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    テンプリンまだ残暑が残る9月の晴れた日、それでも吹く風はどこか爽やかで少し秋が近づいていると感じさせる。

    時計の短針が3を指す頃に、東海林は営業部のデスクに1個ずつプリンとスプーンを置いていく。
    「今度契約した養鶏場のプリン、よかったら試食して感想聞かせてくれ」
    そう言いながら、春子のデスクにもこっそりと1つ置いていく。
    「3時のおやつですね!頂きます!!」
    三田が無邪気に蓋を取りプルプルとした黄色いかたまりを口にする。
    「美味しい!!すげー濃厚ですね!!」
    その一言で周りも続いてよばれていく。
    「滑らかだけど食感もあるし、カラメルもほろ苦くてちょうどいい甘さです」
    「卵が全面に出てる感じですね」
    大絶賛の声に東海林はまるで自分が作ったかのように説明していく。
    「これはね、落花生を食べて育った千葉の鶏の卵を使用していて、タンパク質やビタミンが豊富なんだよ。さらに味も普通の卵よりも後味が濃厚、まさにプリンのための卵!!…拍手は?」
    そう催促されて周りはつい勢いに呑まれて拍手を送る。
    「あまーーーーい!!」
    するとその拍手を遮るように大声で叫ぶ女が1人。

    「またお前か…芸人のネタみたいにいってんじゃねーよ」
    「プリンは甘いので苦手です!!このプリンもやはり甘いですね」
    「そりゃプリンなんだから甘いよ!辛いプリンがあるわけないだろ」
    「この甘さは…上白糖を使っていますね、推測するに一個あたり400キロカロリーはあると思います。これではカロリーオーバーで女性は手を出しませんよ」
    東海林は辛辣な意見に苛立ちを隠せず、春子を目を細め見下ろす。
    「うるさいな、おばさんにかわいいスイーツのことなんてわかるのかね」
    「誰がおばさんですか!!このくるくるオヤジが!!」
    「くるくるオヤジって何だよ、別に俺はオヤジ呼ばわりされても気にしないもんねーおばさん」
    春子はギリギリと歯を軋ませながら東海林を睨む。
    「君たちはどう?若い女の子はスイーツ大好きだよね?」
    春子の向かいにいる若いハケンに東海林は話しかける。
    「私はプリン好きですね、コンビニでもつい買っちゃう」
    「毎日じゃないけど、たまのご褒美で買うことがあるからこのぐらいの量と甘さでちょうどいいかな」
    「ほらみろ、とっくり。これが若い女子の意見なんだよ」
    したり顔の東海林を春子は舌打ちして睨みつける。よく見るとプリンを全部食べている。それに気がついた東海林は
    「甘いとかいいながら全部食べてんじゃん、しかもプリンのフタについてるのもきれいに。お前本当はプリン好きなんじゃないの?」
    「食べ物は粗末にできませんから、とにかく!!砂糖を変えた方がいいと思いますよ!!」
    春子は立ち上がり髪をブンブン振り回して東海林の顔にもペチッと当てて給湯室へと去っていった。
    「おばさん…ってよばれるのが嫌だったんですかね?」
    浅野が心配そうに話しかけてくる。
    「あいつ結構気にしてるもんな、そういうとこ。まぁそこが可愛い……可愛くねぇよ!!」
    東海林は思わず本音が漏れそうになり、笑ってごまかす。
    けれど周りは相変わらずの痴話喧嘩に笑いをこらえていた。

    その3日後ーその日は台風が近づいているせいで雨と風が強くて、窓に叩きつける雨の音が煩く感じた。
    東海林は午前中「出張」だとスケジュールボードに書かれている。
    春子はいつも通り頼まれた仕事をこなしていた、するとびしょ濡れの東海林がオフィスに向かって歩いてくる。
    「タオル誰か持ってない?もう大変でさぁ」
    「東海林課長大丈夫ですか?私フェイスタオルなら」
    ハケンの1人がタオルを鞄から取り出して渡す、リバティ模様の可愛いタオルで東海林は顔と頭をふいた。
    「ありがとう、今度洗って返すよ。髪が濡れるとストレート気味になるんだよね」
    確かにいつもより巻きが緩くなっているなぁと周りは思っていた。
    「だったらずっと髪を濡らしていたらどうですか?くるくるパーマ課長」
    「うるさいな、ずっと濡れてたら風邪ひくわ!」
    体の水滴を押さえながら東海林はビニール袋に包んだ紙袋をデスクに置く。
    「それより、この間のプリンのことだけど…ちょっと会議室に来てくれないか?」
    「お断りします」
    「上司の業務命令だ」
    そう言われると春子は渋々と立ち上がり先に会議室へと向かっていった。

    「これ、砂糖を変えて作ってもらったんだ」
    そう言って3つのプリンを長机に並べる。
    「右から和三盆、てんさい糖、黒糖。見た目はあまり変わらないが味は違うから試食してくれ」
    春子はプリンを見つめながら何か考えている。
    「私のようなおばさんの意見は聞かないのでは?」
    「…気にしてるのかよ、まぁあんたの言うことは結果的に当たってることばかりだから。カロリーは置いておいて味はそれぞれ違うから、まぁ食べてみろって」
    春子は無言でプリンを手に取り口にする。
    1つ、2つ、3つと口に運びしばらく黙り込んでいた。

    「この中だと和三盆ですね、砂糖の風味と卵の濃厚さが喧嘩せずそれぞれの後味がうまく溶け合って口に残ります。もちろんほかの2つも美味しいですが」
    「やっぱり?俺もこっちが1番上手いなと思ったんだよな。でも和三盆って思ったより高価だから一個あたりの単価が20円上がるし悩んでるんだよ」
    「単価を上げてでも作るべきです、20円でこんなに美味しくなるなら価値はあります」
    「…何か、お前に褒められるとムズムズするわ」
    「私はこれを作っている養鶏場の方を褒めているだけですが?」
    「何だよ、素直じゃねーな!!砂糖を変えてほしいってお願いして四国から和三盆とか取り寄せたのは俺だぞ!!」
    東海林は顔を近づけて反論する、するとプリンの甘い匂いが春子の口からふっと鼻に通っていく。
    思わず真剣な表情で見つめてしまい、目が逸らせない。春子も東海林を見つめている。

    気がつくと口の中にプリンの味が伝わっていた。



    「東海林さんって、大前さんの言うことは聞いてしまうんですね」
    三田が浅野に告げると
    「まぁ喧嘩しつつも仕事に関しては真面目だから」
    会議室の方に目線を向けてそう言うと
    「また喧嘩してそうですけど」
    三田も椅子を回して同じ方を見つめる。

    すると春子が1人ドアを開けて足早にデスクに戻る。
    椅子に腰掛け再びノートパソコンを開いていると、横にいたハケンが春子の変化に気がついた。

    「大前さん、ジャケットちょっと濡れてません?」

    しゅ Link Message Mute
    2021/01/06 10:07:49

    テンプリン

    ハケンの春子と社員の東海林。

    #ハケンの品格 #二次創作 #東春

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