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    産めよ、増えよ、地に満ちよ本文登場SCP一覧
    本文 この日、機動部隊Ω-7の滞在しているサイトのラウンジでささやかな事件があった。Ω-7を率いる黒髪の戦闘狂が――あのアベルが、ラウンジのソファーにアダルト写真集を持ち込み真剣な様子で読みふけっていたのだ。Ω-7の面々は皆動揺していた。あの人型兵器にもそういう類の興味関心があったのか、だとしても何故人前で堂々とあんな物を見ているのか、まさかΩ-7内にそういう対象がいるのか……。数々の憶測と疑問が一同の間に湧き上がるも、真相を本人に確かめようとする勇者は中々現れなかった。
     コーヒーを淹れるために席を外していたΩ-7第二のSCP・アイリスは同僚たちから一足遅れて≪事件現場≫に到着した。何故かラウンジの隅に集まって一点を凝視している彼らに声をかけた彼女は、渦中の人物とその手に収まっている物品を見るなり顔をしかめた。
    「……どうしてアベルがあんな本を読んでいるの?」
     彼女の問いへの返答の代わりに、同僚たちは一様に肩を竦めた。誰もがそれを知りたがっている。が、不用意な発言をしてアベルの機嫌を損ねることは避けたい。とはいえ、“こういう物品で暇潰しをする際にはTPOを弁えなければならない”という人間社会における最低限のルールくらいは教えるべきではないのか――そういった方面で一同の意見は固まり、最終的にエージェントAAが≪教育係≫の任を果たすこととなった。
     彼は正直なところ極力この≪人の形をした殺戮衝動≫とは距離を置きたかった。かつて心理分析を目的として初めて対面した際にアイスブレイクとして実施したボードゲームが原因でうっかり血に飢えた化け物に気に入られてしまったことは彼の人生における最大の誤算と言っても過言ではなかった。しかしながらこの化け物が一度囲い込んだ獲物を手放すはずは無く、逃亡を許すことも無いのは明白であったため、彼はせめてあまり目立たないようにしたかったのだが……運命とやらはとかく彼を嫌っているらしかった。
     断頭台に向かう死刑囚のような面持ちで近づいてくるエージェントAAを視界に捉えると、アベルは顔を上げ、わずかに口角を上げた。
    「おや、■■■■■■。丁度いいところに。君の知恵を見込んで一つ聞きたいことがあるのだが……。」
     この局面で“知恵を見込んで”、とは一体どんなえげつないことを聞くつもりなのかと一同は身構える。しかし次の瞬間、アベルの口からは予想だにしない言葉が滑り落ちた。
    「……この≪奇妙な画集≫の一体何が面白いのだろうか。」
    「わからずに読んでいたのかい!?」
     Ω-7のブレインが素っ頓狂な声を上げると、隊員一同の緊張した面持ちは一転してマヌケ面になった。黒髪の戦闘狂は部下たちの行動原理が理解できず、そのまま会話を続行した。
    「ドクター・ブライトに『とても面白くて楽しい本だ』と手渡されたので読んでみたが……もちろん理解をしようとはした。だが、どうにも私の脳では力不足であるようだ。」
     想定外の返答にエージェントAAを含むΩ-7一同は言葉を失った。
     聖書の『創世記』の記述によれば、確かにアベルは童貞のままで殺害されたと解釈できるが……それにしたって無知過ぎやしないだろうか。どうやら彼は一度目の死から蘇って以降、本当に破壊一筋の人生を歩んできたらしい。
     エージェントAAはしどろもどろになりながらも、それが“子供を授かるための本能的な行動であり、同時にある種の快楽を得るための手段でもある行動”を記録したものである旨を伝えた。一通り説明を聞いたアベルは涼しい顔で無味乾燥に呟く。
    「なるほど、私には縁の無いものだ。」
     それはそうだ、と≪教育係≫は思った。
     アベルにとって快楽とは剣を振るい敵の血を浴びることと彼と渡り合える強い敵手と戦うことの他には、精々とある箱から無制限に生成される肉満載ピザを食べることくらいだ。彼の内にある唯一のポジティブな感情は好敵手への敬意――幾度も交戦しては相打ちを繰り返してきた“不死身のドラゴン”であったり、Ω-7結成以前に彼を幾度も再収容した今は亡き凄腕エージェントであったり、平和的な勝負ではあったもののアベルに勝った俺やアイリスであったりに向けられるギラついた感情だけであり、一般的に人間が持つはずの愛だの性的な関心だのは微塵も持ち合わせてはいない。SCP-076の報告書にもその辺はしっかりと書かれていたはずなのだが、ブライト博士は一体何を考えてこんな物をアベルに与えたのだろうか。
     Ω-7で一番フィジカルの弱い男は返答に窮して締まりのない表情かおで頭を掻いた。
    「ただ、」
     当惑して立ち尽くすエージェントAAを見上げ、アベルは穏やかに微笑んで言った。
    「君たちのような素晴らしい者の血が後世に受け継がれていくのは喜ばしいことだ。存分に励むといい。」
     灰色の目の奥には戦場で好敵手を見つけた瞬間の歓喜にも似た鋭利な輝きが宿っている。
     永劫の命ゆえに彼は幾度も好敵手との別れを経験しては、新たな世代の中から再び好敵手を探す。一度見定めた“友”との時間が無限ではないことを理解しているからこそ、その血を継ぐ者の中から“友の再来”と巡り合うことにも期待を寄せているのだろう。その割には “友”らにたねを遺す程の余力を残させないくらい本気で叩き潰しにかかっていることが多いようだが。
     自身の眼前で体を強張らせるエージェントAAに対し、アベルは愛玩動物を慈しんでいる時の一般人のように目を細めた。
    「そういえば、君には番がいるのだったな。君の愛が結実する日を楽しみにしている。」
     Ω-7の主力兵器はおぞましさすら感じられる期待に満ちた眼差しを研究員上がりの戦略家に向け、静かに≪奇妙な画集≫を閉じた。悠久の過去から遣わされた狂戦士に祝福された男は、どういうわけか、狂戦士の期待が実現しないであろうことを確信した。言い知れぬ不安を抱えながらも、エージェントAAはひとまずアベルが手放した≪奇妙な画集≫でブライト博士の顔面をぶっ叩くことにした。

     ――ブライト博士が人型のSCPオブジェクトに対しいかなる性的な物品も支給することは許可されていません。万が一にも彼らが子孫を遺した場合、XKクラス:世界終焉シナリオの引き金となる可能性があります。――

    終わり
    登場SCP一覧タイトル: SCP-076 - "アベル"
    原語版タイトル: SCP-076 - "Able"
    訳者: 訳者不明
    原語版作者: Kain Pathos Crow, DrClef
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-076
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-076
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: 機動部隊Ω-7事件記録
    原語版タイトル: Mobile Task Force Omega 7 Incident Log
    訳者: Red_Selppa
    原語版作者: DrClef
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-076-2
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-076-2
    作成年: 2016
    原語版作成年: 2010
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: エージェントAAの個人的記録
    原語版タイトル: Personal Log of Agent AA
    訳者: amamiel
    原語版作者: DrClef
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/log-of-agent-aa
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/log-of-agent-aa
    作成年: 2016
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: SCP-105 - "アイリス"
    原語版タイトル: SCP-105 - "Iris"
    訳者: Astrik
    原語版作者: Dantensen, DrClef, thedeadlymoose
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-105
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-105
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: SCP-458 - はてしないピザボックス
    原語版タイトル: SCP-458 - The Never-Ending Pizza Box
    訳者: 訳者不明
    原語版作者: Palhinuk
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-458
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-458
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: SCP-682 - 不死身の爬虫類
    原語版タイトル: SCP-682 - Hard-to-Destroy Reptile
    訳者: 訳者不明
    原語版作者: Dr Gears, Epic Phail Spy
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/scp-682
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/scp-682
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: ブライト博士の人事ファイル
    原語版タイトル: Personnel Director Bright's Personnel File
    訳者: Dr Devan
    原語版作者: AdminBright
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
    原語版ソース: http://scp-wiki.wikidot.com/dr-bright-s-personnel-file
    作成年: 2013
    原語版作成年: 2008
    ライセンス: CC BY-SA 3.0

    タイトル: ブライト博士の禁止リスト
    訳者: Kiryu
    原語版作者: 不明
    ※ 元記事削除の可能性あり
    ソース: http://scp-jp.wikidot.com/old:the-things-dr-bright-is-not-allowed-to-do-at-the-foundat
    作成年: 2017
    ライセンス: CC BY-SA 3.0
    月城 衛@月光城塞 Link Message Mute
    2024/02/18 20:35:50

    産めよ、増えよ、地に満ちよ

    機動部隊Ω-7のささやかな事件記録。休憩中にアベル(SCP-076-2)が読んでいたとある本がΩ-7の面々に衝撃を与えることに!?
    本文:約2千5百文字
    #SCP #SCP_Foundation #二次創作小説 #二次創作 #小説 #2001~5000字 ##ノベルス

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