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    「流石に散り際は見事だな」
    「そぞろ歩きで桜を眺める夜が来ようとは」
    「この平安が仮初めのものではないと、ようやく腑に落ちてきたところだ」


    「馬鹿だなァテメエは」
    「この世に、仮初めでねぇもんがあると思ってんのかィ」



    そうして笑った君は、
    今までに見たことのない晴れ晴れとした顔をしていた





    夜の空に黒い鳥が遠くからこちらに向かって飛んでくる。
    その羽根が風を一打ちして旋回する音が聞こえ、それはまた何処にか飛び去って行った。
    男はそれをしばらくうち眺めると視線を今はもうまばらになった花に戻した。
    ちかちかと灯る燈。行き交う人もまたまばらだ。
    しばし後、男に声が掛かる。良く知っている声。いつもの。
    「相変わらずぼけっとした面しやがって」
    「戻ったか」
    鴉が上から舞い降り、さっと男の左肩に留まった。
    「とんだ遠回りだ」
    「水柱サガシテコイッテイッタノハ実弥ダロ」
    「るせェ」
    不死川は己の鴉をぎろりと睨んだ。
    それから傍らの男に顎をしゃくるように言う。
    「わかってんだよォ」
    「どうせこの時期ここいらでふらついてやがる」
    冨岡は少し笑って頷いた。
    「当たりだ」
    「しかし遅かりし風柱だな」
    それから横を向いて並木を見上げる。
    「もう花も散り納めだ」
    「俺ハ戻ッテイイカ」
    「おォ」
    畳んだ羽根を主が指の欠けた手でポンと叩く。
    それはばさりと空に舞い上がり、彼方へと飛び去った。

    「おっと」
    足元に白い何かがゆっくりと動く。
    「家守だ」
    「鴉がいなくなったからなァ」
    「蜥蜴はいないか」
    「夜は出ねぇだろ」
    「あまり触ったこともないがあの蜥蜴の青光りする背というのは不思議なものだな」
    草と石の間に見え隠れする小さな生き物を見ながら冨岡は言った。
    少しばかり呆れたような声色で不死川が聞く。
    「蜥蜴を懐に入れられたことも襟首に放り込んでやったこともねぇのか」
    「ないな」
    冨岡は少し考えてから言った。
    「おたまじゃくしを入れられたことならある」
    「…ヘェ」
    「稲田のすみにごちゃごちゃと湧いているじゃないか」
    「田んぼなんぞ近所になかったからな」
    言葉は途切れ花の下をまた時折人が過ぎる。
    不死川は何という事もなく隣の男の腕に手を伸ばして掴もうとし、手を止めた。
    それから、触れないままじっとその手を見た。
    「手がどうかしたか」
    「フン」
    顔を元の向きに戻すと、不死川は帯から煙草入れを引っ張り出した。
    草を毟って先に詰めマッチを擦り細く煙を吐く。
    立ったまま煙管をふかし、不死川はしばし黙った。
    また今年も花は咲く。
    「二度目の桜か」
    「どうにか裏を返したってこったな」
    「去年お前は言っただろう。仮初めでないものがあるのかと」
    「あぁ言った」
    不死川は煙を吐きながら軽く肯定した。
    「まだ半ばはそう思ってるぜェ」
    「そうか」
    「だがまァ」
    男はちょっと考えを凝らす目をし、何か言いかけてやめ、それからまた口を開いた。
    「あんときゃまだやってなかったからなァ」
    「やった後とやる前では何か違うか?」
    不死川は横目で冨岡を見た。
    「テメェは違わねぇってのかよ」
    「ああ、うん」
    さほど間も置かず冨岡は答える。
    「俺は変わらない、あまり」
    「おうおう能面の水柱様の面目躍如ってとこかァ」
    「そうじゃない。つまりは」
    冨岡は首を捻ってもう一度言い直した。
    「今も、前も、思っていることはさほど変わらない」
    「違ったとすればもっと前だ。もっと…いや」
    「もっとはっきりした気がすると言った方がいいか」
    「それで改めて知ったことがあるとすればだな」
    ちょっともわからんといった様子の不死川に冨岡は淡々と続ける。
    「体を合わせるという事は心地がいい」
    「せんずりよりもずっと」
    「触れることも、触れられることも一人では叶わない」
    真顔で言う男に不死川は呆気にとられた表情かおをした。
    「よくも素面でそんな事が言えたもんだ」
    「始めたのはお前だろう」
    「あァそうかよ」
    「少し飲んだ方がいいか?」
    そこにかさりと音を立て何かが落ちる。
    男らは足元のそれに目を向けた。
    「桜だ」
    「緑に赤じゃねぇか。これが桜かァ?」
    御衣黄ぎょいこう。そう呼ばれる」
    「まァた兄弟子の受け売りか」
    「いや、これは」
    そこで冨岡は言葉を切った。
    「近所に花を見に行ったことがある、昔」
    「散らねぇのかこの桜は」
    「花ごと落ちるんだ、これは」
    「へェ」
    冨岡はぽつりと言った。
    「こんなふうに首は落ちたな」

    「こんなぬるい風の吹く夜に女の鬼を討ったことがある」
    「若い娘の鬼だった。頸に編んだ白い花を飾り」
    「その頸を、俺は斬った」
    「夜目にも白い花びらを目途に」

    「鬼の体は消え」
    「そして」
    「花だけが、落ちて残った」

    「思い残し」
    「人のかけらだ」
    心に修羅を飼わねば、奈落に引き込まれそうな己を繋ぎ止め得なかった日々。
    吸わないままの煙管を手に不死川も冨岡と同じように闇を見ていた。
    「かけらが多かったら俺らは鬼を斬れたか?」
    「何もねェ。それで良かった」
    言葉で、そのほかで何を紡げるものだろうか。
    不死川はまた煙管に草を詰めて火を付け、一息吸い込むと煙を吐いた。
    「花を見ると鬼を思い出すってのも因果な話だぜ」
    「仕方あるまい」
    「夜だしなァ」
    「夜だから、お前とだから、思い出すのかもしれん」
    「所詮俺らは鬼狩りってことかァ」
    「そのようだ。それに」
    そこで隻腕の男は目を瞑る。
    「こんな話をできるのはもうお前くらいしかいない」
    冨岡は目を開けて落ちた花を見遣り、また枝で咲いている僅かな花を見上げて言った。
    「儚いだろう、花は」
    「触れることもためらわれる」
    「一息で斬る事、それしか知る術もなかった」
    「触れなば落ちんという言葉もあるしな」
    「…そっちは勉強してねぇのか」
    怪訝な顔の冨岡に不死川もまた落ちた花を見ながら言った。
    「花には花で別の考えもあるかもしれねぇぜ」
    「拾われることで生きる花もあろうってもんじゃァねぇか」
    冨岡は花から顔を上げると不死川の目を見た。
    「拾われたことがあるのか」
    「そりゃァあるぜ」
    不死川も冨岡を見返して言う。
    「俺らは皆拾われたもんだろ、鬼殺隊にィ」
    「そうだな、お館様にな」
    「そういうこった」
    そこまで言うと不死川は煙管の灰を叩いて落とし、草履で均した。
    帯に煙草入れを突っ込んで今度は顔も見ず冨岡に言う。
    「明日は桜餅が食いてェ。付き合え」
    「応だ。久しぶりだな」











































    去年出し損ねたやつ。終映記念にこそっと上げる。

    ずっとどうでもいいようなどうでもよくないようなことをしゃべっててくれ。
    ずっと一生。ずっとずっと。
    るげ Link Message Mute
    2025/03/28 19:17:20

    春の夜の駄弁りをひとつ(腐向け)

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    👹の二次
    作者が共有を許可していません Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
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