夜食を食べる話 ぐぅ、と腹甲の奥が鳴る。
時計を見れば真夜中。新兵器の開発に熱中していて時間の感覚が飛んでいたようだ。
「……お腹すいた」
自覚してしまうと、一気に空腹感が身体を襲う。手足に力が入らない。こうなると、何かお腹に入れないとどうしようもない。
一旦工具を仕舞って、僕はキッチンへ足を向けた。
「あ、」
キッチンには先客がいた。戸棚をごそごそと探っていたのはレオだった。
「おまえも何か食べに来たのか」
「レオも?」
「さっき目が覚めたんだけど、なんか小腹がすいてさ」
「何かある?」
「インスタントのラーメンが。ちょうど2つ」
「やった、それ食べようよ」
レオが小鍋に水を張って火にかける。
僕ら兄弟は、程度の差こそあれ簡単なものしか作れない。即席ラーメンはまともに作れるものの1つだ。
もともと食材らしい食材が手に入らなかった生活で、あれこれ食べられるようになったのは地上に出てからなので仕方ない。調理の技術に関しては今後の成長に期待といったところだろうか。
具なしのインスタント麺はちょっと寂しいので、何かないかと冷蔵庫を覗いてみる。
「レオ、卵あるよ」
「あ、じゃあそれ入れるか」
「ソーセージもあった」
「でかしたドナ」
沸いたお湯の中に乾燥麺を入れて、解れたら粉末スープを投入。卵を割り入れ、ソーセージもまるごと放り込んだ。
「ドナ、丼と箸」
「了解」
出来上がったラーメンが丼に盛られる。暖かな湯気とスープのいい香り。空腹の身には毒だ。
「じゃ、いただきます」
「いただきます」
並んで座り、両手を合わせてから箸を手に取る。
ふうふうと息を吹きかけながら麺を啜った。空っぽの胃袋が満たされていく幸福感に思わず顔が綻ぶ。
ふと視線を感じて目を向けると、レオがこちらを見て笑っていた。
「何?」
「いや、うまそうに食うなぁって」
「お腹すいてたんだよ」
「おまえもけっこう食べるほうだよなぁ」
「そう?」
「その割には筋肉薄いけど」
「だから、僕は細マッチョなの!」
真夜中の静まり返った空気を、たわいもない雑談の声が震わせる。皆を起こすといけないので、少しばかりトーンを落として。
「と、ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
両手を合わせるレオに倣って小さく礼をする。
大きな音を立てないように気を付けながら食器を片付ければ夜食タイムは終了だ。
「俺は部屋に戻るけど、おまえは?」
「んー、もう少し作業したら寝るよ」
「ほどほどにな。寝不足だって稽古で手加減してやらないぞー」
「はいはい、おやすみレオ」
「おやすみ」
ひらひらと手を振るレオと別れてキッチンを後にする。
すっかり力をなくしていた身体も、胃袋が満ちれば活力を取り戻す。再開する作業の段取りを頭の中で組み立てながら、僕はラボへ戻っていった。
end