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    風車と南風のゆくえ4@恋心瀬野


    頬と胸の引き攣る様な痛みで目が覚めた。白い天井や枕、ごわごわする簡易寝巻き、それに特有の匂いでここが病院だと頭が認識する。次いで感じたのは右手の温もり、寝起きでぼんやりした頭を動かし視線をずらすと、ベットに突っ伏した人を見つけた。その人は俺の手を握って眠っている。眠気に抗えなかったのか、直ぐ起きるつもりだったのか、取り外した眼鏡は俺の足元に置いてあった。顔はこちらを向いていて、目を瞑り穏やかな寝息をたていた。

    (…風見さん、寝てる)

    俺は体を横にして、起こさない様に布団を手繰り寄せながら移動すると、猫の様に丸まりながから、眠る風見に近づいた。

    (変な眉毛、ぁ…ひでぇクマ)

    あの三白眼は閉じられており、降りた睫毛の下にはクマが目立つ。疲れてるんだな、きっと仕事だけでも大変なのに、時間を割いて俺の事まで。面倒見良すぎて損するタイプだなんて、失礼な事言っちゃったなと反省した。

    (たった二回しか会った事ないってのに、助けてもらってばっかり、迷惑かけてんのな俺…)

    警察で被害届を出してホッとした、風見のお陰で随分早く立ち直った。数日の間 何事も起きなかったのを良い事に油断して、狙われているとは露ほども思わず、あっさり変質者に拉致された挙句に組み敷かれた。

    (…情けねーの)

    繋がれた手の温もりに、止まっていた涙が思い出した様に溢れ出た。目の窪みを伝って耳まで濡らし、ひくりと肩を揺らした。すると穏やかな寝顔をしていた風見が、んんと唸って眉間に皺を寄せる。

    「…ふる、や…さ…ん…ん」

    風見は 難しい顔をしてふるやさんと呟く。上司の名前かな?そんな顔しなくても寝てる間は何にも考えなくて良いんだよ。声には出さないけれど、心地よく眠っていてほしくて、つんつんと髪の跳ねた頭をそっと撫でてみた。思ったより柔らかな髪質で、面白くて暫く指に絡ませ遊ぶ。するとシャッっという音がしてカーテンが開かれ、急に現れた人物に驚いて、俺の涙は引っ込んだ。風見と俺の様子を見た見目の良い男は、人差し指を口元に当ててしーっと言う。

    「君が瀬野 君か」

    「…はい」

    手を離す事も忘れて、目をぱちくりとさせる俺を見下ろし、その人はふわりと笑った。

    「こんな所で居眠りなんて、戻ったら説教だな」

    「…あ、あんた降谷さん?」

    思い当たる名前を言うと、今度は見目の良い男が目をぱちくりとした。風見を起こすのかと思って体を動かそうとすると、彼はそのままでいいと言う。俺はその言葉に甘えてまた体の力を抜いた。

    「風見さん、疲れてるんだな」

    「安心したんだろう」

    「安心?」

    「君と言う心配事が解決したからな」

    「…俺、迷惑かけてる」

    「そんな風に思ってはいないさ、彼は料簡の狭い男じゃない」

    風見の真横に来た彼は、きっと乗りかかった船くらいの気持ちだから、気にするなと言う。

    「今日一日は入院だ、君ももう少し休むといい」

    「…風見さん、あんたの事 呼んでたよ」

    「それはまた、随分と良い夢見てるみたいだな」

    肯定はされてないけど、多分この人は降谷さん。掴み所のない人だなと思った。近く迄来たからついでに様子を見に来たと言う降谷は、もう少し寝かせてやってくれ、風見を頼むと言い置いてさっさと去って行った。彼もまた忙しい人なのだろう。
    暫くの間風見の寝顔を観察し、未だ起きない彼の手を握って安心を甘受する。右手に温もりを感じながら、俺もまた微睡みの中意識を手放した。

    ーーー次に眼が覚めると辺りは暗くとても静かだった。右手は布団の中に仕舞われ、寒くは無かったけど、そこに求める温もりも無かった。
    翌朝、たった一日の入院生活はあっという間にに終わりを告げた。色々とやらなければならない事がある。無断欠勤になっていると思い、会社に連絡して事情説明をしようとしたら、酷く心配した声で、昨日の事は風見から連絡を受け把握していると言われ拍子抜け。しかも労災下りるからね!と力強く言われ、一週間の自宅療養を言い渡された。

    服はどうしようかと悩んでいたら、何とシャツとスラックスが用意されており、看護師さん曰く眼鏡の人が置いて行ったと言う。これもまた多分風見さんだろうと思った。

    纏めた荷物を持ち退院手続きをしに向かうと、もう昼前。時間の経つ早さったらと目眩がした。カウンターで必要書類を受け取り清算する。もう疲れた、凄く疲れたと目頭を揉んでいると、突然 背後から肩に置かれたのは人の手。ぽんという振動に思わず大袈裟に肩を跳ねさせ勢いよく振り返えると、片手を上げたまま、バツの悪そうな顔をした風見が立っていた。

    「え、風見さん?」

    「すまん、考えなしだった」

    驚かせて悪いと律儀に謝る男を見上げて、俺は思わず吹き出した。すると、風見は更に顔を顰めた。

    「いや、嬉しいサプライズ。なんで?」

    「今日の昼に退院だと聞いていたから、間に合ってよかった」

    昨日の今日で電車に乗るのはつらいだろうからと、非番らしい風見はわざわざ迎えに来てくれたと言う。なんでこんなに世話を焼いてくれるのか、特別な意味はないのだろうけど、素直に嬉しい。

    (…特別な、意味)

    「ーおい、大丈夫か?」

    「ん、ごめん ぼーっとしてた」

    「まだ疲れが残ってるんだろう」

    心配そうに眉をひそめた風見が、俺から荷物を取り上げた。行くぞと言って、前を歩き出した風見の背中を追いかける。その背中を見て、これはもしかして只の憧れじゃないのかもしれないと、ある感情が胸の内を支配した。

    (…好き、なんだな)

    多分、駅で腕を引かれた時から。

    立ち止まって、少しずつ小さくなる背中に好きだと言った。何と不毛なと思う、気付かずにいられたらよかった、憧れのままでいれたらよかったのに、あんたが優しくするから。

    今の今の迄 自分より大きな男には、恵まれた体格しやがってと恨み辛みの感情しか湧かなかったと言うのに、彼に至ってはどうだろう。人生で初めて胸がときめいたと思ったら、それは同時に叶わぬ恋だと思い知る。

    「…風見さん、俺あんだが好きだ」

    だからごめんと呟いた。

    するとどうだろう、前を行く風見は不意に振り返って、どうしたと首を傾げた。そして早く来いと、あの三白眼が言う。

    なぁ、風見さん。どうしても諦めきれない時はどうしたらいいんだろうね。

    俺は先で待つ風見を追いかけた。
    荷物は後部座席に置き、助手席に乗れと言われる。遠慮なくドアを開けて乗り飲むと、次いで風見も運転席に座った。

    「荷物、ありがとう」

    「あぁ、全部拾ったが、何か無くなった物はなかったか?」

    「大丈夫、全部無事」

    「そうか、良かった」

    ナビに住所を入力し終えた風見はサイドギアとステアリングを握り、車はスムーズに動き出す。一時間もしない内に家に着いてしまうだろう、それは彼との接点の終わりを意味していて、焦った俺はよく喋った。それを静かに聞く風見は、偶に口の端を上げて笑ったり相槌を打ってくれた。

    特別な感情に振り回される俺は、ステアリングを握る手の節がカッコイイなとか、スーツじゃない風見もいいなとか、紺のジャケット似合ってるなとか、そんな事ばかり考えていた。今まで男らしくあれと生きて来たと言うのに、これではまるで乙女ではないかと項垂れる。

    「事情聴取は改めて後日、加害者に余罪が出てな、もしかしたら裁判で証言してもらうかもしれない」

    風見は合間に必要な業務連絡をしながら運転を続けていたが、急に黙った俺に赤信号で止まったタイミングで視線を寄越した。ジッと見ていたから当然視線が絡む訳で、カッコイイなと見とれてたなんて、とてもじゃないけど言えない。三白眼に見透かされそうでぼっと顔に熱が集まった。

    「どうした、熱でもあるのか?」

    「な、ない、熱はない!」

    「無理するなよ」

    大丈夫だからと顔の前で両手を振って見せた。風見は訝しげにしながらも、また前を向く。案外距離が近いなと意識すれば、それからはもう何も喋れなかった。ただ過ぎ行く時間を惜しむ様に、運転席に座る彼を眺める。

    「ねぇ、非番って休みって事だろ?何時もはなにやってんの」

    「大体 寝ている…笑うな」

    想像通りと言うか、俺がくすくす笑うとそれに気が付いた風見は顔を顰めた。お前は何をしているのかと聞かれて、うーんと唸る。

    「昼前まで寝て…」

    「一緒じゃないか」

    「全然違う!買い物行って昼と夜と飯作って、食ったら寝る」

    「寝てばかりだな」

    「気が合うな」

    そうだなと笑った彼にときめいたと言ったら、引かれるだろうか。あぁ、これはもうどうしようもないくらい好きなんだと思い知った。

    「料理するのか?」

    「うん、一人暮らし長いしなぁ、割と好きだよ料理」

    幾ら一人暮らしが長くたって、料理なんて滅多にしないと言う風見に、そんな気がするなと言って笑うと、眉間の皺が深くなるのが面白かった。得意料理はと聞かれ、おにぎりと答えるとそれは料理かと今度は俺が笑われたので、おにぎりについて熱く語っておいた。

    束の間のドライブは直ぐに終わる、あっという間にアパートの前に着いてしまった。これで最後かと思うと、何よりも寂しさが優った。

    「汚したスーツ、クリーニング代出すよ」

    「そんな事 気にする必要はない」

    「でも!」

    「今は自分の事だけ考えていればいいんだ」

    無謀にも次の約束が欲しかった、でもそれはどうやら叶わないらしい。

    「ちゃんと…お礼がしたいんだけどな」

    「当然の事だから、」

    「手ぇ握ってくれたり、さ…送り届けてくれるのも、当然の事なのかな」

    「………それは」

    「ごめん!色々ありがとう、助かった本当!」

    男にこんな事言われて引かない訳ないと、俺は慌てて助手席から降りる。それはもう転げ落ちるみたいに降りる。助手席のドアを閉め深呼吸し、荷物を取る為 後部座席のドアに手をかけた。すると風見も運転席から降りてくる。

    「色々ごめんな、その…忘れて!」

    「そんな 泣きそうな顔をするな」

    「別に、そんな…」

    「混乱しているだけだ…きっと落ち着いたら元に戻る」

    「違う!ヒーローに憧れるとかそんなじゃない、あんたが思ってるのとは…違う!」

    俯いて、風見が言わんとする事に歯噛みする。荷物を抱えると視界に入ったのは彼の革靴の爪先。手の届く程近い所に好きな人がいる、男の誰かに触れたいと思う事自体初めてで、改めて感情に振り回されてると自覚した。
    堪らず横をすり抜けようとすると、待てと言われ肘を掴まれた。

    「…本当、ごめんってば」

    「……」

    「…た…い」

    「すまない、痛かったか」

    「ー違う!またッ、会いたい!」

    離される手を追いかけて捕まえ、勢いの余り前のめりで会いたいと口走ってしまい、慌てて手を引っ込める。見下ろされる旋毛が痛かった。そこへ垂れた頭に重みが増す、視線だけを上げると風見が頭に手を乗せていた。

    「…握り飯、食べてみたいな」

    「ーーーぇ、」

    風見さんと呼ぼうとしたら、大きな手でくしゃくしゃと頭をかき混ぜられた。頭の揺れが収まると頭上から温もりは去り、背を向けた風見は車に乗り込む。車は音もなく動き出して、あっという間に見えなくなった。

    会いたいと、伝えられたのはただそれだけ、風見は肯定も否定もしなかった。連絡先など勿論 交換していない、けれど俺が会おうとすれば叶わない距離じゃない。

    正義の人は、たった一つの希望と、俺の目が覚めた時の逃げ道だけを残して走り去って行く。

    本当の気持ちと向き合いながら、去り行く車が見えなくなるまで、ずっとずっと眺めていた。

    …………………………
    沢山の方にご覧頂けているようで、お礼申し上げます!嬉しいよー!
    nikka04 Link Message Mute
    2018/07/28 16:31:42

    風車と南風のゆくえ4@恋心

    4 名探偵コナン 風見裕也 夢小説

    pixivより再録
    #名探偵コナン
    #風見裕也
    #夢小説
    #男主人公

    こないだ初めてハート頂きました、わーん!ありがとうございます!

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