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    アザレア

    暗い廊下に、ただ金属質な靴音だけが響いている。
    靴音の主の足取りは重い。まだ腕には生々しい感触が残っている。
    親友の心臓を貫き、殺したという感触が。
    死神が大魔王の命を破り裏切った所以に、主の命令に従い影は死神を始末した。
    無論死神は強かったが、魔界最強である封印を解いた素顔の影には及ばない。
    物言わぬ骸となり果てた彼を打ち捨て、振り返らずに大魔宮まで戻ってきたところだった。
    冷たい陶器のような整った顔に珍しく悲痛な表情が浮かんでいる。
    このままでは大魔王さまに報告が出来ない、そう考えてミストはしばし足を止めた。
    「……キル」
    小さく親友であったものの名を呼ぶ。
    普段ならば己が呼べば何処からか突然に現れ、軽口を叩きはじめるはずなのに。
    (私が殺したのだから、当然だ)
    後悔はない。大魔王さまのお言葉は絶対だ、それに背くことなどありえない。
    だが、それでもこの数千年生きてきて初めて覚えた喪失感はどうしようもなかった。
    「私にとって、あの男はそれほど大きな存在になっていたのか。……分からぬものだ」
    思わず口に出して言ってしまい、小さく首を振る。
    愚かな願いだとは思う。自ら突き放したものを求めるなどとは。
    ーーだがそれでも、影は願わずにはいられなかった。
    「キル……お前の声が、もう一度聞きたい」

    「ボクを呼んだかい?ミスト」

    突然足元に黒い渦が巻いたかと思うと、中から見慣れた黒衣の道化が姿を見せる。
    不意を突かれて影は驚き、思わず数歩後ずさった。
    「なっ……!?」
    「それほどまでに君に想われてるなんて、光栄だよ」
    からかうように仰々しいお辞儀をする死神に、しかし影はまだ事態を把握できずにいた。
    「お前……何故生きている」
    「ああ、言ってなかったけどボク、そう簡単には死ねない身体なんだよねェ。
    心臓をブチ抜かれたぐらいなら、しばらくすれば蘇生するんだよ」
    簡単に言えば死んだふりをしてたってこと、とぬけぬけと言ってのける。
    「私を、大魔王さまを謀ったのか」
    「今回のお仕事、アンサツのためさ。裏切ったところから全てボクの計画なのだよ」
    「なんだと……」
    「ボクが粛清され死んだとターゲットに誤認させるコト、それが必要だったのだけれど」
    死神はニヤニヤと含み笑う。その意味を察して、影はぐっと黙り込んだ。
    「……どこから聞いていた?」
    「さあてね、」
    はぐらかすように告げると死神はずいと影の整った素顔に己の顔を近づける。
    「ボクも君が好きだよ、ミスト」
    「!……キ、キルッ……」
    「初めて見たけれど--素顔の君も可愛いね」
    そういいながら額へと短いキスを落とす。
    不意を突かれてよろめく影の身体を死神は腕を伸ばし支えてやった。
    「ぜ、全部聞いていたのだろう!?この……ッ」
    「フフッ、ご想像にお任せするよ。……さて、君に頼みがあるんだけど」
    体勢を整え、ふたりは真正面に向かい合う。死神は彼の大鎌を回して宮殿の奥を指した。
    「これからバーン様に作戦をお伝えするつもりだが、ボクひとりでは心許なくてね。
    可愛いキミなら信用して下さると思うし、一緒に来てくれないかい?」
    死神は影の方へと手を伸ばし、返事を請う。
    影は呆れたようにふぅっと息を吐いた。
    「……仕方あるまい。お前が生きている以上、粛清を任された私も説明する義務がある」
    「さっすが、ミストは話が分かるね!」
    悪びれず笑う死神に並び立ち、影は黙して歩みを進める。
    死神の策略にまんまと嵌められたことは腹立たしい。敬愛する主君をもとなれば、なおさらだ。
    しかし、それでも。

    彼が生きていた、その安堵感に比べればまったく些末な感情だった。

    「……キル」
    「何だい、ミスト」

    己が傍にいて名前を呼んでくれる相手とは、
    どうしてこれほどまでに、何にも代えがたい存在なのだろう。

    森下一葉 Link Message Mute
    2018/07/31 10:11:49

    アザレア

    #キルミス

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