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    三池書店③ 前編 Prologue審神者
    妖怪好きな貧乏学生。
    普段はホワホワした雰囲気だが、意外と激しい音楽が好き。
    推しは、メタルバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のベーシストHIKARIさん。
    ある日見つけた、品揃えと店主がめちゃくちゃ好みの本格派古書店「三池書店」でボランティアを始めた。
    今まで言われてきた酷い言葉のせいで容姿にコンプレックスがあり、身近な男性を好きになるのを恐れている。

    三池光世(大典太光世)
    表向きは本格派古書店「三池書店」の店主。審神者からは「店長」と呼ばれている。
    裏の顔はメタルバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のベーシストHIKARI。
    店番をしている時は、基本的に身バレ防止のため和装。
    学生時代、民俗学ゼミで妖怪の研究をしていた。
    友達が少なく、まして妖怪の話となると語れる相手がいない中、話が通じる貴重な相手である審神者にクソデカ好意(現時点ではLoveではなくてLikeの方)を抱いている。

    三池ソハヤ(ソハヤノツルキ)
    表向きはパーソナルトレーナー。
    裏の顔はメタルバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のドラマーSONIC。
    イチオシのデートスポットはラウワン。

    左門江雪(江雪左文字)
    表向きは名刹「沙門寺」の住職。
    裏の顔はメタルバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のギタリストLICKA。
    イチオシのデートスポットは寺社仏閣巡り。

    肥前忠広(肥前忠広)
    表も裏もメタルバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のボーカルHIRO。
    他にもいくつかバンドを掛け持ちしていたり、毒舌食レポY○uTubeチャンネル「カレー味のFxckin’ Shit」をやってたりする。
    イチオシのデートスポットは大衆居酒屋。
    …おかしい。
    重厚でありながら疾走感のある、荒々しくも美しい旋律が鳴り響く音楽スタジオ。
    大典太は、四弦を唸らせリズムを刻みながら、チラリと隣でドラムを叩く兄弟を伺った。
    普段なら、互いに示し合わせたかのような演奏のできるソハヤと、今日は微妙に呼吸が合わない。
    表情も、いつものような弾ける笑顔ではなく、若干の陰りが見える。まるで、何かに悩んでいるかのような…。
    また、ほんの僅かに拍子がズレた。
    ギターの江雪と、ボーカルの肥前も若干の違和感には気付いているようだが、機材や自分の体調のせいと思っているらしく、時折首を傾げるに止まっている。
    だが、同じリズム隊であり、兄弟である自分には分かる。
    普段なら、こいつのリズムは何があっても乱れない。二日酔いでベロンベロンになった日だって、どんなに難しいスコアも正確に叩き切る奴だ。
    よほど、心を煩わせる何かがあったのだろう。
    他のメンバーはともかく、自分はこいつの兄弟。学年が同じなため普段は意識していないが、一応兄貴に当たる人間だ。
    後で話を聞いてやろう。
    小さくそんな事を考えながら、大典太はひとまず演奏に意識を戻した。
    「……そんな下らない理由か。」
    スタジオを後にし、江雪と肥前を反対側に見送った大典太は、ふてくされる兄弟の顔を白い目で見て、露骨に大きなため息をついた。
    「下らないも何も、男同士の付き合いってやつだよ。」
    反抗的に目線を逸らしながら、ソハヤは口を尖らせる。
    何でも、学生時代の友人や先輩と飲んでいて、二次会でキャバクラに行き、それが彼女にバレて喧嘩したらしい。
    「大体、正国も吉行も彼女いるし、長曽根さんに至っちゃ妻子持ちだぜ?何で俺だけ…」
    「ミサさんとは上手く行ってたんだろう。何でそんな知らん女と、わざわざ金を払ってまで話す必要があるんだ。」
    恨みがましくブツクサと文句を垂れる兄弟に、その彼女の名前を出しつつ、呆れ顔で苦言を呈する。
    「そりゃー、若くて可愛い女の子が、何を言っても凄い凄いと笑顔で肯定して、褒めてくれるからな。」
    ムッとしたようにこちらを見上げるソハヤ。
    「ミサさんはどうなんだ。」
    「ミサぁ?アイツは、俺より歳上だから事あるごとに姉貴ヅラしてくるし、何かあれば小言、小言だし、全肯定の正反対だぜ…」
    「嫌いなのか?」
    「バッ…!んな訳あるかよ!俺は世界で一番アイツを愛してるよ!」
    よく分からない。
    「全肯定してくれるキャバ嬢よりもか?」
    「ったりめーだろ?ミサを愛してるからこそ、アイツにキャバ嬢みたいな真似はさせられねーんだ。」
    自分で言っておきながら、ソハヤはその言葉にハッとしたようだった。
    「悪りい、兄弟は先帰ってくれ…。」
    そう言うなり電話をかけ始める兄弟を置いて、大典太は駅の改札を抜けた。
    自宅である三池書店に戻り、シャワーを浴びながら、キャバクラがどういう所か考える。
    華美な店内で、華美な女と酒を飲む所、くらいの情報は知っているが、生憎自分は一度も行ったことがない。
    兄弟曰く、キャバ嬢は「何を言っても凄い凄いと笑顔で肯定して、褒めてくれる」存在だという。
    そんなお世辞やおべっかを、わざわざ金で買うのが、そんなに楽しいものだろうか。
    顔を洗った泡で、そのまま髭を剃りながら、大典太は眉間に皺を寄せた。
    正直、女は苦手だ。
    自分は同性愛者ではないし、過去、彼女がいなかった訳でもない。
    しかし、その記憶を辿ってみれば、思い出すだけで吐き気を催すような、最低の出来事のオンパレードだった。
    女は、恐ろしい生き物である。
    そんな恐ろしい生き物に、高い金を払ってまで全肯定してもらう良さが全く分からない。
    肉体的な欲求を解消するなら、動画サイトがあれば十分だ。
    第一キャバクラは、店の女ととういう関係になる店ではない。ワンチャン狙いの馬鹿は知らんが。
    ツルリ、と剃り上がった顎を撫で上げ、顔の泡を流す。
    女と言えば…
    シャンプーを手に取りながら思い浮かんだのは、今年に入って知り合った一人の「女」の顔だった。
    あいつは女だが、微塵も怖くないな…。
    大典太本人は気付いていないものの、その女–審神者の事を考えた瞬間、顔からスン、と毒気が抜けた。
    審神者がここでボランティアを始めて1ヶ月弱。
    夏休み期間も、お盆の一週間以外はこっちにいると聞いて、ひどく安堵したのを覚えている。
    あいつと、話せるからだ。
    髪につけたシャンプーを泡立てながら思う。
    あいつと話すのは、とにかく楽しい。
    こちらの言葉には、何でも興味深そうに耳を傾けてくれるし、時折飛び出す突拍子のない発言もまた面白い。
    最初は頂けなかった「店長」という呼称にも慣れた。
    –店長は力持ちですねぇ–
    –店長のコーヒー、とっても美味しいです!–
    –店長、ちょっと聞きたいんですけど…–
    最近はむしろ、–店長–そう呼ばれる事を、今か今かと待ち望んでいるきらいすらある。
    何を話しても、凄い凄いと目を輝かせ、少し何かをしてやればパッと花が咲いたように微笑んで、店長、店長と頼ってくれる。
    そんなあいつを、怖いと感じる訳がない。
    緩み切った表情で髪を流しながら、はた、と大典太は気付いた。
    ……これか…。
    –若くて可愛い女の子が、何を言っても凄い凄いと笑顔で肯定して、褒めてくれる。–
    キャバクラについて語った、兄弟の言葉である。
    つまり、自分はあいつを、無料のキャバ嬢扱いしている、ということか?
    とっくに泡は流し切った髪に、依然シャワーを当て続けながら、表情を凍りつかせる大典太。
    いや、違う。
    自分が仮にキャバクラに行ったとして、嬢に対し不要な気遣いをせず楽しめるか?
    嬢にディープな妖怪談義を振って、理解してもらえるか?
    こんな貧乏人が行って喜ぶ嬢がいるか?
    答えはいずれもNOだ。
    だとしたら、あいつは言わば「キャバ嬢の上位互換」……という事になるのだろうか。
    キュッとシャワーの栓を止め、軽く髪の水気を切ってリンスを擦り込む。
    審神者がキャバ嬢に劣る部分があるとするなら容姿くらいだが、無駄に綺麗な女は正直好きではない。警戒心の方が優ってしまう。
    兄弟の行った店は「一人1万円の優良店」だったそうだが、仕事でおだてるだけの女と1時間飲んでそれである。それなら、あいつと過ごす時間を金に換算したら、一体いくらになるのか。
    それだけではない。
    大典太は、タオルに取ったボディーソープをワシワシと泡立てながら、一つため息をついた。
    あいつが来てから、この店はマトモな客による売り上げがジワリ、ジワリと伸びてきている。
    〈女性の店員さんはとても感じの良い方です。〉
    〈漠然としたイメージだけでドンピシャの本を紹介して頂けました。〉
    〈昔の本って意外と面白いんだって分かりました。また来ます。〉
    そんな口コミが呼び水となっているらしい。
    –だって、店長いっぱい希少本見せてくれるじゃないですか!合計金額、下手すれば100万円超えちゃいますよ?軽自動車が買える値段ですよ?–
    あいつの言い分はこうだが、そんなもの、買える客がその本を買ってくれれば売り上げには響かない。
    何なら、あいつが色々なジャンルの本を取っ替え引っ替え読み、気に入ったものを宣伝してくれるお陰で、最近は父の代から死蔵されていた本が買われていく事も多いのだ。
    今までは、毎日2〜3千円の利益が出ればいい方だったが、あいつが来て以来、その数倍売り上げる日もざらになった。増えていく一方だった在庫はそれに伴い減って行き、万年満杯だった庭の倉庫は今や底をつきそうな有様である。
    増えた分の売り上げをそっくりそのままやろうとしたら、そんな大金受け取れないと断られるし、せめてと思ってコーヒーの豆をいいのに変えたら前の方がいいと言われてしまう。
    このままでは正直、あいつの善意を搾取しているようで非常に心苦しい。
    何か、あいつが確実に受け取ってくれるような方法で恩返しをする方法があればいいのだが……。
    髪に馴染ませたリンスと、全身の泡を流しながら、大典太は思案する。
    例えば、直接の金銭ではなく、あいつが喜ぶような事をしてやれば、抵抗は薄いのかもしれない。
    だが、問題はその方法だ。
    正直、10年近く女とは無縁で、まして最近の若い女を喜ばせる方法などサッパリ思い浮かばない。
    肥前…はそこそこモテるが毎回半年程度で女の側から振られるので置いておくとして、ソハヤには長く付き合っている彼女がいるし、江雪は妻子持ちだ。
    あいつらを頼ってみるか。
    そんな事を考えながら風呂を出た。
    無事仲直りを果たした彼女の家でテレビを見ていたソハヤは、スマホの通知に気付いた。
    「誰?まさかキャバ嬢じゃないだろうね?」
    ドスの効いた声を出し、じろり、と覗き込むようにソハヤを睨みつけた、気の強そうなショートボブの女性。この人こそ、ソハヤの彼女ミサさんである。
    「いやいや、違うって!兄弟だ!兄弟!」
    疑う彼女に慌てて画面を見せ、身の潔白を証明するソハヤ。
    長い付き合いで、証拠がない事は決して信じない相手なのは分かっている。
    「どれどれ〜?〈若い女を喜ばせる方法って分かるか?〉…若い女って何歳ぐらい?18歳未満だったら事案なんだけど。」
    「ねーよ!兄弟はロリコンではない……筈だ。」
    急に声のトーンが落ちたのは、兄弟が過去に同年代から受けた仕打ちを知っているからだ。あのような酷い目に遭っていれば、そっちに目覚めてもおかしくはない。
    「何歳ぐらいか聞きなよ」
    「わーってるって、今聞くよ。」
    〈何歳ぐらいの子だ?〉
    送るとすぐに既読がついて、
    〈20〉
    とだけ返ってきた。
    「…チッ。立件はできないか。」
    「何でお前は事あるごとにウチの兄弟を犯罪者にしたがるんだ!」
    スレた顔で小さく舌打ちした彼女に、ソハヤは泣きそうな顔でツッコむ。
    「まぁ、職業病ってやつ?」
    そう、ソハヤの彼女ミサさんは、警察官をやっている。高校時代のソハヤがヤンチャしていた縁で知り合い、ダラダラと腐れ縁を続け、5年前に付き合い始めた。
    「同じハタチでも、その子がどういう子かで喜ぶ事は違うだろうし…関係によっても…」
    ここで、ミサさんはパッと目を輝かせて、
    「ハッ!もしかして…パパ活?!パパ活で金銭授受があるなら、違法売春として立件が…」
    「うちの兄弟は生粋の女嫌いだぞ!んな事する訳ねーだろ!」
    ミサさんは叱られた猫のような表情で黙った。
    彼女の発言を否定しておいてなんだが、確かに一回り以上離れたとなれば若干心配ではある。
    少年漫画のキャラが大袈裟に目を飛び出させているスタンプを送り、
    〈若っ!まさかパパ活とかじゃないよな?笑〉
    冗談めかして聞いてみたところ、またすぐ既読がついて、しばらく間が開いた後で
    〈本屋の手伝い〉
    とだけ返ってきた。
    「写真とかあればアタシ、そこそこプロファイリングできるかも」
    隣にいるミサさんが言ってくるので、
    〈写真とかないのか?〉
    尋ねるが、すぐさま
    〈ない〉
    と言われてしまう。
    情報が少なすぎる。ソハヤが困ったように頭を掻くと、
    「まだその子がどういう子か聞いてない」
    すかさずミサさんが助け舟をくれる。
    〈その子がどういう子か分からないと答えられない〉
    そう送ると、既読自体はすぐ付いて、それからかなりの間が開いた。
    1分待っても返信がないので、ビールを飲みながらテレビを見て談笑していると、忘れた頃にスマホが震えた。
    〈・K大生(生物学部)
     ・妖怪に詳しい
     ・服はパステルカラーが多い
     ・明るくて屈託がない
     ・誰に対しても親切な、優しい性格
     ・いつも幸せそうに笑っている
     ・ふわふわ、のんびりした口調で喋る
     ・地頭はかなりいい
     ・意外と激しい音楽が好きかもしれない〉
    そのメッセージを見たミサさんは、警官の顔から一人の女性の顔になり、
    「そもそも、お兄ちゃんがどういう風に喜ばせたいか、だよね。」
    「どういう風に」の部分を強調しながら目を光らせた。
    「単純に従業員サービスなのか、それともこの子と一歩進んだ関係になりたいのか…」
    顎に手を当て思案するように唇を尖らせたミサさんに、
    「一歩進んだ関係はいいのかよ。」
    先ほどまで、逮捕だ立件だと喜び勇んで言っていた口から出た発言に困惑して聞くと、
    「だって、二人とも成人だし。金銭授受の発生しない成人同士の自由恋愛を取り締まる法律はないし。」
    あっけらかんとミサさんは答えた。
    「なんとなーく、キミのお兄ちゃんは後者な気がするけどねー。」
    ミサさんはニヤリと笑って意地悪な声を出す。
    「何でそんな事分かんだよ…」
    「お兄ちゃんから送られてきたその子の特徴、よ〜く見てごらん?どんな子だと思う?」
    「ん?まぁ、よくいる最近のサブカル女なんじゃねーの?」
    「どこを見てそう判断した?」
    生徒にヒントを与える教師のような口調でミサさんは問いかける。
    「そりゃー、生物学部の連中はGとか内臓を可愛い可愛い言ってる変態が多かったし、妖怪とか、激しい音楽とかも好きなんだろ?そんでもってこのパステルカラーの服ってのは多分原宿系ファッションの事だ。その上、兄弟がやってるあんな陰気な本屋の手伝いを好き好んでしてるとなれば、ほぼサブカル女で確定だろう。」
    恋人がした分析に、ミサさんはニンマリと嬉しそうに頷く。
    「ね?気付いたでしょ?」
    「ハァ?今ので何を気付けってんだよ…」
    ミサさんは、依然笑ったまま、眉尻だけを悲しそうに下げてみせると、
    「今の分析に、要らない情報があったよね?」
    と付け加える。その言葉にソハヤもハッとして、
    「言われてみれば、明るいとか、優しいとか、口調の話とか、好みを探るのに一切必要ないな!」
    「でしょー?それに、ほら、お兄ちゃんからのこれまでのメッセージ遡ってみなよ。」
    言われたまま、ソハヤは画面を上にスクロールする。自分が必ず二言、三言送っているのに対して、兄弟は基本的に最小限の文字しか送っていない。
    「こことか『20歳』とも書けるのを『20』としか書いてないよね。あとホラ、ここも。普通なら『うちの本屋を手伝いに来てくれてる子だ』くらい書くところを、『本屋の手伝い』としか言ってない。」
    いつもこの調子だから気にしていなかったが、言われてみればその通りだ。
    「それで、もっかい最後のメッセージを見てみて?」
    言われるままにスクロールして、ソハヤは叫んだ。
    「長い!」
    圧倒的に、文章が長い。
    「でしょでしょ?しかも、分析に不要な部分が、特に長ったらしく書かれてるの。」
    言われてみればその通りだ。「明るくて屈託がない」は「明るい」で十分だし、「誰に対しても親切な、優しい性格」も「優しい」で十分だ。他だってやりようによってはいくらでも短縮できる。情報そのものが不要な口調に至っては「ふわふわ」という擬音まで付け足している始末だ。
    「やっぱ、ミサはすげーな…」
    目を丸くして、ソハヤは溜息をつく。
    「まぁ、これも職業病かな?」
    照れたように舌を出し、猫目の女性警官ははにかんだ。
    「これって多分、『俺は今からこんなにイイ女をモノにするぜ!』っていうアピールだと思うんだよねぇ〜。」
    スマホの画面を覗き込みながら、ミサさんは続ける。
    「うちの兄弟がそんな事するかな?」
    「本人にアピールする気はないんじゃない?だって、最初は弟のそーちゃんも気付かなかったでしょ?」
    「…確かに。」
    「お兄ちゃん自身は「ただの従業員サービス」って意識なんだろうね。深層心理では落としたいと思ってるんだろうけど。」
    「だとしたら、落とす方向で提案した方がいいって事か?」
    「当然でしょ。落とした後で何かあったらアタシが必ず立件するから、ちょっとそのサブカルちゃんを落とす方法一緒に考えよっか。」
    途中、不穏な一言が挟まった気がしなくもないが、ソハヤは頼れる彼女の提案に全力で乗っかることにした。
    「たまよさん…少し、よろしいでしょうか。」
    「はいはい、どうしましたか?」
    息子の閤太–太閤左文字を寝かしつけたばかりの妻に、江雪は静かに声をかけた。
    「友人から、このような事を聞かれました。」
    そう言って妻にスマホの画面を見せる。
    「若い女性を喜ばせる方法…ですか。」
    「私は、あなたとはお見合い結婚ですし、若い女性を喜ばせる方法など、皆目検討がつかないのです…。」
    心底困り果てたように江雪は告げる。
    「そうですねぇ、私は、あなたと過ごせるこの日々が、何事にも代え難く、幸せですけどねぇ。」
    色白の頬をほんのり朱に染め、誘うような流し目でおっとりと答える妻。思わず湧き上がりかける煩悩を、静かに一つ深呼吸していなした。隣には息子も寝ているし、何より妻は妊娠中の身。
    「けれど、これを見る限り、ご友人はきっと、そのようなご事情ではないのでしょうねぇ。」
    「えぇ、そうなのでしょう。」
    江雪夫妻は、二人、全く同じタイミングでフーっとため息をつく。
    「どなたか、想いを寄せてる方がいらっしゃるのかしら。」
    妻の疑問に
    「それは…どうでしょう…」
    江雪は「否定」に限りなく近い疑問で返した。
    「彼は、女性との良縁が、壊滅的に…ありませんからねぇ…。」
    学生時代、友人が受けた仕打ちに思いを巡らせ、江雪は悲しいため息をつく。
    「壊滅的…ですか…。」
    夫の口から漏れた、いつになく強い言葉に、妻は口元を手で覆い聞き返すが。
    「…はい、壊滅的です。」
    夫は、普段に比べかなり強い口調で、それを肯定した。
    「けれど、今回は良いご縁なのかもしれませんよ。」
    「…そうですね…。そうであれば良いと願います…。切実に……。」
    遠い目で、心底心配そうに呟く江雪に、
    「ああ、そうだ。ちょっとした妙案を思い付きました!」
    妻は、柔和な顔を嬉しそうに綻ばせ、夫に耳打ちを始めた。
    〈来週最初のお手伝いは、動きやすい服装で来て下さい。スカートや踵の高い靴は基本NGです。タオルも持って来ることをお勧めします。〉
    店長から来た連絡に、審神者はキョトン、と首を傾げ、
    〈何かあるんですか?〉
    雀が首を傾げているスタンプを送った。
    〈こちらまで、買付に伺います。〉
    送られてきたのは、大雑把な地図。海沿いの地域に赤いピンが立っている。
    〈買付って、お宅に伺って、沢山の本を買い取ることで合ってます?〉
    と送れば、
    〈その認識で合っています。〉
    と返ってきたので、了解の意を示すため、雀が敬礼しているスタンプを送った。
    その後しばらくして、
    〈依頼者の方のお宅が遠いため、早い時間に来てもらってもいいですか?〉
    と再びメッセージが届いた。
    〈何時ぐらいに行けばいいですか?〉
    と送り返すと、既読がついてしばらく経ってから、
    〈6:50でお願いできますか?〉
    と来た。
    思っていた以上に早い時間だ。
    でも、タダで本を読んだり、コーヒーやお菓子を貰っている以上、嫌とは言えない。
    自信はなかったが、しばらく考えて
    〈ちょっと早いけど頑張ります!〉
    と送った。
    入れ違いで、〈もし良かったら〉というメッセージが来たが、その続きは語られることなく、またしばらく間が空いて、
    〈無理をさせて申し訳ありませんが、よろしくお願いします。〉
    プリセットのお辞儀スタンプと共に、そんなメッセージが届いた。
    だとしたら、明日は早く寝ないとなぁ。
    そんな事を考えながら、審神者は一口麦茶を飲んだ。
    _c_a_r_r_0_l_l_ Link Message Mute
    2022/06/18 11:34:33

    三池書店③ 前編 Prologue

    ※支部再掲

    古書店店主でインディーズメタルバンドのベーシストをやってる大典太さんと、大典太さんのやってる古書店でボランティアをしてる大学生審神者ちゃんの話。
    前作までを読んでなくても、キャラ紹介見れば大体内容分かると思います。
    この訳の分からないタイトルは、想定していた以上に全体のボリュームが出てしまい、泣く泣く分割した結果です。(一回タイトルを連番にしてしまったので後には引けない感)

    注意点
    このお話には以下の内容が含まれます。
    ・転生世界線現パロ
    ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ
    ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
    ・転生後の一部刀剣に彼女や妻子(名前アリ)がいる
    ・転生後の一部刀剣がキャバクラ行ったりする(※下心はナシ)

    作中で、ソハヤが生物学部をdisるような発言をしますが、生物学部出身の筆者による自虐であり、差別的な意図は一切存在しません。
    生物学部には、Gとか内臓とか、そういった一般人から理解されづらいものを、心の底から「可愛い」と称する人間がマジで一定数存在します。少なくとも私の出身大学ではそうでした。

    上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
    合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
    #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ

    more...
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    • 三池書店③ 中編(下)※支部再掲

      【対バン】
      対バン(たいばん)とは、ライブイベントにおいて複数の出演者が入れ替わる形でステージに立ち、共演すること。
      いわゆる「バンドもの」においては、ほぼ「タイマン」と同義。語感も似てるし。

      古書店店主の大典太さんと、そこでボランティアしてる審神者ちゃんの現パロ。エア嫉妬回です。
      現時点での二人の関係性は両片想い。

      今回も、セトリの元ネタにした曲はTwitter固ツイのツリーに。
      デスボやシャウトの多用されるうるさい音楽に抵抗ない方は、聴きながらお読み頂くとより楽しめるかもしれません。
      なお、当該楽曲の動画のコメント欄やアーティスト様へのリプ等で、このシリーズについて言及したり、匂わせたりする発言は引き続き禁止させていただきます。
      (そういった行為が見受けられ次第、前作共々元ネタ公開は中止いたします。)
      
注意点

      このお話には以下の内容が含まれます。

      ・転生世界線現パロ(全員過去の記憶ナシ)
      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・夏場パンイチで寝る大典太光世
      ・自己肯定感低すぎてストーカーや不審者に気付かない審神者
      ・全力で嫌な奴ムーブかましてくる燭台切
      ・名実共にドMな亀甲
      ・(あくまでパフォーマンスとして)BLっぽい演出を取り入れる鋼音メンバー

      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      あと、作中で大典太さんが中々にヤバい飲み方をしてますが絶対に真似しちゃいけません。死にます。マジで。


      合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
      _c_a_r_r_0_l_l_
    • 三池書店①※支部再掲

      転生世界線現パロの典さにです。
      転生と言いつつ、全員過去の記憶はありません。
      古書店店主でインディーズメタルバンドのベーシストをやってる大典太さんと、近くの大学に通う審神者ちゃんの出会いの話。
      個性強めの女審神者が出てきます。
      続き物なので、まだ恋愛描写はありません。

      上記の通り、完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #女審神者 #大典太光世 #典さに #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
      _c_a_r_r_0_l_l_
    • 三池書店②※支部再掲

      前作への「いいね」「ブクマ」ありがとうございます!!
      お陰様で続きました。

      古書店店主でインディーズメタルバンドのベーシストをやってる大典太さんと、近くの大学に通う審神者ちゃんの話。
      前作読んでなくてもキャラ紹介見れば大体内容分かると思います。
      大典太さんに無自覚片想いをしてる審神者ちゃんが、三池書店でボランティアを始めるお話。

      注意点
      このお話には以下の内容が含まれます。
      ・転生世界線現パロ
      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ
      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・ツール変換ほぼそのままの博多弁
      ・解像度の高いクソ客

      博多くんの台詞はこちらのツールで変換したものをそのまま使っています↓
      https://www.8toch.net/translate/
      違和感があった場合、コメントかTwitterで「こういう言い方の方が自然だよ」と教えて頂けると非常に助かります。。。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 人生に一度の「スーパーウルトラ猫の日」に支部に上げたものの再掲となります。

      朝の10時に気付き、構想2時間、執筆4時間で一気に書き上げました。
      そのため、色々と荒いかもしれません。
      タイトルは、今流行の同名曲から…なのですが、あんな切ない内容じゃありません。むしろ、しょーもないギャグです。
      大典太さんメインですが、そこそこ色んな刀剣男士が出ます。

      注意
      ・大典太さんの猫化(割とガチめの猫化)
      ・典さに要素は薄め
      ・ちょいお下品
      ・刀剣男子の容姿と個体差に関する独自設定あり

      途中「真剣必殺も見たことない」という審神者の叫びが出てきますが、執筆当時の私の心の叫びです。
      お正月の期間限定鍛刀で顕現してから、練度94になるまで真剣必殺を回収できなかった彼ですが、これを書いた直後に出陣させたら真剣必殺を見せてくれました。
      ほんと、大典太さん、マジ…
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱夢 #刀×主 #刀剣乱舞
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    • 三池書店③ 中編(上)※支部再掲

      審神者ちゃんが「懲役一週間」と自称する帰省から帰ってきて、最推しバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のライブに行くお話。
      詳しくは、1ページ目の登場人物紹介にて。

      セトリの元ネタにした曲は、Twitterの固ツイのツリーにぶら下げております。デスボやシャウトの多用されるうるさい音楽に抵抗ない方は、聴きながらお読み頂くとより楽しめるかもしれません。
      なお、当該楽曲の動画のコメント欄やアーティスト様へのリプ等で、このシリーズについて言及したり、匂わせたりする発言は禁止させていただきます。
      (そういった行為が見受けられ次第、元ネタ公開は中止いたします。)

      
注意点

      このお話には以下の内容が含まれます。

      ・転生世界線現パロ(全員過去の記憶ナシ)

      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・若干の毒親匂わせ描写あり



      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      
合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 三池書店③ 前編※支部再掲

      前作までを読んでなくても、キャラ紹介見れば大体内容分かると思います。
      大典太さんが満を持して審神者ちゃんをお出かけに連れて行きます。
      関係性は「両片思い未満」です。

      注意点
      このお話には以下の内容が含まれます。特に下二つは、苦手な方ご注意ください。
      ・転生世界線現パロ
      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ
      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・転生後の一部刀剣に彼女や妻子(名前アリ)がいる
      ・年齢操作
      ・若干の下ネタ
      ・DVやモラハラ被害を受けた人の描写
      ・いじめの描写

      下二つの描写のクリーン版が読みたいという方がいらっしゃいましたら、コメント/マシュマロ/TwitterのDM等でお気軽にご相談ください。
      時間はかかってしまうかもしれないのですが、ストーリーに影響を与えない範囲で、可能な限り配慮したバージョンを上げさせて頂きます。

      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。

      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 三池書店③ 前編 Epilogue※支部再掲

      前作まででリアクション下さった皆様、ありがとうございます!

      大典太さんと審神者ちゃんが、海辺のドライブを満喫して、いつもの街に帰って来たところから始まるお話です。

      関係性は「無自覚両片思い」というか、「お互いにあえて自覚するのを避けている両片思い」。
      基本的にどの回も、登場人物紹介を見れば分かるように書いているのですが、この回に限っては前作のおまけ(蛇足?)的な内容となっております。
      そんな訳で、できれば前作読んで下さっていること推奨……なのですが、下記「注意点」にも書いた通り、前作の雰囲気を壊しかねない若干の下ネタを含みます。
      当該場面は6ページ目です。苦手な方は飛ばしちゃって下さい…。



      注意点

      このお話には以下の内容が含まれます。

      ・転生世界線現パロ

      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ

      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる

      ・転生後の一部刀剣に彼女や妻子(名前アリ)がいる
      ・若干の下ネタ(おっぱいとかAVとかに言及する場面)あり



      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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