死神の仕事
「これで三度目の失敗、か」
不機嫌そうに玉座の大魔王はグラスを揺らす。
傍に控える影は空になったそれに新しいワインを注ぎ入れた。
「最後のチャンスを与えてやったつもりだったが。残念だな」
「……彼奴の処遇はいかがなされますか」
分かりきった質問を影は投げかける。大魔王はしれたことよと薄く笑みを浮かべた。
「使えぬ道具は余の配下には不要。いつもどおり処分はお前に任せる」
「……は……」
「その仕事、ボクにお任せいただけませんかねェ」
場の雰囲気に添わぬ明るい声の方へと大魔王と影が視線を向けると、
いつからそこにいたのか冥竜王からの使者と名乗る男が玉座の間の中央に立っていた。
「お前が代わりに粛清を請け負うというのか?」
「ええ、その通りです。前にもいいましたよね、ボクの特技は『暗殺』だと」
口にしながら、死神はちらりと大魔王の傍に控える影に視線をやる。
「裏切者や使えぬ部下の抹殺なら、彼よりこの死神に相応しい仕事かと思いまして」
ふむ、と大魔王はグラスを置くと影へと小声で話を向ける。
「ミストバーン、お主はあれをどう見る?」
「……御命令で幾度か奴に同行しましたが申し分のない仕事ぶりでした。
今のところは『協力者』として我々に助力するつもりなのでしょう」
「--成程」
ニヤリと含み笑うと大魔王は再度死神の方へと向き直る。
「ではキルバーンよ、今回の粛清はお前に任せよう。方法は問わぬ、好きなようにやるがいい」
「承知いたしました、バーン様」
ぺこりと肩に乗せた使い魔と共に頭を下げると死神はくるりと踵を返す。
玉座をあとにして広い渡り廊下まで達したところでようやく使い魔のピロロが沈黙を破り、
相棒の死神へと疑問を投げかけた。
「キルバーンが自分から申し出るなんて珍しいよね。
大魔王にいいとこ見せてアピールしなきゃ、って思ったのォ?」
「まさか。ボクがそんな面倒な真似するわけないじゃない」
アッサリと否定しつつ振り向くと、死神は先ほどまでいた玉座の間へと目線を送る。
あのとき。
粛清を命じられた影の声のトーンが落ちていたのを、死神は聞き逃さなかった。
失態を犯した将と影がどんな間柄か死神は知らないし、
どうせこれから死にゆく相手なのだから興味もない。
ただ影のあのように憂いた姿は見たくない……それだけのことだった。
「君には似合わないよ、ミスト。こんな陰気な仕事はね」
くるりと大鎌を回して肩に乗せ、キルバーンは小さく呟く。
「死にゆくものへと手向けの歌を葬送(おく)る、それはボク……死神の仕事だから」