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    神の系譜エデンの園には帰らない因果応報登場SCP一覧
    エデンの園には帰らない 凍てつく石棺の蓋が開くと、石棺を内包する奇妙な模様の刻まれた立方体から≪人の形をした殺戮衝動≫が歩み出た。高い身体能力を買われ機動部隊Ω-7の一員となってから、もう何度目の≪朝≫だろうか。死すれども無尽蔵に蘇る彼にとっては本来脅しにすらならないはずの起爆装置付きの首輪の感触にもすっかり慣れたある日、いつも通り蘇生した彼は次の任務までどのように暇を潰すかを考えていた。
     以前とは違い彼の内に渦巻く殺人への欲求はプロジェクト責任者との契約により不用意に発揮することは禁じられており、ゆえに別の形で発散する必要があるのだ。同部隊に所属する隊員を交えた戦闘訓練や、盤上遊戯等の平和的な勝負が主な代替案として実施されている。今日はあの研究員上がりの男に例の盤上遊戯の再戦を挑もうか、と思い至ったところで彼は視界の端に一人の男を捉えた――全能なる創造主にして彼の祖父に当たる者、SCP-343が突如姿を現した。普段はサイト17内の一室に大人しく収容されているが、財団がSCP-343に対して厳しい態度をとらないのをいいことに、時折気まぐれに外出しているのだ。
     祖父との再会は刺青の戦闘狂にとっては喜ばしい出来事では無いらしく、顔をしかめて彼は言った。
    「こんなところに何の用だ。」
    「そう警戒するな、久方振りに孫と話をしに来ただけだよ。」
    「私は今更お前に用などない。」
     Ω-7の主力兵器が床に唾を吐き捨て立ち去ろうとすると、創造主はすぐさま呼び止めて問う。
    「アベル。お前は今も、あの日のことで私を恨んでいるのか。」
     神の孫は問いかけに足を止め振り返る。アベルは自身を突き動かす憎しみの根源は血縁上の兄――彼にとっては顔どころか名前を思い出すだけでも虫唾が走るあの男――に殺害された過去であると確信している。そしてその原因を作ったのは、他ならぬ祖父の気まぐれであった。それさえ無ければ、自分も兄も今とは違った平穏たいくつな人生を歩んでいたであろう。
     だがそれも黒髪の偉丈夫にとっては瑣末さまつなことだ。自らの内に宿る衝動自体にも、屍を積み重ねていくことによってのみ築き上げられる己の人生にも特に不満など無かった。しかし、全知全能と謳われる者がこのような殺戮兵器を作り上げるきっかけとなった過ちを犯した事実を嘲笑ってやりたい気分ではあった。好戦的な灰色の眼光を祖父へと向けてSCP-076-2はわざとらしく口角を目いっぱい上げた。
    「まさか。しかし愚かなものだ。あの時お前が信奉者たちの捧げた供物を等しく受け入れてさえいたなら、人が増えた後も世界は平和なままであっただろうになァ?」
    「……お前はわかっていない、何もわかってはいないのだアベル。お前の兄・カインもかつてはそうだった。」
     そう言い返されたアベルは自身の思考の埒外に位置する返答に当惑し、同時に名状しがたい不快感に苛まれた。そんな彼の様子に構わずSCP-343は付け加えた。
    「憎しみを捨てよ、そしてこれ以上罪を重ねるなわが孫よ。さもなくばお前の魂が救われる日は永久とわに来ない。」
    「……この私に剣を捨てろと?」
     冗談じゃない。
     この胸にこびりついた憎悪が、己が身を焦がさんばかりの戦意こそが、私が私であることの証明なのだ。それを捨て去ることこそ私の魂を救いから遠ざける行為にほかならない。全知全能などと称えられる癖に、その程度のことも理解できないのか。
     怒りを激発させたアベルは瞬時に間合いを詰めつつ右手の周囲の空間から自身の得物である黒い剣を取り出して振り上げたが、振り下ろされる前に剣はたちどころに消え去った。SCP-343には眉一つ動かした形跡さえ無く、仮にも全知全能と称される者に挑むことの無謀さをアベルは即座に思い知った。舌打ちをすると神の孫はそれ以上言葉を交わすことなく祖父に背を向けて歩み去った。神もそれ以上孫を引き留めはしなかった。

    「予定変更。今日は無性に体を動かしたい気分だ。」
     祖父との会話の後暫く拠点の廊下をあてもなく歩き回っていたアベルはそう呟き、近くを通りがかったΩ-7隊員に実弾と訓練用の武器を確保するよう要求するとともに隊員全員の召集を命じた。

    終わり
    因果応報 アベルとカインを接触させてはならない。
     それは機動部隊Ω-7の運営においてきわめて重要な取り決めであった。しかし、ほんの少しの手違いによって二人はこの日顔を合わせることとなってしまった。
     Ω-7の駐屯地内の廊下で、SCP-073はSCP-076-2と遭遇した。後者が苦虫を噛み潰したような表情であったのとは対照的に、前者は真顔であった。数秒間の睨み合いの後、SCP-073は口を開いた。
    「聞いたぞ、書類の整備中に研究員たちを殺めたそうだな。」
     カインが問うと、アベルは不機嫌そうに鼻を鳴らした。
    「それがどうした。」
    「無意味な殺害は止めるんだ、アベル。君が恨むのは私だけで充分だ。そうだろう?」
     冷厳な青色の眼差しをものともせず、黒髪の狂戦士はきっぱりと言い放つ。
    「ああそうだよ、私が恨んでいるのはお前一人だけだ。虫けらども相手にそんな御大層な感情など抱いてはいない。」
    「それならば――」
    「だからこそ私はお前の望まないことをしているんじゃあないか、カイン。」
     下卑た笑みを浮かべてアベルはカインの額を右手の人差し指でつついた。
    「お前が二度と他人を傷つけたくないと望むゆえに、私は殺し続ける。お前が過去を清算し兄弟の絆を取り戻すことを願う限り、私はお前への憎しみを捨てない。恨むのなら、お前にその忌々しき加護のろいを与え給うた神を恨むのだな。それさえ無ければ、とうの昔に私がお前を八つ裂きにして全てを終わらせることもできたろうになァ?」
    「……!」
     次の瞬間、SCP-076-2とSCP-073の接触が感知されたために警報が館内に鳴り響く。Ω-7の主力兵器はオブジェクト情報のバックアッパーから離れ、肩を竦めて呟いた。
    「……おっと、タイムアップだな。さらば原初の罪人つみびとよ、願わくはその不愉快なツラを拝む日など二度と訪れぬことを。」
    「待つんだ、アベル!」
     カインの呼びかけも虚しく、アベルは大股で歩み去っていく。カインの身を案じた同僚たちが駆けつけるまで、彼は弟の背を見つめて立ち尽くしていた。

     自身の収容室に戻ったカインは暫くの間、変わり果ててしまった弟との再会の余韻に浸っていた。
    「……因果応報、か。」
     良い行いをすれば良い報いを、悪い行いをすれば悪い報いを受ける。そういった意味合いの、東洋の異教徒に伝わるこの教えがカインの脳裏に木霊こだまする。かつて受け入れるべき言葉を受け入れず、憎むべきでない者に憎しみを抱いた挙句、自らの過ちを隠匿しようとした。ゆえにあらゆる植物を枯らす呪いを授かり、加護と引き換えに楽園から追い出され、蘇った弟は自分の知る弟ではなくなってしまった――それらはまさしく因果応報であった。
     だが、アベルは違う。生前の彼に咎は無かった。カインの因果の報いに巻き込まれたために、兄への懲罰装置となるべく自身の因果さえ塗りつぶされてしまった哀れな被害者なのだ。今後どれほどの善行を積めば弟を救えるのだろうか。カインの頭脳をもってしても青写真はぼやけたままであった。
     原初の罪人はふと窓ガラスに反射する自身の鏡像に目を遣った。
     弟を殺しておきながら、厚顔にも自分は他人から殺されるのを恐れて神に懇願し加護を得た。そのせいで、兄弟揃って終わらない苦しみを背負うはめになったのだ。
     カインは右手で自らの額に刻まれた印に触れ眉間に皺を寄せた。
    「……確かに、君の言う通りこれは呪いのようだねアベル。」

    終わり
    登場SCP一覧タイトル: SCP-073 - "カイン"
    原語版タイトル: SCP-073 - "Cain"
    訳者: 訳者不明
    原語版作者: Kain Pathos Crow
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-073
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-073
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: SCP-076 - "アベル"
    原語版タイトル: SCP-076 - "Able"
    訳者: 訳者不明
    原語版作者: Kain Pathos Crow, DrClef
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-076
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-076
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: SCP-343 - "神"
    原語版タイトル: SCP-343 - "God"
    訳者: 訳者不明
    原語版作者: Unknown Author
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-343
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-343
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: 機動部隊Ω-7事件記録
    原語版タイトル: Mobile Task Force Omega 7 Incident Log
    訳者: Red_Selppa
    原語版作者: DrClef
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-076-2
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-076-2
    作成年: 2016
    原語版作成年: 2010
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: エージェントAAの個人的記録
    原語版タイトル: Personal Log of Agent AA
    訳者: amamiel
    原語版作者: DrClef
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/log-of-agent-aa
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/log-of-agent-aa
    作成年: 2016
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0
    月城 衛@月光城塞 Link Message Mute
    2024/02/10 17:33:13

    神の系譜

    #二次創作小説 #SCP #SCP_Foundation #小説 #二次創作 ##ノベルス #10~2000字
    SCP-076-2【アベル】と(元)家族の関係性について想像してみました。次回は機動部隊Ω-7関連の話を書く予定です。
    ①『エデンの園には帰らない』本文:約1千7百文字
    ②『因果応報』本文:約1千4百文字 この話をベースに動画を作りました→https://www.nicovideo.jp/watch/sm43658560
    ※作劇の都合上、アベルに比較的理性があった頃(Ω-7時代)を想定しています。
    ※筆者の個人的な好みから、“ダエーバイト文明”関連のカノンは採用していません。
    ※アベルとカインが仲違いする元凶となった事件については【聖書の『創世記』の本文から読み取れる内容のみ】をベースに考察しています。

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