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    ボダイジュ

    「他でもない君の願いだ、聞き入れたいのはやまやまだがね」
    珍しく死神は渋って首を横に振る。それを見て影は確認するように問う。
    「では、留守を頼まれてはくれぬということか」
    「いや、他のことなら構わないよ?ただボクにあのボウヤの面倒を見てほしいというのは」
    よりによって、とキルバーンは心の中でため息を吐く。
    愛しいミストに頼られるのは正直嬉しい、が、時々彼は他人を信用しすぎではないかと不安になる。
    「そういえばそのボウヤは今どこにいるのかね。姿が見えないが」
    「昨日からひとり魔界の森で修行させている。野戦の訓練もかねてのことだ」
    大魔王の居城近くといえども知性のないモンスターが多数跋扈する場所である。
    大いに危険を伴うため、弟子に気づかれぬよう師であるミストバーンが監視をする手はずだったのだが。
    「……バーン様から火急の用を賜ったのだ。故に私は城を離れねばならぬ」
    「はぁ、なるほどねェ」
    ようするに元々あった彼の予定に突然大魔王が勅命を重ねてきたということか。
    修行の監視は秘密裏でヒュンケルに中止を告げるわけにはいかないのだろう。
    (ミストの事情は大体分かった。……けど)
    しかし、納得いくかは別の話なのだ。
    「ボクがあの子を好ましく思っていないのは君も知っているだろう」
    「だが、殺すつもりであればお前なら既にやっているはずだ」
    「ああ、まあ、……それはねェ……」

    あの子を殺せば君が悲しむから、ただそれだけだよ。

    喉元まで出かけた言葉を飲み込み、代わりに死神はやれやれと肩を竦める。
    癪だが『利害が一致しただけの仮初の師弟関係』と自ら言い聞かせているであろう相手へ向ける
    本当の感情を彼に自覚させるよりはマシだろう。
    「……仕方ないね。今回だけだよ?」
    「十分だ。ありがとうキル、恩に着る」
    「それはいいから、あとでボクに埋め合わせをしてくれたまえよ」
    素直に感謝を述べる親友に、せめてもと死神は笑みを浮かべていってやった。


    鬱蒼とした森の中、死神の肩から下界を覗き込むようにしてピロロは問う。
    「あの焚火のあたりにあのコがいるのかな?」
    「そうだろうね。魔界のモンスターは基本的に光に弱い、ああやって避けるのが野営の基本だ」
    おそらくは教わったマニュアル通りにやっているのだろう。
    生真面目なところは師匠とよく似ているよねェ、と皮肉交じりに死神は呟いた。
    「ボクにいわせりゃ、ここに居ますよって宣伝してるようなモノだがね」
    基本とは裏を返せば誰しもが周知しているということだ。
    知能の低いモンスターならともかく、自分のような暗殺者に狙われているときは命取りになりかねない。
    (まあ所詮訓練だし、そのケースまで考慮していないのだろうね)
    たかが人間の子どもがひとりで城の外に出れるようになっただけで大進歩なのだ。
    だがおそらく当人はそう思ってはいまい、「ようやく一人前と認められた」と。
    聞いた話だと彼はすでに師事していた人間の勇者に卒業の証を貰っているらしい。
    魔界の城に閉じ込められ、ただ読み書きや基礎訓練に明け暮れた日々はさぞ不満だったろう。
    それはミストバーンへの彼のぞんざいな態度から見ても明らかだった。
    (それもあって、というかだからこそボクは気に入らないわけだけど)
    ヒュンケルが人間であるなどというのは些細なことだし、別に彼に限った話ではない。
    愛しい親友にどんな影響を及ぼすかのみが死神にとっては他者の判断材料だった。
    「ボクが大切なのはミストだけ。あの子が野垂れ死のうが知ったことじゃない」
    「でも、もしあの子がこの修行中に魔物に襲われて死んじゃったらミストバーンは悲しむでしょ?」
    ピロロの言葉に、キルバーンはそれなんだよネェ、と不貞腐れたように頬杖をついた。
    「まったく……忌々しいボウヤだよ」
    (キルバーンがこんな顔するなんて、めっずらしいの!)
    相棒の滅多に見ない姿に驚きつつ、使い魔はくるんと蜻蛉を切ってふたたびその肩にちょこんと座り込んだ。

    森下一葉 Link Message Mute
    2019/10/09 15:19:08

    ボダイジュ

    闇師弟と死神の短いおはなし  #キルミス #闇師弟

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