彼が打ち明けたその真実は
彼女の三年間だけでなく
彼自身の三年間をも否定したものであった
「僕はいったい何がしたかったんだろう」
紅葉は力無く呟き、そして誰もいないベランダを見た
「絆」
響に自分自身の気持ちを知られてしまったあの日からもう数日はたつだろうか
紅葉は全てにおいて無気力になってしまっていた
好きだった本も借りに行かず
お気に入りの場所である中庭にも行かず
授業には…寮生である限り行かないといけないので学校には行くが何か味気のないような
一見自分の心にしまっていた気持ちを打ち明けたことにより紅葉の気持ちが楽になっても良いように見える
しかし、彼の気持ちは晴れなかった
その理由は紅葉が、自分自身が痛いほどわかっていた
「響さん…今何をしているのだろう」
紅葉は今まで響と過ごす時間が多かった
「打倒学長!」の作戦会議も勿論だが
何よりも彼女と過ごす時間が楽しかったから
「人間界」へ戻る恐怖に耐えながらも響とパートナーとして頑張ってこれたのも
真っ直ぐで何事にも一生懸命な彼女を応援したいという気持ちが、彼女の存在が紅葉のなかで大きなものになっていたから
だからこそ響との関係の崩壊は紅葉の心に大きな穴を空ける結果となったのだ
「会いたいなぁ…」
会って話がしたい
まずは謝りたい、そして今までのことを全て話したい
今までの関係にたとえ戻れなくても
紅葉の望みは想像以上に早く実現することとなる
次の日、授業を受け終わった紅葉は寮へと帰ってきた
響と話をしたいが勇気が出ずに今日も帰ってきてしまったことに対して我ながら情けないなと思いつつ、紅葉は自分の紅葉が部屋の扉を開ける
その時、何故かふわりと風が吹き込んできた
風はどうやらベランダから吹き込んで来たようだ、閉め忘れて家を出てしまったのだろうか
紅葉は靴を脱ぎベランダのある奥の部屋に足をすすめた
その時、紅葉の足がぴたりと止まる
「響…さん…?」
「おう、久しぶりやな」
そこにはベランダの柵に腰掛ける少女の姿
「響さん…どうしてここに」
「どうしてやあらへん。話があるからちょっと外出よか」
彼女に連れて来られたのはいつもの中庭であった
響はマントを脱ぎ、紅葉に向き直り口を開いた
「紅葉、わしと勝負してくれへんか?」
「え…?」
予想外の響の言葉に拍子抜けしてしまった様子の紅葉
そんな紅葉の目の前では響が戦いの姿勢で構えていた
「ルールは魔法無しの肉弾戦や、いくで!」
「響さん、その…なんで…」
「ごちゃごちゃとうるさいな!やる気がないならわしがやる気出させたる!」
そうして響は紅葉に殴りかかる
とにかく落ち着いてもらえないと話したいことも話せない
紅葉は響と戦うことを決めた
紅葉は響のパンチを自分自身の腕で受け流し後ろに飛んだ
「なんや逃げんのか!」
「逃げるつもりはありませんよっ!」
響の連撃を受け流しながら紅葉は攻撃のタイミングを見定める
かつて運動が出来なかった紅葉にこのようなことが出きるようになったのは響の指導と特訓の成果である
三年前は体術でいうと響のほうが一枚も二枚も上手だった
しかし特訓すればするほど紅葉の技術が追いつき、最終的には紅葉の方が体格差で勝てるようになっていた
攻撃を紅葉に上手く流されば流されるほど響の顔は悲しげに曇っていった
「なんでや…こんなに強くなったやん…」
響の動きが鈍くなる
紅葉はそのタイミングを逃すことなく響の足を払う
体制を崩す響
そんな響を受け止め、紅葉が響の首元に手刀を突きつける形で戦いは終わった
「…響さん、僕の話を聞いてくださいますか…、…!」
響の顔を見た紅葉の言葉が止まる
何故なら響の目に涙がたまっていたからだ
「強くなったやんなぁ…?わしも紅葉も…」
「…響さん?」
「紅葉も強くなったってことは、わしとの特訓を一生懸命やってくれたんやん…なぁ?」「響さん…」
「わしはそれが嬉しかってん…!紅葉と一緒なんが楽しかってん…!でも紅葉は人間界に帰りたくないんやろ…もう訳わからん…!」
響は子供のように顔をくしゃくしゃにして泣き出した
初めて見るそんな響の姿、紅葉は自分の事をそこまで想ってくれるパートナーの為にも全ての事を話す決意を固めた
「響さん、ごめんなさい。僕の話を聞いてくださいますか?」
真剣な面持ちの紅葉
落ち着いた響はそんな紅葉の問いかけに頷いた
紅葉は三年前から今までのことを、自分の気持ちを全て話した
人間界にいる両親が離婚していること
三年間人間界に自分の居場所があるのかと悩み苦しんできたこと
それでも響と一緒にいたい、響と一緒に頑張りたい気持ちは変わらなかった、だからこそそれが言えなかったこと
「…」
「…」
全てのことを話終えたが反応のない響
そんな響を見て段々と不安になる紅葉
すると…
「…この阿呆!」
響の怒鳴り声と共に紅葉の頬に衝撃が走る
どうやら響に殴られたみたいだ
呆然とした様子で紅葉は響を見る
響の目からは止まったはずの大粒の涙が溢れていた
「紅葉!あんたにはあんたの事情があったんはわかったけどな!あんた、ホンマに阿呆やで!」
「響さん…」
「何で三年間も我慢してきたんや!仲間やろうが!」
その時紅葉は本当に理解したのだ
自分達のパートナーとしての絆の深さを
「…ごめんなさい、響さん…」
「阿呆…紅葉の阿呆…」
「これからも…僕は響さんのパートナーでいたいです、僕はとんでもない大馬鹿者かもしれませんが…それでも良いですか…?」
「っ…!当たり前や!当たり前やんか…!」
二人は子供のように抱きあいわんわんと泣いた
もうすっかり日が落ち、闇に染まった中庭に二人の泣く声だけが響いていた
そんな様子を見ていた人物がいた、黒雪だ
「積み上げてきたものは崩れることはあるかもしれない。だけど無くなることはない、そういうことね」
彼女は呟くようにそう言うと
優しく微笑み、そして中庭を去っていった
「紅葉」
「何ですか、響さん?」
「もしも学長に勝てたら人間界に帰るんか?別にここに残っても構わへんねんで」
「その時にならないとわかりません、今は響との時間を大切にしたいです」
「…!」
「明日から頑張りましょうね、響」
「せやな!」
後書き
響と紅葉君の絆的なものを書きたかったんだ
挿絵なんて書いて雰囲気補完する予定だったんだけどはやく上げたいってなって最後は小説(笑)状態ですな
とりあえずこのコンビ好きなんだという未来妄想ならぬ未来暴走でした
もちろんifってことなのでこんな未来になるかはわからないけどね
イメージと違ったらごめんね!よもぎちゃんありがとう!
イメージソング
瞬く星の下で/ポルノグラフィティ