あまく、とける 食堂に入って真っ先に目に入ったのは壺だった。
あれは……ラヴクラフト先生?
何で判断しているんだという話だけれど、目立つのだから仕方ない。
壺があるということは……と視線を移すと、そのすぐそばに持ち主であるラヴクラフト先生が座っていた。
なんとなくご機嫌なように見え思わず瞬いてしまったけれど、それもそのはずだろう。彼はその手に、バケツみたいな大きさのアイスを抱えていた。
……いやいやいや!さすがに少し朝晩冷え込み始めたこの時期に、たとえ空調の整った室内とはいえそのサイズはないだろう。と心配になってしまい、慌ててラヴクラフト先生のいるテーブルへと向かった。
「先生、ラヴクラフト先生」
声をかけると、アイスを口に運んだスプーンを手にラヴクラフト先生はこちらへ視線を向けた。
「何か、用事ある。ありますか?」
「用事というわけではないんですが……」
と、アイスにスプーンを突っ込むラヴクラフト先生の手元へと目をやる。
「そのアイス……」
「ポー様、買ってくれました」
「えぇっと、全部食べるおつもりですか?」
問えば、目を瞬かせたラヴクラフト先生がこちらを見つめ、アイスに視線を落とし、少し考え込むような素振りを見せた。
そして、緩く首を横に振る。
「約束、しました。ポー様、毎日、少しずつ。と」
なるほど。いっぺんには食べないんだなと安心して胸を撫で下ろす。ポー先生との約束ならば、守るはずだから安心だ。
そう思いながら、「ならよかったです」と告げて離れようとした服の端が不意に引っ張られた。
「え、先生?」
どうかしたのかと視線を向けると、アイスの載ったスプーンがこちらに向けて差し出されていた。
「あの、これは……?」
「アイス、嫌い、いりませんか?」
チョコンと傾げられた首。
これはもしかして、先生はアイスを分けてくれようとしているのだろうか。
「いえ。好きですよ、アイス」
そう答えれば、ぐいとスプーンがこちらへと差し出される。
手を出しスプーンを受け取ろうとすると、首が横に振られた。
「アイス、口の中に、入れます」
あーと自分の口を開けて見せる先生につられ思わず口を開けば、ふと満足そうにラヴクラフト先生が目を細めた。
あっ!と声を上げる間もなく口の中に広がる冷たくて甘い味。
スルリと唇の隙間から出ていくスプーンが、またアイスをすくうのを見ているうちに、それはラヴクラフト先生の口の中へと入っていく。
「アイス、おいしい、です」
同意を求めるように向けられた視線と言葉に頷いたところで、ふとそれに気付いた。
今のは間接キスではなかったか?
同じスプーンでアイスを食べたのではなかったか?
ひんやりとしていた頬が急に熱を持ち始める。
立っていられなくなって傍らの椅子に崩れるように座り込んでしまった様子を不思議そうに見つめるラヴクラフト先生の瞳。
舌の上で、アイスは甘くゆっくりと溶けていった。