言い訳をするならば※クチグズ
※二人とも酔ってて少々お馬鹿です
言い訳をするならば、思っていた以上に酒が回っていた。
クチナシはグズマと二人で酒を飲んでいた。一抱えはある酒瓶は、少しずつだが着々と中身を減らしていった。
数日前、道に迷っていた観光客をクチナシが道案内し、その礼として贈られたものだ。非番の日だったのだが、つい職業柄かしっかりと案内してしまった。
一人で飲み干すには大きいと、グズマを呼んで二人で飲むことにしたのだ。
一口口にした瞬間に、いい酒だ、と思った。度数が高いのに口当たりがよく飲みやすい。つまりは、少し飲みすぎてしまったのだ。
「……ちょっと、酔い覚ましに行くか?」
ふわふわと心地よく揺れる意識に、そろそろ止め時だと悟る。
「俺はそんなでもねぇけど」
グズマにしては珍しく、クチナシよりも飲むペースが遅かった。酒はカントー産のもので、グズマとしては飲み慣れない味だったらしい。といっても馴染みが無いだけで、嫌いな味ではなかったようだが。
酒の肴にしていたアクション映画を止めて、二人で海岸に出る。
紺碧の空に、白く輝く月がある。ほう、と熱っぽい溜息が出るのは、酒のせいだけではなかった。
砂浜に座り込んで、夜の空と海を眺める。涼しい夜風が頬を撫でて、火照った身体に心地いい。
隣に座るグズマも心地よさそうに目を細めていた。
横目でそれを眺めていると、ふと悪戯心が湧いた。
「よっこらせ」
「うお、な、何してんだ」
ごろん、と胡坐をかいたグズマの膝に寝転がった。いわゆる膝枕の体勢だ。若さか筋肉か、ほどよい弾力があり寝心地は悪くない。
「何って、男の夢?」
「酔ってんな?」
確かに酒が回っている。理由も無く浮ついた気分だった。呆れた顔のグズマも十分に酔っていて、くつくつと苦笑したきりクチナシをどかそうとはしなかった。
ズボン越しのグズマの体温はいつもより高く、心地いい。夜風は優しく身体を撫でていく。打ち寄せる波の音はどこまでも穏やかで――……
目が覚めたら明け方だった。
すっかり酔いの冷めた頭で考える。
いい年をした大人として、酔っ払って野外で寝落ちはさすがにまずい。それも(一部の知人しか知らないが)年下の恋人の膝の上で。
明け方でよかった。この周辺で、こんな早朝から出歩く人間はいなかったはずだ。
「おはようさん」
頭上には、からかうような笑みのグズマの顔があった。
「よく寝てたな」
「起こしてくれてもよくない?」
「面白かったからよ」
というより、大人しく膝を貸し続けたグズマも酒で思考が鈍っていたのだろう。
「いい年した酔っ払いが二人して……」
誰にも見られなかったことを祈るばかりだ。
そこまで考えて、ふと疑問が浮かんだ。
「グズマ、ちゃんと寝たのか?」
「座って寝た」
「器用だねぇ……」
くぁ、とグズマが大きく欠伸をする。
「身体痛ぇし、帰って寝なおす……」
「だな、いい加減帰ろう」
そろそろ膝枕状態も止めなければ。身を起こそうとして、唇が柔らかいもので塞がれた。
悪戯に成功した子供の顔で、グズマが離れていく。
「……もしかして、まだ酔ってるな?」
「はは、どーだか」
朝の済んだ空気の中を、のんびり歩いて家に戻る。
昨夜の仕返しとばかりにクチナシの膝で眠るグズマを見て、やっぱりまだ酔ってるな、と溜息を吐いた。
……後が面白いので、ベッドには運んでやらないことにした。
end