ever after※実写TF、オプメガ前提の三参謀→メガのようなもの
※わりとギャグノリ
※小説エンド
※三参謀が生存設定
※メガ様が孕みます
長かった戦いが終わり、生存したディセプティコン一同は故郷サイバトロンへの帰路についている。死の星と化した故郷を再興するために。
サウンドウェーブはぐるりとメインブリッジを見渡した。船の舵を取るこの場にはスタースクリーム、ショックウェーブ、サウンドウェーブ自身、そして、
「メガトロン様、身体の方は問題ないか」
この中の誰よりも傷だらけのリーダーがいた。
サウンドウェーブは知っている。彼が戦いの後、総大将たる己よりも部下たちの治療を優先したことを。ボロボロに大破しながらもサウンドウェーブは見ていた。瀕死の体を抱き起こす銀の腕を、確かに見ていた。
あの地球という星で、メガトロンの何かが変わったのだ。それは良いことなのか悪いことなのか、未だに判断は付かない。だが、メガトロンの変化がなければ自分たちは今生きていないのだろう。敗北はしたが、メガトロンは生きている。自分たちも生きながらえ、こうして彼を支えられる場所にいる。
ならば良い。それだけは、間違いなくこれで良かったと言える。
「ああ・・・いや、・・・大事ない、のだが」
「メガトロン様?」
体調を問うたものの、返答はいやに歯切れが悪い。明らかに妙だ。
この戦いでもっとも機体にダメージを受けたのはメガトロンだ。氷付けになり、キューブをぶち込まれ、海に沈められ、オートボット司令官に叩きのめされ、師は顔を剥がれ、虫にたかられ、センチネルにはビルから叩き落とされたと聞く。
・・・改めて並べると散々だ。ともかく、ある程度のリペアはしてあるもののトランスフォーマーとて生命体だ。長期に渡るダメージの蓄積が、何か重大な問題を呼んでいてもおかしくない。
「メガトロン様、はっきり言え」
強い語調で促すと、メガトロンは二、三度何かを振り切るように首を振り、サウンドウェーブに向き直る。
「・・・それが、だな・・・」
普段は強い意志を湛えた赤い瞳がゆらゆら揺れる。口を開いてはその、ええと、と言葉を濁す。
他の者ならこの時点で撃ち抜いているが、他ならぬメガトロンである。所在なさげに目を逸らす仕草も愛おしい。
眼福とさえ思いながらメガトロンの言葉を待ち、そしてついに決定的な言葉を耳にした。
「・・・その、孕んだ」
「・・・・・・は?」
孕んだ。孕んだ。ハランダ。その意味を脳内から探る。はらんだとは、つまり、
「・・・誰の子ですかぁメガトロン様!」
横から騒音が飛んできた。スタースクリームが口から泡を飛ばしながらズカズカと寄ってくる。混乱がありありと顔に出ていた。
ショックウェーブの方は、と視線をやると、あまりのことに硬直したまま動かない。
サウンドウェーブとて出来ることなら聞かなかったことにしたかった。恋人を寝取られた男の気持ちと娘に恋人が出来た父親の気持ちと好きな娘がすでに彼氏持ちだった少年の気持ちを混ぜ合わせて濃縮還元したらきっとこんな気持ちだろう。
誰の子か、だと、愚かなスタースクリームめ。
そんなものは聞きたくない。
「・・・・・・オプティマスの胤・・・だと思うのだが」
「やっぱりあの野郎ですか・・・!というか胤とか言わないでくださいよ生々しい!」
予想通りの返答に、僅かに安堵している自分がいた。例えばこの船に乗っているディセプティコンの誰かであったら、そいつは宇宙の塵になっていただろう。
これ以上ディセプティコンの同胞が失われるのはメガトロンが嫌がるに違いない。
「・・・メガトロン様、腹に子がいるというならば無理はいけない。寝台で休まれては」
ようやく再起動したらしいショックウェーブがメガトロンにそっと手を伸ばす。主を案じる口調だが、言葉の頭には「オプティマスの子なのは気に入らないが」と付くのだろう。完全に同意である。
メガトロンを案じる心もわかる。トランスフォーマーが、しかも男性型が子を成すのはサイバトロンの長い歴史の中でも片手で数えられる希有な事例だ。少ない前例の中には子や母体が最悪の結末を迎えたものもあった。
「いや、構わん。俺は平気だ」
伸ばされた手を拒否してメガトロンは言い放つ。
「これから母星の復興というときに、俺が寝転がっていて示しが付くものか」
何気なく呟かれた言葉にサウンドウェーブ達は息を呑んだ。内容に心を動かされたのではない。
その声には、使命感の他に何もなかったからだ。あるいは自分の命に対する執着がないと言い換えてもいい。
地球での戦いはメガトロンを変えた。結果として今、自分達は生きている。
ああそうだ。
きっとメガトロンは思っていたのだ。故郷が、同胞が救えるならば己の命は捨てても良いと。一を失い多くが得られるのであればその行いには価値があると。
最後の戦いの最中、そんなことを、ずっと。
今も。
だから、
「・・・?なんだサウンドウェーブ」
ゆっくりと、新たな生命を内包した腹を撫でてみる。循環するオイルの暖かさ。他の部分より熱く感じるのは錯覚だ
。
「メガトロン様」
「だからなんだ」
「名前はどうする。腹の子の」
「は?」
「というか閣下、この子いつ仕込まれたんです」
「あぁ、この船が出航準備を整えている間の・・・いや何を言わせる愚か者!」
「な、その時はまだお身体が全快でなかったでしょうに・・・!オプティマスめやはり鬼畜・・・!」
「ああ、長い間溜まってたもの全部ぶちまけやがったんでしょうね・・・それは身ごもるわ」
「下劣な想像をやめろ馬鹿者!」
「メガトロン様、あまり興奮するな」
「誰のせいだ!」
メインブリッジ内が途端に騒がしくなる。罵声や怒声ではない喧噪など、かつてのディセプティコンの船には無縁だった。ディセプティコン、破壊と暴力の権化。
自分達も変わったのだ、などとは思わない。ただ、サウンドウェーブは見ていた。今も見ている。メガトロンを。
おそらくは他の者達も同様に。
「名付け親はもらう」
「世話と教育は俺の領分ですよね閣下」
「二人とも、それについては後でゆっくり話し合おう。――拳で」
「やめんか愚か者ども」
呆れを隠さない溜め息を落とし、そうして彼らの主は問う。
その声に、伺うような色を混ぜて。
長年宿敵だったオプティマスの子でいいのか。
主君たる自分が子という急所を抱えていいのか。
――それでも、お前達は付いてくるのか?
「――良いのか」
「当然」
即答を返す。他の二人も同じだった。それこそ当然だ、そうでなければ宇宙の塵だ。
あの男が親であることは気に入らない。
星を再興する中で幼体の面倒まで見るのは煩わしい。
だが構わない。
メガトロンだからだ。他に理由はなく、そしてなくていい。
「そうか」
ディセプティコンの王は呟いた。
そっと腹を撫でて、確かめるように言う。
「こいつが楽しみか」
「良い子を産むといい」
頷き、同意した。伴侶のような台詞だが、そうであればどれだけよかったろうとは考えないようにする。地球にとって返してファイアパターンの刻まれた機体を粉砕したくなるといけないので。
「生みの親より育ての親と言うしな」
ぼそりと漏らしたのはショックウェーブだ。その瞳は爛々と輝き、言った言葉を実行する気満々である。
無論サウンドウェーブも同じ腹の内だった。せいぜい遠い星で歯噛みしていろプライム。
「というわけですから閣下、到着するまで少しばかり休んでくださいよ。腹の子のために」
そう進言するのはスタースクリームだ。すかさずショックウェーブも休息を勧めた。野望にぎらついていた瞳は既に献身的な忠臣のそれに戻っている。
サウンドウェーブもまた便乗し、三人の参謀に休めと訴えられたメガトロンはとうとう折れた。
部下達がメガトロンの子の誕生を心待ちにしていると知った今、それを進んで台無しにはできないだろう。メガトロンが地球で得た変化はそういう類のものだ。
「・・・わかった、少し仮眠を取る。何かあったらすぐに呼べ」
「ゆっくりお休みください、メガトロン様」
寝室へと足を向けるメガトロンを三機は見送る。
その背中は、かつてに比べると小さく細い。
おまけに腹の中に幼体までいる。
強さを至上とするディセプティコンにあって、それは不完全な姿だろう。
サウンドウェーブはその後ろ姿を見つめる。戦いに敗れ、死を覚悟したあの日と同じように。
そうして、サウンドウェーブは愛しげに目を細めた。
「聞いたぞメガトロン!私の子を身ごもったそうだな!」
「どこから聞きつけた貴様!?」
「サウンドウェーブ、通信叩き切れ!」
end