イラストを魅せる。護る。究極のイラストSNS。

GALLERIA[ギャレリア]は創作活動を支援する豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • 1 / 1
    しおり
    1 / 1
    しおり
    合法おかわり

     お互いの鼻先がくっつきそうなところで、隼は異変を察知した。自分の背中には確かな両腕の感覚がある。それなのに、真下から感じる気配は。
    「寝てる……?」
     規則正しい呼吸は寝ている人のそれで、始は目を閉じて穏やかに胸を上下させていた。
    (えええぇぇぇぇ…………っ?!)
     始の上に覆い被さったまま、隼は固まった。
    「いやいやいや、ねぇ、ちょっと待って。さすがにこのタイミングで寝ることってありますか? 僕的にはないと思います! それとも僕の方がいつの間にか寝てたのかな? 途中から夢に切り替わってた、もしくはそもそも最初が夢で、今覚めたという悲しい可能性が……?」
     痛む頭で状況を整理しても、自分がどこで間違えたのか全く理解できない。普通からは逸脱しすぎた事態に、自分こそが非常識なのかと悩み始める始末だ。
     寝息を零す唇との距離は本当にあとわずか。だが、相手の意識もないのに勝手に触れることなんてできやしない。相手が始なら、始だからこそ、隼にはなおさら無理だ。
     一連の流れが急展開だったから、ベッドサイドの照明はまだ室内をやわらかく照らしているままだ。そんな中で間近で見る端正な顔には、日頃の疲れからかくっきりとクマが見えた。
     始は相変わらず忙しい毎日の中、猛暑にあえぎながら頑張っている。それを労りたいと思ったらふっと肩の力が抜けて、仕方ないなと隼は苦笑した。
     名残惜しく思いつつ、背中に回っていた始の腕を解いて、そっと身体の両脇に添えてやる。彼は隼の枕に頭を沈ませて、すやすやと気持ち良さそうに眠っている。
    「枕、チャンスだと思ったらまさか僕の枕で寝てくれるオチだなんて。君といると何が起こるのか全く予想が付かなくて、たまに心臓にもの凄く悪いよ」
     勿論始を起こす気はない。ならばと隼は、始のために用意した枕で自分が寝ようと、空いているスペースの方へ移動した。いつもと場所が左右逆で、見える景色が少しだけ異なるのが新鮮だ。一人分の空間を空けて寝ようとしたら、始の腕が何かを探すように彷徨った。
    「どうしたの?」
     始に問いかけても、意識が戻ってきたわけではないらしい。返答はない。やがてその手が隼の腕を探し当てると、やんわりと握った。
     そこで、始は涼を求めているのだなと思い至る。今日の暑さがよほど応えたのだろう。ひんやりとした部屋にいてもなお、冷たさが欲しいようだ。
     もっと冷やしてあげると言ったことを思い出して、どうしようかと隼は悩む。ご褒美をあげると戯れで口にしたけれど、半分以上は本気だった。無論、始が応じてくれるのが大前提だったのだが。
    「まだ暑いのかなあ。寝苦しそうには見えないけれど。……あ、そうだ」
     快適な睡眠というキーワードで、隼はつい最近ロケをしたヘッドスパを思い出す。頭のマッサージは非常に高いリラックス効果をもたらし、自律神経に良い影響を及ぼす。そして、施術中に自然と眠ってしまうくらいに気持ちが良い。
     海と一緒に受けて、彼と同じタイミングでぐっすり寝落ちしたので、相方同士息がピッタリですねと微笑ましく見守られた。あれはなかなかに至福の時間だった。
     始は仰向けで寝ているので頭部は無理だけど、腕や足ならいいだろう。頭だけでなく、手足へのマッサージもそれなりに効果がある。
    「ちょっと失礼」
     隼を捕まえていた始の手を逆に取り、手のひらを上に向けると、人差し指と親指の間にあるツボを押してやる。
    「確かこんな感じだったかな」
     以前体験したあれこれを思い出しながら、手のひらから前腕部、それから上腕部、肩へと丁寧に揉みほぐしていくと、始はたまに痛みを感じるのか顔をしかめて息を吐く。しかしその間も目を覚ます気配はない。
    「始の肩、ものすごく凝ってない? 人間の肩ってこんなに硬いものだったかなあ」
     隼は肩こりとは無縁なので分からないが、海のそれとは随分感触が違う気がする。元々の筋肉の付き方も違うから、比べるのも間違っている気はするが。
    「ん…………」
     肩と首元の辺りを指で解していたら、不意に始が両腕を持ち上げ、バンザイをするような形で両手を頭上に上げた。
     腕の内側もやってくれ、とリクエストされたみたいに思えて、隼はどきりとする。けれどすぐにそんな邪念を追い払う。
    「バンザイ寝って確か、肩こりの酷い人が無意識に取るポーズだったよね。やっぱり肩こりが酷いのかな?」
     そんな色気もへったくれもない無駄知識を知っていた隼は、始が少しでも楽になれるようにと黙々と肩周りのマッサージを続けていく。
    「仰向けの人の肩って押しにくいなあ。でも体勢を変えさせたらさすがに起きちゃうよねえ」
     両肩、両腕を一通り終わらせる頃には、始はつま先を伸ばして、全身で伸びをしているような体勢になっていた。少しはリラックスに貢献できたらしい。それを見て、隼の脳裏につい先日見たヤマトの姿が重なる。
     涙が不在で部屋が暑かったらしく、彼はプロセラの共有ルームにやってきて、冷えた床の部分に横たわり伸びをするように寝ていた。背中を反らせて手足をピンとさせ、お腹を丸出した姿は野性味が皆無だ。猫は液体だの吸うものだのとSNSで言われていたのを思い出して、微笑ましくなった。
    「始はやっぱりネコ科だね」
     リラックスして伸びながらだらりと寝ている。隼の寝床で、隼の枕に陣取って、無防備に腕やお腹を見せて。
     そっと手を伸ばして、服の上から薄く上下する腹を撫でた。温かい。しばらくそのままでいても、彼からの反応は特にない。ヤマトもああいう状態の時には、お腹の毛をまさぐっても怒ったり嫌がったりはしない。逆にもっとと要求されるくらいだ。
     またどきどきと心臓が鳴り始める。隼は焦るような気持ちで、もう少しだけ大胆に腹部を撫でる。始の寝息に変化はない。それなのに始がそこにいるだけで、隼の感情は大きく揺さぶられ、振り切れてしまう。
     よくもまあ毎年、ほぼ毎晩だなんて、自分は彼の隣で冷静に寝られたものだ。それを今さら、本当に今さら、隼はしみじみと思ってしまった。同じベッドで、同じ布団で一緒に寝るだなんて、よく考えなくても異常事態でしかないのに。
     始がここで寝ることを望んだから、深く考えないように、わざと思考停止していた。そんな自分への誤魔化しが、効力を失いかけている。
    「……十分に冷えたかな? それともまだ、ご褒美が足りない?」
     触るのはダメ。駄目だったのに、始が許すような素振りを見せるからいけない。あんな態度をしておいて受け入れるつもりがなかったなんて、寝ぼけていたなんて、そんなのは言い訳だ。
     間違いだろうがなんだろうが、一度でも彼が許してくれるなら、手を取ってくれるなら、朝まで確かめたいと隼は熱望していたのだから。
     始が履いているスウェットパンツは生地が少し厚めで、その厚みに阻まれて腹部のまろみをちゃんと感じられない。それを物足りなく思う。少しだけ逡巡したあと、隼はウエストの紐に指先を引っ掛けて解いてしまう。
     緩んだ隙間からそろりと手を差し入れて、今度は下着の上からふわりと腹を撫でる。生々しい体温と、呼吸と連動して上下する動きをしっかりと感じ取れて、満足する。撫でていた親指の先が臍の窪みに引っかかって、足元からじわりと痺れるような感覚に陥った。
     高揚した気分に押され、指先を立ててそこを擽るようにしたら、抗議のような呻きが始の口から漏れた。そこで隼は我に返って、何をしているんだと焦る。一方的にこんなふうにするのはただの乱暴だ。
     慌てすぎて、不埒な手はそのままに始の顔を見れば、うっすらと開かれた瞳と視線が合う。あ、終わったかも、と隼の脳内で言い訳がぐるぐると回り始める。
     床に沈められるだけで許されるだろうか、と思っていると、始の手のひらがイタズラをしていた隼の手に重ねられた。
    「あっ……、はじ、」
    「……くすぐるのはやめろ。触るなら、もうちょっとしっかり、撫で……」
    「え、しっかり、何て……?!」
    「…………」
     思わぬ反応に隼がパニックになっていると、始はまた沈黙した。緊張がピークに達した頭で彼の様子を確認するも、再び目を閉じて寝息を立てている。どこから見ても完全に寝ていた。
    「……ですよね!」
     脱力して力なく笑う。気まぐれなネコ科にもほどがある、という文句は脳内だけに留めておく。
    「今度は、……君の意識がある時に、撫でさせてよ」
     暑さで意識が朦朧としていない夜に。夏というボーナスタイムが終わったあとに。
     何でもない日常の延長線上で。
     それを、許してほしい。



    「身体が何だかスッキリしてるな……。特に肩がやたらと楽だ」
    「それは良かった! 君が寝てる間に、僕が全身全霊を込めてマッサージさせていただきました!」
     翌朝、始より先に隼が起きていたことに始はまず驚き、隼の言葉に二度驚いていた。
    「それは、……ありがとう。最近凝り気味だとは思っていたんだが、暑さのせいで運動もろくに出来てなかったんだ」
    「素人の僕が触ってもガチガチだったからね。見様見真似でやってみたのだけど、効果があったのなら何よりだよ。君にご褒美をあげると言ったしね?」
    「あぁ、言ってたな。何をくれるのかとちょっと驚いた」
     くすりと笑う始は、寝入り端の言葉までは覚えていないらしい。隼は結局寝れなくて、本当に一晩中始の寝顔を眺めてしまった。ちなみに寝不足はチートで処理済みなので、このあとの仕事に差し支えることはない。
    「昨夜は本当に辛かったから、挨拶もろくにせず寝落ちして悪かったな」
    「ううん、気にしてないよ。そんなことくらいで遠慮して、君がここへ来なくなる方が嫌だしね?」
    「そうなのか? まだ暑さは続くみたいだから、俺としてはもうしばらく世話になる予定なんだが」
    「それは嬉しいなあ。いっそ毎晩来てくれてもいいし、季節が変わって秋になっても冬になっても、この先ずーっと来てくれていいんだよ? 冬だってこの部屋は、暖房いらずの程よい温かさだからね」
     冗談交じりに言えば、始はふっと笑った。
    「冬は冬で魅力的なお誘いだな。確かに俺は暖房もそんなに得意じゃない。冷房ほどでもないが。……でも今日は、本当に調子がいいな」
     ベッドから降り、うんと伸びをする始を見て、隼は昨夜の始を思い出す。ベッドの中で無防備に両手両足を投げ出して、隼に触れられても目を覚まさなかった彼。それが隼にだけ見せる姿ならいいのに、と思う。
    「さて、と。そろそろ行くか。昨夜もありがとな、隼」
    「どういたしまして、だよ」
     隼はベッドの上に座ったまま、寝室を出て行く始を見送る。すると始はドアを開けたところで立ち止まり、隼を振り返った。
    「そういえばお前、腹をくすぐるのはやめろ」
    「……!」
     不意打ちで言葉に詰まる。彼はしっかり覚えていたらしい。お腹弱いんだね、なんて咄嗟に茶化すこともできなかった。
    「撫でるなら、もう少し手のひらに力を入れてくれ。じゃないと、くすぐったくて無意識に回し蹴りしそうになる。寝ぼけてる時はさすがに手加減できそうにないしな?」
     じゃあまた、と言って今度こそ出ていく背中を呆然と隼は見つめた。物騒な理由に笑いそうになりながらも、頬には熱が上がって、痛いほど心臓が鳴った。

     冷気を呼ぶのは得意だが、熱の方はあんまり自信がない。だけど。
     
    ────早く、早く次の熱帯夜よ、来い!




    PLA Link Message Mute
    2024/08/15 10:19:47

    合法おかわり

    #隼始
    合法隼始の後に、こんな事があったかもしれないSS。
    合法的にいちゃついてるだけ。

    more...
    Love ステキと思ったらハートを送ろう!ログイン不要です。ログインするとハートをカスタマイズできます。
    200 reply
    転載
    NG
    クレジット非表示
    NG
    商用利用
    NG
    改変
    NG
    ライセンス改変
    NG
    保存閲覧
    NG
    URLの共有
    OK
    模写・トレース
    NG
  • CONNECT この作品とコネクトしている作品