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    ひとつ星の小話まとめ輝ける恒星夢見るひと毛並みは艶やか生を受けたならば祈れや祈れあの子の名前陽光のもとで寂しい星輝ける恒星
     恒星みたいな人に恋をした。

     熱量を持って煌々と燃え盛る人。とても情深く世界を愛しているのに、近づけばその熱で周囲を焼き尽くさずにはいられない不器用さがあって。だからあんずからも離れていってしまう、年上の男の人。

    (私はあなたが思うほど、脆くも弱くもないのになあ)

     あんずがそう伝えてやりたくとも、気がつけば手をすり抜ける優しさは幻のように儚い。それでも掌に残る温度はあの人が、斑が今も確かに生きている証だった。

    「本当に今日は月が綺麗だなあ、『プロデューサー』さん」

     遮二無二になって手を伸ばすべきだったのだ。日向にあこがれているくせに、暗がりにいようとする人だ。けれどどんな顔をしていればいいのか分からなかった。プロデューサーである自らの分もわきまえずに、アイドルである彼に恋を抱いた自分が。いまさら何を言えばいいのか、迷ってしまったのだ。

     結果として引かれた明確な境界線を眺めて、あんずは今日も物思う。何が正解なのか、どうすれば良かったのか、最善とは何なのか答えは出ないけれど。胸の内に巣食う心は、誰しもに許された自由だからだ。

     本当に残酷な人、それでいて優しい人、それでも私が愛した人。どうか世界に傷つけられないで。一人きりでなんて踊らないで、貴方の周りを漂う確かな愛に気がついて。

    夢見るひと
     あなたはどんな子供でしたか。仕事の為のアンケート用紙に書かれていたのはごくありふれた質問。なんてことは無い、ファンがアイドルをより深く知る為の規定質問だ。事実、その用紙を差し出したあんずは特に慌てた様子もなく、回答を記入する斑をゆっくりと待ち受けている。それが斑にはひどく心揺さぶられる光景であることは、きっと彼女は知る由もないだろう。

    「もし答えにくい質問等あれば、先方に内容変更の打診も出来ますが」

     それでもペンを持ったまま考え続ける素振りを見せれば、流石に誤魔化すことは出来ない。何か不都合な設問があったと考えたらしい。見当外れの気遣いが彼女の優しさであることはわかっていて、だからこそ更に斑の遣る瀬無さを増した。

    「ううん、特に問題ないからこのままで構わないなあ」
    「そうですか」

     どんな子供になりたかっただろうか。ごく幼い頃は人並みに夢見ていた気がする。強くて優しくて格好が良くて、大好きな人の窮地に駆けつけられるような。日々の中で愛する人と歓びを交わしあう。そんな万能の英雄は物語にしかいなくても、夢見ることだけは許されていた。今更戻りたいとは、思わないけれど。

     いつも通りの回答をして、そっとペンを置いた日向に眠るときに見るからこそ夢なのだ。そして願いとは変化してゆくものだから。せめて愛する人たちが、健やかでいるよう力を尽くせれば良い。孤独の中で母を騙るのであれば、ひとりの少女ぐらい救えなければ。男の微笑みに、少女は瞬きを返した。
    毛並みは艶やか
     ニャアニャアと猫達が寄り集まっては泣いている。深まる秋の肌寒さに耐えかねたのだろうかと近づいて、斑は少しばかり目を瞠った。その中心たる中庭のベンチでは、あんずが首を揺らしながら居眠りをしていたのだ。

     ESには終日警備員が出入りしており、太陽の燦々と照りつける時間だとはいえ外は外だ。せめて目が覚めるまでは見張っていてやろうと近づいた瞬間に、あんずの目が開いた。

    「おはよう!いやしかし、こんな所で女の子が眠るのは感心しないなあ!」

     続く言葉を待ってみても帰ってこない。それどころか瞬きをしきりに繰り返している様子だ。どうやら未だ微睡みの中にいるらしい。何度目かの瞬きのあとに、ようやくあんずは斑の方を見た。

    「三毛縞さん」
    「うん、如何にも俺は三毛縞斑だぞお」
    「三毛縞さんは、名前の割に三毛じゃないですね……」

     あんずはそう呟くと、膝のあたりに蹲る三毛猫をそっと撫でた。背を撫でられた猫は嬉しそうに喉を鳴らしている。そしてそのまま、あんずは夢の世界へとまた旅立ってしまった。

    「猫かあ……」

     気持ちよさげに伸びをする猫を見下ろすと、ふと切れ長の瞳孔と目があった。猫はふいと顔を背けて、またあんずの膝にうずくまる。

     ソッとベンチに腰掛けた斑の横に、足元に集まっていた猫が数匹乗り上げてきた。通じるかはわからないが人差し指を唇にあてて静かにするよう頼む。

     猫だったなら大切な人の側には居やすかろうが、無茶をするための大柄な手足は失ってしまう。悩ましいことだった。
    生を受けたならば
     職業柄、人の視線には敏感だ。だから嵐はすぐに気がついた。オフィスを歩いているあんずがふと見た視線の先だとか、斑がそれとなく気遣う相手が誰だとか。そしてすべて理解した日には思わず納得のため息が漏れた。そうか、そこが繋がったのか。

     実際悪くない縁だとは思う。アイドルを愛しているがゆえに自己犠牲のきらいがあるあんずと、周囲を守らんとして自分を擦り減らしがちな斑。二人ときたら自分にはまるで無頓着の癖に、相手のこととなると顔色を変えるのだから。

     今だってほら、話しているのは仕事の内容かもしれないが並び立つ姿はしっくりくる。とある企画の打ち上げとして催されたパーティの最中、会場の片隅から二人を眺める嵐はそう思った。

     ねえあんずちゃん、素敵なプロデューサー、アタシの可愛い妹。貴方が個人的な感情を持つことってそんなに悪いことかしら。恋は害為す悪感情なのかしら。だって今のあなたってはそんなに膨れ面をして、可愛らしい女の子の顔をしているのに。

    「おお、嵐さんじゃないか!こんばんは……☆」
    「挨拶遅れてごめんなさい、何か気になることがあった?」
    「はあい今晩は、声掛けようと見計らってただけよ」

     ジッと見つめ過ぎたらしく、流石に斑に気が付かれてしまった。抜け目ない男だ。せめて万事が万事それぐらい聡く進めば良いのに。心の中でため息をひとつ落として、気が付かれないように笑顔で振るまう。
     
     嵐は祈るようにして、瞬きに重ねて目を瞑った。この世に生まれてきた以上、アタシたち幸せにならなくっちゃ。そうでしょう?
    祈れや祈れ
     新しいアイドルユニットが始動する。正確には遥か昔に名前だけ作られて消えてしまったユニットを、もう一度現代に蘇らそうと言う構想らしいのだが。

    「Double Faceかあ」

     斑に手渡された資料をめくり、あんずはユニットの概要を改めて確認する。事務所を越境して作られる新しいユニットのかたち。メンバーはふたり、コズミックプロダクションの桜河こはく。そして、ニューディメンションの三毛縞斑。

     それにしてもDouble Faceとは思い切った名前だと思う。直訳するならば「両面」、文中で使われるのならば「裏表のある人」。きっと今回はどちらの意味も含んでいるのだろうけれど。

     このESで蠢いている暗い何かから、それと気が付かせぬように遠ざけられている自覚はある。それがあんずに近づこうとする度に、暗がりの方角からそっと手を引いて遠ざける者がいるのだ。それは恩師であったり、善意の人であったりと、様々だけれど。その中に斑がいる事は何となく気がついていた。

     孤独な母を名乗る斑が、いっときでも誰かの手を取りユニットを組む。その手助けが出来るのであればこれ以上はなかった。これをきっかけにして、彼が心休められる仲間を作ることができればいいのだけれど。

     ユニット衣装のデザインをもう一度確認する。幼さを残すこはくはどこか愛らしさを残して、年長者の斑は彼の体格が引き立つように整えた。色合いも少し彩度を落とし、全体的にシックな雰囲気でまとめ上げている。時間こそあまりなかったが、彼らの魅力を存分の引き出せる衣装作りに心を砕いた。

     おそらく今回も大変な事に巻き込まれている彼等が、アイドルとしてきちんと輝けるように。愛を向けられるように。彼らの行く道が少しでも平坦であるなら、それに越したことはないのだから。
    あの子の名前
     斑の手には今、一本のリップグロスがある。宣材撮影をした際に先方の善意でサンプル品を譲って貰ったのだ。それは良いが、如何せん仕事以外で化粧をする習慣がない。誰か知り合いにでも手渡せれば良いのだが、今日は仕事が詰まっていて寮に帰れるのは夜遅くだ。そしてこんな日に限って、親しい者にも会えないものだから不思議だった。

     さてどうしたものか。ひとり頭を悩ませながら歩いていると、ようやく見知った顔に出会えた。大きく手を振る斑にあちらも気がついたらしく、頭を下げながら近づいてきた。

    「おはよう、あんずさん!今日も元気かなあ?」
    「おはよう御座います、三毛縞さんこそ何かお悩みですか」
    「うん、でも今解決するなあ」

     そのままあんずの手のひらを取って、そっと件のリップグロスを握らせる。何事かと首を傾げるあんずに事情を説明して、そのまま彼女が貰い受けてくれる事となった。最初は断る素振りを見せていたが、貰い手がないままになるよりはと頷いてくれた。

     可愛らしいパッケージをあんずが手のひらで転がしている。透明素材の容器は差し込む光を反射して、中身の色を宝石のようにばら撒いた。本当に愛らしいほどの、アプリコットオレンジ。数ある品の中からどうしてその色を選んだのか、今はまだ誰も知らなくていい。
    陽光のもとで
     さらさらと吹く風のように生きていこうと、斑が心掛けたのはいつからだったか。風ならば縛り付けられることはない。斑が何を為そうと、大切な人に被害が及ぶ前に吹き去ってしまえば良い。風なのだから、身のうちにどろどろと降り積もる暗がりの感情だって見えなくできる。

     それでも人として生きていく上で、繋がりを全て断ち切るなど到底無理な話だ。あの学園にいてすら掛け替えない繋がりを、斑は星のように得た。親友、後輩、仇敵、喧嘩相手、そして偽りの幼馴染。

    「なんというか、儘ならないものなんだよなあ」

     生きていく上でアイドルである必要は必ずしもない。それでも可能ならばアイドルを続けたいし、そうあれと望んでくれる人もいる。関わりを断とうとも、断ち切れるものでは無い。けれど己が作り出した偽りの関係ならば?

     暖かい陽なたを踊るように生きる、彼女を思う。自分が嘘の過去で関係づけた後輩を思う。『プロデューサー』なんて役職を羽織って、一人のあんずではなくなろうとした女の子を思った。

     君が健やかに、何にも害される事なく歩いていけるならば。そこに己がいなくたって良いな。斑はそう思う。
     
    寂しい星
     何かに突き動かされるように歩いてきた。1年前に転校した直後のあんずを待ち受けていたのは、学園を舞台にしたアイドルたちの革命。乞われるままに、あるいは自ら願うままにプロデューサーになって。挫折と成功を繰り返し、今のあんずがある。

     だからあの日、突然通り過ぎたはずの過去を持ち出されて本当に驚いたのだ。懐かしい、大きくなった。そんな事を言われて抱き上げられても、身に覚えが全く無い。けれども目の前のこの人は、三毛縞斑は。あんずが過ぎ去った過去を律儀にも覚えていたらしい。

    「この笑顔を覚えてるぞお、懐かしいなあ」

     ひとりで納得して笑う斑は強引だと思ったし、今でもそう思う。けれどそれは大抵の事はひとりでこなせてしまうが故の、孤独と哀愁に裏付けられた振る舞いなのだと。口にされずとも理解出来るようになった。

     あんずの日々は目まぐるしく進む。愛するアイドルたちのため、より良い未来のため。プロデューサーとしての責務がため。

     けれどそんな日々にいきなりあらわれて、追い越したはずの過去を否応なしに振り返らせる斑という人を。本当にずるい人だと思うけれど。その笑顔の裏に潜ませた寂しさを、いつかは誰かと分け合ってくれるのかしら。そう思わずにはいられない。
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    2022/06/19 11:33:46

    ひとつ星の小話まとめ

    すべて斑あんの小話です。
    Twitterに一週間毎日投稿チャレンジとしてあげていたもののログ。

    #斑あん #三毛縞斑 #あんず

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