創作SNS GALLERIA[ギャレリア] 創作SNS GALLERIA[ギャレリア]
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  • #おそ松さん

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    初投稿.。゚+.(・∀・)゚+.゚よろしくお願いします
    Ri-Pon
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  • 三男と四男と不思議な猫の話 #おそ松さん #年中松 #オカルト #モブ ##チョロ松と一松の話

    (こんな店、あったっけ…。)

    路地裏で猫と存分に戯れた帰り道、ふと視界に入った1軒の店。
    古びた外観のそこは所謂アンティークショップというやつだった。
    いや、そんな洒落た感じじゃない。
    どちらかというと骨董屋と言った方がしっくりくる。
    駅近くの雑多に店が建ち並ぶ通りの中、古びて質素な、
    しかし丁寧に手入れされてきたのであろうその店は
    注意深く見ていないとその存在を見過ごしてしまうくらい目立たなかった。
    では、何故そんな目立たない店に大して骨董に興味なんか持ち合わせていない僕が気付いたのか。
    それは、店のショーウィンドウに置かれた小物入れが目に入ったからだ。
    ちょうど大学ノートなんかが綺麗に収まりそうな大きさの長方形の小物入れは、
    蓋に彫刻が施され、その上面には美しい蒔絵が描かれている。
    唐草模様に漆が盛り上げられ、中央には金色の花に囲まれた銀色の猫。
    猫の蒔絵なんて初めて見た。
    漆塗りの蓋いっぱいに描かれた銀色の猫は
    気高く圧倒的な存在感を放っているように見えた。

    そう、この猫が目に入ったのだ。
    まるで呼ばれたみたいに。

    しばらく店の前で猫の蒔絵の小物入れを眺めていた。
    あまりにじっと眺めていたものだから、背後に近づく人影に全く気付かなかった。

    「一松。」
    「っ!…あ、チョロ松、兄さん…。」
    「何してんの?こんな所で。」
    「あ…えっと…」

    突然話し掛けられ、自分でもびっくりするくらい肩が跳ね上がった。
    勢いよく振り返ると、そこには一つ上の兄、チョロ松兄さんの姿。
    緑のチェックシャツにベージュのスキニー。
    よく見る服装だ。
    何かのイベント帰りだろうか。
    チョロ松兄さんが背中に背負っていたリュックを背負い直しながら、
    僕が見ていたショーウィンドウを覗き込んだ。

    「あ、猫。綺麗だね、何かの入れ物かなぁ?
     もしかしてコレを見てたの?」
    「…うん。」
    「へえ…。ここ、骨董屋?
     こんな店あったんだね。」
    「…俺も、今日初めて気付いた。」

    やはりこの店は相当目立たない佇まいらしい。
    僕よりも格段にこの道を通る回数が多いであろうチョロ松兄さんが気付いていなかったなんて。
    この猫の小物入れが視界に入らなかったら、僕も気付くことはなかったと思う。

    そろそろ帰ろうかな、なんて思っていたら、店の扉が開いて店主らしき老人が顔を出した。
    人の良い笑みでこちらを見たものだから、思わずチョロ松兄さんの後ろに隠れてしまった。
    チョロ松兄さんに呆れ顔をされたが、勘弁してほしい。
    知らない人と話すのは苦手だ。

    「おや…双子かな?よかったら店内も見ていくかい?」
    「えっ…あ、いや…僕らそんな骨董なんて高い物買えないし分からないんで!」
    「ははは、何も買わせようなんて思っていないよ。
     その猫の蒔絵が気になっていたんだろう?猫が好きなのかい?
     店の中にも、いくつか猫の品があるからよかったら見ておいで。」
    「うーん…どうする?一松…。」
    「み、見たい…ちょっとだけ…。」

    他にも猫の小物があると聞いて誘惑に勝てなかった僕は、
    チョロ松兄さんの背中に張り付きながら店内に足を踏み入れた。
    骨董屋独特のどこか懐かしさを感じるなんともいえないにおいがした。
    チョロ松兄さんに「こら、いい加減離れろよ。」と睨まれたので渋々離れたが、
    その様子を見ながら老店主は「仲がいいね」と朗らかに笑い、少し待っていろと奥へ引っ込んだ。

    店の中には様々な骨董が置かれていた。
    掛け軸、着物、花瓶、香炉…。
    きっとどれも僕が一生手にする事の無いような金額なんだろう。
    高価な物に囲まれて、初めての場所に来て、
    本当ならソワソワ落ち着かないはずなのに、何故だか居心地の良い空間だった。
    チョロ松兄さんも締まりなく口を開けて辺りを見回している。
    あ、すっごい間抜けヅラ。口閉じろ、口。
    …と思ったところで自分の口もだらしなく開いていた事に気付き、慌てて閉じた。
    2人して同じ顔してたのか。
    人のこと言えないね。
    店内を見渡していると老店主が奥から戻ってきた。
    その手にはこれまた様々な骨董品。
    奥にもまだまだ品があるらしい。
    見せてくれたのは招き猫や猫が描かれた屏風、それから手のひらサイズの根付けだった。
    …この根付け可愛いな。
    小さな鈴が付いてる。首輪が緑色だし、瞳が小さいし、なんだかチョロ松兄さんみたいだ。

    「この根付け可愛いな。」
    「うん。」
    「ほら、これなんて一松みたい。首輪が紫色で、眠そうな顔してる。」
    「ふふっほんとだ…こっちはチョロ松兄さんに似てる。」

    そんな僕らのやり取りを老店主はニコニコしながら眺めていた。
    僕らの他に客はいない。
    老店主はお茶まで淹れてくれて、勧めてくれた椅子に腰掛けさせてもらって、しばらく話をしていた。
    この根付けはいつ頃作られた物だとか、根付の作者の話だとか。
    普段なら絶対興味を引かない話題なんだけど、この店の雰囲気がそうさせるのか、
    穏やかな老店主の人柄か、話を聞くのは面白かった。
    不思議な人だな、と思った。

    結局僕とチョロ松兄さんは、老店主が見せてくれた手のひらサイズの小さな猫の根付けを一つずつ買って帰った。
    僕が紫色、チョロ松兄さんが緑色。
    根付は思ったよりお手頃価格だったから。
    去り際、「またおいで」と僕らを見送ってくれた老店主の笑顔に、また行きたいな、なんて思った。
    パーカーのポケットの中で、紫の首輪をした眠たそうな猫についた鈴がコロン、と音を立てた。

    ーーー

    ある日の帰り道、一松とたまたま見つけた骨董屋で小さな猫の根付を買って帰った日から、
    僕と一松は度々あの骨董屋に2人で訪れるようになった。
    老店主はただ時間を潰しに来るだけの僕らを嫌な顔一つせずに、
    いつも笑顔で迎え入れてくれて、お茶を出してくれる。
    僕らの名前も覚えてくれるまでになった。
    骨董屋の老店主はいろいろな話をしてくれた。
    昔話だったり、いわく付きの品物の話だったり。
    新しく仕入れた品を見せてくれたり。
    中でも猫の置物や根付けは真っ先に見せてくれて
    初めて僕らが訪れた時に買った根付けと色違いの根付けがあったから
    一松は黄色と桃色の猫の根付けを買っていた。
    十四松とトド松にあげるんだろうな。
    あとは贋作と本物の見分け方なんてのも教えてくれたけど、
    僕にはさっぱり見分けられそうになかった。
    目利きの人ってすごいんだなぁ。

    僕らの話も聞いてくれた。
    六つ子だと話した時はさすがに驚いてたな。
    ニートでどうしようもないクズで、底辺の人間な僕らを
    老店主は否定も肯定もしなかったけど、それがなんだか楽だった。
    隣に座る一松も同じ事を思ったと思う。
    あの極度の人見知りでコミュ障の一松が普通に会話できるようになるくらいには、僕らはこの店に馴染み始めていた。
    他の兄弟は誘わなかった。
    興味無さそうだし、
    暴れて物を壊したら大変だし、
    とか理由はいろいろあるんだけどなんとなく秘密にしておきたかったのだ。
    僕と一松だけの秘密の場所にしておきたかった。
    それ程に、この店で過ごす時間が穏やかで心地よかった。

    そして、僕らがこの骨董屋に訪れるようになって、結構な月日が経った頃、

    「え…店じまい、ですか。」
    「ああ。この頃体がキツくてね。やっぱり歳には勝てないよ。
     来月末で店を閉めることにしたんだ。」
    「そう、なんですか…。」
    「悪いね、せっかく常連さんになってくれたのに。」
    「いっいえ、僕らなんて大して物も買ってないし!時間潰しに来るばっかりで!」
    「いやいや、若い子と話せて楽しかったよ、ありがとう。」

    この店、なくなっちゃうのか。
    なんだか寂しいな。
    もう少し早くこの店の存在に気付いていればよかった。
    老店主が淹れてくれた緑茶に口をつけながらチラリと横を見ると、一松も明らかにシュンとしている。
    もし今猫耳と尻尾が生えていたら、絶対にへちょりと垂れ下がっていたに違いない、というくらいシュンとしている。
    そうだよなぁ。
    人見知りで家族がいればいい、と言い切る一松に気兼ねなく話せる相手がせっかく出来たのに。
    同年代じゃなくておじいちゃんだけど。
    僕としては弟の喜ばしい進歩だったのに、これでまた家と路地裏を行き来するだけの生活に
    後戻りしちゃうんだろうな、なんて考えると少し残念だ。

    「そうだ、別れの挨拶にこれを君に。」

    そう言って老店主が一松に差し出したのは、この店を見つけるきっかけになった猫の蒔絵の小物入れだった。
    突然のことに一松が狼狽える。

    「え…。えっいや、こんな立派なの?!む、む、無理です…!」
    「いや、君が持っていておくれ、一松君。」
    「でも…。」
    「物にはね、魂が宿るんだ。」
    「…?」

    物にはね、魂が宿るんだ。
    特に、長い時を経ていろいろな人の手を渡り歩いてきたような物はね。
    骨董屋には、そんな物が集まる場所なんだよ。
    そういった魂を持つ物は、偶に自分で持ち主を選ぶ事がある。
    この猫もそうだよ。
    これはね、君を持ち主に選んだんだ。
    だから、受け取ってくれないかい。
    老人の戯れ言に付き合ってやるくらいの心持ちでいいから、
    この猫を君の手元に置いてあげてくれ。

    老店主は穏やかな笑みを浮かべて、一松に猫の小物入れを差し出したままそう述べた。
    恐る恐る手を伸ばした一松がしっかりと小物入れ受け取る。
    それに老店主は安心したように笑みを深めた。

    「その…ほんとに、俺なんかが貰っても…。」
    「ははは、言っただろう。その猫が君を選んだんだよ。」
    「あ、ありがとう、ございます…。」
    「よかったね、一松。」
    「ん…。」

    一松が大事そうに、ぎゅっと小物入れを胸に抱いた。
    僅かに頬が赤い。
    最初に見つけた時、魅入られたようにじっと見つめてたもんな。
    嬉しそうだ。

    「その猫は守り神だよ。」
    「守り神…?」
    「ああ。その箱はね、元々は仏教の経典を保管するために作られた箱なんだ。」
    「経典…ですか。」

    中国の伝説では、猫は三蔵法師が大切な経典を守るためにインドから連れてきた、とされているんだ。
    だからこの箱もその伝説になぞらえて、経典を守るために猫の蒔絵が入っているんだよ。
    昔は鼠の被害というのは深刻な問題だったからね。
    鼠退治には猫、というわけさ。
    ああ、何も経典を入れる必要はないさ。
    君の大切な物を入れておけばいいんだよ。
    そうすれば、きっと猫が守ってくれる。

    老店主がそんな話をしてくれた。
    へえ…猫って三蔵法師が連れてきたんだ。
    もちろん、伝説上の話だろうけど。
    ここの老店主は本当にいろいろな話を知っている。
    老店主の話を、一松は頬を微かに赤く染めて
    そして最近では滅多に見ることのなくなったキラキラした闇要素ゼロの目をしながら
    (本当レアな顔だこれ。老店主すげぇ!)
    コクコクと頷きながら聞いていた。

    その後僕らは老店主に何度も何度もお礼を言って、店を後にした。

    ーーー

    骨董屋の老店主から譲り受けた経典入れ(僕は今まで小物入れだと思っていたけど)を大事に大事にしまった。
    傷つかないように、壊れないように。
    寝る前に、静かに取り出して蒔絵の猫を眺めてはそっと撫でるのが、あの日から僕の日課になっていた。
    経典を守る、気高い猫。
    老店主は自分の大切な物をしまえばいいと言っていたけど、
    そこまで大切な物は思いつかなかったから箱の中は空のままだった。
    チョロ松兄さんに「にゃーちゃんのブロマイドでも入れておく?」と冗談混じりに聞いてみたけど、
    「一松のなんだから一松の大切な物をしまいなよ。」と笑って返された。

    …あ、そういえば。
    パーカーのポケットに手を突っ込むと、コロリと小さな音を立てて猫の根付が3つ出てきた。
    一つは僕が初めて骨董屋へ行った時にチョロ松兄さんとお揃いで買った物。
    後の二つは、後日また訪れた時に買った。
    首輪の色が黄色と桃色だったから、なんとなく2人の弟を思わせてつい買ってしまったのだ。
    紫色の自分用は再びポケットに戻して、手のひらに黄色も桃色だけを乗せる。
    顔を上げると、チョロ松兄さんがソファで求人誌を捲っていて
    十四松がバランスボールでゆらゆらしていて
    トド松は卓袱台に頬杖を付いてスマホを弄っていた。
    因みに僕はいつも通り隅っこに体操座りをしている。
    上の兄2人はどこかに外出中のようだ。
    まぁ、多分パチンコと…いもしないカラ松ガールズ待ちとかだろう。

    僕が話しかけるよりも先に、手のひらの上で鳴った鈴の音に気付いた十四松が
    バランスボールから降りてこちらにやって来た。

    「兄さん、それ何ー?」
    「んー、猫の根付け。」
    「ネコの煮付け?!」
    「煮付けちゃダメエェェ!!
     根付け!今風に言うとストラップ!」
    「おー!可愛らしいでんな~。」
    「せやろ~?十四松はんに一つあげまひょ~。」
    「うおーほんまでっか~?!おおきに兄さん!!」

    黄色い方を十四松に手渡すと、十四松は「ネコ~ネコ~!!」と言いながら根付を揺らした。
    十四松の動きに合わせてコロンコロンと鈴が鳴っている。
    よかった、喜んでもらえた。
    ピロリン、と音がして顔を音の方向に向けるとトド松が何やら撮影していたようだ。
    うん…撮りたくなる気持ちわかるよ、十四松可愛いもんな。

    「トド松にも…はい。」
    「えっ僕にも?!」
    「あ、要らないなら…いいんだけど…。」
    「いるいる!ほしい!!」
    「…ん。」
    「えへへっ可愛いね、コレ!ありがと、一松兄さん。」

    トド松は女の子ウケしそうな可愛い物は基本的に受け取ってくれる。
    十四松と並んで「お揃いだねー」なんて笑いながら2人で写真を撮ってるのが微笑ましい。
    ブラコン?
    …うん、まぁ、否定はしない。

    「一松、まだ渡してなかったんだ。それ買ったの結構前じゃなかった?」
    「ん。忘れてた。」

    今まで黙っていたチョロ松兄さんがいつの間にか求人誌を閉じてこちらを見ていた。

    「チョロ松兄さん!一松兄さんからもらった!にゃんこ!!」
    「よかったね、十四松。これで4人お揃い。」
    「え、そうなの?」
    「うん。僕と一松も持ってるんだよ、緑と紫の。」

    ほら、とチョロ松兄さんが緑色の根付けを取り出して末2人に見せたので
    僕もそれに倣いポケットから紫の根付けを取り出して見せた。

    「おー!お揃いっすなー!」
    「わー可愛い!ねえねえ、4つ並べて写真撮らせて~!」
    「いいよ…はい。」
    「ありがと♪…あれ?でも4つだけ?
     赤と青がないよ??」
    「…なかった。」
    「そうなの?!王道的な色なのに!」

    後に帰ってきた長男次男に、「俺達にはないのか」といじけられた。
    あれは非常にめんどくさかった、と後に我が家の三男が語っていた。
    …何でか赤と青はなかったんだよなぁ。

    ーーー

    十四松とトド松に猫の根付けをあげた日の夜。
    全員が寝静まった深夜、天井から妙な音が聞こえてきた。

    タタタ、トンー…トタン

    トントントン、タンタンー

    上から降ってきた物音に目が覚めた。
    目を擦りながら上体だけを起こし、上を見上げる。

    トタトタトタ、カタン

    尚も上から小さな物音は響く。
    …屋根裏からかな?何の音だろう。
    上を見上げてみても、暗闇しか見えない。当たり前だけど。
    物音に他の兄弟も気付いたようだ。

    「んー?何の音だ??」
    「わかんない。」
    「屋根裏か?」
    「何か住み着いちゃったのかなー?」
    「ちょっやめてよ十四松兄さん!」
    「あ~…ったく俺の睡眠を妨害しやがって~。
    鼠とかじゃねーの?
     明日誰か屋根裏調べといてくれよ。」
    「軽く言ってるけどヤだよ鼠とか!」

    僕も鼠は嫌だな。
    本当に住み着かれてたらどうしよう。
    けどおそ松兄さんが「とりあえず今日は気にしないようにしてもう寝ようぜ」と布団に潜り込み
    再び夢の世界へ旅立ってしまったので、僕達もその日はそれ以上何もせずに、そのまま眠りに落ちた。

    ーーー

    「あああああああーっ!!!!」
    「えっ?!なになに?!」

    平和な昼下がり、突如響いた誰かの叫び声。
    次いでドタドタと誰かが2階から慌ただしく降りてくる音。
    スパァンッと襖が開く。
    そこには半泣き状態の十四松がいた。

    「十四松?!どうしたんだ?」
    「ヂョロ゛ま゛づに゛い゛ざぁあん゛!!」
    「えっえっ?!」
    「お゛れ゛のエ゛ロ゛本ボロ゛ボロ゛にな゛っでだあぁ~」

    いやいやいや、とりあえずお前がボロボロだよ本当どうした。
    僕の顔を見て本格的に泣き出した十四松をなんとか宥める。
    その手には破れてボロボロになった、年齢制限付きのアレな本が握られていた。
    何があったんだよ、アレな本を握りしめて号泣する成人男性の図とかワケわからんわ。

    しばらく宥め続けて、ようやく十四松が落ち着きを取り戻したので話を聞いてみると
    昨晩聞こえた屋根裏の物音が気になったので見に行ってみたらしい。
    すると屋根裏に隠していた十四松のアレな本はボロボロになっており、所々柱に傷も見受けられたそうだ。
    お前そんな所に隠してたのか。

    「なんか、齧ったような後もあったよ!」
    「うーん…やっぱり鼠でも住み着いたかなぁ?」
    「ネズミ!俺のエロ本ネズミにヤラレたのかな?!」
    「そうだなぁ…その可能性は高いんじゃないかな。」

    鼠だとしたら昨夜のあの物音も説明がつくんだよね。
    このご時世にまさか、と思うけど実は鼠被害ってまだ割とあるらしい。
    特にこの家は年季入ってるし、住み着かれても不思議ではない。
    とりあえずネズミ駆除の業者とか道具とか探した方がいいかな。
    よし、夕飯の後にでも母さんに相談してみよう。

    「ええぇぇえぇええっ?!!」

    ーガタガタンッドコンッ!

    …ええ?!
    今度はなんだ?
    またしても2階から物音、そして慌てて降りてくる音。

    「チ、チョロ松兄さんっ!ね、ねこっねこが…!!」

    駆け込んできたのは一松だった。
    注射以外でこんなに取り乱した一松って珍しいな。
    しかもなんだか泣き出しそうだ。
    本当に、今日は一体何なんだ。

    「どうしたの、一松。」
    「猫がいない!猫がいなくなった!!」
    「…はい?」
    「ね、ね…ねこ、ねこぉ…」

    あ、こっちも本格的に泣き出したぞ。
    実は十四松の次に涙腺緩いのって一松だよね。
    グスグスと涙を流す一松は胸に何かをしっかりと抱いている。
    一瞬こいつもアレな本か?!と戦慄したがどうやら違う。
    少しほっとした。
    それにしても猫がいなくなった?
    可愛がってる野良猫がいなくなっちゃったとか?
    そもそも一松が家に連れてくる猫ってほんといろいろだし、どの猫が?
    …と、思ってたら「違う、そうじゃない」と首をブンブン横に振って
    一松が僕に差し出してきたのは、骨董屋の老店主から譲り受けた猫の蒔絵が入った経典入れ。

    「…え?!」
    「昨日は、ちゃんといたはずなんだけど…。」
    「え、いや…ど、どういうこと?!」
    「僕にもわかんない…。」

    そこには、蒔絵の装飾はそのままに中央に描かれていた猫の姿だけが忽然と消えた経典入れ。

    ……意味がわからない!

    え、何で猫の姿が消えてるの?!
    「猫がいなくなった」ってそういうことかよ!
    わかりにくいわ!と、いつものツッコミよろしく叫びそうになったけど
    口調が幼くなってるし、結構なダメージを受けてしまっているらしい一松を見て、なんとか飲み込んだ。
    そりゃそうだよね。
    あの日から、一松がすごく大事にこの経典入れを扱ってきたことを知っているし。
    とりわけ蓋に描かれた蒔絵の猫を一松はとても気に入っていた。
    その蒔絵の猫だけが忽然と消えてしまったとは一体どういうことだろう。
    誰かのイタズラか?
    …いや、こんな手の込んだイタズラをするような奴はうちにはいない、と思う。
    それに、この経典入れのことを知っているのは一松の他には僕だけだと思うし。

    「と、とりあえず!明日になってもこのままだったら
     あの骨董屋に行って相談してみよう?
     僕も一緒に事情説明するからさ。」
    「うん…。」

    信じられないような馬鹿げた話だけど、あの骨董屋の老店主なら
    話を聞いてくれると謎めいた確信があった。
    元より、この経典入れは老店主が一松に譲った物だ。
    手渡した時にも思わせぶりな事を言っていたし、何か知ってるかもしれない。
    一松も少し落ち着いきたかな。

     にゃ〜

    ん?…今猫の鳴き声が聞こえなかったか?
    気のせい?

    「あれ?!にゃんこだ!」
    「…え?」

     にゃ~ん

    十四松の声の後に返事をするように足元から可愛らしい鳴き声。
    どうやら僕の気のせいではなかったようだ。
    一松と顔を見合わせて同時に下を向くと、そこには1匹の猫が一松の足に擦り寄っていた。
    銀灰色の綺麗な毛並みに金色の目。
    野良とは思えない、野良どころか浮世離れしてるというか
    まるで絵に描いたようなとても綺麗な猫。
    一松が連れてきたのかな?

    「一松兄さんの友達?」
    「いや…初めて会う…と、思う。」
    「あれー?そうなのー??」
    「うん。こんな綺麗な子、一度会ったら絶対忘れないし。」

    猫が相手だと普通にデレるのな、お前。
    一松が猫を抱き上げると、猫は嬉しそうに擦り寄った。
    一松も綺麗な猫にスリスリと擦り寄られて嬉しそうだ。
    十四松が「このにゃんこキレーっすね!」と猫を撫でている。
    綺麗な猫を抱き上げてすっかり落ち着きを取り戻し
    先程僕に泣きついた事が今更になって恥ずかしくなったのか
    目元を赤くした一松に消え入りそうな声で「ありがと…」と呟かれた。
    いつもそのくらい素直でいてくれるといいんだけどね!
    あ、それはそれでむず痒いな。やっぱりいつも通りでいいや。

    結局猫は夜になって、寝る時になるまでそのまま一松に寄り添っていた。
    不思議な猫だった。

    ーーー

    骨董屋の老店主から譲り受けた経典入れの箱に描かれていた猫が
    忽然と姿を消していた。
    パニックになって取り乱したままチョロ松兄さんに泣きついてしまった。
    今思い返すとだいぶ恥ずかしい。
    こういう時僕は無意識にチョロ松兄さんを頼ってしまうようだ。
    兄さんは僕をからかうでもなく、叱るでもなく
    優しく「明日骨董屋で相談してみよう」と僕を落ち着かせてくれた。
    この人こういう時は優しいんだよね、反則だと思う。
    後から知ったことだけど、僕が泣きつく直前に十四松も泣きついていたらしい。
    屋根裏に隠してた十四松のエロ本がボロボロになっていたそうだ。
    しかも屋根裏は鼠が潜んでいるのではないかという被害が見て取れたらしい。
    屋根裏に鼠?
    いつから住み着いていたんだろう。
    昨晩の物音も鼠の仕業なのかな。
    前々からいたなら友達の猫達が気付いていただろうし
    物音ももっと前から気づいていたはずだ。
    最近寄ってきたのは確かだと思うけど。
    チョロ松兄さんが鼠駆除の業者を呼んでくれと母さんに頼んでくれたらしい。
    さすがしっかりしてる。

    ところで、箱の猫がいなくなったのと入れ替わるように、綺麗な猫が僕の眼の前に現れた。
    すごく綺麗な猫。
    なめらかでキラキラした銀灰色の毛並みに金色の目。
    どことなく威厳を感じるシュッとした体躯。
    ずっと寄り添うようにして僕の傍にいる。
    何故かお風呂にもトイレにもついてこようとする。
    滅多に鳴き声もあげない。
    撫でてあげたり、抱っこしてあげるととても気持ちよさそうに目を細めるけど
    ご飯は食べようとしなかった。
    不思議な猫だ。なんだろう、初めて会うはずなのに…どこかで会ったような気がする。
    その猫は結局夜寝る時までずっと僕の傍にいた。
    布団の中に入ってもまるで見守るようにして枕元にちょこんと佇んでいる。
    銀灰色の毛並みが月明かりを浴びて光っている。
    綺麗だな…なんてボンヤリ考えながら眠りについた。

    どのくらい時間が経っただろうか。
    横並びに眠る6人全員が夢の中を漂っていたであろう深夜。
    また今日も天井から昨晩と同じような音が聞こえてきて、目が覚めた。

    ートタトタンッ

    ーガタッガリガリガリガリ…


    ーガタン!ゴトゴト

    なんか昨日より物音が派手じゃないか?
    思わず上体を起こし、天井を見上げた。
    他の兄弟も昨日と同じように次々と目を覚ました。

    「もぉ〜またぁ?明日僕予定あるのにぃ〜。」
    「鼠にしては煩すぎないか?何匹もいるとか?」
    「うげっ怖い事言うなよカラ松〜。」
    「スッゲー音してる!」
    「うーん…一応母さんが明日、鼠駆除の業者呼んでくれるらしいんだけど。」
    「あ…!」
    「うん?どうした一松。」

    ずっと枕元に佇んでいた銀灰色の猫が突如走り出した。
    勝手知ったる我が家とでもいうようにぴょこぴょこと家具や柱を飛び移り
    小さな隙間からあっという間に屋根裏へ入り込んだ。

    「え…屋根裏行っちゃった…。」
    「昼間の猫?」
    「うん…。」

    少しの間を置いて、先ほどよりも派手な物音。
    それに混ざる威嚇するような猫の唸り声。
    え、あの猫だよね?!何かと戦ってるの?
    てか、屋根裏は今どうなってるの?!
    猫は?!
    あの猫大丈夫?!

    「大丈夫だよ、一松。」
    「!」

    頭をポンポン、と優しく撫でられる感触。
    顔を上げると眉を下げて笑うチョロ松兄さんがいた。
    それだけで少し安心してしまう。

    天井からは尚もドスンバスンと音が響いている。
    なんとなく家も若干揺れているんじゃなかろうか。
    天井抜けないかな、これ。
    なんて思っていると、

    ーベキベキベキッ

    ードシャ

    「えええぇえ?!なんか上から降ってきたよ?!」
    「うわ天井!天井に穴あいた!!」
    「お、おおおお落ち着けブラザー!ひ、ひとまず明かりを点けよう!」
    「うん!お前も落ち着こうなカラ松!
     でもなんかテンパってるお前のおかげでお兄ちゃんちょっとだけ冷静になったわありがとう!」

    …本当に天井が抜けた。
    男6人ぎゃーぎゃーみっともなく喚きながらも、おそ松兄さんが電気を点けた。
    天井には大人1人通り抜けられそうなくらいの穴が開いて家の屋根の骨組みが丸見え状態。
    パラパラと木片やモルタルの欠片が降ってきている。
    そして、その開いた穴の真下には。

    「「「「「「うぉあああああぁああぁあ?!?!?!!」」」」」」

    さすが六つ子、ピッタリ同じタイミングで同じような叫び声。
    一ミリもズレがない見事なシンクロっぷり。
    成人男性6人が揃いも揃って情けない叫び声(しかも野太い)を上げてしまったわけだが許してほしい。
    深夜にご近所迷惑だね、死んで詫びます。
    でも本当、僕らの心中も察して頂きたい。
    天井にあいた穴の真下には、規格外な大きさの鼠さんの屍が横たわっていたのである。
    喉を噛まれたのか、血で畳が汚れている。
    いや、てか…え?これ鼠?!本当に?マジで鼠?!?!
    いやいやいや…おかしい。おかしいだろ。
    これ叫んでも仕方ないでしょ?!
    冷静でいられる方がおかしいでしょ?!

    いくらなんでも大型犬と同じくらいの鼠は怪奇現象レベルだと思います!!

     にゃ〜ん

    …猫の声?
    あ!そうだ、猫!!
    天井裏へ乗り込んでいった猫は?!
    慌てて天井の穴を覗き込むと、そこから銀灰色がピョコリと顔を出し
    トン、と床に着地した。
    あ、無事だった…よかった…。
    ていうか、この化け鼠はお前がやったのか?
    もうどうしたらいいか分からなくてその場にヘタリ込んだ僕の懐に猫が飛び込んできた。
    そのままスリスリと顔を僕の首に擦り付けるものだから
    心を落ち着けるために銀灰色の綺麗な毛並みを無心で撫で続ける。

    「ね、ねぇ…もしかしてこのどデカイ鼠…お前が退治したの?」
     にゃ〜

    まるで誇らしげに返事をするように猫が鳴く。
    と、銀灰色の猫は僕の頬に額を擦り付けるとすぅっと姿を消した。
    本日の怪奇現象その2である。

    「え…。」
    「え、き、消えた?」
    「消えた…ように見えた…けど。」
    「マジかよ。今日どうなってんの一体。」

    あまりの驚愕に襲われ、今度は叫び声を上げることすら出来なかった。
    それは他の兄弟も同じだったようで。
    兄弟がブツブツ言う中、僕はハッとして自分の私物をしまっている引き出しに手をかけた。

    どうして今まで気付かなかったんだろう。
    引き出しから、経典入れを取り出す。
    今日の昼間(いや、もう昨日かな)猫の蒔絵が消えて大騒ぎした経典入れ。
    そこには、骨董屋で譲り受けた時と、初めて見つけて店の前でじっと見ていた時と同じく
    蒔絵の猫がきちんと描かれている。
    銀灰色の毛並み。
    金色の目。
    威厳を感じるシュッとした体躯。
    間違いない。

    ーあの猫だ。

    老店主の言葉が蘇る。
    ー その猫は守り神だよ

    猫が…守ってくれたってこと?


    あの後、激しい物音と僕らの叫び声に何事かと様子を見に来た両親にチョロ松兄さんが必死で状況を伝えて
    僕らはとりあえず1階の居間に布団を敷いて寝ることになった。

    朝になって、母さんが呼んでくれた鼠駆除の業者が一応屋根裏を調べてくれたら
    屋根裏には鼠が20数匹潜んでいたらしい。
    あ、その鼠は通常サイズだったらしいけどね。
    化け鼠は業者の人もこんなの見た事ないって驚いてた。
    でも業者さんが屋根裏にいた通常サイズも大型犬サイズもまとめて処理してくれるそうだ。ありがたや。
    屋根裏の痛み具合や糞尿による汚れ具合を見ると住み着いたのは一週間経つか経たないかくらいで日は浅いらしい。
    それよりも気になったのは屋根裏にいた鼠の様子。
    怪我をした様子もないのに、全部息絶えていたそうだ。
    忙しなく屋内で作業していた業者の人も、鼠被害についてはもう大丈夫だろう
    仕事を終えて帰って行き、家の中は普段通りの平穏を取り戻しつつあった。
    天井は穴空いてるけど。

    経典入れの蓋には、今日もちゃんと綺麗な蒔絵の猫がいる。
    昨日のあれは見間違いだったのだろうか?
    …いや、そんなはずない。
    兄弟みんな猫を目撃している。
    昨日、屋根裏で一体何があったんだろう。

    ーーー

    「一松、出かけよう。」
    「え…」
    「気になることあるんだ。あの骨董屋に行ってみようよ。」
    「わかった。」

    昨晩の鼠騒動が落ち着いて、各々自由に平日の昼間を謳歌している中、僕は一松に声をかけた。
    突然屋根裏へ飛び込んで、馬鹿でかい鼠が降ってきて、そして一松に擦り寄って、消えた猫。
    その後一松が取り出した経典入れには、いなくなったはずの猫が戻ってきていた。
    よく見たら、その猫は昨日一松に寄り添っていた猫にそっくりなのだ。
    一松もそれにもちろん気付いている。

    もうワケがわからない。ワケが分からないけど、どうも経典入れの猫が関係しているらしい事はなんとなく推測できた。
    だから、骨董屋の老店主に話を聞いてもらおうと思ったのだ。
    何かわかるかもしれないし、わからないままかもしれないけど、何故だか店主には話しておきたかった。


    店の中に入ると、そこにいたのは老店主ではなく、女性の姿だった。
    咄嗟に一松が僕の背後に隠れた。
    …いや、お前な。人見知りも大概だぞ。
    女性は僕らを見ると、にこりと微笑み、
    「あら…ひょっとしてあなた方がチョロ松くんと一松くんかしら?」
    とゆったり話しかけてきた。
    笑顔も語り口もあの老店主によく似ていた。

    話を聞くと、この女性は老店主の娘さん。
    老店主が体調を崩ししばらく入院になったため、整理も兼ねて店番を買って出たそうだ。
    僕らのことは、店主がよく話題に出していてすぐにわかったらしい。
    入院、と聞いて背中に張り付いた一松の身体が強ばったのがわかった。
    お見舞いに行けないか聞いてみると、女性は穏やかな笑みはそのままに
    「是非行ってあげてほしい」と僕らに入院先を教えてくれた。
    女性が僕らが購入した猫の根付をまた見せてくれたから
    今度は僕が赤色の首輪をしたやつと、青色の首輪をした猫を買った。

    心ばかりの見舞いの品を手に、僕と一松は骨董屋へ訪れたその足でそのまま病院へ向かった。
    病室は4人部屋で、その中の窓際で1番奥が老店主のベッドだった。

    「おや…来てくれたのかい?
     娘から聞いたのかな。」
    「あ…えっと、はい。」
    「そうか、来てくれてありがとう。
     ちょうど少し散歩したいと思っていたんだよ。中庭に行かないかい。」
    「あ、はい。」

    病院の中庭は手入れが行き届いていた。
    入院患者の憩いの場になっているのだろう。
    中庭のベンチに腰掛けると、老店主は「何か話があって来たんだろう?」といつもの穏やかな笑みを向けた。
    どうやら何もかもお見通しだったようだ。
    老店主に促され、一松がたどたどしく昨日の一連の事件を語った。
    一昨日の夜に屋根裏から物音がしたこと。
    次の日、つまり昨日、経典入れの箱から蒔絵の猫が消えていたこと。
    それと入れ違いで蒔絵の猫と同じ銀灰色の綺麗な猫が現れて、ずっと傍を離れなかったこと。
    夜、天井裏から化け鼠が降ってきて!どうやらそれを昨日現れた猫が退治したらしいこと。
    猫が突然消えてしまい、経典入れの箱は元通り猫が描かれていたこと。
    ちょいちょい僕が助け舟を出しながら、なんとか話し終えた。

    僕らの話に黙って耳を傾けてくれていた老店主は
    話を聞き終えるなりまた不思議な言い伝えを教えてくれた。

    「猫王って知っているかい?」
    「ねこおう?」
    「猫の王様、猫王。」

    西の国から中国に献上された猫を夜、誰もいない部屋に
    二重の鉄籠に入れて置いておくと、次の朝に鼠が猫の周りにひれ伏して死んでしまうんだ。
    鼠は猫の威光に引き寄せられて、拝み伏しながら死んでしまう。
    その猫は猫王と呼ばれるらしいよ。
    その経典入れに描かれた猫は、きっと猫王なのさ。
    鼠に狙われていることに気付いて、君達を守るために箱から抜け出したんじゃないかな。
    不思議な話だろう?
    …けどね、これは必然だと思うよ。

    「どうして、必然だと?」
    「何故なら、一松くんが私の店の存在に気付いたからさ。」
    「………ん?え、はい?」
    「私の店はね、普通に過ごしている人はまず気付かない。
     君達が話してくれたような怪異に近づいたり
     君のように品に選ばれて呼ばれた人が訪れる場所なのさ。」
    「えーと、つまり…一松はこの猫王に呼ばれたから店の存在に気付いた?」
    「そう。君は普段から猫を大切にしているのだろうね。」
    「………。」

    老店主の言葉に、初めて骨董屋を訪れた日の事を思い出す。
    あの日、一松は魅入られたかのように瞬きも忘れてじっと猫の箱を見つめていた。
    僕はたまたまそれに巻き込まれたわけか。
    そういえば、トド松に店の場所教えたけど「見つけられなかった、ホントに合ってんの?」と言われたことあったな。
    突飛な話なのだけど、この老店主の口から聞くと何故か信じてしまう。
    自分が実際にそういう不思議体験をしてしまった後だからというのもあるけど。

    「お礼…。」
    「うん?」
    「猫に、お礼するには、どうしたらいいの…。
     昨日は、抜け出してきた猫、撫でたりはできたけど、ご飯は食べなかったし…。」
    「ははは、優しい子だね。
     普通の猫を可愛がるのと同じようにしてあげればいいんだよ。
     きっとこの猫王はこれから先も君に構ってほしい時に箱から抜け出すだろうから
     その時にうんと可愛がってあげればいいのさ。」
    「わ、わかった…!」

    それから少し話をして、僕らは病院を後にした。
    僕も一松も無言だった。
    やがて見慣れた河川敷まで来たところで、ふいに一松が口を開いた。

    「…なんか、現実離れした話だった…。」
    「そうだね。僕も自分が体験してなかったら絶対作り話だと思うよ。」
    「…ん。実際見ちゃったんだもんね。」
    「ほんとだよ…なんかもうすっごい疲れた。」
    「これから先も…こんな事に巻き込まれるのかな…。」
    「え?!」
    「いや…僕が猫王と一緒にいる限り、そんな気が、する…。」
    「ほんとに有り得そうだからやめて一松!」

    あれから、老店主が言っていたように経典入れに描かれた蒔絵の猫は
    度々箱から抜け出しては一松に擦り寄っているところが目撃された。
    そして、一松の予想もその通りで、僕らは度々不思議な出来事に遭遇するようになるのだがそれはまた別の話。

    次に骨董屋へ行った時、店は既に無くなっていた。
    ガラス張りのショーウィンドウから中を覗くと、そこは空っぽでなにもなかった。
    まるで随分前から空き店舗だったかのような佇まいすら感じた。
    店じまいするって聞いていたから当然なのだけど、こうして目の前にしてみるとやはり寂しい。
    隣に立つ一松も同じ思いだったのか、少し俯いていた。

    「一松、もう行こうか。」
    「…ん。」

    帰りにコンビニで肉まんでも買ってこうかな。

    あの老店主に会うことは、もうないのだろう。
    #おそ松さん #年中松 #オカルト #モブ ##チョロ松と一松の話

    (こんな店、あったっけ…。)

    路地裏で猫と存分に戯れた帰り道、ふと視界に入った1軒の店。
    古びた外観のそこは所謂アンティークショップというやつだった。
    いや、そんな洒落た感じじゃない。
    どちらかというと骨董屋と言った方がしっくりくる。
    駅近くの雑多に店が建ち並ぶ通りの中、古びて質素な、
    しかし丁寧に手入れされてきたのであろうその店は
    注意深く見ていないとその存在を見過ごしてしまうくらい目立たなかった。
    では、何故そんな目立たない店に大して骨董に興味なんか持ち合わせていない僕が気付いたのか。
    それは、店のショーウィンドウに置かれた小物入れが目に入ったからだ。
    ちょうど大学ノートなんかが綺麗に収まりそうな大きさの長方形の小物入れは、
    蓋に彫刻が施され、その上面には美しい蒔絵が描かれている。
    唐草模様に漆が盛り上げられ、中央には金色の花に囲まれた銀色の猫。
    猫の蒔絵なんて初めて見た。
    漆塗りの蓋いっぱいに描かれた銀色の猫は
    気高く圧倒的な存在感を放っているように見えた。

    そう、この猫が目に入ったのだ。
    まるで呼ばれたみたいに。

    しばらく店の前で猫の蒔絵の小物入れを眺めていた。
    あまりにじっと眺めていたものだから、背後に近づく人影に全く気付かなかった。

    「一松。」
    「っ!…あ、チョロ松、兄さん…。」
    「何してんの?こんな所で。」
    「あ…えっと…」

    突然話し掛けられ、自分でもびっくりするくらい肩が跳ね上がった。
    勢いよく振り返ると、そこには一つ上の兄、チョロ松兄さんの姿。
    緑のチェックシャツにベージュのスキニー。
    よく見る服装だ。
    何かのイベント帰りだろうか。
    チョロ松兄さんが背中に背負っていたリュックを背負い直しながら、
    僕が見ていたショーウィンドウを覗き込んだ。

    「あ、猫。綺麗だね、何かの入れ物かなぁ?
     もしかしてコレを見てたの?」
    「…うん。」
    「へえ…。ここ、骨董屋?
     こんな店あったんだね。」
    「…俺も、今日初めて気付いた。」

    やはりこの店は相当目立たない佇まいらしい。
    僕よりも格段にこの道を通る回数が多いであろうチョロ松兄さんが気付いていなかったなんて。
    この猫の小物入れが視界に入らなかったら、僕も気付くことはなかったと思う。

    そろそろ帰ろうかな、なんて思っていたら、店の扉が開いて店主らしき老人が顔を出した。
    人の良い笑みでこちらを見たものだから、思わずチョロ松兄さんの後ろに隠れてしまった。
    チョロ松兄さんに呆れ顔をされたが、勘弁してほしい。
    知らない人と話すのは苦手だ。

    「おや…双子かな?よかったら店内も見ていくかい?」
    「えっ…あ、いや…僕らそんな骨董なんて高い物買えないし分からないんで!」
    「ははは、何も買わせようなんて思っていないよ。
     その猫の蒔絵が気になっていたんだろう?猫が好きなのかい?
     店の中にも、いくつか猫の品があるからよかったら見ておいで。」
    「うーん…どうする?一松…。」
    「み、見たい…ちょっとだけ…。」

    他にも猫の小物があると聞いて誘惑に勝てなかった僕は、
    チョロ松兄さんの背中に張り付きながら店内に足を踏み入れた。
    骨董屋独特のどこか懐かしさを感じるなんともいえないにおいがした。
    チョロ松兄さんに「こら、いい加減離れろよ。」と睨まれたので渋々離れたが、
    その様子を見ながら老店主は「仲がいいね」と朗らかに笑い、少し待っていろと奥へ引っ込んだ。

    店の中には様々な骨董が置かれていた。
    掛け軸、着物、花瓶、香炉…。
    きっとどれも僕が一生手にする事の無いような金額なんだろう。
    高価な物に囲まれて、初めての場所に来て、
    本当ならソワソワ落ち着かないはずなのに、何故だか居心地の良い空間だった。
    チョロ松兄さんも締まりなく口を開けて辺りを見回している。
    あ、すっごい間抜けヅラ。口閉じろ、口。
    …と思ったところで自分の口もだらしなく開いていた事に気付き、慌てて閉じた。
    2人して同じ顔してたのか。
    人のこと言えないね。
    店内を見渡していると老店主が奥から戻ってきた。
    その手にはこれまた様々な骨董品。
    奥にもまだまだ品があるらしい。
    見せてくれたのは招き猫や猫が描かれた屏風、それから手のひらサイズの根付けだった。
    …この根付け可愛いな。
    小さな鈴が付いてる。首輪が緑色だし、瞳が小さいし、なんだかチョロ松兄さんみたいだ。

    「この根付け可愛いな。」
    「うん。」
    「ほら、これなんて一松みたい。首輪が紫色で、眠そうな顔してる。」
    「ふふっほんとだ…こっちはチョロ松兄さんに似てる。」

    そんな僕らのやり取りを老店主はニコニコしながら眺めていた。
    僕らの他に客はいない。
    老店主はお茶まで淹れてくれて、勧めてくれた椅子に腰掛けさせてもらって、しばらく話をしていた。
    この根付けはいつ頃作られた物だとか、根付の作者の話だとか。
    普段なら絶対興味を引かない話題なんだけど、この店の雰囲気がそうさせるのか、
    穏やかな老店主の人柄か、話を聞くのは面白かった。
    不思議な人だな、と思った。

    結局僕とチョロ松兄さんは、老店主が見せてくれた手のひらサイズの小さな猫の根付けを一つずつ買って帰った。
    僕が紫色、チョロ松兄さんが緑色。
    根付は思ったよりお手頃価格だったから。
    去り際、「またおいで」と僕らを見送ってくれた老店主の笑顔に、また行きたいな、なんて思った。
    パーカーのポケットの中で、紫の首輪をした眠たそうな猫についた鈴がコロン、と音を立てた。

    ーーー

    ある日の帰り道、一松とたまたま見つけた骨董屋で小さな猫の根付を買って帰った日から、
    僕と一松は度々あの骨董屋に2人で訪れるようになった。
    老店主はただ時間を潰しに来るだけの僕らを嫌な顔一つせずに、
    いつも笑顔で迎え入れてくれて、お茶を出してくれる。
    僕らの名前も覚えてくれるまでになった。
    骨董屋の老店主はいろいろな話をしてくれた。
    昔話だったり、いわく付きの品物の話だったり。
    新しく仕入れた品を見せてくれたり。
    中でも猫の置物や根付けは真っ先に見せてくれて
    初めて僕らが訪れた時に買った根付けと色違いの根付けがあったから
    一松は黄色と桃色の猫の根付けを買っていた。
    十四松とトド松にあげるんだろうな。
    あとは贋作と本物の見分け方なんてのも教えてくれたけど、
    僕にはさっぱり見分けられそうになかった。
    目利きの人ってすごいんだなぁ。

    僕らの話も聞いてくれた。
    六つ子だと話した時はさすがに驚いてたな。
    ニートでどうしようもないクズで、底辺の人間な僕らを
    老店主は否定も肯定もしなかったけど、それがなんだか楽だった。
    隣に座る一松も同じ事を思ったと思う。
    あの極度の人見知りでコミュ障の一松が普通に会話できるようになるくらいには、僕らはこの店に馴染み始めていた。
    他の兄弟は誘わなかった。
    興味無さそうだし、
    暴れて物を壊したら大変だし、
    とか理由はいろいろあるんだけどなんとなく秘密にしておきたかったのだ。
    僕と一松だけの秘密の場所にしておきたかった。
    それ程に、この店で過ごす時間が穏やかで心地よかった。

    そして、僕らがこの骨董屋に訪れるようになって、結構な月日が経った頃、

    「え…店じまい、ですか。」
    「ああ。この頃体がキツくてね。やっぱり歳には勝てないよ。
     来月末で店を閉めることにしたんだ。」
    「そう、なんですか…。」
    「悪いね、せっかく常連さんになってくれたのに。」
    「いっいえ、僕らなんて大して物も買ってないし!時間潰しに来るばっかりで!」
    「いやいや、若い子と話せて楽しかったよ、ありがとう。」

    この店、なくなっちゃうのか。
    なんだか寂しいな。
    もう少し早くこの店の存在に気付いていればよかった。
    老店主が淹れてくれた緑茶に口をつけながらチラリと横を見ると、一松も明らかにシュンとしている。
    もし今猫耳と尻尾が生えていたら、絶対にへちょりと垂れ下がっていたに違いない、というくらいシュンとしている。
    そうだよなぁ。
    人見知りで家族がいればいい、と言い切る一松に気兼ねなく話せる相手がせっかく出来たのに。
    同年代じゃなくておじいちゃんだけど。
    僕としては弟の喜ばしい進歩だったのに、これでまた家と路地裏を行き来するだけの生活に
    後戻りしちゃうんだろうな、なんて考えると少し残念だ。

    「そうだ、別れの挨拶にこれを君に。」

    そう言って老店主が一松に差し出したのは、この店を見つけるきっかけになった猫の蒔絵の小物入れだった。
    突然のことに一松が狼狽える。

    「え…。えっいや、こんな立派なの?!む、む、無理です…!」
    「いや、君が持っていておくれ、一松君。」
    「でも…。」
    「物にはね、魂が宿るんだ。」
    「…?」

    物にはね、魂が宿るんだ。
    特に、長い時を経ていろいろな人の手を渡り歩いてきたような物はね。
    骨董屋には、そんな物が集まる場所なんだよ。
    そういった魂を持つ物は、偶に自分で持ち主を選ぶ事がある。
    この猫もそうだよ。
    これはね、君を持ち主に選んだんだ。
    だから、受け取ってくれないかい。
    老人の戯れ言に付き合ってやるくらいの心持ちでいいから、
    この猫を君の手元に置いてあげてくれ。

    老店主は穏やかな笑みを浮かべて、一松に猫の小物入れを差し出したままそう述べた。
    恐る恐る手を伸ばした一松がしっかりと小物入れ受け取る。
    それに老店主は安心したように笑みを深めた。

    「その…ほんとに、俺なんかが貰っても…。」
    「ははは、言っただろう。その猫が君を選んだんだよ。」
    「あ、ありがとう、ございます…。」
    「よかったね、一松。」
    「ん…。」

    一松が大事そうに、ぎゅっと小物入れを胸に抱いた。
    僅かに頬が赤い。
    最初に見つけた時、魅入られたようにじっと見つめてたもんな。
    嬉しそうだ。

    「その猫は守り神だよ。」
    「守り神…?」
    「ああ。その箱はね、元々は仏教の経典を保管するために作られた箱なんだ。」
    「経典…ですか。」

    中国の伝説では、猫は三蔵法師が大切な経典を守るためにインドから連れてきた、とされているんだ。
    だからこの箱もその伝説になぞらえて、経典を守るために猫の蒔絵が入っているんだよ。
    昔は鼠の被害というのは深刻な問題だったからね。
    鼠退治には猫、というわけさ。
    ああ、何も経典を入れる必要はないさ。
    君の大切な物を入れておけばいいんだよ。
    そうすれば、きっと猫が守ってくれる。

    老店主がそんな話をしてくれた。
    へえ…猫って三蔵法師が連れてきたんだ。
    もちろん、伝説上の話だろうけど。
    ここの老店主は本当にいろいろな話を知っている。
    老店主の話を、一松は頬を微かに赤く染めて
    そして最近では滅多に見ることのなくなったキラキラした闇要素ゼロの目をしながら
    (本当レアな顔だこれ。老店主すげぇ!)
    コクコクと頷きながら聞いていた。

    その後僕らは老店主に何度も何度もお礼を言って、店を後にした。

    ーーー

    骨董屋の老店主から譲り受けた経典入れ(僕は今まで小物入れだと思っていたけど)を大事に大事にしまった。
    傷つかないように、壊れないように。
    寝る前に、静かに取り出して蒔絵の猫を眺めてはそっと撫でるのが、あの日から僕の日課になっていた。
    経典を守る、気高い猫。
    老店主は自分の大切な物をしまえばいいと言っていたけど、
    そこまで大切な物は思いつかなかったから箱の中は空のままだった。
    チョロ松兄さんに「にゃーちゃんのブロマイドでも入れておく?」と冗談混じりに聞いてみたけど、
    「一松のなんだから一松の大切な物をしまいなよ。」と笑って返された。

    …あ、そういえば。
    パーカーのポケットに手を突っ込むと、コロリと小さな音を立てて猫の根付が3つ出てきた。
    一つは僕が初めて骨董屋へ行った時にチョロ松兄さんとお揃いで買った物。
    後の二つは、後日また訪れた時に買った。
    首輪の色が黄色と桃色だったから、なんとなく2人の弟を思わせてつい買ってしまったのだ。
    紫色の自分用は再びポケットに戻して、手のひらに黄色も桃色だけを乗せる。
    顔を上げると、チョロ松兄さんがソファで求人誌を捲っていて
    十四松がバランスボールでゆらゆらしていて
    トド松は卓袱台に頬杖を付いてスマホを弄っていた。
    因みに僕はいつも通り隅っこに体操座りをしている。
    上の兄2人はどこかに外出中のようだ。
    まぁ、多分パチンコと…いもしないカラ松ガールズ待ちとかだろう。

    僕が話しかけるよりも先に、手のひらの上で鳴った鈴の音に気付いた十四松が
    バランスボールから降りてこちらにやって来た。

    「兄さん、それ何ー?」
    「んー、猫の根付け。」
    「ネコの煮付け?!」
    「煮付けちゃダメエェェ!!
     根付け!今風に言うとストラップ!」
    「おー!可愛らしいでんな~。」
    「せやろ~?十四松はんに一つあげまひょ~。」
    「うおーほんまでっか~?!おおきに兄さん!!」

    黄色い方を十四松に手渡すと、十四松は「ネコ~ネコ~!!」と言いながら根付を揺らした。
    十四松の動きに合わせてコロンコロンと鈴が鳴っている。
    よかった、喜んでもらえた。
    ピロリン、と音がして顔を音の方向に向けるとトド松が何やら撮影していたようだ。
    うん…撮りたくなる気持ちわかるよ、十四松可愛いもんな。

    「トド松にも…はい。」
    「えっ僕にも?!」
    「あ、要らないなら…いいんだけど…。」
    「いるいる!ほしい!!」
    「…ん。」
    「えへへっ可愛いね、コレ!ありがと、一松兄さん。」

    トド松は女の子ウケしそうな可愛い物は基本的に受け取ってくれる。
    十四松と並んで「お揃いだねー」なんて笑いながら2人で写真を撮ってるのが微笑ましい。
    ブラコン?
    …うん、まぁ、否定はしない。

    「一松、まだ渡してなかったんだ。それ買ったの結構前じゃなかった?」
    「ん。忘れてた。」

    今まで黙っていたチョロ松兄さんがいつの間にか求人誌を閉じてこちらを見ていた。

    「チョロ松兄さん!一松兄さんからもらった!にゃんこ!!」
    「よかったね、十四松。これで4人お揃い。」
    「え、そうなの?」
    「うん。僕と一松も持ってるんだよ、緑と紫の。」

    ほら、とチョロ松兄さんが緑色の根付けを取り出して末2人に見せたので
    僕もそれに倣いポケットから紫の根付けを取り出して見せた。

    「おー!お揃いっすなー!」
    「わー可愛い!ねえねえ、4つ並べて写真撮らせて~!」
    「いいよ…はい。」
    「ありがと♪…あれ?でも4つだけ?
     赤と青がないよ??」
    「…なかった。」
    「そうなの?!王道的な色なのに!」

    後に帰ってきた長男次男に、「俺達にはないのか」といじけられた。
    あれは非常にめんどくさかった、と後に我が家の三男が語っていた。
    …何でか赤と青はなかったんだよなぁ。

    ーーー

    十四松とトド松に猫の根付けをあげた日の夜。
    全員が寝静まった深夜、天井から妙な音が聞こえてきた。

    タタタ、トンー…トタン

    トントントン、タンタンー

    上から降ってきた物音に目が覚めた。
    目を擦りながら上体だけを起こし、上を見上げる。

    トタトタトタ、カタン

    尚も上から小さな物音は響く。
    …屋根裏からかな?何の音だろう。
    上を見上げてみても、暗闇しか見えない。当たり前だけど。
    物音に他の兄弟も気付いたようだ。

    「んー?何の音だ??」
    「わかんない。」
    「屋根裏か?」
    「何か住み着いちゃったのかなー?」
    「ちょっやめてよ十四松兄さん!」
    「あ~…ったく俺の睡眠を妨害しやがって~。
    鼠とかじゃねーの?
     明日誰か屋根裏調べといてくれよ。」
    「軽く言ってるけどヤだよ鼠とか!」

    僕も鼠は嫌だな。
    本当に住み着かれてたらどうしよう。
    けどおそ松兄さんが「とりあえず今日は気にしないようにしてもう寝ようぜ」と布団に潜り込み
    再び夢の世界へ旅立ってしまったので、僕達もその日はそれ以上何もせずに、そのまま眠りに落ちた。

    ーーー

    「あああああああーっ!!!!」
    「えっ?!なになに?!」

    平和な昼下がり、突如響いた誰かの叫び声。
    次いでドタドタと誰かが2階から慌ただしく降りてくる音。
    スパァンッと襖が開く。
    そこには半泣き状態の十四松がいた。

    「十四松?!どうしたんだ?」
    「ヂョロ゛ま゛づに゛い゛ざぁあん゛!!」
    「えっえっ?!」
    「お゛れ゛のエ゛ロ゛本ボロ゛ボロ゛にな゛っでだあぁ~」

    いやいやいや、とりあえずお前がボロボロだよ本当どうした。
    僕の顔を見て本格的に泣き出した十四松をなんとか宥める。
    その手には破れてボロボロになった、年齢制限付きのアレな本が握られていた。
    何があったんだよ、アレな本を握りしめて号泣する成人男性の図とかワケわからんわ。

    しばらく宥め続けて、ようやく十四松が落ち着きを取り戻したので話を聞いてみると
    昨晩聞こえた屋根裏の物音が気になったので見に行ってみたらしい。
    すると屋根裏に隠していた十四松のアレな本はボロボロになっており、所々柱に傷も見受けられたそうだ。
    お前そんな所に隠してたのか。

    「なんか、齧ったような後もあったよ!」
    「うーん…やっぱり鼠でも住み着いたかなぁ?」
    「ネズミ!俺のエロ本ネズミにヤラレたのかな?!」
    「そうだなぁ…その可能性は高いんじゃないかな。」

    鼠だとしたら昨夜のあの物音も説明がつくんだよね。
    このご時世にまさか、と思うけど実は鼠被害ってまだ割とあるらしい。
    特にこの家は年季入ってるし、住み着かれても不思議ではない。
    とりあえずネズミ駆除の業者とか道具とか探した方がいいかな。
    よし、夕飯の後にでも母さんに相談してみよう。

    「ええぇぇえぇええっ?!!」

    ーガタガタンッドコンッ!

    …ええ?!
    今度はなんだ?
    またしても2階から物音、そして慌てて降りてくる音。

    「チ、チョロ松兄さんっ!ね、ねこっねこが…!!」

    駆け込んできたのは一松だった。
    注射以外でこんなに取り乱した一松って珍しいな。
    しかもなんだか泣き出しそうだ。
    本当に、今日は一体何なんだ。

    「どうしたの、一松。」
    「猫がいない!猫がいなくなった!!」
    「…はい?」
    「ね、ね…ねこ、ねこぉ…」

    あ、こっちも本格的に泣き出したぞ。
    実は十四松の次に涙腺緩いのって一松だよね。
    グスグスと涙を流す一松は胸に何かをしっかりと抱いている。
    一瞬こいつもアレな本か?!と戦慄したがどうやら違う。
    少しほっとした。
    それにしても猫がいなくなった?
    可愛がってる野良猫がいなくなっちゃったとか?
    そもそも一松が家に連れてくる猫ってほんといろいろだし、どの猫が?
    …と、思ってたら「違う、そうじゃない」と首をブンブン横に振って
    一松が僕に差し出してきたのは、骨董屋の老店主から譲り受けた猫の蒔絵が入った経典入れ。

    「…え?!」
    「昨日は、ちゃんといたはずなんだけど…。」
    「え、いや…ど、どういうこと?!」
    「僕にもわかんない…。」

    そこには、蒔絵の装飾はそのままに中央に描かれていた猫の姿だけが忽然と消えた経典入れ。

    ……意味がわからない!

    え、何で猫の姿が消えてるの?!
    「猫がいなくなった」ってそういうことかよ!
    わかりにくいわ!と、いつものツッコミよろしく叫びそうになったけど
    口調が幼くなってるし、結構なダメージを受けてしまっているらしい一松を見て、なんとか飲み込んだ。
    そりゃそうだよね。
    あの日から、一松がすごく大事にこの経典入れを扱ってきたことを知っているし。
    とりわけ蓋に描かれた蒔絵の猫を一松はとても気に入っていた。
    その蒔絵の猫だけが忽然と消えてしまったとは一体どういうことだろう。
    誰かのイタズラか?
    …いや、こんな手の込んだイタズラをするような奴はうちにはいない、と思う。
    それに、この経典入れのことを知っているのは一松の他には僕だけだと思うし。

    「と、とりあえず!明日になってもこのままだったら
     あの骨董屋に行って相談してみよう?
     僕も一緒に事情説明するからさ。」
    「うん…。」

    信じられないような馬鹿げた話だけど、あの骨董屋の老店主なら
    話を聞いてくれると謎めいた確信があった。
    元より、この経典入れは老店主が一松に譲った物だ。
    手渡した時にも思わせぶりな事を言っていたし、何か知ってるかもしれない。
    一松も少し落ち着いきたかな。

     にゃ〜

    ん?…今猫の鳴き声が聞こえなかったか?
    気のせい?

    「あれ?!にゃんこだ!」
    「…え?」

     にゃ~ん

    十四松の声の後に返事をするように足元から可愛らしい鳴き声。
    どうやら僕の気のせいではなかったようだ。
    一松と顔を見合わせて同時に下を向くと、そこには1匹の猫が一松の足に擦り寄っていた。
    銀灰色の綺麗な毛並みに金色の目。
    野良とは思えない、野良どころか浮世離れしてるというか
    まるで絵に描いたようなとても綺麗な猫。
    一松が連れてきたのかな?

    「一松兄さんの友達?」
    「いや…初めて会う…と、思う。」
    「あれー?そうなのー??」
    「うん。こんな綺麗な子、一度会ったら絶対忘れないし。」

    猫が相手だと普通にデレるのな、お前。
    一松が猫を抱き上げると、猫は嬉しそうに擦り寄った。
    一松も綺麗な猫にスリスリと擦り寄られて嬉しそうだ。
    十四松が「このにゃんこキレーっすね!」と猫を撫でている。
    綺麗な猫を抱き上げてすっかり落ち着きを取り戻し
    先程僕に泣きついた事が今更になって恥ずかしくなったのか
    目元を赤くした一松に消え入りそうな声で「ありがと…」と呟かれた。
    いつもそのくらい素直でいてくれるといいんだけどね!
    あ、それはそれでむず痒いな。やっぱりいつも通りでいいや。

    結局猫は夜になって、寝る時になるまでそのまま一松に寄り添っていた。
    不思議な猫だった。

    ーーー

    骨董屋の老店主から譲り受けた経典入れの箱に描かれていた猫が
    忽然と姿を消していた。
    パニックになって取り乱したままチョロ松兄さんに泣きついてしまった。
    今思い返すとだいぶ恥ずかしい。
    こういう時僕は無意識にチョロ松兄さんを頼ってしまうようだ。
    兄さんは僕をからかうでもなく、叱るでもなく
    優しく「明日骨董屋で相談してみよう」と僕を落ち着かせてくれた。
    この人こういう時は優しいんだよね、反則だと思う。
    後から知ったことだけど、僕が泣きつく直前に十四松も泣きついていたらしい。
    屋根裏に隠してた十四松のエロ本がボロボロになっていたそうだ。
    しかも屋根裏は鼠が潜んでいるのではないかという被害が見て取れたらしい。
    屋根裏に鼠?
    いつから住み着いていたんだろう。
    昨晩の物音も鼠の仕業なのかな。
    前々からいたなら友達の猫達が気付いていただろうし
    物音ももっと前から気づいていたはずだ。
    最近寄ってきたのは確かだと思うけど。
    チョロ松兄さんが鼠駆除の業者を呼んでくれと母さんに頼んでくれたらしい。
    さすがしっかりしてる。

    ところで、箱の猫がいなくなったのと入れ替わるように、綺麗な猫が僕の眼の前に現れた。
    すごく綺麗な猫。
    なめらかでキラキラした銀灰色の毛並みに金色の目。
    どことなく威厳を感じるシュッとした体躯。
    ずっと寄り添うようにして僕の傍にいる。
    何故かお風呂にもトイレにもついてこようとする。
    滅多に鳴き声もあげない。
    撫でてあげたり、抱っこしてあげるととても気持ちよさそうに目を細めるけど
    ご飯は食べようとしなかった。
    不思議な猫だ。なんだろう、初めて会うはずなのに…どこかで会ったような気がする。
    その猫は結局夜寝る時までずっと僕の傍にいた。
    布団の中に入ってもまるで見守るようにして枕元にちょこんと佇んでいる。
    銀灰色の毛並みが月明かりを浴びて光っている。
    綺麗だな…なんてボンヤリ考えながら眠りについた。

    どのくらい時間が経っただろうか。
    横並びに眠る6人全員が夢の中を漂っていたであろう深夜。
    また今日も天井から昨晩と同じような音が聞こえてきて、目が覚めた。

    ートタトタンッ

    ーガタッガリガリガリガリ…


    ーガタン!ゴトゴト

    なんか昨日より物音が派手じゃないか?
    思わず上体を起こし、天井を見上げた。
    他の兄弟も昨日と同じように次々と目を覚ました。

    「もぉ〜またぁ?明日僕予定あるのにぃ〜。」
    「鼠にしては煩すぎないか?何匹もいるとか?」
    「うげっ怖い事言うなよカラ松〜。」
    「スッゲー音してる!」
    「うーん…一応母さんが明日、鼠駆除の業者呼んでくれるらしいんだけど。」
    「あ…!」
    「うん?どうした一松。」

    ずっと枕元に佇んでいた銀灰色の猫が突如走り出した。
    勝手知ったる我が家とでもいうようにぴょこぴょこと家具や柱を飛び移り
    小さな隙間からあっという間に屋根裏へ入り込んだ。

    「え…屋根裏行っちゃった…。」
    「昼間の猫?」
    「うん…。」

    少しの間を置いて、先ほどよりも派手な物音。
    それに混ざる威嚇するような猫の唸り声。
    え、あの猫だよね?!何かと戦ってるの?
    てか、屋根裏は今どうなってるの?!
    猫は?!
    あの猫大丈夫?!

    「大丈夫だよ、一松。」
    「!」

    頭をポンポン、と優しく撫でられる感触。
    顔を上げると眉を下げて笑うチョロ松兄さんがいた。
    それだけで少し安心してしまう。

    天井からは尚もドスンバスンと音が響いている。
    なんとなく家も若干揺れているんじゃなかろうか。
    天井抜けないかな、これ。
    なんて思っていると、

    ーベキベキベキッ

    ードシャ

    「えええぇえ?!なんか上から降ってきたよ?!」
    「うわ天井!天井に穴あいた!!」
    「お、おおおお落ち着けブラザー!ひ、ひとまず明かりを点けよう!」
    「うん!お前も落ち着こうなカラ松!
     でもなんかテンパってるお前のおかげでお兄ちゃんちょっとだけ冷静になったわありがとう!」

    …本当に天井が抜けた。
    男6人ぎゃーぎゃーみっともなく喚きながらも、おそ松兄さんが電気を点けた。
    天井には大人1人通り抜けられそうなくらいの穴が開いて家の屋根の骨組みが丸見え状態。
    パラパラと木片やモルタルの欠片が降ってきている。
    そして、その開いた穴の真下には。

    「「「「「「うぉあああああぁああぁあ?!?!?!!」」」」」」

    さすが六つ子、ピッタリ同じタイミングで同じような叫び声。
    一ミリもズレがない見事なシンクロっぷり。
    成人男性6人が揃いも揃って情けない叫び声(しかも野太い)を上げてしまったわけだが許してほしい。
    深夜にご近所迷惑だね、死んで詫びます。
    でも本当、僕らの心中も察して頂きたい。
    天井にあいた穴の真下には、規格外な大きさの鼠さんの屍が横たわっていたのである。
    喉を噛まれたのか、血で畳が汚れている。
    いや、てか…え?これ鼠?!本当に?マジで鼠?!?!
    いやいやいや…おかしい。おかしいだろ。
    これ叫んでも仕方ないでしょ?!
    冷静でいられる方がおかしいでしょ?!

    いくらなんでも大型犬と同じくらいの鼠は怪奇現象レベルだと思います!!

     にゃ〜ん

    …猫の声?
    あ!そうだ、猫!!
    天井裏へ乗り込んでいった猫は?!
    慌てて天井の穴を覗き込むと、そこから銀灰色がピョコリと顔を出し
    トン、と床に着地した。
    あ、無事だった…よかった…。
    ていうか、この化け鼠はお前がやったのか?
    もうどうしたらいいか分からなくてその場にヘタリ込んだ僕の懐に猫が飛び込んできた。
    そのままスリスリと顔を僕の首に擦り付けるものだから
    心を落ち着けるために銀灰色の綺麗な毛並みを無心で撫で続ける。

    「ね、ねぇ…もしかしてこのどデカイ鼠…お前が退治したの?」
     にゃ〜

    まるで誇らしげに返事をするように猫が鳴く。
    と、銀灰色の猫は僕の頬に額を擦り付けるとすぅっと姿を消した。
    本日の怪奇現象その2である。

    「え…。」
    「え、き、消えた?」
    「消えた…ように見えた…けど。」
    「マジかよ。今日どうなってんの一体。」

    あまりの驚愕に襲われ、今度は叫び声を上げることすら出来なかった。
    それは他の兄弟も同じだったようで。
    兄弟がブツブツ言う中、僕はハッとして自分の私物をしまっている引き出しに手をかけた。

    どうして今まで気付かなかったんだろう。
    引き出しから、経典入れを取り出す。
    今日の昼間(いや、もう昨日かな)猫の蒔絵が消えて大騒ぎした経典入れ。
    そこには、骨董屋で譲り受けた時と、初めて見つけて店の前でじっと見ていた時と同じく
    蒔絵の猫がきちんと描かれている。
    銀灰色の毛並み。
    金色の目。
    威厳を感じるシュッとした体躯。
    間違いない。

    ーあの猫だ。

    老店主の言葉が蘇る。
    ー その猫は守り神だよ

    猫が…守ってくれたってこと?


    あの後、激しい物音と僕らの叫び声に何事かと様子を見に来た両親にチョロ松兄さんが必死で状況を伝えて
    僕らはとりあえず1階の居間に布団を敷いて寝ることになった。

    朝になって、母さんが呼んでくれた鼠駆除の業者が一応屋根裏を調べてくれたら
    屋根裏には鼠が20数匹潜んでいたらしい。
    あ、その鼠は通常サイズだったらしいけどね。
    化け鼠は業者の人もこんなの見た事ないって驚いてた。
    でも業者さんが屋根裏にいた通常サイズも大型犬サイズもまとめて処理してくれるそうだ。ありがたや。
    屋根裏の痛み具合や糞尿による汚れ具合を見ると住み着いたのは一週間経つか経たないかくらいで日は浅いらしい。
    それよりも気になったのは屋根裏にいた鼠の様子。
    怪我をした様子もないのに、全部息絶えていたそうだ。
    忙しなく屋内で作業していた業者の人も、鼠被害についてはもう大丈夫だろう
    仕事を終えて帰って行き、家の中は普段通りの平穏を取り戻しつつあった。
    天井は穴空いてるけど。

    経典入れの蓋には、今日もちゃんと綺麗な蒔絵の猫がいる。
    昨日のあれは見間違いだったのだろうか?
    …いや、そんなはずない。
    兄弟みんな猫を目撃している。
    昨日、屋根裏で一体何があったんだろう。

    ーーー

    「一松、出かけよう。」
    「え…」
    「気になることあるんだ。あの骨董屋に行ってみようよ。」
    「わかった。」

    昨晩の鼠騒動が落ち着いて、各々自由に平日の昼間を謳歌している中、僕は一松に声をかけた。
    突然屋根裏へ飛び込んで、馬鹿でかい鼠が降ってきて、そして一松に擦り寄って、消えた猫。
    その後一松が取り出した経典入れには、いなくなったはずの猫が戻ってきていた。
    よく見たら、その猫は昨日一松に寄り添っていた猫にそっくりなのだ。
    一松もそれにもちろん気付いている。

    もうワケがわからない。ワケが分からないけど、どうも経典入れの猫が関係しているらしい事はなんとなく推測できた。
    だから、骨董屋の老店主に話を聞いてもらおうと思ったのだ。
    何かわかるかもしれないし、わからないままかもしれないけど、何故だか店主には話しておきたかった。


    店の中に入ると、そこにいたのは老店主ではなく、女性の姿だった。
    咄嗟に一松が僕の背後に隠れた。
    …いや、お前な。人見知りも大概だぞ。
    女性は僕らを見ると、にこりと微笑み、
    「あら…ひょっとしてあなた方がチョロ松くんと一松くんかしら?」
    とゆったり話しかけてきた。
    笑顔も語り口もあの老店主によく似ていた。

    話を聞くと、この女性は老店主の娘さん。
    老店主が体調を崩ししばらく入院になったため、整理も兼ねて店番を買って出たそうだ。
    僕らのことは、店主がよく話題に出していてすぐにわかったらしい。
    入院、と聞いて背中に張り付いた一松の身体が強ばったのがわかった。
    お見舞いに行けないか聞いてみると、女性は穏やかな笑みはそのままに
    「是非行ってあげてほしい」と僕らに入院先を教えてくれた。
    女性が僕らが購入した猫の根付をまた見せてくれたから
    今度は僕が赤色の首輪をしたやつと、青色の首輪をした猫を買った。

    心ばかりの見舞いの品を手に、僕と一松は骨董屋へ訪れたその足でそのまま病院へ向かった。
    病室は4人部屋で、その中の窓際で1番奥が老店主のベッドだった。

    「おや…来てくれたのかい?
     娘から聞いたのかな。」
    「あ…えっと、はい。」
    「そうか、来てくれてありがとう。
     ちょうど少し散歩したいと思っていたんだよ。中庭に行かないかい。」
    「あ、はい。」

    病院の中庭は手入れが行き届いていた。
    入院患者の憩いの場になっているのだろう。
    中庭のベンチに腰掛けると、老店主は「何か話があって来たんだろう?」といつもの穏やかな笑みを向けた。
    どうやら何もかもお見通しだったようだ。
    老店主に促され、一松がたどたどしく昨日の一連の事件を語った。
    一昨日の夜に屋根裏から物音がしたこと。
    次の日、つまり昨日、経典入れの箱から蒔絵の猫が消えていたこと。
    それと入れ違いで蒔絵の猫と同じ銀灰色の綺麗な猫が現れて、ずっと傍を離れなかったこと。
    夜、天井裏から化け鼠が降ってきて!どうやらそれを昨日現れた猫が退治したらしいこと。
    猫が突然消えてしまい、経典入れの箱は元通り猫が描かれていたこと。
    ちょいちょい僕が助け舟を出しながら、なんとか話し終えた。

    僕らの話に黙って耳を傾けてくれていた老店主は
    話を聞き終えるなりまた不思議な言い伝えを教えてくれた。

    「猫王って知っているかい?」
    「ねこおう?」
    「猫の王様、猫王。」

    西の国から中国に献上された猫を夜、誰もいない部屋に
    二重の鉄籠に入れて置いておくと、次の朝に鼠が猫の周りにひれ伏して死んでしまうんだ。
    鼠は猫の威光に引き寄せられて、拝み伏しながら死んでしまう。
    その猫は猫王と呼ばれるらしいよ。
    その経典入れに描かれた猫は、きっと猫王なのさ。
    鼠に狙われていることに気付いて、君達を守るために箱から抜け出したんじゃないかな。
    不思議な話だろう?
    …けどね、これは必然だと思うよ。

    「どうして、必然だと?」
    「何故なら、一松くんが私の店の存在に気付いたからさ。」
    「………ん?え、はい?」
    「私の店はね、普通に過ごしている人はまず気付かない。
     君達が話してくれたような怪異に近づいたり
     君のように品に選ばれて呼ばれた人が訪れる場所なのさ。」
    「えーと、つまり…一松はこの猫王に呼ばれたから店の存在に気付いた?」
    「そう。君は普段から猫を大切にしているのだろうね。」
    「………。」

    老店主の言葉に、初めて骨董屋を訪れた日の事を思い出す。
    あの日、一松は魅入られたかのように瞬きも忘れてじっと猫の箱を見つめていた。
    僕はたまたまそれに巻き込まれたわけか。
    そういえば、トド松に店の場所教えたけど「見つけられなかった、ホントに合ってんの?」と言われたことあったな。
    突飛な話なのだけど、この老店主の口から聞くと何故か信じてしまう。
    自分が実際にそういう不思議体験をしてしまった後だからというのもあるけど。

    「お礼…。」
    「うん?」
    「猫に、お礼するには、どうしたらいいの…。
     昨日は、抜け出してきた猫、撫でたりはできたけど、ご飯は食べなかったし…。」
    「ははは、優しい子だね。
     普通の猫を可愛がるのと同じようにしてあげればいいんだよ。
     きっとこの猫王はこれから先も君に構ってほしい時に箱から抜け出すだろうから
     その時にうんと可愛がってあげればいいのさ。」
    「わ、わかった…!」

    それから少し話をして、僕らは病院を後にした。
    僕も一松も無言だった。
    やがて見慣れた河川敷まで来たところで、ふいに一松が口を開いた。

    「…なんか、現実離れした話だった…。」
    「そうだね。僕も自分が体験してなかったら絶対作り話だと思うよ。」
    「…ん。実際見ちゃったんだもんね。」
    「ほんとだよ…なんかもうすっごい疲れた。」
    「これから先も…こんな事に巻き込まれるのかな…。」
    「え?!」
    「いや…僕が猫王と一緒にいる限り、そんな気が、する…。」
    「ほんとに有り得そうだからやめて一松!」

    あれから、老店主が言っていたように経典入れに描かれた蒔絵の猫は
    度々箱から抜け出しては一松に擦り寄っているところが目撃された。
    そして、一松の予想もその通りで、僕らは度々不思議な出来事に遭遇するようになるのだがそれはまた別の話。

    次に骨董屋へ行った時、店は既に無くなっていた。
    ガラス張りのショーウィンドウから中を覗くと、そこは空っぽでなにもなかった。
    まるで随分前から空き店舗だったかのような佇まいすら感じた。
    店じまいするって聞いていたから当然なのだけど、こうして目の前にしてみるとやはり寂しい。
    隣に立つ一松も同じ思いだったのか、少し俯いていた。

    「一松、もう行こうか。」
    「…ん。」

    帰りにコンビニで肉まんでも買ってこうかな。

    あの老店主に会うことは、もうないのだろう。
    焼きナス
  • 三男と四男がLINEしてる #おそ松さん #年中松 #チョロ松 #一松 ##チョロ松と一松の話

    ご注意
    ・年中松のLINE風味
    ・年中松がgdgd駄弁ってるだけ
    ・wとか大量発生してる
    ・ちょっと下品な部分も有
    ・LINEアカウント乗っ取りネタ
    ・次男がかわいそう
    ・キャラ崩壊

    なんでも許せる方はどうぞ読んでやってください。





    一松:チョロ松兄さん

    一松:ちょっと聞いて

    チョロ松:何?

    一松:クソ松のLINEアカウントが乗っ取られたっぽいんだけどwwwww

    チョロ松:は?!!

    チョロ松:何それマジで?

    一松:現在同時進行でハッカーさんと会話中なうwww

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    カラ松:何してますか?忙しいですか?手伝ってもらってもいいですか?

    一松:は?

    カラ松:近くのコンビニエンスストアでweb moneyのプリペイドカード買うのを手伝ってもらえますか?

    一松:いや、何?

    カラ松:よろしければ、すぐ買っていただきたいです。

    一松:だからなんなの

    カラ松:10000点のカードを10枚買っていただきたいです。
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:ちなみにクソ松は居間で鏡見てて携帯いっこも触ってない

    チョロ松:ファーーーーwwwww

    チョロ松:完全に詐欺じゃねーかwwwwwなに乗っ取られてんだよwwwwバカかよあいつwwwwパスワードちゃんと設定しとけよwww

    一松:バカでしょw

    チョロ松:知ってたw

    チョロ松:てか、カラ松のアカウント乗っ取るとか、ハッカー乙としか言いようがないwwww

    チョロ松:そんなお願い聞いてくれる人が友だち登録されてるワケがないwwww

    一松:それなwww

    一松:ねえどうしようwwこれどうしようwwwww

    チョロ松:どうしようって、スルーしろよw

    一松:いや、なんかしつこいんだよ

    一松:それにほら、一応兄弟のアカウント乗っ取ったわけですし?俺のこと騙そうとしてるわけですし?

    一松:ちょっとお仕置きが必要かなって

    チョロ松:>お仕置き<

    一松:徹底的に応戦する構え

    チョロ松:お前さては暇なだけだろ

    一松:まあぶっちゃけそうなんだけど

    チョロ松:そうなのかよ

    一松:いやでもね?ほんとハッカーさん頑張っててさ…クソ松よりうぜぇ

    チョロ松:ちょwwwww

    一松:ってことで適当にあしらいたいんだけど、どうせなら精神的ダメージ与えられないかなって

    チョロ松:おまwwちなみに今ハッカーとはどうなってんの?

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    カラ松:近くにコンビニがありますか?

    カラ松:コンビニでプリペイドカード買ってください

    カラ松:コンビニが近くにありますか

    カラ松:コンビニで買えます

    一松:ちょっと待って

    カラ松:コンビニで買ってください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:必死過ぎwwコンビニへの異常な執着なんなの?

    チョロ松:これはひどいwwwwコンビニwww

    チョロ松:買ってくる振りだけしてあげたらちょっとは大人しくなるんじゃないの

    一松:そうする

    一松:ちょっと待ってて

    チョロ松:了解www

    チョロ松:僕のとこにもなりすましカラ松から何か来ないかなwww

    チョロ松:あ、一応後でパスワードもう少し複雑なのに設定し直そう…

    一松:ただいまー

    チョロ松:おかえりー

    一松:カラ松(偽)は本物以上に日本語が通じない模様

    一松:俺とのやりとり終わったらそっち行くかもよ

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:今から買ってくるから

    カラ松:お願いします

    一松:ちなみにどこのコンビニがいいの?○ーソン?ファ○マ?セ○ンイレブン?あとは…サン○スとか?

    一松:あ、でも全部近くにはないね

    カラ松:どこでもいいです

    カラ松:早く

    一松:ちゃんと指定してよ

    一松:プリペイドカードとか買ったことないから分からないんだけど

    一松:どのコンビニ?指定しろ

    カラ松:10000点を10枚

    一松:指定しろって

    カラ松:早くしてください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:クソ松との会話の方がまだマシだわwwww

    チョロ松:これさぁ、多分だけど日本語圏じゃない人だろ

    一松:あーやっぱりそう思う?そんな気がしてた

    一松:まだ通知くるwwwしつけぇな構ってちゃんかよwwwうちの長男かよwwww

    チョロ松:おまwwwwやめろよ想像したじゃねーかwwwww

    チョロ松:クズ長男がアカウント乗っ取ってなりすましからの詐欺を働いて最終逮捕されてワイドショーを賑わすところまで想像した

    一松:想像力豊か過ぎwwwwしかも逮捕されてんのかよwwww

    チョロ松:さらばクズ長男wwww

    一松:おそ松兄さんカワイソスwwwあ、画像送れだって

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:コンビニ着いた

    カラ松:はい

    一松:今10枚は買えそうにないから、とりあえず3枚でいい?

    カラ松:それでいいです

    一松:買ってきた

    一松:で、どうするの

    カラ松:写真とって画像を載せてください

    一松:わかったちょっと待って
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:もちろん買ってないしコンビニすら行ってないけどな

    チョロ松:僕がクズ長男逮捕の想像してる間に進展してる

    一松:まだそれ引っ張るのww

    チョロ松:てか、偽物って分かってるのに名前がカラ松なせいで草不可避

    一松:それな

    一松:本物はまだ鏡を見てる

    チョロ松:いい加減気づけよあいつw

    一松:まあでも、これで準備は整った

    チョロ松:お、おいまさか…

    一松:今からハッカーを誘惑してくる

    チョロ松:>誘惑<

    一松:フヒヒww行ってくるwww

    チョロ松:行ってらーw





    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:画像あげてほしい?

    カラ松:あげてください

    一松:だったらおねだりしてみろよ

    カラ松:写真

    一松:だーかーら、写真くださいって可愛らしくおねだりしたらあげてやるって

    一松:やらないなら載せねーぞ

    カラ松:え

    カラ松:写真あげてください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:ざけんなもっとちゃんとお願いしろよ

    カラ松:どうやってですか

    一松:お願いします写真ください一松様って

    カラ松:お願いします写真ください一松様

    一松:誠意が感じられない。やり直し

    カラ松:お願いします僕に写真ください一松様!

    一松:ん〜?聞こえないな〜??

    カラ松:お願いします!僕に写真ください!一松様!!
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:へぇ〜そんなに欲しいんだ

    カラ松:欲しい

    一松:ああ?何偉そうな口聞いてやがる

    カラ松:欲しいです

    一松:この卑しい汚豚が!!

    カラ松:写真まだ

    一松:豚が勝手に発言してんじゃねぇ

    カラ松:ごめんなさい
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:写真恵んで欲しいんだろ?

    カラ松:この卑しい汚豚にお恵みください一松様!

    一松:よし、褒美だ受け取れ

    一松:【近所の可愛らしい子猫の写真】

    一松:【猫カフェの看板猫がくつろいでる写真】

    一松:感謝しろよ
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    カラ松:カードの写真は

    一松:あ?

    カラ松:カードの写真ください

    一松:なにその口の聞き方

    カラ松:カードの写真をお恵みください一松様!

    一松:ほらよ

    一松:【なんだかとてもいかがわしいナニカの写真】
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:【明らかに発禁モノなナニカの写真】

    一松:【♂同士がナニやってるっぽいいかがわしい写真】

    …以下、アレな写真が続く




    一松:ほーら、まだ足りないのかな〜?

    カラ松:カードの…

    カラ松:もういいですごめんなさい許してください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:これが欲しかったんでしょ?

    カラ松:ちがう

    一松:あ?

    カラ松:ごめんなさい

    カラ松:もういいです

    一松:遠慮するなよほらまだあるから

    一松:【なんかもう色々エグい写真】

    カラ松:ごめんなさい

    一松:【なんかもう色々ヤバい写真】

    ー カラ松 が退出しました ー
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:撃退成功

    チョロ松:なwwにwwwwやってwwwwんwwwだwwwwww

    チョロ松:ファーーーーwwwwwwwwwww

    一松:突然の大草原ww

    チョロ松:いやお前、これ誘惑じゃねーよ調教だよw

    チョロ松:調教っていうか女王様プレイじゃねーかwwwいつかの一松様ご降臨じゃねーかwwwwww

    チョロ松:カラ松(偽)は何乗っかってんだよアホだろwwww

    一松:チョロ松兄さん笑い過ぎw

    チョロ松:ところでアレな写真どうしたの

    一松:ネットで適当に拾ってきた

    一松:猫は自分で撮ったやつだけど

    チョロ松:それにしてもハッカー相手に女王様プレイとかww

    チョロ松:あーやべー笑ったw腹痛いwww

    チョロ松:ハッカー哀れw

    一松:あんだけしつこかったクセして意外と耐性がなかった

    チョロ松:延々とあんな画像見せられたらそうなるわ!

    一松:とりあえず、スクショを六つ子のグループに投下してアカウント乗っ取られ報告をしておこうと思う

    一松:枚数多いからノートでも作ろうかな

    チョロ松:おまwww

    チョロ松:まぁ、乗っ取られてることは教えてあげた方がいいね

    チョロ松:て、あれ?

    一松:ん?

    チョロ松:ねえ、今カラ松何してる?

    一松:クソ松?居眠りしてるけど

    チョロ松:

    一松:え、まさか

    チョロ松:カラ松(偽)がwwwこっちにwwwきたんだけどwwwww

    一松:ちょwwwww


    お粗末!
    続きません!!
    #おそ松さん #年中松 #チョロ松 #一松 ##チョロ松と一松の話

    ご注意
    ・年中松のLINE風味
    ・年中松がgdgd駄弁ってるだけ
    ・wとか大量発生してる
    ・ちょっと下品な部分も有
    ・LINEアカウント乗っ取りネタ
    ・次男がかわいそう
    ・キャラ崩壊

    なんでも許せる方はどうぞ読んでやってください。





    一松:チョロ松兄さん

    一松:ちょっと聞いて

    チョロ松:何?

    一松:クソ松のLINEアカウントが乗っ取られたっぽいんだけどwwwww

    チョロ松:は?!!

    チョロ松:何それマジで?

    一松:現在同時進行でハッカーさんと会話中なうwww

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    カラ松:何してますか?忙しいですか?手伝ってもらってもいいですか?

    一松:は?

    カラ松:近くのコンビニエンスストアでweb moneyのプリペイドカード買うのを手伝ってもらえますか?

    一松:いや、何?

    カラ松:よろしければ、すぐ買っていただきたいです。

    一松:だからなんなの

    カラ松:10000点のカードを10枚買っていただきたいです。
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:ちなみにクソ松は居間で鏡見てて携帯いっこも触ってない

    チョロ松:ファーーーーwwwww

    チョロ松:完全に詐欺じゃねーかwwwwwなに乗っ取られてんだよwwwwバカかよあいつwwwwパスワードちゃんと設定しとけよwww

    一松:バカでしょw

    チョロ松:知ってたw

    チョロ松:てか、カラ松のアカウント乗っ取るとか、ハッカー乙としか言いようがないwwww

    チョロ松:そんなお願い聞いてくれる人が友だち登録されてるワケがないwwww

    一松:それなwww

    一松:ねえどうしようwwこれどうしようwwwww

    チョロ松:どうしようって、スルーしろよw

    一松:いや、なんかしつこいんだよ

    一松:それにほら、一応兄弟のアカウント乗っ取ったわけですし?俺のこと騙そうとしてるわけですし?

    一松:ちょっとお仕置きが必要かなって

    チョロ松:>お仕置き<

    一松:徹底的に応戦する構え

    チョロ松:お前さては暇なだけだろ

    一松:まあぶっちゃけそうなんだけど

    チョロ松:そうなのかよ

    一松:いやでもね?ほんとハッカーさん頑張っててさ…クソ松よりうぜぇ

    チョロ松:ちょwwwww

    一松:ってことで適当にあしらいたいんだけど、どうせなら精神的ダメージ与えられないかなって

    チョロ松:おまwwちなみに今ハッカーとはどうなってんの?

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    カラ松:近くにコンビニがありますか?

    カラ松:コンビニでプリペイドカード買ってください

    カラ松:コンビニが近くにありますか

    カラ松:コンビニで買えます

    一松:ちょっと待って

    カラ松:コンビニで買ってください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:必死過ぎwwコンビニへの異常な執着なんなの?

    チョロ松:これはひどいwwwwコンビニwww

    チョロ松:買ってくる振りだけしてあげたらちょっとは大人しくなるんじゃないの

    一松:そうする

    一松:ちょっと待ってて

    チョロ松:了解www

    チョロ松:僕のとこにもなりすましカラ松から何か来ないかなwww

    チョロ松:あ、一応後でパスワードもう少し複雑なのに設定し直そう…

    一松:ただいまー

    チョロ松:おかえりー

    一松:カラ松(偽)は本物以上に日本語が通じない模様

    一松:俺とのやりとり終わったらそっち行くかもよ

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:今から買ってくるから

    カラ松:お願いします

    一松:ちなみにどこのコンビニがいいの?○ーソン?ファ○マ?セ○ンイレブン?あとは…サン○スとか?

    一松:あ、でも全部近くにはないね

    カラ松:どこでもいいです

    カラ松:早く

    一松:ちゃんと指定してよ

    一松:プリペイドカードとか買ったことないから分からないんだけど

    一松:どのコンビニ?指定しろ

    カラ松:10000点を10枚

    一松:指定しろって

    カラ松:早くしてください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:クソ松との会話の方がまだマシだわwwww

    チョロ松:これさぁ、多分だけど日本語圏じゃない人だろ

    一松:あーやっぱりそう思う?そんな気がしてた

    一松:まだ通知くるwwwしつけぇな構ってちゃんかよwwwうちの長男かよwwww

    チョロ松:おまwwwwやめろよ想像したじゃねーかwwwww

    チョロ松:クズ長男がアカウント乗っ取ってなりすましからの詐欺を働いて最終逮捕されてワイドショーを賑わすところまで想像した

    一松:想像力豊か過ぎwwwwしかも逮捕されてんのかよwwww

    チョロ松:さらばクズ長男wwww

    一松:おそ松兄さんカワイソスwwwあ、画像送れだって

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:コンビニ着いた

    カラ松:はい

    一松:今10枚は買えそうにないから、とりあえず3枚でいい?

    カラ松:それでいいです

    一松:買ってきた

    一松:で、どうするの

    カラ松:写真とって画像を載せてください

    一松:わかったちょっと待って
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:もちろん買ってないしコンビニすら行ってないけどな

    チョロ松:僕がクズ長男逮捕の想像してる間に進展してる

    一松:まだそれ引っ張るのww

    チョロ松:てか、偽物って分かってるのに名前がカラ松なせいで草不可避

    一松:それな

    一松:本物はまだ鏡を見てる

    チョロ松:いい加減気づけよあいつw

    一松:まあでも、これで準備は整った

    チョロ松:お、おいまさか…

    一松:今からハッカーを誘惑してくる

    チョロ松:>誘惑<

    一松:フヒヒww行ってくるwww

    チョロ松:行ってらーw





    一松:【スクリーンショット】
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    一松:画像あげてほしい?

    カラ松:あげてください

    一松:だったらおねだりしてみろよ

    カラ松:写真

    一松:だーかーら、写真くださいって可愛らしくおねだりしたらあげてやるって

    一松:やらないなら載せねーぞ

    カラ松:え

    カラ松:写真あげてください
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    一松:【スクリーンショット】
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    一松:ざけんなもっとちゃんとお願いしろよ

    カラ松:どうやってですか

    一松:お願いします写真ください一松様って

    カラ松:お願いします写真ください一松様

    一松:誠意が感じられない。やり直し

    カラ松:お願いします僕に写真ください一松様!

    一松:ん〜?聞こえないな〜??

    カラ松:お願いします!僕に写真ください!一松様!!
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:へぇ〜そんなに欲しいんだ

    カラ松:欲しい

    一松:ああ?何偉そうな口聞いてやがる

    カラ松:欲しいです

    一松:この卑しい汚豚が!!

    カラ松:写真まだ

    一松:豚が勝手に発言してんじゃねぇ

    カラ松:ごめんなさい
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:写真恵んで欲しいんだろ?

    カラ松:この卑しい汚豚にお恵みください一松様!

    一松:よし、褒美だ受け取れ

    一松:【近所の可愛らしい子猫の写真】

    一松:【猫カフェの看板猫がくつろいでる写真】

    一松:感謝しろよ
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    カラ松:カードの写真は

    一松:あ?

    カラ松:カードの写真ください

    一松:なにその口の聞き方

    カラ松:カードの写真をお恵みください一松様!

    一松:ほらよ

    一松:【なんだかとてもいかがわしいナニカの写真】
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
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    一松:【明らかに発禁モノなナニカの写真】

    一松:【♂同士がナニやってるっぽいいかがわしい写真】

    …以下、アレな写真が続く




    一松:ほーら、まだ足りないのかな〜?

    カラ松:カードの…

    カラ松:もういいですごめんなさい許してください
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:【スクリーンショット】
    ーーーーーーーーーーーーーー
    一松:これが欲しかったんでしょ?

    カラ松:ちがう

    一松:あ?

    カラ松:ごめんなさい

    カラ松:もういいです

    一松:遠慮するなよほらまだあるから

    一松:【なんかもう色々エグい写真】

    カラ松:ごめんなさい

    一松:【なんかもう色々ヤバい写真】

    ー カラ松 が退出しました ー
    ーーーーーーーーーーーーーー

    一松:撃退成功

    チョロ松:なwwにwwwwやってwwwwんwwwだwwwwww

    チョロ松:ファーーーーwwwwwwwwwww

    一松:突然の大草原ww

    チョロ松:いやお前、これ誘惑じゃねーよ調教だよw

    チョロ松:調教っていうか女王様プレイじゃねーかwwwいつかの一松様ご降臨じゃねーかwwwwww

    チョロ松:カラ松(偽)は何乗っかってんだよアホだろwwww

    一松:チョロ松兄さん笑い過ぎw

    チョロ松:ところでアレな写真どうしたの

    一松:ネットで適当に拾ってきた

    一松:猫は自分で撮ったやつだけど

    チョロ松:それにしてもハッカー相手に女王様プレイとかww

    チョロ松:あーやべー笑ったw腹痛いwww

    チョロ松:ハッカー哀れw

    一松:あんだけしつこかったクセして意外と耐性がなかった

    チョロ松:延々とあんな画像見せられたらそうなるわ!

    一松:とりあえず、スクショを六つ子のグループに投下してアカウント乗っ取られ報告をしておこうと思う

    一松:枚数多いからノートでも作ろうかな

    チョロ松:おまwww

    チョロ松:まぁ、乗っ取られてることは教えてあげた方がいいね

    チョロ松:て、あれ?

    一松:ん?

    チョロ松:ねえ、今カラ松何してる?

    一松:クソ松?居眠りしてるけど

    チョロ松:

    一松:え、まさか

    チョロ松:カラ松(偽)がwwwこっちにwwwきたんだけどwwwww

    一松:ちょwwwww


    お粗末!
    続きません!!
    焼きナス
  • 【兄松】弟達が赤ちゃん化しました【頑張れ】 #おそ松さん #弟松 #赤ちゃん化

    ※2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。

    !注意!

    ・弟松が赤ちゃん化
    ・兄達が弟達を愛でている
    ・キャラ崩壊
    ・腐ってはいないはず
    ・キャラ崩壊
    ・何でも許せる方向け
    ・完全自己満足。誰得?私得!
    ・キャラ崩壊

    問題ないぜ!という方はどうぞ読んでやってください。

    ーーー

    [事の発端]

    「え…何コレどういうこと?!」

    にゃーちゃんのライブの帰り、浮かれ気分を引きずったまま家に帰ると
    居間には困った顔で座り込むカラ松の姿があった。
    そして、居間の奥には普段はあまり使わない布団が敷かれており、そこには小さな人影。
    小さな小さな赤ん坊が3人、仲良く並んで眠っていた。

    「おかえりチョロ松。」
    「ただいま。って、えっ?!いやどういうこと?!この子達は?」
    「説明するから声を抑えてくれ!ようやく眠ってくれたんだ。」

    カラ松に言われ、反射的にバッと口元をおさえた。
    カラ松はそれを見て満足そうに頷くと、声量を落とした低めのトーンで説明してくれた。

    事の発端は弟達が十四松に付き合って3人でデカパン博士の所に遊びに行ったことらしい。
    勘のいいそこの貴方ならお分かりだろう。
    そう、そこでうっかり怪しげな薬をモロに被ってしまったのだ。
    で、被った薬は若返り薬だったそうだが、大量に被った弟3人は文字通り生まれたての状態まで若返ってしまった。
    布団で寝ている赤ちゃん達は一松と十四松とトド松ってワケだ。
    うん、二次創作においてはありがちな展開!
    ちなみに現在、母さんとおそ松兄さんがオムツとか着替えとかミルクとか必要な物を買い出しに行っているそうだ。
    あのおそ松兄さんが西○屋で買い物とか笑える。
    何でも揃ってるしお手頃価格だし子育て世代には便利だよね、○松屋。とは後の長男の談である。
    お前言っとくけど子育て世代でもなんでもないからな。
    ただのクソニートだからな。

    「これ、薬の効果いつまで続くの?」
    「1年だそうだ。」
    「へぇー1年………。は?1年?!いちねん?!」
    「イエス、ワンイヤー。」
    「1年?!365日?!!!?!嘘だろ??!!!?!!」
    「おっ落ち着けブラザー!今年はオリンピックイヤーだから366日だ!」
    「そこじゃねえよ!!」

    ついつい声を荒げてしまい、ハッとする。
    気付いた時にはもう遅く、ふぇ…と小さな声が聞こえたかと思うと、真ん中に寝ていたトド松の目が開いた。
    起きちゃった…かと思ったらみるみるうちに真っ赤な顔になり、本格的に泣き出してしまった。
    その泣き声をきっかけに両隣の一松と十四松も目を覚まし、あっという間に泣き声の大合唱。
    あー、赤ちゃんの泣き声ってこんななのか。
    思ったより耳障りに感じないな、というのは一応兄弟だからなのだろうか。

    カラ松が慌てて3人をあやしている。
    僕もそれに倣って…と思ったけどどうすりゃいいんだこれ?!
    抱っこしようかとも思ったけど首もすわってないし、すごく小さくて触るのも怖い。
    オロオロしていると母さんとおそ松兄さんが帰ってきた。
    よかった!救世主だ!!

    「ただいま〜…って、弟達泣いてんじゃん!」
    「すまない、母さん助けてくれ…。」
    「あらあら…じゃあおそ松は一松抱っこして。カラ松は十四松、チョロ松はトド松ね。
     抱っこする時は頭をしっかり支えてね。腕全体で抱えるようにするのよ。」
    「えっ…うわ…想像以上に軽い…!」
    「それから、激しく揺さぶったりしちゃ絶対ダメよ?
     揺さぶられっ子症候群になっちゃうからね。
     優しくゆっくりユラユラさせていれば落ち着いてくるから。」
    「お〜、こうやって抱っこすんのか〜。一松〜?いい子だから泣きやもうなー。」
    「何も怖くないぞリトル十四松!」
    「トド松ー泣くなー。」

    母さんによるレクチャーを受け、ぎこちなくも言われた通り抱っこしてゆっくりと揺らすと、
    腕の中の小さなトド松はやがて泣き止んでうとうとし始めた。
    うわ可愛い。小っちゃくなった弟マジ可愛い。
    しかし、これが1年続くのか…。

    ということで、下3人は僕ら上3人で責任を持って世話することになったのでした。
    母さんはいざという時の相談役をお願いしている。
    おそ松兄さんによると薬のモニターと経過観察の協力という名目でデカパンから支援金をもらえるそうで、
    お金の心配は要らないらしい。
    ついでに検診や予防接種なんかもしてくれるそうだ。
    さすがのご都合主義だね!
    そしてこの時ばかりは全員ニートである事に感謝した。
    もし働いてたら世話なんてできないしね。

    斯くして、兄松による弟松育児生活が幕を開けたのであった。

    ーーー


    [0ヶ月目のある日その1]

    お「とりあえずミルクあげるか。」
    カ・チ「「ラジャー」」
    お「じゃあ俺トド松ね」
    チ「僕は一松に」
    カ「なら俺は十四松だな」

    お「温度は?」
    チ「オッケー人肌になった」
    お「よっしゃ。ほれ飲め。(ちょんちょん)」

    ………。

    カ「お、飲み終わった。」
    お「マジかよ十四松速っ!」
    チ「一松なんてまだ半分も飲んでないのに」
    お「トド松もまだ半分くら…って、おーい?!トド松ー!寝るな寝るな!」
    カ「よし、十四松はげっぷだな」
    お「トド松起きろー(哺乳瓶クルクル)」
    カ「(背中トントン)」
    十「けぷっ」
    カ「げっぷも出たな!十四松はしばらく休憩だ」
    チ「あ、一松も飲み終わったね、じゃあげっぷかー」

    お「トド松ー?ん、起きてる?!いややっぱり寝てるわ!こら!寝ながら飲むなってむせるぞ!」
    チ「はい、トントン…」
    一「げぽ…」
    チ「あ、げっぷ出た…ってなんか冷た…」
    カ「あ」
    チ「え、あ。ああぁあ!ミルク吐いた!うわ僕のパーカーミルクまみれ?!
      てか一松も着替えさせないと!いやそうじゃなくて大丈夫か一松?!」
    カ「落ち着けブラザー!大丈夫だ一松元気そうだから!」
    お「な〜…トド松がぜんっぜんげっぷしてくれねぇんだけど…つーかまた寝てるし」


    [0ヶ月目のある日その2]

    カ「よし、十四松。オムツを替えるぞ!」
    十「あー」
    カ「じゃあオムツ取るぞー(テープ剥がす)」
    十「(*゚▽゚)」

    カ「え…あ゛ああぁぁあぁああ!!」

    お「どしたカラ松?」
    カ「フッ…取り乱してすまない…
      リトルブラザーが放った聖水が俺の顔面を直撃してな…」
    チ「ドンマイ」

    ーーー

    [1ヶ月目のある日その1]

    ーピコッ!

    チ「ん?」

    ーピコッピョコッ

    お「何だ?うちにピコピコハンマーなんてあったっけ?」

    ーペコッ

    カ「何の音だ?」

    ーピコッ

    チ「…あ、音の出所わかった。トド松だ。」
    お「トド松?」

    ーピコッ…ピッ ピコッ

    お「ほんとだ…。」
    チ「つーか、これってもしかして…」
    カ「しゃっくり、か?」

    ーピコッペコッ

    お「ちょ、何だよこの可愛い音おおぉぉお?!
      しゃっくり可愛すぎかよおぉぉおおぉ?!!」
    カ「兄貴がついに母性に目覚めた…」
    チ「可愛いのは分かるけど母性はちょっと待て」


    [1ヶ月目のある日その2]

    チ「水道局から電話がきた」
    カ「え、なんでだ?」
    チ「『ご使用の水道量が先月に比べて急激に増えてますがお心当たりはございますか』って」
    お「それ絶対赤ちゃん化した弟達が原因だろ」
    カ「洗濯回数も風呂を沸かす回数も倍近くになったからな…」
    チ「うん。『心当たり超あります』って返したら
      『あ、じゃあ大丈夫です』て言われて終わった」
    お「心当たり無かったら水道管のトラブルだもんな」
    カ「大変だな、水道局員の人達も」

    ーーー

    [2ヶ月目のある日]

    ※ただいまミルク中

    お「最近ようやく睡眠時間が落ち着いてきたな…」
    カ「最初は寝かしつけるのも1時間以上かかってたしな」
    チ「で、せっかく寝てくれても昼夜関係なく1時間で起きちゃったりね」
    お「それに比べたら楽になったよな〜」
    チ「まぁ、大変なことも増えたけどね」
    お「例えば?」
    チ「抱っこ大変になった」
    カ「体重ふえたもんな!」
    チ「…あ」

    一「ぷぇっげほっ(もどした)」
    チ「ああぁ大丈夫か一松?!ちょっ、おそ松兄さんガーゼ取って!」
    お「はいよー。一松飲むの下手だな〜」
    カ「十四松はもう飲み終わったぞ」
    チ「相変わらず速いな十四松。一松、大丈夫?」
    一「うー(*^∇^*)」
    チ「!!!」
    カ「oh,angel smile…」
    お「んん〜か〜わいいな一松〜(なでなで)」
    チ「ああああああああ!僕の弟が!!こんなにも!!!天使!!!!知ってた!!!!」
    お「落ち着けって。なー?トド松〜」
    ト「あーう〜o(*^▽^*)o」
    十「キャッキャ♪(((o(*゚▽゚*)o)))」

    お・カ「ん゛ん゛っ!!」
    チ「てめーらもだよ!」

    ーーー

    [3ヶ月目のある日]

    お「大変だ!」
    カ「どうした?」
    チ「何かあったの?」

    お「弟達が…ついに…


      ついに、寝返りしましたー!」


    カ「おお!」
    チ「まじで?!」
    お「まじで!」
    チ「写真撮っとこう」
    お「仰向け→うつ伏せにしかなれないけどな。
      うつ伏せから動けなくなって助けを呼んで泣いてんのクソかわ」
    カ「今夜は赤飯だ!」
    お「よっしゃー!」
    チ「え…大げさすぎじゃね?」

    ーーー

    [4ヶ月目のある日]

    チ「最近オムツ漏れがひどい」
    お「確かに」
    カ「3人とも1日1回以上オムツ漏れして汚してるな」
    お「オムツ変えてみる?」
    チ「もう試した」
    カ「いつの間に」
    チ「サイズ変えてみたり、背中側を深めにあててみたり、別メーカーの試してみたり、
      色々試したんだけどさ!無駄でした!漏れるもんは漏れる!」
    お「じゃあもう仕方ないな」
    カ「ああ、仕方ないな…
      これは神が与えた試練として受け入れるしかなs…お「って言ってる間に!トド松お前その背中?!」
    ト「Σ(・∀・)?」
    カ「おうふ」
    チ「漏れてた」

    ーーー

    [5ヶ月目のある日]

    お「そろそろ離乳食を与えてみようと思います」
    カ「それについては異論はないが、何をあげたらいいんだ?」
    お「まずは十倍粥をスプーンひと匙からだってさ」
    チ「十倍粥とは」
    お「説明しよう!米1に対し水10で炊いて、更に米の形がないくらいドロドロのペースト状にすり潰した
      見た目は粥とはとても思えない粥のことだ!」
    カ「なるほど」
    お「ミルクをあげる前のタイミングで試すからなー!」

    お「トド松〜お粥だぞ〜」
    カ「十四ま〜つ、オープンユアマウス!」
    チ「一松、お粥食べてみよう」

    ト「あー(ぱくっ)」
    お「おっ!食べ…「(−д−lll)うぇ」…出した」

    十「あむっ(ぱくっごくんっ)」
    カ「お前はこういう点では1番手が掛からないな」

    一「……ん(ぱくっ)」
    チ「どう?一松」
    一「…………(ー∧ー)」
    チ「………」
    一「……(ごっ…くん)」
    チ「すごく…難しい顔をしながら慎重に食べたな…」

    お「一松と十四松は食べたな。えらいえらい!
    んじゃ、一松と十四松は明日も食べさせるか。
    トド松はもう何日かおいて再チャレンジしような」

    その後みんなちゃんとお粥食べれるようになりました。

    ーーー

    [6ヶ月目のある日]

    十「あーうー(ゴロゴロゴロゴロ)」
    ト「Σ(・ω・;)」
    十「あー(ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ)」
    ト「う゛ああぁぁ(ギャン泣き)」
    一「………(・д・)?」

    お「え、何この状況?」
    チ「十四松が転がって迫ってくるのにトド松がビビって泣きながら逃げてるのを、一松が眺めてる」

    ーーゴンッ

    十「……( ゚∀。)」
    ト「( ゚д゚)」
    一「(p_-)ムニャ…」

    お「え…」
    カ「十四松が転がり続けて壁にぶつかったぞ」
    チ「…動かないね」
    お「たぶん、反対方向には寝返り出来ないんだと思う」
    チ「なるほどね」
    カ「向きを変えてやるか…(ヒョイッ)」

    十「Σ(*゚▽゚*)」
    十「キャッキャ(ゴロゴロゴロ)」
    ト「Σ(゚д゚lll)」
    一「( ゚д゚)」
    ト「う゛あ゛ああぁぁ(ギャン泣き)」

    お「何このカオス」
    カ「いつの間にか寝返り返りもできるようになってたんだな…」
    チ「ちょっと面白過ぎるから動画撮っとこ」
    お「後で送って」

    ーーー

    お粗末様でした!
    #おそ松さん #弟松 #赤ちゃん化

    ※2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。

    !注意!

    ・弟松が赤ちゃん化
    ・兄達が弟達を愛でている
    ・キャラ崩壊
    ・腐ってはいないはず
    ・キャラ崩壊
    ・何でも許せる方向け
    ・完全自己満足。誰得?私得!
    ・キャラ崩壊

    問題ないぜ!という方はどうぞ読んでやってください。

    ーーー

    [事の発端]

    「え…何コレどういうこと?!」

    にゃーちゃんのライブの帰り、浮かれ気分を引きずったまま家に帰ると
    居間には困った顔で座り込むカラ松の姿があった。
    そして、居間の奥には普段はあまり使わない布団が敷かれており、そこには小さな人影。
    小さな小さな赤ん坊が3人、仲良く並んで眠っていた。

    「おかえりチョロ松。」
    「ただいま。って、えっ?!いやどういうこと?!この子達は?」
    「説明するから声を抑えてくれ!ようやく眠ってくれたんだ。」

    カラ松に言われ、反射的にバッと口元をおさえた。
    カラ松はそれを見て満足そうに頷くと、声量を落とした低めのトーンで説明してくれた。

    事の発端は弟達が十四松に付き合って3人でデカパン博士の所に遊びに行ったことらしい。
    勘のいいそこの貴方ならお分かりだろう。
    そう、そこでうっかり怪しげな薬をモロに被ってしまったのだ。
    で、被った薬は若返り薬だったそうだが、大量に被った弟3人は文字通り生まれたての状態まで若返ってしまった。
    布団で寝ている赤ちゃん達は一松と十四松とトド松ってワケだ。
    うん、二次創作においてはありがちな展開!
    ちなみに現在、母さんとおそ松兄さんがオムツとか着替えとかミルクとか必要な物を買い出しに行っているそうだ。
    あのおそ松兄さんが西○屋で買い物とか笑える。
    何でも揃ってるしお手頃価格だし子育て世代には便利だよね、○松屋。とは後の長男の談である。
    お前言っとくけど子育て世代でもなんでもないからな。
    ただのクソニートだからな。

    「これ、薬の効果いつまで続くの?」
    「1年だそうだ。」
    「へぇー1年………。は?1年?!いちねん?!」
    「イエス、ワンイヤー。」
    「1年?!365日?!!!?!嘘だろ??!!!?!!」
    「おっ落ち着けブラザー!今年はオリンピックイヤーだから366日だ!」
    「そこじゃねえよ!!」

    ついつい声を荒げてしまい、ハッとする。
    気付いた時にはもう遅く、ふぇ…と小さな声が聞こえたかと思うと、真ん中に寝ていたトド松の目が開いた。
    起きちゃった…かと思ったらみるみるうちに真っ赤な顔になり、本格的に泣き出してしまった。
    その泣き声をきっかけに両隣の一松と十四松も目を覚まし、あっという間に泣き声の大合唱。
    あー、赤ちゃんの泣き声ってこんななのか。
    思ったより耳障りに感じないな、というのは一応兄弟だからなのだろうか。

    カラ松が慌てて3人をあやしている。
    僕もそれに倣って…と思ったけどどうすりゃいいんだこれ?!
    抱っこしようかとも思ったけど首もすわってないし、すごく小さくて触るのも怖い。
    オロオロしていると母さんとおそ松兄さんが帰ってきた。
    よかった!救世主だ!!

    「ただいま〜…って、弟達泣いてんじゃん!」
    「すまない、母さん助けてくれ…。」
    「あらあら…じゃあおそ松は一松抱っこして。カラ松は十四松、チョロ松はトド松ね。
     抱っこする時は頭をしっかり支えてね。腕全体で抱えるようにするのよ。」
    「えっ…うわ…想像以上に軽い…!」
    「それから、激しく揺さぶったりしちゃ絶対ダメよ?
     揺さぶられっ子症候群になっちゃうからね。
     優しくゆっくりユラユラさせていれば落ち着いてくるから。」
    「お〜、こうやって抱っこすんのか〜。一松〜?いい子だから泣きやもうなー。」
    「何も怖くないぞリトル十四松!」
    「トド松ー泣くなー。」

    母さんによるレクチャーを受け、ぎこちなくも言われた通り抱っこしてゆっくりと揺らすと、
    腕の中の小さなトド松はやがて泣き止んでうとうとし始めた。
    うわ可愛い。小っちゃくなった弟マジ可愛い。
    しかし、これが1年続くのか…。

    ということで、下3人は僕ら上3人で責任を持って世話することになったのでした。
    母さんはいざという時の相談役をお願いしている。
    おそ松兄さんによると薬のモニターと経過観察の協力という名目でデカパンから支援金をもらえるそうで、
    お金の心配は要らないらしい。
    ついでに検診や予防接種なんかもしてくれるそうだ。
    さすがのご都合主義だね!
    そしてこの時ばかりは全員ニートである事に感謝した。
    もし働いてたら世話なんてできないしね。

    斯くして、兄松による弟松育児生活が幕を開けたのであった。

    ーーー


    [0ヶ月目のある日その1]

    お「とりあえずミルクあげるか。」
    カ・チ「「ラジャー」」
    お「じゃあ俺トド松ね」
    チ「僕は一松に」
    カ「なら俺は十四松だな」

    お「温度は?」
    チ「オッケー人肌になった」
    お「よっしゃ。ほれ飲め。(ちょんちょん)」

    ………。

    カ「お、飲み終わった。」
    お「マジかよ十四松速っ!」
    チ「一松なんてまだ半分も飲んでないのに」
    お「トド松もまだ半分くら…って、おーい?!トド松ー!寝るな寝るな!」
    カ「よし、十四松はげっぷだな」
    お「トド松起きろー(哺乳瓶クルクル)」
    カ「(背中トントン)」
    十「けぷっ」
    カ「げっぷも出たな!十四松はしばらく休憩だ」
    チ「あ、一松も飲み終わったね、じゃあげっぷかー」

    お「トド松ー?ん、起きてる?!いややっぱり寝てるわ!こら!寝ながら飲むなってむせるぞ!」
    チ「はい、トントン…」
    一「げぽ…」
    チ「あ、げっぷ出た…ってなんか冷た…」
    カ「あ」
    チ「え、あ。ああぁあ!ミルク吐いた!うわ僕のパーカーミルクまみれ?!
      てか一松も着替えさせないと!いやそうじゃなくて大丈夫か一松?!」
    カ「落ち着けブラザー!大丈夫だ一松元気そうだから!」
    お「な〜…トド松がぜんっぜんげっぷしてくれねぇんだけど…つーかまた寝てるし」


    [0ヶ月目のある日その2]

    カ「よし、十四松。オムツを替えるぞ!」
    十「あー」
    カ「じゃあオムツ取るぞー(テープ剥がす)」
    十「(*゚▽゚)」

    カ「え…あ゛ああぁぁあぁああ!!」

    お「どしたカラ松?」
    カ「フッ…取り乱してすまない…
      リトルブラザーが放った聖水が俺の顔面を直撃してな…」
    チ「ドンマイ」

    ーーー

    [1ヶ月目のある日その1]

    ーピコッ!

    チ「ん?」

    ーピコッピョコッ

    お「何だ?うちにピコピコハンマーなんてあったっけ?」

    ーペコッ

    カ「何の音だ?」

    ーピコッ

    チ「…あ、音の出所わかった。トド松だ。」
    お「トド松?」

    ーピコッ…ピッ ピコッ

    お「ほんとだ…。」
    チ「つーか、これってもしかして…」
    カ「しゃっくり、か?」

    ーピコッペコッ

    お「ちょ、何だよこの可愛い音おおぉぉお?!
      しゃっくり可愛すぎかよおぉぉおおぉ?!!」
    カ「兄貴がついに母性に目覚めた…」
    チ「可愛いのは分かるけど母性はちょっと待て」


    [1ヶ月目のある日その2]

    チ「水道局から電話がきた」
    カ「え、なんでだ?」
    チ「『ご使用の水道量が先月に比べて急激に増えてますがお心当たりはございますか』って」
    お「それ絶対赤ちゃん化した弟達が原因だろ」
    カ「洗濯回数も風呂を沸かす回数も倍近くになったからな…」
    チ「うん。『心当たり超あります』って返したら
      『あ、じゃあ大丈夫です』て言われて終わった」
    お「心当たり無かったら水道管のトラブルだもんな」
    カ「大変だな、水道局員の人達も」

    ーーー

    [2ヶ月目のある日]

    ※ただいまミルク中

    お「最近ようやく睡眠時間が落ち着いてきたな…」
    カ「最初は寝かしつけるのも1時間以上かかってたしな」
    チ「で、せっかく寝てくれても昼夜関係なく1時間で起きちゃったりね」
    お「それに比べたら楽になったよな〜」
    チ「まぁ、大変なことも増えたけどね」
    お「例えば?」
    チ「抱っこ大変になった」
    カ「体重ふえたもんな!」
    チ「…あ」

    一「ぷぇっげほっ(もどした)」
    チ「ああぁ大丈夫か一松?!ちょっ、おそ松兄さんガーゼ取って!」
    お「はいよー。一松飲むの下手だな〜」
    カ「十四松はもう飲み終わったぞ」
    チ「相変わらず速いな十四松。一松、大丈夫?」
    一「うー(*^∇^*)」
    チ「!!!」
    カ「oh,angel smile…」
    お「んん〜か〜わいいな一松〜(なでなで)」
    チ「ああああああああ!僕の弟が!!こんなにも!!!天使!!!!知ってた!!!!」
    お「落ち着けって。なー?トド松〜」
    ト「あーう〜o(*^▽^*)o」
    十「キャッキャ♪(((o(*゚▽゚*)o)))」

    お・カ「ん゛ん゛っ!!」
    チ「てめーらもだよ!」

    ーーー

    [3ヶ月目のある日]

    お「大変だ!」
    カ「どうした?」
    チ「何かあったの?」

    お「弟達が…ついに…


      ついに、寝返りしましたー!」


    カ「おお!」
    チ「まじで?!」
    お「まじで!」
    チ「写真撮っとこう」
    お「仰向け→うつ伏せにしかなれないけどな。
      うつ伏せから動けなくなって助けを呼んで泣いてんのクソかわ」
    カ「今夜は赤飯だ!」
    お「よっしゃー!」
    チ「え…大げさすぎじゃね?」

    ーーー

    [4ヶ月目のある日]

    チ「最近オムツ漏れがひどい」
    お「確かに」
    カ「3人とも1日1回以上オムツ漏れして汚してるな」
    お「オムツ変えてみる?」
    チ「もう試した」
    カ「いつの間に」
    チ「サイズ変えてみたり、背中側を深めにあててみたり、別メーカーの試してみたり、
      色々試したんだけどさ!無駄でした!漏れるもんは漏れる!」
    お「じゃあもう仕方ないな」
    カ「ああ、仕方ないな…
      これは神が与えた試練として受け入れるしかなs…お「って言ってる間に!トド松お前その背中?!」
    ト「Σ(・∀・)?」
    カ「おうふ」
    チ「漏れてた」

    ーーー

    [5ヶ月目のある日]

    お「そろそろ離乳食を与えてみようと思います」
    カ「それについては異論はないが、何をあげたらいいんだ?」
    お「まずは十倍粥をスプーンひと匙からだってさ」
    チ「十倍粥とは」
    お「説明しよう!米1に対し水10で炊いて、更に米の形がないくらいドロドロのペースト状にすり潰した
      見た目は粥とはとても思えない粥のことだ!」
    カ「なるほど」
    お「ミルクをあげる前のタイミングで試すからなー!」

    お「トド松〜お粥だぞ〜」
    カ「十四ま〜つ、オープンユアマウス!」
    チ「一松、お粥食べてみよう」

    ト「あー(ぱくっ)」
    お「おっ!食べ…「(−д−lll)うぇ」…出した」

    十「あむっ(ぱくっごくんっ)」
    カ「お前はこういう点では1番手が掛からないな」

    一「……ん(ぱくっ)」
    チ「どう?一松」
    一「…………(ー∧ー)」
    チ「………」
    一「……(ごっ…くん)」
    チ「すごく…難しい顔をしながら慎重に食べたな…」

    お「一松と十四松は食べたな。えらいえらい!
    んじゃ、一松と十四松は明日も食べさせるか。
    トド松はもう何日かおいて再チャレンジしような」

    その後みんなちゃんとお粥食べれるようになりました。

    ーーー

    [6ヶ月目のある日]

    十「あーうー(ゴロゴロゴロゴロ)」
    ト「Σ(・ω・;)」
    十「あー(ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ)」
    ト「う゛ああぁぁ(ギャン泣き)」
    一「………(・д・)?」

    お「え、何この状況?」
    チ「十四松が転がって迫ってくるのにトド松がビビって泣きながら逃げてるのを、一松が眺めてる」

    ーーゴンッ

    十「……( ゚∀。)」
    ト「( ゚д゚)」
    一「(p_-)ムニャ…」

    お「え…」
    カ「十四松が転がり続けて壁にぶつかったぞ」
    チ「…動かないね」
    お「たぶん、反対方向には寝返り出来ないんだと思う」
    チ「なるほどね」
    カ「向きを変えてやるか…(ヒョイッ)」

    十「Σ(*゚▽゚*)」
    十「キャッキャ(ゴロゴロゴロ)」
    ト「Σ(゚д゚lll)」
    一「( ゚д゚)」
    ト「う゛あ゛ああぁぁ(ギャン泣き)」

    お「何このカオス」
    カ「いつの間にか寝返り返りもできるようになってたんだな…」
    チ「ちょっと面白過ぎるから動画撮っとこ」
    お「後で送って」

    ーーー

    お粗末様でした!
    焼きナス
  • 再会した六つ子のその後の話【番外編2】 #おそ松さん #能力松 #弟松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・キャラ崩壊
    ・シリーズの番外編なので前作読んでないとよく分からない
    ・文章とっ散らかってる
    ・ご期待に添えた後日談になってない…かもしれないよ?
    ・兄松が弟松をとにかく愛でている
    ・キャラ崩壊

    ーーー


    side.I

    外出してみない?と言い出したのはトド松だった。

    (突然どうしたの。)
    (突然ってわけじゃないんだけどさ、ほら…僕ら外出ってしたことなかったじゃない?)
    (そりゃ、そうだけど…)
    (なになに?トド松でかけるの?)

    外出しなかったというより、出来なかったという方が正しい。
    十四松はともかく、一松とトド松は単独行動ができない。
    3人一緒に出掛ければいいのだが、自分は常時睡眠状態で車椅子のお友達だ。
    十四松もトド松も何も言わないだろうが、同じ顔をした兄弟が手を繋いだり
    車椅子を押して移動している姿は人目につくのではないか。

    (トド松は、外に出たいの?)
    (出たいっていうより、出れるようになりたい、てとこかな。
     いつまでも部屋の中に閉じこもって、兄さん達に甘えっぱなしなのは悪いし。)
    (おでかけ!おでかけ!)
    (…でも、人通りのある所は色々と受信しやすいでしょ。
     トド松は辛いんじゃないの。それに、僕は動けないし…。)
    (そうだけど!…一松兄さんと十四松兄さんとちょっとした散歩でもいいからしてみたいんだ。
     それに、もう能力の制御もできるんだし、人混みに行かなければ大丈夫。)
    (トド松がそう言うとなら止めないけど…。)
    (ね、だから外に出てみようよ、一松兄さん。)
    (…僕がついてったら変に人目につくんじゃないの。)
    (おれ、一松兄さんのくるまいすおすよー!)
    (もう!一松兄さんはそんな事気にしないでいいの!
     大丈夫だって。案外道行く人は見てないものだよ。)

    少し抵抗はあったが、十四松とトド松が外に行きたがってるなら止める必要はない。
    テレパシー能力を持つトド松が周りの人間の感情を受信してしまう事が心配だったが、
    トド松本人が大丈夫だというなら信じていいだろう。
    だが、わざわざ自分を連れていく必要はないのではなかろうか。
    ただの荷物にしかならないだろうに。
    それに自分では、いざという時に弟を守れない。

    (僕じゃなくて、兄さん達の誰かに付き添ってもらったらいいんじゃないの。)
    (だ!か!ら!僕は一松兄さんと十四松兄さんと出掛けたいの!
     おそ松兄さん達に頼らずに3人で出掛けたいんだよ。
     …ねぇ一松兄さん、ダメ?)
    (だめッスか、一松兄さん!)
    (うっ…。)

    2人の弟にそんな風に聞かれては、是と応えるしかない。
    十四松はともかく、トド松は絶対狙ってやってるだろ、さすがあざとい。
    そしてそれに絆される自分も大概だ。
    仕方ない、弟は無条件に可愛いものなんだし。
    弟に頼まれたらできる限り応えてあげたいものだし…。
    誘ってもらえた事が嬉しいだなんて決して思ったりしていない。
    …嘘です。嬉しい。ありがとうトド松。

    (わかったよ…。)
    (わぁい!ありがと一松兄さん♪)
    (ぃよっしゃあー!3人でおでかけー!!)
    (で、トド松どこか行きたい所あるの?)
    (んーとね、雑貨屋さん!)
    (雑貨屋…?)
    (うん、この近くにね、可愛い小物を売ってる雑貨屋があるんだって。)
    (ふーん…なんかトド松らしいね。十四松は?)
    (おれ?)
    (ん。十四松は行きたい所ある?)
    (おれはね、いっしょにおでかけできればそれでいいよ!)
    (そっか。…じゃあ、その雑貨屋に行くとして…いつ出掛ける?)
    (そうだね~。お昼頃なら人通りも少ないんじゃないかな。)
    (じゃあ明日、昼飯の後にでも行こうか。トド松、道案内とかは任せるからね。)
    (オッケー♪)

    ウキウキと楽しそうな十四松とトド松の様子に自分もなんだか楽しみになってくるから不思議だ。
    兄さん達に頼らずに、というのも分かる。
    自分の力だけでどこまで出来るのか試していくのは必要なことだと思う。
    ただ、あの過保護な兄達が何と言うかだが。





    「へぇ。お出掛けねぇ…。」
    「えっ…3人だけで大丈夫?」
    「俺達もついて行った方がいいんじゃないか?」

    明日3人で出掛ける事を話すと、カラ松とチョロ松兄さんは予想通り心配そうな顔をした。
    2人共こちらに身を乗り出して眉間に皺を寄せている。
    まったくこの兄達は本当に自分達に過保護だ。
    大切にしてくれてるのは素直にありがたいし嬉しいのだが
    (絶対そんな事口に出してやらないが)如何せん過保護が過ぎないか。
    おそ松兄さんはちゃぶ台に頬杖をついて、様子をうかがっている。

    「3人で出掛けたいの!僕達も子供じゃないんだし大丈夫だよ。」
    「いや、しかしだな…。」
    「何かあったらちゃんと報せるから!十四松兄さんも一緒なんだし大丈夫だって。」
    「それは、そうだろうけど…。」
    「いいんじゃね?行ってこいよ。」

    渋る次男と三男を遮って長男の声が響く。
    次男三男がまるで合わせ鏡のように綺麗に左右対称の動きで長男の方へ勢いよく振り返った。
    見事なシンクロぶりだ。
    そんな彼らを宥めるように、そして自分達を見て少し笑うと、長男が続けた。

    「3人で出掛けたいって言ってんだから、そうしてやりゃいいじゃん。
    こいつらだって障害持ちとはいえ成人男性なんだし、軽い散歩くらい大丈夫だろ。
    あ、言っとくけど心配してねーわけじゃねーよ?
    でもさぁ、何もかも俺達が先回りして世話してやるのも、おかしな話だもんな。
    ずっとそんな調子じゃ絶対こいつらの為になんねーもん。」

    おそ松兄さんのその言葉に、カラ松とチョロ松も「兄さんがそう言うなら…。」と納得してくれたようだ。
    こんな時にはこうして長男らしさを発揮するんだもんな、この人。

    「やった!ありがと、おそ松兄さん!」
    (一松兄さんとトド松とおでかけイェーイ!)
    「たーだーし!何か困った事があったらすぐに俺達呼べよ?
     自分達で対処出来る事、助けが必要になる事、きちんと見極められるようになっとけ。」
    (…分かった。)
    「よろしい。楽しんでおいで~。」
    「はーい!」
    「お、今の俺めっちゃ長男っぽくなかった?!なぁ、めっちゃお兄ちゃんぽくなかった?!」
    「はいはい…。」

    おそ松兄さんからOKが出たので、心置きなく出掛けられそうだ。
    せっかく長男だな、って思ってあげたというのに最後の最後で台無しだ。
    それがおそ松兄さんらしいけれども。
    …まぁ、兄達は絶対こっそりとついてくるだろうな、なんて考えながら
    嬉しそうな顔をしている十四松とトド松を眺めるのだった。

    ーーー

    side.T

    さて、翌日。
    少し遅めの昼食を終えたトド松は自身はもちろん、
    一松と十四松もバッチリとコーディネートして満足気に頷いた。
    一松兄さんったら僕の服を着るの渋っちゃって身体がカチコチになってたよ。
    結局十四松兄さんにひん剥かれて無理やり着せられたけどね。
    一松兄さんも十四松兄さんもバッチリ似合ってる!さすが僕。
    十四松がトド松の手を握って玄関まで向かう。
    一松はカラ松が背負って玄関に置かれた車椅子に座らせてくれた。

    「じゃあ行ってきまーす。」
    (行ってきマーッスル!マッスル!)
    (…行ってきます。)

    「気ぃつけてなー。」
    「暗くなる前に帰ってこいよ!」
    「行ってらっしゃい。」

    兄達に見送られて、3人は外へと繰り出した。

    陽射しが暖かい。
    心地良い風が吹いている。
    いつものように十四松が一松の車椅子を押している。
    トド松は十四松の左手に自らの右手を添えて並んで歩いた。
    人通りは少ない。
    ハタ坊が実質の統括者となっているこの町は少々閉鎖的ではあるものの平和だ。

    (えへへっ!そとあるくのたのしーッスな~!)
    (…ん。風が吹いてて気持ちいい。)
    (そうだね、いい天気でよかった~!)

    思えば、「いい天気」だなんて考える事も久しぶりだった。
    こうして陽射しと風を感じて歩くこともいつ以来だろう。
    しばらく歩いていると、やがて川沿いの道に出た。
    川面は穏やかで、太陽の光を反射して輝いている。
    バサバサと鳥が飛び立つ音が聞こえた。
    上を見上げると遠くの空に見える鳥の群れ。
    それを目で追っていると太陽が視界に入った。
    眩しさに視線を落とすと、今度は車椅子に乗った一松の頭が視界に入る。
    柔らかそうな髪がフワリと風に撫でられていた。

    (トド松、たのしそうだね!)
    (うん、楽しいよ♪)
    (そっかー!おれもたのしい!!)
    (えへへ、よかった。あ、そこの道曲がって。)
    (りょーかい!)
    (…結構歩いたけど、2人とも平気?疲れてない?)
    (よゆー!!)
    (僕も大丈夫だよ!)
    (そう…なら、よかった。)

    こんな風に兄弟で歩くのも初めてだ。
    十四松はとても楽しそうだし、こちらを気付かう一松もどことなく表情が穏やかだ。
    それだけで、トド松の心も軽くなった。

    川沿いの道から離れ、程なくしてお目当ての雑貨屋に到着した。
    控えめな看板は手作りなのかどこか温かみを感じさせた。
    店内に足を踏み入れると、奥から店員の「いらっしゃいませ」という声が聞こえた。
    こじんまりとした店内には所狭しと小物が並んでいる。
    女性向けな物が多いが、あまりフワフワだったりキラキラごてごてした物は無く、
    シンプルでスッキリした物が多い。

    (ねえ、見て見て!このストラップ可愛い!)
    (おー!ネコのかたちだ!)
    (猫…かわいい…。)

    洒落たテーブルには細々と小物が並べられていた。
    トド松が手にしたのは、猫のシルエットに象られたシルバーのチャームに小さな鈴が付いたストラップ。
    ストラップ部分を摘んで一松と十四松に向けて見せると、チリンと可愛らしい音をたてた。
    一松が興味を示しているので、手のひらに乗せてあげた。

    (ほかのどうぶつのカタチもあるよ!あ、これかわいい!トド松みたい!!)
    (えー?僕?…あ、じゃあこれは十四松兄さんかなー。)
    (フヒッ…確かに、2人に合ってる。)

    十四松が手にしたのは、ウサギの形。
    対して、トド松が手に取ったのは犬の形。コーギーだろうか。
    どちらも一松の手の上にある猫と同じように、シルエットがシルバーで象られたチャームだ。
    どうやら他にも色々な種類のチャームがあるようだ。

    (折角だしお揃いで買って帰ろうよ。)
    (うん!兄さん達のぶんもね!)
    (…いいんじゃない。僕、この猫のヤツがいい。)
    (じゃあ一松兄さんは猫ね。十四松兄さんはコーギーで、僕はウサギ!)
    (兄さん達は?)
    (うーん、そうだなー…。)
    (これ!これおそ松兄さん!)
    (うん?これ馬?)
    (おそ松兄さん競馬好きだもんね…。)
    (でねー、カラ松兄さんはこれで、チョロ松兄さんはこれ!)
    (いいと思うよ。…まぁ、十四松が選んだって聞いたら文句なんて言わないでしょ。)
    (だよね。じゃあそうしよっか♪)

    十四松が選んだのは、カラ松用がシェパードらしきシルエットで
    チョロ松用が羊の形のチャームだった。
    彼の不思議な独断と偏見が伺えるが、別に一松もトド松も異論はない。
    そもそもそこまでこだわってもいない。
    キャッキャと仲良く会話しながら(といっても脳内でのやり取りだったが)お揃いストラップ選びを終えると、
    店内の商品をぐるりと見て回って会計を済ませた。
    思いの外長いこと店内にいたのか、雑貨屋を出た時には日が傾きかけていた。
    店員には黙々とストラップを物色する超静かな客だと思われていたことだろう。
    その実は女子高生並の賑やかさであったが、それを知るのは当人達のみだ。
    再び川沿いの道に戻ってきた時は、川面はオレンジ色に染まっていた。
    夕日に染まるってこういうことなんだな、なんてボンヤリと考える。

    (一松兄さん、トド松!)
    (…ん。)
    (なぁに?十四松兄さん。)
    (きょうはたのしかったね!)
    (…そうだね。)
    (うん、楽しかった!)

    こんなに長い時間立ちっぱなしの歩きっぱなしだったのは初めてだったから
    少し疲れてしまったけど、なんだかその疲れすらも心地良い。
    6つ分のストラップが入った小さな紙袋を握り直す。

    (またでかけたいな!こんどは兄さんたちもいっしょに!)
    (…ん。)
    (そうだね。今度はみんなで行こう。いいでしょ?一松兄さん。)
    (…いいんじゃないの。)

    ゆっくりと一松の目が開いて、アメジストのような深い紫色の瞳が十四松とトド松を見つめた。
    …このタイミングで目を覚ますとか、反則でしょ。
    口元は僅かに上がっていて、微かな笑みを浮かべているのが分かる。
    一松の笑みに同じように笑みを返すと、隣を歩く十四松に顔を向ける。
    それに気付いた十四松もまた、鮮やかな蒸栗色の瞳を細めて明るく笑い返す。
    滅多に見れない、「兄」の顔をした十四松だ。
    夕陽に照らされた2人の兄の顔を、瞳を見て、ああ綺麗だな。と思った。

    「ね、絶対また行こうね!約束だよ。」
    「…わかった。約束。」
    (おれもー!やくそく!!)

    一松の細い小指に自らの小指を絡めて「約束」と言うと十四松も目を輝かせて手を差し出してきたので
    十四松の小指にも指を絡めた。
    元気よくブンブンと腕を振る十四松に笑って「痛いよ、十四松兄さん。」と返す。
    そんなに痛くもなかったけどね。

    「…兄さん達がそろそろ心配しそうだし、早く帰ろう。」
    「そうだね。」
    「…それに、腹減った。」
    (きょうのごはん、なにかなー?)

    そうだった。
    この兄が目を覚ますのは大抵が空腹を感じた時だ。
    小指と小指を絡めた時に感じた兄達の体温の余韻に浸りながら3人仲良く帰路についた。






    「何事も起こらずに終わりそうだな。よかった。」
    「ほんとな。終始ほのぼのした空気だったな~。はぁ、弟達マジかわ。何アレ天使?天使かな??」
    「ほら、家に戻ろう。もう一松達家に着いちゃうよ。」
    「お揃いの小物きゃいきゃいしながら選ぶとか俺の弟達くそかわ!」
    「ああ、エンジェル達があまりにピュアで俺の汚れたハートが浄化されたぜ…。」
    「いいから帰るぞ馬鹿兄共!」

    兄松はもちろん心配でずっと尾行してました。



    end.
    #おそ松さん #能力松 #弟松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・キャラ崩壊
    ・シリーズの番外編なので前作読んでないとよく分からない
    ・文章とっ散らかってる
    ・ご期待に添えた後日談になってない…かもしれないよ?
    ・兄松が弟松をとにかく愛でている
    ・キャラ崩壊

    ーーー


    side.I

    外出してみない?と言い出したのはトド松だった。

    (突然どうしたの。)
    (突然ってわけじゃないんだけどさ、ほら…僕ら外出ってしたことなかったじゃない?)
    (そりゃ、そうだけど…)
    (なになに?トド松でかけるの?)

    外出しなかったというより、出来なかったという方が正しい。
    十四松はともかく、一松とトド松は単独行動ができない。
    3人一緒に出掛ければいいのだが、自分は常時睡眠状態で車椅子のお友達だ。
    十四松もトド松も何も言わないだろうが、同じ顔をした兄弟が手を繋いだり
    車椅子を押して移動している姿は人目につくのではないか。

    (トド松は、外に出たいの?)
    (出たいっていうより、出れるようになりたい、てとこかな。
     いつまでも部屋の中に閉じこもって、兄さん達に甘えっぱなしなのは悪いし。)
    (おでかけ!おでかけ!)
    (…でも、人通りのある所は色々と受信しやすいでしょ。
     トド松は辛いんじゃないの。それに、僕は動けないし…。)
    (そうだけど!…一松兄さんと十四松兄さんとちょっとした散歩でもいいからしてみたいんだ。
     それに、もう能力の制御もできるんだし、人混みに行かなければ大丈夫。)
    (トド松がそう言うとなら止めないけど…。)
    (ね、だから外に出てみようよ、一松兄さん。)
    (…僕がついてったら変に人目につくんじゃないの。)
    (おれ、一松兄さんのくるまいすおすよー!)
    (もう!一松兄さんはそんな事気にしないでいいの!
     大丈夫だって。案外道行く人は見てないものだよ。)

    少し抵抗はあったが、十四松とトド松が外に行きたがってるなら止める必要はない。
    テレパシー能力を持つトド松が周りの人間の感情を受信してしまう事が心配だったが、
    トド松本人が大丈夫だというなら信じていいだろう。
    だが、わざわざ自分を連れていく必要はないのではなかろうか。
    ただの荷物にしかならないだろうに。
    それに自分では、いざという時に弟を守れない。

    (僕じゃなくて、兄さん達の誰かに付き添ってもらったらいいんじゃないの。)
    (だ!か!ら!僕は一松兄さんと十四松兄さんと出掛けたいの!
     おそ松兄さん達に頼らずに3人で出掛けたいんだよ。
     …ねぇ一松兄さん、ダメ?)
    (だめッスか、一松兄さん!)
    (うっ…。)

    2人の弟にそんな風に聞かれては、是と応えるしかない。
    十四松はともかく、トド松は絶対狙ってやってるだろ、さすがあざとい。
    そしてそれに絆される自分も大概だ。
    仕方ない、弟は無条件に可愛いものなんだし。
    弟に頼まれたらできる限り応えてあげたいものだし…。
    誘ってもらえた事が嬉しいだなんて決して思ったりしていない。
    …嘘です。嬉しい。ありがとうトド松。

    (わかったよ…。)
    (わぁい!ありがと一松兄さん♪)
    (ぃよっしゃあー!3人でおでかけー!!)
    (で、トド松どこか行きたい所あるの?)
    (んーとね、雑貨屋さん!)
    (雑貨屋…?)
    (うん、この近くにね、可愛い小物を売ってる雑貨屋があるんだって。)
    (ふーん…なんかトド松らしいね。十四松は?)
    (おれ?)
    (ん。十四松は行きたい所ある?)
    (おれはね、いっしょにおでかけできればそれでいいよ!)
    (そっか。…じゃあ、その雑貨屋に行くとして…いつ出掛ける?)
    (そうだね~。お昼頃なら人通りも少ないんじゃないかな。)
    (じゃあ明日、昼飯の後にでも行こうか。トド松、道案内とかは任せるからね。)
    (オッケー♪)

    ウキウキと楽しそうな十四松とトド松の様子に自分もなんだか楽しみになってくるから不思議だ。
    兄さん達に頼らずに、というのも分かる。
    自分の力だけでどこまで出来るのか試していくのは必要なことだと思う。
    ただ、あの過保護な兄達が何と言うかだが。





    「へぇ。お出掛けねぇ…。」
    「えっ…3人だけで大丈夫?」
    「俺達もついて行った方がいいんじゃないか?」

    明日3人で出掛ける事を話すと、カラ松とチョロ松兄さんは予想通り心配そうな顔をした。
    2人共こちらに身を乗り出して眉間に皺を寄せている。
    まったくこの兄達は本当に自分達に過保護だ。
    大切にしてくれてるのは素直にありがたいし嬉しいのだが
    (絶対そんな事口に出してやらないが)如何せん過保護が過ぎないか。
    おそ松兄さんはちゃぶ台に頬杖をついて、様子をうかがっている。

    「3人で出掛けたいの!僕達も子供じゃないんだし大丈夫だよ。」
    「いや、しかしだな…。」
    「何かあったらちゃんと報せるから!十四松兄さんも一緒なんだし大丈夫だって。」
    「それは、そうだろうけど…。」
    「いいんじゃね?行ってこいよ。」

    渋る次男と三男を遮って長男の声が響く。
    次男三男がまるで合わせ鏡のように綺麗に左右対称の動きで長男の方へ勢いよく振り返った。
    見事なシンクロぶりだ。
    そんな彼らを宥めるように、そして自分達を見て少し笑うと、長男が続けた。

    「3人で出掛けたいって言ってんだから、そうしてやりゃいいじゃん。
    こいつらだって障害持ちとはいえ成人男性なんだし、軽い散歩くらい大丈夫だろ。
    あ、言っとくけど心配してねーわけじゃねーよ?
    でもさぁ、何もかも俺達が先回りして世話してやるのも、おかしな話だもんな。
    ずっとそんな調子じゃ絶対こいつらの為になんねーもん。」

    おそ松兄さんのその言葉に、カラ松とチョロ松も「兄さんがそう言うなら…。」と納得してくれたようだ。
    こんな時にはこうして長男らしさを発揮するんだもんな、この人。

    「やった!ありがと、おそ松兄さん!」
    (一松兄さんとトド松とおでかけイェーイ!)
    「たーだーし!何か困った事があったらすぐに俺達呼べよ?
     自分達で対処出来る事、助けが必要になる事、きちんと見極められるようになっとけ。」
    (…分かった。)
    「よろしい。楽しんでおいで~。」
    「はーい!」
    「お、今の俺めっちゃ長男っぽくなかった?!なぁ、めっちゃお兄ちゃんぽくなかった?!」
    「はいはい…。」

    おそ松兄さんからOKが出たので、心置きなく出掛けられそうだ。
    せっかく長男だな、って思ってあげたというのに最後の最後で台無しだ。
    それがおそ松兄さんらしいけれども。
    …まぁ、兄達は絶対こっそりとついてくるだろうな、なんて考えながら
    嬉しそうな顔をしている十四松とトド松を眺めるのだった。

    ーーー

    side.T

    さて、翌日。
    少し遅めの昼食を終えたトド松は自身はもちろん、
    一松と十四松もバッチリとコーディネートして満足気に頷いた。
    一松兄さんったら僕の服を着るの渋っちゃって身体がカチコチになってたよ。
    結局十四松兄さんにひん剥かれて無理やり着せられたけどね。
    一松兄さんも十四松兄さんもバッチリ似合ってる!さすが僕。
    十四松がトド松の手を握って玄関まで向かう。
    一松はカラ松が背負って玄関に置かれた車椅子に座らせてくれた。

    「じゃあ行ってきまーす。」
    (行ってきマーッスル!マッスル!)
    (…行ってきます。)

    「気ぃつけてなー。」
    「暗くなる前に帰ってこいよ!」
    「行ってらっしゃい。」

    兄達に見送られて、3人は外へと繰り出した。

    陽射しが暖かい。
    心地良い風が吹いている。
    いつものように十四松が一松の車椅子を押している。
    トド松は十四松の左手に自らの右手を添えて並んで歩いた。
    人通りは少ない。
    ハタ坊が実質の統括者となっているこの町は少々閉鎖的ではあるものの平和だ。

    (えへへっ!そとあるくのたのしーッスな~!)
    (…ん。風が吹いてて気持ちいい。)
    (そうだね、いい天気でよかった~!)

    思えば、「いい天気」だなんて考える事も久しぶりだった。
    こうして陽射しと風を感じて歩くこともいつ以来だろう。
    しばらく歩いていると、やがて川沿いの道に出た。
    川面は穏やかで、太陽の光を反射して輝いている。
    バサバサと鳥が飛び立つ音が聞こえた。
    上を見上げると遠くの空に見える鳥の群れ。
    それを目で追っていると太陽が視界に入った。
    眩しさに視線を落とすと、今度は車椅子に乗った一松の頭が視界に入る。
    柔らかそうな髪がフワリと風に撫でられていた。

    (トド松、たのしそうだね!)
    (うん、楽しいよ♪)
    (そっかー!おれもたのしい!!)
    (えへへ、よかった。あ、そこの道曲がって。)
    (りょーかい!)
    (…結構歩いたけど、2人とも平気?疲れてない?)
    (よゆー!!)
    (僕も大丈夫だよ!)
    (そう…なら、よかった。)

    こんな風に兄弟で歩くのも初めてだ。
    十四松はとても楽しそうだし、こちらを気付かう一松もどことなく表情が穏やかだ。
    それだけで、トド松の心も軽くなった。

    川沿いの道から離れ、程なくしてお目当ての雑貨屋に到着した。
    控えめな看板は手作りなのかどこか温かみを感じさせた。
    店内に足を踏み入れると、奥から店員の「いらっしゃいませ」という声が聞こえた。
    こじんまりとした店内には所狭しと小物が並んでいる。
    女性向けな物が多いが、あまりフワフワだったりキラキラごてごてした物は無く、
    シンプルでスッキリした物が多い。

    (ねえ、見て見て!このストラップ可愛い!)
    (おー!ネコのかたちだ!)
    (猫…かわいい…。)

    洒落たテーブルには細々と小物が並べられていた。
    トド松が手にしたのは、猫のシルエットに象られたシルバーのチャームに小さな鈴が付いたストラップ。
    ストラップ部分を摘んで一松と十四松に向けて見せると、チリンと可愛らしい音をたてた。
    一松が興味を示しているので、手のひらに乗せてあげた。

    (ほかのどうぶつのカタチもあるよ!あ、これかわいい!トド松みたい!!)
    (えー?僕?…あ、じゃあこれは十四松兄さんかなー。)
    (フヒッ…確かに、2人に合ってる。)

    十四松が手にしたのは、ウサギの形。
    対して、トド松が手に取ったのは犬の形。コーギーだろうか。
    どちらも一松の手の上にある猫と同じように、シルエットがシルバーで象られたチャームだ。
    どうやら他にも色々な種類のチャームがあるようだ。

    (折角だしお揃いで買って帰ろうよ。)
    (うん!兄さん達のぶんもね!)
    (…いいんじゃない。僕、この猫のヤツがいい。)
    (じゃあ一松兄さんは猫ね。十四松兄さんはコーギーで、僕はウサギ!)
    (兄さん達は?)
    (うーん、そうだなー…。)
    (これ!これおそ松兄さん!)
    (うん?これ馬?)
    (おそ松兄さん競馬好きだもんね…。)
    (でねー、カラ松兄さんはこれで、チョロ松兄さんはこれ!)
    (いいと思うよ。…まぁ、十四松が選んだって聞いたら文句なんて言わないでしょ。)
    (だよね。じゃあそうしよっか♪)

    十四松が選んだのは、カラ松用がシェパードらしきシルエットで
    チョロ松用が羊の形のチャームだった。
    彼の不思議な独断と偏見が伺えるが、別に一松もトド松も異論はない。
    そもそもそこまでこだわってもいない。
    キャッキャと仲良く会話しながら(といっても脳内でのやり取りだったが)お揃いストラップ選びを終えると、
    店内の商品をぐるりと見て回って会計を済ませた。
    思いの外長いこと店内にいたのか、雑貨屋を出た時には日が傾きかけていた。
    店員には黙々とストラップを物色する超静かな客だと思われていたことだろう。
    その実は女子高生並の賑やかさであったが、それを知るのは当人達のみだ。
    再び川沿いの道に戻ってきた時は、川面はオレンジ色に染まっていた。
    夕日に染まるってこういうことなんだな、なんてボンヤリと考える。

    (一松兄さん、トド松!)
    (…ん。)
    (なぁに?十四松兄さん。)
    (きょうはたのしかったね!)
    (…そうだね。)
    (うん、楽しかった!)

    こんなに長い時間立ちっぱなしの歩きっぱなしだったのは初めてだったから
    少し疲れてしまったけど、なんだかその疲れすらも心地良い。
    6つ分のストラップが入った小さな紙袋を握り直す。

    (またでかけたいな!こんどは兄さんたちもいっしょに!)
    (…ん。)
    (そうだね。今度はみんなで行こう。いいでしょ?一松兄さん。)
    (…いいんじゃないの。)

    ゆっくりと一松の目が開いて、アメジストのような深い紫色の瞳が十四松とトド松を見つめた。
    …このタイミングで目を覚ますとか、反則でしょ。
    口元は僅かに上がっていて、微かな笑みを浮かべているのが分かる。
    一松の笑みに同じように笑みを返すと、隣を歩く十四松に顔を向ける。
    それに気付いた十四松もまた、鮮やかな蒸栗色の瞳を細めて明るく笑い返す。
    滅多に見れない、「兄」の顔をした十四松だ。
    夕陽に照らされた2人の兄の顔を、瞳を見て、ああ綺麗だな。と思った。

    「ね、絶対また行こうね!約束だよ。」
    「…わかった。約束。」
    (おれもー!やくそく!!)

    一松の細い小指に自らの小指を絡めて「約束」と言うと十四松も目を輝かせて手を差し出してきたので
    十四松の小指にも指を絡めた。
    元気よくブンブンと腕を振る十四松に笑って「痛いよ、十四松兄さん。」と返す。
    そんなに痛くもなかったけどね。

    「…兄さん達がそろそろ心配しそうだし、早く帰ろう。」
    「そうだね。」
    「…それに、腹減った。」
    (きょうのごはん、なにかなー?)

    そうだった。
    この兄が目を覚ますのは大抵が空腹を感じた時だ。
    小指と小指を絡めた時に感じた兄達の体温の余韻に浸りながら3人仲良く帰路についた。






    「何事も起こらずに終わりそうだな。よかった。」
    「ほんとな。終始ほのぼのした空気だったな~。はぁ、弟達マジかわ。何アレ天使?天使かな??」
    「ほら、家に戻ろう。もう一松達家に着いちゃうよ。」
    「お揃いの小物きゃいきゃいしながら選ぶとか俺の弟達くそかわ!」
    「ああ、エンジェル達があまりにピュアで俺の汚れたハートが浄化されたぜ…。」
    「いいから帰るぞ馬鹿兄共!」

    兄松はもちろん心配でずっと尾行してました。



    end.
    焼きナス
  • 再会した六つ子のその後の話【番外編1】 #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・キャラ崩壊
    ・シリーズの番外編なので前作読んでないとよく分からない
    ・文章とっ散らかってる
    ・ご期待に添えた後日談になってない…かもしれないよ?
    ・兄松が弟松をとにかく愛でている
    ・キャラ崩壊

    ーーー


    side.C

    あれから僕らを取り巻く環境はガラリと変わった。

    まず僕らの現状についてだが、今は赤塚町のとある一軒家で6人一緒に暮している。
    6人が揃ったあの日、おそ松兄さんは赤塚町に到着するなり、誰かに連絡を取った。
    誰だと思ったら、相手は幼い頃の友人のハタ坊で、
    なんと彼は今や赤塚町を統括する有力地主になっていたのだ。
    全く世の中何が起こるのかわからない。
    そのハタ坊が提供してくれたこの住まいは、昔僕ら兄弟が住んでいた家だった。
    何でも、僕らが誘拐され両親が殺害されるという事件が起こってから
    この家はずっとこのままだったそうだ。
    解体もされず、事件が起こったこの家にに住まう人もおらず
    ひとまずハタ坊の会社の管理下に置かれていたらしい。
    僕らが住むにあたって、ハタ坊の子会社の一つが簡易なリフォームをしてくれていた。
    建物自体は大分年季が入っているが、まぁ何とか暮らしていける。
    どうやらおそ松兄さんはハタ坊と前々から連絡を取り合っていたようで
    赤塚町へ行く事と住まいの相談を既にしていたそうだ。
    こういう点は長男だな、と感じる。
    こういう時だけ、な。こういう時だけ!!

    そして、大きく変わったのは世界情勢。
    長年続いた戦争が、先月ついに終結したのだ。
    一応、この国は敗戦国となったワケだが、人々の生活はそこまで変わっていないように思える。
    国家機関の研究所はほとんどが解体され、軍事機関も大きく体制が変わったと聞く。
    研究機関がなくなったのなら大々的に僕らが追われることはなくなった。
    それでも元研究員や事情を知る人に狙われる可能性はゼロではないが
    今までよりは安全になったのだろうと思う。

    此処で暮らし始めてから、ハタ坊は僕らにちょくちょく仕事を持ってきてくれるようになった。
    その仕事内容は様々で、廃ビルの瓦礫撤去や建設現場の手伝い、喧嘩の仲裁といった肉体労働や
    資料の整理といった事務的で雑用的なものまで、まるで便利屋のようになっている。
    肉体労働系は主におそ松兄さんとカラ松が担当している。
    資料の整理や片付けといったことは僕とトド松がやることが多い。
    そして、意外と需要が多いのが人探しや失せ物探しといった依頼だ。
    これは下の弟達が主に担当している。
    もうこの事業で食っていけるんじゃないかというくらいには依頼が来るのだ。

    戦いの日々で離れ離れになってしまった家族、友人、恋人…
    その人達の安否を知りたいという人。
    町が襲撃を受けて逃げたために亡くしてしまった大切な思い出の品を探して欲しいという人。
    戦争が終わったとはいえ、未だに爪痕が深く残っている証拠なのだろう。
    人探しや物探しは一松の得意分野だ。
    とはいっても、いくら一松でも闇雲に探して簡単に見つかるわけがない。
    そんな時は依頼者が持ってきた写真などの手掛かりを使って十四松が予知を行う。
    そこから探す場所の目星をつけて一松が探索を行うのだ。
    ちなみに見つかった場合の回収は僕がやっている。
    そうして、僕らの生活もゆっくりと落ち着いてきたところだった。

    「一松、今大丈夫?」
    (ん。…どうしたの、チョロ松兄さん。)
    「あのバカ長男どこにいるか分かる?」
    (おそ松兄さん?…探してみるからちょっと待って…。)
    「なになに?おそ松兄さんまた何かチョロ松兄さん怒らせたの?」
    (なに?やきう?!)
    「違うからね、十四松兄さん。」

    2階の部屋の襖を開けて、弟達の姿を確認すると3人揃って仲良くソファに座っていた。
    眠る一松を真中にして、両脇から支えるように十四松とトド松がくっついている。
    相変わらずこの3人は引っ付いて離れようとしない。
    昔からの習慣なのだから仕方ないけども、そこに僕らが入り込む隙間が見えなくて
    たまに少しだけ寂しくなったりもする。
    いや、仲良くくっつき合う弟達は可愛いのだけれども。
    それよりも今は長男だ。
    今日は建設現場の助っ人の依頼が入っているのだが朝から姿が見当たらない。
    カラ松は一足先に現場に向かってもらっている。
    もし既にカラ松と合流しているならそれでいいのだが、己の直感が「それはない」と告げている。
    もしパチンコとか行ってたら一発殴ってやる。

    (あ、見つけた。)
    「どこ?まさかとは思うけどパチンコじゃないよね?」
    (パチンコではないかな。えーと…なんか、人がたくさんいる。
     あと、大きいスクリーンが見える。)
    「大きい、スクリーン……。なあ、一松。
     そのスクリーンさ、馬が走ってるのが映ってたりする?」
    (うん、馬走ってる。)
    「競馬か!あんのクズ長男がああぁぁあ!!
    てかよく開催されてたな?!」
    「チョロ松兄さん、おそ松兄さん呼ぼうか?」
    「頼むわトド松!」
    「はーい。」
    (チョロ松兄さん、チョロ松兄さん!)
    「どうした?十四松。」
    (あのね、おそ松兄さんこの後ガッカリしちゃうみたい!
     なにかあったのかな?!だいじょうぶかな?)
    「心配しないで大丈夫だよ、十四松。単に負けただけだろうから。
     ていうか、超絶下らない予知させてごめん。」
    (あとね、おそ松兄さんね、かえってきてからチョロ松兄さんのCDと
     カラ松兄さんのサングラスふんづけてこわしちゃうから
     ちゃんとしまっておいたほうがいいよー!)
    「十四松マジでありがとう!」

    (おそ松兄さん!今日仕事入ってるって!帰ってきてよー。)
    (んん?トド松かー?ちょっと待ってよお馬さん走り終えたら帰るって!)
    (ゴルァ!クズ長男!!てめーの居場所は割れてんださっさと帰ってこい!
     あとてめーが負けるのも確定だからな!
     仕事入ってるのに遊びに行くんじゃねぇよ強制送還すんぞ!!)
    (え?!マジで?負けちゃうの俺?!)
    (十四松が予知済みだわボケが!)
    (うわ、マジで負けるの確定だった!わーったよ今から帰りますよー。)

    そういえば居間ににゃーちゃんのアルバム出しっぱなしだった。
    ちゃんと片付けておこう。ありがとう十四松。
    え?カラ松のサングラス?別にそれはいいや。
    嗚呼、弟達マジで頼りになる。
    でもこんな下らない事に能力使わせてしまって、なんというか申し訳ない。
    今日はこいつらにプリンでも買ってきてやろう。
    うん、そうしよう。

    ーーー

    side.J

    一昨日はカラ松兄さんが庭で一緒にキャッチボールをしてくれた。
    普段出せない声をなんとか出そうとして思いっきり「ありがと!兄さんだいすき!!」と叫んだ。
    ちょっと喉がヒリヒリした。
    カラ松兄さんは少し涙ぐみながらおれの頭をわしゃわしゃと撫でた。

    昨日はチョロ松兄さんがプリンを買ってきてくれた。
    すごくトロトロで甘くて美味しかった。
    一松兄さんとトド松と一緒にあーんってし合った。
    チョロ松兄さんにもあーんってやったら顔を真っ赤にしてた。
    でも喜んでくれて嬉しいよ、と笑ってくれた。

    今日はおそ松兄さんが本を買ってきた。
    マンガ?っていうんだって。読ませてもらったけど、スッゲーオモシロイ!
    気に入ったのなら十四松にやるよ、と言ってくれたのでありがたく頂戴した。
    お礼が言いたくておそ松兄さんに勢いよく飛びついたら、
    兄さんは笑って思い切り頭をわしゃわしゃされた。

    兄さん達と再会して一緒に暮らすようになってから、いくつか分かったことがある。
    まず、兄さん達はとにかくおれたちを甘やかす。
    トド松が手を伸ばしたら競うようにその手を取ろうとするし
    一松兄さんが目を開けたら誰がご飯食べさせて誰がお風呂入れるかで毎回もめるし
    おれが声を出せたら泣いて喜ぶ。
    そして、兄さん達は意外と心配性。
    一松兄さんやトド松はともかく、身の周りの事くらい、おれ1人でも大丈夫だと思うんだけどな。
    だって今まで一松兄さんとトド松の手助けしてきたのおれだもん!
    なんだかすぐ上の兄と唯一の弟を同時に取られたような気がして少し寂しいのは内緒だ。

    そうそう、最近おれ、おそ松兄さんとカラ松兄さんにお願いして護身術を教えてもらうようになったんだ。
    兄さん達はとても強いし、頼りになるけど、おれだって一松兄さんとトド松を守れるようになりたいから。
    おれだって、自分で出来ることは自分でやりたいから。
    兄さん達の助けになりたいから。
    それに身体を動かすのは楽しいしね!

    それと、人探しや失せ物探しの依頼も頑張ってる。
    でも、失せ物探しはともかく人探しは無事に見つかる可能性ってそこまで高くない。
    この間まで戦争中だったからね。
    依頼者の探してる人が既に亡くなっていた事も少なくない。
    遺品を見つけられればチョロ松兄さんに回収してもらうけど
    それすら見つからない時だってある。
    そんな時はやっぱり悲しい。
    それは一松兄さんもトド松も一緒みたいで、残念な結果に終わった依頼の後は
    2人にギュッとしがみついて慰めあっている。
    そんなおれたちを見て、おそ松兄さんが「無理してやらなくていいんだぞ?」と優しく笑ってくれたけど
    兄さん達の助けにはなりたいから、止めるつもりはなかった。
    守られてばっかりは嫌だもんね。

    (一松兄さん、トド松ー!)
    (う、わ?!)
    (どうしたの?十四松兄さん。)

    ソファに座っていた2人に抱きつく。
    なんだかんだでやっぱりこの2人の傍が1番落ち着く。
    今までずっと一緒だったのに、久々に2人に飛びついたような気がする。
    そっか、最近兄さん達に構われてばっかりだったもんね。
    それは2人だけじゃなくておれもなんだけど。
    兄さん達も優しくて好きだけど、一松兄さんとトド松は特別!

    (えっとね、さいきん一松兄さんもトド松も、ごはんやおふろ、兄さん達に助けてもらってるから…
     まえはおれのやくめだったのに、兄さん達にとられちゃってちょっとさみしかったっす!
     …だからどーん!)
    (寂しい思いさせてた…?)
    (んーん!だいじょぶ!こうやってぎゅーしてたらへいき!)
    (…ん。じゃあ、ぎゅー。)
    (十四松兄さん!僕も僕も!)
    (うぃっす!トド松もぎゅー!)

    うん、兄さんとトド松のにおい。落ち着くなぁ。
    3人でぎゅーぎゅーくっつき合っていると、いつの間にか兄さん達が部屋の入口に立っていた。
    何で入ってこないんだろう?
    あれ?なんか震えてる?!


    (((弟達マジ天使!)))

    ーーー

    side.O

    部屋に入ろうとすると下3人が仲良くぎゅーぎゅーくっ付いていた。
    お前ら可愛すぎか。
    ただ、こいつら片時も離れようとしないのはいささか心配ではある。
    …まあ、ようやく落ち着いてきたんだし、それは少しずつ改善していけばいいかな。
    この3人にとってはこれが当たり前の生活なのだろうし。
    仲良く引っ付いてる弟達可愛いし。
    俺の手にはコンビニの袋。
    その中にはプリンが6つ。
    施設にいた頃は所謂スイーツというものとは無縁だったのだろう。
    チョロ松がプリンを買って帰って来た日、目を輝かせてパクつく姿はマジで可愛かった。

    (あんま~!うま~!!めっちゃおいしいね!)
    (ん……うまい。)
    (プリン食べてみたかったんだー!美味しーい♪)

    …といった感じにキャッキャとはしゃぐ姿になんともいえない感情が込み上げたのは記憶に新しい。
    その様子を見て、カラ松もチョロ松も何かとケーキやらプリンやらを手土産に帰ってくるようになった。
    今まで離れていた分、今まで辛い思いをしてきた分、できる限り甘やかしてやりたいのが兄心ってやつだ。
    同い年とはいっても弟は弟だし、弟ってだけで可愛いものなのだ。
    あ、もちろんカラ松もチョロ松も俺の可愛い弟達よ?
    …なんか弟がゲシュタルト崩壊してきたな。

    それはさておき。
    新たな生活が落ち着いてきたため、俺は今、庭に置かれた古びた物置にいた。
    この家は昔俺達が住んでいたままになっていたから、物置の中身もそのまま放置されていた。
    今日は特にハタ坊からの依頼もないし、ちょうどいい機会だと思って物置を整理してみようと思い立ったのだ。
    まあ、ほとんどゴミだろうけど十数年以上手付かずなのは流石にアレだし、
    ハタ坊に引き取ってもらえそうな物があれば買い取って貰おう。
    という軽い気持ちで物置に足を踏み入れた。

    中は割とひんやりしていた。
    積み上がったダンボールの中には色褪せたハードカバーの書籍。
    父の私物だろうか。かなりの量だ。
    それと、双子用のベビーカーが3つ、三輪車、竹馬…。
    あ、この三輪車と竹馬は見覚えがある。
    幼い頃、この三輪車を兄弟で取り合った記憶が蘇った。
    兄弟で、というか主に取り合いしてたのは俺とカラ松とチョロ松の3人だった気がするけど。
    ひとまずダンボールの中身を把握しようと中を開けていく。
    大体が父さんの物らしき本だった。
    父さんて読書家だったんだな。
    元軍人らしく、分厚い兵法書も何冊か見つかった。
    それから、近代文学らしきタイトルの文庫本、外国語の書籍も割とあった。

    「兄貴?こんな所で何をしているんだ?」
    「ん~?物置の整理中。」
    「結構な量だな…手伝おうか?」
    「おう、んじゃ頼むわ。」

    俺が物置を開いてガサゴソやってるのを見つけたのか、カラ松がやってきて膝をついた状態の俺を見下ろしていた。
    一つ下の弟の申し出をありがたく頂戴して、2人で物置の中身をせっせと外に出し始めた。
    いやー腕力のあるカラ松がいると助かるわ。
    格段に作業効率が上がるな。
    そんな事を思いながら一つのダンボールを下ろす。
    …と、手が止まった。
    閉じられていないダンボールの中身をのぞき込む。
    その中は文庫本ではなかった。
    薄汚れたぬいぐるみや積み木といったオモチャに埋もれるようにして
    底に一冊の本が眠っていた。
    大判の分厚い背表紙には、ほとんど消えかけた字で「album」と印刷されている。
    それを確認した俺は、吸い込まれるようにそれを手に取った。
    表紙を捲る。
    そこには、幼き日の自分達と穏やかに微笑む両親の姿があった。
    七五三だろうか、みんなめかし込んだ服装だ。
    いつの間にかカラ松も俺の手元をのぞき込んでいる。
    古びたアルバムにはたくさんの写真が収められていた。
    物置にあった三輪車やベビーカーに乗った写真もあった。
    竹馬で遊んでいる写真もある。

    「…懐かしいな。」
    「この頃の事覚えてる?」
    「なんとなく、覚えてはいる。」
    「そりゃ、良かった。」
    「父さんと母さん、こんなにたくさん写真を撮ってたんだな。」
    「ほんとにな。そういや写真なんてもう何年も撮ってないな~。」
    「じゃあ、今度写真撮らないか?せっかくまた6人揃ったんだ。」
    「いいねぇ。カメラ探してこねーと…っと!」

    …最後のページは平和だった幼き日々に別れを告げる数日前のものだろう。
    6人仲良く1列に並んで、家の前で笑っている幼い自分達だった。
    風か吹いて、その写真がハラリと舞う。

    「これだけちゃんと貼り付けられてなかったのかよ。」
    「…!いや、貼らなかったんだ。兄貴、見てくれ。」
    「え…。」

    フワリと風に舞った最後の写真はカラ松の足元に落ちた。
    それを拾い上げたカラ松が写真を見て、一瞬だけ目を見開いて、
    けどすぐにいつもの表情に戻って落ちた写真を手渡してきた。
    受け取った写真を見る。
    少し色落ちしているものの、普通の写真だ。
    「兄貴、裏だ。」とカラ松の声。
    裏?裏って…と手首をひねって裏を見ると、そこには力強く流麗な字で文字が刻まれていた。
    思わず息を飲む。
    僅かに手が震えたのが分かった。
    写真の裏に書かれていた文字

    ー愛する息子達にどうか幸多からんことを

    父さんの字なのだろう。
    いつ書いたものなんだろう。
    俺達の幸せを願うその言葉を一体どんな思いで書き残したのだろうか。
    カラ松が「用事を思い出した。あとは兄貴1人でよろしく。」と言って俺の返事を待たずに物置から出て行った。
    分かってる。気を使ってくれたんだな。
    弟の前じゃ泣こうとしない俺のために。
    ほんと、よくできた弟でお兄ちゃん涙出ちゃう。
    6人揃った時にも泣いたりなんかしなかったのに、今更ほんとに涙が出た。

    ひとしきり泣いた後、適当に物置にあった物を仕分けして家に戻った。

    「あっおそ松兄さんどこ行ってたの?」
    「おー、ちょっとな。」
    「どこいたんだよ?夕飯の時間になっても戻らないし、一松も見つからないって言うしさ!」
    「わりぃわりぃ!待たせたな。」

    どうやら俺を待ってくれていたらしい弟達に謝って食卓を囲む。
    ボンヤリと覚醒している一松と目が合ったが、フイと逸らされてしまった。
    …一松、俺のこと見つけられなかったなんて嘘だろ?
    だって物置とはいえ家の敷地内にいたのだ。
    探し物が得意な千里眼を持つこの四男に見つけられないわけがない。
    俺が物置で泣いてたから気を遣ってくれたんだろうな。
    いやぁ、弟に気を遣われちゃうとか俺もまだまだだね。

    ーーー

    side.O

    次の日、俺はカメラを手にしていた。
    これも物置にあった物だ。
    まだ使えそうだし、フィルムも残っていた。

    「おーい、全員集合ー!!」

    俺の声になんだなんだと顔を出す弟達。
    それに満足して笑顔を向ける。

    「そこ並べ!写真撮るぞ!」
    「えっ?!何、突然。」
    「物置にカメラがあったからさ、試し撮り!」
    「いいんじゃないか?ほら、並ぼう。」
    (なになに?やきう?)
    (違うからね、十四松兄さん。動いちゃダメだよー。)
    (僕、今起きれないけど?寝こけたまま写るの…?)
    「ほらー、いいから並べって!」

    幼い頃を写したあの写真と同じ場所、同じ並びで「今」を写した。
    その写真は物置で見つけた写真と一緒にフレームに入れられ居間に置かれている。
    これは俺の願掛けだ。

    ー俺達のこれからの人生に幸多からんことを!


    end.
    #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・キャラ崩壊
    ・シリーズの番外編なので前作読んでないとよく分からない
    ・文章とっ散らかってる
    ・ご期待に添えた後日談になってない…かもしれないよ?
    ・兄松が弟松をとにかく愛でている
    ・キャラ崩壊

    ーーー


    side.C

    あれから僕らを取り巻く環境はガラリと変わった。

    まず僕らの現状についてだが、今は赤塚町のとある一軒家で6人一緒に暮している。
    6人が揃ったあの日、おそ松兄さんは赤塚町に到着するなり、誰かに連絡を取った。
    誰だと思ったら、相手は幼い頃の友人のハタ坊で、
    なんと彼は今や赤塚町を統括する有力地主になっていたのだ。
    全く世の中何が起こるのかわからない。
    そのハタ坊が提供してくれたこの住まいは、昔僕ら兄弟が住んでいた家だった。
    何でも、僕らが誘拐され両親が殺害されるという事件が起こってから
    この家はずっとこのままだったそうだ。
    解体もされず、事件が起こったこの家にに住まう人もおらず
    ひとまずハタ坊の会社の管理下に置かれていたらしい。
    僕らが住むにあたって、ハタ坊の子会社の一つが簡易なリフォームをしてくれていた。
    建物自体は大分年季が入っているが、まぁ何とか暮らしていける。
    どうやらおそ松兄さんはハタ坊と前々から連絡を取り合っていたようで
    赤塚町へ行く事と住まいの相談を既にしていたそうだ。
    こういう点は長男だな、と感じる。
    こういう時だけ、な。こういう時だけ!!

    そして、大きく変わったのは世界情勢。
    長年続いた戦争が、先月ついに終結したのだ。
    一応、この国は敗戦国となったワケだが、人々の生活はそこまで変わっていないように思える。
    国家機関の研究所はほとんどが解体され、軍事機関も大きく体制が変わったと聞く。
    研究機関がなくなったのなら大々的に僕らが追われることはなくなった。
    それでも元研究員や事情を知る人に狙われる可能性はゼロではないが
    今までよりは安全になったのだろうと思う。

    此処で暮らし始めてから、ハタ坊は僕らにちょくちょく仕事を持ってきてくれるようになった。
    その仕事内容は様々で、廃ビルの瓦礫撤去や建設現場の手伝い、喧嘩の仲裁といった肉体労働や
    資料の整理といった事務的で雑用的なものまで、まるで便利屋のようになっている。
    肉体労働系は主におそ松兄さんとカラ松が担当している。
    資料の整理や片付けといったことは僕とトド松がやることが多い。
    そして、意外と需要が多いのが人探しや失せ物探しといった依頼だ。
    これは下の弟達が主に担当している。
    もうこの事業で食っていけるんじゃないかというくらいには依頼が来るのだ。

    戦いの日々で離れ離れになってしまった家族、友人、恋人…
    その人達の安否を知りたいという人。
    町が襲撃を受けて逃げたために亡くしてしまった大切な思い出の品を探して欲しいという人。
    戦争が終わったとはいえ、未だに爪痕が深く残っている証拠なのだろう。
    人探しや物探しは一松の得意分野だ。
    とはいっても、いくら一松でも闇雲に探して簡単に見つかるわけがない。
    そんな時は依頼者が持ってきた写真などの手掛かりを使って十四松が予知を行う。
    そこから探す場所の目星をつけて一松が探索を行うのだ。
    ちなみに見つかった場合の回収は僕がやっている。
    そうして、僕らの生活もゆっくりと落ち着いてきたところだった。

    「一松、今大丈夫?」
    (ん。…どうしたの、チョロ松兄さん。)
    「あのバカ長男どこにいるか分かる?」
    (おそ松兄さん?…探してみるからちょっと待って…。)
    「なになに?おそ松兄さんまた何かチョロ松兄さん怒らせたの?」
    (なに?やきう?!)
    「違うからね、十四松兄さん。」

    2階の部屋の襖を開けて、弟達の姿を確認すると3人揃って仲良くソファに座っていた。
    眠る一松を真中にして、両脇から支えるように十四松とトド松がくっついている。
    相変わらずこの3人は引っ付いて離れようとしない。
    昔からの習慣なのだから仕方ないけども、そこに僕らが入り込む隙間が見えなくて
    たまに少しだけ寂しくなったりもする。
    いや、仲良くくっつき合う弟達は可愛いのだけれども。
    それよりも今は長男だ。
    今日は建設現場の助っ人の依頼が入っているのだが朝から姿が見当たらない。
    カラ松は一足先に現場に向かってもらっている。
    もし既にカラ松と合流しているならそれでいいのだが、己の直感が「それはない」と告げている。
    もしパチンコとか行ってたら一発殴ってやる。

    (あ、見つけた。)
    「どこ?まさかとは思うけどパチンコじゃないよね?」
    (パチンコではないかな。えーと…なんか、人がたくさんいる。
     あと、大きいスクリーンが見える。)
    「大きい、スクリーン……。なあ、一松。
     そのスクリーンさ、馬が走ってるのが映ってたりする?」
    (うん、馬走ってる。)
    「競馬か!あんのクズ長男がああぁぁあ!!
    てかよく開催されてたな?!」
    「チョロ松兄さん、おそ松兄さん呼ぼうか?」
    「頼むわトド松!」
    「はーい。」
    (チョロ松兄さん、チョロ松兄さん!)
    「どうした?十四松。」
    (あのね、おそ松兄さんこの後ガッカリしちゃうみたい!
     なにかあったのかな?!だいじょうぶかな?)
    「心配しないで大丈夫だよ、十四松。単に負けただけだろうから。
     ていうか、超絶下らない予知させてごめん。」
    (あとね、おそ松兄さんね、かえってきてからチョロ松兄さんのCDと
     カラ松兄さんのサングラスふんづけてこわしちゃうから
     ちゃんとしまっておいたほうがいいよー!)
    「十四松マジでありがとう!」

    (おそ松兄さん!今日仕事入ってるって!帰ってきてよー。)
    (んん?トド松かー?ちょっと待ってよお馬さん走り終えたら帰るって!)
    (ゴルァ!クズ長男!!てめーの居場所は割れてんださっさと帰ってこい!
     あとてめーが負けるのも確定だからな!
     仕事入ってるのに遊びに行くんじゃねぇよ強制送還すんぞ!!)
    (え?!マジで?負けちゃうの俺?!)
    (十四松が予知済みだわボケが!)
    (うわ、マジで負けるの確定だった!わーったよ今から帰りますよー。)

    そういえば居間ににゃーちゃんのアルバム出しっぱなしだった。
    ちゃんと片付けておこう。ありがとう十四松。
    え?カラ松のサングラス?別にそれはいいや。
    嗚呼、弟達マジで頼りになる。
    でもこんな下らない事に能力使わせてしまって、なんというか申し訳ない。
    今日はこいつらにプリンでも買ってきてやろう。
    うん、そうしよう。

    ーーー

    side.J

    一昨日はカラ松兄さんが庭で一緒にキャッチボールをしてくれた。
    普段出せない声をなんとか出そうとして思いっきり「ありがと!兄さんだいすき!!」と叫んだ。
    ちょっと喉がヒリヒリした。
    カラ松兄さんは少し涙ぐみながらおれの頭をわしゃわしゃと撫でた。

    昨日はチョロ松兄さんがプリンを買ってきてくれた。
    すごくトロトロで甘くて美味しかった。
    一松兄さんとトド松と一緒にあーんってし合った。
    チョロ松兄さんにもあーんってやったら顔を真っ赤にしてた。
    でも喜んでくれて嬉しいよ、と笑ってくれた。

    今日はおそ松兄さんが本を買ってきた。
    マンガ?っていうんだって。読ませてもらったけど、スッゲーオモシロイ!
    気に入ったのなら十四松にやるよ、と言ってくれたのでありがたく頂戴した。
    お礼が言いたくておそ松兄さんに勢いよく飛びついたら、
    兄さんは笑って思い切り頭をわしゃわしゃされた。

    兄さん達と再会して一緒に暮らすようになってから、いくつか分かったことがある。
    まず、兄さん達はとにかくおれたちを甘やかす。
    トド松が手を伸ばしたら競うようにその手を取ろうとするし
    一松兄さんが目を開けたら誰がご飯食べさせて誰がお風呂入れるかで毎回もめるし
    おれが声を出せたら泣いて喜ぶ。
    そして、兄さん達は意外と心配性。
    一松兄さんやトド松はともかく、身の周りの事くらい、おれ1人でも大丈夫だと思うんだけどな。
    だって今まで一松兄さんとトド松の手助けしてきたのおれだもん!
    なんだかすぐ上の兄と唯一の弟を同時に取られたような気がして少し寂しいのは内緒だ。

    そうそう、最近おれ、おそ松兄さんとカラ松兄さんにお願いして護身術を教えてもらうようになったんだ。
    兄さん達はとても強いし、頼りになるけど、おれだって一松兄さんとトド松を守れるようになりたいから。
    おれだって、自分で出来ることは自分でやりたいから。
    兄さん達の助けになりたいから。
    それに身体を動かすのは楽しいしね!

    それと、人探しや失せ物探しの依頼も頑張ってる。
    でも、失せ物探しはともかく人探しは無事に見つかる可能性ってそこまで高くない。
    この間まで戦争中だったからね。
    依頼者の探してる人が既に亡くなっていた事も少なくない。
    遺品を見つけられればチョロ松兄さんに回収してもらうけど
    それすら見つからない時だってある。
    そんな時はやっぱり悲しい。
    それは一松兄さんもトド松も一緒みたいで、残念な結果に終わった依頼の後は
    2人にギュッとしがみついて慰めあっている。
    そんなおれたちを見て、おそ松兄さんが「無理してやらなくていいんだぞ?」と優しく笑ってくれたけど
    兄さん達の助けにはなりたいから、止めるつもりはなかった。
    守られてばっかりは嫌だもんね。

    (一松兄さん、トド松ー!)
    (う、わ?!)
    (どうしたの?十四松兄さん。)

    ソファに座っていた2人に抱きつく。
    なんだかんだでやっぱりこの2人の傍が1番落ち着く。
    今までずっと一緒だったのに、久々に2人に飛びついたような気がする。
    そっか、最近兄さん達に構われてばっかりだったもんね。
    それは2人だけじゃなくておれもなんだけど。
    兄さん達も優しくて好きだけど、一松兄さんとトド松は特別!

    (えっとね、さいきん一松兄さんもトド松も、ごはんやおふろ、兄さん達に助けてもらってるから…
     まえはおれのやくめだったのに、兄さん達にとられちゃってちょっとさみしかったっす!
     …だからどーん!)
    (寂しい思いさせてた…?)
    (んーん!だいじょぶ!こうやってぎゅーしてたらへいき!)
    (…ん。じゃあ、ぎゅー。)
    (十四松兄さん!僕も僕も!)
    (うぃっす!トド松もぎゅー!)

    うん、兄さんとトド松のにおい。落ち着くなぁ。
    3人でぎゅーぎゅーくっつき合っていると、いつの間にか兄さん達が部屋の入口に立っていた。
    何で入ってこないんだろう?
    あれ?なんか震えてる?!


    (((弟達マジ天使!)))

    ーーー

    side.O

    部屋に入ろうとすると下3人が仲良くぎゅーぎゅーくっ付いていた。
    お前ら可愛すぎか。
    ただ、こいつら片時も離れようとしないのはいささか心配ではある。
    …まあ、ようやく落ち着いてきたんだし、それは少しずつ改善していけばいいかな。
    この3人にとってはこれが当たり前の生活なのだろうし。
    仲良く引っ付いてる弟達可愛いし。
    俺の手にはコンビニの袋。
    その中にはプリンが6つ。
    施設にいた頃は所謂スイーツというものとは無縁だったのだろう。
    チョロ松がプリンを買って帰って来た日、目を輝かせてパクつく姿はマジで可愛かった。

    (あんま~!うま~!!めっちゃおいしいね!)
    (ん……うまい。)
    (プリン食べてみたかったんだー!美味しーい♪)

    …といった感じにキャッキャとはしゃぐ姿になんともいえない感情が込み上げたのは記憶に新しい。
    その様子を見て、カラ松もチョロ松も何かとケーキやらプリンやらを手土産に帰ってくるようになった。
    今まで離れていた分、今まで辛い思いをしてきた分、できる限り甘やかしてやりたいのが兄心ってやつだ。
    同い年とはいっても弟は弟だし、弟ってだけで可愛いものなのだ。
    あ、もちろんカラ松もチョロ松も俺の可愛い弟達よ?
    …なんか弟がゲシュタルト崩壊してきたな。

    それはさておき。
    新たな生活が落ち着いてきたため、俺は今、庭に置かれた古びた物置にいた。
    この家は昔俺達が住んでいたままになっていたから、物置の中身もそのまま放置されていた。
    今日は特にハタ坊からの依頼もないし、ちょうどいい機会だと思って物置を整理してみようと思い立ったのだ。
    まあ、ほとんどゴミだろうけど十数年以上手付かずなのは流石にアレだし、
    ハタ坊に引き取ってもらえそうな物があれば買い取って貰おう。
    という軽い気持ちで物置に足を踏み入れた。

    中は割とひんやりしていた。
    積み上がったダンボールの中には色褪せたハードカバーの書籍。
    父の私物だろうか。かなりの量だ。
    それと、双子用のベビーカーが3つ、三輪車、竹馬…。
    あ、この三輪車と竹馬は見覚えがある。
    幼い頃、この三輪車を兄弟で取り合った記憶が蘇った。
    兄弟で、というか主に取り合いしてたのは俺とカラ松とチョロ松の3人だった気がするけど。
    ひとまずダンボールの中身を把握しようと中を開けていく。
    大体が父さんの物らしき本だった。
    父さんて読書家だったんだな。
    元軍人らしく、分厚い兵法書も何冊か見つかった。
    それから、近代文学らしきタイトルの文庫本、外国語の書籍も割とあった。

    「兄貴?こんな所で何をしているんだ?」
    「ん~?物置の整理中。」
    「結構な量だな…手伝おうか?」
    「おう、んじゃ頼むわ。」

    俺が物置を開いてガサゴソやってるのを見つけたのか、カラ松がやってきて膝をついた状態の俺を見下ろしていた。
    一つ下の弟の申し出をありがたく頂戴して、2人で物置の中身をせっせと外に出し始めた。
    いやー腕力のあるカラ松がいると助かるわ。
    格段に作業効率が上がるな。
    そんな事を思いながら一つのダンボールを下ろす。
    …と、手が止まった。
    閉じられていないダンボールの中身をのぞき込む。
    その中は文庫本ではなかった。
    薄汚れたぬいぐるみや積み木といったオモチャに埋もれるようにして
    底に一冊の本が眠っていた。
    大判の分厚い背表紙には、ほとんど消えかけた字で「album」と印刷されている。
    それを確認した俺は、吸い込まれるようにそれを手に取った。
    表紙を捲る。
    そこには、幼き日の自分達と穏やかに微笑む両親の姿があった。
    七五三だろうか、みんなめかし込んだ服装だ。
    いつの間にかカラ松も俺の手元をのぞき込んでいる。
    古びたアルバムにはたくさんの写真が収められていた。
    物置にあった三輪車やベビーカーに乗った写真もあった。
    竹馬で遊んでいる写真もある。

    「…懐かしいな。」
    「この頃の事覚えてる?」
    「なんとなく、覚えてはいる。」
    「そりゃ、良かった。」
    「父さんと母さん、こんなにたくさん写真を撮ってたんだな。」
    「ほんとにな。そういや写真なんてもう何年も撮ってないな~。」
    「じゃあ、今度写真撮らないか?せっかくまた6人揃ったんだ。」
    「いいねぇ。カメラ探してこねーと…っと!」

    …最後のページは平和だった幼き日々に別れを告げる数日前のものだろう。
    6人仲良く1列に並んで、家の前で笑っている幼い自分達だった。
    風か吹いて、その写真がハラリと舞う。

    「これだけちゃんと貼り付けられてなかったのかよ。」
    「…!いや、貼らなかったんだ。兄貴、見てくれ。」
    「え…。」

    フワリと風に舞った最後の写真はカラ松の足元に落ちた。
    それを拾い上げたカラ松が写真を見て、一瞬だけ目を見開いて、
    けどすぐにいつもの表情に戻って落ちた写真を手渡してきた。
    受け取った写真を見る。
    少し色落ちしているものの、普通の写真だ。
    「兄貴、裏だ。」とカラ松の声。
    裏?裏って…と手首をひねって裏を見ると、そこには力強く流麗な字で文字が刻まれていた。
    思わず息を飲む。
    僅かに手が震えたのが分かった。
    写真の裏に書かれていた文字

    ー愛する息子達にどうか幸多からんことを

    父さんの字なのだろう。
    いつ書いたものなんだろう。
    俺達の幸せを願うその言葉を一体どんな思いで書き残したのだろうか。
    カラ松が「用事を思い出した。あとは兄貴1人でよろしく。」と言って俺の返事を待たずに物置から出て行った。
    分かってる。気を使ってくれたんだな。
    弟の前じゃ泣こうとしない俺のために。
    ほんと、よくできた弟でお兄ちゃん涙出ちゃう。
    6人揃った時にも泣いたりなんかしなかったのに、今更ほんとに涙が出た。

    ひとしきり泣いた後、適当に物置にあった物を仕分けして家に戻った。

    「あっおそ松兄さんどこ行ってたの?」
    「おー、ちょっとな。」
    「どこいたんだよ?夕飯の時間になっても戻らないし、一松も見つからないって言うしさ!」
    「わりぃわりぃ!待たせたな。」

    どうやら俺を待ってくれていたらしい弟達に謝って食卓を囲む。
    ボンヤリと覚醒している一松と目が合ったが、フイと逸らされてしまった。
    …一松、俺のこと見つけられなかったなんて嘘だろ?
    だって物置とはいえ家の敷地内にいたのだ。
    探し物が得意な千里眼を持つこの四男に見つけられないわけがない。
    俺が物置で泣いてたから気を遣ってくれたんだろうな。
    いやぁ、弟に気を遣われちゃうとか俺もまだまだだね。

    ーーー

    side.O

    次の日、俺はカメラを手にしていた。
    これも物置にあった物だ。
    まだ使えそうだし、フィルムも残っていた。

    「おーい、全員集合ー!!」

    俺の声になんだなんだと顔を出す弟達。
    それに満足して笑顔を向ける。

    「そこ並べ!写真撮るぞ!」
    「えっ?!何、突然。」
    「物置にカメラがあったからさ、試し撮り!」
    「いいんじゃないか?ほら、並ぼう。」
    (なになに?やきう?)
    (違うからね、十四松兄さん。動いちゃダメだよー。)
    (僕、今起きれないけど?寝こけたまま写るの…?)
    「ほらー、いいから並べって!」

    幼い頃を写したあの写真と同じ場所、同じ並びで「今」を写した。
    その写真は物置で見つけた写真と一緒にフレームに入れられ居間に置かれている。
    これは俺の願掛けだ。

    ー俺達のこれからの人生に幸多からんことを!


    end.
    焼きナス
  • 生き別れた六つ子が 結(下) #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・兄弟愛で終わりそうだけど腐に見えないこともない
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください
    ・前作見てからご覧いただけますと幸いです

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.O

    チョロ松が弟達と共に移動したのを確認して、おそ松は近づいてくる足音へ身体を向けた。
    相手はこの施設の軍人達。
    この辺りの異変に気付いてやってきたのだろう。
    ご苦労様です、運のない事で。
    軍服に身を包んだ奴らは視界におそ松を捉えると一斉に銃を向けた。
    侵入はとっくに気づかれているだろうし、自分達が国家研究機関の実験体だという事も幹部クラスは気付いているはずだ。
    もうこの際生死は問わないスタンスになったようだ。
    リーダーらしき男が腕を上げようとしたタイミングでおそ松は無機質なタイル張りの地を蹴った。
    真正面で銃を構える男の懐に飛び込み、鳩尾に拳を叩き込む。
    防弾チョッキを着込んでいたからそれは殴ると同時に燃やしてやった。
    身を守る盾を失い生身で鳩尾にパンチを喰らった男が呻き声を上げて蹲ると
    その背に両手をついて今度は足を後ろへ振り上げ、
    背後へ回ってきていた奴らの手元を蹴り上げた。
    突然の衝撃に背後の奴らの手から銃が滑り落ちる。
    その一瞬の隙を突いて勢いよく振り返り、勢いを殺さずに顔面めがけて殴ってやった。
    再度元の方向へ振り返ると、今度は両手に炎を携える。
    未だおそ松に銃口を向ける男達の手は僅かに震えていた。
    それに気付いてニヤリと笑みを浮かべると、躊躇うことなく銃口を素手で掴み、手に纏う炎の温度を急上昇させる。
    焼け石のようになったであろう銃に悲鳴を上げて手を離した瞬間を狙い、男が取りこぼした銃を奪って首筋に振るい降ろした。
    ジュ、という音と掠れた叫び声が響く。
    銃火器の扱いが得意なチョロ松が見たら間違いなく怒鳴られそうな使い方である。
    そんな事は気に留めず、おそ松は銃を持つ方とは反対の手で1人残ったリーダーらしき男の首を掴むと壁に打ち付けた。
    ジリジリと剥き出しの肌を焦がしていく。
    男の顔は苦痛と恐怖に歪んでいた。

    「あれ?何震えちゃってんの?俺まだ全然本気出してないよ?つーか準備運動にもなってないよ?」
    「ひっ…!」
    「まぁいいか!あのさぁ〜、俺ここの大将に会いたいんだよね。案内してくんない?
     あ、あんた見たところ少尉クラス?
     あ〜だったらちょっと聞き出すのは難しいかなー。
     じゃあ場所だけでいいからさ〜知らない?」

    場違いとしか言いようがないあっけらかんとした声が響く。
    しかしおそ松のその目は全く笑っていない。
    有無を言わさない凄みとプレッシャーがあった。
    男が呻きながら声を絞り出す。

    「な…何故、大将に…。」
    「え、知りたい?別にちょっとお話したいだけなんだけどさぁ。
     それより知ってんの?知らないの?」

    ギリ、と首を絞め付ける力を強めれば男から悲鳴が上がった。
    観念したように男は口を開く。

    「と、隣の棟の…最上階…それ以上は、知らない…。」
    「あ、そう。情報あんがとね。
     まーでも情報漏洩しちゃったんだし?何か罰を受けちゃうねオニーサン。
     可哀想だからその前に俺が代わりやってやるよ。
     うわ、俺ってばやっさしー!」

    言うや否や、首を掴んでいた手は業火を纏い、男の身体は一瞬にして灰と化した。
    服にまとわりついた灰をポンポンと適当に払い、おそ松は隣の棟へと足を向ける。

    「おそ松兄さん!」
    「?!」

    聞き慣れた声と銃声が同時に聞こえた。
    そして突然切り替わる己の視界。
    チョロ松が能力で自分ごと別の場所へ移動したのだと理解するのに時間は要しなかった。
    別の場所といってもほんの数十メートルの距離だ。
    先程まで自分が立っていたはずの場所を見ると、壁と床が撃ち抜かれて崩れていた。

    「うわ、ナイスタイミング。よく気付いたなチョロ松。」
    「十四松に感謝してよ。おそ松兄さんがライフルで撃ち抜かれる予知してくれたんだから。」
    「そりゃ嫌なもの見せちまったなぁ可哀想に…。何にせよ助かったわ。」

    素直に礼を述べると、おそ松はすぐにチョロ松から距離を取った。
    チョロ松が問答無用で弟達が待つ部屋へ連れて行こうとしたのに気付いたからだ。
    苛立たしげに顔を顰めるチョロ松と目が合った。

    「どういうつもり?一体何をしようとしてんだよ、兄さん!」
    「言ったろ、野暮用って。お前は大人しくあの部屋に戻りなさいって。」
    「さっき撃たれそうになった奴が何言ってんだよ。」
    「そうだけどさー。」
    「その野暮用…僕も付き合う。」
    「は?!」
    「ほら、みんな待ってるんだからさっさと終わらせるよ!」
    「いやいやいや、お前何するか分かってんの?!」
    「わかってねーよ、わかんねーよ!!何1人で突っ走ろうとしてやがる!
     長男だからって!いつもそうやって!!俺たちに何も言わずに何事もなかったように振る舞いやがって!
     俺はそんなに頼りにならないかよ!!」

    感情のままに叫んだチョロ松はおそ松を睨みながら肩で息をしていた。
    対するおそ松はポカンとした顔をしている。
    こうなるとこいつは絶対に自分の意見を曲げないのはよく知っている。
    一人称が僕から俺に変化しているあたり本気で怒っているのだろう。
    別に頼りにしてないなんてことはない。
    むしろ逆だ。本当に、心底頼りにしているんだけど。
    小さくため息をつくと、おそ松はチョロ松の頭にポン、と手を乗せた。

    「言っとくけど、頼りないなんて思ったこと一度もねーよ?
     カラ松のことも、もちろんチョロ松のこともホント信頼してるっての。」
    「……。」
    「でもさ、やっぱり弟にはなるべく危険な目には遭ってほしくないんだよ。
     だから俺1人で充分だなってときは俺1人で動くし、無理そうだったらもちろんお前らに助けを求めるよ?
     今回はさ、俺1人で充分って思ったわけ。」

    結局チョロ松と、あと十四松に助けられちゃったけどな!と笑って俯いてしまったチョロ松の様子をうかがう。
    何も言葉を発さないが、その表情は先程よりも幾分か和らいでいるように感じた。

    「俺らは六つ子だから…みんな年も同じだし、上下なんてあってないようなモンだけど
     それでもやっぱり俺は長男で、みんな俺の弟なんだよ。
     弟を守るのは兄の役目だろ?」
    「……。」
    「だからさぁ、俺にカッコよくお兄ちゃんさせてくんない?
     なぁ、顔上げろってチョロ松。
     わかったよ、一緒に行こうぜ。」
    「なぁーにがカッコよくお兄ちゃんさせろだクズ長男!!カッコいいのなんて知ってるわ!充分だわボケが!!
     最初からサポートくらいさせろっつってんだよ!行くぞオラ!!」

    勢いよく顔を上げて捲し立てたチョロ松の目は
    落ち着きを取り戻していつもの様子に戻っていた。
    キレながら何気にすごいデレをいただいた気がする。
    言葉を発した本人は気づいていないようだが。

    「何ヘラヘラしてんだよキモい。」
    「チョロちゃんったらヒドイ!俺傷付いた!」
    「はいはい…ところで、ほんと何しようとしてたの?」
    「あー…なぁ、チョロ松。
     世の中にはさ、知らない方がいい事だってある。
     今からお前はそう思うかもしれない事を知る。覚悟できてる?」
    「…ここまで来て何言ってんの。」
    「んー。よし、行くか。隣の棟の、大将の部屋だ。」
    「大将…?ってここのトップじゃん!ホント何する気?!」
    「大丈夫、ちょっと話があるだけ。」
    「いやいやいや!話って!えぇ?!」

    おそ松は未だにワケがわからないという様子で狼狽えるチョロ松を引き摺って、軽い足取りで部屋を目指した。

    ーーー


    side.O

    失礼しまーす、と間延びした声でドアをぶち破った。
    この軍事施設のトップの部屋だ。
    チョロ松がついてきたのは予想外だが、いてくれたらいてくれたで心強い。
    大将、と呼ばれる男はまるでここに来るのが分かっていたように静かに座していた。
    白髪交じりの髪をオールバックにまとめ、兵服を身に纏う壮年の男は黙ってそこにいるだけで威圧感を醸し出している。
    おそ松が何か言う前に、大将が口を開いた。

    「ようこそ、随分と大きくなったものだ。」
    「親戚のおじさんみたいな反応しないでくんない?」
    「そう言わないでくれたまえ。君達兄弟の事は生まれた時から知っているのだからな。」
    「…やっぱりな。」

    どういう事だ、と斜め後ろに立つチョロ松が視線で訴えている。
    それに少し黙ってろ、とやはり視線だけで答えると、おそ松は大将の正面に立った。

    「父さんと母さんを殺して、俺達を実験体として誘拐する手引きをしたのは、あんただな?」
    「…ほう?どこまで知っているのかね?」
    「父さんは、昔は軍人だったんだろ。そんで、あんたの同僚で親友だった。」

    そう、父は優秀な軍人だったのだ。
    このまま軍人として生きながらえていれば、輝かしい功績をもって大成していたに違いない。
    しかし、父はある日軍人としての自分を捨てた。
    全てを捨てて、家族を連れて逃げるように田舎へと住まいを移し細々とした暮らしを選んだ。
    そうせざるを得なかったのは、自分達の存在が原因だ。

    「俺達が生まれた時と、国が超能力者の研究開発を発足させたのは同じ年だ。
     …実験体として目を付けられたのは、軍人の息子でしかも六つ子という特殊な生まれの俺達。」
    「その通り。だが、君達の父はそれを拒否し国家の命に反発した。」
    「そうだ…父さんは俺達を守るために全てを捨てたんだ!
     母さんと俺達を連れて逃げて、片田舎でひっそりと生きる道を選んだ!」

    決して裕福な暮らしではなかったが、肩を寄せ合い家族で笑い合ったあの生活は今でも温かな思い出として胸に残っている。
    全てを手放した父は自分達を愛してくれた。
    それはもちろん、いつも父を支えいた母も。
    だが、その慎ましやかな暮らしはある日突然壊された。

    「父さんは、あんたを親友として信頼してたんだろ?相談もしてたらしいじゃん。
     けど、あんたはそれを裏切った。」

    親友だったはずの男は逃げた父の居場所を割り出し、両親を殺害し、自分達を攫って実験体にする事に成功した。
    そして今、この軍事施設のトップとして悠々と高級そうな椅子に腰掛けている。
    それだけではない。
    この男が、超能力者生産などというトチ狂った計画の発案者であり、政府を唆した事も後から知った。
    こいつが、全ての元凶だ。

    「だからさ、俺としてはあんたの事どうしても許せないワケ。
     俺達を実験体にしたこと、絶対後悔させてやるって思ったんだよね。」
    「なるほど。」

    背後のチョロ松が目を見開いて固まっている。
    おそ松だけが知っていたのは、幼い頃こっそり母から父がかつて軍人だった事を聞いたからだ。
    それから、兄弟の目を盗んで父の事を調べていた。
    事実にたどり着いた時には気づかれないように独りで泣いた。
    そして、両親の代わりに自分が弟達を守ると強く誓った。

    「ふふ、その無駄に威圧感のある目…お前の父親を思い出すよ。」
    「そりゃどーも。」
    「そして、頭が残念なところも父そっくりだな!のこのことこんな所に来るなど!」
    「ーっ!チョロ松!!」
    「わかってる!」
    「少々痛い目を見てもらおうか!」

    先程までの落ち着いた雰囲気から一転して、大将は下卑た笑い声をあげた。
    男がパチンと指を鳴らすと、それを合図として扉から武装した男達がなだれ込んで来る。
    チョロ松はおそ松に呼ばれた時には瞬時に扉付近に移動しており、懐に忍ばせていた小型の銃で軍人達を撃ち抜いていく。
    その間におそ松はチョロ松が打ち損ねた分に業火を飛ばす。

    「ははっ全面戦争ってか?!」
    「結局こうなるのかよおぉぉぉぉ!!!そんな気はしてたけどさああぁぁぁ!!!!」

    次々となだれ込んで来る軍隊を相手におそ松は楽しげに、チョロ松は盛大に文句を叫びながら捌いていく。
    それを見つめる大将の男は満足そうに微笑んでいた。

    「くっそ…汚ぇ手で触んじゃねーよゴルァ!ケツ毛燃やすぞボケがぁ!!
     てめぇらの脳天ブチ抜いてやろうか!!!」
    「やだーチョロちゃんこわーい。」

    完全戦闘モードのチョロ松はとにかく口が悪い。ついでに言うと顔も怖い。
    まったくどこのヤンキーだ。
    小型の銃を撃ち鳴らし、リロードしながら足を振り上げては義足の左足で容赦なく蹴りを入れている。
    怖っこの弟マジ怖っ!
    つーか義足を凶器にするなとあれだけ言っているだろうが。
    手持ちの銃は弾切れになったのか、向かってきた相手から武器を奪ったようだ。
    おそ松はおそ松で両手両足に業火を纏い、触れた相手を一瞬にして灰にしていた。
    大人数が相手とはいえ、元々は兵器として戦場の最前線にもいたのだ。
    力の差は明らかであった。
    1人、また1人と部下が消えていく様子に、流石に大将の男は顔色を変えていく。
    程なくして、部屋には灰と屍で溢れ凄惨な状況となっていた。

    「言ったろ?後悔させてやるって…。あとはあんただけだぜ、おっさん。」
    「フ、フフ…素晴らしい、想像以上だったよ…。」

    大将の男はあまりにあっさりと軍隊を片してしまったおそ松とチョロ松を見て、顔を引きつらせている。
    その余裕を無くした顔めがけて、おそ松が赤黒い炎を灯した拳を叩き込んだ。
    正に断末魔の叫びをあげて男は炎に巻かれ倒れ伏し、やがて動かなくなった。
    おそ松はそれを見届けると、くるりとチョロ松の方を向き、いつもの調子で言った。

    「さて、帰るか!」

    ーーー


    side.O

    弟達が待つ部屋に戻ると、部屋の入り口付近には数十人の兵士が倒れていた。
    此方にも少数とはいえ軍隊が来ていたようだ。
    見た感じカラ松が全て片付けてくれたようだ。
    さすが頼りになる弟だ。
    トップを失った今、施設は混乱状態のはずだ。
    今のうちに逃げ出すとしよう。

    「お帰り、兄貴にチョロ松。」
    「もう、ほんっと無茶するよね兄さん達!勘弁してほしいよ!」
    (おそ松兄さんもチョロ松兄さんもすっげー!)
    (まあ、何というか…お疲れ。)
    「ああそうだ、2人が大将の部屋でgenocideしてる時にこっちにも攻撃が来てな。
     まぁ、1人残らず潰してやったから俺達のlittle brothersは無事だぞ、安心してくれ。」
    「兄さん達ってば中々えげつない戦い方するよね。」
    (兄さん達すげー!かっけーっす!!)
    (確かにえげつなかったけど…まぁ、助かった。)

    部屋に入った途端、待っていた弟達が呆れなのか賞賛なのかよくわからない事を口々に言いながら出迎えてくれた。
    直接喋るかテレパシー会話するかどちらかに統一してほしいものだが、
    何となく全員で会話できているのでこの際どうでもよくなってきた。

    「うん?いや待って…?
     僕らが大将の部屋で戦ってた事バレてる?!」
    「あれから少し休んで一松が回復したからな。チョロ松がおそ松に怒鳴り散らしてるあたりからみんなで見てたぞ。
     すごいよな、千里眼とテレパシーを組み合わせるとこんな事できるんだな!」

    カラ松の言葉にチョロ松が「マジかよ恥ずかしい…」と頭を抱えて項垂れている。

    「って事は、全員俺と大将のおっさんの会話も聞いちゃったワケだ。」
    「…そうなるな。」
    「聞いちゃったね。」

    おっと想定外だ。
    チョロ松だけでなく兄弟全員が知ってしまったのか。
    こんな重たい事実、知るのは自分だけで十分だというのに。

    「兄貴が何考えてるか、大体予想つくぞ。
     まあ…知ってしまったのは不可抗力ではあったけど、少なくとも俺は後悔してないさ。」
    「そうだよ、僕も同じ。」
    「兄貴1人で抱え込む必要ないと思うぞ。
     俺もチョロ松も…それに、一松も十四松もトド松も、もう子供じゃないんだ。」
    (確かに驚いたけどさ…結局おそ松兄さんが仇とってくれたんだし。)
    (おそ松兄さんかっこよかったっす!)
    「そういう事だよ、おそ松兄さん。ありがとね!」
    「お前ら…あーもーなんだよ!何なんだよ俺の弟達ってば突然素直になっちゃって超可愛いんですけど!!やべぇ泣きそう!」

    口で言いながら涙は堪えた。
    今この場所に、兄弟が全員揃っている。
    夢にまで見た光景だ。
    おかえり、弟達。ずっと探してた。死ぬほど会いたかった。

    「よし、今度こそ撤収しよう。もちろん6人全員で、な!」
    「了解!」
    (えっ…どこ行くの?)
    (やきう?!)
    (野球じゃないよ、十四松兄さん。)
    (てか…ついてっていいの?
     見てわかるでしょ、僕らの状態…。満足に動けもしないんだよ?十四松とトド松はともかくさ。)
    「何言ってんだ一松。連れてくに決まってるだろお前に拒否権はないからな!長男様命令!」
    (勝手だね。………まあ、その…ありがと。)
    「おう!そーやって素直に連れてかれなさい!」
    (おれもおれもー!兄さんたちありがと!)
    「僕は一松兄さんと十四松兄さんが一緒ならなんだっていいんだけどね。
     でも、ま、助けてもらったしお礼は言ってあげるよ。ありがと、兄さん。」
    「やべぇ弟達マジで可愛い。」
    「はいはい、後にしてよおそ松兄さん。さっさと行くよ。」
    「ひとまず俺達が泊まってるホテルに戻ろうか。」
    「そうだね。ハイじゃあみんなつかまってー。」


    ホテルに戻り、もう一部屋借りて(隣の部屋がちょうど空いていたのはラッキーだった)ひとまずの就寝となった。
    もっとも、とっくに朝日は昇っていたのだが。
    昼過ぎに下の弟達の部屋へ様子を見に行くと、彼らは一つのベッドでギュウギュウにくっ付き合って眠っていた。
    ちなみにシングルベッド3つの部屋だったのだが。
    いくら平均より華奢とはいえ、いい年した男兄弟3人一つのベッドて。
    一松とか末2人の下敷きになってないか?
    それを見てカラ松は困ったような顔をしつつだらしなく頬を緩め
    チョロ松も似たような顔で無言で写真を撮りまくっている。
    あ、なんだこいつらも弟大好きかよ。
    気持ちは分かるがいつまでもこうしているわけにはいかないので、弟達を起こす。
    これからの事を話し合う必要があるのだ。

    「で、これからどうするかだけど…赤塚町に行こうと思ってる。」
    「え…なんでまた?」
    「んー、ほら、あそこは俺達が子供の頃住んでた所だし、少しは馴染みがあるだろ?
     程よく田舎な割に都心まで行くのにもそんな不便じゃないから、拠点にするには調度いいかなって。」
    「なるほど。いいんじゃないか?」
    「んじゃ決定!」

    ホテルのチェックアウトを済ませると、どこで手配したのかチョロ松が車椅子を持ってきていた。
    それに眠っている一松を乗せると、トド松と手を繋いだ十四松が空いた方の手で押す。
    この3人にとってはこれがいつものことなのだろう。
    なんだか微笑ましい光景だ。
    先頭はおそ松、その隣にチョロ松。
    間に下3人を挟んで、最後尾にカラ松。
    ようやく6人揃った六つ子は、幼い頃過ごした町を目指し、ゆっくりと歩き出した。


    fin.
    #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・兄弟愛で終わりそうだけど腐に見えないこともない
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください
    ・前作見てからご覧いただけますと幸いです

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.O

    チョロ松が弟達と共に移動したのを確認して、おそ松は近づいてくる足音へ身体を向けた。
    相手はこの施設の軍人達。
    この辺りの異変に気付いてやってきたのだろう。
    ご苦労様です、運のない事で。
    軍服に身を包んだ奴らは視界におそ松を捉えると一斉に銃を向けた。
    侵入はとっくに気づかれているだろうし、自分達が国家研究機関の実験体だという事も幹部クラスは気付いているはずだ。
    もうこの際生死は問わないスタンスになったようだ。
    リーダーらしき男が腕を上げようとしたタイミングでおそ松は無機質なタイル張りの地を蹴った。
    真正面で銃を構える男の懐に飛び込み、鳩尾に拳を叩き込む。
    防弾チョッキを着込んでいたからそれは殴ると同時に燃やしてやった。
    身を守る盾を失い生身で鳩尾にパンチを喰らった男が呻き声を上げて蹲ると
    その背に両手をついて今度は足を後ろへ振り上げ、
    背後へ回ってきていた奴らの手元を蹴り上げた。
    突然の衝撃に背後の奴らの手から銃が滑り落ちる。
    その一瞬の隙を突いて勢いよく振り返り、勢いを殺さずに顔面めがけて殴ってやった。
    再度元の方向へ振り返ると、今度は両手に炎を携える。
    未だおそ松に銃口を向ける男達の手は僅かに震えていた。
    それに気付いてニヤリと笑みを浮かべると、躊躇うことなく銃口を素手で掴み、手に纏う炎の温度を急上昇させる。
    焼け石のようになったであろう銃に悲鳴を上げて手を離した瞬間を狙い、男が取りこぼした銃を奪って首筋に振るい降ろした。
    ジュ、という音と掠れた叫び声が響く。
    銃火器の扱いが得意なチョロ松が見たら間違いなく怒鳴られそうな使い方である。
    そんな事は気に留めず、おそ松は銃を持つ方とは反対の手で1人残ったリーダーらしき男の首を掴むと壁に打ち付けた。
    ジリジリと剥き出しの肌を焦がしていく。
    男の顔は苦痛と恐怖に歪んでいた。

    「あれ?何震えちゃってんの?俺まだ全然本気出してないよ?つーか準備運動にもなってないよ?」
    「ひっ…!」
    「まぁいいか!あのさぁ〜、俺ここの大将に会いたいんだよね。案内してくんない?
     あ、あんた見たところ少尉クラス?
     あ〜だったらちょっと聞き出すのは難しいかなー。
     じゃあ場所だけでいいからさ〜知らない?」

    場違いとしか言いようがないあっけらかんとした声が響く。
    しかしおそ松のその目は全く笑っていない。
    有無を言わさない凄みとプレッシャーがあった。
    男が呻きながら声を絞り出す。

    「な…何故、大将に…。」
    「え、知りたい?別にちょっとお話したいだけなんだけどさぁ。
     それより知ってんの?知らないの?」

    ギリ、と首を絞め付ける力を強めれば男から悲鳴が上がった。
    観念したように男は口を開く。

    「と、隣の棟の…最上階…それ以上は、知らない…。」
    「あ、そう。情報あんがとね。
     まーでも情報漏洩しちゃったんだし?何か罰を受けちゃうねオニーサン。
     可哀想だからその前に俺が代わりやってやるよ。
     うわ、俺ってばやっさしー!」

    言うや否や、首を掴んでいた手は業火を纏い、男の身体は一瞬にして灰と化した。
    服にまとわりついた灰をポンポンと適当に払い、おそ松は隣の棟へと足を向ける。

    「おそ松兄さん!」
    「?!」

    聞き慣れた声と銃声が同時に聞こえた。
    そして突然切り替わる己の視界。
    チョロ松が能力で自分ごと別の場所へ移動したのだと理解するのに時間は要しなかった。
    別の場所といってもほんの数十メートルの距離だ。
    先程まで自分が立っていたはずの場所を見ると、壁と床が撃ち抜かれて崩れていた。

    「うわ、ナイスタイミング。よく気付いたなチョロ松。」
    「十四松に感謝してよ。おそ松兄さんがライフルで撃ち抜かれる予知してくれたんだから。」
    「そりゃ嫌なもの見せちまったなぁ可哀想に…。何にせよ助かったわ。」

    素直に礼を述べると、おそ松はすぐにチョロ松から距離を取った。
    チョロ松が問答無用で弟達が待つ部屋へ連れて行こうとしたのに気付いたからだ。
    苛立たしげに顔を顰めるチョロ松と目が合った。

    「どういうつもり?一体何をしようとしてんだよ、兄さん!」
    「言ったろ、野暮用って。お前は大人しくあの部屋に戻りなさいって。」
    「さっき撃たれそうになった奴が何言ってんだよ。」
    「そうだけどさー。」
    「その野暮用…僕も付き合う。」
    「は?!」
    「ほら、みんな待ってるんだからさっさと終わらせるよ!」
    「いやいやいや、お前何するか分かってんの?!」
    「わかってねーよ、わかんねーよ!!何1人で突っ走ろうとしてやがる!
     長男だからって!いつもそうやって!!俺たちに何も言わずに何事もなかったように振る舞いやがって!
     俺はそんなに頼りにならないかよ!!」

    感情のままに叫んだチョロ松はおそ松を睨みながら肩で息をしていた。
    対するおそ松はポカンとした顔をしている。
    こうなるとこいつは絶対に自分の意見を曲げないのはよく知っている。
    一人称が僕から俺に変化しているあたり本気で怒っているのだろう。
    別に頼りにしてないなんてことはない。
    むしろ逆だ。本当に、心底頼りにしているんだけど。
    小さくため息をつくと、おそ松はチョロ松の頭にポン、と手を乗せた。

    「言っとくけど、頼りないなんて思ったこと一度もねーよ?
     カラ松のことも、もちろんチョロ松のこともホント信頼してるっての。」
    「……。」
    「でもさ、やっぱり弟にはなるべく危険な目には遭ってほしくないんだよ。
     だから俺1人で充分だなってときは俺1人で動くし、無理そうだったらもちろんお前らに助けを求めるよ?
     今回はさ、俺1人で充分って思ったわけ。」

    結局チョロ松と、あと十四松に助けられちゃったけどな!と笑って俯いてしまったチョロ松の様子をうかがう。
    何も言葉を発さないが、その表情は先程よりも幾分か和らいでいるように感じた。

    「俺らは六つ子だから…みんな年も同じだし、上下なんてあってないようなモンだけど
     それでもやっぱり俺は長男で、みんな俺の弟なんだよ。
     弟を守るのは兄の役目だろ?」
    「……。」
    「だからさぁ、俺にカッコよくお兄ちゃんさせてくんない?
     なぁ、顔上げろってチョロ松。
     わかったよ、一緒に行こうぜ。」
    「なぁーにがカッコよくお兄ちゃんさせろだクズ長男!!カッコいいのなんて知ってるわ!充分だわボケが!!
     最初からサポートくらいさせろっつってんだよ!行くぞオラ!!」

    勢いよく顔を上げて捲し立てたチョロ松の目は
    落ち着きを取り戻していつもの様子に戻っていた。
    キレながら何気にすごいデレをいただいた気がする。
    言葉を発した本人は気づいていないようだが。

    「何ヘラヘラしてんだよキモい。」
    「チョロちゃんったらヒドイ!俺傷付いた!」
    「はいはい…ところで、ほんと何しようとしてたの?」
    「あー…なぁ、チョロ松。
     世の中にはさ、知らない方がいい事だってある。
     今からお前はそう思うかもしれない事を知る。覚悟できてる?」
    「…ここまで来て何言ってんの。」
    「んー。よし、行くか。隣の棟の、大将の部屋だ。」
    「大将…?ってここのトップじゃん!ホント何する気?!」
    「大丈夫、ちょっと話があるだけ。」
    「いやいやいや!話って!えぇ?!」

    おそ松は未だにワケがわからないという様子で狼狽えるチョロ松を引き摺って、軽い足取りで部屋を目指した。

    ーーー


    side.O

    失礼しまーす、と間延びした声でドアをぶち破った。
    この軍事施設のトップの部屋だ。
    チョロ松がついてきたのは予想外だが、いてくれたらいてくれたで心強い。
    大将、と呼ばれる男はまるでここに来るのが分かっていたように静かに座していた。
    白髪交じりの髪をオールバックにまとめ、兵服を身に纏う壮年の男は黙ってそこにいるだけで威圧感を醸し出している。
    おそ松が何か言う前に、大将が口を開いた。

    「ようこそ、随分と大きくなったものだ。」
    「親戚のおじさんみたいな反応しないでくんない?」
    「そう言わないでくれたまえ。君達兄弟の事は生まれた時から知っているのだからな。」
    「…やっぱりな。」

    どういう事だ、と斜め後ろに立つチョロ松が視線で訴えている。
    それに少し黙ってろ、とやはり視線だけで答えると、おそ松は大将の正面に立った。

    「父さんと母さんを殺して、俺達を実験体として誘拐する手引きをしたのは、あんただな?」
    「…ほう?どこまで知っているのかね?」
    「父さんは、昔は軍人だったんだろ。そんで、あんたの同僚で親友だった。」

    そう、父は優秀な軍人だったのだ。
    このまま軍人として生きながらえていれば、輝かしい功績をもって大成していたに違いない。
    しかし、父はある日軍人としての自分を捨てた。
    全てを捨てて、家族を連れて逃げるように田舎へと住まいを移し細々とした暮らしを選んだ。
    そうせざるを得なかったのは、自分達の存在が原因だ。

    「俺達が生まれた時と、国が超能力者の研究開発を発足させたのは同じ年だ。
     …実験体として目を付けられたのは、軍人の息子でしかも六つ子という特殊な生まれの俺達。」
    「その通り。だが、君達の父はそれを拒否し国家の命に反発した。」
    「そうだ…父さんは俺達を守るために全てを捨てたんだ!
     母さんと俺達を連れて逃げて、片田舎でひっそりと生きる道を選んだ!」

    決して裕福な暮らしではなかったが、肩を寄せ合い家族で笑い合ったあの生活は今でも温かな思い出として胸に残っている。
    全てを手放した父は自分達を愛してくれた。
    それはもちろん、いつも父を支えいた母も。
    だが、その慎ましやかな暮らしはある日突然壊された。

    「父さんは、あんたを親友として信頼してたんだろ?相談もしてたらしいじゃん。
     けど、あんたはそれを裏切った。」

    親友だったはずの男は逃げた父の居場所を割り出し、両親を殺害し、自分達を攫って実験体にする事に成功した。
    そして今、この軍事施設のトップとして悠々と高級そうな椅子に腰掛けている。
    それだけではない。
    この男が、超能力者生産などというトチ狂った計画の発案者であり、政府を唆した事も後から知った。
    こいつが、全ての元凶だ。

    「だからさ、俺としてはあんたの事どうしても許せないワケ。
     俺達を実験体にしたこと、絶対後悔させてやるって思ったんだよね。」
    「なるほど。」

    背後のチョロ松が目を見開いて固まっている。
    おそ松だけが知っていたのは、幼い頃こっそり母から父がかつて軍人だった事を聞いたからだ。
    それから、兄弟の目を盗んで父の事を調べていた。
    事実にたどり着いた時には気づかれないように独りで泣いた。
    そして、両親の代わりに自分が弟達を守ると強く誓った。

    「ふふ、その無駄に威圧感のある目…お前の父親を思い出すよ。」
    「そりゃどーも。」
    「そして、頭が残念なところも父そっくりだな!のこのことこんな所に来るなど!」
    「ーっ!チョロ松!!」
    「わかってる!」
    「少々痛い目を見てもらおうか!」

    先程までの落ち着いた雰囲気から一転して、大将は下卑た笑い声をあげた。
    男がパチンと指を鳴らすと、それを合図として扉から武装した男達がなだれ込んで来る。
    チョロ松はおそ松に呼ばれた時には瞬時に扉付近に移動しており、懐に忍ばせていた小型の銃で軍人達を撃ち抜いていく。
    その間におそ松はチョロ松が打ち損ねた分に業火を飛ばす。

    「ははっ全面戦争ってか?!」
    「結局こうなるのかよおぉぉぉぉ!!!そんな気はしてたけどさああぁぁぁ!!!!」

    次々となだれ込んで来る軍隊を相手におそ松は楽しげに、チョロ松は盛大に文句を叫びながら捌いていく。
    それを見つめる大将の男は満足そうに微笑んでいた。

    「くっそ…汚ぇ手で触んじゃねーよゴルァ!ケツ毛燃やすぞボケがぁ!!
     てめぇらの脳天ブチ抜いてやろうか!!!」
    「やだーチョロちゃんこわーい。」

    完全戦闘モードのチョロ松はとにかく口が悪い。ついでに言うと顔も怖い。
    まったくどこのヤンキーだ。
    小型の銃を撃ち鳴らし、リロードしながら足を振り上げては義足の左足で容赦なく蹴りを入れている。
    怖っこの弟マジ怖っ!
    つーか義足を凶器にするなとあれだけ言っているだろうが。
    手持ちの銃は弾切れになったのか、向かってきた相手から武器を奪ったようだ。
    おそ松はおそ松で両手両足に業火を纏い、触れた相手を一瞬にして灰にしていた。
    大人数が相手とはいえ、元々は兵器として戦場の最前線にもいたのだ。
    力の差は明らかであった。
    1人、また1人と部下が消えていく様子に、流石に大将の男は顔色を変えていく。
    程なくして、部屋には灰と屍で溢れ凄惨な状況となっていた。

    「言ったろ?後悔させてやるって…。あとはあんただけだぜ、おっさん。」
    「フ、フフ…素晴らしい、想像以上だったよ…。」

    大将の男はあまりにあっさりと軍隊を片してしまったおそ松とチョロ松を見て、顔を引きつらせている。
    その余裕を無くした顔めがけて、おそ松が赤黒い炎を灯した拳を叩き込んだ。
    正に断末魔の叫びをあげて男は炎に巻かれ倒れ伏し、やがて動かなくなった。
    おそ松はそれを見届けると、くるりとチョロ松の方を向き、いつもの調子で言った。

    「さて、帰るか!」

    ーーー


    side.O

    弟達が待つ部屋に戻ると、部屋の入り口付近には数十人の兵士が倒れていた。
    此方にも少数とはいえ軍隊が来ていたようだ。
    見た感じカラ松が全て片付けてくれたようだ。
    さすが頼りになる弟だ。
    トップを失った今、施設は混乱状態のはずだ。
    今のうちに逃げ出すとしよう。

    「お帰り、兄貴にチョロ松。」
    「もう、ほんっと無茶するよね兄さん達!勘弁してほしいよ!」
    (おそ松兄さんもチョロ松兄さんもすっげー!)
    (まあ、何というか…お疲れ。)
    「ああそうだ、2人が大将の部屋でgenocideしてる時にこっちにも攻撃が来てな。
     まぁ、1人残らず潰してやったから俺達のlittle brothersは無事だぞ、安心してくれ。」
    「兄さん達ってば中々えげつない戦い方するよね。」
    (兄さん達すげー!かっけーっす!!)
    (確かにえげつなかったけど…まぁ、助かった。)

    部屋に入った途端、待っていた弟達が呆れなのか賞賛なのかよくわからない事を口々に言いながら出迎えてくれた。
    直接喋るかテレパシー会話するかどちらかに統一してほしいものだが、
    何となく全員で会話できているのでこの際どうでもよくなってきた。

    「うん?いや待って…?
     僕らが大将の部屋で戦ってた事バレてる?!」
    「あれから少し休んで一松が回復したからな。チョロ松がおそ松に怒鳴り散らしてるあたりからみんなで見てたぞ。
     すごいよな、千里眼とテレパシーを組み合わせるとこんな事できるんだな!」

    カラ松の言葉にチョロ松が「マジかよ恥ずかしい…」と頭を抱えて項垂れている。

    「って事は、全員俺と大将のおっさんの会話も聞いちゃったワケだ。」
    「…そうなるな。」
    「聞いちゃったね。」

    おっと想定外だ。
    チョロ松だけでなく兄弟全員が知ってしまったのか。
    こんな重たい事実、知るのは自分だけで十分だというのに。

    「兄貴が何考えてるか、大体予想つくぞ。
     まあ…知ってしまったのは不可抗力ではあったけど、少なくとも俺は後悔してないさ。」
    「そうだよ、僕も同じ。」
    「兄貴1人で抱え込む必要ないと思うぞ。
     俺もチョロ松も…それに、一松も十四松もトド松も、もう子供じゃないんだ。」
    (確かに驚いたけどさ…結局おそ松兄さんが仇とってくれたんだし。)
    (おそ松兄さんかっこよかったっす!)
    「そういう事だよ、おそ松兄さん。ありがとね!」
    「お前ら…あーもーなんだよ!何なんだよ俺の弟達ってば突然素直になっちゃって超可愛いんですけど!!やべぇ泣きそう!」

    口で言いながら涙は堪えた。
    今この場所に、兄弟が全員揃っている。
    夢にまで見た光景だ。
    おかえり、弟達。ずっと探してた。死ぬほど会いたかった。

    「よし、今度こそ撤収しよう。もちろん6人全員で、な!」
    「了解!」
    (えっ…どこ行くの?)
    (やきう?!)
    (野球じゃないよ、十四松兄さん。)
    (てか…ついてっていいの?
     見てわかるでしょ、僕らの状態…。満足に動けもしないんだよ?十四松とトド松はともかくさ。)
    「何言ってんだ一松。連れてくに決まってるだろお前に拒否権はないからな!長男様命令!」
    (勝手だね。………まあ、その…ありがと。)
    「おう!そーやって素直に連れてかれなさい!」
    (おれもおれもー!兄さんたちありがと!)
    「僕は一松兄さんと十四松兄さんが一緒ならなんだっていいんだけどね。
     でも、ま、助けてもらったしお礼は言ってあげるよ。ありがと、兄さん。」
    「やべぇ弟達マジで可愛い。」
    「はいはい、後にしてよおそ松兄さん。さっさと行くよ。」
    「ひとまず俺達が泊まってるホテルに戻ろうか。」
    「そうだね。ハイじゃあみんなつかまってー。」


    ホテルに戻り、もう一部屋借りて(隣の部屋がちょうど空いていたのはラッキーだった)ひとまずの就寝となった。
    もっとも、とっくに朝日は昇っていたのだが。
    昼過ぎに下の弟達の部屋へ様子を見に行くと、彼らは一つのベッドでギュウギュウにくっ付き合って眠っていた。
    ちなみにシングルベッド3つの部屋だったのだが。
    いくら平均より華奢とはいえ、いい年した男兄弟3人一つのベッドて。
    一松とか末2人の下敷きになってないか?
    それを見てカラ松は困ったような顔をしつつだらしなく頬を緩め
    チョロ松も似たような顔で無言で写真を撮りまくっている。
    あ、なんだこいつらも弟大好きかよ。
    気持ちは分かるがいつまでもこうしているわけにはいかないので、弟達を起こす。
    これからの事を話し合う必要があるのだ。

    「で、これからどうするかだけど…赤塚町に行こうと思ってる。」
    「え…なんでまた?」
    「んー、ほら、あそこは俺達が子供の頃住んでた所だし、少しは馴染みがあるだろ?
     程よく田舎な割に都心まで行くのにもそんな不便じゃないから、拠点にするには調度いいかなって。」
    「なるほど。いいんじゃないか?」
    「んじゃ決定!」

    ホテルのチェックアウトを済ませると、どこで手配したのかチョロ松が車椅子を持ってきていた。
    それに眠っている一松を乗せると、トド松と手を繋いだ十四松が空いた方の手で押す。
    この3人にとってはこれがいつものことなのだろう。
    なんだか微笑ましい光景だ。
    先頭はおそ松、その隣にチョロ松。
    間に下3人を挟んで、最後尾にカラ松。
    ようやく6人揃った六つ子は、幼い頃過ごした町を目指し、ゆっくりと歩き出した。


    fin.
    焼きナス
  • 生き別れた六つ子が 結(上) #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・兄弟愛で終わりそうだけど腐に見えないこともない
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください
    ・前作見てからご覧いただけますと幸いです

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.I

    再び3人だけになった部屋は静寂に包まれていた。
    兄であるチョロ松と思わぬ再会を果たして、お互い戸惑いながらも少し会話をして、急かすように彼に帰るよう促した。
    去り際、1つ上の兄は何か言いたげだったが見ない振りをした。
    施設の者が彼を閉じ込めていた牢に近づいていたのは本当だ。
    そいつが自分達とチョロ松との関係を把握しているかは定かではないが危険な目にも遭ってほしくはなかったのも本心だ。
    チョロ松が自分達に、共に兄達の元へ帰ろう、と手を伸ばそうとしてくれていたのはなんとなく気づいていた。
    けど、牢に人が近づいている、と急かしてうやむやにしてその手を拒んでしまった。
    素直に連れ出してくれと頼めば、1つ上の兄はそうしてくれただろうけれど、
    その後に自分達が、いや自分が兄達の負担になるのは嫌だった。
    十四松とトド松を巻き込んだのは申し訳なかったが。

    ともあれ、チョロ松と接触したおかげで長兄2人の姿も能力で芋づる式に確認できるようになった。
    チョロ松は無事に戻ったのだろう。
    ホテルの一室らしき場所で兄達が何か会話しているのが見える。
    赤い色のパーカーがおそ松兄さんだろうか。
    なんとなく、雰囲気的にそんな気がする。
    とすると黒の革ジャンはカラ松兄さんか。
    …つーかなんだあのサングラスとカッコつけたポーズ。
    誰も見てねーぞ。
    いや、自分が見ているのだが。
    何故か無性に殴りたい衝動に駆られる。
    なにあの痛々しいの。あれ自分の兄なの?やめてほしい。
    カッコいいだなんて決して思ってなどいない。

    兄達から目を離し自分の部屋の様子を窺うと十四松はまだ眠っていて、トド松はベッドに頬杖をついてスマホをいじっていた。
    何か買い物でもしているのだろう。
    いつもの研究所を離れた今、注文した荷物がちゃんとこちらに届くのかは分からないが。
    …少し、空腹を感じてきた。
    そういえばもう何日も飲まず食わずだった気がする。
    それを合図にするように自分の意識が水面下から浮上するような感覚を覚えた。
    ゆっくり瞼を持ち上げると、目の前には末の弟の横顔があった。

    「…トド松。」
    「あ、一松兄さんおはよう。
    目さめたんだね。ご飯にする?」
    「…十四松が起きたら、かな…。」
    「わかった。…水いる?」
    「ん。お願い。」

    自分にとっては数少ない、脳ではなく自らの目で見る景色だ。
    視界で捉える景色は脳内で見るものより格段の鮮やかさだ。
    久々に目を覚ました自分を見て、トド松が嬉しそうな笑顔を向ける。
    無邪気で明るい安心する笑顔。
    トド松からペットボトルのミネラルウォーターを受け取ると、のろのろと腕を持ち上げてキャップを開けた。
    我ながら情けないほどに声が掠れている。
    最後に起きたのはいつだったか…。
    そういえば、この軍事施設にきてからこうして覚醒したのは今回で2回目くらいではなかろうか。

    「久しぶりだね、兄さんが起きるの。
     この施設に来てから、兄さん敵国の情勢を追わされてばっかりだったから…疲れてたとか?」
    「うーん…よく分からないけど、そうなのかも…。」
    「ほんっと、人使い荒いよねー!実験がないからってさぁ!!
     施設の奴らは僕らを失敗だの何だの言ってたけど、実は一松兄さんの能力って強力だしさ。」
    「まぁ、普段寝こけてるから、トド松がいてくれてこそなんだけどね…。」
    「んー…。」

    トド松が声を荒げる。
    と、ベッドを占領していた十四松が小さく身じろぎした。
    目を擦りながら上体を起こし頭をフルフルと振っている。
    ひどく幼い仕種にふ、と思わず口元が緩んだ。

    (おはよう、十四松兄さん。)
    (おはよう十四松。)
    (おはようございマーッスル!!あっ一松兄さん起きてる!ご飯?ご飯っスか?!)
    (そうだね、そうしよっか。…十四松兄さん、調子どう?)
    (あ、えっとね…もう大丈夫!!2人ともごめんね。
     おれ、ちゃんと思いだしたよ!兄さんたちのこと思いだした!)
    (うん、よかった…。)
    (ねぇねぇ、チョロ松兄さんは?チョロ松兄さんどうなったの?大丈夫?)
    (大丈夫、さっさと脱走しちゃったよ。)
    (マジで?!すっげーー!!)
    (チョロ松兄さんね、瞬間移動できるんだってさ。)
    (しゅんかんいどう!かっけーー!)

    幼い頃の記憶が戻り、ずっと離れ離れだった兄の姿を見て取り乱した十四松だったが
    今はチョロ松の安否を気にかけることができる程度に落ち着きを取り戻している。
    十四松なりに、過去を受け入れたということだろう。
    明るく、大輪の花が咲いたような笑顔を向ける十四松に気づかれないようにホッと息をついた。

    研究所にいた時と異なりこの軍事施設は与えられた部屋から出る事を許されていない。
    食事は決まった時間に受け取り口に配膳される。
    一松の分は十四松とトド松が備え付けの冷蔵庫にラップをかけて保存してくれているが、
    最近は目覚めることが少なかったせいで消費されず、結局は十四松の胃に収まっていることがほとんどだった。
    今日はタイミング良く、全員で食事ができそうである。
    時計を見ると深夜のようだったが、まぁ、目が覚めた今のうちに食べておかないと後が辛い。
    どうせ昼夜の区別なく生活しているのだ。
    十四松が一松の車椅子を押しながらトド松の手を引いてテーブルに連れてきてくれた。
    トド松がきちんと腰掛けたのをしっかり見届けると、受け取り口から食事の乗ったトレイを持って運んできた。
    右手と左手と、最後の1つは頭の上に。
    頭の上?!器用だなオイ。
    ていうか何でそこに乗せようと思った?
    右手のトレイはトド松の前に、左手のトレイは一松の前に置くと、
    十四松も席に着き頭上のトレイを自らの前に置く。
    それじゃあ、頂きます。とみんなで手を合わせてフォークとナイフに手を伸ばそうとしたときだった。

    「ーーーっ」

    グラリ、と十四松の身体が傾いだ。
    ダンッとテーブルに派手に腕を打ち付けた音が響く。
    十四松は何かに耐えるようにギュッと目を瞑っている。
    これは十四松の予知の前兆だ。
    すぐさまトド松のテレパシーを介して予知した中身を流し込んでくれた。

    燃え盛る炎
    炎に包まれながら、頭から血を流し倒れ伏す一松と
    その上に重なるようにして倒れ意識を失っているトド松

    見覚えがある。
    未来に起こることの筈なのに、襲ってくる既視感。
    おかしい、これは数ヶ月前にも十四松が予知で見た映像だ。
    そしてそこから敵国の研究所攻撃の企てを突き止め、それを回避するために今いる軍事施設へ連れてこられた。
    この未来はそれで無事に回避されたのではなかったのか。
    炎に包まれている場所はやはり研究所の温室に見える。
    …本当に?
    あの場所は本当に温室なのだろうか?
    だってあそこは今は攻撃を受けて廃墟に成り果てている。
    そいうえば、十四松が最初にあの予知を見た後、何度か温室で更に詳細を予知しようとしたが結局できなかった。
    つまりあの予知は最初から温室ではなかったのだ。
    何故それに気付けなかったのか。
    違うとしたらあれはどこだ?

    (ちょっと待ってよ…!これって!!この未来は回避したんじゃなかったの?!)
    (トド松落ち着け。僕だってそう思ってた。)
    (あのときとぜんぶ!ぜんぶおなじにみえるよ!まったくいっしょ!!どういうことだろ!?)
    (…十四松。これ、どのくらい先に起こることか分かる?)
    (えっと………!!
     え、あ…き、きょう!どうしよう今日だよ!)
    (えっうそでしょ?!今日起こるの?ど、どうしよう兄さん…!)
    (…トド松、落ち着いて。十四松も。
     いい?今からトド松と十四松はこの部屋を調べて。
     十四松の予知で見えた映像と同じ景色になるような場所が近くにないか、探して。
     僕はこの軍事施設の中を探してみるから。)
    (あい!)
    (わかった!)

    充てがわれている部屋は3LDK程の広さがあり、部屋の仕切りもある。
    実は今までリビングダイニングと寝室くらいしか使っていなかったため、他の部屋はほとんど見ていない。
    部屋ではないのは簡単に想像がつくのだが、何か行動させた方が落ち着くだろうと考えて十四松とトド松に指示を出した。
    弟に部屋の調査をお願いして、自分は施設に視線を巡らせる。
    目が覚めているときに能力を使うのは酷く負担が掛かるがそんな事は言ってられない。
    研究所と違って今の自分達は言うなれば監禁状態だ。
    原因を見つけなければ、弟達が危険な目に遭ってしまう。
    眠気を訴える身体に鞭を打って探索を開始する。
    無機質な施設に似たような場所は見当たらない。
    もっとも、見渡せるのは施設の中でも自分が把握できている範囲だ。
    他の場所は位置情報が曖昧で全ては見通せない。

    「ここに似たような場所はないみたいだよ!」
    「そうか。見れる範囲ではこっちも見つけられない。」

    焦った表情の十四松とトド松が戻ってくる。
    どうするべきだろうか。
    予知した内容を見る限りだと、怪我を負っているのは自分だけだった。
    こうなったら…いざとなったら最終手段だろう。
    弟達はなんとか助かってほしい。

    …と、滅多に開かない部屋のドアが開く音がした。
    ドアに目を向けると、軍の幹部が複数人こちらを見据えている。
    反射的に車椅子を動かし、十四松とトド松を背に守るようにして前に出た。

    「ついてこい。」

    幹部の中でもリーダー格の男が短くそれだけ言うと、踵を返す。
    他の幹部は自分達を取り囲むように動いた。
    自分達には力がない。
    ここは逆らわない方がいいだろう。
    後ろを振り返り、弟達に目配せをして大人しく男の後を追った。



    連れてこられたのはそれなりに広さがありつつも質素な部屋だった。
    部屋の中央に白い長テーブル、それを囲うようにしてパイプ椅子がいくつか乱雑に置かれている。
    ドアがある壁側には段ボールが積み重なっている。
    反対側の壁は長方形の白いプランターが置かれている。
    何か植えられているわけではないようで、まるで物置部屋のようだ。
    その部屋を見て、冷や汗が首筋を伝っていくのが分かった。
    この部屋は、よく似ている。
    プランターが置かれている壁際に限定される、という条件付きではあるが
    研究所にいたときに度々訪れていた温室に、もっと言えば予知の映像の背景に、似ている。
    一松達が監禁されていた部屋から離れた場所に位置するこの部屋は
    一松の千里眼で把握しきれていない部屋の1つであった。
    まずい、非常にまずい。
    今炎が襲ってくれば回避することは不可能に近い。
    そんな一松の心中を知る由もなく、軍の幹部が口を開く。

    「先日、捕獲した実験体が脱出した。
     監視カメラの映像を見ると、突然姿を消している。」
    「お前達、実験体の逃走を手助けしてないだろうな?」
    「正直に答えろ。」

    自分達が生活している部屋に設置されている監視カメラはリビングダイニングのみだ。
    チョロ松が牢屋から部屋に瞬間移動した際は寝室に来てもらったからこちらに移動した映像は映ってはいないはず。
    幹部の男はせっかく捕らえていた実験体があっさりと姿を消したため、どうやらイラついているようだ。
    警棒だかなんだか分からないが物騒な物を構えてるし、別の奴は銃に手を掛けている。
    いやいや、確かに会話はしたけど手助けは何もしてないよ?
    そもそもあの人助けなんて必要なかったし。

    「何もしてない。」
    「嘘をつくな!」
    「何もしてないって。
     簡単に脱走された不甲斐なさを俺たちが手助けしたってデタラメでっち上げてなすり付けんの、やめてくんない。
     そっちの不手際でしょ。俺たち巻き込まないでよ。」
    「黙れ!」

    頭に衝撃。
    殴られたようだ。
    頬から顎にかけて、何か生温かいものがつたい流れる。
    「兄さん!」とトド松の悲鳴のような声が聞こえた。
    チラリと殴った幹部に視線を向けると真っ赤な顔をして肩で息をしている。
    感情に任せて殴るなんて、本当に幹部なのかよこいつ。
    空腹故に目が覚めていて本当に助かった。今にも死にそうだけど。
    自分でしゃべることができる。
    自分が受け答えをする限り、十四松とトド松が殴られる可能性は低くなるはずだ。

    「何?ムキになって。もしかして図星だった?
     言っとくけどほんと知らないからね?」

    わざと神経を逆撫でするようなことを言ってやれば、また殴られた。
    さっきと同じ場所殴るとかやめてほしい。
    更に傷口が広がった気がする。
    普段は滅多に起きたりしていないから目眩がしてきた。

    「本当に知らないんだな?」
    「知ってたとして、俺たちに手助けできるような力はない。
     あの部屋からは一歩も出ていないし。」
    「そうか、わかった。…おい、そのへんにしておけ。」

    自分達の正面に座るリーダー格の男に問われ、努めて冷静に答える。
    嘘は言っていない。
    リーダー格は納得してくれたようで自分を殴った男に制止をかけた。
    弟達は怯えきってしまっている。
    早くこの部屋を離れたい。
    早く、いつもの部屋へ戻らなければ。
    リーダー格は、部屋の入り口に立っていた男に軍医を呼ぶように指示し、男が部屋を出て行く。
    それと同時に他の幹部達も部屋を出て行ったが、殴ってきた男は不満気だ。

    「なんだよ!こいつらのせいに決まってるだろ!!この化け物共が!!」

    殴ってきた男は尚も怒りを顕に一松に掴みかかった。
    それを見て腰を浮かせた十四松とトド松に視線だけで制止をかける。
    トド松がギュ、と十四松の腕にしがみ付いた。

    「こいつらのせいにしとけばいいんだ!!
     大体、なんでこんな化け物がのうのうと此処で生きてやがるんだよ!!
     予定通りここで始末すりゃいいんだ!!」

    男の口振りに、一松はフラつく頭でなんとなく状況を理解した。
    おそらく、怒り狂っているこの男は先日捕らえたチョロ松の監視役だったのだろう。
    しかし、瞬間移動の能力を持つチョロ松は簡単に牢から脱出した。
    馬鹿だな、能力持ちなのは分かっていたはずなのに拘束もせずに牢に入れただけで満足するなんて。
    その事で責任を問われ、同じ能力者である自分達に責任をなすりつけたいのだ。
    一応、自分達は国家研究機関の「成果物」だ。
    大々的に拷問なんて出来ないし、処分の判断も軍に決定権はない。
    だからわざわざこの部屋に連れてきて詰問するつもりだったのか。
    リーダー格の男をはじめ、他の幹部達は大して自分達に疑いの目を向けていないところを見ると
    どうやらこの男の空回りのようだが。
    「予定通り始末」と言っているのは、自分達が脱走の手助けをしたと認めれば
    軍の秩序を乱した者として処罰ができるからだろう。

    一松が弟達を背に庇いつつ思案している間にも、興奮した男は罵詈雑言を叫び散らしている。
    やがて軍医が部屋に入ってきたところで男の怒りは頂点に達したのか
    懐から取り出した銃で辺りを発砲し始めた。最早獣の咆哮だ。
    話し合いで納得させるのは無理だな。
    耳元で響く銃声に思わず身を竦める。
    ー 逃げなければ。
    頭では理解しているのに身体が動かない。
    十四松とトド松が背中にしがみ付いてきたのが分かった。
    ああ、自分はなんて役立たずなんだろうか。
    弟を満足に守ることすらできないなんて。
    軍医が男を止めに入っているが、諦めたのか慌てて部屋から去っていった。
    誰か呼んできてくれるならありがたいのだがあまり期待できそうにない。
    発砲したうちの1つが、部屋に置かれていた段ボールを貫いた。
    その瞬間、段ボールが燃えだしあっという間に部屋は炎に包まれていく。
    あの段ボール、何が入っていたんだ。
    グラグラとして回らない頭で考えるも答えなど出るはずない。
    炎を目にした男は狂ったように笑い出した。
    十四松が予知した映像が脳裏をよぎる。

    「へへ…ははは、ひゃはははははは!
     てめーらはここで死ね!!」

    男が部屋を出て行こうとする。
    それにハッとしてとっさに叫んだ。

    「十四松!ドアを閉めさせるな!!ロックがかかる!」
    「!!」

    一松の声に弾かれるようにして顔を上げた十四松がドアへ駆け寄るが
    それよりも早くガチャンと音を立ててドアが閉められた。
    まずい。カードキーを持っていない自分達はドアを開けることが出来ない。
    身体に力が入らない。
    いつもの眠気に加えて、頭の怪我のせいで意識が持っていかれそうになる。
    視線を下に向けると、身を包む被験体服は大きな赤い染みができていた。

    (兄さん!一松兄さん!!)
    (一松兄さん!)

    十四松とトド松の叫び声が響く。
    途切れそうな意識を頭の中に響く弟達の声を頼りに手繰り寄せるようにしてなんとか持ち堪えると、
    千里眼で兄達の姿を探して必死に言葉を紡ぐ。

    (ト、ド松、兄さん達…が、見える?)
    (…!うん、見える!!)
    (じゃあ、に、さんを呼ん、で…
     じゅ、しま、つ…トドま、つをお願…)
    (一松兄さん!)

    十四松とトド松をこんなところで死なせるわけにはいかない。
    だが自分では無理だ。
    ここは最終手段として兄達を頼るしかない。
    一度はその手を拒んだくせして、笑ってしまうよね。
    けど十四松とトド松を助けるためには手段を選んでいられないし
    兄達は来てくれるだろうという確信があった。
    身勝手な弟達とでごめん、兄さん達。
    なんとかトド松が兄達にテレパシーを送ったことを確認したのを最後に、一松は意識を手放した。


    ーーー


    side.O

    チョロ松が飛んだ先は軍事施設の最奥部に位置する監禁部屋だった。
    テーブルの上にはトレイに乗った3人分の食事が手つかずのまま置かれている。
    寝室に置かれたキングサイズのベッドはシーツに皺がよっていて、掛け布団が半分床に落ちている。
    先程までこの部屋で過ごしていたであろう鱗片は感じるが、部屋には誰もいない。
    てか、寝る場所がキングサイズのこのベッド1つしか見当たらないんだけど
    もしかしなくても3人一緒にここで寝てんのか?
    マジで?いい年した男3人で?

    「いない、な。」
    「どこかに連れて行かれたとか…?」
    「だとしたら早く追いつかないとまずいんじゃないか?」
    「カラ松、ドア開けられるか?」
    「ああ、何枚か扉があるようだが、全て南京錠のようだから壊せそうだ。」

    とにかく弟達を探そう。
    深夜に聞こえてきた弟の助けを呼ぶ声に気が急くのをなんとか抑える。
    カラ松が念力でドアの鍵を壊している間にリビングにあった監視カメラを破壊しておいた。
    まあ、どうせ記録には残ってるだろうけど。
    重たい金属音を響かせて鍵が壊れると、捕らえた者を逃がすまいとでも言いたげな厳重なドアを蹴破った。
    警報ベルが鳴り響いている。
    なんか研究所を脱出した日を思い出すな。

    「あ、警報鳴っちゃってるね。」
    「だな〜。もう強行突破かな?」
    「…ちょっと待ってくれ、兄貴、チョロ松。」
    「どうした?」
    「警報の音、やけに遠くないか?俺たちの侵入がバレた警報ではないようにおもうのだが。」
    「…あ、確かに。この辺りの牢屋で鳴ってるわけじゃないみたいだね。」
    「あと、どちらかというと…火災警報、みたいな音に聞こえるのだが。」
    「火災警報?」

    カラ松の言葉に警報に耳を澄ませる。
    言われてみればそう聞こえないこともない。
    最奥部の牢獄を抜けて開けた空間に出ると、警報ベルの音が更にけたたましく聞こえてきた。
    それと同時に微かに煙の気配。
    おそ松は炎を操る能力者だ。炎の気配には人一倍敏感だった。

    「カラ松、どうやらお前の読みは当たりみたいだぜ。煙の臭いがする。」
    「…火事?それってトド松の助けと関係してるのかな。」
    「さぁな〜?けど、とりあえず何が起こってるのか確かめる必要はありそうだな。…行くぞ。」

    炎は自分の武器だ。
    火事現場のような火に囲まれた場所は独断場である。
    周りに人の気配はない。今の内に近づけるだけ近づきたいところだ。
    先頭を切って走り出すと、カラ松とチョロ松もそれに続く。
    ふと、おそ松は後ろの2人を振り返らずに問いかけた。

    「なぁ、そういやお前らが見た夢ってどんなの?」

    3人揃って奇妙な夢を見て同時に目を覚ました途端、弟の助けを呼ぶ声がしたため、そういえば夢の話をしていなかった。
    別に今しなければならない話ではないのだが、なんとなく思いついたから聞いてみたのだ。

    「ちなみに俺は、真っ白な空間に俺と、あと誰だかわからないけど誰かがいて、そいつが泣いてる夢だった」
    「あ、僕も似たような感じ。」
    「フッ…………俺もだ!」
    「何で溜めた?!」
    「わーぉ。やっぱりみんなして同じ夢見ちゃったワケ?!」
    「多分だけど…僕が見た夢で泣いてた奴、十四松だったように思う。前も夢に十四松が出てきた事があったから。」
    「何それ初耳。」
    「そうなのか?…俺は、誰かまでは分からなかったな。
     だがチョロ松がそのような夢を見たなら…俺の前にいたのも弟の内の一人なのかもしれない。」
    「うーん、そうなると俺の夢に出てきた奴も弟ってか?」
    「あ、あと俺の夢に出てきた子は助けを求めていたぞ。
     そういえば起きてから聞こえたトド松の声に似ていた気がする。」

    チョロ松の夢に出てきたのが十四松で、カラ松の夢に出てきたのがトド松なら自分の夢にいたのは一松か?
    この夢に意味がありそうな気もするが今は分からない。
    が、夢に出てきたのが本当に下の弟達だとしたら関連はありそうな気がする。
    そんな話をしている内に辺りには煙が立ち込めてきた。
    なんとなく、ガソリンのような臭いもする。
    これが炎の原因だろうか。
    しかしさすがは軍事施設だ。火の回りは通常に比べて遅い。
    臭いと炎の気配に意識を集中させてひたすら走る。
    周りの温度が確実に上がってきた。
    どのくらい走ったか、大した距離も走っていない気がするが
    燃え盛る炎を視認できるところまで辿り着いた。
    長い廊下に規則的に並ぶ扉。
    そのいくつかと壁が黒く焦げ付いている。
    ドアの鍵は…カードキー式か。
    しかしさっきから人がいないのは何故だ?

    「カラ松、ドア全部ぶち壊すぞ。」
    「了解。」
    「なっ?!」

    チョロ松が非難の目を向けたが知らんぷり。
    分かってるって。
    自分達は弟を助けに来たのであって、わざわざ派手に喧嘩するような事をしにきたわけじゃない。
    チョロ松は目立つ行動は避けるべきだと言いたいのだろう。
    だが、おそ松はこの炎の中に生き別れた弟達がいる気がしてならなかった。
    確証などない、ただの勘だ。
    掌に炎を集める。
    徐々に温度を上げていくとブスブスと音がした。
    廊下を挟んで反対側のドアをカラ松が壊そうとしている。
    今回は南京錠ではなく機械が相手のためか、少々苦戦中のようだ。
    視線を目の前のドアに戻す。
    そして炎を纏った拳でそのままをドアを殴りつけた。
    超高温で打ちつけられたドアのロック部分が溶け、ボコリと穴が開いた。
    そのままドアを蹴り倒すと、その部屋の中は一面真っ赤だった。
    ここが炎の発生源か。
    ドアが開いた事で空気を手に入れた炎が一層唸り熱風が押し寄せる。
    赤く燃える部屋に躊躇うことなく足を踏み入れた。
    おそ松がスッと指を動かすと、炎はまるで従うように綺麗に道を開けていく。

    「ーお前達!無事か?!」
    「ーー!!」

    後から入ってきたチョロ松が真っ先に部屋の隅に固まっていた人影に気付き、慌てて駆け寄った。
    おそ松の眼前には、探し続けてきた弟達の姿があった。
    感動の再会といきたいところだが、どうやらそれはもう少し後のようだ。
    1人は頭から血を流し、完全に気を失っている。
    もう1人も青ざめた顔で倒れているし
    辛うじて意識を保っている1人は泣きそうな顔で2人を抱きかかえていた。
    誰だ、こんな事したのは。
    おそ松は自分の中に流れる血が沸々と湧き上がっていくのを感じた。
    それなのに頭は妙に冷静だ。
    うん、ちょっとこの施設の責任者誰かな?
    お兄ちゃん久々にブチギレちゃったよ??

    「みんなまだそこまで煙を大量に吸ってないな?
     十四松、これで一松の傷口おさえて!
     トド松は気を失ってるだけか…?…ああ、そうか十四松お前喋れないもんな。
     とにかく、ここから離れないと…。」

    チョロ松の声に、怪我を負っているのが一松で、気を失ってるのがトド松、2人を抱えていたのが十四松だと分かった。
    チョロ松からハンカチを受け取った十四松が一松のこめかみを押さえている。
    そうか、十四松はしゃべる事が出来ないのか。

    「…兄貴、人が来る。」
    「そうだなぁ〜…チョロ松!」
    「うん?」
    「お前は弟達とカラ松を連れて最初に飛んできた部屋に戻って手当してやれ。
     カラ松はこいつらの事頼むぜ。」
    「分かった。」
    「え…おそ松兄さんは…。」
    「俺〜?俺はねぇ、弟を危険な目に遭わせてくれちゃって、折角の感動の再会を
     ブチ壊してくれちゃった人達とちょーっと話し合いしてくる。」
    「やり過ぎないでよ。」
    「わかってまーす。」

    背を向けたままヒラヒラと手を振ってみせると
    小さくため息をついて、チョロ松はカラ松と弟達を連れて部屋へ飛んでいった。
    未だに鳴り止まない警報ベルと炎に包まれながら、おそ松は近づいてくる足音を待った。
    さて、どう遊んでやろうか。
    本当なら再会を果たせた弟達を連れてホテルへ戻ればいいのだが、
    おそ松には誰にも告げていない目的があった。
    それに怒りも治まらないのだ。
    どうせ弟達全員連れて逃げてやるし、ちょっとくらい暴れたっていいだろ?
    全身が沸騰しているような感覚に陥りながら、おそ松はニヤリと笑みを浮かべた。

    ーーー


    side.K

    瞬間移動で最初に飛んできた部屋へ再び戻って来ると、まず怪我を負っている一松をベッドに慎重に寝かせた。
    そしてその隣にトド松を寝かせる。
    弟達の介抱をチョロ松に任せ、カラ松はここに来た時に壊した重たい扉を音を立てないようにして閉めた。
    十数年振りに再会した弟達は、自分達に比べて華奢で、肌も白く、心配になるくらい軽かった。
    手を握っただけで壊しそうで怖いくらいだ。
    弟達に会えた時に最初になんて言葉を掛けようかと思案していたのに、それどころではない状況だったのが残念だ。
    仕方ない、おそ松が戻ってきて無事にここを離れたら存分に再会を喜び合おうではないか。
    炎を見つめながら何かを考え込むように視線を巡らせていた兄には、何か考えがあるのだろう。
    何を考えているのかは分からない。
    教えてくれなかった。
    それが少し歯痒くもあるが、今の自分の役目は弟達を守ることだ。
    カラ松が部屋の入り口で様子を見守る中、チョロ松の指示に従い十四松がタオルと着替えを持ってきた。

    「ありがとう。十四松も少し休みな。よく頑張った。」

    遠慮がちに十四松の頭をぎこちなく撫でたチョロ松は優しげな笑みを浮かべている。
    十四松も少し緊張していたようだが、嬉しそうに笑った。天使か。
    なるほど、この三男は弟には優しいんだな。
    その優しい女神の如き微笑み、たまにでいいから是非とも兄達にも向けてもらいたいものだ。
    三男のレアな表情に少しの感動を覚えながら部屋を見渡す。
    テーブルの上には手つかずの食事が置いてある。
    もうとっくに冷めてしまっているであろうそれを見て、ようやくカラ松は声を発した。

    「十四松、腹が減っているんじゃないか?
    一松とトド松のことはチョロ松が見てくれているから、何か食べたらどうだ?」

    十四松は驚いてこちらを見たが、言われて空腹に気づいたのだろう。
    きゅるる、と可愛らしい音を立てて腹の虫が鳴く音が聞こえた。
    十四松は照れ笑いをしながらこくりと頷くとテーブルに置かれた1人分のトレイを電子レンジに突っ込んだ。
    しばらく電子レンジの前に立ってそわそわしていた十四松だが、
    やがて思いついたようにパッと顔を上げてリビングの隅に置かれた小さな棚からメモ帳とペンを持ってきた。
    テーブルに座り、ペンを走らせるとそれをこちらに見せてくれた。
    そこには、子供っぽいはみ出し気味な字で

    "兄さんたち たすけてくれてありがとう!
     おれ、こえ出なくてごめんね"

    と書かれている。
    なるほど、五男は天使か。理解した。

    「まだ礼を言うには早いぞ。…まあ、何とか間に合ってよかった。」

    レンジに呼ばれたので中からトレイを取り出してテーブルに置いてやると、わしわしと十四松の頭を撫でてやった。
    こちらに笑顔を向けてくれたことにひどく安心した。


    ーーー


    side.C

    寝室からリビングの様子をうかがうと、十四松は落ち着いた様子で夕食を口に運んでいる。
    もう夕食といえるような時間ではないことは置いといて。
    どうやらカラ松に任せておいて問題なさそうだ。
    そう判断して視線をベッドに寝かせた一松とトド松に向ける。
    一松の怪我は粗方手当てし終えた。
    血で汚れた服を脱がせて十四松が持ってきてくれた着替えを着せる。
    肋が浮き彫りになった白くて細い身体にゾッとしたし、着替えさせてる間もふと力を入れたら壊れそうで怖かったくらいだ。
    少々出血が多いのが心配だが呼吸は安定しているし、脈もしっかりしている。
    もう少し様子を見よう。
    トド松は極度の緊張と炎の恐怖で意識を手放してしまったのだろう。
    頬に涙の跡が見えた。
    自分達に助けを求めてきた声は、確かにこの末弟の声だった。
    一体何にそこまで怯えていたのか。
    いや、なんとなく想像はつく。
    火に囲まれた部屋に閉じ込められて、更に兄がこんな怪我を負ったら正気でなんていられない。
    そっと頬を拭ってやると、トド松が僅かに身じろいだ。

    「…トド松?」

    なるべく、自分が出せる最大限の優しい声で呟いた。
    トド松がゆるゆると瞼を持ち上げる。
    しかしその瞳は焦点が定まっていないし、チョロ松の声にも反応はない。
    ああ、そういえば…。
    チョロ松は昨日のトド松達との会話を思い出した。
    トド松は視覚と聴覚が著しく低下している。
    一松か十四松に触れていれば己の能力を駆使して見えるし聞こえると言っていたが、
    触れる相手が自分でもそれは有効なのだろうか。
    おそるおそる手を伸ばして、一松に負けず劣らずほっそりとした白い手に自分の手を重ねる。
    トド松は一瞬ピクリと身体を震わせたが、灰色の中に淡い桃色を混ぜた双眸は今度はしっかりとチョロ松をとらえた。
    むくりと上体を起こして、まるで小動物のようにしばらくじっとチョロ松を見つめて、やがて口を開いた。

    「チョロ松、兄さん…?」
    「うん。おはようトド松。…どこか痛いところない?」
    「平気…。」
    「そう、よかった…。」
    「来てくれた、の。」
    「トド松が助けを呼んだんだろ?
     …まあ、長いこと会ってなかったけど、兄であることに変わりはないからね。
     弟が助けを呼んでたらそりゃ飛んでくるよ。」
    「あ、ありがと…チョロ松兄さん。」
    「うん、どういたしまして。」
    「あ!そうだ、一松兄さんと十四松兄さんは?!…って、うわぁ?!」

    トド松の声に気づいた十四松がドタバタと近づいて思い切りダイブした。
    それを受け止めきれず、トド松は再びベッドに身を沈めるはめになった。
    「うぐっ?!」とくぐもった呻き声が聞こえた気がしたが、まあ大丈夫だろう。

    (トド松ー!!トド松おきた!!)
    (うん、起きたよ。心配かけてごめんね十四松兄さん。)
    (…あ、これテレパシー?僕もちょっと慣れてきたかな。)
    (んん?!話はチョロ松から聞いていたがすごいなこれ!)

    トド松が目を覚ましたことにより、ようやく十四松とも会話が出来る。
    十四松が来たからお役御免かと触れていた手を離そうとしたが、逆にギュ、と掴まれた。
    驚いてトド松を見ると、僅かに顔を赤くして一気に捲し立てられた。

    (別にいいでしょ!一松兄さんと十四松兄さん以外でも触れると視覚聴覚を
     補える人がいたって分かったから試運転中なの!)
    (…ああ、うん。そういうことでいいよ。)
    (なになに?チョロ松兄さんでも見えたの?やったねトド松!じゃあカラ松兄さんは??)
    (後で試すよー。)
    (なんだ?よく分からないがいつでもwelcomeだmy little brot(ところで、何があったのか教えてくれない?)

    カラ松の「えっ…」という小さな声が聞こえたがいつものことだ。ハイ無視。
    十四松とトド松は一瞬身を固くしたが、ゆっくりと事情を説明してくれた。
    幹部の男達に連れて行かれて詰問をされたこと。
    その内の1人が異常なまでに3人を追い詰め、火を放って閉じ込められてしまったこと。
    十四松が既に予知していながら、回避しきれなかったこと。
    一松が自分達の居場所を把握していたため、トド松が助けを呼んだこと。
    トド松は助けを呼んだ後に気分が悪くなってしまったらしく、そのまま気を失ってしまったそうだ。
    どうやらチョロ松が脱走したことも原因の一端になっているようで非常に申し訳ない。
    やっぱり無理やり連れて行けばよかった。

    (兄さん達が来てくれなかったら、今頃どうなってたか…。)
    (当たり前だろう。弟達が助けを求めていたんだ。なんとしてでも駆けつけるさ。)
    (…あれ。そういえばおそ松兄さんは?)
    (長男は倒れてるお前達を見て激おこで暴れてると思う。)
    (え…。ちょっと大丈夫なの、それ。)
    (まあ…兄貴だしなぁ。)
    (うん、おそ松兄さんだし。大丈夫でしょ。)
    (うーん、カラ松兄さんとチョロ松兄さんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど…。)

    長男は今頃怒りに任せて暴れまわっているのだろう。
    研究所を脱出した時のように。
    いや、その時以上かもしれない。
    倒れた弟達を見つけた瞬間のおそ松の表情は背筋が凍る程に怖かった。
    送り込まれた戦場でだって、あんな表情は見たことなかった。

    (うあ…マジで暴れまわってる。何この人超怖い。)
    (一松兄さん!!)
    (一松兄さん!起きたの?よかった!
     …もう!死ぬほど心配したんだからね?!無茶しないでよ!
     あれだけ自己犠牲に走らないでって言ってたのに!!)
    (そーですぜ兄さんー!)
    (え…ご、ごめん?)
    (一松か?!よかった…大丈夫か?!)
    (黙れカラ松お前なんだよその痛々しい格好。あと何でそんな無駄にカッコつけたポーズしてんだ死ね。)
    (ごめん、一松…その点はもう僕もおそ松兄さんも諦めてるんだ。スルーしてやって。
     あとお前なかなか辛辣だな、そういうの嫌いじゃないけど。)
    (…え?)
    (兄さんだいじょうぶ?あたまいたい?!)
    (頭は普通に痛い。…あと、飯食いっぱぐれたから色々ツライ。)
    (だよね。そういえば一松兄さん10日は飲まず食わずだよ。さっきようやく水飲んだ程度だもん。)
    (何か食べれそうか?)
    (無理。起きれない。)

    一松の意識も戻ってきた。
    いや、寝てるから意識はないはずなのだが、この場合どう言ったらいいのか。
    十四松とトド松が「起きた」と表現しているから起きたでいいのか。
    それより10日飲まず食わずって大丈夫じゃないだろ。死ぬぞ。
    そりゃ細いわけだ。
    そんなチョロ松の心配をよそに、一松はトド松のテレパシーを介してある映像を送ってきた。
    炎の中、軍事施設の人間達を相手に戦闘中の長男の姿である。
    想像以上にキレていたようで、えげつない戦い方をしている。
    だが、闇雲に暴れまわっているわけではない。
    上手く説明できないが、ある場所を目指して…何か明確な目的を持って動いているように見える。

    (…トド松。)
    (はーい。)

    一松の声に、トド松がすぐに察して声をかける。

    (おそ松兄さん、こちらトド松。
     僕も十四松兄さんも一松兄さんもみんな無事だよ!)
    (お?何これすげーな?!トド松のテレパシーか?
     そりゃよかった、それ聞いて安心したわー。
     それじゃ、お兄ちゃんちょーっと野暮用終えたら戻るから大人しく待ってろよ!
     カラ松とチョロ松はちゃんと弟達守ること!)
    (いや馬鹿かこのクズ長男!!野暮用って何だよ?!さっさと帰ってこい!!)

    まだまだ言いたいことはあったのだが、映像が途切れてしまった。
    おそ松のえげつない戦いを弟達にあまり見せずに済むのはいいのだが、野暮用って何だ。
    やはりあの兄は何か目的があるようだ。

    (限界…。ちょっと寝させて…。)

    つい先程起きたはずの一松の意識がまた落ちてしまった。
    無理もない。
    と、ベッドに腰掛けていた十四松の身体がグラリと揺れた。

    「十四松?!どうした?」
    (…!おそ松兄さん、ケガしちゃう!だめっ!!)
    (え、どうした十四松?!)
    (おそ松兄さんが、とおくからおっきいけんじゅーでおなかうたれるの、見えた!はやくたすけないと!)
    (十四松兄さん、その予知あとどのくらい先?!)
    (んと、けっこうすぐ!!)

    後からトド松に聞いて知ったことだが、どうも十四松がこのようになるのは予知の前兆らしい。
    予知した内容を聞いて、カラ松が若干焦りを含んだ声をあげる。

    「チョロ松、この場を任せられるか?」
    「いや、カラ松…僕が行くよ。僕の方が早く辿り着ける。」
    「だが…!」
    「僕が行く。それに、ここで皆を守るのはカラ松の能力の方が向いてる。」
    「…分かった、気をつけろよ。」

    チョロ松の固い意志を見て、カラ松は引き下がってくれた。
    先程一松が映像を見せてくれたから場所は把握できている。
    何を、おそ松は一体何をしようとしているのか。
    何故自分達には教えてくれないのか。
    そんなの、悔しいだろ。
    待ってろクソ長男。
    てめーだけにカッコつけさせてたまるか。
    #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・兄弟愛で終わりそうだけど腐に見えないこともない
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください
    ・前作見てからご覧いただけますと幸いです

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.I

    再び3人だけになった部屋は静寂に包まれていた。
    兄であるチョロ松と思わぬ再会を果たして、お互い戸惑いながらも少し会話をして、急かすように彼に帰るよう促した。
    去り際、1つ上の兄は何か言いたげだったが見ない振りをした。
    施設の者が彼を閉じ込めていた牢に近づいていたのは本当だ。
    そいつが自分達とチョロ松との関係を把握しているかは定かではないが危険な目にも遭ってほしくはなかったのも本心だ。
    チョロ松が自分達に、共に兄達の元へ帰ろう、と手を伸ばそうとしてくれていたのはなんとなく気づいていた。
    けど、牢に人が近づいている、と急かしてうやむやにしてその手を拒んでしまった。
    素直に連れ出してくれと頼めば、1つ上の兄はそうしてくれただろうけれど、
    その後に自分達が、いや自分が兄達の負担になるのは嫌だった。
    十四松とトド松を巻き込んだのは申し訳なかったが。

    ともあれ、チョロ松と接触したおかげで長兄2人の姿も能力で芋づる式に確認できるようになった。
    チョロ松は無事に戻ったのだろう。
    ホテルの一室らしき場所で兄達が何か会話しているのが見える。
    赤い色のパーカーがおそ松兄さんだろうか。
    なんとなく、雰囲気的にそんな気がする。
    とすると黒の革ジャンはカラ松兄さんか。
    …つーかなんだあのサングラスとカッコつけたポーズ。
    誰も見てねーぞ。
    いや、自分が見ているのだが。
    何故か無性に殴りたい衝動に駆られる。
    なにあの痛々しいの。あれ自分の兄なの?やめてほしい。
    カッコいいだなんて決して思ってなどいない。

    兄達から目を離し自分の部屋の様子を窺うと十四松はまだ眠っていて、トド松はベッドに頬杖をついてスマホをいじっていた。
    何か買い物でもしているのだろう。
    いつもの研究所を離れた今、注文した荷物がちゃんとこちらに届くのかは分からないが。
    …少し、空腹を感じてきた。
    そういえばもう何日も飲まず食わずだった気がする。
    それを合図にするように自分の意識が水面下から浮上するような感覚を覚えた。
    ゆっくり瞼を持ち上げると、目の前には末の弟の横顔があった。

    「…トド松。」
    「あ、一松兄さんおはよう。
    目さめたんだね。ご飯にする?」
    「…十四松が起きたら、かな…。」
    「わかった。…水いる?」
    「ん。お願い。」

    自分にとっては数少ない、脳ではなく自らの目で見る景色だ。
    視界で捉える景色は脳内で見るものより格段の鮮やかさだ。
    久々に目を覚ました自分を見て、トド松が嬉しそうな笑顔を向ける。
    無邪気で明るい安心する笑顔。
    トド松からペットボトルのミネラルウォーターを受け取ると、のろのろと腕を持ち上げてキャップを開けた。
    我ながら情けないほどに声が掠れている。
    最後に起きたのはいつだったか…。
    そういえば、この軍事施設にきてからこうして覚醒したのは今回で2回目くらいではなかろうか。

    「久しぶりだね、兄さんが起きるの。
     この施設に来てから、兄さん敵国の情勢を追わされてばっかりだったから…疲れてたとか?」
    「うーん…よく分からないけど、そうなのかも…。」
    「ほんっと、人使い荒いよねー!実験がないからってさぁ!!
     施設の奴らは僕らを失敗だの何だの言ってたけど、実は一松兄さんの能力って強力だしさ。」
    「まぁ、普段寝こけてるから、トド松がいてくれてこそなんだけどね…。」
    「んー…。」

    トド松が声を荒げる。
    と、ベッドを占領していた十四松が小さく身じろぎした。
    目を擦りながら上体を起こし頭をフルフルと振っている。
    ひどく幼い仕種にふ、と思わず口元が緩んだ。

    (おはよう、十四松兄さん。)
    (おはよう十四松。)
    (おはようございマーッスル!!あっ一松兄さん起きてる!ご飯?ご飯っスか?!)
    (そうだね、そうしよっか。…十四松兄さん、調子どう?)
    (あ、えっとね…もう大丈夫!!2人ともごめんね。
     おれ、ちゃんと思いだしたよ!兄さんたちのこと思いだした!)
    (うん、よかった…。)
    (ねぇねぇ、チョロ松兄さんは?チョロ松兄さんどうなったの?大丈夫?)
    (大丈夫、さっさと脱走しちゃったよ。)
    (マジで?!すっげーー!!)
    (チョロ松兄さんね、瞬間移動できるんだってさ。)
    (しゅんかんいどう!かっけーー!)

    幼い頃の記憶が戻り、ずっと離れ離れだった兄の姿を見て取り乱した十四松だったが
    今はチョロ松の安否を気にかけることができる程度に落ち着きを取り戻している。
    十四松なりに、過去を受け入れたということだろう。
    明るく、大輪の花が咲いたような笑顔を向ける十四松に気づかれないようにホッと息をついた。

    研究所にいた時と異なりこの軍事施設は与えられた部屋から出る事を許されていない。
    食事は決まった時間に受け取り口に配膳される。
    一松の分は十四松とトド松が備え付けの冷蔵庫にラップをかけて保存してくれているが、
    最近は目覚めることが少なかったせいで消費されず、結局は十四松の胃に収まっていることがほとんどだった。
    今日はタイミング良く、全員で食事ができそうである。
    時計を見ると深夜のようだったが、まぁ、目が覚めた今のうちに食べておかないと後が辛い。
    どうせ昼夜の区別なく生活しているのだ。
    十四松が一松の車椅子を押しながらトド松の手を引いてテーブルに連れてきてくれた。
    トド松がきちんと腰掛けたのをしっかり見届けると、受け取り口から食事の乗ったトレイを持って運んできた。
    右手と左手と、最後の1つは頭の上に。
    頭の上?!器用だなオイ。
    ていうか何でそこに乗せようと思った?
    右手のトレイはトド松の前に、左手のトレイは一松の前に置くと、
    十四松も席に着き頭上のトレイを自らの前に置く。
    それじゃあ、頂きます。とみんなで手を合わせてフォークとナイフに手を伸ばそうとしたときだった。

    「ーーーっ」

    グラリ、と十四松の身体が傾いだ。
    ダンッとテーブルに派手に腕を打ち付けた音が響く。
    十四松は何かに耐えるようにギュッと目を瞑っている。
    これは十四松の予知の前兆だ。
    すぐさまトド松のテレパシーを介して予知した中身を流し込んでくれた。

    燃え盛る炎
    炎に包まれながら、頭から血を流し倒れ伏す一松と
    その上に重なるようにして倒れ意識を失っているトド松

    見覚えがある。
    未来に起こることの筈なのに、襲ってくる既視感。
    おかしい、これは数ヶ月前にも十四松が予知で見た映像だ。
    そしてそこから敵国の研究所攻撃の企てを突き止め、それを回避するために今いる軍事施設へ連れてこられた。
    この未来はそれで無事に回避されたのではなかったのか。
    炎に包まれている場所はやはり研究所の温室に見える。
    …本当に?
    あの場所は本当に温室なのだろうか?
    だってあそこは今は攻撃を受けて廃墟に成り果てている。
    そいうえば、十四松が最初にあの予知を見た後、何度か温室で更に詳細を予知しようとしたが結局できなかった。
    つまりあの予知は最初から温室ではなかったのだ。
    何故それに気付けなかったのか。
    違うとしたらあれはどこだ?

    (ちょっと待ってよ…!これって!!この未来は回避したんじゃなかったの?!)
    (トド松落ち着け。僕だってそう思ってた。)
    (あのときとぜんぶ!ぜんぶおなじにみえるよ!まったくいっしょ!!どういうことだろ!?)
    (…十四松。これ、どのくらい先に起こることか分かる?)
    (えっと………!!
     え、あ…き、きょう!どうしよう今日だよ!)
    (えっうそでしょ?!今日起こるの?ど、どうしよう兄さん…!)
    (…トド松、落ち着いて。十四松も。
     いい?今からトド松と十四松はこの部屋を調べて。
     十四松の予知で見えた映像と同じ景色になるような場所が近くにないか、探して。
     僕はこの軍事施設の中を探してみるから。)
    (あい!)
    (わかった!)

    充てがわれている部屋は3LDK程の広さがあり、部屋の仕切りもある。
    実は今までリビングダイニングと寝室くらいしか使っていなかったため、他の部屋はほとんど見ていない。
    部屋ではないのは簡単に想像がつくのだが、何か行動させた方が落ち着くだろうと考えて十四松とトド松に指示を出した。
    弟に部屋の調査をお願いして、自分は施設に視線を巡らせる。
    目が覚めているときに能力を使うのは酷く負担が掛かるがそんな事は言ってられない。
    研究所と違って今の自分達は言うなれば監禁状態だ。
    原因を見つけなければ、弟達が危険な目に遭ってしまう。
    眠気を訴える身体に鞭を打って探索を開始する。
    無機質な施設に似たような場所は見当たらない。
    もっとも、見渡せるのは施設の中でも自分が把握できている範囲だ。
    他の場所は位置情報が曖昧で全ては見通せない。

    「ここに似たような場所はないみたいだよ!」
    「そうか。見れる範囲ではこっちも見つけられない。」

    焦った表情の十四松とトド松が戻ってくる。
    どうするべきだろうか。
    予知した内容を見る限りだと、怪我を負っているのは自分だけだった。
    こうなったら…いざとなったら最終手段だろう。
    弟達はなんとか助かってほしい。

    …と、滅多に開かない部屋のドアが開く音がした。
    ドアに目を向けると、軍の幹部が複数人こちらを見据えている。
    反射的に車椅子を動かし、十四松とトド松を背に守るようにして前に出た。

    「ついてこい。」

    幹部の中でもリーダー格の男が短くそれだけ言うと、踵を返す。
    他の幹部は自分達を取り囲むように動いた。
    自分達には力がない。
    ここは逆らわない方がいいだろう。
    後ろを振り返り、弟達に目配せをして大人しく男の後を追った。



    連れてこられたのはそれなりに広さがありつつも質素な部屋だった。
    部屋の中央に白い長テーブル、それを囲うようにしてパイプ椅子がいくつか乱雑に置かれている。
    ドアがある壁側には段ボールが積み重なっている。
    反対側の壁は長方形の白いプランターが置かれている。
    何か植えられているわけではないようで、まるで物置部屋のようだ。
    その部屋を見て、冷や汗が首筋を伝っていくのが分かった。
    この部屋は、よく似ている。
    プランターが置かれている壁際に限定される、という条件付きではあるが
    研究所にいたときに度々訪れていた温室に、もっと言えば予知の映像の背景に、似ている。
    一松達が監禁されていた部屋から離れた場所に位置するこの部屋は
    一松の千里眼で把握しきれていない部屋の1つであった。
    まずい、非常にまずい。
    今炎が襲ってくれば回避することは不可能に近い。
    そんな一松の心中を知る由もなく、軍の幹部が口を開く。

    「先日、捕獲した実験体が脱出した。
     監視カメラの映像を見ると、突然姿を消している。」
    「お前達、実験体の逃走を手助けしてないだろうな?」
    「正直に答えろ。」

    自分達が生活している部屋に設置されている監視カメラはリビングダイニングのみだ。
    チョロ松が牢屋から部屋に瞬間移動した際は寝室に来てもらったからこちらに移動した映像は映ってはいないはず。
    幹部の男はせっかく捕らえていた実験体があっさりと姿を消したため、どうやらイラついているようだ。
    警棒だかなんだか分からないが物騒な物を構えてるし、別の奴は銃に手を掛けている。
    いやいや、確かに会話はしたけど手助けは何もしてないよ?
    そもそもあの人助けなんて必要なかったし。

    「何もしてない。」
    「嘘をつくな!」
    「何もしてないって。
     簡単に脱走された不甲斐なさを俺たちが手助けしたってデタラメでっち上げてなすり付けんの、やめてくんない。
     そっちの不手際でしょ。俺たち巻き込まないでよ。」
    「黙れ!」

    頭に衝撃。
    殴られたようだ。
    頬から顎にかけて、何か生温かいものがつたい流れる。
    「兄さん!」とトド松の悲鳴のような声が聞こえた。
    チラリと殴った幹部に視線を向けると真っ赤な顔をして肩で息をしている。
    感情に任せて殴るなんて、本当に幹部なのかよこいつ。
    空腹故に目が覚めていて本当に助かった。今にも死にそうだけど。
    自分でしゃべることができる。
    自分が受け答えをする限り、十四松とトド松が殴られる可能性は低くなるはずだ。

    「何?ムキになって。もしかして図星だった?
     言っとくけどほんと知らないからね?」

    わざと神経を逆撫でするようなことを言ってやれば、また殴られた。
    さっきと同じ場所殴るとかやめてほしい。
    更に傷口が広がった気がする。
    普段は滅多に起きたりしていないから目眩がしてきた。

    「本当に知らないんだな?」
    「知ってたとして、俺たちに手助けできるような力はない。
     あの部屋からは一歩も出ていないし。」
    「そうか、わかった。…おい、そのへんにしておけ。」

    自分達の正面に座るリーダー格の男に問われ、努めて冷静に答える。
    嘘は言っていない。
    リーダー格は納得してくれたようで自分を殴った男に制止をかけた。
    弟達は怯えきってしまっている。
    早くこの部屋を離れたい。
    早く、いつもの部屋へ戻らなければ。
    リーダー格は、部屋の入り口に立っていた男に軍医を呼ぶように指示し、男が部屋を出て行く。
    それと同時に他の幹部達も部屋を出て行ったが、殴ってきた男は不満気だ。

    「なんだよ!こいつらのせいに決まってるだろ!!この化け物共が!!」

    殴ってきた男は尚も怒りを顕に一松に掴みかかった。
    それを見て腰を浮かせた十四松とトド松に視線だけで制止をかける。
    トド松がギュ、と十四松の腕にしがみ付いた。

    「こいつらのせいにしとけばいいんだ!!
     大体、なんでこんな化け物がのうのうと此処で生きてやがるんだよ!!
     予定通りここで始末すりゃいいんだ!!」

    男の口振りに、一松はフラつく頭でなんとなく状況を理解した。
    おそらく、怒り狂っているこの男は先日捕らえたチョロ松の監視役だったのだろう。
    しかし、瞬間移動の能力を持つチョロ松は簡単に牢から脱出した。
    馬鹿だな、能力持ちなのは分かっていたはずなのに拘束もせずに牢に入れただけで満足するなんて。
    その事で責任を問われ、同じ能力者である自分達に責任をなすりつけたいのだ。
    一応、自分達は国家研究機関の「成果物」だ。
    大々的に拷問なんて出来ないし、処分の判断も軍に決定権はない。
    だからわざわざこの部屋に連れてきて詰問するつもりだったのか。
    リーダー格の男をはじめ、他の幹部達は大して自分達に疑いの目を向けていないところを見ると
    どうやらこの男の空回りのようだが。
    「予定通り始末」と言っているのは、自分達が脱走の手助けをしたと認めれば
    軍の秩序を乱した者として処罰ができるからだろう。

    一松が弟達を背に庇いつつ思案している間にも、興奮した男は罵詈雑言を叫び散らしている。
    やがて軍医が部屋に入ってきたところで男の怒りは頂点に達したのか
    懐から取り出した銃で辺りを発砲し始めた。最早獣の咆哮だ。
    話し合いで納得させるのは無理だな。
    耳元で響く銃声に思わず身を竦める。
    ー 逃げなければ。
    頭では理解しているのに身体が動かない。
    十四松とトド松が背中にしがみ付いてきたのが分かった。
    ああ、自分はなんて役立たずなんだろうか。
    弟を満足に守ることすらできないなんて。
    軍医が男を止めに入っているが、諦めたのか慌てて部屋から去っていった。
    誰か呼んできてくれるならありがたいのだがあまり期待できそうにない。
    発砲したうちの1つが、部屋に置かれていた段ボールを貫いた。
    その瞬間、段ボールが燃えだしあっという間に部屋は炎に包まれていく。
    あの段ボール、何が入っていたんだ。
    グラグラとして回らない頭で考えるも答えなど出るはずない。
    炎を目にした男は狂ったように笑い出した。
    十四松が予知した映像が脳裏をよぎる。

    「へへ…ははは、ひゃはははははは!
     てめーらはここで死ね!!」

    男が部屋を出て行こうとする。
    それにハッとしてとっさに叫んだ。

    「十四松!ドアを閉めさせるな!!ロックがかかる!」
    「!!」

    一松の声に弾かれるようにして顔を上げた十四松がドアへ駆け寄るが
    それよりも早くガチャンと音を立ててドアが閉められた。
    まずい。カードキーを持っていない自分達はドアを開けることが出来ない。
    身体に力が入らない。
    いつもの眠気に加えて、頭の怪我のせいで意識が持っていかれそうになる。
    視線を下に向けると、身を包む被験体服は大きな赤い染みができていた。

    (兄さん!一松兄さん!!)
    (一松兄さん!)

    十四松とトド松の叫び声が響く。
    途切れそうな意識を頭の中に響く弟達の声を頼りに手繰り寄せるようにしてなんとか持ち堪えると、
    千里眼で兄達の姿を探して必死に言葉を紡ぐ。

    (ト、ド松、兄さん達…が、見える?)
    (…!うん、見える!!)
    (じゃあ、に、さんを呼ん、で…
     じゅ、しま、つ…トドま、つをお願…)
    (一松兄さん!)

    十四松とトド松をこんなところで死なせるわけにはいかない。
    だが自分では無理だ。
    ここは最終手段として兄達を頼るしかない。
    一度はその手を拒んだくせして、笑ってしまうよね。
    けど十四松とトド松を助けるためには手段を選んでいられないし
    兄達は来てくれるだろうという確信があった。
    身勝手な弟達とでごめん、兄さん達。
    なんとかトド松が兄達にテレパシーを送ったことを確認したのを最後に、一松は意識を手放した。


    ーーー


    side.O

    チョロ松が飛んだ先は軍事施設の最奥部に位置する監禁部屋だった。
    テーブルの上にはトレイに乗った3人分の食事が手つかずのまま置かれている。
    寝室に置かれたキングサイズのベッドはシーツに皺がよっていて、掛け布団が半分床に落ちている。
    先程までこの部屋で過ごしていたであろう鱗片は感じるが、部屋には誰もいない。
    てか、寝る場所がキングサイズのこのベッド1つしか見当たらないんだけど
    もしかしなくても3人一緒にここで寝てんのか?
    マジで?いい年した男3人で?

    「いない、な。」
    「どこかに連れて行かれたとか…?」
    「だとしたら早く追いつかないとまずいんじゃないか?」
    「カラ松、ドア開けられるか?」
    「ああ、何枚か扉があるようだが、全て南京錠のようだから壊せそうだ。」

    とにかく弟達を探そう。
    深夜に聞こえてきた弟の助けを呼ぶ声に気が急くのをなんとか抑える。
    カラ松が念力でドアの鍵を壊している間にリビングにあった監視カメラを破壊しておいた。
    まあ、どうせ記録には残ってるだろうけど。
    重たい金属音を響かせて鍵が壊れると、捕らえた者を逃がすまいとでも言いたげな厳重なドアを蹴破った。
    警報ベルが鳴り響いている。
    なんか研究所を脱出した日を思い出すな。

    「あ、警報鳴っちゃってるね。」
    「だな〜。もう強行突破かな?」
    「…ちょっと待ってくれ、兄貴、チョロ松。」
    「どうした?」
    「警報の音、やけに遠くないか?俺たちの侵入がバレた警報ではないようにおもうのだが。」
    「…あ、確かに。この辺りの牢屋で鳴ってるわけじゃないみたいだね。」
    「あと、どちらかというと…火災警報、みたいな音に聞こえるのだが。」
    「火災警報?」

    カラ松の言葉に警報に耳を澄ませる。
    言われてみればそう聞こえないこともない。
    最奥部の牢獄を抜けて開けた空間に出ると、警報ベルの音が更にけたたましく聞こえてきた。
    それと同時に微かに煙の気配。
    おそ松は炎を操る能力者だ。炎の気配には人一倍敏感だった。

    「カラ松、どうやらお前の読みは当たりみたいだぜ。煙の臭いがする。」
    「…火事?それってトド松の助けと関係してるのかな。」
    「さぁな〜?けど、とりあえず何が起こってるのか確かめる必要はありそうだな。…行くぞ。」

    炎は自分の武器だ。
    火事現場のような火に囲まれた場所は独断場である。
    周りに人の気配はない。今の内に近づけるだけ近づきたいところだ。
    先頭を切って走り出すと、カラ松とチョロ松もそれに続く。
    ふと、おそ松は後ろの2人を振り返らずに問いかけた。

    「なぁ、そういやお前らが見た夢ってどんなの?」

    3人揃って奇妙な夢を見て同時に目を覚ました途端、弟の助けを呼ぶ声がしたため、そういえば夢の話をしていなかった。
    別に今しなければならない話ではないのだが、なんとなく思いついたから聞いてみたのだ。

    「ちなみに俺は、真っ白な空間に俺と、あと誰だかわからないけど誰かがいて、そいつが泣いてる夢だった」
    「あ、僕も似たような感じ。」
    「フッ…………俺もだ!」
    「何で溜めた?!」
    「わーぉ。やっぱりみんなして同じ夢見ちゃったワケ?!」
    「多分だけど…僕が見た夢で泣いてた奴、十四松だったように思う。前も夢に十四松が出てきた事があったから。」
    「何それ初耳。」
    「そうなのか?…俺は、誰かまでは分からなかったな。
     だがチョロ松がそのような夢を見たなら…俺の前にいたのも弟の内の一人なのかもしれない。」
    「うーん、そうなると俺の夢に出てきた奴も弟ってか?」
    「あ、あと俺の夢に出てきた子は助けを求めていたぞ。
     そういえば起きてから聞こえたトド松の声に似ていた気がする。」

    チョロ松の夢に出てきたのが十四松で、カラ松の夢に出てきたのがトド松なら自分の夢にいたのは一松か?
    この夢に意味がありそうな気もするが今は分からない。
    が、夢に出てきたのが本当に下の弟達だとしたら関連はありそうな気がする。
    そんな話をしている内に辺りには煙が立ち込めてきた。
    なんとなく、ガソリンのような臭いもする。
    これが炎の原因だろうか。
    しかしさすがは軍事施設だ。火の回りは通常に比べて遅い。
    臭いと炎の気配に意識を集中させてひたすら走る。
    周りの温度が確実に上がってきた。
    どのくらい走ったか、大した距離も走っていない気がするが
    燃え盛る炎を視認できるところまで辿り着いた。
    長い廊下に規則的に並ぶ扉。
    そのいくつかと壁が黒く焦げ付いている。
    ドアの鍵は…カードキー式か。
    しかしさっきから人がいないのは何故だ?

    「カラ松、ドア全部ぶち壊すぞ。」
    「了解。」
    「なっ?!」

    チョロ松が非難の目を向けたが知らんぷり。
    分かってるって。
    自分達は弟を助けに来たのであって、わざわざ派手に喧嘩するような事をしにきたわけじゃない。
    チョロ松は目立つ行動は避けるべきだと言いたいのだろう。
    だが、おそ松はこの炎の中に生き別れた弟達がいる気がしてならなかった。
    確証などない、ただの勘だ。
    掌に炎を集める。
    徐々に温度を上げていくとブスブスと音がした。
    廊下を挟んで反対側のドアをカラ松が壊そうとしている。
    今回は南京錠ではなく機械が相手のためか、少々苦戦中のようだ。
    視線を目の前のドアに戻す。
    そして炎を纏った拳でそのままをドアを殴りつけた。
    超高温で打ちつけられたドアのロック部分が溶け、ボコリと穴が開いた。
    そのままドアを蹴り倒すと、その部屋の中は一面真っ赤だった。
    ここが炎の発生源か。
    ドアが開いた事で空気を手に入れた炎が一層唸り熱風が押し寄せる。
    赤く燃える部屋に躊躇うことなく足を踏み入れた。
    おそ松がスッと指を動かすと、炎はまるで従うように綺麗に道を開けていく。

    「ーお前達!無事か?!」
    「ーー!!」

    後から入ってきたチョロ松が真っ先に部屋の隅に固まっていた人影に気付き、慌てて駆け寄った。
    おそ松の眼前には、探し続けてきた弟達の姿があった。
    感動の再会といきたいところだが、どうやらそれはもう少し後のようだ。
    1人は頭から血を流し、完全に気を失っている。
    もう1人も青ざめた顔で倒れているし
    辛うじて意識を保っている1人は泣きそうな顔で2人を抱きかかえていた。
    誰だ、こんな事したのは。
    おそ松は自分の中に流れる血が沸々と湧き上がっていくのを感じた。
    それなのに頭は妙に冷静だ。
    うん、ちょっとこの施設の責任者誰かな?
    お兄ちゃん久々にブチギレちゃったよ??

    「みんなまだそこまで煙を大量に吸ってないな?
     十四松、これで一松の傷口おさえて!
     トド松は気を失ってるだけか…?…ああ、そうか十四松お前喋れないもんな。
     とにかく、ここから離れないと…。」

    チョロ松の声に、怪我を負っているのが一松で、気を失ってるのがトド松、2人を抱えていたのが十四松だと分かった。
    チョロ松からハンカチを受け取った十四松が一松のこめかみを押さえている。
    そうか、十四松はしゃべる事が出来ないのか。

    「…兄貴、人が来る。」
    「そうだなぁ〜…チョロ松!」
    「うん?」
    「お前は弟達とカラ松を連れて最初に飛んできた部屋に戻って手当してやれ。
     カラ松はこいつらの事頼むぜ。」
    「分かった。」
    「え…おそ松兄さんは…。」
    「俺〜?俺はねぇ、弟を危険な目に遭わせてくれちゃって、折角の感動の再会を
     ブチ壊してくれちゃった人達とちょーっと話し合いしてくる。」
    「やり過ぎないでよ。」
    「わかってまーす。」

    背を向けたままヒラヒラと手を振ってみせると
    小さくため息をついて、チョロ松はカラ松と弟達を連れて部屋へ飛んでいった。
    未だに鳴り止まない警報ベルと炎に包まれながら、おそ松は近づいてくる足音を待った。
    さて、どう遊んでやろうか。
    本当なら再会を果たせた弟達を連れてホテルへ戻ればいいのだが、
    おそ松には誰にも告げていない目的があった。
    それに怒りも治まらないのだ。
    どうせ弟達全員連れて逃げてやるし、ちょっとくらい暴れたっていいだろ?
    全身が沸騰しているような感覚に陥りながら、おそ松はニヤリと笑みを浮かべた。

    ーーー


    side.K

    瞬間移動で最初に飛んできた部屋へ再び戻って来ると、まず怪我を負っている一松をベッドに慎重に寝かせた。
    そしてその隣にトド松を寝かせる。
    弟達の介抱をチョロ松に任せ、カラ松はここに来た時に壊した重たい扉を音を立てないようにして閉めた。
    十数年振りに再会した弟達は、自分達に比べて華奢で、肌も白く、心配になるくらい軽かった。
    手を握っただけで壊しそうで怖いくらいだ。
    弟達に会えた時に最初になんて言葉を掛けようかと思案していたのに、それどころではない状況だったのが残念だ。
    仕方ない、おそ松が戻ってきて無事にここを離れたら存分に再会を喜び合おうではないか。
    炎を見つめながら何かを考え込むように視線を巡らせていた兄には、何か考えがあるのだろう。
    何を考えているのかは分からない。
    教えてくれなかった。
    それが少し歯痒くもあるが、今の自分の役目は弟達を守ることだ。
    カラ松が部屋の入り口で様子を見守る中、チョロ松の指示に従い十四松がタオルと着替えを持ってきた。

    「ありがとう。十四松も少し休みな。よく頑張った。」

    遠慮がちに十四松の頭をぎこちなく撫でたチョロ松は優しげな笑みを浮かべている。
    十四松も少し緊張していたようだが、嬉しそうに笑った。天使か。
    なるほど、この三男は弟には優しいんだな。
    その優しい女神の如き微笑み、たまにでいいから是非とも兄達にも向けてもらいたいものだ。
    三男のレアな表情に少しの感動を覚えながら部屋を見渡す。
    テーブルの上には手つかずの食事が置いてある。
    もうとっくに冷めてしまっているであろうそれを見て、ようやくカラ松は声を発した。

    「十四松、腹が減っているんじゃないか?
    一松とトド松のことはチョロ松が見てくれているから、何か食べたらどうだ?」

    十四松は驚いてこちらを見たが、言われて空腹に気づいたのだろう。
    きゅるる、と可愛らしい音を立てて腹の虫が鳴く音が聞こえた。
    十四松は照れ笑いをしながらこくりと頷くとテーブルに置かれた1人分のトレイを電子レンジに突っ込んだ。
    しばらく電子レンジの前に立ってそわそわしていた十四松だが、
    やがて思いついたようにパッと顔を上げてリビングの隅に置かれた小さな棚からメモ帳とペンを持ってきた。
    テーブルに座り、ペンを走らせるとそれをこちらに見せてくれた。
    そこには、子供っぽいはみ出し気味な字で

    "兄さんたち たすけてくれてありがとう!
     おれ、こえ出なくてごめんね"

    と書かれている。
    なるほど、五男は天使か。理解した。

    「まだ礼を言うには早いぞ。…まあ、何とか間に合ってよかった。」

    レンジに呼ばれたので中からトレイを取り出してテーブルに置いてやると、わしわしと十四松の頭を撫でてやった。
    こちらに笑顔を向けてくれたことにひどく安心した。


    ーーー


    side.C

    寝室からリビングの様子をうかがうと、十四松は落ち着いた様子で夕食を口に運んでいる。
    もう夕食といえるような時間ではないことは置いといて。
    どうやらカラ松に任せておいて問題なさそうだ。
    そう判断して視線をベッドに寝かせた一松とトド松に向ける。
    一松の怪我は粗方手当てし終えた。
    血で汚れた服を脱がせて十四松が持ってきてくれた着替えを着せる。
    肋が浮き彫りになった白くて細い身体にゾッとしたし、着替えさせてる間もふと力を入れたら壊れそうで怖かったくらいだ。
    少々出血が多いのが心配だが呼吸は安定しているし、脈もしっかりしている。
    もう少し様子を見よう。
    トド松は極度の緊張と炎の恐怖で意識を手放してしまったのだろう。
    頬に涙の跡が見えた。
    自分達に助けを求めてきた声は、確かにこの末弟の声だった。
    一体何にそこまで怯えていたのか。
    いや、なんとなく想像はつく。
    火に囲まれた部屋に閉じ込められて、更に兄がこんな怪我を負ったら正気でなんていられない。
    そっと頬を拭ってやると、トド松が僅かに身じろいだ。

    「…トド松?」

    なるべく、自分が出せる最大限の優しい声で呟いた。
    トド松がゆるゆると瞼を持ち上げる。
    しかしその瞳は焦点が定まっていないし、チョロ松の声にも反応はない。
    ああ、そういえば…。
    チョロ松は昨日のトド松達との会話を思い出した。
    トド松は視覚と聴覚が著しく低下している。
    一松か十四松に触れていれば己の能力を駆使して見えるし聞こえると言っていたが、
    触れる相手が自分でもそれは有効なのだろうか。
    おそるおそる手を伸ばして、一松に負けず劣らずほっそりとした白い手に自分の手を重ねる。
    トド松は一瞬ピクリと身体を震わせたが、灰色の中に淡い桃色を混ぜた双眸は今度はしっかりとチョロ松をとらえた。
    むくりと上体を起こして、まるで小動物のようにしばらくじっとチョロ松を見つめて、やがて口を開いた。

    「チョロ松、兄さん…?」
    「うん。おはようトド松。…どこか痛いところない?」
    「平気…。」
    「そう、よかった…。」
    「来てくれた、の。」
    「トド松が助けを呼んだんだろ?
     …まあ、長いこと会ってなかったけど、兄であることに変わりはないからね。
     弟が助けを呼んでたらそりゃ飛んでくるよ。」
    「あ、ありがと…チョロ松兄さん。」
    「うん、どういたしまして。」
    「あ!そうだ、一松兄さんと十四松兄さんは?!…って、うわぁ?!」

    トド松の声に気づいた十四松がドタバタと近づいて思い切りダイブした。
    それを受け止めきれず、トド松は再びベッドに身を沈めるはめになった。
    「うぐっ?!」とくぐもった呻き声が聞こえた気がしたが、まあ大丈夫だろう。

    (トド松ー!!トド松おきた!!)
    (うん、起きたよ。心配かけてごめんね十四松兄さん。)
    (…あ、これテレパシー?僕もちょっと慣れてきたかな。)
    (んん?!話はチョロ松から聞いていたがすごいなこれ!)

    トド松が目を覚ましたことにより、ようやく十四松とも会話が出来る。
    十四松が来たからお役御免かと触れていた手を離そうとしたが、逆にギュ、と掴まれた。
    驚いてトド松を見ると、僅かに顔を赤くして一気に捲し立てられた。

    (別にいいでしょ!一松兄さんと十四松兄さん以外でも触れると視覚聴覚を
     補える人がいたって分かったから試運転中なの!)
    (…ああ、うん。そういうことでいいよ。)
    (なになに?チョロ松兄さんでも見えたの?やったねトド松!じゃあカラ松兄さんは??)
    (後で試すよー。)
    (なんだ?よく分からないがいつでもwelcomeだmy little brot(ところで、何があったのか教えてくれない?)

    カラ松の「えっ…」という小さな声が聞こえたがいつものことだ。ハイ無視。
    十四松とトド松は一瞬身を固くしたが、ゆっくりと事情を説明してくれた。
    幹部の男達に連れて行かれて詰問をされたこと。
    その内の1人が異常なまでに3人を追い詰め、火を放って閉じ込められてしまったこと。
    十四松が既に予知していながら、回避しきれなかったこと。
    一松が自分達の居場所を把握していたため、トド松が助けを呼んだこと。
    トド松は助けを呼んだ後に気分が悪くなってしまったらしく、そのまま気を失ってしまったそうだ。
    どうやらチョロ松が脱走したことも原因の一端になっているようで非常に申し訳ない。
    やっぱり無理やり連れて行けばよかった。

    (兄さん達が来てくれなかったら、今頃どうなってたか…。)
    (当たり前だろう。弟達が助けを求めていたんだ。なんとしてでも駆けつけるさ。)
    (…あれ。そういえばおそ松兄さんは?)
    (長男は倒れてるお前達を見て激おこで暴れてると思う。)
    (え…。ちょっと大丈夫なの、それ。)
    (まあ…兄貴だしなぁ。)
    (うん、おそ松兄さんだし。大丈夫でしょ。)
    (うーん、カラ松兄さんとチョロ松兄さんがそう言うなら大丈夫なんだろうけど…。)

    長男は今頃怒りに任せて暴れまわっているのだろう。
    研究所を脱出した時のように。
    いや、その時以上かもしれない。
    倒れた弟達を見つけた瞬間のおそ松の表情は背筋が凍る程に怖かった。
    送り込まれた戦場でだって、あんな表情は見たことなかった。

    (うあ…マジで暴れまわってる。何この人超怖い。)
    (一松兄さん!!)
    (一松兄さん!起きたの?よかった!
     …もう!死ぬほど心配したんだからね?!無茶しないでよ!
     あれだけ自己犠牲に走らないでって言ってたのに!!)
    (そーですぜ兄さんー!)
    (え…ご、ごめん?)
    (一松か?!よかった…大丈夫か?!)
    (黙れカラ松お前なんだよその痛々しい格好。あと何でそんな無駄にカッコつけたポーズしてんだ死ね。)
    (ごめん、一松…その点はもう僕もおそ松兄さんも諦めてるんだ。スルーしてやって。
     あとお前なかなか辛辣だな、そういうの嫌いじゃないけど。)
    (…え?)
    (兄さんだいじょうぶ?あたまいたい?!)
    (頭は普通に痛い。…あと、飯食いっぱぐれたから色々ツライ。)
    (だよね。そういえば一松兄さん10日は飲まず食わずだよ。さっきようやく水飲んだ程度だもん。)
    (何か食べれそうか?)
    (無理。起きれない。)

    一松の意識も戻ってきた。
    いや、寝てるから意識はないはずなのだが、この場合どう言ったらいいのか。
    十四松とトド松が「起きた」と表現しているから起きたでいいのか。
    それより10日飲まず食わずって大丈夫じゃないだろ。死ぬぞ。
    そりゃ細いわけだ。
    そんなチョロ松の心配をよそに、一松はトド松のテレパシーを介してある映像を送ってきた。
    炎の中、軍事施設の人間達を相手に戦闘中の長男の姿である。
    想像以上にキレていたようで、えげつない戦い方をしている。
    だが、闇雲に暴れまわっているわけではない。
    上手く説明できないが、ある場所を目指して…何か明確な目的を持って動いているように見える。

    (…トド松。)
    (はーい。)

    一松の声に、トド松がすぐに察して声をかける。

    (おそ松兄さん、こちらトド松。
     僕も十四松兄さんも一松兄さんもみんな無事だよ!)
    (お?何これすげーな?!トド松のテレパシーか?
     そりゃよかった、それ聞いて安心したわー。
     それじゃ、お兄ちゃんちょーっと野暮用終えたら戻るから大人しく待ってろよ!
     カラ松とチョロ松はちゃんと弟達守ること!)
    (いや馬鹿かこのクズ長男!!野暮用って何だよ?!さっさと帰ってこい!!)

    まだまだ言いたいことはあったのだが、映像が途切れてしまった。
    おそ松のえげつない戦いを弟達にあまり見せずに済むのはいいのだが、野暮用って何だ。
    やはりあの兄は何か目的があるようだ。

    (限界…。ちょっと寝させて…。)

    つい先程起きたはずの一松の意識がまた落ちてしまった。
    無理もない。
    と、ベッドに腰掛けていた十四松の身体がグラリと揺れた。

    「十四松?!どうした?」
    (…!おそ松兄さん、ケガしちゃう!だめっ!!)
    (え、どうした十四松?!)
    (おそ松兄さんが、とおくからおっきいけんじゅーでおなかうたれるの、見えた!はやくたすけないと!)
    (十四松兄さん、その予知あとどのくらい先?!)
    (んと、けっこうすぐ!!)

    後からトド松に聞いて知ったことだが、どうも十四松がこのようになるのは予知の前兆らしい。
    予知した内容を聞いて、カラ松が若干焦りを含んだ声をあげる。

    「チョロ松、この場を任せられるか?」
    「いや、カラ松…僕が行くよ。僕の方が早く辿り着ける。」
    「だが…!」
    「僕が行く。それに、ここで皆を守るのはカラ松の能力の方が向いてる。」
    「…分かった、気をつけろよ。」

    チョロ松の固い意志を見て、カラ松は引き下がってくれた。
    先程一松が映像を見せてくれたから場所は把握できている。
    何を、おそ松は一体何をしようとしているのか。
    何故自分達には教えてくれないのか。
    そんなの、悔しいだろ。
    待ってろクソ長男。
    てめーだけにカッコつけさせてたまるか。
    焼きナス
  • 生き別れた六つ子が 転 #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・今のところ兄弟愛
     腐ではありませんがこの先どうなるかわかりません
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください
    ・前作見てからご覧いただけますと幸いです

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.J

    十四松は今、一松、トド松と共にいつもの研究所を離れ、とある軍事施設にいた。
    軍事施設で与えられた部屋の中で金属バットを手に素振りをしている最中である。
    何故このような場所にいるかというと、避難という名の拘束のためだ。
    1ヶ月程前だったか、兄の一松が敵国の情報を入手してきた。
    超能力者の研究機関への攻撃を始めたらしい敵国は、手始めに自分達が生活していた施設を狙ったらしい。
    意図があってか無作為の選出かは定かではないが、運が悪かったとしか言いようがない。
    十四松が予知し、(あの日見た温室の火事はやはり敵国の攻撃だったようだ。)
    それを一松が詳細を掘り下げ攻撃の決行日と時間を知り、トド松が研究員に伝えた。
    一松は避難を頼むつもりだったようだが、それよりも先に自分達3人は国の軍事施設に送られた。
    何故避難場所が軍事施設なのかは、保護と言いつつ拘束と監視も兼ねているからだろうと一松が言っていた。
    どさくさに紛れて逃げ出したり連れ去られたりすると困るのだろう。特に後者。
    そんなわけで、軍事施設に来たのがおよそ1ヶ月前。
    そして今日は、敵国が研究所の攻撃を予定している日であった。
    自分達はあの研究所から離れたから、十四松が予知した兄と弟が血塗れで炎に包まれた温室に倒れ伏す未来は回避されたはずだ。
    ひとまずその事に安心した。
    新たな環境にも少しずつ慣れてきた。
    十四松達は軍事施設の中の最奥部に位置する重たい扉で何重にも守られた部屋にいた。
    元々は敵国のそれなりの地位を持つ人物や人質を監禁する想定で作られた部屋だと聞いてなるほどここは確かに監獄だと理解できる。
    研究所を離れたため、実験がないのはありがたいが、施設にいた時と違ってこの部屋からは一歩も出られない。
    3LDK程のマンションの一室のような部屋はそれなりに広さはあるが走り回るには無理がある。
    身体を動かしたい時はこうして素振りをしたり、筋トレをしたりして過ごしていた。
    さて、素振りも飽きてきた。
    バットを置き、ベッドが並ぶ寝室を覗くと兄はいつも通りベッドの住人状態。
    そして弟も兄の右腕にしがみ付くようにして同じベッドで眠っていた。
    なんだ、トド松も寝ている。
    ならば自分も眠ろうか。
    今何時だっけ。相変わらず夜なのか朝なのかいまいち分からない。
    シャワーで軽く汗を流してから、トド松眠る反対側、一松の左に潜り込んだ。
    キングサイズのベッドは3人寝ても余裕がある。
    程なくして十四松も寝息を立て始めたのだった。

    ふと気がつくと、見知らぬ街にいた。
    ああこれは夢だと気付くのにさほど時間は要らなかった。
    これは夢だ。今自分は夢を見ている。
    ここはどこだろう。
    並木道に沿うようにして背の高いビルが立ち並んでいる。
    辺りに人はいないようだ。
    十四松は周りをキョロキョロ見渡しながら並木道を歩き始めた。
    いわゆるオフィス街という所だろうか。
    長らく外出していない十四松はそんなこと知る由もないが。
    しばらくあるいたところで、とある建物が目に付いた。
    質素な喫茶店のようだ。
    無機質なビルに囲まれた中、異質な雰囲気を醸し出している。
    自然と足がそちらに向いていた。
    そっとドアを開けるとカランコロン、と軽やかな鈴の音。
    中を見渡すと、窓際の席に1人ぼんやりと外を眺めながら座る人影があった。
    テーブルには手のつけられていないコーヒー。
    あれ、なんだか見覚えがあるような…なんだっけ、なんだったっけ…。
    外を眺める人物はこちらを見向きもしない。
    自分でも分からないが、話しかけなければならない気がして十四松はその人影に近づいた。
    テーブルの傍に立つと、窓の外を眺めていたその人は気配に気づいたようでこちらを向いた。
    お互い息をのむ。
    その人は、十四松と同じ顔をしていたのだ。
    同じ顔、けど一松はではない。トド松でもない。
    ではこの人は?
    あ、そういえば少し前にもこんな夢を見なかったっけ?
    そうだ、自分達にそっくりな人達が自分達を探していた夢だ。
    目の前で自分が見下ろすこの人物は以前見た中の1人なのだろうか?
    十四松がその人をじっと見つめながら考えを巡らせていると、座っていたその人は立ち上がって呟いた。

    「十四松?」

    自分のことを知ってる?
    同じ顔をしたこの人は自分とどういった関係なのだろう。
    十四松はわけが分からないまま、無意識に言葉を返していた。

    「チョロ…ま、つ…兄さん…。」

    何でそう返したのか分からない。
    自分の兄は一松だけだったはずだ。
    では何故、この人に兄さんと返したのだろう。
    分からない。分からないけど不思議と間違ってはいない気がして、ますますわけが分からない。
    驚きで見開かれたその人の双眸はやがてすっと細められて十四松を見つめてくる。
    優しさとか、切なさとか、不安、嬉しさ、色々な感情が込められた眼差しだった。

    「ーーーっ!」

    反射的にがばりと起き上がると、そこは先程潜り込んだベッドの上だった。
    視線を下ろすと兄と弟の姿があってホッとする。
    十四松が勢いよく飛び起きたため、トド松が目を覚ましたようだ。

    (十四松兄さん、おはよう。)
    (トド松…。)
    (うん?)
    (チョロ松兄さんってだれ?)
    (え?!)
    (さっきね、ゆめみたんだ。ほら前におれたちさがしてるそっくりな人のゆめのはなし、したっしょ?
     またみたんだ、さっきみたのは3人じゃなくてひとりだけだったけど、おれ、その人とはなした!ちょっとだけ!
     でね、その人はおれのなまえをよんで、おれは「チョロ松兄さん」ってかえしてた。
     でも、チョロ松兄さんってだれなんだろう。なんでおれその人のなまえしってたのかなー。
     トド松、しってる?)

    十四松は先程見た夢の内容をトド松に伝えた。
    トド松はそれを聞いて目を見開いている。
    そして、パクパクと口を動かしては視線が揺らいでいた。
    十四松はそんな弟の様子を不思議そうに首を傾げて見ていたが、トド松は何と返せばいいのか迷っていたのだ。
    そんな中、一松の声が聞こえた。

    (十四松。)
    (あ、一松兄さんおきてた!)
    (僕、チョロ松兄さん知ってる。)
    (おー!やっぱ兄さんは何でも知ってますなー!)
    (トド松も、知ってるよね?)
    (う、うん…。僕も知ってる。)
    (あれ?そーなの?しらないの、おれだけ??)
    (知らないわけじゃないよ…十四松は、忘れてるだけ。)
    (おれ?わすれてるの?)
    (うん。だって名前呼べたんでしょ。本当は知ってるんだよ。
     また夢を見たら、今度は思い出してみたら?大丈夫、怖くなったら僕やトド松がいるから。)
    (わかった!おれおもいだせるようにがんばる!)

    どうやら「チョロ松兄さん」は一松もトド松も知っている人のようだ。
    そして、一松が言うには自分も知っているはずの人だという。
    夢で見た「チョロ松兄さん」をぼんやりと思い出す。
    目が覚める直前に見た、あの眼差しは一体何を訴えかけていたのだろうか。
    もっと色々聞きたいことはあったのだが、一松はそれ以上は何も教えてくれなかった。

    ーーー

    side.T

    (わーマジで火炙りじゃん…。)
    (もえてる?!けんきゅうじょもえてるっスね!!)
    (ほんとあそこから撤退できてよかったよね。兄さん達のおかげだよ。)

    敵国は予定通りの時間に研究所に攻撃を開始していた。
    現在その様子を一松の千里眼でライブ中継中である。
    会話は呑気に聞こえるが、トド松は一松の背中にしがみついているし
    十四松は一松の腰に手を回してガッチリホールドしている。
    一松は抵抗しない。いつものことだ。
    3人が眺める火が放たれた研究所は、しかし無人であった。
    データも移行済みのようだ。
    部隊が突撃したようだが、閑散とした様子に戸惑っているようだ。
    結局、燃え尽きた研究所からは誰一人として発見されず、敵国の部隊は早々に切り上げて行った。

    (僕は上の命令があるから、この部隊の追跡するね…。)
    (うん。)
    (兄さんいってらー!)

    一松が指令を受け、部隊の追跡を開始した。
    ちなみにベッドからは降りて今は車椅子に乗っている。
    寝過ぎて床ずれを起こしたそうだ。
    この兄はたまにこうやって床ずれやら寝違えたりやら寝過ぎが原因で身体を痛める。
    痛いのはまあ、可哀想ではあるがトド松としては眠り続けているためまるで人形のような一松の
    どこか人間味を帯びた瞬間を見れたような気がして嫌いではなかった。
    兄に言うと怒るだろうから決して口には出さないが。脳にも伝えないが。

    (十四松兄さん、ココアでも飲もっか)
    (あいあい!)

    十四松に手を引いてもらって、簡易なキッチンに立つ。
    棚からココア粉、小さな冷蔵庫から牛乳を取り出し、手早く温めて十四松にどーぞ、と差し出した。
    マグカップを受け取った十四松は伸びきった袖はそのままに器用に両手でカップを持っている。
    まだかなり熱いであろうカップの中身を躊躇いなくゴクゴク飲み干した。
    一方のトド松はまだカップの縁に口を当てて息を吹いて冷まそうとしているところだ。
    チラリと横目で十四松を見ると珍しく真面目な表情をしていた。
    おそらく、兄の事を思い出そうとしているのだろう。
    十四松が聞かせてくれた夢の話では、十四松は無意識にチョロ松兄さんと名前を呼びかけていた。
    一松が十四松にヒントを与えながらも多くを語らず、思い出してみてごらん、
    とあくまで見守る形に徹したようだったので、トド松もそれに倣い自分から兄達の事は話さずにいた。
    夢の話をする十四松は落ち着いた様子だったし、二つ上の兄は今はまだ自然に任せようと判断したのだろう。
    しかし、何故今回見たのはチョロ松の姿だけだったのだろう。
    長兄2人が出てこなかったのは理由があるのだろうか。
    予知能力を持つ十四松のことだ、もしかすると最初に接触するのがチョロ松なのかもしれない。
    …接触?

    「そんなまさか、ねぇ…。」

    (トド松?どーしたのー?)
    (ううん、なんでもないよ。)

    思わず口から転げ落ちてしまった呟きに、にこりと笑いかけて取り繕う。
    兄はそれ以上何も言わなかった。

    日が落ちる頃には、といってもそんなの確認出来ないけど時間的に。一松は追跡を終えていた。
    部隊は完全に撤退したようだが、次の手を打ってくるだろう。
    次はどの研究所が狙われるのか。

    そんな中、3人が過ごす牢獄はとんでもない展開になっていた。
    いつかやってくるだろうと何となく思ってはいた事だが、あまりに晴天の霹靂過ぎる。
    何この急展開。やめてほしいんだけど。
    自分達が生活している部屋の外は通常の牢獄なのだが、どうやらそこに誰かが収容されたらしい。
    重たい鉄格子の扉が開く音がして、次いでどさりと何かが倒れる音がした。
    トド松達がいる部屋は施設の最奥部だ。
    その最奥部に近い場所にある牢屋に入れられたという事はそれなりの危険人物ということだろう。
    どんな人が入ってきたのかな、なんて軽い気持ちで一松の能力で3人で牢獄の様子をチラリと覗いてみると

    「ーーー?!」

    ヒュッと十四松の喉が鳴ったのがわかった。
    慌ててトド松が十四松の腕を掴み、一松も震え出した十四松の背に腕を回した。
    収容されてきたその人は、自分達3人と同じ顔をしていたのだ。

    (ーーーーっ!!)

    十四松が声にならない悲鳴をあげている。
    全身がカタカタと震え、大粒の涙がボロボロと溢れ出ていた。

    (十四松、大丈夫、大丈夫だから)
    (一松兄さ…、トド松…!!)
    (十四松兄さん!僕らここにいるよ?!大丈夫だから!ね?)
    (おもい…、おもいだし、た。おれたちさらわれて…!くらく、て、こわ、くて…!
     にい、さん…!兄さ…たち、とはなればなれ、に)
    (十四松、こわかったな。もう大丈夫だから、大丈夫、大丈夫だよ。)
    (うあ…うあああああ!!)

    十四松は兄の姿を見たことをきっかけとして、完全に兄達を思い出していた。
    夢を見た後に、千里眼越しとはいえ直接その姿を見てフラッシュバックしたようだ。
    だが同時に幼い日に誘拐された恐怖も思い出してしまったのだろう。
    パニックに陥った十四松は一松に縋り付き、大声をあげて泣き出した。
    膝を折り車椅子に乗った一松の腰に抱き付く形で子供の癇癪のように泣き叫ぶ十四松を
    一松はなんとか瞳を持ち上げて、その頭を抱き締め
    トド松は背中からそっと十四松を抱きしめて肩を撫でた。
    どのくらいそうしていただろうか。
    やがて疲れて眠ってしまった十四松をベッドに寝かせると、トド松は一松の方を向いた。

    (あれ…チョロ松兄さんだよね?)
    (多分…。十四松の取り乱しようや夢の話を聞くと、チョロ松兄さんじゃないかな。
     ちょっとタイミングが悪…いや、良すぎたのかも。)
    (どうしよう。)
    (なんか、捕まったにしては余裕な表情してる。)
    (え、何それ。)
    (いやなんか欠伸してるし…。緊張感なさ過ぎなんだけど。あれ?もしかしておそ松兄さんだったり??)
    (この際どっちでもいいけど、どうする?
     話しかけてみる?多分テレパシー飛ばせると思う。)
    (トド松に任せる。)
    (なんで、僕なの。)
    (…僕は、兄さん達に会いたくないわけじゃないんだけど…
     ただ、足手まといには…なりたくないなって…。十四松もまだ心配だし。)

    一松の気持ちはトド松も理解出来た。
    兄達には会いたい。
    でも、負担にはなりたくなかった。
    けれど…。

    (僕はさ…僕も、兄さん達には会いたいよ。
     でもね、正直に言っちゃうと一松兄さんと十四松兄さんさえいてくれたら、それでいいとも思ってるんだ。)
    (……。)
    (だって、あの日からずっと一緒にいたのは一松兄さんと十四松兄さんだもん。
     どちらか選べって言われたら、僕は絶対一松兄さんと十四松兄さんを取るよ。)
    (トド松…。)
    (でも、さ…。
     でも、だからといって僕らの知らないところで勝手にやられちゃうのも、後味悪いし迷惑な話だと思わない?)
    (うん。)
    (でしょー?ってことで、まぁ手助けくらいはしてあげたいじゃない!)
    (ふふ…うん、つまり?)
    (コンタクト取ってみようよ。)
    (ヒヒッ…りょーかーい。)

    おそらく一松は起きていたらニヤニヤした笑みを浮かべていたに違いない。
    眠っててくれてほんとよかった。
    そんなことを思いながら牢獄の中で足を組んで座るチョロ松(だと思う)にコンタクトを試みる事にした。
    あ、ほんとに緊張感ないなこの人。
    何の自信の表れだろうか。ちょっとムカつく。
    体つきも自分達よりはるかにしっかりしてて引き締まってるし、ぶっちゃけ羨ましい。
    ちょっとムカつく。
    テレパシーを送る以上、一松に千里眼でその姿を認識し続けてもらう必要があるため、必然的に一松も巻き込んでの試みだ。
    眠る十四松との通信は切って、トド松は深呼吸を繰り返す。
    やがて意を決して彼にテレパシーを送った。

    (…兄さん?)

    ーーー

    side.C

    あれから追手を撒きつつ、各地を転々とする日々を送っていた。
    研究所を調べるよりも、追手から逃れる方に時間を割いてしまっている気がする。
    そんな中、3人はとある市内の研究所近くまで来ていた。
    次はここの研究所だ。今度こそ何か手掛かりがあるといいのだが。
    いつものように宿を取って、明日の算段を考えようと荷物を降ろした時だった。

    「おい、2人ともこれ見ろ!」
    「どうしたんだ?」

    おそ松の鋭い声に振り向くと、目に飛び込んできたのはテレビの画面。
    ニュース速報として燃え盛る建物が映し出されている。
    ちょっと待て、この場所にこの建物は…まさか。
    画面下には大きめのテロップで
    「国家機関の施設が敵国からの襲撃を受け全焼」
    とあった。
    明日自分達が偵察に行こうとしていた施設だ。
    どういう事だ?敵国が研究所を襲撃したのか?
    今まで超能力研究機関が狙われた事なんてなかったのに、今更?

    「おいおい…これ、明日行こうとしてた研究所だろ。まじで?敵国に先越されちゃったとかまじで?」
    「全焼か…。負傷者の情報は出ていないな。」
    「これって…この先他の研究所も敵国に狙われていくんじゃ?」
    「あー、だとしたら厄介だよなぁ。」
    「ちょっと僕、今から現場まで行ってみる。」
    「え、いや待て今から?!」
    「明日まで待ってたら国の機関が調査始めて近づけなくなるかもしれないだろ?早い方がいいよ。」
    「けど、チョロ松…。」
    「大丈夫、ちょっと見てくるだけだから。危ないと思ったらすぐに引き返す。」
    「んー…まぁ、瞬間移動あるし大丈夫だろ、そいじゃ頼んだチョロ松。」
    「おそ松兄さん!」
    「大丈夫だって、カラ松。行ってくる。」

    カラ松は心配そうな顔をしていたが、それを振り切り部屋を出た。
    背中に「やばくなったら絶対撤退しろよ。」とおそ松の声を受ける。
    銃弾を詰め直した小型の銃をポケットにしまい、足早に現場に向かった。
    どう説明すればいいのか分からないが胸騒ぎがしたのだ。
    一刻も早く行かなければならない気がした。

    現場は文字通り燃え尽きていた。
    データも何も残っていないようだ。
    一応、建物の骨組みだけを残し、今にも崩れそうな屋内を探ってみたものの
    特に手掛かりを見つける事は出来なかった。
    先ほど感じた胸騒ぎは何だったのか。
    気のせいかな、うん、そういう事にしておこう。
    仕方ない、帰ろう。
    踵を返しチョロ松は帰路にたった。

    ホテルに向かって歩き出して、5分程経った頃だろうか。
    背後に気配を感じ、チョロ松は内心で舌打ちした。
    追手か。え、胸騒ぎってもしかしてこれだったのか?やめてほしい。
    どうやら複数の追手がジリジリと距離を詰めているようだ。
    小さくため息をついたチョロ松は大通りから細い路地へ走り込んだ。
    突然走り出したチョロ松に追手が一気に動く気配がする。
    チョロ松を追いかけて路地裏へ入ってきた1人の背後へ瞬時に移動し、すかさず踵落としを脳天にお見舞いする。
    まずは1人。
    気を失った追手を残りの追手に向かって蹴り上げ足止めをすると
    また背後に瞬間移動を駆使して回り込み、麻酔銃を打ち込んだ。
    これで4人。
    そのまま路地裏を駆けていると、前方、後方から追手が迫ってきたため足を止める。
    ギリギリまで引き付けて、捕まる直前でまた背後へ。
    相打ちになった追手達が衝撃から立ち直る前にまた麻酔銃を打ち込む。
    ここまでで計8人。
    間髪を入れず振り返って左脚を振り回し壁に頭を打ち付けさせた。
    これで9人。
    その後も同じように所謂ヒット&アウェイ戦法で相手の背後に移動しては蹴りを入れたり
    麻酔銃を打ち込んだりして追手をのしていく。
    粗方片付いた。もう気配は感じない。全て倒しただろうか。
    警戒しながらも路地裏から大通りを出たところで、背中に衝撃が走った。
    まずい、スタンガンか。
    あと1人残っていたのか。油断してた。
    訓練を積んでいたチョロ松は普通のスタンガンであれば耐えられる。
    それを見越してのことだろう最大出力にされていた電撃にチョロ松は意識を手放した。


    窓の外を眺めていた。
    気付くと、質素な喫茶店の窓際のテーブルに腰掛けていた。
    テーブルの上には手のつけられていないコーヒー。
    窓の外は人も車も見当たらない。
    カランコロン、と喫茶店のドアが来客を告げたが
    そちらには目を向けずただぼんやりと外を見つめていた。
    足音がこちらに近づいて、そして止まった。
    振り返って目を見張る。
    こちらのテーブルまでやってきた客は、自分と同じ顔をしていたのだ。
    少し幼さが残るあどけないその表情は兄のおそ松でもカラ松でもなかった。
    同じように驚いた顔をして自分を見下ろすその人に、立ち上がって声をかける。

    「十四松?」

    それはずっと探していた弟の1人の名前で、驚く程自然に口から滑り出た。
    十四松、お前なのか?
    記憶の中より大分成長した姿の弟は戸惑いながらも返してくれた。

    「チョロ…ま、つ…兄さん」

    想像していたよりずっと低い声で。
    これ以上何て返せばいいか分からずに弟を見つめていた。


    「ーって!」

    どさり、とまた身体に衝撃が走って目が覚めた。
    どうやら乱暴にこの牢屋へ放り込まれたらしい。
    あー…捕まったのか。情けない。
    ほんと情けない…と思わず頭を抱えた。
    幸い手足は拘束されてないし、このままホテルに瞬間移動すればいいだけの話だ。
    くぁ、と欠伸をして座り込む。
    ここはどこだろうか。随分厳重な監獄だ。
    どのくらい気を失っていたのだろう。
    兄達は心配しているだろうか。
    ふと、チョロ松はついさっき見た夢を思い出した。
    十四松と会った夢。あれはどんな意味があったのか。
    今まで兄弟の夢を見た事なんてなかったのに。
    探し続けてきたから、望みが夢として表れたのだろうか。
    でも何で十四松だけだったんだ。
    足を組んで座り直し、夢について1人考察していた時だった。

    (…兄さん?)
    「ーー?!」

    突然声が聞こえて慌てて辺りを見渡す。
    おかしい、誰もいない。
    何だ今のは。まるで頭の中に直接響いてくるようだった。
    もしや夢に続いて幻覚か?
    とっさにそう思ったが、なおも声は響く。

    (チョロ松兄さん、だよね?)
    「っ…だ、誰?」
    (えー…っと…、トド松だよ、って言ったら信じる?)
    「はぁ?!」

    今、何と。
    声の主はトド松だと言っている。
    離れ離れになった弟の1人、末弟のトド松。
    今しがた十四松の夢を見て、トド松の幻聴を聞いているのか?

    「トド松?!それって僕の弟であの末弟の?そのトド松?!」
    (えっとね、声を出さずに念じるような感じで返事してみて。
     ちゃんとそれで聞き取れるから。
     あと、幻聴じゃないから安心して。)
    (は、え、何それどういう事?!)
    (あ、大丈夫できてるできてる。)
    (おい!お前、本当にトド松なのか?)
    (信じる信じないは勝手だけど、確かに僕はトド松だよ、チョロ松兄さん。
     色々あって、テレパシーできるようになっちゃってね。)
    (それは…人体実験で?)
    (まぁ、そうだね。御察しの通り。)
    (トド松は今、何処にいるんだ?一松と十四松は?)
    (僕のこと信じるの?)
    (完全に信じたわけじゃないけどさ…。)
    (それでもいいよ。
     一松兄さんも十四松兄さんも一緒にいる。)
    (そう…。)
    (チョロ松兄さんは、何でこんな所に連れてこられたの。)
    (ちょっと油断して追手に捕まった。つーかここどこ?)
    (国の軍事施設。)
    (へー。道理でしっかりした牢屋なわけだ。)
    (その緊張感の無さなんなの?つか、トド松ごめん僕ちょっと疲れてきた。)
    (あ、ごめん一松兄さん。)
    (え、一松?!一松なの?!)
    (うるせえ…。)
    (何こいつ辛辣!!)

    一際低い声が聞こえてきたと思ったらまさかの一松であった。
    本物かどうかはまだ半信半疑だが。
    しかし十数年ぶりに兄に掛けた言葉が「うるせえ」ってあんまりじゃなかろうか。
    少しやり取りをして、いくつか分かった。
    一松達も自分達と同様に誘拐されてから実験体にされていた事。
    元々いた施設が敵国の攻撃に遭い、一時的に軍事施設に避難という名目で連れてこられた事。
    敵国が研究施設を狙い始めたのは、どうやら自分達が原因らしい事。
    頭に直接響くような声は、トド松のテレパシー能力である事。
    一松の千里眼の能力でチョロ松が牢獄へ入れられた事に気付き、コンタクトを取ってきた事。
    十四松は予知能力がある事。
    そして、一松達は身体に何らかの障害を負い、自力で脱出はできないという事。

    (てかさ、脱走した実験体ってやっぱり兄さん達のことだったんだね。
     そのおかげで僕達とんだとばっちりなんだけど?!
     やめてよね、こっちは戦闘は全然ダメなんだからさ!!)
    (それはなんというか、申し訳ない…?)
    (…まあ、いいや。他に何か欲しい情報ある?
     一応僕らは諜報員として実験されてきたから、色んな情報だけは持ってるよ。)
    (いや、情報はもう十分だけど…どうにか、そっちに行けない?)
    (は?)
    (僕の能力さ、瞬間移動なんだ。場所が分かればそっちに行けるんだけど。
     その、できれば顔を見たいんだけどさ。)
    (それで捕まったのにあんなに余裕だったんだね。)

    弟達はチョロ松の姿が見えているが、チョロ松は声だけなのだ。
    疑う訳ではないが、確信が欲しい。
    本物なら顔を見たい。

    (…場所情報、送る。)

    しばしの沈黙の後、一松の声がした。
    脳内にシンプルな部屋の景色が見えた。
    すごいなテレパシーってめちゃくちゃ便利じゃん。
    次いで位置情報が流れ込んでくる。
    あれ、壁一つ隔てた先だ。
    その壁がとてつもなく分厚いにしてもそんなに近くにいたとは。
    すかさず瞬間移動でそちらへ飛んだ。

    「わ、すごい。ほんとに来た…。」
    「ト、ド松…?」
    「うん。久しぶり、チョロ松兄さん。」

    目に映ったのは、同じ顔をした3人。
    1人は車椅子に乗って眠り、1人はベッドの上で眠り、もう1人はベッドに腰掛け、眠る2人の手を握っていた。
    弟達は寄り添うようにしてそこにいた。
    何者も寄せ付けない空気に、それ以上近づいてはいけない気がしてチョロ松はその場に立ちすくむ。
    これがおそ松だったらそんな空気お構い無しに駆け寄って迷わず弟達を抱きすくめるのだろう。
    カラ松は少し遠慮しながらも、やはり弟達へ向かって手を伸ばそうとするはずだ。
    けれど自分には出来なかった。
    思わぬ再会を果たした弟達は、皆同じ顔で、記憶に残る姿より成長しているものの、その体躯は自分達に比べて頼りない。
    力を入れたら折れてしまうのではないか。
    彼らが能力と引き換えに負った障害の深刻さを物語っているような気がした。
    話したいこと、聞きたいことは山ほどあるのに何故か言葉が出てこない。

    (チョロ松兄さん、帰れるなら早く帰った方がいい。)
    (どういう事?)
    (早く。軍の人間がチョロ松兄さんがいた牢屋に近づいてきてる。)

    一松の突き放すような言い方に少し胸が痛んだのは気づかないふりをした。
    ここで、華奢で弱々しい弟達の手を無理やり取ることもできる。
    けど、口には出さないものの、彼らの放つ雰囲気がそれを望んでいなかった。
    今日はこのまま引き下がろう。
    帰っておそ松あたりに話したら怒られそうが
    弟達の顔を見ることができて、居場所と無事を確認できただけでも良しとしよう。

    「僕ら、お前達をずっと探してたんだ。施設を脱走してからずっと。
     おそ松兄さんとカラ松は、執念かってくらいお前達に会いたがってる。」
    「……。」
    「多分、いや絶対そっちがなんて言おうがお前達を連れて行こうとすると思う。」
    「何それ。相変わらず勝手だねおそ松兄さん。
     知らないよ?僕らは…兄さん達に比べて遥かに役に立てない足手まといなんだから…。」
    「関係ないよ。僕はともかく、あの2人は例えお前達3人全員が植物状態であってもそれが出来るくらいの力がある。
     …きっとまた近いうちに迎えが来るよ。」
    「……。」

    それじゃ、と言い残しチョロ松は長兄2人が待つホテルへ飛んだ。

    ーーー

    side.K

    遅い。
    研究所が敵国の攻撃に遭ったニュースを見て、チョロ松が様子を見に行くと出て行ってから結構な時間が経っている。
    携帯に連絡を入れてみるが、返事はない。

    「カラ松。」
    「ああ。」

    おそ松の声に皆まで言わずとも理解出来た。
    カラ松は上着を羽織るとホテルを飛び出した。

    研究所までの道を走る。
    日が暮れた通りは薄暗く、明かりもない。
    辺りに気を配りながらしばらく走っていると視界の端に何かを捉えた。
    細い路地に人が積み重なるようにして倒れている。
    数人は頭部に衝撃を受けて気絶し、数人は外傷もなく気を失っている。
    瞬時にカラ松は起こったことを理解した。
    チョロ松は帰る途中追手とやり合ったのだ。
    打ち込んだのは麻酔銃だろう。
    しかし、未だ帰らず姿も見えないということは

    「捕まったのか…?」

    捕まる自体はさほど問題ない。
    チョロ松の能力で帰ってくればいいだけだ。
    だが、もし捕まった先で意識の戻らないまま拘束されていたら。
    また実験をされていたら。
    自力で脱出できないなら助けに行かなければならない。
    しかし現状からは何処へ連れて行かれたのか分からない。
    ひとまず、おそ松に連絡を入れようと携帯を手に取った時だった。
    背後に気配を感じた。
    いや、背後だけではない。周り一帯に、だ。
    ここに転がっている仲間を回収しにきたら、偶然にも自分が見つかった、といったところか。
    まったく運がない。
    本日のビーナスは少々ご機嫌ナナメのようだ。

    「俺はブラザーと違って優しくないぜ?…残念だったな。」

    言うや否や、カラ松はポケットに忍ばせていた小石を頭上に投げ上げた。
    ふわりと宙を舞ったそれは赤子の親指ほどの大きさしかない。
    しかし次の瞬間、小石は弾丸のような速さで四方へ飛び散り、追手の左胸を貫いた。
    カラ松はその能力故に、身近な物は何でも武器になり得る。
    先ほどのように道に転がる小石を弾丸のようにすることも
    薄っぺらい紙切れをナイフのように操ることも朝飯前だ。
    追手が倒れるよりも前に残党へ向かって一気に距離を詰めるとニヤリと冷やかな笑みを浮かべる
    チョロ松は誰一人追手の命を奪ってはいないようだが、自分はそんな優しいことなどしない。
    こいつらは自分の敵だ。
    敵は、完全に排除すべきだ。
    詰め寄った一人の顔面に乱暴に掴みかかると勢いのまま持ち上げ、念力で持ち上げる。
    ビルの屋上程の高さまで持ち上げて、フッと力を抜いた。
    もうあとは落ちるだけだ。落下地点を調整したため数人も巻き添えだろう。
    路傍に既に息絶えている追手の懐を探るとナイフを発見した。
    それを手には触れずにまだ生き残る追手めがけて振り回した。
    追手を確実に仕留めていくその目に一切の躊躇はない。

    しばらく暴れて追手が全滅した頃、タイミングよくおそ松から連絡がきた。
    チョロ松が帰ってきたらしい。
    すれ違わなかったという事は、瞬間移動で直接部屋へ戻ってきたのだろう。
    すぐ戻る、と伝えて通話を切るとカラ松は踵を返してホテルへ来た道を戻っていった。

    部屋に戻ると連絡を受けた通りチョロ松が帰っていた。
    その表情は幾分沈んでいるように見える。

    「おかえりカラ松〜。」
    「あぁ、ただいま。チョロ松もおかえり。中々戻らないから心配したぞ。」
    「ごめん、遅くなって…。」
    「さて、チョロ松。
     カラ松も帰ってきたんだ。何があったのか…話してくれるよな?」

    おそ松がチョロ松に問いかける。
    その口調は優しげだが有無を言わせない迫力も感じる。
    カラ松もチョロ松も、この状態の長兄には逆らってはいけないと本能的に理解していた。
    一瞬チョロ松は躊躇うような様子を見せたが、大きく息をついて「わかった」と呟いた。

    「攻撃を受けた研究所は文字通りもぬけの殻だったよ。
     何も残ってなかった。攻撃を受けることが事前に分かってたみたいだ。」
    「攻撃が分かってた?」
    「それは後で話す。
     …で、引き返してここに戻る途中で追手に見つかっちゃって…うっかり捕まりました…。」
    「おいおい…チョロちゃんよ…。」
    「ああ、やっぱりな。道すがら気を失った追手らしい奴らが転がってたぞ。」
    「あれ、カラ松。お前もしかして追手と戦ってきた?」
    「戦ってきたぞ。安心してくれ全滅させてきたから。」
    「おー、お疲れ!…で?捕まってから何かあったのかチョロ松。」
    「ごめん…。で、国の軍事施設に連れて行かれたんだけど…そこで…。」
    「そこで?」
    「…どうしたんだ?大丈夫か?」
    「……。」
    「チョロ松?」

    チョロ松は口籠ったまま俯いてしまった。
    しかしそれはほんの数秒で、何かを決意したように顔を上げ、再び言葉を紡ぎ出す。

    「弟達がいた。一松も十四松も、トド松も。そこに監禁されてた。」
    「「!!!!」」
    「3人とも、僕達と同じようにやっぱり人体実験をされてて、能力を身に付けてて
     けど、そのせいで皆して障害を負って1人じゃ動けなくなってた…。」

    チョロ松の話はおそ松とカラ松に衝撃を与えた。
    この近くに、探し続けてきた弟達がいる。
    ちらりとおそ松の方を窺い見ると、兄は驚愕と歓喜と怒りが混ざったようななんとも言えない顔をしていた。
    おそらく自分も同じような顔をしているのだろう。
    それからチョロ松は一松達の状況や教えてもらったという情報を共有してくれた。
    事前に攻撃が分かったのは、十四松が予知をしたからだという。

    「無理やり連れてくる事もできたはずなんだ…でも、3人を見たら…できなくて…ごめ…。」
    「いいって。あいつらの居場所が分かったんだ。ならもうやる事は決まってる。」
    「そうだな!きっとこれは運命!destiny!女神が俺たちに囁いたに違いな「カラ松うるさい。」ハイ。」

    小さくため息をついて、俯いていてもツッコミは欠かさない律儀な弟の頭にポンと軽く手を乗せる。
    おそ松の言う通り、居場所が分かったならやる事は一つ。
    弟達が何と言おうが連れ出す一択だ。
    ああ、早く顔を見たい。声が聞きたい。
    時計を見ると日付が変わろうとしているところだった。
    チョロ松にも疲れが見える。
    今日はひとまず休もうという事になり、はやる気持ちを抑えて各々ベッドに潜り込んだ。


    夢を見た。
    カラ松はふと気付くと真っ白な空間にいた。
    前も後ろも、上下さえわからなくなるような真っ白な空間。
    夢でも見ているのかとボンヤリ考えていると、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
    辺りを見渡すと遠くに蹲る人影が見える。
    その人影に近づくと、それに合わせて泣き声もはっきり聞こえてきた。
    ああ、この人が泣いているんだな。
    蹲るその人は、自分と同じか少し年下くらいだろうか。
    体を丸めて何かに怯えているように見えた。
    ーどうしたんだ?
    声を掛けると、蹲って泣いていた人物がビクリと肩を震わせて顔を上げた。
    ー助けて
    そう、声が聞こえた気がした。

    「ーーっ?!」

    フッと意識が急浮上したような感覚に襲われた。
    今のは夢か?
    自分に助けを求めていたあの人影は一体。
    少し上体を起こして時間を確認すると深夜2時を回ったところだった。
    時計から視線を外すと、同じタイミングでおそ松とチョロ松も目を覚ましていた。

    「すまない、起こしたか?」
    「いや、なんか変な夢見ただけだから。」
    「兄貴もか?奇遇だな俺もだ。」
    「更に奇遇なことに僕もなんだけど…ねぇ2人ともどんな夢見た?」

    驚いた事に3人揃って奇妙な夢を見て目が覚めたらしい。
    実はこういったことは過去にも何度かあった。
    一卵性故だろうか、たまに同じ夢を見ることがあるのだ。
    今回もそれだろう。
    そんなことを考えていた時だ。
    突然、頭の中に声が響いた。

    (ーけて、助けて!!)

    誰かの助けを呼ぶ声。
    おそ松とチョロ松を見ると、2人にも聞こえていたようで、目を丸くしている。
    突然の事に戸惑っている中、いち早く反応したのはチョロ松だった。

    (その声…トド松か?!)
    (やだ、兄さん、たすけて!たす、け…)
    (トド松?トド松!おい!何があった?!)

    ブツリ、とまるで通信が途切れるような音がした。
    チョロ松の様子からして、声の主は末弟のトド松なのだろう。
    寝起きの頭で必死に考える。
    確かトド松はテレパシーを使えた。
    そして、自分達3人にテレパシーを送れたのは一松が千里眼で夕刻に接触したチョロ松の居場所を把握できたからだろう。
    今はもう何も聞こえてこない。
    つまりトド松と一松のどちらか、あるいは両方が能力を使えない状態に追い込まれたのだ。
    突然の状況に頭が追いつかないが弟達が危機的状況に陥っていることは明らかだ。
    何にしろ、弟達が助けを求めてきたのだから行かなければ。

    「チョロ松、あいつらの処に飛べるか。」
    「軍事施設の部屋になら飛べる。2人ともつかまって。」
    「よっしゃ。ちょーっと予定が早まったけど、まぁやってやろうじゃん!気ぃ引き締めろよ!」
    「言われなくても!」

    おそ松とチョロ松も当然思いは同じようで。
    おそ松とカラ松がチョロ松の肩に手を置いたのを確認すると、チョロ松が瞬間移動を発動した。
    #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・今のところ兄弟愛
     腐ではありませんがこの先どうなるかわかりません
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください
    ・前作見てからご覧いただけますと幸いです

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.J

    十四松は今、一松、トド松と共にいつもの研究所を離れ、とある軍事施設にいた。
    軍事施設で与えられた部屋の中で金属バットを手に素振りをしている最中である。
    何故このような場所にいるかというと、避難という名の拘束のためだ。
    1ヶ月程前だったか、兄の一松が敵国の情報を入手してきた。
    超能力者の研究機関への攻撃を始めたらしい敵国は、手始めに自分達が生活していた施設を狙ったらしい。
    意図があってか無作為の選出かは定かではないが、運が悪かったとしか言いようがない。
    十四松が予知し、(あの日見た温室の火事はやはり敵国の攻撃だったようだ。)
    それを一松が詳細を掘り下げ攻撃の決行日と時間を知り、トド松が研究員に伝えた。
    一松は避難を頼むつもりだったようだが、それよりも先に自分達3人は国の軍事施設に送られた。
    何故避難場所が軍事施設なのかは、保護と言いつつ拘束と監視も兼ねているからだろうと一松が言っていた。
    どさくさに紛れて逃げ出したり連れ去られたりすると困るのだろう。特に後者。
    そんなわけで、軍事施設に来たのがおよそ1ヶ月前。
    そして今日は、敵国が研究所の攻撃を予定している日であった。
    自分達はあの研究所から離れたから、十四松が予知した兄と弟が血塗れで炎に包まれた温室に倒れ伏す未来は回避されたはずだ。
    ひとまずその事に安心した。
    新たな環境にも少しずつ慣れてきた。
    十四松達は軍事施設の中の最奥部に位置する重たい扉で何重にも守られた部屋にいた。
    元々は敵国のそれなりの地位を持つ人物や人質を監禁する想定で作られた部屋だと聞いてなるほどここは確かに監獄だと理解できる。
    研究所を離れたため、実験がないのはありがたいが、施設にいた時と違ってこの部屋からは一歩も出られない。
    3LDK程のマンションの一室のような部屋はそれなりに広さはあるが走り回るには無理がある。
    身体を動かしたい時はこうして素振りをしたり、筋トレをしたりして過ごしていた。
    さて、素振りも飽きてきた。
    バットを置き、ベッドが並ぶ寝室を覗くと兄はいつも通りベッドの住人状態。
    そして弟も兄の右腕にしがみ付くようにして同じベッドで眠っていた。
    なんだ、トド松も寝ている。
    ならば自分も眠ろうか。
    今何時だっけ。相変わらず夜なのか朝なのかいまいち分からない。
    シャワーで軽く汗を流してから、トド松眠る反対側、一松の左に潜り込んだ。
    キングサイズのベッドは3人寝ても余裕がある。
    程なくして十四松も寝息を立て始めたのだった。

    ふと気がつくと、見知らぬ街にいた。
    ああこれは夢だと気付くのにさほど時間は要らなかった。
    これは夢だ。今自分は夢を見ている。
    ここはどこだろう。
    並木道に沿うようにして背の高いビルが立ち並んでいる。
    辺りに人はいないようだ。
    十四松は周りをキョロキョロ見渡しながら並木道を歩き始めた。
    いわゆるオフィス街という所だろうか。
    長らく外出していない十四松はそんなこと知る由もないが。
    しばらくあるいたところで、とある建物が目に付いた。
    質素な喫茶店のようだ。
    無機質なビルに囲まれた中、異質な雰囲気を醸し出している。
    自然と足がそちらに向いていた。
    そっとドアを開けるとカランコロン、と軽やかな鈴の音。
    中を見渡すと、窓際の席に1人ぼんやりと外を眺めながら座る人影があった。
    テーブルには手のつけられていないコーヒー。
    あれ、なんだか見覚えがあるような…なんだっけ、なんだったっけ…。
    外を眺める人物はこちらを見向きもしない。
    自分でも分からないが、話しかけなければならない気がして十四松はその人影に近づいた。
    テーブルの傍に立つと、窓の外を眺めていたその人は気配に気づいたようでこちらを向いた。
    お互い息をのむ。
    その人は、十四松と同じ顔をしていたのだ。
    同じ顔、けど一松はではない。トド松でもない。
    ではこの人は?
    あ、そういえば少し前にもこんな夢を見なかったっけ?
    そうだ、自分達にそっくりな人達が自分達を探していた夢だ。
    目の前で自分が見下ろすこの人物は以前見た中の1人なのだろうか?
    十四松がその人をじっと見つめながら考えを巡らせていると、座っていたその人は立ち上がって呟いた。

    「十四松?」

    自分のことを知ってる?
    同じ顔をしたこの人は自分とどういった関係なのだろう。
    十四松はわけが分からないまま、無意識に言葉を返していた。

    「チョロ…ま、つ…兄さん…。」

    何でそう返したのか分からない。
    自分の兄は一松だけだったはずだ。
    では何故、この人に兄さんと返したのだろう。
    分からない。分からないけど不思議と間違ってはいない気がして、ますますわけが分からない。
    驚きで見開かれたその人の双眸はやがてすっと細められて十四松を見つめてくる。
    優しさとか、切なさとか、不安、嬉しさ、色々な感情が込められた眼差しだった。

    「ーーーっ!」

    反射的にがばりと起き上がると、そこは先程潜り込んだベッドの上だった。
    視線を下ろすと兄と弟の姿があってホッとする。
    十四松が勢いよく飛び起きたため、トド松が目を覚ましたようだ。

    (十四松兄さん、おはよう。)
    (トド松…。)
    (うん?)
    (チョロ松兄さんってだれ?)
    (え?!)
    (さっきね、ゆめみたんだ。ほら前におれたちさがしてるそっくりな人のゆめのはなし、したっしょ?
     またみたんだ、さっきみたのは3人じゃなくてひとりだけだったけど、おれ、その人とはなした!ちょっとだけ!
     でね、その人はおれのなまえをよんで、おれは「チョロ松兄さん」ってかえしてた。
     でも、チョロ松兄さんってだれなんだろう。なんでおれその人のなまえしってたのかなー。
     トド松、しってる?)

    十四松は先程見た夢の内容をトド松に伝えた。
    トド松はそれを聞いて目を見開いている。
    そして、パクパクと口を動かしては視線が揺らいでいた。
    十四松はそんな弟の様子を不思議そうに首を傾げて見ていたが、トド松は何と返せばいいのか迷っていたのだ。
    そんな中、一松の声が聞こえた。

    (十四松。)
    (あ、一松兄さんおきてた!)
    (僕、チョロ松兄さん知ってる。)
    (おー!やっぱ兄さんは何でも知ってますなー!)
    (トド松も、知ってるよね?)
    (う、うん…。僕も知ってる。)
    (あれ?そーなの?しらないの、おれだけ??)
    (知らないわけじゃないよ…十四松は、忘れてるだけ。)
    (おれ?わすれてるの?)
    (うん。だって名前呼べたんでしょ。本当は知ってるんだよ。
     また夢を見たら、今度は思い出してみたら?大丈夫、怖くなったら僕やトド松がいるから。)
    (わかった!おれおもいだせるようにがんばる!)

    どうやら「チョロ松兄さん」は一松もトド松も知っている人のようだ。
    そして、一松が言うには自分も知っているはずの人だという。
    夢で見た「チョロ松兄さん」をぼんやりと思い出す。
    目が覚める直前に見た、あの眼差しは一体何を訴えかけていたのだろうか。
    もっと色々聞きたいことはあったのだが、一松はそれ以上は何も教えてくれなかった。

    ーーー

    side.T

    (わーマジで火炙りじゃん…。)
    (もえてる?!けんきゅうじょもえてるっスね!!)
    (ほんとあそこから撤退できてよかったよね。兄さん達のおかげだよ。)

    敵国は予定通りの時間に研究所に攻撃を開始していた。
    現在その様子を一松の千里眼でライブ中継中である。
    会話は呑気に聞こえるが、トド松は一松の背中にしがみついているし
    十四松は一松の腰に手を回してガッチリホールドしている。
    一松は抵抗しない。いつものことだ。
    3人が眺める火が放たれた研究所は、しかし無人であった。
    データも移行済みのようだ。
    部隊が突撃したようだが、閑散とした様子に戸惑っているようだ。
    結局、燃え尽きた研究所からは誰一人として発見されず、敵国の部隊は早々に切り上げて行った。

    (僕は上の命令があるから、この部隊の追跡するね…。)
    (うん。)
    (兄さんいってらー!)

    一松が指令を受け、部隊の追跡を開始した。
    ちなみにベッドからは降りて今は車椅子に乗っている。
    寝過ぎて床ずれを起こしたそうだ。
    この兄はたまにこうやって床ずれやら寝違えたりやら寝過ぎが原因で身体を痛める。
    痛いのはまあ、可哀想ではあるがトド松としては眠り続けているためまるで人形のような一松の
    どこか人間味を帯びた瞬間を見れたような気がして嫌いではなかった。
    兄に言うと怒るだろうから決して口には出さないが。脳にも伝えないが。

    (十四松兄さん、ココアでも飲もっか)
    (あいあい!)

    十四松に手を引いてもらって、簡易なキッチンに立つ。
    棚からココア粉、小さな冷蔵庫から牛乳を取り出し、手早く温めて十四松にどーぞ、と差し出した。
    マグカップを受け取った十四松は伸びきった袖はそのままに器用に両手でカップを持っている。
    まだかなり熱いであろうカップの中身を躊躇いなくゴクゴク飲み干した。
    一方のトド松はまだカップの縁に口を当てて息を吹いて冷まそうとしているところだ。
    チラリと横目で十四松を見ると珍しく真面目な表情をしていた。
    おそらく、兄の事を思い出そうとしているのだろう。
    十四松が聞かせてくれた夢の話では、十四松は無意識にチョロ松兄さんと名前を呼びかけていた。
    一松が十四松にヒントを与えながらも多くを語らず、思い出してみてごらん、
    とあくまで見守る形に徹したようだったので、トド松もそれに倣い自分から兄達の事は話さずにいた。
    夢の話をする十四松は落ち着いた様子だったし、二つ上の兄は今はまだ自然に任せようと判断したのだろう。
    しかし、何故今回見たのはチョロ松の姿だけだったのだろう。
    長兄2人が出てこなかったのは理由があるのだろうか。
    予知能力を持つ十四松のことだ、もしかすると最初に接触するのがチョロ松なのかもしれない。
    …接触?

    「そんなまさか、ねぇ…。」

    (トド松?どーしたのー?)
    (ううん、なんでもないよ。)

    思わず口から転げ落ちてしまった呟きに、にこりと笑いかけて取り繕う。
    兄はそれ以上何も言わなかった。

    日が落ちる頃には、といってもそんなの確認出来ないけど時間的に。一松は追跡を終えていた。
    部隊は完全に撤退したようだが、次の手を打ってくるだろう。
    次はどの研究所が狙われるのか。

    そんな中、3人が過ごす牢獄はとんでもない展開になっていた。
    いつかやってくるだろうと何となく思ってはいた事だが、あまりに晴天の霹靂過ぎる。
    何この急展開。やめてほしいんだけど。
    自分達が生活している部屋の外は通常の牢獄なのだが、どうやらそこに誰かが収容されたらしい。
    重たい鉄格子の扉が開く音がして、次いでどさりと何かが倒れる音がした。
    トド松達がいる部屋は施設の最奥部だ。
    その最奥部に近い場所にある牢屋に入れられたという事はそれなりの危険人物ということだろう。
    どんな人が入ってきたのかな、なんて軽い気持ちで一松の能力で3人で牢獄の様子をチラリと覗いてみると

    「ーーー?!」

    ヒュッと十四松の喉が鳴ったのがわかった。
    慌ててトド松が十四松の腕を掴み、一松も震え出した十四松の背に腕を回した。
    収容されてきたその人は、自分達3人と同じ顔をしていたのだ。

    (ーーーーっ!!)

    十四松が声にならない悲鳴をあげている。
    全身がカタカタと震え、大粒の涙がボロボロと溢れ出ていた。

    (十四松、大丈夫、大丈夫だから)
    (一松兄さ…、トド松…!!)
    (十四松兄さん!僕らここにいるよ?!大丈夫だから!ね?)
    (おもい…、おもいだし、た。おれたちさらわれて…!くらく、て、こわ、くて…!
     にい、さん…!兄さ…たち、とはなればなれ、に)
    (十四松、こわかったな。もう大丈夫だから、大丈夫、大丈夫だよ。)
    (うあ…うあああああ!!)

    十四松は兄の姿を見たことをきっかけとして、完全に兄達を思い出していた。
    夢を見た後に、千里眼越しとはいえ直接その姿を見てフラッシュバックしたようだ。
    だが同時に幼い日に誘拐された恐怖も思い出してしまったのだろう。
    パニックに陥った十四松は一松に縋り付き、大声をあげて泣き出した。
    膝を折り車椅子に乗った一松の腰に抱き付く形で子供の癇癪のように泣き叫ぶ十四松を
    一松はなんとか瞳を持ち上げて、その頭を抱き締め
    トド松は背中からそっと十四松を抱きしめて肩を撫でた。
    どのくらいそうしていただろうか。
    やがて疲れて眠ってしまった十四松をベッドに寝かせると、トド松は一松の方を向いた。

    (あれ…チョロ松兄さんだよね?)
    (多分…。十四松の取り乱しようや夢の話を聞くと、チョロ松兄さんじゃないかな。
     ちょっとタイミングが悪…いや、良すぎたのかも。)
    (どうしよう。)
    (なんか、捕まったにしては余裕な表情してる。)
    (え、何それ。)
    (いやなんか欠伸してるし…。緊張感なさ過ぎなんだけど。あれ?もしかしておそ松兄さんだったり??)
    (この際どっちでもいいけど、どうする?
     話しかけてみる?多分テレパシー飛ばせると思う。)
    (トド松に任せる。)
    (なんで、僕なの。)
    (…僕は、兄さん達に会いたくないわけじゃないんだけど…
     ただ、足手まといには…なりたくないなって…。十四松もまだ心配だし。)

    一松の気持ちはトド松も理解出来た。
    兄達には会いたい。
    でも、負担にはなりたくなかった。
    けれど…。

    (僕はさ…僕も、兄さん達には会いたいよ。
     でもね、正直に言っちゃうと一松兄さんと十四松兄さんさえいてくれたら、それでいいとも思ってるんだ。)
    (……。)
    (だって、あの日からずっと一緒にいたのは一松兄さんと十四松兄さんだもん。
     どちらか選べって言われたら、僕は絶対一松兄さんと十四松兄さんを取るよ。)
    (トド松…。)
    (でも、さ…。
     でも、だからといって僕らの知らないところで勝手にやられちゃうのも、後味悪いし迷惑な話だと思わない?)
    (うん。)
    (でしょー?ってことで、まぁ手助けくらいはしてあげたいじゃない!)
    (ふふ…うん、つまり?)
    (コンタクト取ってみようよ。)
    (ヒヒッ…りょーかーい。)

    おそらく一松は起きていたらニヤニヤした笑みを浮かべていたに違いない。
    眠っててくれてほんとよかった。
    そんなことを思いながら牢獄の中で足を組んで座るチョロ松(だと思う)にコンタクトを試みる事にした。
    あ、ほんとに緊張感ないなこの人。
    何の自信の表れだろうか。ちょっとムカつく。
    体つきも自分達よりはるかにしっかりしてて引き締まってるし、ぶっちゃけ羨ましい。
    ちょっとムカつく。
    テレパシーを送る以上、一松に千里眼でその姿を認識し続けてもらう必要があるため、必然的に一松も巻き込んでの試みだ。
    眠る十四松との通信は切って、トド松は深呼吸を繰り返す。
    やがて意を決して彼にテレパシーを送った。

    (…兄さん?)

    ーーー

    side.C

    あれから追手を撒きつつ、各地を転々とする日々を送っていた。
    研究所を調べるよりも、追手から逃れる方に時間を割いてしまっている気がする。
    そんな中、3人はとある市内の研究所近くまで来ていた。
    次はここの研究所だ。今度こそ何か手掛かりがあるといいのだが。
    いつものように宿を取って、明日の算段を考えようと荷物を降ろした時だった。

    「おい、2人ともこれ見ろ!」
    「どうしたんだ?」

    おそ松の鋭い声に振り向くと、目に飛び込んできたのはテレビの画面。
    ニュース速報として燃え盛る建物が映し出されている。
    ちょっと待て、この場所にこの建物は…まさか。
    画面下には大きめのテロップで
    「国家機関の施設が敵国からの襲撃を受け全焼」
    とあった。
    明日自分達が偵察に行こうとしていた施設だ。
    どういう事だ?敵国が研究所を襲撃したのか?
    今まで超能力研究機関が狙われた事なんてなかったのに、今更?

    「おいおい…これ、明日行こうとしてた研究所だろ。まじで?敵国に先越されちゃったとかまじで?」
    「全焼か…。負傷者の情報は出ていないな。」
    「これって…この先他の研究所も敵国に狙われていくんじゃ?」
    「あー、だとしたら厄介だよなぁ。」
    「ちょっと僕、今から現場まで行ってみる。」
    「え、いや待て今から?!」
    「明日まで待ってたら国の機関が調査始めて近づけなくなるかもしれないだろ?早い方がいいよ。」
    「けど、チョロ松…。」
    「大丈夫、ちょっと見てくるだけだから。危ないと思ったらすぐに引き返す。」
    「んー…まぁ、瞬間移動あるし大丈夫だろ、そいじゃ頼んだチョロ松。」
    「おそ松兄さん!」
    「大丈夫だって、カラ松。行ってくる。」

    カラ松は心配そうな顔をしていたが、それを振り切り部屋を出た。
    背中に「やばくなったら絶対撤退しろよ。」とおそ松の声を受ける。
    銃弾を詰め直した小型の銃をポケットにしまい、足早に現場に向かった。
    どう説明すればいいのか分からないが胸騒ぎがしたのだ。
    一刻も早く行かなければならない気がした。

    現場は文字通り燃え尽きていた。
    データも何も残っていないようだ。
    一応、建物の骨組みだけを残し、今にも崩れそうな屋内を探ってみたものの
    特に手掛かりを見つける事は出来なかった。
    先ほど感じた胸騒ぎは何だったのか。
    気のせいかな、うん、そういう事にしておこう。
    仕方ない、帰ろう。
    踵を返しチョロ松は帰路にたった。

    ホテルに向かって歩き出して、5分程経った頃だろうか。
    背後に気配を感じ、チョロ松は内心で舌打ちした。
    追手か。え、胸騒ぎってもしかしてこれだったのか?やめてほしい。
    どうやら複数の追手がジリジリと距離を詰めているようだ。
    小さくため息をついたチョロ松は大通りから細い路地へ走り込んだ。
    突然走り出したチョロ松に追手が一気に動く気配がする。
    チョロ松を追いかけて路地裏へ入ってきた1人の背後へ瞬時に移動し、すかさず踵落としを脳天にお見舞いする。
    まずは1人。
    気を失った追手を残りの追手に向かって蹴り上げ足止めをすると
    また背後に瞬間移動を駆使して回り込み、麻酔銃を打ち込んだ。
    これで4人。
    そのまま路地裏を駆けていると、前方、後方から追手が迫ってきたため足を止める。
    ギリギリまで引き付けて、捕まる直前でまた背後へ。
    相打ちになった追手達が衝撃から立ち直る前にまた麻酔銃を打ち込む。
    ここまでで計8人。
    間髪を入れず振り返って左脚を振り回し壁に頭を打ち付けさせた。
    これで9人。
    その後も同じように所謂ヒット&アウェイ戦法で相手の背後に移動しては蹴りを入れたり
    麻酔銃を打ち込んだりして追手をのしていく。
    粗方片付いた。もう気配は感じない。全て倒しただろうか。
    警戒しながらも路地裏から大通りを出たところで、背中に衝撃が走った。
    まずい、スタンガンか。
    あと1人残っていたのか。油断してた。
    訓練を積んでいたチョロ松は普通のスタンガンであれば耐えられる。
    それを見越してのことだろう最大出力にされていた電撃にチョロ松は意識を手放した。


    窓の外を眺めていた。
    気付くと、質素な喫茶店の窓際のテーブルに腰掛けていた。
    テーブルの上には手のつけられていないコーヒー。
    窓の外は人も車も見当たらない。
    カランコロン、と喫茶店のドアが来客を告げたが
    そちらには目を向けずただぼんやりと外を見つめていた。
    足音がこちらに近づいて、そして止まった。
    振り返って目を見張る。
    こちらのテーブルまでやってきた客は、自分と同じ顔をしていたのだ。
    少し幼さが残るあどけないその表情は兄のおそ松でもカラ松でもなかった。
    同じように驚いた顔をして自分を見下ろすその人に、立ち上がって声をかける。

    「十四松?」

    それはずっと探していた弟の1人の名前で、驚く程自然に口から滑り出た。
    十四松、お前なのか?
    記憶の中より大分成長した姿の弟は戸惑いながらも返してくれた。

    「チョロ…ま、つ…兄さん」

    想像していたよりずっと低い声で。
    これ以上何て返せばいいか分からずに弟を見つめていた。


    「ーって!」

    どさり、とまた身体に衝撃が走って目が覚めた。
    どうやら乱暴にこの牢屋へ放り込まれたらしい。
    あー…捕まったのか。情けない。
    ほんと情けない…と思わず頭を抱えた。
    幸い手足は拘束されてないし、このままホテルに瞬間移動すればいいだけの話だ。
    くぁ、と欠伸をして座り込む。
    ここはどこだろうか。随分厳重な監獄だ。
    どのくらい気を失っていたのだろう。
    兄達は心配しているだろうか。
    ふと、チョロ松はついさっき見た夢を思い出した。
    十四松と会った夢。あれはどんな意味があったのか。
    今まで兄弟の夢を見た事なんてなかったのに。
    探し続けてきたから、望みが夢として表れたのだろうか。
    でも何で十四松だけだったんだ。
    足を組んで座り直し、夢について1人考察していた時だった。

    (…兄さん?)
    「ーー?!」

    突然声が聞こえて慌てて辺りを見渡す。
    おかしい、誰もいない。
    何だ今のは。まるで頭の中に直接響いてくるようだった。
    もしや夢に続いて幻覚か?
    とっさにそう思ったが、なおも声は響く。

    (チョロ松兄さん、だよね?)
    「っ…だ、誰?」
    (えー…っと…、トド松だよ、って言ったら信じる?)
    「はぁ?!」

    今、何と。
    声の主はトド松だと言っている。
    離れ離れになった弟の1人、末弟のトド松。
    今しがた十四松の夢を見て、トド松の幻聴を聞いているのか?

    「トド松?!それって僕の弟であの末弟の?そのトド松?!」
    (えっとね、声を出さずに念じるような感じで返事してみて。
     ちゃんとそれで聞き取れるから。
     あと、幻聴じゃないから安心して。)
    (は、え、何それどういう事?!)
    (あ、大丈夫できてるできてる。)
    (おい!お前、本当にトド松なのか?)
    (信じる信じないは勝手だけど、確かに僕はトド松だよ、チョロ松兄さん。
     色々あって、テレパシーできるようになっちゃってね。)
    (それは…人体実験で?)
    (まぁ、そうだね。御察しの通り。)
    (トド松は今、何処にいるんだ?一松と十四松は?)
    (僕のこと信じるの?)
    (完全に信じたわけじゃないけどさ…。)
    (それでもいいよ。
     一松兄さんも十四松兄さんも一緒にいる。)
    (そう…。)
    (チョロ松兄さんは、何でこんな所に連れてこられたの。)
    (ちょっと油断して追手に捕まった。つーかここどこ?)
    (国の軍事施設。)
    (へー。道理でしっかりした牢屋なわけだ。)
    (その緊張感の無さなんなの?つか、トド松ごめん僕ちょっと疲れてきた。)
    (あ、ごめん一松兄さん。)
    (え、一松?!一松なの?!)
    (うるせえ…。)
    (何こいつ辛辣!!)

    一際低い声が聞こえてきたと思ったらまさかの一松であった。
    本物かどうかはまだ半信半疑だが。
    しかし十数年ぶりに兄に掛けた言葉が「うるせえ」ってあんまりじゃなかろうか。
    少しやり取りをして、いくつか分かった。
    一松達も自分達と同様に誘拐されてから実験体にされていた事。
    元々いた施設が敵国の攻撃に遭い、一時的に軍事施設に避難という名目で連れてこられた事。
    敵国が研究施設を狙い始めたのは、どうやら自分達が原因らしい事。
    頭に直接響くような声は、トド松のテレパシー能力である事。
    一松の千里眼の能力でチョロ松が牢獄へ入れられた事に気付き、コンタクトを取ってきた事。
    十四松は予知能力がある事。
    そして、一松達は身体に何らかの障害を負い、自力で脱出はできないという事。

    (てかさ、脱走した実験体ってやっぱり兄さん達のことだったんだね。
     そのおかげで僕達とんだとばっちりなんだけど?!
     やめてよね、こっちは戦闘は全然ダメなんだからさ!!)
    (それはなんというか、申し訳ない…?)
    (…まあ、いいや。他に何か欲しい情報ある?
     一応僕らは諜報員として実験されてきたから、色んな情報だけは持ってるよ。)
    (いや、情報はもう十分だけど…どうにか、そっちに行けない?)
    (は?)
    (僕の能力さ、瞬間移動なんだ。場所が分かればそっちに行けるんだけど。
     その、できれば顔を見たいんだけどさ。)
    (それで捕まったのにあんなに余裕だったんだね。)

    弟達はチョロ松の姿が見えているが、チョロ松は声だけなのだ。
    疑う訳ではないが、確信が欲しい。
    本物なら顔を見たい。

    (…場所情報、送る。)

    しばしの沈黙の後、一松の声がした。
    脳内にシンプルな部屋の景色が見えた。
    すごいなテレパシーってめちゃくちゃ便利じゃん。
    次いで位置情報が流れ込んでくる。
    あれ、壁一つ隔てた先だ。
    その壁がとてつもなく分厚いにしてもそんなに近くにいたとは。
    すかさず瞬間移動でそちらへ飛んだ。

    「わ、すごい。ほんとに来た…。」
    「ト、ド松…?」
    「うん。久しぶり、チョロ松兄さん。」

    目に映ったのは、同じ顔をした3人。
    1人は車椅子に乗って眠り、1人はベッドの上で眠り、もう1人はベッドに腰掛け、眠る2人の手を握っていた。
    弟達は寄り添うようにしてそこにいた。
    何者も寄せ付けない空気に、それ以上近づいてはいけない気がしてチョロ松はその場に立ちすくむ。
    これがおそ松だったらそんな空気お構い無しに駆け寄って迷わず弟達を抱きすくめるのだろう。
    カラ松は少し遠慮しながらも、やはり弟達へ向かって手を伸ばそうとするはずだ。
    けれど自分には出来なかった。
    思わぬ再会を果たした弟達は、皆同じ顔で、記憶に残る姿より成長しているものの、その体躯は自分達に比べて頼りない。
    力を入れたら折れてしまうのではないか。
    彼らが能力と引き換えに負った障害の深刻さを物語っているような気がした。
    話したいこと、聞きたいことは山ほどあるのに何故か言葉が出てこない。

    (チョロ松兄さん、帰れるなら早く帰った方がいい。)
    (どういう事?)
    (早く。軍の人間がチョロ松兄さんがいた牢屋に近づいてきてる。)

    一松の突き放すような言い方に少し胸が痛んだのは気づかないふりをした。
    ここで、華奢で弱々しい弟達の手を無理やり取ることもできる。
    けど、口には出さないものの、彼らの放つ雰囲気がそれを望んでいなかった。
    今日はこのまま引き下がろう。
    帰っておそ松あたりに話したら怒られそうが
    弟達の顔を見ることができて、居場所と無事を確認できただけでも良しとしよう。

    「僕ら、お前達をずっと探してたんだ。施設を脱走してからずっと。
     おそ松兄さんとカラ松は、執念かってくらいお前達に会いたがってる。」
    「……。」
    「多分、いや絶対そっちがなんて言おうがお前達を連れて行こうとすると思う。」
    「何それ。相変わらず勝手だねおそ松兄さん。
     知らないよ?僕らは…兄さん達に比べて遥かに役に立てない足手まといなんだから…。」
    「関係ないよ。僕はともかく、あの2人は例えお前達3人全員が植物状態であってもそれが出来るくらいの力がある。
     …きっとまた近いうちに迎えが来るよ。」
    「……。」

    それじゃ、と言い残しチョロ松は長兄2人が待つホテルへ飛んだ。

    ーーー

    side.K

    遅い。
    研究所が敵国の攻撃に遭ったニュースを見て、チョロ松が様子を見に行くと出て行ってから結構な時間が経っている。
    携帯に連絡を入れてみるが、返事はない。

    「カラ松。」
    「ああ。」

    おそ松の声に皆まで言わずとも理解出来た。
    カラ松は上着を羽織るとホテルを飛び出した。

    研究所までの道を走る。
    日が暮れた通りは薄暗く、明かりもない。
    辺りに気を配りながらしばらく走っていると視界の端に何かを捉えた。
    細い路地に人が積み重なるようにして倒れている。
    数人は頭部に衝撃を受けて気絶し、数人は外傷もなく気を失っている。
    瞬時にカラ松は起こったことを理解した。
    チョロ松は帰る途中追手とやり合ったのだ。
    打ち込んだのは麻酔銃だろう。
    しかし、未だ帰らず姿も見えないということは

    「捕まったのか…?」

    捕まる自体はさほど問題ない。
    チョロ松の能力で帰ってくればいいだけだ。
    だが、もし捕まった先で意識の戻らないまま拘束されていたら。
    また実験をされていたら。
    自力で脱出できないなら助けに行かなければならない。
    しかし現状からは何処へ連れて行かれたのか分からない。
    ひとまず、おそ松に連絡を入れようと携帯を手に取った時だった。
    背後に気配を感じた。
    いや、背後だけではない。周り一帯に、だ。
    ここに転がっている仲間を回収しにきたら、偶然にも自分が見つかった、といったところか。
    まったく運がない。
    本日のビーナスは少々ご機嫌ナナメのようだ。

    「俺はブラザーと違って優しくないぜ?…残念だったな。」

    言うや否や、カラ松はポケットに忍ばせていた小石を頭上に投げ上げた。
    ふわりと宙を舞ったそれは赤子の親指ほどの大きさしかない。
    しかし次の瞬間、小石は弾丸のような速さで四方へ飛び散り、追手の左胸を貫いた。
    カラ松はその能力故に、身近な物は何でも武器になり得る。
    先ほどのように道に転がる小石を弾丸のようにすることも
    薄っぺらい紙切れをナイフのように操ることも朝飯前だ。
    追手が倒れるよりも前に残党へ向かって一気に距離を詰めるとニヤリと冷やかな笑みを浮かべる
    チョロ松は誰一人追手の命を奪ってはいないようだが、自分はそんな優しいことなどしない。
    こいつらは自分の敵だ。
    敵は、完全に排除すべきだ。
    詰め寄った一人の顔面に乱暴に掴みかかると勢いのまま持ち上げ、念力で持ち上げる。
    ビルの屋上程の高さまで持ち上げて、フッと力を抜いた。
    もうあとは落ちるだけだ。落下地点を調整したため数人も巻き添えだろう。
    路傍に既に息絶えている追手の懐を探るとナイフを発見した。
    それを手には触れずにまだ生き残る追手めがけて振り回した。
    追手を確実に仕留めていくその目に一切の躊躇はない。

    しばらく暴れて追手が全滅した頃、タイミングよくおそ松から連絡がきた。
    チョロ松が帰ってきたらしい。
    すれ違わなかったという事は、瞬間移動で直接部屋へ戻ってきたのだろう。
    すぐ戻る、と伝えて通話を切るとカラ松は踵を返してホテルへ来た道を戻っていった。

    部屋に戻ると連絡を受けた通りチョロ松が帰っていた。
    その表情は幾分沈んでいるように見える。

    「おかえりカラ松〜。」
    「あぁ、ただいま。チョロ松もおかえり。中々戻らないから心配したぞ。」
    「ごめん、遅くなって…。」
    「さて、チョロ松。
     カラ松も帰ってきたんだ。何があったのか…話してくれるよな?」

    おそ松がチョロ松に問いかける。
    その口調は優しげだが有無を言わせない迫力も感じる。
    カラ松もチョロ松も、この状態の長兄には逆らってはいけないと本能的に理解していた。
    一瞬チョロ松は躊躇うような様子を見せたが、大きく息をついて「わかった」と呟いた。

    「攻撃を受けた研究所は文字通りもぬけの殻だったよ。
     何も残ってなかった。攻撃を受けることが事前に分かってたみたいだ。」
    「攻撃が分かってた?」
    「それは後で話す。
     …で、引き返してここに戻る途中で追手に見つかっちゃって…うっかり捕まりました…。」
    「おいおい…チョロちゃんよ…。」
    「ああ、やっぱりな。道すがら気を失った追手らしい奴らが転がってたぞ。」
    「あれ、カラ松。お前もしかして追手と戦ってきた?」
    「戦ってきたぞ。安心してくれ全滅させてきたから。」
    「おー、お疲れ!…で?捕まってから何かあったのかチョロ松。」
    「ごめん…。で、国の軍事施設に連れて行かれたんだけど…そこで…。」
    「そこで?」
    「…どうしたんだ?大丈夫か?」
    「……。」
    「チョロ松?」

    チョロ松は口籠ったまま俯いてしまった。
    しかしそれはほんの数秒で、何かを決意したように顔を上げ、再び言葉を紡ぎ出す。

    「弟達がいた。一松も十四松も、トド松も。そこに監禁されてた。」
    「「!!!!」」
    「3人とも、僕達と同じようにやっぱり人体実験をされてて、能力を身に付けてて
     けど、そのせいで皆して障害を負って1人じゃ動けなくなってた…。」

    チョロ松の話はおそ松とカラ松に衝撃を与えた。
    この近くに、探し続けてきた弟達がいる。
    ちらりとおそ松の方を窺い見ると、兄は驚愕と歓喜と怒りが混ざったようななんとも言えない顔をしていた。
    おそらく自分も同じような顔をしているのだろう。
    それからチョロ松は一松達の状況や教えてもらったという情報を共有してくれた。
    事前に攻撃が分かったのは、十四松が予知をしたからだという。

    「無理やり連れてくる事もできたはずなんだ…でも、3人を見たら…できなくて…ごめ…。」
    「いいって。あいつらの居場所が分かったんだ。ならもうやる事は決まってる。」
    「そうだな!きっとこれは運命!destiny!女神が俺たちに囁いたに違いな「カラ松うるさい。」ハイ。」

    小さくため息をついて、俯いていてもツッコミは欠かさない律儀な弟の頭にポンと軽く手を乗せる。
    おそ松の言う通り、居場所が分かったならやる事は一つ。
    弟達が何と言おうが連れ出す一択だ。
    ああ、早く顔を見たい。声が聞きたい。
    時計を見ると日付が変わろうとしているところだった。
    チョロ松にも疲れが見える。
    今日はひとまず休もうという事になり、はやる気持ちを抑えて各々ベッドに潜り込んだ。


    夢を見た。
    カラ松はふと気付くと真っ白な空間にいた。
    前も後ろも、上下さえわからなくなるような真っ白な空間。
    夢でも見ているのかとボンヤリ考えていると、誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
    辺りを見渡すと遠くに蹲る人影が見える。
    その人影に近づくと、それに合わせて泣き声もはっきり聞こえてきた。
    ああ、この人が泣いているんだな。
    蹲るその人は、自分と同じか少し年下くらいだろうか。
    体を丸めて何かに怯えているように見えた。
    ーどうしたんだ?
    声を掛けると、蹲って泣いていた人物がビクリと肩を震わせて顔を上げた。
    ー助けて
    そう、声が聞こえた気がした。

    「ーーっ?!」

    フッと意識が急浮上したような感覚に襲われた。
    今のは夢か?
    自分に助けを求めていたあの人影は一体。
    少し上体を起こして時間を確認すると深夜2時を回ったところだった。
    時計から視線を外すと、同じタイミングでおそ松とチョロ松も目を覚ましていた。

    「すまない、起こしたか?」
    「いや、なんか変な夢見ただけだから。」
    「兄貴もか?奇遇だな俺もだ。」
    「更に奇遇なことに僕もなんだけど…ねぇ2人ともどんな夢見た?」

    驚いた事に3人揃って奇妙な夢を見て目が覚めたらしい。
    実はこういったことは過去にも何度かあった。
    一卵性故だろうか、たまに同じ夢を見ることがあるのだ。
    今回もそれだろう。
    そんなことを考えていた時だ。
    突然、頭の中に声が響いた。

    (ーけて、助けて!!)

    誰かの助けを呼ぶ声。
    おそ松とチョロ松を見ると、2人にも聞こえていたようで、目を丸くしている。
    突然の事に戸惑っている中、いち早く反応したのはチョロ松だった。

    (その声…トド松か?!)
    (やだ、兄さん、たすけて!たす、け…)
    (トド松?トド松!おい!何があった?!)

    ブツリ、とまるで通信が途切れるような音がした。
    チョロ松の様子からして、声の主は末弟のトド松なのだろう。
    寝起きの頭で必死に考える。
    確かトド松はテレパシーを使えた。
    そして、自分達3人にテレパシーを送れたのは一松が千里眼で夕刻に接触したチョロ松の居場所を把握できたからだろう。
    今はもう何も聞こえてこない。
    つまりトド松と一松のどちらか、あるいは両方が能力を使えない状態に追い込まれたのだ。
    突然の状況に頭が追いつかないが弟達が危機的状況に陥っていることは明らかだ。
    何にしろ、弟達が助けを求めてきたのだから行かなければ。

    「チョロ松、あいつらの処に飛べるか。」
    「軍事施設の部屋になら飛べる。2人ともつかまって。」
    「よっしゃ。ちょーっと予定が早まったけど、まぁやってやろうじゃん!気ぃ引き締めろよ!」
    「言われなくても!」

    おそ松とチョロ松も当然思いは同じようで。
    おそ松とカラ松がチョロ松の肩に手を置いたのを確認すると、チョロ松が瞬間移動を発動した。
    焼きナス
  • 生き別れた六つ子が 承 #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・今のところ兄弟愛
     腐ではありませんがこの先どうなるかわかりません
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.J

    昨日、変な夢を見た。
    自分達にそっくりな、けれど別人の3人が出てくる夢。
    自分達は3人兄弟。顔もそっくり。同じ顔が既に3人揃っているのに、更にまだ同じ顔が存在するのだろうか?
    十四松は施設内のバッティングセンターでバットを振るいながら考えた。
    夢の事は、信頼を置く兄と弟にも話した。
    いつも見える未来の出来事は怖いものばかりだけど、昨日見た夢は怖くなかった。
    それどころか、何故だか懐かしい気持ちになった。
    それが嬉しくて夢の話をすると、兄弟はよかったね、と笑ってくれた。
    夢に出てきたあの人達は誰なんだろう。
    もう一度見てみたい。昨日は話しかけようとした直前で目が覚めてしまったから、
    次に見れた時は思い切って話しかけてみようか。
    でもなんて話しかけたらいいだろう。
    後で一松兄さんとトド松に相談してみよう。
    特大ホームランが打てたことに満足して、バッティングセンターを後にする。
    チラリと壁に掛かる時計を見やると、5時過ぎをさしていた。
    自分も、兄も弟も窓の無いこの施設から滅多に外に出ないため、時間の感覚が鈍い。
    陽の光も月明かりも、もう何年も浴びていない。
    常に快適な温度と湿度に保たれている屋内に身を置いているせいで
    季節の移り変わりとか、暑い寒いなんて感覚もとうの昔に忘れてしまった。
    時計が指し示す時刻だけが1日の流れを追う情報だ。

    そろそろ部屋に戻ろう。一松兄さんとトド松にホームランの報告をしなくては。
    軽やかな足取りで十四松は己に割り当てられた部屋へと向かった。

    白一色の長い廊下を進み、角を曲がったところで、グラリと視界が揺らいだ。
    思わず壁に手をついてしゃがみ込む。
    頭の中に何かが流れ込んでくる。ああ、またこれから起こる事を見てるのか。
    気持ち悪さにぎゅっと目を瞑り、頭の中で上映される映像を見ることに集中した。

    (いまの、は…)

    十四松は自分の中に流れ込んだ映像に身を守るようにして腕を組んだ。
    指先がカタカタと震えている。寒くなんてないはずなのに、背筋がゾワリとした。
    よろめくようにして立ち上がり、呼吸を整えると、今度は全速力で走り出した。

    部屋の扉を乱暴に開け、ベッドで眠っている兄とその傍らに座り驚いた顔でこちらを振り返った弟にめがけて飛び付いた。
    トド松の小さな呻き声が聞こえたが、今はかまっていられない。後で謝ろう。

    (ど、どうしたの?十四松兄さん!?)
    (十四松…?)

    脳内に一松とトド松の声が響く。
    その声に安心して、ボロボロと涙が溢れ出した。

    (十四松、泣いてるの?)
    (大丈夫?十四松兄さん。)

    突然泣き出した十四松を心配して、トド松がこちらにやってきてピタリとくっつくようにして横に寄り添った。
    一松は眠気で力の抜けた身体をなんとか動かし、十四松の頭にポンと手を置く。
    一松もトド松も、十四松が予知で何か恐ろしい光景を見たであろうことを察していた。
    2人から感じた体温にどうしようもなく安心して、ますます涙が溢れ出る。

    (十四松…大丈夫、大丈夫。)
    (うん、大丈夫だよ。十四松兄さん。)

    一松もトド松も大丈夫、と繰り返し十四松の頭を撫で続けた。
    やがて落ち着きを取り戻した十四松はたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。

    (たぶんだけど、3ヶ月くらい先の未来だと思う。
     でも、おれ、これを一松兄さんとトド松に見てほしくないんだ。
     だけど、本当にこうなったらいやだから…、やっぱり見てもらった方がいいんだと思う。)
    (何か、覚悟が要りそうだけど、大丈夫だよ。見せて!十四松兄さん1人で抱え込むことないんだよ?)
    (ん。大丈夫、僕にも見せて。)
    (わかった…。)

    意識を集中し、先ほど自分が見た映像をトド松のテレパシーに乗せる。
    トド松が青ざめたのが分かった。
    眠る一松の表情は分からない。
    十四松が予知した未来、そこに映るのは頭から血を流し、床に倒れ伏す一松と
    その上に重なるように倒れ意識を失っているトド松の姿だった。
    場所は自分達がよく休息に訪れる施設内の温室のようだ。
    この研究施設の中で唯一、人工的とはいえ緑豊かな場所だが
    緑は灰と化し赤々とした炎に包まれていた。

    (えー…なんだろこれ。もしかして僕死んでる??)
    (一松兄さん!なんでそんな冷静なの?!少しは慌ててよ!!)
    (いや…十分ビックリしてるから…。
     あまりにもビックリし過ぎて反応できなかっただけだから…。
     それよりこの場所…温室、だよね…?)
    (あ、うん…。そうみたいだね。なんか周り燃えてるし…火事でも起こるのかな?)
    (火事はともかく、なんで僕頭に怪我してるんだろう。トド松は、怪我はないみたいだけど…。)
    (わかんない!でも、こわかった!一松兄さんとトド松がいなくなっちゃうの、おれやだよ!)
    (十四松、大丈夫。こうして未来を知ることができたんだから、防ぐこともできるはず。
     僕も怪我はしたくないし。)
    (そうだよ、十四松兄さん!僕だってこんなのに巻き込まれるなんてゴメンだからね!)
    (とにかく、情報を集めよう。
     まだ手掛かりが少なくて何が起ころうとしてるのか分からない。)
    (了解!僕は担当の研究員に予知内容を報告してくる。)
    (じゃあトド松といっしょに行くー!)
    (ん。行ってらっしゃい。僕も周り見てくる。)

    トド松と共に部屋を後にする。
    左手にトド的の手をしっかり握って、いつも自分達の投薬やら検査やらをしている研究員にトド松が手短に予知を伝えた。
    一応、ここにいる以上こうして予知したことには報告義務があるのだ。
    なんか、温室で火事が起きるみたいですよー、とだけ伝えて
    一松とトド松がそこに倒れていた事はなんとなく伏せておいた。
    報告を終えて、今度は温室に向かう。
    予知で見た場所はここだから、この場所に来ればより詳しく未来が見れるかもしれない。
    十四松の予知能力は先ほどのように唐突に未来が見えることがほとんどだが
    意識を集中して自分から未来を覗き見ることも可能であった。
    もっとも、成功率は3割程度である。
    トド松と繋いだ手はそのままに、目を閉じて未来を見ようとする。
    …が、今日は不発だったようだ。

    (うーん…、ダメだ見えないっす…。)
    (そっか〜。さっき突然予知したんだもん、きっと疲れちゃってるんだよ。)
    (そーなのかなぁ…)
    (そんな落ち込まないで、十四松兄さん。
     1日に何回も怖いもの見ることないよ。明日また来よう?)
    (うん、そだねー。)

    再び部屋に戻ると、一松がうっすらと目を開けていた。
    現在時刻は6時半過ぎ。ちょうどいい、このまま夕食にしよう。
    わっしょい!と掛け声をあげて一松を抱き上げるとそのまま車椅子に乗せ
    左手でトド松の手を握り、右手で車椅子を押して食堂へ向かった。
    1日の大半を睡眠に取られている一松は、当然身体を動かすということをしない。
    使われることのない身体は体力も筋力も無いに等しい。
    歩くことさえままならないのだが、なんとか腕の力は残っているようで、自分で食事を摂ることはできる。
    目が見えない、耳が聞こえないトド松もやはり1人きりで食事をするのは困難だ。
    日常生活において2人の手助けをするのは十四松の役目だ。
    3人での食事の時間は好きだった。
    普段眠っているせいで滅多に見れない一松の瞳を見ることができるしー 眠そうな半目状態だけど ー
    トド松も楽しそうにしているから。
    それに、2人を手助けしながらお礼を言ってもらえて
    必要とされていることを実感できて嬉しいから。
    2人のことは、自分がぜったいに守らなければ。
    彼らの姿を見る度に毎回思う。

    (ちょっと厄介なことが起こりそうかも…)

    食事を終えて部屋に戻り、そろそろ眠ろうか、という時に一松がポツリと呟いた。
    一松は部屋に戻る前にまた眠ってしまっていたが、千里眼で各地を見ていたようだ。
    その声音は焦りを含んでいた。

    (なんか敵国がこの国の研究機関を狙ってるっぽいんだけど。)
    (えぇっ?!)
    (何それ、え、てか、なんで今更?!)

    しつこいようだが、今、世は世界大戦真っ只中。
    研究施設など、真っ先に狙われそうなところだ。
    だからこそ研究施設の住所は公になっていない。
    が、超常現象と超能力者を研究するこの機関はあまりに非現実的で問題視されてこなかったのだろう。
    事実、今まで研究所が意図的に狙われたという記録はない。
    トド松が今更何故と疑問視するのも分かる。

    一松の話によると、十四松の予知を受け何か手掛かりがないかと能力を駆使して世界を見渡していたところ、
    隣国の軍事施設で何やら会議をしている様子が見えたらしい。
    この国を狙っている、と一松が判断したのは話し合いの中で広げられていた
    この国の地図と見覚えのある研究所の外観の写真だった。

    (人体兵器…。)
    (え…。)

    (僕達みたいに人体実験されて、でも僕達みたいな諜報活動じゃなくて
     戦場で兵器として戦っている実験体がいるみたい。)
    (じんたいへいき?)
    (うん。今まで歯牙にもかけてなかったみたいだけど、
     どうも最近その人体兵器が結構な脅威になってきてるっぽい。
     他にも色々話してるけど、隣国の言語そこまで詳しくないから…
     ここまで理解するのが精一杯だった。)
    (それで、生産元である研究所と超能力者の排除に乗り出そうとしてるってワケね、理解。)
    (ねえねえ!それ、おれが見た、おんしつのアレ!かじ!かじとかんけーあるのかな?!)
    (関係してる可能性は否定できないね、まだなんとも言えないけどさ。)

    もしここが狙われたらまずい。
    十四松はともかく、一松とトド松は1人では満足に動くことができない。
    何かあったら、何に変えても自分が2人を守らなければ。
    これから起こるかもしれない事態を思い
    十四松は長く伸びた袖の中で己の拳をぎゅっと握りしめ、1人改めて心に誓った。
    結局、夕方のホームランの報告なんて、できやしなかった。

    ーーー

    side.O

    新しい朝がきた。希望の朝だ。
    あれ、これなんの歌だっけ。
    とりあえずある意味希望の朝ではあるが別に毎朝ラジオ体操しているワケではない。
    昨日、幼い頃から囚われていた研究所からの脱出を果たし、ようやく弟達を探しに行けるようになった。
    探すといっても手掛かりなど無いに等しい。全国に散らばる研究所を調べていくくらいしか方法はない。
    昨晩、チョロ松がここから近い研究所を調べてくれて、翌朝早速隣県まで移動していた。
    が、問題はここからだ。
    自分達は戦場を引っ掻き回す兵器として生きてきた。
    しかし研究所でむやみやたらに暴れるワケにはいかない。
    できれば見つからないように侵入し、情報だけを持ち帰りたいのだが
    生憎自分は完全な切り込み隊長最前線戦闘型で隠密行動は非常に不向きだ。
    ここは応用がきくカラ松と瞬間移動ができるチョロ松にまかせる他なさそうだ。
    単純な戦闘なら独断場なのだが。
    なんとも歯痒い限りである。

    「それじゃ、ひとまず侵入できそうなら探ってくる。大人しくしててよ?」
    「おー頼んだぞー。ドンパチ必要ならすぐ呼べよ!」
    「そんな事態にならないよう心掛ける。」

    最寄駅でホテルを取り、もう一度研究所の場所を念入りに確認しながらチョロ松は拳銃を懐に忍ばせた。
    一応持っておいて、とカラ松にも1つ手渡す。
    チョロ松は能力的には攻撃型ではない。
    瞬間移動を駆使して銃弾を素早く打ち込むのが彼の戦い方だ。
    3人の中では比較的隠密やサポート寄りではあるものの
    基本チョロ松も上2人と同じく兵器として扱われてきたため、隠密行動が専門なわけではないが
    見つからずに移動するのは容易いだろう。
    カラ松とチョロ松が出て行くと、途端に部屋は静寂に支配された。
    さて、このまま部屋にいるのも暇だ。
    2人の気配が完全に消えたことを確認して、おそ松も部屋を後にした。

    街へ繰り出し、適当に散策する。
    割と賑わっているようだ。
    スーパーもコンビニもあるし、ファミレスも発見した。
    ドラッグストアもある。2人が帰ってきたらこの辺りで買い物でもしよう。
    あ、電気屋もあるな。中古でいいから携帯が欲しいところだ。
    そんなことを考えながらあてもなく歩を進める。
    ふと思い出すのは弟達のこと。
    いや、今研究所へ向かっている2人ではない。
    カラ松とチョロ松はもはや相棒と呼ぶべき、けれどおそ松にとっては大切な弟だ。
    2人には絶対の信頼を置いている。心配せずとも大丈夫だろう。
    おそ松が思い出したのはもう何年も会っていない下の弟達のことだ。
    六つ子が誘拐されたあの日、大人相手に引き離された下3人に何も出来なかったことを今でも悔やんでいた。
    何も出来なかった。
    六つ子とはいえ、自分は兄なのに。
    弟を守らなければならない立場なのに。
    だから、今一緒にいるカラ松とチョロ松は絶対に自分が守らなければ。
    そして、一松、十四松、トド松の3人も必ず取り返してみせる。

    1人になると無駄に考え事が増えていけない。
    パチ屋にでも行ってこようか。後でチョロ松にどやされそうだが。

    「おいコラ、クソ長男!てめぇ俺たちが偵察行ってる間にパチ回してやがったなコラ!!」
    「やーんチョロ松くんこわ〜い!メンゴ☆」
    「やめろ全く可愛くないわ。」
    「ははは!こうして飯買ってきてやったんだから許してくれってー。」

    適当に切り上げてホテルに戻ると、カラ松とチョロ松は既に戻って来ていた。
    そして予想通りチョロ松に叱られている真っ最中である。
    普段は頭で熟考してから言葉を発するようにしているチョロ松だが、キレたときはこれである。
    お前ヤンキーかよ。
    ちなみにカラ松はそんな2人のやり取りを眺めながら
    おそ松が買ってきたおにぎりやら唐揚げやらを口に運んでいた。
    口をモグモグ動かしながらほどほどにしておけよ、などと宣っている。止める気はないようだ。
    唐揚げがもうすぐなくなりそうな勢いである。

    「あっ!おいカラ松!お前1人で唐揚げ食い過ぎだっての!」
    「フッ…すまない、兄さん…このジューシーな唐揚げ達が俺に食べてくれと囁いていt
    「カラ松もうそれ以上食べないでよ。」あ、ハイ。」

    ペリペリとコンビニおにぎりのフィルムをはがしながら
    おそ松は備え付けのソファに腰を下ろし、それで?と2人を見やる。
    その視線にチョロ松はため息を吐きながらも偵察の報告をしてくれた。

    「結論から言うとハズレ。一松達はいなかった。」
    「うん、まぁそーだろうな。そんな簡単に見つかったらお兄ちゃんビックリだわ。」
    「出入り口は当たり前だけど全て厳重なロックが掛かってた。
     窓もないし非常口も見当たらなかったから、ちょっとその辺歩いてた下っ端研究員に気絶してもらって、カードを奪って入ったよ。
     あ、帰る時にちゃんと返してあげたから大丈夫。」
    「中は俺たちがいた研究所と造りが似ていたな。
     資料室を漁ってみたり、モニタールーム張ってみたりしたんだが、
     あの研究所は人体実験よりも超常現象の研究が専門のようだ。」
    「そうだ、1つ収穫。資料室で他の研究所の詳細を取ってこれた。
     これで人体実験を行っている施設に絞り込める。」
    「お!そりゃありがてぇな!」

    研究所は全国に散らばっているのだ。
    そこから候補を絞り込めるのは大分ありがたい。

    「あと…」
    「ん?」
    「当然っちゃ当然なんだけど、僕らが脱走したことは既に知れ渡ってた。」
    「これから追手が来ることも考えられるな。俺たちは一応人体兵器の成功例らしいから。」
    「なるほどね。迂闊に外出できねーな。」
    「あまり顔を見られないようにした方がいいかもね。」

    脱走が研究機関全体に知れ渡るのは想定の範囲内だ。
    この先、連れ戻そうとする追手を撒きながら弟達を探していく必要がある。
    だがこちらは弾丸飛び交う戦場を何度も経験しているのだ。
    絶対に捕まってやるものか。
    火傷の痕が残る右腕を軽くさすり、1人決意を新たにした。

    ーーー

    side.I

    今は昼なのだろうか。夜なのだろうか。季節は?外の気温は?
    脳内に流れ込んでくる映像で、朝日を見ることもできるし、日没も確認できる。
    季節の移り変わりも理解できる。
    理解できるだけだ。それを肌で感じるということは、もう何年もしていない。
    日々の生活をほぼ睡眠に支配されている一松は同年代の平均に比べるとかなり華奢で、肌も病的なまでに白い。
    似たような環境に身を置いているトド松もやはり華奢で色白だ。
    身体を動かすのが好きな十四松は肌は白いにしてもその身体には程よく筋肉が付き2人よりは健康的だ。
    あくまでも2人に比べて、である。
    そんな明らさまにひ弱な自分の姿が一松は死ぬ程嫌いだった。
    不吉な予知や情報がいくつも重なり、これから何か起ころうとしているのは明らかだ。
    最悪の事態になったとしても、弟だけは守ってやらなければ。
    けれど今の自分はどうだ。弱々しい身体に眠り続けるしかない体たらく。
    身体を張って守ることなど不可能だ。
    自分で歩くことすら出来ない。結局十四松とトド松に助けてもらってばかりいる。
    それでも、2人の事は守らなければ。
    せめて、己の能力で極力2人を危険から遠ざけなければ。

    ここ2、3日の間にどうも各所で事件が起こっている。
    まず弟の十四松が不思議な夢を見た。
    そしてその後、不吉な予知をした。
    さらに、敵国がこの国の研究所を狙っているらしいことが判明した。
    そしてもう1つの新情報。

    (実験体が脱走?!)
    (うん、どこか別の研究所で人体実験されていた実験体3体が、研究所を壊滅させて脱走したって。)
    (それって、前に一松兄さんがいってたじっけんたいさんのこと?
     えーと、てきがちょっとこわがってるやつ??)
    (多分ね。だとすると敵国にとって脅威になりつつあった人体兵器が逃げちゃったってことになるな。)
    (それ、いつのことなの?)
    (研究員達の会話からすると3日前のことかな。
     僕らと違って兵器として実験体になってたから、まぁ脱走くらいワケなかったんじゃない。)
    (ひょー!かいめつさせちゃうとかスゲー!かっけー!これはヤバイっすな一松兄さん!!)
    (せやな〜十四松さん。)
    (言ってる場合?!その、脱走って一体何の目的があって?)
    (さぁ…。さすがにそこまでは分からない。)

    今ある情報を整理しよう。
    まず、十四松が予知した温室の火事。
    赤い炎に包まれた温室で、一松とトド松が倒れていた。
    そして、敵国が研究所を狙っているという話。
    人体兵器が脅威になりつつあるため、排除に乗り出したようだ。
    しかし、その人体兵器はどうやら3日前に逃走。
    さらに、十四松が夢で見た、自分達の事を探していた、自分達にそっくりな3人。
    もしかして、もしかして…。
    まさか、脱走した実験体は、あの日生き別れた…?

    部屋の中に視点を切り替えると、トド松も同じことを考えていたようだ。
    少し表情が固い。
    兄達が探してくれているのはありがたい。
    ありがたいし嬉しいが、一松はついて行こうとは考えていなかった。
    会いたくないわけではない。むしろどちらかというと会いたい。とても会いたい。
    でも自分達は、いや、自分は満足に1人の人として生きることすら出来ていない。
    一緒にいてもただの足手まといにしかならない。
    足を引っ張るくらいなら一生ここで実験体になっていた方がいい。
    あぁ、でも十四松とトド松は救ってやってほしいかな。
    兄の記憶がない十四松が心配だが、トド松が一緒なら大丈夫だろう。
    十四松の夢は探しているだけだった。
    見つけるところまでは見ていないのだから、再開できない可能性もあるわけだが
    兄達が自分らを見つけられずに終わるなら、十四松がわざわざこんな夢を見る意味がない。
    本当に近いうちに顔を合わせる日が来るかもしれない。

    そして温室の火事は敵国の攻撃である可能性が高そうだ。
    温室に行かないようにしても、おそらく別の場所で炎に包まれるだけだろう。
    万が一の脱出ルートだけでも把握しておこう。
    警戒するに越した事はない。
    最悪の事態になっても、十四松ならトド松を抱えて逃げることができるはずだ。
    なんなら自分が囮になってもいい。
    しかし、これだけだとまだ憶測の域だ。
    もう少し情報が欲しい。少し辺りを見回してこようか。
    そんなことを一松が考えていた時だった。

    (馬鹿なこと考えてないよね、一松兄さん。)
    (え、なに、トド松…。)
    (とぼけないでよ。隠したって無駄なんだからね!)
    (あのねあのね!
     おれ、一松兄さんとトド松とふたりもってはしれるよ!
     まいにちトレーニングしてる!!)
    (一松兄さんの悪いクセだよ。
     自己犠牲なんて許さないからね?そんなことしたら末代まで呪ってやるから。)
    (ヒヒッ…トッティ怖…。)
    (トッティこえーな!)
    (トッティ呼びやめぃ!)
    (…………ありがと。十四松、トッティ)
    (わかってくれたならいーの。でもトッティはやめろ。)

    トド松にも十四松にも考えていた事かわバレていたようで、
    内心やっぱり隠し事はできないんだな、と小さくため息をついた。
    自分を案じてくれたことに素直に礼を伝えると、
    トド松はにっこり笑ってとーぅ、と一松の腕にじゃれるようにしがみついてきた。
    それを見て十四松がおれもー!と反対側の腕にくっつく。
    あんな予知を見たばかりだ、少し不安にさせてしまったのかもしれない。

    (とにかくもうちょい情報が欲しいな。
     僕ちょっと見回ってくる。トド松は報告頼む。)
    (わかった。)
    (兄さんいってらー!)

    気持ちを落ち着かせて、一松は脳内に溢れる映像の中に意識を沈めていった。
    さて、どこから見ていこうか。
    やはり敵国からか。
    付け焼き刃だが隣国の言語を少し勉強しておいた。
    前より会話が聞き取れるといいのだが。

    敵国の軍事施設の会議室にはちょうど幹部クラスらしき人影が見えた。
    なんとか会話が聞き取れた。

    『隣国の能力者研究所への攻撃はどうする。』
    『手始めにH市にあるこの施設を狙う。
     研究所に火を放ち、研究員、人体兵器、被験者もろとも潰せ。
     抵抗した者は殺して構わない。
    決行はx月xx日 10:00より。』
    『了解。』

    いきなり機密情報をゲットしてしまった。
    おいおいマジか。
    こうも簡単に手に入れられるとは思っていなかったため拍子抜けだ。
    しかし、ターゲットにされている研究所は紛れもなく今一松達がいる場所だ。
    しかも、火を放て。と言っていたから十四松が予知した温室の火事はやはり敵国の攻撃なのだろう。
    頭から血を流していたのはよくわからないが。いずれにせよ黙ってやられる気はない。
    ここが火の海にされるのが分かっているなら、ここから離れるのが賢明だ。
    担当研究員に自分の投薬回数を倍にしていいから、と懇願すれば避難くらいさせてもらえるだろう。

    頭の中で逃げるための算段を組み立てながらも、一松は言い知れない恐怖を感じていた。
    これから何が起ころうとしているのだろう。不安を拭うように一松は世界を見渡した。
    #おそ松さん #能力松 #二次創作 ##生き別れた六つ子が

    !注意!
    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・今のところ兄弟愛
     腐ではありませんがこの先どうなるかわかりません
    ・色々と矛盾ありそう
    ・誤字脱字はスルーしたってください

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    side.J

    昨日、変な夢を見た。
    自分達にそっくりな、けれど別人の3人が出てくる夢。
    自分達は3人兄弟。顔もそっくり。同じ顔が既に3人揃っているのに、更にまだ同じ顔が存在するのだろうか?
    十四松は施設内のバッティングセンターでバットを振るいながら考えた。
    夢の事は、信頼を置く兄と弟にも話した。
    いつも見える未来の出来事は怖いものばかりだけど、昨日見た夢は怖くなかった。
    それどころか、何故だか懐かしい気持ちになった。
    それが嬉しくて夢の話をすると、兄弟はよかったね、と笑ってくれた。
    夢に出てきたあの人達は誰なんだろう。
    もう一度見てみたい。昨日は話しかけようとした直前で目が覚めてしまったから、
    次に見れた時は思い切って話しかけてみようか。
    でもなんて話しかけたらいいだろう。
    後で一松兄さんとトド松に相談してみよう。
    特大ホームランが打てたことに満足して、バッティングセンターを後にする。
    チラリと壁に掛かる時計を見やると、5時過ぎをさしていた。
    自分も、兄も弟も窓の無いこの施設から滅多に外に出ないため、時間の感覚が鈍い。
    陽の光も月明かりも、もう何年も浴びていない。
    常に快適な温度と湿度に保たれている屋内に身を置いているせいで
    季節の移り変わりとか、暑い寒いなんて感覚もとうの昔に忘れてしまった。
    時計が指し示す時刻だけが1日の流れを追う情報だ。

    そろそろ部屋に戻ろう。一松兄さんとトド松にホームランの報告をしなくては。
    軽やかな足取りで十四松は己に割り当てられた部屋へと向かった。

    白一色の長い廊下を進み、角を曲がったところで、グラリと視界が揺らいだ。
    思わず壁に手をついてしゃがみ込む。
    頭の中に何かが流れ込んでくる。ああ、またこれから起こる事を見てるのか。
    気持ち悪さにぎゅっと目を瞑り、頭の中で上映される映像を見ることに集中した。

    (いまの、は…)

    十四松は自分の中に流れ込んだ映像に身を守るようにして腕を組んだ。
    指先がカタカタと震えている。寒くなんてないはずなのに、背筋がゾワリとした。
    よろめくようにして立ち上がり、呼吸を整えると、今度は全速力で走り出した。

    部屋の扉を乱暴に開け、ベッドで眠っている兄とその傍らに座り驚いた顔でこちらを振り返った弟にめがけて飛び付いた。
    トド松の小さな呻き声が聞こえたが、今はかまっていられない。後で謝ろう。

    (ど、どうしたの?十四松兄さん!?)
    (十四松…?)

    脳内に一松とトド松の声が響く。
    その声に安心して、ボロボロと涙が溢れ出した。

    (十四松、泣いてるの?)
    (大丈夫?十四松兄さん。)

    突然泣き出した十四松を心配して、トド松がこちらにやってきてピタリとくっつくようにして横に寄り添った。
    一松は眠気で力の抜けた身体をなんとか動かし、十四松の頭にポンと手を置く。
    一松もトド松も、十四松が予知で何か恐ろしい光景を見たであろうことを察していた。
    2人から感じた体温にどうしようもなく安心して、ますます涙が溢れ出る。

    (十四松…大丈夫、大丈夫。)
    (うん、大丈夫だよ。十四松兄さん。)

    一松もトド松も大丈夫、と繰り返し十四松の頭を撫で続けた。
    やがて落ち着きを取り戻した十四松はたどたどしく言葉を紡ぎ始めた。

    (たぶんだけど、3ヶ月くらい先の未来だと思う。
     でも、おれ、これを一松兄さんとトド松に見てほしくないんだ。
     だけど、本当にこうなったらいやだから…、やっぱり見てもらった方がいいんだと思う。)
    (何か、覚悟が要りそうだけど、大丈夫だよ。見せて!十四松兄さん1人で抱え込むことないんだよ?)
    (ん。大丈夫、僕にも見せて。)
    (わかった…。)

    意識を集中し、先ほど自分が見た映像をトド松のテレパシーに乗せる。
    トド松が青ざめたのが分かった。
    眠る一松の表情は分からない。
    十四松が予知した未来、そこに映るのは頭から血を流し、床に倒れ伏す一松と
    その上に重なるように倒れ意識を失っているトド松の姿だった。
    場所は自分達がよく休息に訪れる施設内の温室のようだ。
    この研究施設の中で唯一、人工的とはいえ緑豊かな場所だが
    緑は灰と化し赤々とした炎に包まれていた。

    (えー…なんだろこれ。もしかして僕死んでる??)
    (一松兄さん!なんでそんな冷静なの?!少しは慌ててよ!!)
    (いや…十分ビックリしてるから…。
     あまりにもビックリし過ぎて反応できなかっただけだから…。
     それよりこの場所…温室、だよね…?)
    (あ、うん…。そうみたいだね。なんか周り燃えてるし…火事でも起こるのかな?)
    (火事はともかく、なんで僕頭に怪我してるんだろう。トド松は、怪我はないみたいだけど…。)
    (わかんない!でも、こわかった!一松兄さんとトド松がいなくなっちゃうの、おれやだよ!)
    (十四松、大丈夫。こうして未来を知ることができたんだから、防ぐこともできるはず。
     僕も怪我はしたくないし。)
    (そうだよ、十四松兄さん!僕だってこんなのに巻き込まれるなんてゴメンだからね!)
    (とにかく、情報を集めよう。
     まだ手掛かりが少なくて何が起ころうとしてるのか分からない。)
    (了解!僕は担当の研究員に予知内容を報告してくる。)
    (じゃあトド松といっしょに行くー!)
    (ん。行ってらっしゃい。僕も周り見てくる。)

    トド松と共に部屋を後にする。
    左手にトド的の手をしっかり握って、いつも自分達の投薬やら検査やらをしている研究員にトド松が手短に予知を伝えた。
    一応、ここにいる以上こうして予知したことには報告義務があるのだ。
    なんか、温室で火事が起きるみたいですよー、とだけ伝えて
    一松とトド松がそこに倒れていた事はなんとなく伏せておいた。
    報告を終えて、今度は温室に向かう。
    予知で見た場所はここだから、この場所に来ればより詳しく未来が見れるかもしれない。
    十四松の予知能力は先ほどのように唐突に未来が見えることがほとんどだが
    意識を集中して自分から未来を覗き見ることも可能であった。
    もっとも、成功率は3割程度である。
    トド松と繋いだ手はそのままに、目を閉じて未来を見ようとする。
    …が、今日は不発だったようだ。

    (うーん…、ダメだ見えないっす…。)
    (そっか〜。さっき突然予知したんだもん、きっと疲れちゃってるんだよ。)
    (そーなのかなぁ…)
    (そんな落ち込まないで、十四松兄さん。
     1日に何回も怖いもの見ることないよ。明日また来よう?)
    (うん、そだねー。)

    再び部屋に戻ると、一松がうっすらと目を開けていた。
    現在時刻は6時半過ぎ。ちょうどいい、このまま夕食にしよう。
    わっしょい!と掛け声をあげて一松を抱き上げるとそのまま車椅子に乗せ
    左手でトド松の手を握り、右手で車椅子を押して食堂へ向かった。
    1日の大半を睡眠に取られている一松は、当然身体を動かすということをしない。
    使われることのない身体は体力も筋力も無いに等しい。
    歩くことさえままならないのだが、なんとか腕の力は残っているようで、自分で食事を摂ることはできる。
    目が見えない、耳が聞こえないトド松もやはり1人きりで食事をするのは困難だ。
    日常生活において2人の手助けをするのは十四松の役目だ。
    3人での食事の時間は好きだった。
    普段眠っているせいで滅多に見れない一松の瞳を見ることができるしー 眠そうな半目状態だけど ー
    トド松も楽しそうにしているから。
    それに、2人を手助けしながらお礼を言ってもらえて
    必要とされていることを実感できて嬉しいから。
    2人のことは、自分がぜったいに守らなければ。
    彼らの姿を見る度に毎回思う。

    (ちょっと厄介なことが起こりそうかも…)

    食事を終えて部屋に戻り、そろそろ眠ろうか、という時に一松がポツリと呟いた。
    一松は部屋に戻る前にまた眠ってしまっていたが、千里眼で各地を見ていたようだ。
    その声音は焦りを含んでいた。

    (なんか敵国がこの国の研究機関を狙ってるっぽいんだけど。)
    (えぇっ?!)
    (何それ、え、てか、なんで今更?!)

    しつこいようだが、今、世は世界大戦真っ只中。
    研究施設など、真っ先に狙われそうなところだ。
    だからこそ研究施設の住所は公になっていない。
    が、超常現象と超能力者を研究するこの機関はあまりに非現実的で問題視されてこなかったのだろう。
    事実、今まで研究所が意図的に狙われたという記録はない。
    トド松が今更何故と疑問視するのも分かる。

    一松の話によると、十四松の予知を受け何か手掛かりがないかと能力を駆使して世界を見渡していたところ、
    隣国の軍事施設で何やら会議をしている様子が見えたらしい。
    この国を狙っている、と一松が判断したのは話し合いの中で広げられていた
    この国の地図と見覚えのある研究所の外観の写真だった。

    (人体兵器…。)
    (え…。)

    (僕達みたいに人体実験されて、でも僕達みたいな諜報活動じゃなくて
     戦場で兵器として戦っている実験体がいるみたい。)
    (じんたいへいき?)
    (うん。今まで歯牙にもかけてなかったみたいだけど、
     どうも最近その人体兵器が結構な脅威になってきてるっぽい。
     他にも色々話してるけど、隣国の言語そこまで詳しくないから…
     ここまで理解するのが精一杯だった。)
    (それで、生産元である研究所と超能力者の排除に乗り出そうとしてるってワケね、理解。)
    (ねえねえ!それ、おれが見た、おんしつのアレ!かじ!かじとかんけーあるのかな?!)
    (関係してる可能性は否定できないね、まだなんとも言えないけどさ。)

    もしここが狙われたらまずい。
    十四松はともかく、一松とトド松は1人では満足に動くことができない。
    何かあったら、何に変えても自分が2人を守らなければ。
    これから起こるかもしれない事態を思い
    十四松は長く伸びた袖の中で己の拳をぎゅっと握りしめ、1人改めて心に誓った。
    結局、夕方のホームランの報告なんて、できやしなかった。

    ーーー

    side.O

    新しい朝がきた。希望の朝だ。
    あれ、これなんの歌だっけ。
    とりあえずある意味希望の朝ではあるが別に毎朝ラジオ体操しているワケではない。
    昨日、幼い頃から囚われていた研究所からの脱出を果たし、ようやく弟達を探しに行けるようになった。
    探すといっても手掛かりなど無いに等しい。全国に散らばる研究所を調べていくくらいしか方法はない。
    昨晩、チョロ松がここから近い研究所を調べてくれて、翌朝早速隣県まで移動していた。
    が、問題はここからだ。
    自分達は戦場を引っ掻き回す兵器として生きてきた。
    しかし研究所でむやみやたらに暴れるワケにはいかない。
    できれば見つからないように侵入し、情報だけを持ち帰りたいのだが
    生憎自分は完全な切り込み隊長最前線戦闘型で隠密行動は非常に不向きだ。
    ここは応用がきくカラ松と瞬間移動ができるチョロ松にまかせる他なさそうだ。
    単純な戦闘なら独断場なのだが。
    なんとも歯痒い限りである。

    「それじゃ、ひとまず侵入できそうなら探ってくる。大人しくしててよ?」
    「おー頼んだぞー。ドンパチ必要ならすぐ呼べよ!」
    「そんな事態にならないよう心掛ける。」

    最寄駅でホテルを取り、もう一度研究所の場所を念入りに確認しながらチョロ松は拳銃を懐に忍ばせた。
    一応持っておいて、とカラ松にも1つ手渡す。
    チョロ松は能力的には攻撃型ではない。
    瞬間移動を駆使して銃弾を素早く打ち込むのが彼の戦い方だ。
    3人の中では比較的隠密やサポート寄りではあるものの
    基本チョロ松も上2人と同じく兵器として扱われてきたため、隠密行動が専門なわけではないが
    見つからずに移動するのは容易いだろう。
    カラ松とチョロ松が出て行くと、途端に部屋は静寂に支配された。
    さて、このまま部屋にいるのも暇だ。
    2人の気配が完全に消えたことを確認して、おそ松も部屋を後にした。

    街へ繰り出し、適当に散策する。
    割と賑わっているようだ。
    スーパーもコンビニもあるし、ファミレスも発見した。
    ドラッグストアもある。2人が帰ってきたらこの辺りで買い物でもしよう。
    あ、電気屋もあるな。中古でいいから携帯が欲しいところだ。
    そんなことを考えながらあてもなく歩を進める。
    ふと思い出すのは弟達のこと。
    いや、今研究所へ向かっている2人ではない。
    カラ松とチョロ松はもはや相棒と呼ぶべき、けれどおそ松にとっては大切な弟だ。
    2人には絶対の信頼を置いている。心配せずとも大丈夫だろう。
    おそ松が思い出したのはもう何年も会っていない下の弟達のことだ。
    六つ子が誘拐されたあの日、大人相手に引き離された下3人に何も出来なかったことを今でも悔やんでいた。
    何も出来なかった。
    六つ子とはいえ、自分は兄なのに。
    弟を守らなければならない立場なのに。
    だから、今一緒にいるカラ松とチョロ松は絶対に自分が守らなければ。
    そして、一松、十四松、トド松の3人も必ず取り返してみせる。

    1人になると無駄に考え事が増えていけない。
    パチ屋にでも行ってこようか。後でチョロ松にどやされそうだが。

    「おいコラ、クソ長男!てめぇ俺たちが偵察行ってる間にパチ回してやがったなコラ!!」
    「やーんチョロ松くんこわ〜い!メンゴ☆」
    「やめろ全く可愛くないわ。」
    「ははは!こうして飯買ってきてやったんだから許してくれってー。」

    適当に切り上げてホテルに戻ると、カラ松とチョロ松は既に戻って来ていた。
    そして予想通りチョロ松に叱られている真っ最中である。
    普段は頭で熟考してから言葉を発するようにしているチョロ松だが、キレたときはこれである。
    お前ヤンキーかよ。
    ちなみにカラ松はそんな2人のやり取りを眺めながら
    おそ松が買ってきたおにぎりやら唐揚げやらを口に運んでいた。
    口をモグモグ動かしながらほどほどにしておけよ、などと宣っている。止める気はないようだ。
    唐揚げがもうすぐなくなりそうな勢いである。

    「あっ!おいカラ松!お前1人で唐揚げ食い過ぎだっての!」
    「フッ…すまない、兄さん…このジューシーな唐揚げ達が俺に食べてくれと囁いていt
    「カラ松もうそれ以上食べないでよ。」あ、ハイ。」

    ペリペリとコンビニおにぎりのフィルムをはがしながら
    おそ松は備え付けのソファに腰を下ろし、それで?と2人を見やる。
    その視線にチョロ松はため息を吐きながらも偵察の報告をしてくれた。

    「結論から言うとハズレ。一松達はいなかった。」
    「うん、まぁそーだろうな。そんな簡単に見つかったらお兄ちゃんビックリだわ。」
    「出入り口は当たり前だけど全て厳重なロックが掛かってた。
     窓もないし非常口も見当たらなかったから、ちょっとその辺歩いてた下っ端研究員に気絶してもらって、カードを奪って入ったよ。
     あ、帰る時にちゃんと返してあげたから大丈夫。」
    「中は俺たちがいた研究所と造りが似ていたな。
     資料室を漁ってみたり、モニタールーム張ってみたりしたんだが、
     あの研究所は人体実験よりも超常現象の研究が専門のようだ。」
    「そうだ、1つ収穫。資料室で他の研究所の詳細を取ってこれた。
     これで人体実験を行っている施設に絞り込める。」
    「お!そりゃありがてぇな!」

    研究所は全国に散らばっているのだ。
    そこから候補を絞り込めるのは大分ありがたい。

    「あと…」
    「ん?」
    「当然っちゃ当然なんだけど、僕らが脱走したことは既に知れ渡ってた。」
    「これから追手が来ることも考えられるな。俺たちは一応人体兵器の成功例らしいから。」
    「なるほどね。迂闊に外出できねーな。」
    「あまり顔を見られないようにした方がいいかもね。」

    脱走が研究機関全体に知れ渡るのは想定の範囲内だ。
    この先、連れ戻そうとする追手を撒きながら弟達を探していく必要がある。
    だがこちらは弾丸飛び交う戦場を何度も経験しているのだ。
    絶対に捕まってやるものか。
    火傷の痕が残る右腕を軽くさすり、1人決意を新たにした。

    ーーー

    side.I

    今は昼なのだろうか。夜なのだろうか。季節は?外の気温は?
    脳内に流れ込んでくる映像で、朝日を見ることもできるし、日没も確認できる。
    季節の移り変わりも理解できる。
    理解できるだけだ。それを肌で感じるということは、もう何年もしていない。
    日々の生活をほぼ睡眠に支配されている一松は同年代の平均に比べるとかなり華奢で、肌も病的なまでに白い。
    似たような環境に身を置いているトド松もやはり華奢で色白だ。
    身体を動かすのが好きな十四松は肌は白いにしてもその身体には程よく筋肉が付き2人よりは健康的だ。
    あくまでも2人に比べて、である。
    そんな明らさまにひ弱な自分の姿が一松は死ぬ程嫌いだった。
    不吉な予知や情報がいくつも重なり、これから何か起ころうとしているのは明らかだ。
    最悪の事態になったとしても、弟だけは守ってやらなければ。
    けれど今の自分はどうだ。弱々しい身体に眠り続けるしかない体たらく。
    身体を張って守ることなど不可能だ。
    自分で歩くことすら出来ない。結局十四松とトド松に助けてもらってばかりいる。
    それでも、2人の事は守らなければ。
    せめて、己の能力で極力2人を危険から遠ざけなければ。

    ここ2、3日の間にどうも各所で事件が起こっている。
    まず弟の十四松が不思議な夢を見た。
    そしてその後、不吉な予知をした。
    さらに、敵国がこの国の研究所を狙っているらしいことが判明した。
    そしてもう1つの新情報。

    (実験体が脱走?!)
    (うん、どこか別の研究所で人体実験されていた実験体3体が、研究所を壊滅させて脱走したって。)
    (それって、前に一松兄さんがいってたじっけんたいさんのこと?
     えーと、てきがちょっとこわがってるやつ??)
    (多分ね。だとすると敵国にとって脅威になりつつあった人体兵器が逃げちゃったってことになるな。)
    (それ、いつのことなの?)
    (研究員達の会話からすると3日前のことかな。
     僕らと違って兵器として実験体になってたから、まぁ脱走くらいワケなかったんじゃない。)
    (ひょー!かいめつさせちゃうとかスゲー!かっけー!これはヤバイっすな一松兄さん!!)
    (せやな〜十四松さん。)
    (言ってる場合?!その、脱走って一体何の目的があって?)
    (さぁ…。さすがにそこまでは分からない。)

    今ある情報を整理しよう。
    まず、十四松が予知した温室の火事。
    赤い炎に包まれた温室で、一松とトド松が倒れていた。
    そして、敵国が研究所を狙っているという話。
    人体兵器が脅威になりつつあるため、排除に乗り出したようだ。
    しかし、その人体兵器はどうやら3日前に逃走。
    さらに、十四松が夢で見た、自分達の事を探していた、自分達にそっくりな3人。
    もしかして、もしかして…。
    まさか、脱走した実験体は、あの日生き別れた…?

    部屋の中に視点を切り替えると、トド松も同じことを考えていたようだ。
    少し表情が固い。
    兄達が探してくれているのはありがたい。
    ありがたいし嬉しいが、一松はついて行こうとは考えていなかった。
    会いたくないわけではない。むしろどちらかというと会いたい。とても会いたい。
    でも自分達は、いや、自分は満足に1人の人として生きることすら出来ていない。
    一緒にいてもただの足手まといにしかならない。
    足を引っ張るくらいなら一生ここで実験体になっていた方がいい。
    あぁ、でも十四松とトド松は救ってやってほしいかな。
    兄の記憶がない十四松が心配だが、トド松が一緒なら大丈夫だろう。
    十四松の夢は探しているだけだった。
    見つけるところまでは見ていないのだから、再開できない可能性もあるわけだが
    兄達が自分らを見つけられずに終わるなら、十四松がわざわざこんな夢を見る意味がない。
    本当に近いうちに顔を合わせる日が来るかもしれない。

    そして温室の火事は敵国の攻撃である可能性が高そうだ。
    温室に行かないようにしても、おそらく別の場所で炎に包まれるだけだろう。
    万が一の脱出ルートだけでも把握しておこう。
    警戒するに越した事はない。
    最悪の事態になっても、十四松ならトド松を抱えて逃げることができるはずだ。
    なんなら自分が囮になってもいい。
    しかし、これだけだとまだ憶測の域だ。
    もう少し情報が欲しい。少し辺りを見回してこようか。
    そんなことを一松が考えていた時だった。

    (馬鹿なこと考えてないよね、一松兄さん。)
    (え、なに、トド松…。)
    (とぼけないでよ。隠したって無駄なんだからね!)
    (あのねあのね!
     おれ、一松兄さんとトド松とふたりもってはしれるよ!
     まいにちトレーニングしてる!!)
    (一松兄さんの悪いクセだよ。
     自己犠牲なんて許さないからね?そんなことしたら末代まで呪ってやるから。)
    (ヒヒッ…トッティ怖…。)
    (トッティこえーな!)
    (トッティ呼びやめぃ!)
    (…………ありがと。十四松、トッティ)
    (わかってくれたならいーの。でもトッティはやめろ。)

    トド松にも十四松にも考えていた事かわバレていたようで、
    内心やっぱり隠し事はできないんだな、と小さくため息をついた。
    自分を案じてくれたことに素直に礼を伝えると、
    トド松はにっこり笑ってとーぅ、と一松の腕にじゃれるようにしがみついてきた。
    それを見て十四松がおれもー!と反対側の腕にくっつく。
    あんな予知を見たばかりだ、少し不安にさせてしまったのかもしれない。

    (とにかくもうちょい情報が欲しいな。
     僕ちょっと見回ってくる。トド松は報告頼む。)
    (わかった。)
    (兄さんいってらー!)

    気持ちを落ち着かせて、一松は脳内に溢れる映像の中に意識を沈めていった。
    さて、どこから見ていこうか。
    やはり敵国からか。
    付け焼き刃だが隣国の言語を少し勉強しておいた。
    前より会話が聞き取れるといいのだが。

    敵国の軍事施設の会議室にはちょうど幹部クラスらしき人影が見えた。
    なんとか会話が聞き取れた。

    『隣国の能力者研究所への攻撃はどうする。』
    『手始めにH市にあるこの施設を狙う。
     研究所に火を放ち、研究員、人体兵器、被験者もろとも潰せ。
     抵抗した者は殺して構わない。
    決行はx月xx日 10:00より。』
    『了解。』

    いきなり機密情報をゲットしてしまった。
    おいおいマジか。
    こうも簡単に手に入れられるとは思っていなかったため拍子抜けだ。
    しかし、ターゲットにされている研究所は紛れもなく今一松達がいる場所だ。
    しかも、火を放て。と言っていたから十四松が予知した温室の火事はやはり敵国の攻撃なのだろう。
    頭から血を流していたのはよくわからないが。いずれにせよ黙ってやられる気はない。
    ここが火の海にされるのが分かっているなら、ここから離れるのが賢明だ。
    担当研究員に自分の投薬回数を倍にしていいから、と懇願すれば避難くらいさせてもらえるだろう。

    頭の中で逃げるための算段を組み立てながらも、一松は言い知れない恐怖を感じていた。
    これから何が起ころうとしているのだろう。不安を拭うように一松は世界を見渡した。
    焼きナス
  • 生き別れた六つ子が 起 #おそ松さん #能力松 #二次創作##生き別れた六つ子が

    !注意!

    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・今のところ兄弟愛
     腐ではありませんがこの先どうなるかわかりません
    ・色々と矛盾ありそう
    ・書きたいところだけ書いた

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    西暦XXXX年 第三次世界大戦が勃発
    世界は未曾有の大混乱に陥った。
    戦いは20年以上に及び、未だ収束する気配はない。
    そんな中、この国はとある研究に着手し始めた。

    ー 超能力者の生産、人体兵器の開発

    この研究は公にされることはなく、秘密裏に進められていた。

    ーーー

    side.K

    遠くから爆音が聞こえた。
    それから間髪を入れずに非常ベルが鳴り響き出した。
    爆音は勢いを増しながら止む気配はない。
    とある広大な施設の一角にある非常階段で
    カラ松は気配を殺し姿勢を低く保ちながら施設内の様子を伺っていた。
    辺りは爆発の衝撃によって床や壁が剥がれ落ち、むき出しになった鉄筋コンクリートに這うようにして様々な色のパイプや導線が張り巡らされている。
    しかしこの導線ももはや機能はしていないだろう。
    中の様子も気になるが、自分の役目は逃げ口の確保だ。下手に動かない方がいい。
    それに、あの2人なら問題ないだろう。
    今頃、施設のどこかで存分に能力を振るい、片っ端から暴れ回っているだろう長兄と、それをフォローしながら証拠隠滅に勤しんでいるであろうすぐ下の弟の姿を思い浮かべる。
    爆音と非常ベルが響き、硝煙が舞う中あまりにリアルに想像できてしまって少し笑ってしまった。
    散々自分たちを好き勝手実験体にして、こんな能力を身につけさせておいて、その能力にやられるとはなんとも皮肉な話だ。
    この施設、超常現象及び超能力者研究機構が崩れ落ちるのも時間の問題だろう。

    と、複数の研究員の足音が聞こえた。
    辛うじて聞き取れた会話から察するに自分達を探しているようだ。
    今見つかるのはマズイ。
    数は1、2、3…

    「5人か…」

    呟くと同時に研究員達の視界が何かに覆われた。
    爆発によって方々に散った瓦礫の山が研究員達にまっすぐ集まっていく。
    動きを封じて、更に呼吸も封じる。叫び声や呻き声が聞こえなくなるまで、体が潰されるまで瓦礫の山をゴリゴリ押し付けてやった。
    何かがグチュリと潰れるような音が聞こえた。
    カラ松が持つ能力、サイコキネシスの力だ。

    また足音が聞こえてくる。
    今度は聞き慣れた足音だった。それを耳で捉えるのと同時に、周囲の温度が僅かに上昇したのも感じた。
    足音の持ち主もカラ松に気付いたようだ。
    突如カラ松の目の前に2つの影が現れる。それにわざわざ驚くことはしない。

    「おっまたせ〜!」
    「ああ、早かったな。30分も掛かってないんじゃないか?」
    「当たり前じゃん!俺を誰だと思ってんの?」
    「ったく…ホント好き勝手暴れてくれたよね。」

    軽い口調で会話をしながらも、3人に隙は見当たらない。
    先ほど突如姿を現したのは、チョロ松のテレポーテーションーいわゆる瞬間移動ーの能力だ
    そして爆音を響かせていたのはおそ松のパイロキネシスの能力。
    彼の炎を操る力によって、今や研究所は火の海だ。
    黒煙に混ざってあまりよろしくないにおいもする。

    3人が持つ能力は今まさに脱出を図ろうとしている研究所で後天的に身についたものだった。
    幼い頃、実験材料として誘拐されて以来施設に閉じ込められ、日々投与される薬、それに伴う苦痛に耐え、能力に目覚めた後も兵器として育成されてきた。
    最近では臨床実験と称して戦場に送り込まれることも増えていた。
    幼い頃は痛みと恐怖で身体が全く動かせない日も少なくなかった。
    それでも今まで生きながらえてこれたのは、寄り添うようにして一緒に過ごしてきた兄弟の存在があったからだ。
    1人孤独に実験に耐えていたらとうの昔に発狂していたに違いない。
    肩を寄せ合い、いつか自由になってやろうと誓い合い、互いを支え合って生きてきた。
    幸いなことに研究は順調に進んだのだろう、人体兵器として少しずつ実績を積むようになってからは研究員の監視は多少緩くなっていた。
    今まで従順に命令をこなしてきたことに気が緩んでいたのだろうが、実際は従順な振りをしながら反撃の機をずっとうかがっていた。
    そして今日は反旗を翻すには絶好の日だった。
    この日、研究所の幹部以上の重役が珍しく1カ所に揃っていたのだ。

    「それで?」
    「トーゼン!幹部以上は全滅!!いや〜チョロ松が作った最短撲殺ルート通り!!」
    「撲殺じゃなくて焼殺してたけどね。あとは事情も僕らの顔もよく知らない下っ端だけだと思うよ。」
    「そうか。ならもう放っておいていいだろう。さっさと脱出するか。」
    「そうだね、僕これ以上ここにいたくないし…」
    「そういやチョロ松、なんかデータかっぱらってなかった?」
    「あー、機密情報はさすがにセキュリティ破れなかったんだけど、とりあえず取ってこれそうなデータは持ってきてみた。」
    「ちゃっかりしてんね、チョロちゃん!」

    カラ松が脱出経路の確保を進めている間、おそ松とチョロ松は移設内を引っ掻き回しながら幹部以上を問答無用で仕留めていた。
    自分達を材料として誘拐し、果ては辛い実験を強いてきた奴らだ。情状酌量の余地などない。
    強力な発火能力を持つおそ松が暴れる横で、チョロ松がスピードを生かして監視カメラや通信機器、音声記録などなどを破壊していた。
    そのついでに、研究所の取ってこれそうなデータを拝借してきたのだ。
    役に立つかどうかはわからないが。

    「まぁ、研究施設の一覧くらいは持ってこれたよ。なんだかんだで研究所は全国に散らばってる上に場所は大っぴらにされてないから少しは役に立つかも。」
    「上等上等!さ〜て、そいじゃカラ松先導よろしくな。」
    「あぁ、任せてくれ。」

    さて脱出だ。
    非常階段を駆け上り、昔閉鎖されたらしいドアを蹴破った。
    ドアの先に道はない。建物の壁だけだ。
    かつて連絡通路があったらしいのだが、撤去されてドアだけが残っていたらしい。
    カラ松がサイコキネシスを駆使してそこら中に散らばる瓦礫をかき集め、ドアの先に足場を組んで進んでいく。
    おそ松とチョロ松もそれに続いた。
    チョロ松が監視カメラ等を壊してくれたとはいえ、目に付きやすい出入り口から出て行くのはさすがにリスクがある。
    そこで目を付けたのがこの忘れられた扉だった。
    位置的に表の通りとは真反対の場所で、目下に広がるのは手入れも碌にされていない雑木林。
    高く伸び生い茂った木々に視界を遮られているため、上空からも目に付きにくい。
    瓦礫で足場を組み立てながら黙々と進み
    ー 途中でチョロ松が「この瓦礫なんか血がベッタリなんだけど?!ちょっと内臓も付いてない?気持ち悪っ!!」と文句を言っていたが勘弁してほしい。あ、そういやこっちに来た研究員瓦礫で押しつぶしたんだっけ ー
    やがて雑木林の中程に降り立つと、今度は普通に隣町の駅に向かって歩き出した。
    チョロ松の瞬間移動を使ってもいいが、場所情報が少々不明瞭だ。
    移動した先で誰かに見られても厄介なので、普通に歩くことにした。
    駅から電車に乗り、幾つか先の小さな駅で降りて、ひとまず駅前の小さなビジネスホテルで部屋を借りた。

    「チョロ松、疲れているんじゃないか?先にシャワー浴びてきたらどうだ?」
    「うーん、まぁ…そんなに心配ないよ。でもまぁ、そしたらシャワー先に借りるね。」
    「あぁ。」

    チョロ松を見送るとカラ松はベッドに腰掛けた。
    視線を上げると、おそ松は窓から外をじっと眺めている。追っ手の気配は今のところない。
    となると、この兄はおそらく…

    「一松達のことを考えているのか?兄さん。」
    「んー?…うん、そーだなー。」
    「大丈夫、きっと見つかるさ。」

    曖昧に返されたが、弟達の事を考えていたのに間違いはないだろう。
    自分達は六つ子の兄弟だった。幼い頃に誘拐されてから、下の弟達と再会することのないまま何年が経っただろうか。
    誘拐された時は6人一緒だったはずだ。そこから上3人と下3人、それぞれ別の施設に送り込まれた。

    脱出を計画して実行に移したのは、もちろんこれ以上苦痛を伴う実験に付き合いたくなかったのもあるが、何より弟達を探すためだ。
    また6人揃って笑い合うためだ。特におそ松にとっては。
    ひとまず無事に施設からの脱出を果たした今、弟達を探すという目的においては、ようやくスタートラインに立てたところだろう。
    それ以上、おそ松との会話は続かなかった。

    ーーー

    side.C

    カラ松にシャワーを勧められ、その言葉に甘えて浴びることにした。
    研究所では兄のおそ松を追いかけて暴れていたから、顔には出さないようにしていたものの、実は相当疲れていた。
    カラ松にはバレていたようだが。
    簡素なユニットバスの横に備え付けられた棚に適当に衣類をつっこみ、服を脱いでいく。
    あーさすがに血がついて汚れてるな、新しいの買わないと。
    服を脱いだら、次は左脚の義足を外した。
    そう、義足
    数年前、兵器として戦地へ送り込まれた際に不覚にも攻撃を受けてしまい、左脚の膝から下が吹き飛んでしまったのだ。
    義足を付けたばかりの頃は歩くことさえ困難だったが、今はもう慣れたものだ。慣れてしまえばなんてことはない。
    むしろ、義足だからこそ傷つくことを考えずに渾身の蹴りを入れる事が可能だと気付いたのは割と最近で、最早チョロ松の武器の1つにもなっていた。
    おそ松とカラ松があまりいい顔をしないので極力使わないようにしているが。
    ふと、左脚を失った時のチョロ松を見つめる兄達の顔を思い出す。
    おそ松の何かをぐっと堪えるような表情も、カラ松の今にも泣きそうな表情も忘れられない。もう兄達のあんな顔は見たくない。
    そのためにも、もっと強くならなければ。
    兄の中では「弟」の立場であるチョロ松は、2人の兄が無意識に自分のことを庇い、少し甘いことに嬉しさと一緒に少しの歯痒さも感じていた。
    もっと強くならなければ。兄達が頼ってくれるくらいには。
    これからの弟達を探しながらの逃亡生活を考えるなら尚のこと。
    研究所での日々は思い出すだけで反吐が出るが、折角身についた能力だ。存分に利用させてもらおう。

    チョロ松のように身体の一部を失うとまではいかないが、2人の兄も大怪我の痕がある。
    おそ松には右腕にまだ痛々しい大火傷の痕が残っているし、カラ松は背中に大きな切り傷の痕がある。
    今まで兵器として実験と戦争の最前線にいたというのに、むしろこれだけで済んでるのはある意味奇跡に近いだろう。

    おそ松から脱出を持ちかけられた時は正直少し迷っていた。
    脱出自体を迷っていたわけではない。施設からは出たかった。モルモットのように薬を与えられ、兵器として殺戮を働くような生活はもうしたくない。
    離れ離れになってしまった弟達に会いたい思いも決して嘘ではない。むしろ会いたくて仕方ない。
    だが、もし再会が叶ったとして、果たして弟達は今の自分達を受け入れてくれるだろうか。
    弟達に会いたくて仕方ないはずなのに、弟達に会う事を迷っていたのだ。
    記憶の中の弟達の姿は幼い頃のままだ。その幼い瞳に拒絶される幻覚を見たような気がして、チョロ松は深く息を吐いた。

    弟達とて、昔のままではないだろう。
    自分達と同様に人体実験の材料にされた可能性が高い。元々やんちゃだった上3人に比べ、下3人は比較的大人しかった。
    もし同様に実験体にされていたら、優しい弟達は壊れてしまっているのではなかろうか。
    もしかすると自分達のことさえ覚えていないかもしれない。
    そこまで考えて、思わずブンブンと頭を振った。今そんなことを考えるのはよそう。

    蛇口をひねるとシャワーノズルから湯が溢れ出した。
    目を閉じてそれを頭から被った。
    今日はとにかく疲れた。
    研究所の匂いも、脱出時に暴れて付着した血の匂いも、そしてもう何年も会っていない弟達に対する不安も全部洗い流したい。
    部屋から物音は特に聞こえてこない。兄達もさすがに疲れているのだろう。
    しばらくシャワーから溢れる湯を浴びていると少し気持ちが落ち着いてきた。
    適当に身体を洗うと足早にバスルームを後にした。
    入れ替わりで「次俺はいるわ〜」とおそ松がシャワーへ向かう。
    バスタオルで丁寧に髪を拭きながら部屋を見ると、カラ松はノートPCを開いていた。

    「何か調べてんの?」
    「ん?あぁ、この辺りの地図を見ていたんだ。地形の把握と…あと、そろそろ腹が減ってきただろう?買うか食べに行くかしたいんだが、この辺あまり店がないみたいだな。」
    「小さい町だもんね。このホテルのレストランとか無理なの?」
    「確認してみたんだが、予約制だそうだ。俺たちは今日飛び入りチェックインだったから急には準備できないと言われた。まぁ、最近どこもかしこも資源不足に材料不足だからな。仕方ない。」
    「そっかー…。あ、出前とかは?」
    「お?おぉ!なるほどな!!」

    カラ松が再度ノートPCに向き合う。調べてみるとどうやら宅配寿司がギリギリ配達範囲のようだ。
    少し時間は掛かるらしいが注文可能とのことだった。
    「今日は寿司だなー」なんて上機嫌な兄の姿に今まで張り詰めていた空気が緩んだ気がして少しほっとした。
    カラ松がノートPCから離れたため、チョロ松は脱ぎ捨てていた上着の胸ポケットに忍ばせていたSDカードを取り出した。
    脱出時にとりあえず持ってきた研究所のデータだ。一応中身を確認するために接続し、順番にフォルダをクリックしていく。

    研究所の見取り図、もう潰したから必要ないな。
    研究員の名簿、僕らがいた研究所に勤務する人だけのようだ。一応取っておくか。
    同一機関の研究所の一覧とその住所、…結構な数だ。
    この一覧をしらみ潰しに探っていけば弟達にたどり着くだろうか。
    もしかしたら彼らも自分達を同じように抜け出しているかもしれないが何かしらの痕跡が掴めればいい。
    今弟達につながるヒントはこの研究所の一覧だけだ。

    「チョロ松、ここから一番近い研究所はどこになる?」
    「ちょっと待って、結構数があるから検索かけないと難しい。」

    宅配寿司の注文を終えたカラ松がいつの間にか画面を覗き込んでいた。

    「今はここから手掛かりを手に入れるしかないな。地道にやっていくしかないか。まぁ、きっといつか会えるさ。」
    「カラ松のその根拠のない自信はどこからくるワケ?」
    「何故なら俺たちは選ばれし六つ子だからな!」
    「答えになってねーよ!」
    「フッ…これ以上の理由は必要ないだろう?マイブラザー。」
    「うっさいわボケ。あとイタイ。」
    「え」

    兄にツッコミながらカタカタとキーボードを叩く手は止めない。検索してみると、ここから一番近い研究所は隣県の田舎町にあることがわかった。
    とりあえず本格的に動き出すのは明日からだろう。今日はひとまず休息だ。
    おそ松がシャワーを浴び終え、今度はカラ松がバスルームへ向かう。
    カラ松が出てきて少し経ってから宅配寿司が届いた。寿司なんて久々だ。

    「うっし。今日は何も考えずに飲んで食って寝るぞー!」
    「ハメ外さないでよ?」
    「わーってるって!」
    「ところで代金どうしたんだ?ここの宿泊代も。」
    「あ、それな。研究所の金庫ブチ破ってくすねてきた。」
    「さすがだな、兄貴…!」
    「持てるだけ詰め込んでるの見た時はうわぁ…って思ったけど、まぁおかげでこの先困らないよね。」
    「おーもっと俺に感謝しろよ!…あ。そういや研究所の場所調べてくれたんだって?」
    「うん、N県にあるのがここから一番近いみたいだよ。」
    「んー…じゃぁ準備整えたら明日はN県に移動するか。」
    「了解。」

    明日の予定を話し合いながらも、久々にのんびりした食事を終えた3人は他愛のないやりとりをしながら眠りについた。

    ーーー

    side.T

    暗い、何も見えない、何も聞こえない、暗い、怖い、暗い…。
    おかしいな、何も見たくなかったし何も聞きたくなかったはずなのに、どうしてこんなに怖いんだろう。
    目の前は真っ暗だ。そして痛いほどの静寂に包まれている。いや、実際は何も見えてなくて何も聞こえていないだけの話なんだけども。
    手探りで歩いてみると、3歩程歩いたところでゴトリと音がした。何かにぶつかったようだ。
    思わず前につんのめる。手をついた先は柔らかな感触だった。
    途端に視界がクリアになり様々な音も耳に流れ込んできた。
    手元を見ると、よろけて手をついた先は2つ上の兄が眠るベッドの上だった。
    そして足にぶつかったのはどうやらベッドの脚だったらしい。
    すうすうと規則正しく寝息を立てる兄に起きる様子は見受けられない。もうかれこれ30時間は眠り続けている。

    「…?」
    (大丈夫だよ、十四松兄さん。ちょっと暗くてびっくりしちゃっただけ。起こしちゃってごめんね。)
    (大丈夫?トド松。気をつけてね?)
    (うん、ありがと。)

    心配そうにこちらを見上げてきた1つ上の兄の脳内に直接メッセージを送り込むと、同じように自分の脳内に返信が届いた。
    1つ上の兄、十四松はトド松がいる場所とは反対側のベッドの縁に突っ伏してウトウトしていたようだ。
    何故か袖口が長いため手が隠れて見えないが、その腕は眠る一松の頭を抱え込んでいるように見える。

    幼い頃に連れてこられた人体実験の研究施設。度重なる実験により、トド松はテレパシーを身につけた。
    所構わず道行く人のありとあらゆる心の声がひっきりなしに聞こえてしまう状態に陥ったトド松は必死に耳を塞いだ。
    極力人のいる場所を避け、気休めではあるがヘッドホンで耳を塞ぎ、逃げるように部屋の隅に蹲った。
    心を開けるのも2人の兄だけ。兄達はそんなトド松を心配し、ずっと側にいてくれた。
    兄達の心の声は優しくて心地良い。
    早い段階で能力が身に付いたが、まだ幼かった身体と心は早々に悲鳴をあげたようで。
    兄達以外の声は聞きたくない、何も見たくない、と次第に精神を病んでいったトド松は、能力の負荷もあってやがて視力と聴力を失っていた。
    見える世界はボンヤリと霞み、色が無いし、聞こえてくる音も微かなものだ。
    今や立派な障害者だが、幸いなことにテレパシーによって兄達と触れ合っていれば兄達が見ている世界を一緒に見聞きすることができた。
    少々不便ではあるが、自分にはこれで十分だ。
    ある程度能力の制御ができるようになり無闇に人の心の声を受信しなくなった今でもヘッドホンは手放せないし、心を開くのも兄達だけだ。

    そんな兄達も人体実験によって能力を身につけさせられたのと引き換えに身体のどこかしらに支障をきたしている。
    先程から眠り続ける兄、一松はクレヤボヤンス、いわゆる透視とか千里眼とか言われる能力が身についた。
    一松の脳内にはあらゆる場所の映像がノンストップで送り込まれ、限界に達した一松の脳は生活行動を拒否してしまった。
    以来、一松は1日の大半を眠って過ごしている。この施設に連れてこられた当初から、弟である十四松とトド松に過酷な実験が当たらないように庇い続けてきたダメージもあったのかもしれない。
    たまに空腹等で目を覚ますことはあるが、生きるための簡素な食事を済ませて栄養を摂ったと判断するとまた寝てしまう、という繰り返しだ。
    眠っている間も一松は千里眼で世界中を見渡し続けているのだが、それを自分で伝えることができない。
    そこで、トド松のテレパシーの出番だ。テレパシーで一松に話しかければ、浅い眠りの場合は受け答えが可能だ。
    一松が見た景色をそのままトド松も見ることができる。

    十四松の能力は未来予知だった。前触れなく突然未来のビジョンが見える能力だ。
    それは数時間後だったり、はたまた数年後のこともある。
    稀有な能力であったが、今は世界大戦真っ只中だ。十四松が見る未来のビジョンは大抵が凄惨な現場だった。
    明日、この人が殺される。3日後、あの街が襲撃にあって壊滅する…。
    未来を口にすることに恐怖と罪悪感を覚えた十四松は、いつしか喋ることができなくなってしまった。
    さらに、己を守る為の術だったのかその精神は幼い時のまま時間を止めているかのようだった。
    口調も仕草も何もかも幼い彼は、ともすれば最も自我が危うい。
    十四松は兄と弟が優しく握る手によって辛うじて自己を保っている状態だ。
    そして、そんな十四松が見た未来のビジョンを受け取るのもトド松だった。

    一松と十四松の見た景色を受け取り、伝えるのはトド松の役目だ。
    2人の見た景色を共有できる。2人と会話できるのは自分だけ。
    その事実にトド松に少しの優越感を抱いていた。

    起きていることができない一松
    まともに喋ることができない十四松
    視覚と聴覚をほぼ失っているトド松
    能力の代わりとでもいうように何かを失い、1人で満足に生活できない3人は、研究員からすれば失敗作であった。
    それでもその能力の精度はある程度の評価を得ているようで、十四松が予知した内容から一松が関係する場所を見渡し、2人から情報を受け取ったトド松が伝える、という連携で研究所に届く指令をこなしていた。
    正直従いたくないのだが見切りをつけられて捨てられたりすると、自分達の力では生き抜くことができない。
    不本意だがここで与えられる仕事をこなして、検査と称した実験台に付き合いさえすれば、最近は割と自由に動けるため、この状況に甘んじている。

    3人一緒に部屋の隅でぼんやりしていると、十四松が話しかけてきた。
    いつでも会話できるように、トド松は兄達に対してはテレパシーを発動しっぱなしだ。
    無論、他の雑音はシャットアウトしているが。

    (ねぇ、一松兄さん、トド松)
    (…どうした?)
    (なあに?十四松兄さん。)
    (あのね、さっきゆめを見たんだ。これからおこることなのか、そうじゃないのかはちょっとよくわからないんだけど。)
    (どんな夢だったの?)
    (えっとね、だれかが、おれたちのことをね、さがしてた。そのひとたちね、おれたちにそっくりなかおしてたんだよ!
     それも3にん!でも、そっくりだったけど、おれたちじゃなかった。
     おれたちよりカッチリしたからだしてたかも。
     でね、そのそっくりさんたちが、おれたちをいっしょうけんめいさがしてるの。)
    (………。)
    (だれだかわからなかったけど、でも、なんか、とてもなつかしい、ようなきがしてね
     そのひとたちに、はなしかけようとしちゃったんだけど、そのまえに、めがさめちゃったんだ。)
    (…結構具体的だね。)
    (僕たちにそっくりな人達かぁ〜。予知だったらどうする?)
    (でもね、めずらしく、コワイゆめじゃなかったんだよ!こわくなかったから、へいき!)
    (そっか。今日は怖い夢見なかったんだ。よかったね、十四松兄さん。)
    (うん!)
    (まぁ、それなら今はそんなに気にしなくていいんじゃない。話してくれてありがと、十四松。
     また似たような夢みたら教えて。)
    (あいあいさー!おれやきゅう!いってくる!!)
    (行ってらっしゃい。)

    会話はそこで終わったが、トド松は十四松が夢で見たという「自分達にそっくりな3人」に思い当たる節があった。
    それは、おそらく一松も。
    十四松が出て行ったのを確認して、トド松はそっと一松に話しかけた。

    (一松兄さん、まだ起きてる?)
    (起きてる。身体は寝てるけど。)
    (見れば分かるよ。ねぇ、さっきの十四松兄さんが話してくれた夢のことだけど…)
    (うん?)
    (僕たちってさ…僕ら以外に、その、兄弟がいたりする…よね?)
    (トド松は覚えてるの…?)

    一松に問いかけると、返ってきたのは返答ではなく問いかけで、しかしその口調から、自分の言ったことに間違いはないとなんとなく確信できた。
    自分達は六つ子だった。朧げにしか覚えていないが、他にあと3人の兄達がいたはずだ。
    十四松が夢で見た3人はきっとあの日生き別れた兄達に違いない。夢を見た張本人の十四松はどうやら兄達の記憶はないようだが。

    (ボンヤリとだけど…6人一緒にいた記憶があるんだ。)
    (そう…。トド松は覚えてたんだ。十四松は覚えてないみたいだから、なんか勝手にトド松も忘れてると思ってた。)
    (じゃぁ、やっぱり…!)
    (うん、十四松が見たのは、多分だけど、予知夢だと思う。おそ松兄さん達が、僕たちを探そうとしているのかもね。)
    (十四松兄さんにはこのこと伝えるの?余計なこと、言わない方がいいかな…。)
    (…そう、だね。ちょっと様子見ることにする。今変に伝えてパニック起こしても厄介。
     それに、兄さん達が僕らを探してるの予知したなら、また似たような予知するかもしれない。
     その過程で、十四松も何か思い出すかもしれない。)
    (うん…。)
    (自然に思い出してくれたら一番だけど。)
    (うん、そうだね…。)

    精神が幼いままの十四松は兄達のことを覚えていない。
    懐かしく感じた、と言っていたから完全に忘れたわけではないだろうが。
    能力に目覚めてから、自我が不安定な十四松に、いたずらに他の兄弟のことを伝えない方がいいだろう。
    もしそのせいでパニックに陥れば、それこそ十四松は自我を亡くしてしまうかもしれない。
    一松とトド松はそう判断した。
    …もし、兄さん達に会えたらどうするの?
    トド松はもう一度一松に話しかけようとしたが、本当に眠ってしまったのか返事はなかった。

    自分達を探している兄達。
    もし、奇跡的に再開できたとして、こちらに手を差し伸べられたとして
    果たして自分は素直にその手を取ることができるだろうか。
    そして、2人の兄はどうするのだろうか。
    この研究所に連れてこられてから、3兄弟の兄として研究員を前に矢面に立ち、トド松と十四松を支え続けてきてくれた一松と、いつも兄弟には笑顔を向けてギュッと手を握ってくれていた十四松。
    正直、自分はこの2人とさえ一緒にいられれば、それでよかった。
    2人の大切な兄の顔を思い浮かべながら、やがてトド松も眠りに落ちていた。


    続くのか続かないのか…

    ーーー

    一応のキャラ設定

    六つ子は幼少時に超能力者生産のための人体実験施設に被験体として目をつけられて誘拐された。
    (一卵性の六つ子という珍しさ、それ故遺伝子レベルで同じ兄弟のため対照実験の材料になると考えられたため)
    両親はその際抵抗したために殺害されている。
    誘拐後は兄組、弟組に分けられ、それぞれ別の研究室に送られた。
    兄組と弟組は顔を会わせることのないまま、十余年が経過している。

    ○兄組
    主に戦場で戦う人体兵器としての研究を行う施設に送られた。
    3人それぞれが攻撃型の能力を身につけさせられ、また戦いの最前線で暴れてもらう想定だったため、軍事機関で身体も同時に鍛えられていた。
    実験中は生傷が絶えず身体ダメージが甚大だった。
    能力が成長し、兵器としての成果と実績を積み上げるにつれ自由行動を許される時間も増えてきたため、能力を使うことのない時間は割と普通の生活をしている。
    監視の目が緩んできたタイミングを見計らって3人で研究所を壊滅させて脱出。
    以降追っ手を撒きつつ、ついでに各所の同一機関の研究所も壊しつつ、弟達を探して各地を転々としている。
    割と弟達に執着してる。

    おそ松
    能力:パイロキネシス(発火能力)
    最も攻撃に特化された、最も強力な能力。
    自身が持っていた戦いのセンスも相まって戦場ではほぼ無敵。
    基本的に身体から炎を出してそれを操って攻撃する。武器があればそれに炎を纏わせることも可能。
    手に持てるものは大抵武器にしてしまう。
    また、触れたものをジリジリ燃やしたりすることもできる。
    タバコの火をつけたり、チャッカマンの代わりになったり、打ち上げ花火の真似事したり、割としょーもないことにも惜しみなく力を使っていくスタイル。
    実験中に力が暴走して右腕に大火傷を負った痕が残っている。
    研究所からの脱出を提案した張本人。
    弟達はみんな大切。6人全員でまた集まりたいという思いがとても強い。
    普段はチョロ松に色々丸投げだがなんだかんだ頼りになる長男。
    カラ松とチョロ松に対しては文句を言い合いながらも絶対の信頼を置いている。

    カラ松
    能力:サイコキネシス(念力)
    物や人を手を使わずに動かす能力。
    動かせるものはカラ松自身の気の持ちようでいくらでも持ち上げられる。
    元より腕力があるためかなりの重さであっても動かすことが可能。
    ブン投げたり、壊したり、潰したり、おそ松が出した炎も動かしたりと非常に応用がきく能力。
    おそ松と共に戦場に立ち、兄をフォローしつつも怪力で暴れ回っていた。
    臨床実験中に事故に遭い、背中に大きな切り傷がある。
    離れ離れになった弟達のことを常日頃から案じており、おそ松が脱出と弟達の捜索を提案した時はすぐさま賛成した。
    兄を頼りにしつつ、強大な力を持つ兄が暴走しないようにさりげなく目を光らせている。
    イタイ発言しつつも、兄弟のことはよく見ており、冷静に物事を捉えている。
    優しい性格だが切り捨てた存在にはどこまでも非常になれる。

    チョロ松
    能力:テレポーテーション(瞬間移動)
    攻撃型の兄組の中でも比較的隠密向きでサポート寄り。
    高速で動き回り、相手を翻弄して戦う。
    瞬間移動するには移動先の地理情報が明確に頭に入っている必要がある。
    また、移動距離が長ければ長いほど負担がかかる。
    手を取るなどしてチョロ松に触れていれば他の人も一緒に移動することが可能。
    兄達のように攻撃系の能力ではないため、主な攻撃手段は銃火器。
    兄弟の中でも銃の扱いが一番上手い。
    戦場に送り込まれた際に攻撃を受け、左脚の膝から下を欠損。以降義足で生活している。
    リハビリによって生活は問題ない上、むしろ武器化している。
    ただし義足で蹴りを入れる攻撃はおそ松とカラ松があまりいい顔しないので控えてる。
    おそ松に脱出を持ちかけられた時は、迷いながらも結局賛成して計画を考案した。
    口には出さないが、無鉄砲気味な兄2人のことをいつも心配している。
    率先して弟探しをしているものの、今の自分達を受け入れてくれるのか、またどう接すればいいのかと色々と思案しては葛藤している。

    ○弟組
    主に諜報活動のための能力を研究を行う施設に送られた。
    兄組に比べ、身体ダメージは少ないが、脳への負担が大きく、3人とも能力と引き換えに何かしらの障害を負っている。
    互いの能力が互いに大きく作用し合うため、基本的に3人一緒に行動する。
    と、いうより3人一緒でないと動けない。
    兄組と同様に自由時間はそれなりにあるが、上記の理由から外へ出かけることはほとんどなく、部屋の中や施設内の許可されたエリアで3人かたまって過ごすことが多い。
    互いの依存心が非常に強い。兄弟間の会話はもっぱらトド松の能力によるテレパシー

    一松
    能力:クレヤボヤンス(千里眼)
    一度行ったことのある場所や十四松、トド松がいる場所の現状を見渡すことができる。
    写真や座標などの地図情報があれば行ったことのない場所でも透視可能。
    脳内に大量に送られてくる情報量に耐え切れず、脳が生活行動を拒否し睡眠時間が1日の大半を占めている。
    長くても起きていられる時間は1日1時間程度。全く目覚めない日も少なくない。
    普段は眠ったままベッドや車椅子の上。大体十四松が介助している。
    眠っている間であってもトド松の能力を介して兄弟とは会話可能。
    兄達のことはしっかり記憶に残っている。その気を出せば能力で兄達を探索可能だが、弟2人を最優先しており今のところ探す気はない。
    弟達を支えつつも一松自身も支えられている。
    ちなみに、トド松のテレパシーで心の声まで読み取られてしまうため、捻くれても意味がないと諦めているのか多少素直。

    十四松
    能力:プレコグニション(予知)
    対象の人物や場所、物の未来に起こりうる事象を予知する。
    一松の能力で得た情報をトド松に送ってもらうことでより明確な予知が可能になる。
    未来に起こることが分かってしまうこと、それを口にすることへの恐怖心に心が悲鳴をあげてしまい、喋ることができなくなってしまった。
    また、精神が幼いまま成長していない。
    口から出るのは「やきう?!」「ハッスルハッスル!」等のあまり要領を得ない言葉がほとんど。
    その他簡単なあいさつ程度ならトド松と練習して一応できるようになった模様。
    予知した内容はトド松のテレパシーで伝えてもらっている。
    体力は有り余っており丈夫な健康優良児なので普段はトド松と一緒に一松の車椅子を押しながら施設内を走り回ったりしてる。
    兄組のことはほとんど覚えていない。というより、誘拐時の恐怖を思い出したくなくて記憶に蓋をしている。
    自分の力で満足に動けない兄と弟を守らなければと云う使命感と、この2人に必要とされていると感じることで自己を保っている。
    兄弟と引き離されると真っ先に壊れそうな子。

    トド松
    能力:テレパシー
    心の声や相手の見た景色、聞いた音を直接相手の脳に送り込む、または受信する。
    眠っていることが常な一松と、満足に喋ることができない十四松から情報を受信し、外部へ伝えている。
    普段受信する内容は心の声であることが多いが、兄弟間だとそれに加えてクリアな映像も一緒に送られてくることがある。
    (千里眼で見た景色であったり、予知した事象であったり)
    一松が能力で互いの場所を把握してくれていれば多少場所が離れていても対話が可能。
    ある程度制御できるものの、気を抜くと自分の意思とは関係なく道行く人の心の声が流れ込んでくるため、人混みが嫌い。
    そのことに悩みつつも気丈に振る舞っていたが、精神ダメージが身体へ支障をきたし、視力と聴力が著しく低下してしまった。
    また、受信数が限度を超えると高熱を出して倒れてしまう。
    低下した視力と聴力は一松か十四松に触れることで補うことができる。
    ほとんど言葉によるコミュニケーションができない兄達に代わって、自分がしっかりしなければと思う一方で
    見えない、聞こえないことにより暗闇と孤独を極端に怖がるため兄弟の側を離れられない。
    普段は一松、十四松と一緒に過ごしながら買い物(ネットショッピング)したり2人の服を選んでコーディネートしたりしている。
    ヘッドホン着用。
    兄2人に対しては常にテレパシーを発動していつでも会話できるようにしている。
    兄組のことはボンヤリと覚えてはいる。
    でも一松と十四松がいてくれればいいや、という思考のため探そうとはしていない。


    ……お粗末さまでした。
    #おそ松さん #能力松 #二次創作##生き別れた六つ子が

    !注意!

    2016年にpixivへ投稿した文章をこちらに再掲しました。
    妄想垂れ流し書きなぐりです。
    以下の点にご注意下さい。

    ・にわか知識
    ・六つ子が誘拐されてます
    ・兄松組、弟松組で生き別れてます
    ・厨2満載な能力松(後天的)
    ・文中に、暴力、流血、残酷な表現が存在します
    ・精神を病んでいる描写があります
    ・身体障害、欠損の描写があります
    ・障害者の方を貶す意図はありません
    ・何も地雷がない方向け
    ・今のところ兄弟愛
     腐ではありませんがこの先どうなるかわかりません
    ・色々と矛盾ありそう
    ・書きたいところだけ書いた

    作者は年中松贔屓。
    おk、読んでやろうか、という方は読んだって下さい。

    ーーー

    西暦XXXX年 第三次世界大戦が勃発
    世界は未曾有の大混乱に陥った。
    戦いは20年以上に及び、未だ収束する気配はない。
    そんな中、この国はとある研究に着手し始めた。

    ー 超能力者の生産、人体兵器の開発

    この研究は公にされることはなく、秘密裏に進められていた。

    ーーー

    side.K

    遠くから爆音が聞こえた。
    それから間髪を入れずに非常ベルが鳴り響き出した。
    爆音は勢いを増しながら止む気配はない。
    とある広大な施設の一角にある非常階段で
    カラ松は気配を殺し姿勢を低く保ちながら施設内の様子を伺っていた。
    辺りは爆発の衝撃によって床や壁が剥がれ落ち、むき出しになった鉄筋コンクリートに這うようにして様々な色のパイプや導線が張り巡らされている。
    しかしこの導線ももはや機能はしていないだろう。
    中の様子も気になるが、自分の役目は逃げ口の確保だ。下手に動かない方がいい。
    それに、あの2人なら問題ないだろう。
    今頃、施設のどこかで存分に能力を振るい、片っ端から暴れ回っているだろう長兄と、それをフォローしながら証拠隠滅に勤しんでいるであろうすぐ下の弟の姿を思い浮かべる。
    爆音と非常ベルが響き、硝煙が舞う中あまりにリアルに想像できてしまって少し笑ってしまった。
    散々自分たちを好き勝手実験体にして、こんな能力を身につけさせておいて、その能力にやられるとはなんとも皮肉な話だ。
    この施設、超常現象及び超能力者研究機構が崩れ落ちるのも時間の問題だろう。

    と、複数の研究員の足音が聞こえた。
    辛うじて聞き取れた会話から察するに自分達を探しているようだ。
    今見つかるのはマズイ。
    数は1、2、3…

    「5人か…」

    呟くと同時に研究員達の視界が何かに覆われた。
    爆発によって方々に散った瓦礫の山が研究員達にまっすぐ集まっていく。
    動きを封じて、更に呼吸も封じる。叫び声や呻き声が聞こえなくなるまで、体が潰されるまで瓦礫の山をゴリゴリ押し付けてやった。
    何かがグチュリと潰れるような音が聞こえた。
    カラ松が持つ能力、サイコキネシスの力だ。

    また足音が聞こえてくる。
    今度は聞き慣れた足音だった。それを耳で捉えるのと同時に、周囲の温度が僅かに上昇したのも感じた。
    足音の持ち主もカラ松に気付いたようだ。
    突如カラ松の目の前に2つの影が現れる。それにわざわざ驚くことはしない。

    「おっまたせ〜!」
    「ああ、早かったな。30分も掛かってないんじゃないか?」
    「当たり前じゃん!俺を誰だと思ってんの?」
    「ったく…ホント好き勝手暴れてくれたよね。」

    軽い口調で会話をしながらも、3人に隙は見当たらない。
    先ほど突如姿を現したのは、チョロ松のテレポーテーションーいわゆる瞬間移動ーの能力だ
    そして爆音を響かせていたのはおそ松のパイロキネシスの能力。
    彼の炎を操る力によって、今や研究所は火の海だ。
    黒煙に混ざってあまりよろしくないにおいもする。

    3人が持つ能力は今まさに脱出を図ろうとしている研究所で後天的に身についたものだった。
    幼い頃、実験材料として誘拐されて以来施設に閉じ込められ、日々投与される薬、それに伴う苦痛に耐え、能力に目覚めた後も兵器として育成されてきた。
    最近では臨床実験と称して戦場に送り込まれることも増えていた。
    幼い頃は痛みと恐怖で身体が全く動かせない日も少なくなかった。
    それでも今まで生きながらえてこれたのは、寄り添うようにして一緒に過ごしてきた兄弟の存在があったからだ。
    1人孤独に実験に耐えていたらとうの昔に発狂していたに違いない。
    肩を寄せ合い、いつか自由になってやろうと誓い合い、互いを支え合って生きてきた。
    幸いなことに研究は順調に進んだのだろう、人体兵器として少しずつ実績を積むようになってからは研究員の監視は多少緩くなっていた。
    今まで従順に命令をこなしてきたことに気が緩んでいたのだろうが、実際は従順な振りをしながら反撃の機をずっとうかがっていた。
    そして今日は反旗を翻すには絶好の日だった。
    この日、研究所の幹部以上の重役が珍しく1カ所に揃っていたのだ。

    「それで?」
    「トーゼン!幹部以上は全滅!!いや〜チョロ松が作った最短撲殺ルート通り!!」
    「撲殺じゃなくて焼殺してたけどね。あとは事情も僕らの顔もよく知らない下っ端だけだと思うよ。」
    「そうか。ならもう放っておいていいだろう。さっさと脱出するか。」
    「そうだね、僕これ以上ここにいたくないし…」
    「そういやチョロ松、なんかデータかっぱらってなかった?」
    「あー、機密情報はさすがにセキュリティ破れなかったんだけど、とりあえず取ってこれそうなデータは持ってきてみた。」
    「ちゃっかりしてんね、チョロちゃん!」

    カラ松が脱出経路の確保を進めている間、おそ松とチョロ松は移設内を引っ掻き回しながら幹部以上を問答無用で仕留めていた。
    自分達を材料として誘拐し、果ては辛い実験を強いてきた奴らだ。情状酌量の余地などない。
    強力な発火能力を持つおそ松が暴れる横で、チョロ松がスピードを生かして監視カメラや通信機器、音声記録などなどを破壊していた。
    そのついでに、研究所の取ってこれそうなデータを拝借してきたのだ。
    役に立つかどうかはわからないが。

    「まぁ、研究施設の一覧くらいは持ってこれたよ。なんだかんだで研究所は全国に散らばってる上に場所は大っぴらにされてないから少しは役に立つかも。」
    「上等上等!さ〜て、そいじゃカラ松先導よろしくな。」
    「あぁ、任せてくれ。」

    さて脱出だ。
    非常階段を駆け上り、昔閉鎖されたらしいドアを蹴破った。
    ドアの先に道はない。建物の壁だけだ。
    かつて連絡通路があったらしいのだが、撤去されてドアだけが残っていたらしい。
    カラ松がサイコキネシスを駆使してそこら中に散らばる瓦礫をかき集め、ドアの先に足場を組んで進んでいく。
    おそ松とチョロ松もそれに続いた。
    チョロ松が監視カメラ等を壊してくれたとはいえ、目に付きやすい出入り口から出て行くのはさすがにリスクがある。
    そこで目を付けたのがこの忘れられた扉だった。
    位置的に表の通りとは真反対の場所で、目下に広がるのは手入れも碌にされていない雑木林。
    高く伸び生い茂った木々に視界を遮られているため、上空からも目に付きにくい。
    瓦礫で足場を組み立てながら黙々と進み
    ー 途中でチョロ松が「この瓦礫なんか血がベッタリなんだけど?!ちょっと内臓も付いてない?気持ち悪っ!!」と文句を言っていたが勘弁してほしい。あ、そういやこっちに来た研究員瓦礫で押しつぶしたんだっけ ー
    やがて雑木林の中程に降り立つと、今度は普通に隣町の駅に向かって歩き出した。
    チョロ松の瞬間移動を使ってもいいが、場所情報が少々不明瞭だ。
    移動した先で誰かに見られても厄介なので、普通に歩くことにした。
    駅から電車に乗り、幾つか先の小さな駅で降りて、ひとまず駅前の小さなビジネスホテルで部屋を借りた。

    「チョロ松、疲れているんじゃないか?先にシャワー浴びてきたらどうだ?」
    「うーん、まぁ…そんなに心配ないよ。でもまぁ、そしたらシャワー先に借りるね。」
    「あぁ。」

    チョロ松を見送るとカラ松はベッドに腰掛けた。
    視線を上げると、おそ松は窓から外をじっと眺めている。追っ手の気配は今のところない。
    となると、この兄はおそらく…

    「一松達のことを考えているのか?兄さん。」
    「んー?…うん、そーだなー。」
    「大丈夫、きっと見つかるさ。」

    曖昧に返されたが、弟達の事を考えていたのに間違いはないだろう。
    自分達は六つ子の兄弟だった。幼い頃に誘拐されてから、下の弟達と再会することのないまま何年が経っただろうか。
    誘拐された時は6人一緒だったはずだ。そこから上3人と下3人、それぞれ別の施設に送り込まれた。

    脱出を計画して実行に移したのは、もちろんこれ以上苦痛を伴う実験に付き合いたくなかったのもあるが、何より弟達を探すためだ。
    また6人揃って笑い合うためだ。特におそ松にとっては。
    ひとまず無事に施設からの脱出を果たした今、弟達を探すという目的においては、ようやくスタートラインに立てたところだろう。
    それ以上、おそ松との会話は続かなかった。

    ーーー

    side.C

    カラ松にシャワーを勧められ、その言葉に甘えて浴びることにした。
    研究所では兄のおそ松を追いかけて暴れていたから、顔には出さないようにしていたものの、実は相当疲れていた。
    カラ松にはバレていたようだが。
    簡素なユニットバスの横に備え付けられた棚に適当に衣類をつっこみ、服を脱いでいく。
    あーさすがに血がついて汚れてるな、新しいの買わないと。
    服を脱いだら、次は左脚の義足を外した。
    そう、義足
    数年前、兵器として戦地へ送り込まれた際に不覚にも攻撃を受けてしまい、左脚の膝から下が吹き飛んでしまったのだ。
    義足を付けたばかりの頃は歩くことさえ困難だったが、今はもう慣れたものだ。慣れてしまえばなんてことはない。
    むしろ、義足だからこそ傷つくことを考えずに渾身の蹴りを入れる事が可能だと気付いたのは割と最近で、最早チョロ松の武器の1つにもなっていた。
    おそ松とカラ松があまりいい顔をしないので極力使わないようにしているが。
    ふと、左脚を失った時のチョロ松を見つめる兄達の顔を思い出す。
    おそ松の何かをぐっと堪えるような表情も、カラ松の今にも泣きそうな表情も忘れられない。もう兄達のあんな顔は見たくない。
    そのためにも、もっと強くならなければ。
    兄の中では「弟」の立場であるチョロ松は、2人の兄が無意識に自分のことを庇い、少し甘いことに嬉しさと一緒に少しの歯痒さも感じていた。
    もっと強くならなければ。兄達が頼ってくれるくらいには。
    これからの弟達を探しながらの逃亡生活を考えるなら尚のこと。
    研究所での日々は思い出すだけで反吐が出るが、折角身についた能力だ。存分に利用させてもらおう。

    チョロ松のように身体の一部を失うとまではいかないが、2人の兄も大怪我の痕がある。
    おそ松には右腕にまだ痛々しい大火傷の痕が残っているし、カラ松は背中に大きな切り傷の痕がある。
    今まで兵器として実験と戦争の最前線にいたというのに、むしろこれだけで済んでるのはある意味奇跡に近いだろう。

    おそ松から脱出を持ちかけられた時は正直少し迷っていた。
    脱出自体を迷っていたわけではない。施設からは出たかった。モルモットのように薬を与えられ、兵器として殺戮を働くような生活はもうしたくない。
    離れ離れになってしまった弟達に会いたい思いも決して嘘ではない。むしろ会いたくて仕方ない。
    だが、もし再会が叶ったとして、果たして弟達は今の自分達を受け入れてくれるだろうか。
    弟達に会いたくて仕方ないはずなのに、弟達に会う事を迷っていたのだ。
    記憶の中の弟達の姿は幼い頃のままだ。その幼い瞳に拒絶される幻覚を見たような気がして、チョロ松は深く息を吐いた。

    弟達とて、昔のままではないだろう。
    自分達と同様に人体実験の材料にされた可能性が高い。元々やんちゃだった上3人に比べ、下3人は比較的大人しかった。
    もし同様に実験体にされていたら、優しい弟達は壊れてしまっているのではなかろうか。
    もしかすると自分達のことさえ覚えていないかもしれない。
    そこまで考えて、思わずブンブンと頭を振った。今そんなことを考えるのはよそう。

    蛇口をひねるとシャワーノズルから湯が溢れ出した。
    目を閉じてそれを頭から被った。
    今日はとにかく疲れた。
    研究所の匂いも、脱出時に暴れて付着した血の匂いも、そしてもう何年も会っていない弟達に対する不安も全部洗い流したい。
    部屋から物音は特に聞こえてこない。兄達もさすがに疲れているのだろう。
    しばらくシャワーから溢れる湯を浴びていると少し気持ちが落ち着いてきた。
    適当に身体を洗うと足早にバスルームを後にした。
    入れ替わりで「次俺はいるわ〜」とおそ松がシャワーへ向かう。
    バスタオルで丁寧に髪を拭きながら部屋を見ると、カラ松はノートPCを開いていた。

    「何か調べてんの?」
    「ん?あぁ、この辺りの地図を見ていたんだ。地形の把握と…あと、そろそろ腹が減ってきただろう?買うか食べに行くかしたいんだが、この辺あまり店がないみたいだな。」
    「小さい町だもんね。このホテルのレストランとか無理なの?」
    「確認してみたんだが、予約制だそうだ。俺たちは今日飛び入りチェックインだったから急には準備できないと言われた。まぁ、最近どこもかしこも資源不足に材料不足だからな。仕方ない。」
    「そっかー…。あ、出前とかは?」
    「お?おぉ!なるほどな!!」

    カラ松が再度ノートPCに向き合う。調べてみるとどうやら宅配寿司がギリギリ配達範囲のようだ。
    少し時間は掛かるらしいが注文可能とのことだった。
    「今日は寿司だなー」なんて上機嫌な兄の姿に今まで張り詰めていた空気が緩んだ気がして少しほっとした。
    カラ松がノートPCから離れたため、チョロ松は脱ぎ捨てていた上着の胸ポケットに忍ばせていたSDカードを取り出した。
    脱出時にとりあえず持ってきた研究所のデータだ。一応中身を確認するために接続し、順番にフォルダをクリックしていく。

    研究所の見取り図、もう潰したから必要ないな。
    研究員の名簿、僕らがいた研究所に勤務する人だけのようだ。一応取っておくか。
    同一機関の研究所の一覧とその住所、…結構な数だ。
    この一覧をしらみ潰しに探っていけば弟達にたどり着くだろうか。
    もしかしたら彼らも自分達を同じように抜け出しているかもしれないが何かしらの痕跡が掴めればいい。
    今弟達につながるヒントはこの研究所の一覧だけだ。

    「チョロ松、ここから一番近い研究所はどこになる?」
    「ちょっと待って、結構数があるから検索かけないと難しい。」

    宅配寿司の注文を終えたカラ松がいつの間にか画面を覗き込んでいた。

    「今はここから手掛かりを手に入れるしかないな。地道にやっていくしかないか。まぁ、きっといつか会えるさ。」
    「カラ松のその根拠のない自信はどこからくるワケ?」
    「何故なら俺たちは選ばれし六つ子だからな!」
    「答えになってねーよ!」
    「フッ…これ以上の理由は必要ないだろう?マイブラザー。」
    「うっさいわボケ。あとイタイ。」
    「え」

    兄にツッコミながらカタカタとキーボードを叩く手は止めない。検索してみると、ここから一番近い研究所は隣県の田舎町にあることがわかった。
    とりあえず本格的に動き出すのは明日からだろう。今日はひとまず休息だ。
    おそ松がシャワーを浴び終え、今度はカラ松がバスルームへ向かう。
    カラ松が出てきて少し経ってから宅配寿司が届いた。寿司なんて久々だ。

    「うっし。今日は何も考えずに飲んで食って寝るぞー!」
    「ハメ外さないでよ?」
    「わーってるって!」
    「ところで代金どうしたんだ?ここの宿泊代も。」
    「あ、それな。研究所の金庫ブチ破ってくすねてきた。」
    「さすがだな、兄貴…!」
    「持てるだけ詰め込んでるの見た時はうわぁ…って思ったけど、まぁおかげでこの先困らないよね。」
    「おーもっと俺に感謝しろよ!…あ。そういや研究所の場所調べてくれたんだって?」
    「うん、N県にあるのがここから一番近いみたいだよ。」
    「んー…じゃぁ準備整えたら明日はN県に移動するか。」
    「了解。」

    明日の予定を話し合いながらも、久々にのんびりした食事を終えた3人は他愛のないやりとりをしながら眠りについた。

    ーーー

    side.T

    暗い、何も見えない、何も聞こえない、暗い、怖い、暗い…。
    おかしいな、何も見たくなかったし何も聞きたくなかったはずなのに、どうしてこんなに怖いんだろう。
    目の前は真っ暗だ。そして痛いほどの静寂に包まれている。いや、実際は何も見えてなくて何も聞こえていないだけの話なんだけども。
    手探りで歩いてみると、3歩程歩いたところでゴトリと音がした。何かにぶつかったようだ。
    思わず前につんのめる。手をついた先は柔らかな感触だった。
    途端に視界がクリアになり様々な音も耳に流れ込んできた。
    手元を見ると、よろけて手をついた先は2つ上の兄が眠るベッドの上だった。
    そして足にぶつかったのはどうやらベッドの脚だったらしい。
    すうすうと規則正しく寝息を立てる兄に起きる様子は見受けられない。もうかれこれ30時間は眠り続けている。

    「…?」
    (大丈夫だよ、十四松兄さん。ちょっと暗くてびっくりしちゃっただけ。起こしちゃってごめんね。)
    (大丈夫?トド松。気をつけてね?)
    (うん、ありがと。)

    心配そうにこちらを見上げてきた1つ上の兄の脳内に直接メッセージを送り込むと、同じように自分の脳内に返信が届いた。
    1つ上の兄、十四松はトド松がいる場所とは反対側のベッドの縁に突っ伏してウトウトしていたようだ。
    何故か袖口が長いため手が隠れて見えないが、その腕は眠る一松の頭を抱え込んでいるように見える。

    幼い頃に連れてこられた人体実験の研究施設。度重なる実験により、トド松はテレパシーを身につけた。
    所構わず道行く人のありとあらゆる心の声がひっきりなしに聞こえてしまう状態に陥ったトド松は必死に耳を塞いだ。
    極力人のいる場所を避け、気休めではあるがヘッドホンで耳を塞ぎ、逃げるように部屋の隅に蹲った。
    心を開けるのも2人の兄だけ。兄達はそんなトド松を心配し、ずっと側にいてくれた。
    兄達の心の声は優しくて心地良い。
    早い段階で能力が身に付いたが、まだ幼かった身体と心は早々に悲鳴をあげたようで。
    兄達以外の声は聞きたくない、何も見たくない、と次第に精神を病んでいったトド松は、能力の負荷もあってやがて視力と聴力を失っていた。
    見える世界はボンヤリと霞み、色が無いし、聞こえてくる音も微かなものだ。
    今や立派な障害者だが、幸いなことにテレパシーによって兄達と触れ合っていれば兄達が見ている世界を一緒に見聞きすることができた。
    少々不便ではあるが、自分にはこれで十分だ。
    ある程度能力の制御ができるようになり無闇に人の心の声を受信しなくなった今でもヘッドホンは手放せないし、心を開くのも兄達だけだ。

    そんな兄達も人体実験によって能力を身につけさせられたのと引き換えに身体のどこかしらに支障をきたしている。
    先程から眠り続ける兄、一松はクレヤボヤンス、いわゆる透視とか千里眼とか言われる能力が身についた。
    一松の脳内にはあらゆる場所の映像がノンストップで送り込まれ、限界に達した一松の脳は生活行動を拒否してしまった。
    以来、一松は1日の大半を眠って過ごしている。この施設に連れてこられた当初から、弟である十四松とトド松に過酷な実験が当たらないように庇い続けてきたダメージもあったのかもしれない。
    たまに空腹等で目を覚ますことはあるが、生きるための簡素な食事を済ませて栄養を摂ったと判断するとまた寝てしまう、という繰り返しだ。
    眠っている間も一松は千里眼で世界中を見渡し続けているのだが、それを自分で伝えることができない。
    そこで、トド松のテレパシーの出番だ。テレパシーで一松に話しかければ、浅い眠りの場合は受け答えが可能だ。
    一松が見た景色をそのままトド松も見ることができる。

    十四松の能力は未来予知だった。前触れなく突然未来のビジョンが見える能力だ。
    それは数時間後だったり、はたまた数年後のこともある。
    稀有な能力であったが、今は世界大戦真っ只中だ。十四松が見る未来のビジョンは大抵が凄惨な現場だった。
    明日、この人が殺される。3日後、あの街が襲撃にあって壊滅する…。
    未来を口にすることに恐怖と罪悪感を覚えた十四松は、いつしか喋ることができなくなってしまった。
    さらに、己を守る為の術だったのかその精神は幼い時のまま時間を止めているかのようだった。
    口調も仕草も何もかも幼い彼は、ともすれば最も自我が危うい。
    十四松は兄と弟が優しく握る手によって辛うじて自己を保っている状態だ。
    そして、そんな十四松が見た未来のビジョンを受け取るのもトド松だった。

    一松と十四松の見た景色を受け取り、伝えるのはトド松の役目だ。
    2人の見た景色を共有できる。2人と会話できるのは自分だけ。
    その事実にトド松に少しの優越感を抱いていた。

    起きていることができない一松
    まともに喋ることができない十四松
    視覚と聴覚をほぼ失っているトド松
    能力の代わりとでもいうように何かを失い、1人で満足に生活できない3人は、研究員からすれば失敗作であった。
    それでもその能力の精度はある程度の評価を得ているようで、十四松が予知した内容から一松が関係する場所を見渡し、2人から情報を受け取ったトド松が伝える、という連携で研究所に届く指令をこなしていた。
    正直従いたくないのだが見切りをつけられて捨てられたりすると、自分達の力では生き抜くことができない。
    不本意だがここで与えられる仕事をこなして、検査と称した実験台に付き合いさえすれば、最近は割と自由に動けるため、この状況に甘んじている。

    3人一緒に部屋の隅でぼんやりしていると、十四松が話しかけてきた。
    いつでも会話できるように、トド松は兄達に対してはテレパシーを発動しっぱなしだ。
    無論、他の雑音はシャットアウトしているが。

    (ねぇ、一松兄さん、トド松)
    (…どうした?)
    (なあに?十四松兄さん。)
    (あのね、さっきゆめを見たんだ。これからおこることなのか、そうじゃないのかはちょっとよくわからないんだけど。)
    (どんな夢だったの?)
    (えっとね、だれかが、おれたちのことをね、さがしてた。そのひとたちね、おれたちにそっくりなかおしてたんだよ!
     それも3にん!でも、そっくりだったけど、おれたちじゃなかった。
     おれたちよりカッチリしたからだしてたかも。
     でね、そのそっくりさんたちが、おれたちをいっしょうけんめいさがしてるの。)
    (………。)
    (だれだかわからなかったけど、でも、なんか、とてもなつかしい、ようなきがしてね
     そのひとたちに、はなしかけようとしちゃったんだけど、そのまえに、めがさめちゃったんだ。)
    (…結構具体的だね。)
    (僕たちにそっくりな人達かぁ〜。予知だったらどうする?)
    (でもね、めずらしく、コワイゆめじゃなかったんだよ!こわくなかったから、へいき!)
    (そっか。今日は怖い夢見なかったんだ。よかったね、十四松兄さん。)
    (うん!)
    (まぁ、それなら今はそんなに気にしなくていいんじゃない。話してくれてありがと、十四松。
     また似たような夢みたら教えて。)
    (あいあいさー!おれやきゅう!いってくる!!)
    (行ってらっしゃい。)

    会話はそこで終わったが、トド松は十四松が夢で見たという「自分達にそっくりな3人」に思い当たる節があった。
    それは、おそらく一松も。
    十四松が出て行ったのを確認して、トド松はそっと一松に話しかけた。

    (一松兄さん、まだ起きてる?)
    (起きてる。身体は寝てるけど。)
    (見れば分かるよ。ねぇ、さっきの十四松兄さんが話してくれた夢のことだけど…)
    (うん?)
    (僕たちってさ…僕ら以外に、その、兄弟がいたりする…よね?)
    (トド松は覚えてるの…?)

    一松に問いかけると、返ってきたのは返答ではなく問いかけで、しかしその口調から、自分の言ったことに間違いはないとなんとなく確信できた。
    自分達は六つ子だった。朧げにしか覚えていないが、他にあと3人の兄達がいたはずだ。
    十四松が夢で見た3人はきっとあの日生き別れた兄達に違いない。夢を見た張本人の十四松はどうやら兄達の記憶はないようだが。

    (ボンヤリとだけど…6人一緒にいた記憶があるんだ。)
    (そう…。トド松は覚えてたんだ。十四松は覚えてないみたいだから、なんか勝手にトド松も忘れてると思ってた。)
    (じゃぁ、やっぱり…!)
    (うん、十四松が見たのは、多分だけど、予知夢だと思う。おそ松兄さん達が、僕たちを探そうとしているのかもね。)
    (十四松兄さんにはこのこと伝えるの?余計なこと、言わない方がいいかな…。)
    (…そう、だね。ちょっと様子見ることにする。今変に伝えてパニック起こしても厄介。
     それに、兄さん達が僕らを探してるの予知したなら、また似たような予知するかもしれない。
     その過程で、十四松も何か思い出すかもしれない。)
    (うん…。)
    (自然に思い出してくれたら一番だけど。)
    (うん、そうだね…。)

    精神が幼いままの十四松は兄達のことを覚えていない。
    懐かしく感じた、と言っていたから完全に忘れたわけではないだろうが。
    能力に目覚めてから、自我が不安定な十四松に、いたずらに他の兄弟のことを伝えない方がいいだろう。
    もしそのせいでパニックに陥れば、それこそ十四松は自我を亡くしてしまうかもしれない。
    一松とトド松はそう判断した。
    …もし、兄さん達に会えたらどうするの?
    トド松はもう一度一松に話しかけようとしたが、本当に眠ってしまったのか返事はなかった。

    自分達を探している兄達。
    もし、奇跡的に再開できたとして、こちらに手を差し伸べられたとして
    果たして自分は素直にその手を取ることができるだろうか。
    そして、2人の兄はどうするのだろうか。
    この研究所に連れてこられてから、3兄弟の兄として研究員を前に矢面に立ち、トド松と十四松を支え続けてきてくれた一松と、いつも兄弟には笑顔を向けてギュッと手を握ってくれていた十四松。
    正直、自分はこの2人とさえ一緒にいられれば、それでよかった。
    2人の大切な兄の顔を思い浮かべながら、やがてトド松も眠りに落ちていた。


    続くのか続かないのか…

    ーーー

    一応のキャラ設定

    六つ子は幼少時に超能力者生産のための人体実験施設に被験体として目をつけられて誘拐された。
    (一卵性の六つ子という珍しさ、それ故遺伝子レベルで同じ兄弟のため対照実験の材料になると考えられたため)
    両親はその際抵抗したために殺害されている。
    誘拐後は兄組、弟組に分けられ、それぞれ別の研究室に送られた。
    兄組と弟組は顔を会わせることのないまま、十余年が経過している。

    ○兄組
    主に戦場で戦う人体兵器としての研究を行う施設に送られた。
    3人それぞれが攻撃型の能力を身につけさせられ、また戦いの最前線で暴れてもらう想定だったため、軍事機関で身体も同時に鍛えられていた。
    実験中は生傷が絶えず身体ダメージが甚大だった。
    能力が成長し、兵器としての成果と実績を積み上げるにつれ自由行動を許される時間も増えてきたため、能力を使うことのない時間は割と普通の生活をしている。
    監視の目が緩んできたタイミングを見計らって3人で研究所を壊滅させて脱出。
    以降追っ手を撒きつつ、ついでに各所の同一機関の研究所も壊しつつ、弟達を探して各地を転々としている。
    割と弟達に執着してる。

    おそ松
    能力:パイロキネシス(発火能力)
    最も攻撃に特化された、最も強力な能力。
    自身が持っていた戦いのセンスも相まって戦場ではほぼ無敵。
    基本的に身体から炎を出してそれを操って攻撃する。武器があればそれに炎を纏わせることも可能。
    手に持てるものは大抵武器にしてしまう。
    また、触れたものをジリジリ燃やしたりすることもできる。
    タバコの火をつけたり、チャッカマンの代わりになったり、打ち上げ花火の真似事したり、割としょーもないことにも惜しみなく力を使っていくスタイル。
    実験中に力が暴走して右腕に大火傷を負った痕が残っている。
    研究所からの脱出を提案した張本人。
    弟達はみんな大切。6人全員でまた集まりたいという思いがとても強い。
    普段はチョロ松に色々丸投げだがなんだかんだ頼りになる長男。
    カラ松とチョロ松に対しては文句を言い合いながらも絶対の信頼を置いている。

    カラ松
    能力:サイコキネシス(念力)
    物や人を手を使わずに動かす能力。
    動かせるものはカラ松自身の気の持ちようでいくらでも持ち上げられる。
    元より腕力があるためかなりの重さであっても動かすことが可能。
    ブン投げたり、壊したり、潰したり、おそ松が出した炎も動かしたりと非常に応用がきく能力。
    おそ松と共に戦場に立ち、兄をフォローしつつも怪力で暴れ回っていた。
    臨床実験中に事故に遭い、背中に大きな切り傷がある。
    離れ離れになった弟達のことを常日頃から案じており、おそ松が脱出と弟達の捜索を提案した時はすぐさま賛成した。
    兄を頼りにしつつ、強大な力を持つ兄が暴走しないようにさりげなく目を光らせている。
    イタイ発言しつつも、兄弟のことはよく見ており、冷静に物事を捉えている。
    優しい性格だが切り捨てた存在にはどこまでも非常になれる。

    チョロ松
    能力:テレポーテーション(瞬間移動)
    攻撃型の兄組の中でも比較的隠密向きでサポート寄り。
    高速で動き回り、相手を翻弄して戦う。
    瞬間移動するには移動先の地理情報が明確に頭に入っている必要がある。
    また、移動距離が長ければ長いほど負担がかかる。
    手を取るなどしてチョロ松に触れていれば他の人も一緒に移動することが可能。
    兄達のように攻撃系の能力ではないため、主な攻撃手段は銃火器。
    兄弟の中でも銃の扱いが一番上手い。
    戦場に送り込まれた際に攻撃を受け、左脚の膝から下を欠損。以降義足で生活している。
    リハビリによって生活は問題ない上、むしろ武器化している。
    ただし義足で蹴りを入れる攻撃はおそ松とカラ松があまりいい顔しないので控えてる。
    おそ松に脱出を持ちかけられた時は、迷いながらも結局賛成して計画を考案した。
    口には出さないが、無鉄砲気味な兄2人のことをいつも心配している。
    率先して弟探しをしているものの、今の自分達を受け入れてくれるのか、またどう接すればいいのかと色々と思案しては葛藤している。

    ○弟組
    主に諜報活動のための能力を研究を行う施設に送られた。
    兄組に比べ、身体ダメージは少ないが、脳への負担が大きく、3人とも能力と引き換えに何かしらの障害を負っている。
    互いの能力が互いに大きく作用し合うため、基本的に3人一緒に行動する。
    と、いうより3人一緒でないと動けない。
    兄組と同様に自由時間はそれなりにあるが、上記の理由から外へ出かけることはほとんどなく、部屋の中や施設内の許可されたエリアで3人かたまって過ごすことが多い。
    互いの依存心が非常に強い。兄弟間の会話はもっぱらトド松の能力によるテレパシー

    一松
    能力:クレヤボヤンス(千里眼)
    一度行ったことのある場所や十四松、トド松がいる場所の現状を見渡すことができる。
    写真や座標などの地図情報があれば行ったことのない場所でも透視可能。
    脳内に大量に送られてくる情報量に耐え切れず、脳が生活行動を拒否し睡眠時間が1日の大半を占めている。
    長くても起きていられる時間は1日1時間程度。全く目覚めない日も少なくない。
    普段は眠ったままベッドや車椅子の上。大体十四松が介助している。
    眠っている間であってもトド松の能力を介して兄弟とは会話可能。
    兄達のことはしっかり記憶に残っている。その気を出せば能力で兄達を探索可能だが、弟2人を最優先しており今のところ探す気はない。
    弟達を支えつつも一松自身も支えられている。
    ちなみに、トド松のテレパシーで心の声まで読み取られてしまうため、捻くれても意味がないと諦めているのか多少素直。

    十四松
    能力:プレコグニション(予知)
    対象の人物や場所、物の未来に起こりうる事象を予知する。
    一松の能力で得た情報をトド松に送ってもらうことでより明確な予知が可能になる。
    未来に起こることが分かってしまうこと、それを口にすることへの恐怖心に心が悲鳴をあげてしまい、喋ることができなくなってしまった。
    また、精神が幼いまま成長していない。
    口から出るのは「やきう?!」「ハッスルハッスル!」等のあまり要領を得ない言葉がほとんど。
    その他簡単なあいさつ程度ならトド松と練習して一応できるようになった模様。
    予知した内容はトド松のテレパシーで伝えてもらっている。
    体力は有り余っており丈夫な健康優良児なので普段はトド松と一緒に一松の車椅子を押しながら施設内を走り回ったりしてる。
    兄組のことはほとんど覚えていない。というより、誘拐時の恐怖を思い出したくなくて記憶に蓋をしている。
    自分の力で満足に動けない兄と弟を守らなければと云う使命感と、この2人に必要とされていると感じることで自己を保っている。
    兄弟と引き離されると真っ先に壊れそうな子。

    トド松
    能力:テレパシー
    心の声や相手の見た景色、聞いた音を直接相手の脳に送り込む、または受信する。
    眠っていることが常な一松と、満足に喋ることができない十四松から情報を受信し、外部へ伝えている。
    普段受信する内容は心の声であることが多いが、兄弟間だとそれに加えてクリアな映像も一緒に送られてくることがある。
    (千里眼で見た景色であったり、予知した事象であったり)
    一松が能力で互いの場所を把握してくれていれば多少場所が離れていても対話が可能。
    ある程度制御できるものの、気を抜くと自分の意思とは関係なく道行く人の心の声が流れ込んでくるため、人混みが嫌い。
    そのことに悩みつつも気丈に振る舞っていたが、精神ダメージが身体へ支障をきたし、視力と聴力が著しく低下してしまった。
    また、受信数が限度を超えると高熱を出して倒れてしまう。
    低下した視力と聴力は一松か十四松に触れることで補うことができる。
    ほとんど言葉によるコミュニケーションができない兄達に代わって、自分がしっかりしなければと思う一方で
    見えない、聞こえないことにより暗闇と孤独を極端に怖がるため兄弟の側を離れられない。
    普段は一松、十四松と一緒に過ごしながら買い物(ネットショッピング)したり2人の服を選んでコーディネートしたりしている。
    ヘッドホン着用。
    兄2人に対しては常にテレパシーを発動していつでも会話できるようにしている。
    兄組のことはボンヤリと覚えてはいる。
    でも一松と十四松がいてくれればいいや、という思考のため探そうとはしていない。


    ……お粗末さまでした。
    焼きナス
  • 医者ロックネバーダイ #おそ松さん  #カラ松  #一松  #医者ロック  #二次創作  #自分絵手首食べる
  • お仕え狐 #おそ松さん  #一松  #カラ松  #二次創作  #自分絵手首食べる
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  • 大天狗チョロたん闇 #おそ松さん #妖怪松 #チョロ松 ##おそ松さん
    半年ぶりくらいに描いた~

    健康って大事ですにゃ~
    日常生活で手一杯で趣味関係全放置でした(^_^;)

    途中描いてみようと思ったけど何も浮かばないし手も動かないし、このまま描けなくなっちゃうのかと焦りましたが、時間が解決してくれました。元気になってくると余裕もでできて色々やってみようとなるもんですね。

    ギャレリアの画面も投稿フォームも様変わりしてて驚いた~
    画像投稿しないでアップしてしまったあとの編集とかワケわからんくて消してやり直し(^_^;)

    #おそ松さん  #チョロ松  #妖怪 ##おそ松さん
    みくりぃあ
  • 3初投稿です(≧∇≦)よろしくお願いします!

    #おそ松さん
    nanana14
  • 友人に贈る一松 #おそ松さん  #一松モリータ.A
  • 4おそ松さん ##二次創作

    1期の時になんとなくで描いたもの。
    特に推し松は居ないけどクズ人間が好きなのでまぁみんな好きです。
    あ、やっぱトト子ちゃんが一番好き。


    #おそ松さん
    #カラ松
    #チョロ松
    #一松
    #十四松
    #トド松
    あきひか
  • 一松 #おそ松さん #松野一松 ##版権
    一期一松の好きな表情を自分絵で。
    黒原黒哉
  • 5おそ松ログ #おそ松さん白菜くコ:彡
  • ふゆの朝ごはん #十四松 #一松 #おそ松さん #エスニャン
    松友への寒中お見舞です。今年はなぜかリクエストが全員十四松で一致したので十四松です。で、十四松だけじゃ物足りなかったので一松兄さんとエスニャンも描いてみました♫
    ぴぐもん
  • 3ちょうけい去年の投げとく
    #おそ松さん
    冬 湖
  • ポセカラ #ポセカラ #カラ松 #おそ松さん ##おそ松さんみかんまん
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