魔術師足立さんとソロモン悪魔・堂島さん僕の名前は足立透。
生まれてすぐに両親を亡くし、施設で育てられた。
頭がよかったのが幸いしたのか、
国から支援を受け、6歳で魔術師養成所に入った。
勿論、そこでの成績は首席だ。
でもそれをよく思わない人はいるわけで。
同じ養成所に通う金持ち共は、僕を蔑み、陥れることで優位に立つことをやめなった。
養成所を卒業しても、魔術師としての仕事も、危険なものばかり回ってくる。
まぁ、僕は強いからこなせるわけだけど。
僕ばかりこんな運命を辿るなんて…
世界は本当にクソみたいだよね。
…だから、ちょっと仕返しをしてやろうと思ったんだ。
このクソみたいな世の中に。
「やっと…手に入れた。ソロモンの悪魔を呼ぶ魔法陣…!」
僕は闇市でずっと探していたソロモン72柱の悪魔を呼び出せる魔法陣を手に入れた。
魔法っ人を手に入れたとしても、
それ相応の魔力が必要だ。
まぁ、そんなことは特に問題ない。
何故か僕にはあふれるばかりの魔力がある。
「さぁ、ご対面…だ!」
魔法陣に両手を合わせ、ありったけの魔力を注ぎ込む。
だが、注いだ瞬間、吸い取られるように魔力が魔法陣へと吸収されていく。
必要な魔力を注ぎこむことができなければ召還は失敗。
僕にどんな代償が降り注がれるかもわからない。
でも。
それでも。
僕はこの魔法陣で呼び出せる悪魔を召還するんだ。
珍しく意地を張り、僕は最後の魔力を振り絞って魔法陣に注いだ。
すると、爆発音と共に現れたのは、褐色染みた肌をした悪魔…。
『ベレト』
であった。
「くそ…誰だ、俺を召還したのは…?!!」
僕より少し大きめのその男…「ベレト」は眉間に皺を寄せ、
辺りを睨みつけるように見回した。
「あ、いけない。」
僕はぼぅ…とベレトを見とれている間にするべきことを忘れそうになっていたので、
慌てて彼を服従させる証となる金色に輝く指輪をはめてこう言った。
「ベレト。君を呼んだのは僕だ。その魔法陣から君は出てはならない!」
指輪を向けて命令をすると、三角の魔法陣から防壁が現れ、ベレトを囲んだ。
「僕はお前の主の魔術師だ。僕の言うこと、聞いてもらうよ、『ベレト』。」
「さっきからベレト、ベレトと…俺の嫌いなその名を呼ぶな!」
「うわぁ……!!」
怒り狂うベレト。
僕は思わず頭を抱えておびえてしまうが、魔法壁が発動していることを確認し、
態勢を整える。
「君の名は『ベレト』だろう?」
「俺は…その名で呼ばれるのが大嫌いなんだ…!
俺をどうしても呼びたいというのなら…人間に化けているときの名前…『堂島遼太郎』で呼べ。」
「…すんごい人間ぽい名前だな…。
わかった。堂島、さん?これでいいかい。」
「あぁ、それでいい。」
そう言って、ようやくベリト…否、堂島さんは少しだけ表情を和らげた。
「…さて、と。俺を召還した、ということは、何か願い事でも叶えたいのか?
…女をたぶらかしてみたい?恋人をメロメロにして食いつぶしてみたい?
さぁ、言ってみろよ。」
「…見返したい。」
「あぁん?」
「僕に馬鹿げたことをしたやつら全員を…見返したい。復讐したい。
僕の凄さを知らしめたいんだ!」
「なん、だと…?そんなことでこの俺を召還したのか…!
お前、年頃だろう?すけべぇしてぇとか思わんのか?!」
「僕は童貞だよ!そんなの別にどうだっていい!」
「なんっ…?!!どう、てい、だぁ?!!」
勢い余って僕の性歴を述べてしまったが、その情報が効果絶大だったらしく、
堂島さんはよろめき、すとんと胡坐をかいて座ってしまった。
そうして、途端に静かになってしまった。
「ちょ…どうしたんだよ。おーい、堂島さーん…?」
目の前に出て手を振るが、反応がない。
そ、そんなに衝撃だったのだろうか…僕がど、童貞だということは…。
すると意識を取り戻したのか、堂島さんは力強い目線を僕に向けた。
「なぁ、お前、名前は。」
「僕は…足立透だ。」
「なぁ、足立。…お前、親は。」
「いない。僕が生まれてすぐに死んだらしい。」
「…そう、か。まぁ…童貞…だからな、恋人もいないだろうな…。」
「そりゃ、僕なんかになびく奴なんていなかったからね。」
「…お前、さっき俺に願いを言っていたが…あれは、本心じゃねぇだろう。」
「…!」
「…なぁ、お前の本心は…本当の願いは、なんだ。」
「……。僕の、本当の、願い…?」
ふっと顔を上げると、そこには優しい表情をした堂島さんがまっすぐ僕を見据えていた。
僕の答えを静かに待ち続ける、やさしい表情でだ。
「僕は…知らない。愛情ってやつを。暖かい気持ちになれるという、その感情を。
…ねぇ、あなたならそれを知っているんですか、堂島さん。」
「…あぁ、知っているよ。俺はその感情を司っているからな。」
「…じゃあ教えてよ。僕に「愛情」ってやつを。」
「いいだろう。教えてやる。お前の身体にしっかり叩き込んでやるよ。
だからこの防御壁、解いて俺を傍に置けよ。
…魔術師、足立透。」
「…契約成立だ。
さぁ、僕と共に、始めよう。僕を蔑むすべての人間に復讐を。」
「…じゃねぇだろう。愛情ってやつをお勉強、だろう。」
「んんっ?!!」
ソロモン72柱の悪魔の王、『ベレト』。
否、堂島遼太郎さん。
その悪魔との深いキスと共に、僕は新たな人生を始めることとなる。