あまい、あまい「ねぇねぇ司書さん」
ツンツンと服の端が引っ張られて振り向くと南吉先生がにこにこしながら私を見上げていた。
「どうしたんですか?」
少しだけ屈み視線を合わせると、南吉先生は少し拗ねたような顔で私の手を掴む。
「こっちに来てくれる?」
そう言ってぐいぐいと引かれるままついていけば、到着したのは食堂だった。
「ここに座って待っててくださいね」
椅子を引き私を座らせると、いそいそとどこかへ向かう。
そうして戻ってきた南吉先生の手には、可愛らしい盛り付けのアイスが大事そうに抱えられていた。
テーブルに置かれたガラスの器。
南吉先生は椅子を私の隣へと持ってくると、ちょこんと腰を掛けた。
「これは?」
「ふふ、ナイショだよ。あのね……」
しーっと悪戯っぽく笑って、耳元で内緒事のように囁かれたのは、少し前のおつかいのときの話だった。
通りかがったお店のショーウィンドウにあったパフェが美味しそうだったこと。
そして、それを私に食べさせたいと思ってくれたこと。
それを見ていたのを、南吉先生が食べたいのだと思った志賀先生が作ってくれたこと。
「だからね、司書さんと一緒に食べたいんだ」
そう言って嬉しそうに笑った南吉先生は、スプーンを手にとって、それを私に差し出した。
「……え?」
「司書さん、あーん」
口許に差し出されたスプーン。
戸惑う私を、南吉先生は急かすようにジッと見つめる。
「早くしないと溶けちゃう」
「あっ、は、はい」
慌てて口を開ける。
「美味しい?」
口のなかで甘く溶けてゆく冷たいアイス。
私は頷くことしかできない。
「じゃあぼくも……」
と、スプーンですくったアイスを食べて、南吉先生は幸せそうに笑った。
「美味しいね、司書さん」
そうして、スプーンにすくったアイスは私と南吉先生の口へと交互に運ばれる。
ふと、その途中で可愛らしい声がこう告げた。
「間接キスって言うんだよね、こういうの」
ああ、考えないようにしていたというのに……
司書さん真っ赤だね。と楽しそうに言った南吉先生の声を聞きながら、私は促されるまま、また口を開いてアイスを迎え入れるのだった。