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    プラタナス


    「やあ、ミスト」
    「……キルか」
    仮面で形どられた笑顔を振りまきつつ、死神は親友の影と挨拶を交わす。
    「その様子だと謁見の帰りといったところかな?」
    「ああ、先ほど大魔王さまへのご報告を終えたところだ」
    「それはそれは、オツカレサマ」
    特に断ることなく死神はごく自然に寄り添うようにして影と並んで歩く。ふたりの間では常の光景である。
    「だったら、このあとはヒマなんだね」
    「そういうわけではないが……急ぎの用がないのは確かだ」
    ヒュンケルの修行を見てやっても良いのだが、今日は彼を自室での勉学に専念させている。
    そう話すとキルバーンは明らかに上機嫌になった。
    「ちょうどいい、ボクも暇なんだ。死神にお仕事がないのは良いことだよね」
    「……何が言いたい」
    もう答えは出ているようなものだが、一応ミストバーンは彼に尋ねてみる。
    「つまり、今日の午後は君と一緒に過ごしたいなァって。いいよね?ミスト」


    特に拒否する理由もなく、ミストバーンはキルバーンを伴って離宮へと戻った。
    ヒュンケルの養育のため一時的にバーンから借り受けた住まいである。
    その弟子は、師匠が帰宅しても出迎えず姿を見せない。
    「随分と薄情なのだねェ」
    「私からそのような気遣いは無用だとあれに伝えてあるのだ。その分集中して励めと」
    ミストバーンはヒュンケルに暗黒闘気の扱い以外にも戦術や読書き等を教えてやっている。
    「バーンさまの戦士として働くのであれば、そのぐらいの器量は備えてもらわねば困る」
    「……ほんっと、君ってマメだよねェ……」
    半ば呆れたようにキルバーンはふぅっとため息を吐く。
    戦いに関することだけではない。
    親友が弟子の養育環境や作法の指導にも細かに気を配っていることを死神は知っている。
    衣食足りて礼節を知るとはいうが、それにしてもだ。
    (たかが人間の子どもにそこまでするなんてね。ただ利用するためってのは無理があるよ、ミスト)
    彼が拾った子どもに単なる道具以上の愛情を抱いているのは傍から見ていて明らかだったが、
    それにわざわざ気づかせてやるほど自分はお人好しではない。
    キルバーンを居間に通したあと、ミストバーンは部屋の奥へと姿を消した。
    「そこにかけて待っていろ。今茶を淹れる」
    「あ、別にいいよ。おかまいなく」
    死神はそう伝えたが、しかし影は律儀に茶と菓子を持って現れた。
    ありがとう、と素直に礼をいうと死神は仮面を外して用意された茶を口にする。
    「ピロロ、これは君にあげるよ。あちらの部屋で遊んでいなさい」
    「わーい、あまーい!おいしー!!」
    渡された焼き菓子を頬張りながら、小さな使い魔は嬉しそうに飛び去っていった。
    彼らのそんなたわいないやりとりを目にしつつ、影は死神の向かい側へと腰かけた。
    と、こちらを見つめる視線に気づいてミストバーンは小首を傾げる。
    「…………どうした、キル」
    「ふたりきりだし、それにティータイムには不向きだろう?君も顔を見せてよ」
    「---む」
    請われるままに影はフードを外し、そのままカップを口元に寄せて紅茶を飲む。
    少し頭を垂れる仕草とともに、彼の蒼銀の髪が流れて頬に掛かる。
    その様子に死神は思わず見とれてしまう。本当に綺麗だと思わずにはいられない。
    「可愛い君とこうして素顔で過ごせるのはボクだけの特権だね」
    「……一度見られた相手には隠しても仕方がないと、バーン様に特別なお許しをいただいたからな」
    「そうそう、寛大だよねェ、君のご主人サマは」
    これ以上の詮索はするな。そう釘を刺した日のことをミストバーンは思い出す。
    あれから随分と立つが、以来死神はこの約束を違えたことは一度もない。
    それは影が彼を信頼に足ると認めている理由のひとつだった。
    「ミスト」
    「!」
    いつの間にとなりへ移動していたのか、キルバーンは名を呼びながら彼のひとを抱き寄せる。
    「んっ……」
    軽く、次いで深く唇を重ねていく。身体の奥が凛と研ぎ澄まされるような感覚に、影は未だに慣れていない。
    息苦しそうに眉を顰めるタイミングを見計らって、ようやく死神は顔を離した。
    互いの間に伝う唾液の糸をつるりと飲み込むと、楽しそうに舌なめずりしてみせる。
    「こういうことをするのも、許可を頂いている……わけじゃあモチロンないよね」
    「あ、あ、あたりまえだッ!!」
    何を馬鹿なことをと、ミストバーンは目元を赤くする。
    焦る様子を楽しむように、死神は意地悪く紅い瞳を細めながらまた尋ねた。
    「バーン様に内緒にしててもいいんだ?」
    「……お、お前がそれをいうのか………」
    ふたりの秘め事がいつはじまったのか、ミストバーンは覚えていない。
    自分の隣にこの男が寄り添うようになったのも、キスをするようになったのも、抱き合うようになったのも、
    全ていつのまにか、としか……いいようがなかった。
    それほどまでにごく自然に、この死神はするりと己の傍に入り込んできたのだ。
    「お前でなければこんな不埒な真似を許すなど、私は……ッ」
    「ボクのコト、特別に想ってくれているってことかい?嬉しいなァ」
    「--あまり調子に乗るな。キル」
    色素の薄い瞳で睨まれて、おお怖いと死神は嘯きながら肩を竦める。
    「でも、君がボクと同じ気持ちで嬉しいよ」
    「それは、どういう……」
    「ボクもね、キミだからこそ触れたいんだってこと」
    「!……キ、ル……」
    ふたたび唇を合わせたとたん、するりと口内に長い舌が入り込む。
    「……く、は……」
    この痺れるような得もいわれぬ感覚、それもこの男が相手だからこそ、なのだろうか。
    ……死神の熱が、凍れる身体をじわりと溶かしていく。そんな錯覚すら覚えてしまう。
    ンン、とひとつ小さく呻き、影がそのまま死神に身を任せようとした、その時である。

    「ミストバーン、帰っていたのか」

    扉の外から年端に似合わぬ落ち着いた子どもの声が聞こえ、影と死神はその動きを止める。
    「ヒュ、ヒュンケル……ッ」
    「ーーやぁ、ボウヤ。いまさらだけどお邪魔しているよ」
    ミストバーンの言葉を遮り、キルバーンは少し身を起こして扉の方へと声をかけた。
    軽い口調だが明らかに不機嫌な色を含んでいる。いいところで水を差されたのが気に入らないのだろう。
    「ミストに何か用事かね?」
    「……そうじゃない、その……居間に本を一冊置き忘れてしまって、取りに来たんだ」
    言われて影は机の上を見る。確かに今朝城へ行く前ヒュンケルに渡した指南書がそこにあった。
    「部屋に入っていいだろうか」
    「ダメだね」
    ヒュンケルの申し出を死神は即座に断る。
    あまりに即答すぎて、ミストバーン、そしておそらくは扉の向こうにいるヒュンケルも、思わず言葉を失った。
    「……何故だ」
    「何故って、そりゃあボクたちが今取り込み中だからだよ。意味が分かるかい?」
    「--分からない」
    素直に返答するヒュンケルに、キルバーンは律儀に説明してやる。
    「お子様の君にも分かるように説明してあげるとね、ボクらはふたりの時間を楽しんでいる最中なのさ」
    「!?キ、キル、」
    開けっぴろげにまくしたてる死神に驚き、制止しようとするが間に合わない。
    「デートを邪魔するのは人生において最も無粋な行為だよ、覚えておきたまえ」
    やたら偉そうに言い切ると、キルバーンは見えぬ相手に向かって勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
    「……で、オレはどうすればいい?」
    「自分で考えなよ……といいたいところだけど、今回は大サービスだ」
    ひょいと立ち上がると、死神はくだんの本を手に取り興味なさげにパラパラとめくる。
    動けないでいる影をしり目に扉の傍までいき、ほんの少しだけ開けてその隙間から本を差し入れた。
    「……ありがとう」
    「さ、用が済んだのならそのまま部屋に戻って勉強を続けたまえ。いいね?」
    「--ああ。……じゃましたな」
    「そうそう、よく理解できてるじゃないか。ひとつ賢くなったねェ、おめでとう!」
    全く心のこもっていない賛辞の言葉を贈りつつ、ぱたんと死神は扉を閉める。
    小さな足音が遠ざかっていくのを、ミストバーンはただ唖然として聞いていた。
    「なかなか聡明だし物分かりがいいね、これも君の指導の賜物かな」
    「…………」
    それでは、と死神はふたたび影の元に戻り、ニッコリと笑いかける。
    「邪魔者も去ったことだし、続きをしようか」
    「……お前は、本当に、教育に悪い男だ……ッ」
    目元を赤くしながら睨みつけてくるミストバーンに、心外だなァとキルバーンは悪びれず答える。
    「あのまま部屋に入れてたら君の素顔をボウヤに見られていたでしょ?」
    「む……それは、そうだが……」
    「ならば別の理由を付けて追い払うのが最良だったと思うのだがね。違うかい?」
    「しかし……よりによって……その、」
    理屈は分かるのだが釈然としない。何より言い包められてしまうのが口惜しいのだ。
    黙り込んでしまった影の頬を、死神は慰めるように優しく撫でてやった。
    「君に恥をかかせてしまったというなら、謝るよ。ごめんね」
    「…………」
    「でもさ、ちゃんとボクとミストがどういう関係なのか、あの子に理解しておいてもらわないとね」
    「……どういう……?」
    少しだけ言葉を切ると、ミストバーンは不思議そうに目の前の相手に問うた。

    「私とお前は……親友だろう」
    「そうだよ。ボクにとって君は、世界でただひとりの大切な『親友』だ」

    満面の笑みを浮かべながら死神は影の首筋に数度キスを落とす。小さく呻く艶やかな声も聞き逃さずに。
    「続きをするのはイヤかい?」
    「……そんなことは、いっていない……」
    バツが悪そうに見つめてくる影、しかしそれでもその薄水色の瞳には己の姿がはっきりと映っている。
    それを認めると満足げに死神はまた口元を弓なりにして、笑った。
    「ミスト。可愛い君の全てがね、ボクは大好きなのだよ」


    森下一葉 Link Message Mute
    2018/10/26 19:26:57

    プラタナス

    闇師弟と教育に悪い死神
    #キルミス #闇師弟 #擬人化

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