【20200319】花をあなたへ 共有ルームのドアを開くと花の香りに全身を包まれた。
湿度の高い匂いのすぐ後で、視界が鮮やかに染まる。
部屋に満ちた花、花、花。
薔薇、ガーベラ、ストック、カラー、カーネーション、ラナンキュラス、かすみ草。
花を彩るグリーンも。
一体なんだとドアの前で立ち尽くす春に、おかえりなさいと声が揃う。
「お誕生日のお祝いです」
葵が微笑む。
「これは…すごいね……」
さあどうぞと駆の手に引かれてソファへ座った春を花とグラビの仲間が囲む。
言葉を失うほどの光景に春はしばらく黙っていた。
無言でいる春を急かす者は誰もいない。
サプライズが成功した喜びもあるけれど、春の口元がやわらかくなっていることに気づいているからだ。
「お花屋さん応援企画も兼ねてかな?」
ありがとう、という春の次の言葉に新が笑う。
「はい。春さんのためでもありますけど、お花屋さんも喜んでもらえるのって素敵じゃないですか?」
誰かの幸せを喜ぶ春へのプレゼントだからこそだと春は気づいている。
「パーティは始さんと恋が帰ってきたら……あ、ちょうどですね」
駆の言葉と同時にドアが開く。
「ただいま帰りました!」
「ただいま」
「おかえりなさい」
共有ルームへ飛び込んできた恋を出迎え、後から入ってきた始はまっすぐに春へと向かう。
「春、誕生日おめでとう」
視界がまた花で埋まる。
春の大きな手と腕でもあまるほどの大きな花束をそっと抱きしめ、春は笑った。