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    しおり
    三池書店③ 中編(下)三池光世(大典太光世)
    表向きは本格派古書店「三池書店」の店主。審神者からは「店長」と呼ばれている。
    裏の顔はメタルバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のベーシストHIKARI。
    店番をしている時は、基本的に身バレ防止のため和装。
    過去の交際相手から受けてきた酷い仕打ちのせいで、女性と一歩進んだ関係になるのを恐れている。
    審神者の推しがV系バンド「Blood Line Carousels」のベーシスト「カンデラ」だと思い込み嫉妬中。

    審神者
    妖怪好きな貧乏学生。
    普段はホワホワした雰囲気だが、意外と激しい音楽が好き。
    推しは「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のベーシストHIKARIさん。
    本格派古書店「三池書店」でボランティアをやっている。
    今まで言われてきた酷い言葉のせいで容姿にコンプレックスがあり、身近な男性を好きになるのを恐れている。

    三池ソハヤ(ソハヤノツルキ)
    表向きはパーソナルトレーナー。
    裏の顔は「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のドラマーSONIC。
    自分よりガタイのいい奴(兄弟含む)を密かにライバル視している。

    左門江雪(江雪左文字)
    表向きは名刹「沙門寺」の住職。
    裏の顔は「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のギタリストLICKA。
    ライバル視ではないが、しょっちゅう三池くんの奢りで飲んでいる学生時代の同級生鬼丸くんを少しだけ羨ましく思っている。

    肥前忠広(肥前忠広)
    表も裏も「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のボーカルHIRO。
    他にもいくつかバンドを掛け持ちしていたり、毒舌食レポY○uTubeチャンネル「カレー味のFxckin’ Shit」をやってたりする。
    自分よりイケメンな奴と歌がうまい奴は全員ライバル。

    薙田静(静形薙刀)
    表向きはピアノの先生。
    裏の顔は「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のサポートキーボーディストSILEN。
    ライバル視している相手はFranz Liszt。目標は高く持ちたいタイプ。

    前田(前田藤四郎)
    「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のマネージャー。
    社会人になって日は浅いが、下手な中堅より仕事ができる。
    ライバル視してる相手はいないのか、それとも沢山いすぎていないように見えているだけなのか、本人にもよく分からない。
    パチリ。
    その日の寝覚めは、機械のスイッチを入れたかのごとく一瞬だった。
    カーテンの隙間から差し込む、朝日にしては眩しすぎる陽光。
    10:19
    完全に寝坊した。
    ガバリと起き上がり、寝冷えした腹をさする。
    昨日は限界が来るまで練習し、そのままパンツ一丁で寝落ちした。シャワーも浴びてない。
    開店時間は過ぎてるが、せめて汗ぐらい流さなくては。
    早足で階段を降りる途中、部屋でスマホが鳴り始めた。よりにもよってこんな時に。タイミングが悪い。
    無視しようかとも思ったが、緊急の用事ということもある。
    降り切る寸前だった階段を再び駆け上がって、相手も見ずにスマホを取った。
    「もしもし?」
    –あっ!店長!今日のお手伝いってどうなってましたっけ?–
    電話口からは、審神者の困ったような声。
    「ん?昨日来たんだから今日は手伝いの日じゃ…」
    言いかけてハッとする。
    ライブ前に溜まりに溜まった事務作業を片付けるため、今日も来てくれと頼んでいたのだ。完全に失念していた。
    「…済まん!すぐ開ける!」
    外は、残暑なんて言葉じゃ片付けられない、直球の「夏」が続いている。
    階段を二段飛ばしで駆け降りて、サンダルをつっかけ入り口の鍵を開けたところで手が止まった。
    炎天下で長らく待たされ、ようやくシャッターが開いたと思ったらシャワーすら浴びてないパンイチのおっさんが出てくるんだぞ…?
    「……済まん!もう少し待てるか?」
    「–もしかして、今日ってお休みでした?帰った方がいいですか?」–
    「違う。寝坊した。シャワーも浴びてないし、なんなら今パンツしか履いてない!」
    スマホとシャッターの向こうから同時に聞こえてくる声に、現状をありのまま伝える。
    「–………」–
    「悪いが、十五分だけ待ってくれ。一旦切るぞ。」
    返ってきた沈黙にそれだけ告げて一方的に電話を切り、大典太はドタドタと風呂場へ駆け込んだ。
    寝坊、パンイチ、シャワーも浴びてない。
    伝えられた状況が一直線で結ばれて、その先にクッキリと女の影を描く。
    下瞼の小刻みな痙攣を感じながら、審神者は虚ろな目で虚空を見上げ「ふ、ふふふ…。」と小さな笑い声を上げた。
    近所の薬局から出てきたお婆さんが、こちらを見るなり眉を顰め、目を逸らしながら足速に通り過ぎていく。
    女っ気がなさそうなんて、思ってた自分が馬鹿だった。
    イケメンには、彼女がいる。自然の摂理じゃないか。
    ハッキリ浮かぶ「失恋」の二文字。
    気付いてしまった。これは「ガチ恋」ではなくて、店長は「推し」なんかじゃなくて……
    これ以上核心に近付いてはいけないと、けたたましく警鐘を鳴らす理性。
    私、やっぱり、店長のことが、す………
    理性の警鐘が奏でるのは、底抜けに明るいのに、やたら焦燥感を煽ってくるメロd……え?
    いや、これ理性の警鐘じゃなくて着信音だ。
    出所はシャッターの向こう側。
    結構ずっと鳴ってる。
    あ、止まった。
    『…もしもし、どうした?』
    シャッター越しに漏れ聞こえる声音はフランクで、仕事の話じゃなさそうだ。
    『明日?また急だな。』
    もしかしなくても、相手は彼女?
    『〜〜午後〜〜に〜〜〜だな?』
    昨日も会ったのに明日も会うんだ…。
    隔日で会ってる自分を棚に上げ、審神者は唇を尖らせ俯く。
    『ん?ああ、〜〜〜なら大丈夫だ。明日は来ない。』
    私のことだ。
    すぐに分かった。
    彼女さんにも、話してるんだ…。私のこと…。
    心臓にチクリと針が刺さる。
    『ああ、じゃあまた明日』
    店長が電話を切り、再び静まり返るシャッターの向こう側。
    今、自分は、きっとすごい顔をしてる。
    中学時代、片想い相手からこっぴどくフラれた時ですら、こんな気持ちにはならなかったのに。
    気付くのが遅すぎた?
    違う。ずっと、気付いてた。目を逸らしてきただけ。
    これ以上を望んでも、叶わないのは分かってたから。
    自分の思いを自覚して、そこそこ幸せな今の関係が崩れるが嫌だった。そして、これからも、この関係を壊したくない。
    気持ちを切り替えようとSNSを覗いてみるが、こんな時に限ってタイムラインは静かだ。トレンドを見れば、悲しいニュースや陰謀論、分断を煽る話題に溢れていて、尚更気持ちが滅入っていく。
    一つため息をついてホームに戻り、ひたすら画面を引っ張っては放し、引っ張っては放し、を繰り返していた時だった。
    [Bloody Summer Splashに鋼音参戦決定!]
    飛び込んできたのは鋼音公式の投稿。
    えっ!?マジで!?
    審神者は思わず目を丸くする。
    Bloody Summer S血祭りplashって言ったらV系のフェスなのに!
    いわゆるTL受動喫煙で、Bloody Summer Splash–通称「血祭り」については知っていた。フォロワーに、主催バンドBlood Line Carouselsのキーボーディスト、Mさん推しの子がいるからだ。
    もう一度タイムラインを更新すると、そのフォロワーの[代演決まった〜!良かった〜!]という呟きが流れてきたので「いいね」しておく。
    今年で四回目を迎えるBloody Summer Splashは一波乱起きていた。今回の目玉バンドGothic Gloriousの出演キャンセルにより、大量のチケットの払い戻しが発生。同じくらい集客力のあるバンドを代打で呼べなきゃ中止もやむなし。そんな危機的状況だったのだ。
    フォロワーがRTする「代打に誰が来るか」の予想タグでは鋼音の名前も時折見かけたが「自分達はあくまでメタルバンド、V系じゃない」と常々主張してる鋼音はまず来ないと踏んでいた。
    それが、まさか……
    目を見開いたまま添付画像をタップする。
    主催者であるBlood Line Carouselsのロゴがでかでかと書かれたその隣、堂々と並ぶ鋼音のロゴ。
    開催が危ぶまれるフェスに、矜持も捨て乗り込んでいくその姿勢。漢気。
    やっぱり鋼音は最高だ。
    叫び出しそうになる口元を押さえる。
    今まで正直興味がなかったフェスだけど、こんな形で鋼音が参戦するなんて胸熱すぎる。他の出演者を見てみれば、知ってるバンドもチラホラあるし。
    観たい。
    店長が彼女持ちだと発覚した今、自分の心を癒せるものはこれしかない。
    画像を左にスワイプして、公演の詳細を確認する。
    日程は来週土曜日。お手伝いがない日だ。いける。
    場所も市内。ちょっと隣のN市寄りだけど、頑張ればいけるだろう。
    チケットの値段は、前回の鋼音単独ライブの二倍強。
    あっ……………。
    ………………無理だ…。
    審神者は、遠い目をしてスマホをポケットに仕舞い込んだ。
    空が青い。
    時を同じくして、背後でシャッターが開く。
    不意打ちで食らう大音量に飛び退きながら振り返ると、シャッターを片手で支えながらこちらを見下ろす店長がいた。
    涼しげな甚平姿からふんわり漂う、シャンプーとボディーソープのいい香り。
    普段はターバンでまとめたり、ハーフアップにしている髪は降ろしていて、首にかけたタオルにポタポタと雫が滴っている。
    「待たせたな。」
    少しだけ申し訳なさそうな優しい声音。
    まさに、今お風呂から上がったばかりの店長は、いつも以上に色っぽい。
    彼女いるのに、それはズルいですよ…。
    レトロなチャイムが鳴る中で、審神者は店長に悟られないよう口元を引き結んだ。
    流石に、怒らせてしまっただろうか?
    審神者の表情が、見るからに固い。
    帳簿を睨んでは眉をしかめて溜め息をつき、こちらをじっとりした目で見ては溜め息をつく。
    それはそうだ。
    こちらから来てくれと頼んでいたのに、四十分近く待たせてしまったのだから。外の気温は二十八度。暑かっただろう。
    ドライヤーで髪を乾かし、ターバンでまとめる。
    浮かない顔で帳簿と向き合う審神者に「少し、席を外すぞ」と声をかけ、近くのコンビニへと向かった。

    店長が、どこかに出掛けていった。
    また彼女と電話でもするんだろうか。
    帳簿と睨めっこすれば、お金のことからフェスのチケット代のことを連想し、心がメリメリ滅入っていく。
    それにしても…
    お金がないのは、店長も一緒なんだなぁ…。
    算出した売上を見て驚いた。想像の半分にも満たなかったからだ。これなら、バイトガチ勢の学生の方がまだ稼いでいるくらいのものである。
    こんな収入で、どうやって暮らしてるんだろう?
    店長から「極貧」という印象は受けないし、ドライブの時も色々お金を出してくれた。
    付き合ってなくてあれなら、彼女さんにはどれだけお金を使ってるか分からない。
    一体、どこからそんなお金が…?
    謎だ。
    ♪ピーンポ〜ン ピーンポ〜ン
    「いらっしゃ……」
    反射的に顔を上げると、そこにいたのは帰ってきた店長だった。
    「俺だ。」
    苦笑するその手が、コンビニの袋を掲げる。
    いそいそと座敷に上がった店長は、自分の隣に腰を下ろし、コトリ、コトリとアイスのカップを並べた。自分じゃなかなか手の出ない、お高いアイスの新作だ。
    「どっちがいい?」
    「えっ?貰っちゃっていいんですか?!」
    「暑い中待たせてしまったからな。」
    懐事情はさほど自分と変わらない筈なのに……!
    何度もお礼を告げながら『贅沢ラムレーズン』の蓋を開ける。
    「いただきまぁ〜す!」
    一口食べれば口の中、クリーミーなミルクの甘みと、ラムレーズンの芳醇な香りが広がった。
    「おいひいれす!」
    アイスの冷たさにかじかんで、舌ったらずになりながら店長を見上げる。
    「こっちも一口味見してみるか?」
    差し出されたカップ–店長の手が大きいからお猪口みたいだ–から『初恋ベリー』を一匙掬って食べてみると、鼻に抜ける、甘酸っぱくて爽やかな香り。
    「ん〜!こっちもおいひい!」
    言ってからはたと気付いた。……これって、もしかしなくても間接キスでは…?
    隣を見上げると、先程と同じ表情でこちらを見下ろす店長と目が合う。……気まずい。
    「あっ、あっ、あのっ、私のも食べてみますか?」
    何か言わなきゃと思って咄嗟に出たセリフがこれである。
    言ってから、しまったと思った。
    私なんかの食べかけを店長に勧めるとか、馬鹿じゃないの。私みたいなブサイクの食べかけなんて絶対気持ち悪いし、断るにも断りづらいじゃん。
    「そのっ、嫌だったら全然……」
    次の瞬間、両手で差し出したカップにスプーンが刺さって、ズシッと重量を感じる。自分が口を付けたすぐ脇から一口分。丁度良い感じに溶けたベージュ色のクリームが、白いプラスチックのスプーンに乗って運ばれていく。ぱくっ、とスプーンを咥える、色味の薄い唇。
    え、いいんですか?
    私が店長の食べかけ食べるのは全然構わないというか、むしろご褒美なんですけど、店長はそれでいいんですか?
    「美味いな。」
    幸せそうに綻ぶ凶相。
    「おっ、美味しいですよね!」
    店長は、あんまりその辺気にしない人なのかもしれない。
    再び自分のアイスを掬うと、少しだけ甘酸っぱい苺の味が混ざっていた。
    時を同じくして、N市。
    閑静な住宅街に立つ、一軒のモダンな邸宅。その、黒を基調としたシンプルでシックなリビングに、男はいた。
    革張りのソファの中央、今すぐ青山の一等地に放り出しても溶け込めそうな装いに身を包み、長い脚を組んで腰掛ける姿はまさに威風堂々。
    「へぇ〜、受けてくれたんだ。」
    男の、チェロの音を思わせる落ち着いたバリトンが歌う。
    眼帯で覆われていない左目が睨んでいたのは、〈Bloody Summer Splash出演者の件について〉と題された一通のメール。
    Gothic Gloriousの代演が重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−に決定した旨を端的に告げる内容に
    「V系のフェスなんてノールックで断る人達かと思ってたけど。」
    男−切谷光忠カンデラは、穏やかでない私見を述べた。
    「おぉ、よいではないか!狩るにあたって不足なし!」
    壁際に寄りかかっていた長身の男、岩崎融Rockが大仰な口調で笑い、闘志にギラつく目で光忠を見遣る。
    「岩崎さん、対バンは狩りじゃないんだよ?向こうのファンも観に来るんだから、仲良くやろう?」
    それを諌めたのは、テーブルを挟んで光忠の向かい、一人がけのソファーに行儀よく座った銀髪の少年、日向ナツだ。その後ろから真っ白な影がヌッと現れ
    「いやいや、ファンを驚かせるには、それぐらいの気概がないとな。」
    背もたれに身体を預けるように腕組みする。
    「驚かせようとしてるのは鶴さんだけだって。」
    その登場の仕方を平然と受け止め、眉を顰めながら日向が振り返ると、鶴丸紅煉は粋じゃないとでも言いたげに片眉を上げた。
    何だか、今年のBloody Summer S血祭りplashは変だ。
    返金騒動とか代演者探しだとか、色々大変だったのもあるけれど、それだけじゃない。
    このバンドの裏リーダー、ベースの切谷さんが、ここのところずっとピリピリしてる。それこそ、Gothic Gloriousが出れないと分かる、遥か前から。
    元来、切谷さんは対バン相手をdisったりしない人の筈。
    自分達より下手なバンドにも驕らず、上手いバンドも羨まない。そんな姿勢がかっこよくて憧れていたのに、今回はどうだ。
    最初っから喧嘩腰で、相手をろくな奴じゃないと決めてかかっている。
    会う度にやつれていくし、一体どうしちゃったんだろう。切谷さんのピリピリ、イライラが伝わってるのか、他のメンバーも微妙に機嫌が悪い。
    自分はただ「血祭り」でうまくやって、お客さんに喜んでもらえればそれでいいのに。
    「こんな喧嘩腰、良くないと思うけどな。ねえ、松井さん。」
    不協和音を奏でる空気に耐えきれず、カウンターテーブルで一人トマトジュースを飲んでいた、名目上のリーダー松井Vamに助けを求める。
    「僕は、鼻血が出るくらいアツいライブができれば何でもいいよ。」
    松井は気だるい声で興味なさそうに言って、すぐにフイッと目を逸らしてしまった。代わりに、話を振ってもいない亀甲Mが割って入ってくる。
    「鋼音ってバンドは、かなりの実力派なんだよね?パフォーマンスも過激だって聞くし……一体どんな風に過激なのかなぁ?ふふふ、興奮してきたよ。」
    どんな想像をしているかは分からないが、大方ロクなものじゃない。というか、どうして亀甲さんは切谷さんのロデオマシンの上にわざわざ三角の角材を置いて座っているんだろう…?
    見なかったことにして視線を戻し、ぞっとした。
    切谷さんが、普段の柔和な笑みを掻き消して、悪鬼羅刹のような顔をしていたから。
    その左目には、昏い、昏い炎が宿っている。負の熱量で燃え盛る、漆黒の炎が。
    これに近い目を、一度だけ見たことがある。
    悪質なファン喰いで炎上中のバンドと対バンした時だ。
    あの時の切谷さんは、文字通り相手バンドの面目が丸潰れになるような演奏とパフォーマンスをして、相手のファンを軒並みBlood Line Cウチarouselsに引き込んだのだ。その結果、向こうのバンドは程なく解散。遅かれ早かれああなってたよ、と切谷さんは笑っていたけど、あの対バンが最後の一押しになったと思っている。
    でも、今回の切谷さんは、その時の何倍も凄惨な表情をしていて…。
    鋼音からはそんな悪い噂一切聞かないけど、僕の知らない何かがあるの?
    鋼音って、そんなに酷いバンドなの?
    閉店を迎えた三池書店の座敷で、審神者は店長の手作りカレーを食べていた。
    なんだか今日は、やたらと食べ物を貰っている気がする。朝のアイスに始まって、お昼ご飯にはベーコンエッグ、三時のおやつにはマカロンを買ってきてくれた。
    ……私の専属シェフか何かかな…?
    チラッと見上げた店長は、どうとはない無表情で静かにカレーを食べている。ガツガツ食べてる感じはしないのに、もの凄い勢いで減って行くご飯とルー。まるで手品だ。
    それにしても、こんなに良くしてもらっていいんだろうか?一応彼女持ちだよね?
    心に満ちた苦い罪悪感が、ため息になって溢れ出る。
    「……悩みでもあるのか?」
    やばい、聞かれた。
    「ななな、何でもないです!大丈夫です!」
    「………」
    慌てて否定したが、店長は納得いかない様子で
    「俺にできる事があったら言ってくれ。」
    ない眉を大きく下げる。その表情は、心配を通り越して悲しげですらあった。
    「彼女さんと別れて私と付き合ってください」とは言えないし、「血祭り」のチケット代くださいとも言えない。つまり、言葉は悪いが店長にできることは何もない。
    「その…一朝一夕で解決できる問題でもないと言いますか…」
    曖昧に濁すと
    「話くらいは聞けるが。」
    すかさず食い下がられる。
    咄嗟にカレーを口に放り込み、咀嚼しているフリをして考えを巡らせた。
    嘘をつけば後々面倒臭いし、かといって真実は話せない。
    ごくん。
    タイムアウトだ。
    「…えと、本っ当〜〜〜にしょうもない悩みなんですけど、私もみんなみたいにかっこいい彼氏が欲しいな〜、的な…?」
    これなら店長を名指ししている訳でも、嘘をついている訳でもない。
    チラリ、店長の表情を伺うと、今までで一番深刻な顔をしていた。やばい、めちゃくちゃ悩んでる。
    「かっこいい彼氏……か……。」
    顎に手を当てて、その単語を反芻する店長。
    長い沈黙。
    気まずくて目線を逸らすと、空っぽのカレー皿が目に入る。もう食べ終わったの?あの量を?早くない?
    どうでもいいことにびっくりしていると、店長は下を向いたままポツリ、絶妙に否定しづらい答えを返してくる。
    「あんたの事を好きになる男ならそこそこいるんじゃないか?…かっこいいかどうかは保証しないがな。」
    言われてみれば、男の人から好意らしきものを向けられたことも、ゼロとは言い切れない。
    あれは一年の頃。
    同じ学部の男子で、やたらと一緒に帰りたがる人がいた。学生街に住んでる筈なのに同じ電車に乗ってきて…。うちの方なんて、住宅街だから何もないのに。
    ぬいぐるみ(可愛くない)をくれたり、ネックレス(可愛くない上に名前入りだから売ることもできない)をくれたり、その人が履修してない筈の講義に現れたり、人気のない廊下で壁ドンされたり…。
    今思えばあの人は、私のことを、好き…だったのかもしれない。
    そのことを淡々と告げると、店長は元々凶悪な面相を更に凶暴に歪ませて
    「ふざけた野郎だ。」
    低く轟く雷鳴のような口調でピシャリと言い放った。その後すぐ、少しばかり表情を緩めた店長は
    「まぁ、あんたがそれ以上のことをされなくて良かった。」
    小さくため息をつく。
    「でも、千載一遇のチャンスだったんですよ?私さえ我慢すれば…」
    そう、私さえ我慢すれば、人生初の彼氏ができていたかも知れないのだ。
    あのなあ…と店長は呆れたようにため息をついて再び顔を顰めた。
    「あんたを怖がらせるような男に、あんたと付き合う資格はない。」
    死神か悪魔のような形相で、語気を荒げる。
    正直、今の店長はわりと怖い。
    「あのっ、多分、私が自意識過剰なだけで、その人は私のこと好きとか、そーゆーんじゃなかったんだと思います…!」
    重くなった場の雰囲気を戻そうと、慌てて前言を撤回した。
    「だって、これですよ?こんなの好きになる男性、いると思います?」
    自分の顔を指差しながら付け足すと、複雑な顔をされる。いけない、またネガティブな事を言ってしまった…。
    「逆に、どういうタイプがオススメとかってありますか?」
    「そうだな……。」
    ネガティブ発言を誤魔化そうと咄嗟に口にした質問で、再び長考に入る店長。
    これはこれで、返しづらいことを聞いてしまったかもしれない。
    「…まずは、あんたの幸せを、自分の幸せのように喜べること。」
    おっと。いきなりハードルが高い。
    「あんたを不快にさせない程度に、身なりに気を遣っていること。」
    いやいや、私自身こんな不快な見た目してるのに?
    「あんたの趣味を偏見なく受け入れ、口出ししないこと。」
    私、メタラーですけど。
    「あんたのことを、一人の人間として尊重していること。」
    「人間として尊重……?」
    「要は、付き合う、付き合わないは度外視で、単なる友達として楽しい奴ってことだな。」
    なるほど。これはそこそこいる。
    「それから、あんたの幸せのため、惜しみなく時間や金、労力を使えること。」
    …またハードルが上がった。
    店長が今挙げた条件に複数当てはまる男子は軒並み彼女がいる。ということはつまり…
    「そのどれかに当てはまる人を狙えってことですか?」
    「いや、全部だ。」
    えええ?
    付き合える、付き合えない以前に、そんな人周りに一人も……いや、一人だけいた。しかも、目の前に。店長だ。
    つまり、このレベルを見つけろと…?
    「完璧な彼氏」を頭の上から足の先までまじまじ見つめ、絶望する。
    ただ、店長はこの条件に加え、見た目もめちゃくちゃかっこいい。何より彼女持ちだ。
    見た目だけ自分と同レベルの、店長みたいな人を探せばいいってこと…?
    いやいや、見た目がどんなにヤバくても、それは無理でしょ!
    「そんなにハードル上げたら、誰とも付き合うなって言ってるのと同じじゃないですか!」
    「一つでも欠けてたら、あんたは幸せになれないぞ。」
    遠い目で、ため息混じりに諭される。
    「学生じゃ分からんかもしれんが、合わない相手、思いやりのない相手と無理に付き合うより、独り身の方がよっぽどいいんだからな?」
    もしかして、過去に何か、恋人と辛いことでもあったのかな?じゃあ、今の彼女さんはどうなんだろ?
    「今は、幸せですか?」
    「ん?まぁ、それなりに幸せだな。お陰様で。」
    そっかぁ、彼女さんは、店長にいっぱい幸せをあげてる人なんだね…。
    だったら尚のこと敵わない。
    「あっ、もうこんな時間!」
    時計を見れば、九時をまわっている。
    「すみません、こんな遅くまで変な話しちゃって!」
    「俺の方こそ引き止めて悪かった。駅まで送る。」
    「そんな、わざわざ大丈夫ですよぉ。」
    「この辺りは、最近不審者が出るぞ。」
    「私、この顔ですよ?不審者の方が逃げ出しますって!」
    「何もあんたの家まで着いてく訳じゃない。送らせてくれ。」
    そこまで言うなら…。
    店長なら、家まで着いてきてくれたって全然構わないのだけど、そんな申し訳ないことはできない。
    身支度をして店を出る。

    夜空には、ぽっかりと丸い月が浮かんでいた。
    駅までの短い距離、並んで歩く幸せを一歩一歩踏み締める。
    「そういえば、今日はいないのかなぁ…?」
    「ん?」
    「この辺りにいつも、目の不自由なおじさんがいるんですよ。」
    白杖を振り回し、オロオロと助けを求める五十歳ぐらいのおじさん。いつもなら、駅まで手を引いて連れて行くんだけど…。
    「アレか?」
    店長の指差す先を見ると、普段は白杖にサングラスで壁に掴まり立ちしてるおじさんが、サングラスを外し、スックと立って、スマホを見ていた。白杖は、閉じたシャッターに立てかけてある。
    雰囲気が違うから気付かなかった。
    ここで待っていろと制されて、店長はそのおじさんに向かいスタスタ歩いていく。おじさんを見下ろし、何やら話しかける店長。
    おじさんはジリジリと尻込みしだし、しまいには「すっ、すみませんでした!」と叫びながら一目散に駅の方へと走り去った。ポツンと残された白杖。
    一人で…走れるんだ…。目、良くなったのかな?全く見えない、みたいなこと言ってた気もするけど…
    店長は、何事もなかったかのように戻ってくると
    「これから遅くなった時は駅まで送る」
    静かに、しかし有無を言わさぬ強さで告げてきた。
    全く、油断も隙もあったもんじゃない。
    不審者が出ると聞き及んで送っていけば、ドンピシャでカモにされていたとは…。しかも、当人にはその自覚すらないときた。
    あのオッサンは「俺の(店で働いてる)女に何か用か」と凄んだだけで逃げ出すような小物だったからいいものの、もっと危険な奴に狙われたらどうするつもりだ。
    聞けば一年の時だって、ストーカーまがいの同級生に情けをかけていたようだし、気が気でない。
    明かりの消えた商店街を煌々と照らす、まん丸い月を見上げながら、石畳を歩く。
    しかし、彼氏……『かっこいい』彼氏…か。
    その時点で、フランケンシュタインの出来損ないみたいな自分が選択肢から消えるのは明白だ。
    あいつがどんな奴と付き合おうが勝手だが、俺以下の奴にくれてやるつもりは毛頭ない。だからこそ、どんな相手なら良いのか聞かれた時、普段自分が気を遣っていることを述べたのだ。
    なんならどこかで「それって店長じゃないですか!」なんて言われることすら期待していた。
    …実際は、それが誰のことなのか分かった素振りを見せながら「誰とも付き合うなと言っているようなもの」と怒られてしまったが。
    フ、と乾いた笑いが込み上げる。
    そうだよな、こんな一回りも歳上のオッサンじゃ、頭数にすら入らないよな。
    何とも言えない喪失感が、心に大きく穴を穿つ。
    月を眺め、乾いた笑い声を上げながらフラフラと歩く自分を、黒の野良猫が不思議そうに見つめている。
    幸か不幸か、あいつは鈍感だから、芽生えかけたこちらの気持ちには全く気付いていないようだ。
    異性として意識されることもない代わりに、警戒されることもない、そんな関係。
    その先を一切望んでいないと言ったら嘘になるが、あいつの嬉しそうな笑顔が見れるだけで、それなりに幸せだ。
    この関係が崩れるのが、自分にとっては一番恐ろしい。
    小さく息を吐き出してシャッターを開け、店に入る。
    審神者が帰った後は、そう大きくないこの店も、やたらと広く感じてしまう。
    何だったら、帰らなくてもいいのにな。飽きるまで話して、眠くなったら寝て…。
    ……いや、良くないか。
    そんなことになったら、こちらの理性が保つ気がしない。
    馬鹿な事を考えていないで、さっさと寝てしまおう。明日は昼からバンドの打ち合わせもある。
    今朝かかってきた、前田からの電話を思い出す。
    内容は、とあるフェスに急遽出演してくれないか、という依頼。盆踊り from HELLで演った中から適当に三曲ほどピックアップすればよい、という条件と、暑い野外で審神者を待たせているという罪悪感から、よく分からないままOKしてしまった。
    詳細はメッセージで送ると言われたが、審神者がいたため今の今まで確認できていない。
    裏庭に出て、煙草に火をつけながら送られてきたメッセージを開く。
    フェスの名前は、Bloody Summer Splashというらしい。
    ……気のせいだろうか?ネーミングセンスに、とてもデジャヴを感じる。
    詳細のURLをクリックすれば、一番上にでかでかとBlood Line C連中arouselsのロゴが戴かれており、その隣に同じくらい大きな扱いで自分達のロゴが並んでいた。
    つまり、実質鋼音俺たちがBlood Line C連中arouselsと対バンを張ると、そういうことか?
    しかも、日程は来週土曜。……いくらなんでも急すぎる。
    とりあえず今日は早めに寝よう。
    平成初期頃築であろう、パッとしないオフィスビル。その駐車場に、一台の黒塗りのセダンが停まった。
    運転席のドアが開き覗いたのは、黒い細身のケミカルウォッシュデニムを、黒皮の編み上げブーツにインした長い脚。
    ここで間違いないよな。
    大典太は、ジャラジャラと幾重にもブレスレットを付けた腕を鬱陶しげに振りながらサングラスを持ち上げ、昨日前田から貰ったメッセージとビルの看板を見比べる。
    9月上旬の真昼とあって、見栄えのためだけに着込んできたレザーのライダースが暑い。正直のぼせそうだ。
    だが、今これを脱いでしまったら脇汗で恥をかく。ファッションは我慢。耐えるしかない。
    何を隠そう、大典太はバチバチの一張羅でこの場に来てていた。見た目でナメられたらたまったものではないからだ。
    普段は雑に括っているだけの髪も、アイロンでセットし、ワックスで固めている。…不慣れなのと、柔らかい猫っ毛のせいで、一時間近い格闘も虚しく、見栄えはほとんど普段と変わらないが…。

    指定された会議室に足を踏み入れると、冷房の涼しさが身に染みる。
    先方は既に揃い踏みしており、全員が涼しげで、けれど今風の小洒落た装いに身を包んでいた。
    来たばかりだが、もう帰りたい。
    視線を落とし、十年前の秋の渋谷から強制連行されてきたような己を睨む。
    鋼音側で来ているのは前田と静だけで、肥前や兄弟はおろか江雪すら来ていない。
    「今日はまた一段と気合が入っているな。」
    頭の上から足の先までまじまじと見つめてくる静。
    …それ以上触れてくれるな……。
    「俺はこの通り普段着で来てしまったが、大丈夫か?」
    幼馴染は、生来の困り顔を更に困らせ聞いてくるが、アンシンメトリーの黒いシャツにサルエルというモードな服装はいかにもアーティスト然としているし、何より似合っている。時代遅れという感じもしない。
    「大丈夫だ。」
    小声でそう答えるのが精一杯だった。
    静の隣に座り、他のメンバーの到着を待つ。
    打ち合わせ開始まであと十分。
    相手もこちらも、無言である。空気が重い。
    その重圧に耐えかねて、貧乏ゆすりしながら待っていると江雪が来た。長い髪を後ろで束ね、チェックのシャツにチノパンという「休日のお父さん」スタイルだ。
    「……三池くん…その服装で、暑くはありませんか…?」
    触れないでくれとも言えないし、ましてありのまま暑いと言うこともできない。
    「…大丈夫だ。」
    静に向けた返事より更に小さい声で告げる。
    江雪が隣に腰掛け、再び無言の時間が始まった。
    チラッと相手方を伺うと、各々退屈そうにスマホをいじっている。自分達より余裕を感じるのは、相手方の事務所が入っているビルだからだろうか。
    それにしても、雰囲気が暗い。普通、こう言う場では相手方と雑談の一つや二つ交わすのが普通だが…。
    「お疲れーす!」
    張り詰めた空気に一石を投じたのは、勢いよくドアを開けて入ってきた兄弟だった。
    「何だ?なんか、お通夜みたいな雰囲気だな?」
    ずっと思っていた事を率直に口に出してくれた兄弟に、心の中でスタンディングオベーションを送る。
    「どうも、俺、鋼音のドラマーやってます、SONICこと三池ソハヤです。」
    明るくハキハキ礼儀正しく、相手方に挨拶する兄弟。流石、学生時代ずっと体育会系をやっていた奴は違う。
    向こうも顔を上げ、メンバーたちが次々に自己紹介していく。
    この空気に息苦しさを感じていたのは自分達だけではなかったようで、声や表情からは安堵の色が窺えた。ただ一人、カンデラを除いては。
    「初めまして。僕はカンデラこと切谷光忠。ビジュアル系バンド、Blood Line Carouselsのベーシストだよ。」
    ビジュアル系バンド、という部分を、光忠は殊更に強調した。
    「君達の音楽は、オファーする前に全部聴かせてもらったけど、まぁ、かっこいいんじゃないかな?」
    クイっと顎を上げた独眼が、純度の高い悪意を宿しこちらを見据える。
    「あれだけ普段V系じゃないと主張してるから、正直オファーは断られると思っていたんだけど、そんなにお金に困っていたんだね。服なんかも、十年近く買えてないみたいだし。」
    他のメンバーはマトモそうだが、カンデラは想像の百倍くらい嫌な奴だった。
    こんなのを推しているなんて、あいつは正気か?
    思い出すのは、かっこいい彼氏が欲しいと言った審神者の顔。
    「まぁ、でも、助かってはいるよ。君たちが出てくれなきゃ、フェスは中止もあり得たんだから。」
    含みのある言い方。今にも暴発しそうな苛立ちを抑えるように、ギリリと奥歯を食いしばる。
    その時、バーンと勢いよく入り口のドアが開いた。
    「言ってくれるじゃねーか。え?ピカ○ュウさんよ。」
    一斉に集まった視線の先にいたのは、我らがボーカル、肥前。
    「それがあんたらのフェスの救世主に対する態度か?ええ?」
    喧嘩腰の光忠に、それ以上の喧嘩腰でツカツカ歩み寄った肥前は、真正面に立って至近距離でガンを飛ばした。しかし光忠も一歩も引かず
    「君たちこそ、普段からあれだけV系を貶めるような発言をしておきながらよく出る気になったよね、プライドってものがないのかな?…って話をしていたんだよ。」
    小馬鹿にしたような笑みで肥前のメンチを受け流す。
    「けっ……ケンカは、やめようよ!」
    意を決したように声を上げたのは、向こうのボーカル、日向だった。
    「うちの切谷さんが、ごめんなさい。Gothic Gloriousがこんな時期に出れなくなって、返金騒動とかもあったから、ここのところずっとピリピリしてて…」
    整った童顔を歪め、小柄なボーカルは深々と頭を下げる。
    「僕は、皆さんの音楽、好きです。荒々しくて激しいのに繊細で、綺麗で、ボーカルのHIROさんも、僕には絶対できない歌い方を色々やってて、尊敬してます。」
    紋切り型の謝罪ではなく、自分の言葉で話しているのはすぐ分かった。肥前も一つ舌打ちして引き下がる。

    その後、打ち合わせそのものは滞りなく進んだ。
    選曲に関する話し合いで、光忠が「そういう野蛮な曲はウチのファンが怖がる」だの「一応君たちは準大トリを予定している」だのと癪に触る言い方をして、一触即発の空気になり、日向がその都度穏当な言い方に訂正していた以外は。
    着込んできた革ジャンが暑いのと、審神者の推しがよりにもよってこんな奴である事への苛立ちも相まって、大典太はほぼ言葉を発しないまま始終光忠を睨んでいた。
    「それにしても君、置物みたいだよね。」
    会議も終盤に近付いた頃、光忠から声がかかる。
    「…別に、お前らごときに話すことがないだけだ。」
    フンッと鼻を鳴らしながら、目一杯ドスを効かせた声で告げ目を逸らす。我ながら、中々の嫌な奴ムーブだ。
    日向のようないい奴もいる中で「お前ら」と一括りにすることに抵抗がないと言ったら嘘になる。しかし、このような振る舞いを黙認している時点で多かれ少なかれ同罪だ。
    待っていろ光忠カンデラ。待っていろ審神者。
    俺が「かっこいい」とはどういうことか見せつけてやる。
    反撃の炎をサングラスの奥にギラつかせ、大典太は唇の端をニッと持ち上げた。
    ガラガラと店のシャッターを開けながら、大典太は大きな欠伸をした。
    それもその筈。「打倒カンデラ」を掲げ、昨日…というか今日は空が白み、カラスが鳴き始めるまでベースを弾き倒したのだから。睡眠は仮眠程度のものしか取っていない。
    程なくして、駅の方から審神者が来るのが見える。
    「おはようございます。」
    挨拶する声には、どことなく元気がなかった。
    「ああ。」
    こちらはこちらで頭が回らず、出てきたのは気のない返し。
    お互いに、釈然としないテンションのまま店に入る。チャイムの音が伽藍堂の頭にやたらうるさく響いて、顔を顰めた。

    「私、何か変なことしちゃいましたか?」
    そんな質問が出てきたのは、一緒に素麺を啜っていた昼下がりのこと。
    「ん?」
    「今日の店長、なんかピリピリしてるんで…私のせいかなって…」
    審神者らしからぬ暗い声音で口を尖らせる。
    「……いや、あんたは何も悪くない。」
    実のところ、イライラの一割程度は審神者があのいけすかない光忠カンデラを推していることに端を発するのだが、それはどうにもならないことだ。他人の趣味に口出しする奴はダメだと、ついこの間、自分から説教したばかりである。
    「……このところ寝不足でな。」
    「…………へ〜ぇ。」
    それを告げると、なぜか審神者は声のトーンを更に下げ、じっとりした目でこちらを睨んでくる。
    「あんたこそ、元気がないじゃないか。」
    「ああ、私は………。」
    言い淀んだ審神者は、江雪もびっくりの大きなため息をついた。
    素麺をすする音だけが座敷に響く。
    「なぁ、あんた。」
    先に重い沈黙を破ったのは大典太。
    「こういうの、知ってるか?」
    差し出したのは、Bloody Summer Splashのページを開いたスマホ。
    「えっ、Bloody Summer S血祭りplashじゃないですか!どうして?」
    審神者の表情がにわかに気色ばんだ。
    「こういうの、好きだろう。」
    「へ?あっ、ま、まぁ、そこそこ、好き…ですね。はい。」
    その動揺の仕方が「すごく好き」と物語っていることには目を瞑ろう。
    「行く予定はあるのか?」
    「行く予定………」
    その瞬間、審神者をどんよりとしたオーラが包む。
    「…ないです……。どうしてそんなことを…?」
    「いや、知り合いからチケットを貰ってしまってな…。生憎俺は、ビジュアル系とかそういうのには疎いんで、どうすればいいか考えあぐねていたんだが…。」
    ある意味本当だ。自分はV系には疎いし、チケットは知り合い(前田)に手配してもらった。
    「あんたさえ良ければ貰ってくれないか。」
    「えええええっ?!いいんですか?!」
    分かりやすくパッと弾けた表情に笑ってしまった。今日初となる「いつもの審神者」だ。それがあの光忠クソ野郎によってもたらされたと思うと複雑な気持ちだが。
    「俺が持っていても仕方のないものだからな。」
    そう、出演者がこんな物を持っていても仕方ない。
    「あんたが何でそんなに落ち込んでるかは知らんが、こういうのに行けば気も晴れるだろう。」
    明るい表情のまま礼を述べる審神者。
    「色んなバンドが出るようだし、今まで触れたことのないバンドで気にいるのがあるかも知れんぞ。」
    「そうですね!」
    重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−とかな…。
    心の中で付け足して口元を僅かに歪める。
    本物のロックというものを見せてやる。
    カンデラあんな奴よりHIKARIを推せ……!
    来てしまった…。
    Bloody Summer Splash、通称「血祭り」に………。
    まさか、あんな形でチケットが手に入るなんて思ってもみなかったから、これは正直奇跡に近い。
    あれ以来、毎日早めに帰されるようになったのは正直クるものがあったけど……。
    店長連日寝不足って言ってたし、きっと彼女さんと、寝不足になるほど毎日毎晩………。
    脳内で一人歩きし始めた妄想を振り払うようにかぶりを振った。
    今、それはなし。折角こんな素敵なイベントに来れたんだから、楽しまなきゃ。
    これまで、見た目がかっこいいバンド、音楽がかっこいいバンド、芸人顔負けのMCやパフォーマンスをするバンドなど、色んなバンドが妍を競ってきた。
    そして、今が最後の幕間。
    次が、鋼音だ。
    期待値はMAX。固唾を飲んで壇上を見守る。
    周囲から「鋼音ってどーゆーバンドだろーね?」「え〜?知らな〜い。興味ないし。」というナメた会話が聞こえて来たが、あいにく注意する勇気はない。黙ってじっと睨みつけても、二人は全く意に解さない様子でカンデラさんがどうの、Vam様がどうの、と会話を続けている。
    ステージ上に、鋼音メンバーが現れた。にわかに沸騰するテンション。反対側からは、Blood Line Carouselsのメンバーも登壇する。
    えっ、一緒に演るの?!
    Blood Line Carouselsに向けて黄色い悲鳴が上がる中、思いがけぬ演出に浮き足立つ心。
    HIKARIさんと、向こうのベーシスト(カンデラさん、だっけ?)が、ステージの端と端でガンを飛ばし合う。
    やばい、こんなバチバチにオラついたHIKARIさん初めて見たかも…!
    気付けば自分も黄色い悲鳴を上げる一人になっていた。女性が圧倒的に多い会場では、こういう反応をしても浮かないのがいい。
    「輸血袋のみんな〜!楽しんでくれてるかな?」
    相手方のボーカルが、中々エグいファン呼称で観客席に呼びかけると再び巻き起こる黄色い悲鳴。
    「今日のスペシャルゲストを紹介するよ!重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−!」
    鋼音メンバーが一斉に片手を上げ、オーディエンスを見渡す。全体的に野太い歓声が上がった。しかし声量は、Blood Line Carouselsに向けられるものの半分以下。相手方のファンはシラっとした目で見てるだけ。
    「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−だ!」
    HIROが普段通りがなり立てるも、やはり歓声を上げるのは鋼音目当てのファンばかり。
    普段、事あるごとにV系じゃないと主張していたのが仇になったのかもしれない。
    「チェッ、なんだよ、アウェイだなぁ〜。」
    SONICが、頭の後ろで腕を組みながら、口を尖らせ率直な意見を述べてくる。これには、Blood Line Carouselsのファンからも少しだけ笑いが漏れた。
    「ま、アウェイだろうがなんだろうが、キッチリ楽しんでってもらうからな!なぁ、兄弟!」
    「ああ。会場全員、俺たちのファンにしてやる。」
    強気の発言に沸く会場。
    「がっはっは!面白い。お手並み拝見といこうか!」
    向こうのドラマーのすごく大きい人が、大仰な口調で豪快に笑った。
    鋼音メンバーが所定の位置につき、Blood Line Carouselsが下がる。
    まずは一曲目。何が来るだろう。
    始まったのは、ホラー的緊張感を持ったキーボードによるイントロ。一曲目からいきなり「鋼音」だ!
    哀愁の漂う美麗なリフが始まると、最初は地蔵になっていた客も、一人、また一人と曲の世界に引きずり込まれていく。
    前回の単独もすごい気迫だったが、今回は更にそれを超えてくる勢いで、まさに「鬼気迫る」という形容が相応しい。
    全身に鳥肌が立った。
    聴くだけで分かる。鋼音は、本気で会場全員をファンにするつもりで来ているのだと。
    ナメたこと言ってたマナーの悪いBlood Line Carouselsファンも、今やポカンとステージに釘付けになっている。その様子にちょっとした愉悦を覚えたところで、ベースとギターのユニゾンパートが始まった。
    単独ライブ同様に、HIKARIさんとLICKA様がステージ中央で向かい合う。前回、この演出に反応していたのは自分含め一部の女性ファンだけだったが、こっちの会場ではその瞬間大きな悲鳴が上がった。
    熱狂がステージ上まで伝わったのか、今回は前回より二人の距離が近い。
    唇が触れ合ってしまうのではないかとドキドキするくらいに顔を近づけ、長身の弦楽隊が睨み合う。
    そのセクシーな表情に、心臓がバクバク暴れてる。
    HIKARIさんが所定の位置に戻り、LICKA様のソロパートが始まると、心なしか先ほどよりも歓声が大きくなっていた。
    ものすごい気迫のまま、自己紹介代わりの一曲が終わると、会場に巻き起こる拍手と声援。
    鋼音沼にようこそ。
    審神者は心の中ほくそ笑んだ。
    ツカツカと、壇上にBlood Line Carouselsが戻ってくる。
    「ふぅ〜ん、やるじゃないか。」
    向こうのベーシストが、ニヤニヤと余裕の笑みを浮かべながら、高慢な口調で告げた。なんだか感じの悪い人だ。
    「でも、輸血袋のみんなは、物足りないんじゃないかな?」
    鋼音の演奏にポカンとしていたマナーの悪いファン二人はその言葉にハッとして、狂ったように肯定の叫びを上げる。
    「次は僕たちの番だよ。かっこよく決めるからね。」
    鋼音が渾身の代表曲を演り終えた時よりずっと大きい声援が上がった。
    「One Night Carousel」バンド名の一部を題名に持ってきているから、きっとこれが向こうの代表曲なのだろう。
    煌びやかで繊細な、チェンバロを模したギターの音が、三拍子の優美なリフを奏でる。
    クラシカルで耽美なんだけど、きちんとメタルの激しさもあって、物悲しい旋律が胸の奥に夜風のように吹き渡って…。
    有体に言えば、出だしからして既にめちゃくちゃかっこよかった。
    落ち着いた声質のボーカルが歌い上げるクリーンボイスが耳に心地いい。歌詞は「一夜だけの恋人を懐かしく思い出す」という、ちょっと…いや、かなりチャラい内容だけど…。
    よく聞くと、メロディーは三拍子と四拍子を違和感なく行き来する構成になっていて、ギターソロもLICKA様と同じくらいうまい。
    ただの顔バンドだとナメてかかっていたら、とんでもないバケモノじゃん。
    曲が終わった瞬間、気付けば他のBlood Line Carouselsファンと一緒に歓声を上げていた。
    「ヘッ、おめーらも中々やるな!」
    演奏を終えたBlood Line Carouselsに、HIROが挑発的な声をかける。
    「だが、おれ達もまだまだ弾数は残ってる。『狼』いくぞっ!」
    嘘っ、二曲目に「狼」出してくるの?!
    単独では「秘曲」扱いだったのに!
    荒々しいHIROのデスボと、荘厳で雄大なのに、どこか素朴さを感じさせる演奏の対比は何度聴いても最高だ。
    元々鋼音を知らなかったオーディエンスも、一曲目で度肝を抜かれたのか、疾走感溢れるファンタジックな世界観の虜になっている。
    曲が終わる頃には、周囲からザワザワと「鋼音いいじゃん」「帰りに絶対DLする」などといった声が漏れ聞こえるまでになった。
    しかし、代表曲、秘曲ときて、最後は何を演るんだろう?
    次はBlood Line Carouselsの番。
    「奇しくも、僕達にも狼をテーマにした曲があってね。」
    ベースのカンデラがそう告げた瞬間、Blood Line Carouselsのギャが一斉にとんでもないテンションで嬌声を上げる。耳が痛い。
    どういう曲を持ってくるのかは知らないが、この反応を見るに、向こうもかなりの本気ガチ選曲らしい。
    ボーカルが「Fenrir」という曲名を静かに告げ始まったのは、天高くから急降下爆撃を仕掛けるような、疾走感ある激しいリフ。
    全く知らない曲だったが、この時点で既に全身鳥肌まみれになっていた。
    やばい、かっこよすぎる……。
    ボーカルも、クリーンボイスではあるものの、先ほどよりかなり激しい歌い方で、猛禽が獲物に向かい一直線に襲い掛かっていくような猛々しさを感じる。
    これは、鋼音贔屓の自分から見ても凄いと言わざるを得ない。周囲のギャが一斉に断末魔にも近い悲鳴を上げたのも納得だ。
    歌詞の内容が「一時期は深く想いあっていたのに去っていった女性に追い縋る」という女々しい内容であることも忘れるほどに、激しく、美しく、激しい。
    圧倒的だ。
    緩急をつけつつ、旋風のような疾走感を保ったまま演奏が終わる。
    神々しさすら感じるその演奏に、気付けば泣いていた。周りのギャも泣いている。何ならステージを拝んでる。
    あまりにも美しい圧巻の演奏への感動と、鋼音を裏切ってしまったような心地悪さが心の中で同居している。
    次は鋼音のトリ曲の筈。この後に演るのはあまりにハードルが高すぎるのでは?
    一抹の不安が心の中を駆け抜けた。
    「すげーの出して来たなぁ!」
    SONICが爽やかな笑顔で素直に告げる。
    「けど、こっちはまだ『最終兵器』が残ってんだよ。な、兄弟?」
    「ああ。」
    話を振られたのはHIKARIさん。
    壇上の鋼音メンバーの表情を見れば、まだ全員が不敵な笑みを浮かべている。
    何をやるつもりなんだろう?
    所定の位置からHIKARIさんが中央に歩いて来て、HIROと並んだ。
    これは、もしかして、もしかすると…?
    「『忌事』聴いてくれ。」
    マイクに向かい、腰を屈めて告げたのはHIKARIさん。
    もしかしちゃう??
    短いリフの後始まったのはHIROの歌唱。HIKARIさんはその後ろで右に左に移動しながらベースをかき鳴らすだけ。
    あ〜、もしかしなかったかぁ…。
    がっかりしていると、途中でHIKARIさんがHIROからマイクを奪い取るように掴んで歌唱に入った。
    前回のライブではHIKARIさんの単独歌唱だったが、今回は二人で歌うらしい。
    お互いマイクを奪い合いながら交互に歌うHIKARIさんとHIRO。
    何だかとても、背徳的な香りが漂う絵面だ。
    HIKARIさんが後ろから歌っているHIROの頬に手を添えたり、HIROが歌っているHIKARIさんの背にもたれたりする光景のエロスは、代表曲「鋼音」で見せたLICKA様とのパフォーマンスを軽く超えてくる。
    頬と頬が触れ合いそうな距離まで顔を近付け、一本のマイクで同時に歌う二人。
    こっ、これはいけない…!!何かに目覚めてしまう!
    前回とは別の意味でとんでもないモノを見せつけられている。
    周囲のギャも、今にも鼻血を垂らしそうな勢いで、食い入るようにステージを凝視していた。
    ダークでダウナーで背徳的な楽曲の世界観にピッタリのパフォーマンス。
    HIKARIさんのただでさえセクシーな歌声を聴きながらこんなものを見せられて正気を保っていられる筈がない。
    背後に立ったHIKARIさんが、左手をHIROの腰に周し、右手で目隠しして、曲が終わる。
    鋼沼のほとりに立っていたBlood Line Carouselsのギャが、集団で身投げする音が確かに聞こえた気がした。
    これで鋼音のパフォーマンスはおしまい。
    「……やるじゃないか…!」
    向こうのベーシストが、拍手をしながら、心底悔しげに鋼音のパフォーマンスを大絶賛する。低いバリトンは、よく聞くと苦々しい毒気を孕み、若干震えていた。
    次にBlood Line Carouselsが演奏すれば、ライブ自体も幕となる。
    長い筈なのに、体感はとても短かった。
    最後の曲は「月虹」。
    文字通り、窓から差し込む月光のような、冴え渡るピアノの音色で静かに始まった曲は、ボーカルがワンフレーズ歌い上げると一気にギターとベースが加わって盛り上がり、疾走感あるそれに変わる。
    まるで、ひんやりとした夜風の吹く月夜を駆け抜けるような哀愁と疾走感。
    まさに大トリとして相応しい楽曲だ。
    歌詞は、生々しく情事を歌った内容で、あまりに直接的な暗喩に聴いてるこっちが恥ずかしくなってくるほどだけど。
    気付けば周りのギャと一緒に、見よう見まねで合いの手を入れていた。
    −今まで触れたことのないバンドで気にいるのがあるかも知れんぞ。−
    チケットをくれた店長の言葉を思い出す。確かに、鋼音ほどではないにせよ、いいバンドに出会えたかもしれない。
    今度他の曲のMVも見てみよう!
    ライブ終わりの楽屋。
    大典太は、軽くドーランだけ落として煙草を吹かしていた。
    完璧なパフォーマンスはできたと思う。それが客にどう響いたかは分からないが。
    向こうも音源以上のことをやってきていた。歓声も向こうの方が圧倒的に上。
    本物のロックを見せてやると意気込んだはいいものの、本当に、これで良かったのだろうか。
    灰皿に押し付けた煙草から立ち登る煙に、心に渦巻くどこか空虚な気持ちを重ねる。
    一足遅れて、最後のアンコールを披露し終えたBlood Line Carouselsのメンバーが戻ってきた。
    「いやぁ、驚きだったぜ!」
    真っ先に労いの言葉を送ってきたのは、白いギタリスト鶴丸だ。
    「がっはっは!楽しませてもらったぞ!」
    「音源版より更に良くなってて、鼻血が出そうだったよ!」
    続いて、ドラマー岩崎と、もう一人のギタリスト松井からも声がかかる。
    「いい対バンをありがとう。君たちの圧倒的な実力……興奮したよ。」
    キーボーディストのM…亀甲だ。若干ハァハァしている気がするが、ライブパフォーマンスを終えた後だから仕方ない。
    「今回はありがとうございました。それと、うちの切谷さんが始終あんな態度で……本当に…本当にすみませんでした!」
    平身低頭謝ってくる、何も悪くない日向。その表情は見ていて痛々しい。
    そして、最後の最後に戻ってきたのが、カンデラ−切谷光忠、その人だった。
    「…君たちは………かっこいい……!!」
    絶望的な声音でそう叫んで、膝から崩れ落ちる均整の取れた体躯。
    「切谷さん?!」
    「おいおい光坊!対バン相手の前だぜ?!」
    「完敗だ、HIKARI!ゆみこちゃんは任せた!」
    は?ゆみこちゃん?何のことだ………
    地面にぬかづきながら自暴自棄とも言える叫びを上げる向こうのベーシストは、よく見るとげっそりとやつれていて、衣装も一回り緩くなっている。今まで苛立ちが先行して見えていなかったが、これはちょっと普通じゃない。
    「俺は、ゆみこちゃんなんて奴のことは…」
    「何っ!?貴様……ッ、ゆみこちゃんを捨てたのか!?」
    顔面蒼白の状態でヨロヨロと起き上がった光忠が掴みかかってくる。
    相手もこっちも総出になって止めに入る中
    「みっちゃん!待ってくれ!誤解だ!」
    一人の、中学生ぐらいの少年が駆け込んできた。誰だ?こいつは…?
    「貞ちゃん…どうしてここに?」
    「母さんを連れて来た!本人に謝らせなきゃいけないと思ったから!」
    ちょっと待て、何が始まったんだ?鋼音メンバーはもちろんのこと、Blood Line Carouselsの面々も唖然としている。ただ一人、鶴丸だけが冷静に状況を静観していた。
    「ごめんなさい、私、あなたに酷い事を…」
    また登場人物が増えた。誰だこの女は…。
    未だ胸ぐらは掴まれたまま、乱入して来た40歳ぐらいの女性と光忠とを交互に見る。
    「私、この人に抱かれてなんていないの!」
    はぁ!?
    ちょっと待て、どういうことだ!?
    「実際に会ったのもこれが初めて!」
    「そ、それは本当なのかい?」
    胸ぐらを解放されたと思ったら、光忠が女性に歩み寄る。
    「正確には、二回ぐらいライブを見に行ったことはあるけど、それだけ。出待ちもしてないし、抱かれてもいない。」
    「じゃあどうしてあんな嘘を……」
    「不安だったのよ!あなたがいつまでも、チャラチャラした歌詞ばっかり書いてるから…!」
    「……不安にさせてごめんね、僕のお姫様…。」
    光忠は、男の自分が聞いてもゾクッとするような色っぽい声で囁いて、女性を抱きしめた。おい、ちょっと待て、子供の前だぞ。
    「私こそ、ごめんなさい。」
    そのまま熱烈なキスを交わす二人。……子供…は、祝福の意を込めた表情でそれを眺めている。将来さぞかし大物になることだろう。
    「僕がゆみこちゃん以外の女性を見る筈ないのに。」
    「知ってる。でも、怖くて…。若くて可愛いファンがいっぱいいる中で、十歳も歳上のバツイチ子持ちのおばさんが選ばれる訳ないと、心のどこかで思ってたから。」
    「そんなの関係ない。君が、君だけが、僕の最愛の人さ。」
    再び交わされる濃厚なキス。俺は一体何を見せられているんだ。
    助けを求めるように他の鋼音メンバーを見るが、全員事態に着いて行けないのかフリーズしている。
    「実は、君を取り戻せた暁に、真っ先に言おうと思っていたんだけどね。貞ちゃん!」
    「ああ!」
    貞ちゃんと呼ばれた少年が、いそいそとビロード張りの赤い小箱を持ってくる。ひざまづいた光忠は、それをパカッと開いて中から大粒の輝きを取り出すと
    「ゆみこちゃん。僕だけの最愛のプリンセスになってくれますか?」
    女性の左手の薬指にそれをはめた。
    女性は涙でくしゃくしゃの顔で何度も頷きながら「はい…はい……!」と心底嬉しそうな返事をする。
    Blood Line Carouselsのメンバーから巻き起こる拍手。この雰囲気で拍手をしないのは不誠実な気がして、自分も気の無い拍手を送っていた。念のため他の鋼音メンバーの様子も確認すれば、各々魂の抜けたような顔で拍手を送っている。
    「鋼音のみんな…特に、HIKARIくん。酷い態度を取って済まなかった。この程度で許されるとは思ってないけど、謝らせてほしい。本当に、申し訳ない。」
    確かに並々ならぬ嫌な奴だとは思っていたが、そのお陰で過去最高の演奏ができたのは否めない。もし、あれで審神者の心を動かせていたのなら怪我の功名だ。
    「別にいい。」
    光忠の必死さに、怒る気も失せていた。もし仮に自分が逆の立場だったら、音楽で決着を付けるなんて大人な対応はできないだろう。
    「そうと決まれば打ち上げと決め込もうぜ!うちの光坊が大迷惑かけたから、鋼音のメンバーはタダでいい!」
    パンパンと手を叩きながら先導する鶴丸に続いた。
    まさに大団円。そんな様子で宴席は幕を閉じた。
    自宅までのタクシー代まで持ってもらい、ほろ酔い気分のまま街の明かりを眺める。普段、誰かの車に乗せてもらうということがないので、何だか不思議な感じだ。
    誤解が解けた後の光忠はとにかくいい奴で、宴席にいる全員にお酌をして回るのは勿論、鋼音のあの曲のここの音使いがいい、この曲は全体の構成が優れている、などなど、自分の作った曲を逐一ピンポイントで褒めてくれて、正直大変気分が良かった。V系を馬鹿にするのは許せない、という部分だけは一貫していたのも、逆に好感が持てる。
    江雪は「和睦の道は……ないと思っていました…」と物騒なことを言っていたが、確かにあの状況から和解できたのは奇跡に近い。
    その後話題はゆみこさんの話から、好みのタイプの話へ。そこで光忠が「自分を振り回してくれる歳上」好きなのを知った。世の中、色んな好みがあるものだ。
    タクシーが自宅−三池書店の裏手に到着する。
    ほろ酔いのフワフワと、問題が片付いた晴々しい気持ちで門をくぐり、勝手口の鍵を開ける。
    何だかよく分からんが、明後日ぐらいに鶴丸の実家から米が十キロ届くし、来週末には鋼音とBlood Line Carouselsでゲームのオンライン対戦の約束も取り付けた。
    今日はいい日だ。
    こんな時にあいつがいればもっと幸せなんだがなぁ…。
    思い浮かべるのは、審神者の顔。
    〈酔った〉
    気付いた時には指が動いて、送信ボタンを押していた。相手は勿論審神者だ。
    そういえば、Blood Line Carouselsの連中にあいつについても色々と話した。とにかくいい奴で、明るくて、可愛くて、あんたらのファンにしておくには勿体無いと、軽口を叩いた気もする。この辺で、兄弟から飲み過ぎだと止められたが、記憶はちゃんとある。問題ない。
    軽くシャワーを浴び、二階の自室に上がる。
    スマホをチェックすると、審神者からの返信が来ていた。
    〈送る相手間違えてませんか?〉
    想像以上につれない返事。
    〈何言ってるんだ。あんたに送ってる。〉
    つれなくされるのも、新鮮でいい。
    〈店長、多分自分が思ってるより酔ってますよ。早く寝てください。〉
    うん、そうだな。
    〈おやすみ〉
    〈はーい、おやすみなさい〉
    審神者を抱きしめるようなつもりで、布団を抱きしめる。ほろ酔いのフワフワとした感覚と、フワフワとした布団の感触が心地よい。
    布団に向かって、あいつの名前を呼びかけてみる。勿論返事はないが、それが審神者が自分の腕の中、無防備に寝入ってしまったシチュエーションを想起させて、尚更興奮した。
    ただでさえ、ライブ終わりで昂っている上に、酔いのおかげか理性も倫理観もフワフワだ。
    その日大典太は、妄想の中、激しく審神者を抱いた。
    「おはようございま〜す」
    チャイム音と共に明るく響く朝の挨拶に、この上ない罪悪感を感じて目を逸らす。
    兄弟に止められた時点で飲むのをやめるべきだった。襲い来る、激しい後悔。
    目が覚めて真っ先に確認したのは、審神者とのやりとり。夢オチを期待していたのだが、そんなことはなかった。
    なんて恥ずかしい物を送ってしまったんだ。
    その上、あろうことか、俺は…俺は………。
    昨日の妄想が重なって、審神者の顔を直視することができない。
    「二日酔いですか〜?」
    「……そんなようなものだ。」
    実のところ、酒は全く残っていないが、しこたま飲んだ挙句の過ちという点では似たようなものだろう。
    頭を抱えながら小声で答える。
    「お水飲みます?」
    「いや……大丈夫だ。」
    こんな俺に優しくしないでくれ、と叫び出したい気分だった。これ以上優しくされたら、罪悪感に焼き殺されてしまう。
    「それより、ライブはどうだった?昨日だったんだろう?」
    「最高でした!チケット、ほんとにありがとうございます!」
    「いいバンドは見つかったか?」
    「はい!かっこいいバンドがいっぱい出てましたよ〜!」
    ほくほく、キラキラしている審神者の笑顔に頬が緩む。
    「特に、大トリのバンド対決とかめちゃくちゃアツくて、最高でした!」
    一番届いてほしい相手に届いていた。その感動に高鳴る鼓動。
    「相手方バンドは、ちょっと怖い感じだったんですけど、曲もすごくかっこよかったし、演奏もうまくて…」
    思わず前のめりになって、食い入るように審神者を見つめる。
    「歌詞にさえ目を瞑れば割と推せる感じでした!」
    なるほど、ネックは歌詞か……。
    対抗意識バチバチだった光忠の−ウチのファンが怖がる−という言葉には一理あった訳だ。
    今、客観的にフェスを振り返れば、鋼音もアウェイながら一定程度ウケていた。だとしたら、もう少し女性向けを意識した曲があってもいいのかもしれない。
    そうと決まれば、次に出そうと思っているあの曲の歌詞を…。
    新曲に考えを巡らせ始めたところ、目の前でハタハタと手を動かされ、現実に引き戻される。
    「大丈夫ですか?やっぱり具合悪いんじゃ…。お店の方は私が見てますから、休んでてもいいですよ?」
    その言葉に甘えることにした。具合が悪い訳ではないが、今浮かんだインスピレーションが消えない内にアウトプットしておきたい。
    大典太は審神者に一言断りを入れると、二階の自室へと上がっていった。
    一人一階に残された審神者は、店長が完全に二階に消えたことを確認するとスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
    表示したのは、昨日の夜のやり取りだ。
    メッセージを受信したのは、覚めやらぬライブの余韻をSNSに撒き散らし、フォロワーと阿鼻叫喚していた時のこと。こんな夜更けに何事かと思ったし、内容を見ても書かれているのは〈酔った〉の一言だけ。
    何で突然こんな内容を?なぜ私に?
    最初は困惑したものの、自分を彼女と間違えていると気付くのにさほど時間はかからなかった。
    店長、彼女さんとはこんなにフランクなやり取りしてるんだなぁ。それはそうか。私はただの従業員だもんね。
    こんな何気ないやり取りを店長とできる彼女さんが羨ましくないと言ったら嘘になる。なんなら、このまま彼女さんのフリをして、店長の恋人気分を味わいたいまであった。
    でも、それは良心が許さない。第一、彼女さんから間女と間違われたら色々と面倒だ。
    片想いしている時点で広義の間女ではあるのだけど、店長を奪う気はおろか、二人の邪魔をするつもりすら毛頭ない。
    だからこそ、送る相手を間違えてるんじゃないか確認したのに〈あんたに送ってる。〉と返されてしまうとは……。
    送る相手すらマトモに認識できないなんて、一体どれだけ飲んだのだろう。
    〈店長、多分自分が思ってるより酔ってますよ。早く寝てください。〉
    最初の一言に、私相手に送ってるよ、という目一杯の指摘を込めたつもりだが、伝わっただろうか。意外にも素直に返って来た〈おやすみ〉の一言は、何だか甘えているようで、悪い考えが頭をもたげる。店長が自分を彼女さんと間違えてる今なら…。
    〈はーい、おやすみなさい〉
    ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、返信で彼女風を吹かせてみた。後から指摘されたら、酔っ払いの相手が面倒臭かったと言い訳できる程度の彼女風。
    今日来てみたら案の定店長は気まずそうで、正直ちょっといたたまれない。
    こっちもこっちで、店長相手に彼女風を吹かせてしまった自分を恥ずかしく思っていないと言ったら嘘になる。
    半ば追い払うみたいな形で店長に二階に行ってもらっちゃったけど、これで良かったのかなぁ…?
    店長が戻って来たら、どんな表情で顔を合わそうか。
    同じ頃、二階の自室に籠った大典太は、頭をフル回転させ、貧弱な「甘い語彙」を総動員していた。
    片手には、Blood Line Carouselsの歌詞を表示したスマホ。
    ガリガリと、曲のリズムにハマりそうな言葉を書いてはグシャグシャと線を引いて塗りつぶす、という行為を繰り返す。
    分からない…。
    女ウケなんて観点は、今の今まで考えたこともなかった。書けば書くほど気色悪い気がして、その度にルーズリーフが黒く染まってゆく。
    『今夜俺はお前攫う 一陣の風になって』
    いい感じか?いや、しかし、ちょっと待てよ?
    いい感じすぎて逆に怖くなって調べてみると案の定、Blood Line Carouselsの曲で『今夜僕は君を攫うよ 一陣の風になって』という一人称と二人称を変えただけの歌詞があった。
    始終この調子だ。
    いくら光忠でも、歌詞の丸パクリを許してくれる筈がない。一旦Blood Line Carouselsから離れよう。
    ラブソングとは何か?要は口説き文句だ。しかし、残念ながら自分には女を口説いた経験などない。
    聞けば、ゆみこさんと付き合う前の光忠は見た目通りチャラチャラと遊んでいたらしいし、そんなのと自分のような陰キャが張り合うなんて土台無理な話なのだ。
    だが、今のままでは、審神者をこちらのファンに引き込むことは不可能。やるしかない。
    既に諦めそうになっている自分に喝を入れる。
    そもそも、普段自分はどうやって歌詞を書いていたか。そこから考え直そう。今まで作って来た鋼音の歌詞にはどれも、自分の率直な気持ちを盛り込んでいる。例えば「百姓一揆」には貧困への怒りを、「鋼音」には曲作りへの想いとファンを圧倒してやるという決意を、「Franken」には中学時代に自分をいじめて来た連中への恨みを。
    だとしたら、ラブソングに盛り込むべきは、自分の率直な………
    そこではたと審神者の顔が思い浮かんできて、カーッと頬が熱を持つ。
    できるか馬鹿野郎!
    思わずペンを机に叩きつけた。
    黒いガラスの天板の上、カラカラと音を立て転がるペンを拾い上げる。
    素面では無理だ。だが、酒の力を借りれば…あるいは………。
    昨日の夜、審神者に恥も外聞もないメッセージを送りつけた、あのテンションなら、光忠にも対抗できるようなすごい歌詞を書けるんじゃなかろうか。
    だとしたら、今こんなことをしても無駄だ。店に戻ろう。
    しばらくして店長は、勇ましさすら感じる清々しさで二階から降りて来た。吹っ切れた、と表情が物語っている。
    「具合、大丈夫ですか?」
    「ああ、心配かけたな。」
    その言葉には一ミリの迷いもない。
    そして始まる、今まで通りの距離・関係。
    今までの何かを隠すような素振りは、一体何だったのだろう。
    一緒にご飯を食べて他愛もない話をし、店の仕事をする。何とはない穏やかなひととき。その間に垣間見える、店長の肩の荷の降りたような顔。
    もしかして、彼女さんと別れた……とか?
    閉店の時間になっても帰れと言われないことから、その予感が確信に近づく。
    それなりに幸せ−
    店長は確かにそう言っていた。今思えば、中々に含みのある言い方だ。彼女さんと、実はうまくいっていなかったのかもしれない。
    そう考えると、色々なことが腑に落ちる。
    彼女さんに私の存在を大っぴらにしていたのは、わざと怒らせて、別れる口実を作ろうとしていたから。どういう相手となら付き合ってもいいのか聞いた時、色々厳しい条件が飛び出したのは、彼女さんがその辺ダメダメな人だったから。そして昨日あんなに酔ってたのは、彼女さんと別れた痛みを忘れるため。
    全てが繋がった。
    確かに、毎日毎日会おうとしてきて、連日寝不足になるくらいそういうことさせられて、どんなに好きでも、疲れちゃうよね。
    久々に店長の作ってくれたごはん(今日は豚肉の生姜焼きだ)に両手を合わせ、ありがたく頂く。
    「やっぱり店長のごはん美味しいです!」
    「そうか?」
    照れ臭そうに笑いながら、店長はビールを開けた。
    ゴクゴクと、尖った喉仏を上下させながら、あっという間にロング缶を空にする。
    「あーっ!昨日もあんなに酔っ払ってたのに、今日もまた飲んで!」
    「何だ?あんたも欲しいのか?」
    そういうことじゃない。
    「身体壊しますよ!」
    「これぐらい、別にどうってことはない。」
    キョトンとした顔で二缶目を開ける店長。確かに、全く酔ってるようには見えないが、だったら昨日はどれだけ飲んだのか。
    「もぉ。今日は間違ってメッセージ送って来ても相手しませんからね?」
    −……間違いじゃないんだがな。−
    聞こえるか聞こえないかの声でそう言われた気がした。思わず隣を見上げるが、店長は、何事もなかったかのようにビールを飲んでいる。
    自分の願望を空耳するなんて、恥ずかしい。
    まるで水みたいに二本目のビールも飲み干した店長から「送っていく」と告げられた。
    「お酒飲んでるのに、大丈夫ですか?」
    「この程度、飲んだ内に入らん。それに、帰りに買うものもある。」
    立ち上がって店の鍵を取りに行く店長の足取りは、言葉通りシラフと見紛うほどにしっかりしている。
    ……本当に昨日、どれだけ飲んだの…。
    審神者を駅まで送り届け、ドラッグストアで炭酸水二本とウィスキーの達磨ボトルを買って帰ってきた。
    氷を入れたグラスの八分目までウィスキーを注ぎ、残りを炭酸水で埋め、一気に飲み干す。
    カッと喉が焼ける感覚に続いて、胃から全身に熱が回っていく。
    本当はオンザロックが好みだが、酔いを回すには少し炭酸を混ぜるのが一番だ。
    溶けてカサが減った氷を二欠けばかり足して、再び同じ割り方で作ったウィスキーを飲み下す。
    一杯、もう一杯と飲み干して、炭酸水が八割程度減った辺りで、あのフワフワとした感覚が来た。
    今ならいける。
    もう一杯「酔うためのハイボール」を作って炭酸水をカラにし、グラスを持って二階に上がった。軋む階段がユラユラと揺れている。

    真新しいルーズリーフに向かい合って、ペンを握る。
    もう光忠の歌詞は見ない。
    自分の言葉で、自分の気持ちを書き連ねる。それだけでいい。
    これは鋼音の歌。
    Blood Line Carouselsの歌ではない。
    タイトルは…「光芒」でいこう。
    あいつへの率直な気持ちを鋼音らしく…。

    『やらせろ』

    ルーズリーフをぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に叩きつける。
    違う。確かに鋼音としてはこれでいいのかもしれないが、女性向けとしては圧倒的に間違っている。
    色々とすっ飛ばしすぎだ。こんなんでは尚更怖がられてしまう。
    もう少しこう、ぼかした表現はないものか…。

    『俺と結婚してくれ』

    ダメだ。こんなもの歌詞じゃない。ただのプロポーズだ。

    『僕と共に人生を歩もう』

    何だこの鋼音らしからぬ歌詞は。一人称『僕』はないだろう、『僕』は。

    『俺と共に地獄へ行かないか』

    うん、これなら鋼音らしい。
    だが『行かないか』だとただの旅行感がある。もっとこう、一生添い遂げる感じのニュアンスは……。

    『俺はお前を地獄へ閉じ込める』

    グッと鋼音らしさが増した。掴みはバッチリだ。

    『心に咲いた 大輪の向日葵』

    …クソッ!駄目だ。鋼音は向日葵とか言わない。
    花は花でも、もう少しメタルらしい花は…

    『心に巣食う 鋼鉄の荊』

    よし、これならメタルだ。
    書ける!書けるぞ…!
    そうして出来上がった歌詞は…

    『俺は貴様 地獄へ閉じ込める
    心に巣食う 鋼鉄の荊
    極彩色の極光 幻惑の言霊
    灼熱の炎が この身を溶かす

    血の海 吹き荒ぶ烈風
    燃え盛る空 死兆星
    貴様と対峙し
    奪い合う 世界の全てを

    これは黙示録 連ねる一頁
    命尽きるその時まで 懺悔の時は来ない
    冥府に穿たれる閃光
    戦いの記憶
    光芒よ俺だけの力となれ』

    鋼音の新作としては申し分ない出来栄えだ。
    だが、ちょっと待て。作った自分が見ても、何がどう「ラブソング」なのか分からない。
    だとしたら、いっそ鋼音らしさゼロの最初のバージョンを持って行った方がマシなのか?
    分からない…。
    とりあえず、両方持っていこう。後は、他のメンバーに判断を委ねればいい。
    いつにも増して顔色の悪い大典太は、パイプ椅子に腰掛けた肥前に一枚のルーズリーフを渡す。「光芒」の「正統派ラブソングバージョン」が書かれたものだ。

    『僕と共に人生を歩もう
    心に咲いた 大輪の向日葵
    君の眩しい笑顔と 優しさで
    冷え切った心 溶けてゆく

    夏の海 青い風
    金色の空 光る星
    全て君と二人
    分かち合った 宝物

    思い出を増やそう 幸せな記憶を
    短い人生 悔い残さぬように
    暗い過去 照らし出す
    君の輝きは
    僕だけの光』

    歌詞を最後まで読み終えた肥前は血相を変えてそれをビリビリに破り捨て
    「てんめぇ……!まさか、違法なクスリでもキメてんじゃねぇだろうな!」
    本気の激怒を大典太にぶつけた。
    「お、俺は酒と煙草しかやってない。本当だ。」
    実は、自分でも怖くて「正統派ラブソングバージョン」の歌詞はここに来るまで一度も見返していない。一体どんな酷い歌詞が書いてあったのだろう。
    「うっわぁ、こりゃまた童貞のラブレターみてぇな歌詞だな、兄弟!」
    歩み寄ってきたソハヤは、ビリビリになった欠片を繋ぎ合わせ爆笑している。
    横から江雪もそれを見て
    「……はぁ…」
    と大きなため息をついた。
    「こっ、江雪はこういうの、好きなんじゃないか?」
    「…馬鹿に、しないでください。」
    …だそうだ。
    「いや、まぁ、確かに鋼音としては異色だったかもしれん。一応鋼音らしいバージョンも持ってきている。」
    こちらもビリビリに破かれてはいけないと、一応スマホで写真を撮ってから肥前に渡す。
    最初こそ、世界の不幸を一身に受けたような顔をしていた肥前だったが、読み進める内にその表情からは毒気が抜けてゆき
    「んだよ、マトモな歌詞も書けんじゃねぇか。」
    一つ舌打ちしてルーズリーフを返してきた。
    「変えた方がいい部分とか、歌いづらそうな所とかは…」
    「ねーよ。完璧だ。」
    一発OKだ。
    「なあ、三池。おれたちは、Blood Line Carouselsじゃねぇ。」
    まっすぐこちらの目を射抜いてくる肥前に、ギクッとする。
    「あいつらみてぇな歌詞は、あいつらが書けばいい。」
    肥前らしからぬ、諭すような声。そういえば、こいつは一応歳上だった。
    「おれたちのファンは、鋼音の音楽が聴きたくてファンやってんだ。それを裏切るような真似は二度とすんなよ。」
    椅子から立ち上がった肥前は、こちらの胸元にトンッと拳を当てて去って行く。
    心が、フッと軽くなった気がした。
    そうして出来上がった鋼音の新曲「光芒」を初めて聴いた瞬間、審神者の全身を衝撃が駆け巡った。
    [えっ、これ、ラブソングだよね!?どう考えてもラブソング…っていうか、もはやプロポーズしてるよね!?]
    テンションに導かれるまま、MVのリンクと共に感想をSNSに呟くと、みるみる内に「いいね」が五件ほどつく。
    程なくして、フォロワーの一人からリプが来た。
    [出だしから既に『一緒に暮らそう』って言ってますよね?!]
    それ、ほんとそれ。
    [『心に巣食う 鋼鉄の荊』の所とか、『ずっと相手の事ばかり考えてる』って意味ですよね!「めっちゃ愛されてるじゃん」ってなりました!]
    リプを返したその勢いのまま、とめどなく溢れる興奮を文字に起こして送信する。
    [『光芒よ俺だけの力となれ』って、一緒に力を合わせ何でも乗り越えていこうって意味だと思うんです?つまり、「光芒」は鋼音版「家族にな○うよ」]
    これにも先程と同じメンバーから「いいね」がつき、RTもされた。
    まさか、鋼音でこんな直球のラブソング(曲解)が聴けるなんて…。
    テンションが上がり過ぎてどうにかなりそうだった。
    やっぱりHIKARIさんは最高だ。

    一方その頃三池書店。
    大典太は、審神者のいない店番の暇を、新曲「光芒」の感想をエゴサすることで潰していた。
    [やべぇ、鋼音の新曲超かっけぇ!]
    [神々の戦いが目に浮かぶような良曲]
    [疾走感がすごいし、LICKA様のソロが超人の域。メタラーなら絶対聴いて!]
    そういった想定内の感想に紛れて
    [「光芒」は鋼音版「家族にな○うよ」]
    という感想が目に留まる。
    凄いな、こんな、裏の裏まで考察してくるファンがいるのか…。
    思わず息を呑んで「いいね」した。
    一方で
    [血祭りで聴いていいかなって思ったけど歌詞厨二すぎ!うけるwwwでも曲はかっこいいwwwなにこれ]
    [曲かっこいいのに歌詞は相変わらずな鋼音]
    というような感想も目に留まる。
    主に女性から。
    どうしても、そっちの意見に目が行ってしまうが、目を向けるべきは「鋼音の音楽が聴きたいファン」だ。
    実際、あれこれ言ってるのは普段鋼音を聴かない連中で、本来のファンはこの歌詞でも喜んでくれている。
    何なら、今の鋼音でも、女性ファンからラブレターと見紛うようなファンレターが届いたり、スーパーHIKARIさんタイムでキャーキャー言われたりしているのだ。だから、無理に変わる必要はない。
    けれど…
    HIKARIは、文字通り自分の「光」の部分を集めた虚構。
    それでもあいつには届かなかった。
    だとしたら、貧乏な陰キャのオッサンである素の自分なんて、まして、である。
    四駅先のアパートで、今しがたの「いいね」に驚き、転げ回って机の脚に頭を強打した投稿主のことはつゆ知らず、大典太は重いため息を吐き出した。
    あいつと触れ合いたいと思ってしまう、その考えそのものが罪なのではないか。
    大典太は一つ咳き込んで、煙草を持ち裏庭に向かう。
    冷え冷えとした秋風が、着流しの袂を揺らした。
    _c_a_r_r_0_l_l_ Link Message Mute
    2022/06/18 11:46:08

    三池書店③ 中編(下)

    ※支部再掲

    【対バン】
    対バン(たいばん)とは、ライブイベントにおいて複数の出演者が入れ替わる形でステージに立ち、共演すること。
    いわゆる「バンドもの」においては、ほぼ「タイマン」と同義。語感も似てるし。

    古書店店主の大典太さんと、そこでボランティアしてる審神者ちゃんの現パロ。エア嫉妬回です。
    現時点での二人の関係性は両片想い。

    今回も、セトリの元ネタにした曲はTwitter固ツイのツリーに。
    デスボやシャウトの多用されるうるさい音楽に抵抗ない方は、聴きながらお読み頂くとより楽しめるかもしれません。
    なお、当該楽曲の動画のコメント欄やアーティスト様へのリプ等で、このシリーズについて言及したり、匂わせたりする発言は引き続き禁止させていただきます。
    (そういった行為が見受けられ次第、前作共々元ネタ公開は中止いたします。)
    
注意点

    このお話には以下の内容が含まれます。

    ・転生世界線現パロ(全員過去の記憶ナシ)
    ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
    ・夏場パンイチで寝る大典太光世
    ・自己肯定感低すぎてストーカーや不審者に気付かない審神者
    ・全力で嫌な奴ムーブかましてくる燭台切
    ・名実共にドMな亀甲
    ・(あくまでパフォーマンスとして)BLっぽい演出を取り入れる鋼音メンバー

    上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
    あと、作中で大典太さんが中々にヤバい飲み方をしてますが絶対に真似しちゃいけません。死にます。マジで。


    合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
    #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ

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    • 三池書店①※支部再掲

      転生世界線現パロの典さにです。
      転生と言いつつ、全員過去の記憶はありません。
      古書店店主でインディーズメタルバンドのベーシストをやってる大典太さんと、近くの大学に通う審神者ちゃんの出会いの話。
      個性強めの女審神者が出てきます。
      続き物なので、まだ恋愛描写はありません。

      上記の通り、完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #女審神者 #大典太光世 #典さに #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
      _c_a_r_r_0_l_l_
    • 三池書店②※支部再掲

      前作への「いいね」「ブクマ」ありがとうございます!!
      お陰様で続きました。

      古書店店主でインディーズメタルバンドのベーシストをやってる大典太さんと、近くの大学に通う審神者ちゃんの話。
      前作読んでなくてもキャラ紹介見れば大体内容分かると思います。
      大典太さんに無自覚片想いをしてる審神者ちゃんが、三池書店でボランティアを始めるお話。

      注意点
      このお話には以下の内容が含まれます。
      ・転生世界線現パロ
      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ
      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・ツール変換ほぼそのままの博多弁
      ・解像度の高いクソ客

      博多くんの台詞はこちらのツールで変換したものをそのまま使っています↓
      https://www.8toch.net/translate/
      違和感があった場合、コメントかTwitterで「こういう言い方の方が自然だよ」と教えて頂けると非常に助かります。。。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 人生に一度の「スーパーウルトラ猫の日」に支部に上げたものの再掲となります。

      朝の10時に気付き、構想2時間、執筆4時間で一気に書き上げました。
      そのため、色々と荒いかもしれません。
      タイトルは、今流行の同名曲から…なのですが、あんな切ない内容じゃありません。むしろ、しょーもないギャグです。
      大典太さんメインですが、そこそこ色んな刀剣男士が出ます。

      注意
      ・大典太さんの猫化(割とガチめの猫化)
      ・典さに要素は薄め
      ・ちょいお下品
      ・刀剣男子の容姿と個体差に関する独自設定あり

      途中「真剣必殺も見たことない」という審神者の叫びが出てきますが、執筆当時の私の心の叫びです。
      お正月の期間限定鍛刀で顕現してから、練度94になるまで真剣必殺を回収できなかった彼ですが、これを書いた直後に出陣させたら真剣必殺を見せてくれました。
      ほんと、大典太さん、マジ…
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱夢 #刀×主 #刀剣乱舞
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    • 三池書店③ 中編(上)※支部再掲

      審神者ちゃんが「懲役一週間」と自称する帰省から帰ってきて、最推しバンド「重金属凶奏隊 鋼音−HAGANE−」のライブに行くお話。
      詳しくは、1ページ目の登場人物紹介にて。

      セトリの元ネタにした曲は、Twitterの固ツイのツリーにぶら下げております。デスボやシャウトの多用されるうるさい音楽に抵抗ない方は、聴きながらお読み頂くとより楽しめるかもしれません。
      なお、当該楽曲の動画のコメント欄やアーティスト様へのリプ等で、このシリーズについて言及したり、匂わせたりする発言は禁止させていただきます。
      (そういった行為が見受けられ次第、元ネタ公開は中止いたします。)

      
注意点

      このお話には以下の内容が含まれます。

      ・転生世界線現パロ(全員過去の記憶ナシ)

      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・若干の毒親匂わせ描写あり



      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      
合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 三池書店③ 前編※支部再掲

      前作までを読んでなくても、キャラ紹介見れば大体内容分かると思います。
      大典太さんが満を持して審神者ちゃんをお出かけに連れて行きます。
      関係性は「両片思い未満」です。

      注意点
      このお話には以下の内容が含まれます。特に下二つは、苦手な方ご注意ください。
      ・転生世界線現パロ
      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ
      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・転生後の一部刀剣に彼女や妻子(名前アリ)がいる
      ・年齢操作
      ・若干の下ネタ
      ・DVやモラハラ被害を受けた人の描写
      ・いじめの描写

      下二つの描写のクリーン版が読みたいという方がいらっしゃいましたら、コメント/マシュマロ/TwitterのDM等でお気軽にご相談ください。
      時間はかかってしまうかもしれないのですが、ストーリーに影響を与えない範囲で、可能な限り配慮したバージョンを上げさせて頂きます。

      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。

      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 三池書店③ 前編 Epilogue※支部再掲

      前作まででリアクション下さった皆様、ありがとうございます!

      大典太さんと審神者ちゃんが、海辺のドライブを満喫して、いつもの街に帰って来たところから始まるお話です。

      関係性は「無自覚両片思い」というか、「お互いにあえて自覚するのを避けている両片思い」。
      基本的にどの回も、登場人物紹介を見れば分かるように書いているのですが、この回に限っては前作のおまけ(蛇足?)的な内容となっております。
      そんな訳で、できれば前作読んで下さっていること推奨……なのですが、下記「注意点」にも書いた通り、前作の雰囲気を壊しかねない若干の下ネタを含みます。
      当該場面は6ページ目です。苦手な方は飛ばしちゃって下さい…。



      注意点

      このお話には以下の内容が含まれます。

      ・転生世界線現パロ

      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ

      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる

      ・転生後の一部刀剣に彼女や妻子(名前アリ)がいる
      ・若干の下ネタ(おっぱいとかAVとかに言及する場面)あり



      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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    • 三池書店③ 前編 Prologue※支部再掲

      古書店店主でインディーズメタルバンドのベーシストをやってる大典太さんと、大典太さんのやってる古書店でボランティアをしてる大学生審神者ちゃんの話。
      前作までを読んでなくても、キャラ紹介見れば大体内容分かると思います。
      この訳の分からないタイトルは、想定していた以上に全体のボリュームが出てしまい、泣く泣く分割した結果です。(一回タイトルを連番にしてしまったので後には引けない感)

      注意点
      このお話には以下の内容が含まれます。
      ・転生世界線現パロ
      ・転生と言いつつ、全員過去の記憶ナシ
      ・転生後の一部刀剣が過激なメタルバンドやってる
      ・転生後の一部刀剣に彼女や妻子(名前アリ)がいる
      ・転生後の一部刀剣がキャバクラ行ったりする(※下心はナシ)

      作中で、ソハヤが生物学部をdisるような発言をしますが、生物学部出身の筆者による自虐であり、差別的な意図は一切存在しません。
      生物学部には、Gとか内臓とか、そういった一般人から理解されづらいものを、心の底から「可愛い」と称する人間がマジで一定数存在します。少なくとも私の出身大学ではそうでした。

      上記の通り、地雷原・完全自分需要の設定ですが、それでも良ければご覧ください。
      合わないと思ったらブラウザバックでお願いします。
      #典さに #女審神者 #大典太光世 #刀剣乱舞 #刀剣乱夢 #現パロ
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