少女は世界への想いと
少年との約束を胸にその日を待ち続け
少年は少女との約束と
世界への恐怖を胸にその日を待ち続けた
「if -episode H- 序章」
「わしがバーンって炎を出してる間に紅葉が追撃や!」
「響さん、バーンじゃわかりませんよ。もう少し綿密に作戦を練りましょう、ね?」
椎道響はパートナーである琴葉紅葉と学園の中庭で作戦会議をしていた
響の破天荒な作戦に紅葉が的確なツッコミをいれる
響はたびたび唇を尖らせるが彼等の「打倒!ディクス!」作戦会議はスムーズに進んでいった
彼等はこの学園の学長であるディクスと戦い、そして勝つ為の作戦会議をしているのだ
「紅葉!絶対にディクスに勝って二人で帰るで!」
「…えぇ」
彼等は何年も前に「人間界」から「魔宝界」と呼ばれるこの世界にディクスに連れて来らたのだ
はじめは響がディクスと戦うことを選んだ
「人間界」には母を失い孤独になってしまった父がいる
そんな父を支える為にもどうしても「人間界」に帰りたい
「ディクスを負かし、元の世界に帰してもらうこと」を目標に響は日々、「人間界」では使うことのない魔法の実戦を積んだ
学園で行われる実戦の訓練には何が何でも参加した
自分より技術の高いであろう上級生しか参加してなくても
手加減を知らない教員が指導担当だったとしても
それがディクスを倒す為の力をつける手段だと響は信じて疑わなかった
そう、彼と出会うまでは
「わしが紅葉とコンビになってもう三年かぁ」
「時間の経過は早いものですね」
作戦会議を終えた響と紅葉
最近の彼等はというと昔話をすることが多くなった
実戦の訓練で初めて出会い
ふとしたきっかけで再会し
初めて響の戦う理由を知り、協力してくれたのが紅葉だった
あの時から三年
響は高等部一年生になり
紅葉は高等部三年生になった
考えよりも先に体が動くという響の欠点を知識や作戦で紅葉がカバーする
三年たった今となっては、なんだかんだで二人は良いコンビになっていた
「最初に実戦でわしの攻撃をことごとく避けたやつが次に会った時は本ばっかり読んでるような奴やったから驚いたんやで」
「何度も聞きましたよ」
「じゃあ紅葉から『一緒にディクスと戦ってくれる』って聞いた時、めっちゃ嬉しかったことは!?」
「それも聞きました」
クスクスと笑う紅葉に対して不服そうな顔をする響
「『わしがディクスを倒したい理由』!これはどうや!」
「昔からずっと話してたじゃありませんか。お父さんの為…ですよね?」
「それもある!」
「それも?じゃあ他に何があるんです?」
「それは…」と何かを言いかけた響
先ほどの不服そうな顔はどこへいったのやら、そこには何やら照れくさそうに言葉を濁す響がいた
「響さん、どうかしましたか?」
「な…なんもないで!この話は終わりや!今日は解散や解散!」
響を心配する紅葉
紅葉から逃げるように走り出した響は途中で立ち止まり、紅葉の方を向き大きく手を降った
「勝つで!絶対!」
その言葉に頷き手を振る紅葉を確認した響は、満足そうにしてその場を走り去った
「わしが頑張る理由は紅葉の為でもあるんや」
紅葉は知らなかった
同じ「人間界」出身で
自分の目的にずっと協力して
ずっと一緒にいてくれた
そんな大切なパートナーの為にも「ディクスを倒したい」と日に日に強く思う彼女の気持ちを
「僕はまだ決心ができてないみたいだ」
そして響はまだ気付けていなかった
ずっと協力してくれた
ずっと一緒にいてくれた
そんな大切なパートナーの、彼の顔が日に日に悲しく曇っていたことを