犬っころがじゃれるように笑う二人を
余生・腐向けです
R-18
草原の実践
大木の根元に背をもたせ腰を下ろした男とその下腹に顔を寄せ蹲る男。
地に満ちる草いきれと背の木の皮の香と滴る汗と零れる体液の匂いが混然として計りがたく男らの全身を包んでいた。
鋭く立ち上がった屹立を根元まで咥え込み、たっぷりと舌と唇で根元から扱き上げる。
先刻から繰り返すその中途には固く締まった中を覆う薄い皮膚に軽く歯を当てなぞってやる。
滑らかな表と血管の浮く裏の感触を確かめながら冨岡は緩慢な顔の上下を繰り返した。
首を直ぐにし奥まで含む度、ふわっと顔に当たる体毛の柔らかな感触。
喉の入口に当たる不死川の怒張を冨岡は舌の奥で強く挟む。
次第に強度を増してゆくその昂ぶりをゆっくりと高みに誘うように男は己の頭を操った。
「ッ… 」
冨岡の頭に置かれていた不死川の手に力がこもる。
口中の膨張が更に硬さを増し絶頂が近い事を伝えてくる。
冨岡はそのものを己の中からゆっくりと抜き出し、時を見極めると先の括れに舌と歯を当てて吸い上げた。
同時に極限まで高められたその怒張から温い奔流が冨岡の口に放たれた。
「ン ……ッ!」
勢いよく脈打つ白濁を冨岡は上顎で受ける。
唇で含んだ先端からどくどくと溢れる生暖かいものを、そのまま一滴も零さず舌上に溜めた。
不死川の残滓を含んだ冨岡は草の上に腰を下ろすと懐から懐紙を二三枚掴みだした。
片手で広げた紙に口の中のものをゆっくり吐き出すと二つに畳み、外側で己の口を拭く。
息を整え木の根元にだらりともたれたまま上を向いて不死川が言った。
「昔っからやり慣れてるみてぇな面しやがって」
「先達がいいんだな」
そこかしこに立ち込める熱気の中、天に高く繁る葉の落とす陰りが男らをうっすらと隠していた。
忘れじの一投
横から真っすぐ目の前に飛んできた何かを冨岡は片手でぱっと受け止めた。
「何だそりゃァ」
「饅頭のようだな、どうも」
連れの問いに左手に握ったまん丸い膨らみを見ながら冨岡が答える。
折しもそこは菓子屋の店先。
そちらに目を遣った二人の男の視線の先に真っ赤になって震える娘とその前に呆然と立ち尽くす若い背中があった。
どうやら件の饅頭は娘の手から投げつけられたものであるらしい。
「晩になるまで待ったのに!!」
「お父つぁんもおっ母さんもカンカンよ!!」
「もう絶対許してもらえない!!」
悲鳴のような叫び声が娘の口から飛び出した。
「…すまない」
「重病人が出て一日中離れられなかった」
「…すまない」
「すまない」
「もうどうにもならないだろうか」
「すまない」
「…すまない」
首を垂れて悄然と繰り返される若者の呟きに、娘の震える肩はやがて動きを止め、強張った眉が徐々に緩む。
消え入りそうな声が、唇から零れて出た。
「 …言ってみる、もういっぺん」
「また」
耳に届いたその言葉に若者はうなだれた顔を漸くそろそろと上げた。
その目の怒りが影をひそめ、こちらを慮る色を湛えているのを彼はみとめた。
「…うん」
「ありがとう」
「悪いが」
しんと押し黙ってうつむいた二人の間に横から手が差し出される。
「これを」
開いた左手には銅貨が二つ。
娘はこの世で初めて人の姿を見知ったように息を呑み、差し出された手とすっとした表情の男を見比べた。
「餡入りのパンはこの位だったがこれでいいだろうか」
「え、 …あ? も、申し訳ございません!」
諍いと和解とその後の降って湧いたような申し出に、まったく訳も分からないまま娘は差し出された銭を両手に受けた。
飛んできた饅頭を持たされた男がそれを後ろで面白そうに眺める。
「ありがとう。では」
男はそう言うと、そこに待たせた男と連れ立ってまた往来を歩き始めた。
ここに至ってまだ仔細がよくわからぬといった風情の娘と若者は並んで立ちその様子をいつまでも見送っていた。
店を離れてしばらく後、思い出したように冨岡が言う。
「祝儀に全部買ってやれば良かったか?」
「それも有りだな。しかしあれは投げ方を指南してやった方がいいなァ」
「違いない」
言いながら冨岡は手の饅頭を見た。
左で掴んだ菓子の平たい底を親指で押して器用に割ると、一つは不死川の口にぽいと入れもう片方は己の口に放り込む。
「うめェ」
「うん」
行儀も悪しくもぐもぐと口を動かしながら二人の男たちはぶらぶらと陽気の道に足を運んだ。
飛ぶように、銀
荷車を引いて歩きながら馬が勢いよく小便を垂れる。
地に跳ねて足元に飛び散った飛沫に男らはさっと横に飛び退った。
事もなかったかのように馬と荷がそのままガラガラとその横を行き過ぎていく。
少し離れてそれを見送りながら幾分かの含みを持って不死川が言った。
「遅ェな」
「お前こそ」
同じように冨岡が答える。そっくりな目つきで。
「今はもうこれ位でいいだろう」
「まァな」
かつて夜毎に浴びた血も今は遠く、馬の小便も何ほどのことがあろうか。
ゆっくりと流れる日々。
時を切り刻む鬼と刀とを遠くに置いて。
「熱くもねぇしな」
「ああ」
あの最後の夜の熱をもう数えることもない。
互いにそれを知り、互いにそれを確かめながら。
あの時とは違う真昼の熱を二人分け合って今日もまた。
紅い混乱
「なんだそりゃァ」
いつもあるはずのものがそこになく、代わりに未だ嘗て目にしたことのないものを目の当たりにして不死川は当惑の表情を浮かべた。
「ああこれか」
浴衣を半分脱ぎながら何という事もない顔で当の持ち主が言う。
「俺の褌の窶れを見かねた宇髄の奥方たちに持たされた」
「色が派手で勝手が違うが、生地も良いし有難く使わせてもらっている」
宇髄家に温泉に誘われている冨岡と誘いから逃げ回っている不死川。
付き合うのは屋敷で酒絡みの折り位か。
「そういうのがめんどくせぇんだよォ。世話焼きたがりやがって」
「そうか」
顎に挟んで軽く畳んだ衣を冨岡はぱさりと下に落とした。
「俺も宿で知ったが宇髄は下着もとりどりのものを揃えているんだ」
「あれほどの色の褌は初めて見たな」
「洒落にも程があらァ」
己はいつもの白い下帯を解いて外し、素裸になった不死川は布団の上にどかりと胡坐をかいた。
目の前の男の紅いそれが視界にちらつく。
「奥方たちと宇髄にド派手に行け!と囃されてな」
大笑するかつての同僚の顔が目に浮かぶようだ。
全くあいつはといった顔で不死川が零す。
「テメェの好きにすりゃいいが賭場にでも行くみてぇで落ち着かねぇぜ」
「中身は変わらんぞ」
そう言うと冨岡はしゅっと音を立てて股間の紅を抜き去った。
房事は手合い、会話は房事。そういう関係の二人なら日常会話も行為の一環ではあろうかという(妄想です)。