!?」
    「…さてモエ。
    流石にそろそろ休まねば…明日に差し支えるであろう?」
    「あ…はい。そうします。」
    「では、添い寝でもして差し上げようか?」
    「…そっ…それは……大変素敵ですが
    流石に今夜は余計眠れなくなってしまいますので…
    …あの、是非またの機会にお願いします。」
    「ふふ、そうか。承知した。
    では参ろうか。」

    ユーリが席を立ったのを合図に全員が席を立った。

    もえの部屋の前まで三人揃って送り届けると彼女は『皆さんおやすみなさい。』と笑顔で告げて部屋へ入っていった。

    「おやすみ。」
    「おやすみなさい。」
    「オヤスミ〜♪」

    しっかりとドアが閉まったことを確認して
    三人は示し合わせたかのように険しい表情になる。

    「…………。」

    ユーリが自室に足を向け、二人は無言のままそれについて行った。






    「……して、成果は?」
    ユーリの自室に揃って入り、つい最近置かれたばかりのロングソファーにユーリがその向かいのシングルソファーにはスマイルが獣化したアッシュを抱えて腰を据えた。
    「獣人八体。過去最高記録達成☆」
    「…しかも瞬殺ですよ…
    情報引き出す暇すらねぇ…。」
    「…八とはやけに多いな…」
    「そーなんだよネ。」
    「それに加え、モエが薄々感づき始めている。
    …これは何か関係があるのか…。」
    「……流石にアレは肝が冷えたネェ…」
    「アンタなんであんな簡単に狼狽えちまうんスかっ!!」
    「いやぁ…自分でもびっくりヨ…」
    気まずそうに頬をかいてスマイルは視線を泳がせる。
    「…けど…姫はどうして今夜に限って…」
    「それは…」
    「ソレは、キミがその姿のまま出かけたからデショ。
    そりゃ流石に不審に思うってー。」
    「んな事言ったって、仕事はあったんスからしゃーねぇっしょ!!」
    「だからボク一人でイイヨって言ったじゃない。」
    「アンタは加減ってもんを知らねぇから…
    実際全員殺っちまったし…」
    言い合う二人にユーリは少々呆れつつも口を開く。
    「ところで、屍の処理はしてきたのであろうな?」

    「「……え……?」」
    「…いや、非人間族なんでそのままに…
    ユーリのテリトリー内だし、数日も経てば消えると思ったんで…」
    「…ソレにあの辺り、姫は行かないデショ。」

    「……万が一という事もあるだろう。
    揃って詰めが甘いのでは?」

    「「…………。」」

    「まぁ…良いとしよう…。」

    背もたれに身を預けて溜息とともに吐き出す。
    軽く伏せたその視線は酷く冷たい。

    「……例え何者であろうとも…
    何れ尻尾を掴んでやるさ。
    我が領域内へ不躾に踏み込んだ報い。
    我らが姫君を脅かそうと企てる報い。
    存分に味わっていただくとしようではないか。」

    ふっ。と口角を上げて冷酷且つ美麗な微笑を浮かべる。

    「さて、何百年振りになるかな…
    ……存分に愉しめそうだ…。」

    スマイルとアッシュは彼の静かで冷ややかな本気の憤怒に背筋に冷たいものを感じていた。



    月瀬 櫻姫 Link Message Mute
    2023/07/12 4:28:58

    静寂の月

    書きかけのお話。
    本編に連なるもの。

    #ポップン ##ユリもえ

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    書きかけ【ユリもえ】
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