Can you take it all away※逆転検事2 馬×猿
※最終話までのネタバレ注意
久々に再会した幼馴染には、奇妙な癖が出来ていた。
表情を隠すように目を塞ぐ。
表情を隠すように口を塞ぐ。
それから、怯えるように耳を塞ぐ。
ぎゅっと身を竦ませる様が、まるで打擲に震える子供のように見えて、その度に俺の心臓は握り潰される。
だから俺は聞けない。
12年前なぜ施設から逃げたのかと、聞くことが出来ない。
思えばヒントはあった。
あの火事の日以来、『先生』が草太を見る目はおかしかった。
大人しくても物怖じはしなかった草太が、ちょっとした物音にもびくつくようになった。
ふざけて腕を振り上げたら震えて泣いた。日に日に目の隈がひどくなった。
もしかしたら、と、幼いオレは心のどこかで気付いていたのかもしれない。
しかし気付いたところで、大人相手に子供に出来ることなどたかが知れていただろう。
それをきっと草太は誰よりもよく分かっていた。あいつは聡くて賢い子供だった。
だからオレにも、誰にも何も言わなかった。
あの時の草太は、オレが助けてくれるだなんて思っていなかった。
あの時も、オレは草太を助けられなかった。
結局は、幼いオレの弱さがすべての元凶だったのだ。
気がつけば母がいなかったオレに肉親は父しかなく、思い返せばいつもオレは気難しい父の顔色を気にしていたように思う。その気難しさは芸術家気質に拠るものが大きかったのだろうが、子供の目にはそう映らなかった。父の機嫌を損ねることは一番の恐怖だった。
それでもオレは父を慕っていた。いや、父を好きだったからこそ、嫌われるのが怖かった。
だからあの雪の日に、オレは草太を裏切った。
やめてよ、と泣きじゃくる草太を開放してやりたかったのに、父に嫌われたくなくてオレの手は動かなかった。
例えば草太を止めなければ、父が死ぬこともなかった。
草太の父もいなくならずに、オレたちは元に戻れた。
施設に行くこともない。
草太はいなくならない。
何もかもオレのせいだ。
だけど草太。
だから、草太。
オレは大人になったんだ。身体もでかくなった。体力も腕力もある。銃だって使える。
誰も守れなかった非力な子供はもういない。
あの雪の夜に叶えられなかった、あの施設でお前が抱かなかった願いをどうかオレにぶつけて欲しい。
かつてのオレの過ちを塗り潰させて欲しい。
言ってくれ。
たすけて、マノスケ。
その一言さえあれば、オレは今度こそお前を助けられるから。
end