スイート・スクープ
「司書さん、何してるの?」
買い物のついでに買い込んできた季節限定アイスをテーブルに並べ、自分へのごほうび!とばかりに、一人アイスパーティーをしていた私に掛けられた声。
ん?とスプーンを咥えたまま振り向くと、藤村先生が不思議そうな顔で立っていた。
私の顔を見て瞬かれた目は、続いてテーブルの上に向けられたあと見開かれる。
「すごいね。いくつ食べる気?」
「あ、あはは」
思わず目を反らせば、藤村先生が隣の椅子に腰をおろす。
「それで……」
私の方に向きながら、藤村先生はテーブルに頬杖をつく。
その視線はアイスと私の顔を交互に見比べていて、視界の端に入った先生の唇は緩く笑みの形に弧を描いていた。
「せっかくだから、そのアイスの感想を聞かせてよ」
それ全部季節限定品だよねと藤村先生。
「……美味しかったです」
「それだけ?」
私に語彙力を求めないで欲しい……と、私は頬を膨らませた。
「先生も食べてみればいいじゃないですか」
「え?」
スプーンでアイスを掬って目の前に突きつければ、藤村先生は少し困った顔をして僅かに視線をさまよわせた。
「司書さんの感想を聞きたかったんだけどね……まあ、いいか」
そうして、仕方ないなと開いた藤村先生の口の中へと私はスプーンを差し入れる。
「どうですか?」
「これは、ほろ苦いね」
「ビターチョコが入ってるんですって」
そうなんだ、と呟いた藤村先生がチラと視線を他のアイスへ向けた。
「それじゃあ、他のも食べさせてよ」
「あ、はい。どうぞ」
順番に、私はスプーンで掬ったアイスを先生の口へと運ぶ。
その時の私は、まったく気付いていなかったのだ。藤村先生の目と唇が楽しげに笑みを浮かべていることに。
「これが最後の1つです」
スプーンを差し出せば、先生が口を開く。
そして……
突然、藤村先生が私の手からスプーンを取り上げた。
「え?」
どうしたんだろう?と顔を見ると、唇に残ったアイスを舐めた藤村先生が楽しそうに笑みを浮かべていた。
「今度は、僕が司書さんに食べさせてあげるよ」
伸ばされた手が私の前のアイスを引き寄せる。
そして、アイスを掬ったスプーンが私の前へと差し出された。
「ほら、口を開けて」
待ってほしい。それはもしかしなくても間接キスになるのでは?
…………と、そこまで考えたところで、私は気付いた。
「間接キスっていうことなら、もう今更だと思うよ」
有無を言わせぬ笑みの藤村先生。
私は、仕方なく口を開くのだった。
数日後の館内新聞にスクープとして写真が載せられたのは、また別のお話。