二枚目のアンケート「結婚に関するアンケート」
そんな題目が書かれたA4サイズの用紙を渡されたのはこれで2度目。
よくもまぁこんな恥ずかしいものを作成できるなと春子は少し引きつりつつも、項目に目をやった。
●あなたはどこで結婚式を挙げたいですか?
1.チャペル
2.神社、お寺
3.式はしたくない
●指輪はどんなデザインがいいですか?
1.ダイヤ
2.プラチナ
3.アメジスト
●あなたはどの日に入籍したいですか?
1.お互いが初めて出会った日
2.名古屋で再会した日
3.初めてキスをした日
以前受け取ったアンケートとは内容もだいぶ変わっていた。以前は結婚の是非を問いていたが、今回は結婚の具体的な話を聞いている。
その理由は、春子が逆プロポーズを数日前に行ったからだ。
その日は仕事が忙しくて残業しそうになるギリギリのところで定時で帰れた。そしていつも通り退社しようとすると、東海林が神妙な面持ちで話があると言ってきたので仕方なく時間外だから手短にと告げて奥の部屋で話を聞いた。
すると、父親が病気でもう長くないと言われた。このまま会社で働いていていいのか迷っている。そう告げられた。
他人の家族のことなんてどうでもいい、はずなのに。大事な人を失うかも知れないと弱気になっている東海林を春子は放っておけなかった。家族を失う辛さは春子が何より知っている。
「あなたは…お父様のそばにいたいんですね」
春子は東海林が求める言葉を粉々のガラスから見つけ出すように、慎重に伝えていく。
「…そうだよ、家族のためにずっと頑張っていてくれたんだ、俺だって何かしてあげたいよ」
泣きそうな顔で言うので、春子は条件反射でその崩れそうな肩をつかまえた。
「…あなたが、決めればいいんです。どんな道もきっと意味があるんです」
「とっくり…」
鼻をすする音が聞こえる、きっと涙を堪えつつも自然と溢れ出ているのだろう。
こんな時はどうすればいいのだろう、いつも憎まれ口ばかり叩いて素直になれなかったから、言葉が見つからない。
でも、この人を支えてあげたい。そんな気持ちが強く芽生えた。
「私があなたを助けます、私も一緒に連れて行って下さい」
精一杯思いの丈を伝えた結果、それがプロポーズということとなり、結婚することになった。
その後、会社や実家の家族とも話し合い東海林は半年の休業を取ることになった。一応S&Fには介護休業という制度もあるので、それを利用しつつ休ませてもらうことで落ち着いた。
会社の仲間たちも東海林がいない間何とかするからゆっくり過ごしてこいと励ましてくれた。
そして春子は東海林と結婚することにして、半年間東海林の家で一緒に住むことになる。
といった一連の流れの中のアンケート。
東海林も引き継ぎのため仕事が忙しく、プライベートで話す時間がほとんどとれなかった。だからこんなアンケートを春子のデスクにそっと忍ばせたんだろう。
「ばっかじゃなかろうか…」
そう言いつつも、春子は黒のシャーペンで優しく丸をつけていく。
2.3.3と順に。