promise 1 youカルバ
「マックG!彼女もいっしょか?」
「プリーチ、こいつは専属ナースだよ」
「…僕も衛生兵です、ちゃんと医師免許持ってる、見ますか?」
アジア圏特有の幼い顔達から年齢の推測が難しい目の前の男は、少し長い前髪の隙間から据わった目で"プリーチ"ことエゼキエルを見上げる。
その様子を見た部隊のリーダー、"トップ"ことアダム・ダルトンは、まるで巨人ともやしだなと呆れて溜息を吐く。
「ジョセフ、子連れなんて聞いてないぞ」
「俺が直々に鍛えてやる事にした」
何食わぬ顔で連れて行くと言い張る"マックG"ことジョセフにアダムはどうしたものかと頭を振る。
「おい、もやし」
「僕がもやしなら、貴方は独活の大木」
"もやし"ことカルバ・グレイスは相変わらずの調子でエゼキエルを見上げており、対峙しているエゼキエルは何故か楽しそうだ。
「腕は立つ、性格はアレだけど」
「貴方に言われたくない、ジョセフ」
急に矛先が向けられ、ジョセフは黙れと片手を払う様に振った。
「大体、貴方専属のナースってなに?」
「似合うと思って、ナース服」
凄いミニなやつとのたまうジョセフに、カルバは剣呑な視線を向けたまま、全国のナースに謝れよと言う。
「最低だな、変態」
「…それは俺も同感だ、なんだ気が合うな」
あいつの、ああいう所がなと口をへの字にしたプリーチを見て、カルバは一つ瞬くと、こくりと頷いた。
次いで話しかけてきたのはチーム唯一の女性、ジャズだ。
「あんた、雌くさいわね」
「貴女は雄くさいね、どうやって男を抱くの?」
「「…………」」
「…面白いわね、カルバ」
「どうも、ジャズ」
それからはあっという間だった、若くして医学博士の免許を持つ彼は知識に貪欲で、断る毎にエゼキエルの手元を覗き見、ジョセフの手解きを受け、潜入捜査官のアミールには様々な言語を、スナイパーの"ジャズ"ことジャスミンにスナイプの極意を教わっていた。
つまり彼は、数日ですっかりチームに馴染んでしまったのだ。
そして今…特殊部隊に所属する割には細く、些か小柄なチーム最年少のカルバは、アジア人らしい黒い髪を靡かせ、トラックの荷台で寛いでいる。
荷台にはアミールも居たが、誰も一言も話さず静かだった。
アダムが奏でる鼻歌も、タイヤが擦る砂利の音にかき消されて、誰の耳にも届いていないと思っていた。
ところが、真横から視線を感じ顔を傾けると、風に逆らう様に手で前髪を押さえたカルバの目が二つ此方を見ており、アダムは鼻の頭を指で描く。
「…なんだ?うるさいのか?」
「え、いえ」
余り表情筋の動かないカルバは、瞬きをいくつかして曖昧に答える。そしてアダムを見たまま、何か言い出そうとしては口を噤む。
「どうした?」
「あの、トップ」
「あぁ?」
「ホームに帰ったら僕とデートしてください」
「……はぁ?」
至極真面目くさった顔で訴えてくるものだから、どうしたものか無下には出来ず、アダムは平静を装って何故かと問うた。
「その人を知りたければデートにでも誘えって、ジョセフが言ってた」
「それは女相手の話だろう」
「…そっか」
カルバは酷く残念そうに、そうですよねと呟いた。
「貴方は僕が嫌いでしょう?どうしてだか知りたくて、だけど…ごめんなさい」
「……」
もう言わないと言い、彼は立てた膝に顔を埋めたっきり静かになった。
●
だだっ広い地面だけが続くホームに帰ってきたチームは各々に寛ぎ始め、陽の高いうちから肉を焼きビールを片手に勝利の祝杯を挙げていた。
「おーいたいた、よーよー、カルバちゃん」
「ジョセフ、やめて暑い、鬱陶しい」
「お前ー、アダムに振られたんだってな?」
少し離れた場所で、シェパードのパットンと並び座っていたカルバの横へ腰を下ろしたジョセフは薄い肩を抱き寄せる。
「違う、トップは教えてくれただけ、アレは女性を誘う時に言えって」
「そうかー、残念だったな。せっかく誘ったのにな、お前…ほーんと可愛いヤツだな」
片手でカルバの頭を引き寄せ髪をくしゃりと掴むと頬ずりをするジョセフに、彼は髭が痛いから止めろと抗議する。
「やめて、ビール臭い、おやじ臭い、はなせってば」
「はっはー!」
身動ぎ騒ぐ彼らに向かってパットンが吠え出したので、何処からか煩いぞと言う声が飛ぶ。
軍人には似つかわしくない、まろみを帯びた肩を撫でてやり、ジョセフは言った。
「別にお前を嫌ってるわけじゃないさ、毛色の違う奴の扱いに困ってるだけだ」
「…トップも困る事がある?」
「そりゃあ、人間だからな、そう言う事もあるだろうよ。それにお前、吹いたら飛んでいきそうな"もやし"だからなぁ、ジャズより小さい上に弱そうだ」
ジョセフが揶揄う様に言うと、それを聞いたカルバは面白くなさそうに、でもどこか少し安心した面持ちで、男の肩をぽこんと殴った。
To be continued